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それからの生活
妊活って何? 9
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昼休み。私が、コンビニのおにぎりを頬張っていると、幸恵がまた新たなる決意を固めている。
「妊活です! わかりますか? 薫さん!」
幸恵の言葉に、「さあ? 分かりませんが?」と、私は答える。
『妊活』なる言葉は、知っている。妊娠したい人が、何かをする活動なのかは、私でも知っているが、具体的に何をする物なのかは知らない。
だって、そんなの運次第じゃないの? 授かる人は、欲しくなくても授かるし、授かりたくても何年も苦労している人がいることは知っている。
てか、幸恵しつこい。
今自分が夢中になって取り組んでいることだから、周囲にも興味を持ってもらいたいのだろうが、そんな風に周囲に押し付けるのは、いかがなものかと思うぞ。
幸恵が妊活をするのを止める気はないが、私のことも放っておいてほしいのだ。
ほら、独身の柿崎なんか、この話題の時には、全く会話に入ってこないじゃない。まるっきり興味なんてないんだってば。
「いいですか? 基礎体温を測って、自分の排卵周期を把握してタイミングを逃さないで、妊娠のチャンスを生かすのです!」
「ふうん……。頑張っているんだ」
幸恵は、妊娠という目標にまっしぐらなようだ。
薄々感じていたのだが、幸恵は、案外スポ根体質なのではないだろうか?
興味があることに壁があるならば、登りたくなる感じ。
きっと、学校の文化祭や体育祭の時には、誰よりも熱中して取り組んで、クラスが優勝すれば号泣したことだろう。そういう行事ごとには、あまり積極的に関わってこなかった私とは、とことん違う世界で生きている。
どうか、もう本当に、私の人生に指図するのはやめていただけると助かる。
会社の後輩だし、仕事のみでの関りでお願いしたいのだが、駄目だろうか。
「基礎体温ね……大変だ」
今まで、この手の話題には口を閉ざし続けていた柿崎が、曖昧な言葉を幸恵に返す。
料理のことには詳しい柿崎だが、妊活なんてことには、門外漢なのだろう。
今、係長として仕事に夢中な柿崎は、まるで興味ない話題のはずだ。柿崎としては、次の繁忙期に備えて、今のうちにどんな準備が出来るかを考えるだけで心はいっぱいなのだではないだろうか。
この間も、柿崎と西根課長、それに水島君も混じって、新しく始まる制度に対応するシステムについて会議室で話し合っていた。
たくさんの資料を抱えて、毎日本当に忙しそうだ。
幸恵の個人的な興味に一言口をはさんだだけでも、これは柿崎なりの心遣いなのだろう。
「みんな、もう! 柿崎さんも薫さんも、どうしてそんなに興味なさそうなんですか?」
「そう言われても……ねえ」
「そうだよね」
その場その場をやり過ごすだけで手いっぱいな私と違って、幸恵は将来設計に余念がなさそうだ。
私と優一さんは、そんな状況ではない。優一さんはまだ学生だし、私も、もう少し仕事をしたい。赤ちゃんが出来て仕事を休んでなんて未来は、もう少し……二年か三年先で妥当な気がする。
だが調子を合わせてほしい幸恵は、引かない。
「ウチのダーリンと一緒ですね! 何でそんなに消極的なんですか? 自分の将来の家族のことですよ?」
ダーリンさんは、消極的なんだ。今は、仕事に集中したいとか、そういうことかな?
自分と違う価値観は理解できない幸恵。
ダーリンさんは、大変そうだな。きっと、幸恵の主張を延々聞かされいるんだろう。
幸恵は、この間、ダーリンさんが靴下を丸めたままなのに文句を言っていたが、きっとダーリンさんの方でも、幸恵に対して不満があることだろう。
「ねえ、幸恵。大事なことなのはわかるけれどもさ、皆がそれが今一番興味ある訳ではないでしょ? まだ後回しにしたい人もいるでしょ? 幸恵が頑張りたいのは自由だけれどもさ。周りを巻き込もうとするのは、いかがなものかと思うよ?」
独身の柿崎が、冷静な意見で幸恵を諭す。
柿崎からしたら、うっさいな。勝手にやってろ! というくらいの話かも知れいないのに。
少し前の柿崎なら、確実に藁人形を取り出していたな。うん。
幸恵は、納得がいかないようでむくれている。
「でも! だって、女性は若いうちの方が妊娠がしやすいんですよ? どうせなら、三十超える前が良いですし」
おい、三十路まっしぐらの我々を前に、どの口がそう言う?
マジ、そういうところだぞ、幸恵!
私が柿崎の代わりに、藁人形にヘドバン喰らわそうか?
「妊活です! わかりますか? 薫さん!」
幸恵の言葉に、「さあ? 分かりませんが?」と、私は答える。
『妊活』なる言葉は、知っている。妊娠したい人が、何かをする活動なのかは、私でも知っているが、具体的に何をする物なのかは知らない。
だって、そんなの運次第じゃないの? 授かる人は、欲しくなくても授かるし、授かりたくても何年も苦労している人がいることは知っている。
てか、幸恵しつこい。
今自分が夢中になって取り組んでいることだから、周囲にも興味を持ってもらいたいのだろうが、そんな風に周囲に押し付けるのは、いかがなものかと思うぞ。
幸恵が妊活をするのを止める気はないが、私のことも放っておいてほしいのだ。
ほら、独身の柿崎なんか、この話題の時には、全く会話に入ってこないじゃない。まるっきり興味なんてないんだってば。
「いいですか? 基礎体温を測って、自分の排卵周期を把握してタイミングを逃さないで、妊娠のチャンスを生かすのです!」
「ふうん……。頑張っているんだ」
幸恵は、妊娠という目標にまっしぐらなようだ。
薄々感じていたのだが、幸恵は、案外スポ根体質なのではないだろうか?
興味があることに壁があるならば、登りたくなる感じ。
きっと、学校の文化祭や体育祭の時には、誰よりも熱中して取り組んで、クラスが優勝すれば号泣したことだろう。そういう行事ごとには、あまり積極的に関わってこなかった私とは、とことん違う世界で生きている。
どうか、もう本当に、私の人生に指図するのはやめていただけると助かる。
会社の後輩だし、仕事のみでの関りでお願いしたいのだが、駄目だろうか。
「基礎体温ね……大変だ」
今まで、この手の話題には口を閉ざし続けていた柿崎が、曖昧な言葉を幸恵に返す。
料理のことには詳しい柿崎だが、妊活なんてことには、門外漢なのだろう。
今、係長として仕事に夢中な柿崎は、まるで興味ない話題のはずだ。柿崎としては、次の繁忙期に備えて、今のうちにどんな準備が出来るかを考えるだけで心はいっぱいなのだではないだろうか。
この間も、柿崎と西根課長、それに水島君も混じって、新しく始まる制度に対応するシステムについて会議室で話し合っていた。
たくさんの資料を抱えて、毎日本当に忙しそうだ。
幸恵の個人的な興味に一言口をはさんだだけでも、これは柿崎なりの心遣いなのだろう。
「みんな、もう! 柿崎さんも薫さんも、どうしてそんなに興味なさそうなんですか?」
「そう言われても……ねえ」
「そうだよね」
その場その場をやり過ごすだけで手いっぱいな私と違って、幸恵は将来設計に余念がなさそうだ。
私と優一さんは、そんな状況ではない。優一さんはまだ学生だし、私も、もう少し仕事をしたい。赤ちゃんが出来て仕事を休んでなんて未来は、もう少し……二年か三年先で妥当な気がする。
だが調子を合わせてほしい幸恵は、引かない。
「ウチのダーリンと一緒ですね! 何でそんなに消極的なんですか? 自分の将来の家族のことですよ?」
ダーリンさんは、消極的なんだ。今は、仕事に集中したいとか、そういうことかな?
自分と違う価値観は理解できない幸恵。
ダーリンさんは、大変そうだな。きっと、幸恵の主張を延々聞かされいるんだろう。
幸恵は、この間、ダーリンさんが靴下を丸めたままなのに文句を言っていたが、きっとダーリンさんの方でも、幸恵に対して不満があることだろう。
「ねえ、幸恵。大事なことなのはわかるけれどもさ、皆がそれが今一番興味ある訳ではないでしょ? まだ後回しにしたい人もいるでしょ? 幸恵が頑張りたいのは自由だけれどもさ。周りを巻き込もうとするのは、いかがなものかと思うよ?」
独身の柿崎が、冷静な意見で幸恵を諭す。
柿崎からしたら、うっさいな。勝手にやってろ! というくらいの話かも知れいないのに。
少し前の柿崎なら、確実に藁人形を取り出していたな。うん。
幸恵は、納得がいかないようでむくれている。
「でも! だって、女性は若いうちの方が妊娠がしやすいんですよ? どうせなら、三十超える前が良いですし」
おい、三十路まっしぐらの我々を前に、どの口がそう言う?
マジ、そういうところだぞ、幸恵!
私が柿崎の代わりに、藁人形にヘドバン喰らわそうか?
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