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海へ行こうぜ!(モドキとマロンと海と)
復路63
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アスリート・メッシ(ゴールデンレトリバー)との楽しい時間を過ごした後の家路。
結論から言おう。
死ぬかと思った。
聡明な方は、ご存知だろう。往復する道程で、往路が緩やかな長い下り坂であった場合、復路は緩やかな長い上り坂になるのだ。
これはもう、神の摂理。どうしても変えられない事実。
海に向かう時には、爽快に駆け抜けさせてくれたあの下り坂は、帰りには、意地の悪いダラダラと長い登り坂となって、体力の限界まで遊んでしまった私に牙をむく。
調子に乗って砂浜で全力疾走までやらかして心地よい疲れの残っていた体は、二十キロの道のりを、引きずるようにして乗り越えた。
アラサー運動音痴の私の体は、限界に悲鳴をあげた。往路ではモドキとマロンの体を心配して二回の休憩を挟んだが、復路では、どうにも動かない自身の体力のために、五回の休憩をはさんで、二時間近くかけて帰宅した。
キャリーケースの中で眠るモドキとマロンを子ども載せに固定して。この時ほど、キャリーケースに入りたいと思ったことはなかった。
いや、マロンはともかく、モドキが重いのなんの。
家に帰宅して、玄関で突っ伏して気絶するように寝落ちしたのは、新入社員の時の初めての繁忙期以来だ。
懐かしいな。今でこそ、水島君が効率化して、柿崎が業務を整理してくれたから繁忙期もそれほど無理なくこなせるようになった我が部署だが、あの時は、これを毎年続けるのかと思えば背筋が凍った。
年度末という、学生の時には楽しい春休みでしかなかった時期が、社会人の血と汗と涙で出来上がっているとは思いもよらなかった。
寝落ちして、丁度意識が戻った時に電話が鳴る。
「薫さん、おかえりなさい」
「ただいま、優一さん」
本日は、優一さんは泊りで実験だと聞いている。
優一さんに、今日あった出来事を報告する。
「それは大変でしたね。登り路に自転車は辛い」
「そうでしょ? モドキ重いし」
二人して、フフッと笑い合う。
こんな、他愛もないことを共有し合えるのは、とっても楽しい。
「実験は?」
「ええ、今のところ上手くいっています」
優一さんの後ろで、数名の話し声が聞こえる。えっと、小松君と西島さんだっけ。
「これからご飯なんです」
優一さんの後ろで、「ねえ! ねぎはこっちに入れて良いの?」「マシマシで入れちゃえ!」なんて声が聞こえてくる。
「駄目ですよ! それは、朝ご飯の味噌汁に……て、カレーがネギまみれ! ちょっとすみません。切りますね」
なんだか向こうも楽しそうだ。
ねぎてんこ盛りのカレーを想像して、私は楽しくなる。
「忙しいところにごめんね!」
「いいえ。薫さんの声、聞けて嬉しかったです。では!」
電話を切った後でも、なんだか心がポカポカと温かい。
横を見れば、まだ幸せそうな顔で眠るモドキとマロンがいる。時々、ぴくぴくと前足をばたつかせるのは、まだ砂浜を走っている夢を見ているのかもしれない。
この幸せそうな顔をみれば、行って良かったと思うのだが、次回行くときには、もう少し対策を考えて行くようにしよう。……電動自転車買うとか……。
結論から言おう。
死ぬかと思った。
聡明な方は、ご存知だろう。往復する道程で、往路が緩やかな長い下り坂であった場合、復路は緩やかな長い上り坂になるのだ。
これはもう、神の摂理。どうしても変えられない事実。
海に向かう時には、爽快に駆け抜けさせてくれたあの下り坂は、帰りには、意地の悪いダラダラと長い登り坂となって、体力の限界まで遊んでしまった私に牙をむく。
調子に乗って砂浜で全力疾走までやらかして心地よい疲れの残っていた体は、二十キロの道のりを、引きずるようにして乗り越えた。
アラサー運動音痴の私の体は、限界に悲鳴をあげた。往路ではモドキとマロンの体を心配して二回の休憩を挟んだが、復路では、どうにも動かない自身の体力のために、五回の休憩をはさんで、二時間近くかけて帰宅した。
キャリーケースの中で眠るモドキとマロンを子ども載せに固定して。この時ほど、キャリーケースに入りたいと思ったことはなかった。
いや、マロンはともかく、モドキが重いのなんの。
家に帰宅して、玄関で突っ伏して気絶するように寝落ちしたのは、新入社員の時の初めての繁忙期以来だ。
懐かしいな。今でこそ、水島君が効率化して、柿崎が業務を整理してくれたから繁忙期もそれほど無理なくこなせるようになった我が部署だが、あの時は、これを毎年続けるのかと思えば背筋が凍った。
年度末という、学生の時には楽しい春休みでしかなかった時期が、社会人の血と汗と涙で出来上がっているとは思いもよらなかった。
寝落ちして、丁度意識が戻った時に電話が鳴る。
「薫さん、おかえりなさい」
「ただいま、優一さん」
本日は、優一さんは泊りで実験だと聞いている。
優一さんに、今日あった出来事を報告する。
「それは大変でしたね。登り路に自転車は辛い」
「そうでしょ? モドキ重いし」
二人して、フフッと笑い合う。
こんな、他愛もないことを共有し合えるのは、とっても楽しい。
「実験は?」
「ええ、今のところ上手くいっています」
優一さんの後ろで、数名の話し声が聞こえる。えっと、小松君と西島さんだっけ。
「これからご飯なんです」
優一さんの後ろで、「ねえ! ねぎはこっちに入れて良いの?」「マシマシで入れちゃえ!」なんて声が聞こえてくる。
「駄目ですよ! それは、朝ご飯の味噌汁に……て、カレーがネギまみれ! ちょっとすみません。切りますね」
なんだか向こうも楽しそうだ。
ねぎてんこ盛りのカレーを想像して、私は楽しくなる。
「忙しいところにごめんね!」
「いいえ。薫さんの声、聞けて嬉しかったです。では!」
電話を切った後でも、なんだか心がポカポカと温かい。
横を見れば、まだ幸せそうな顔で眠るモドキとマロンがいる。時々、ぴくぴくと前足をばたつかせるのは、まだ砂浜を走っている夢を見ているのかもしれない。
この幸せそうな顔をみれば、行って良かったと思うのだが、次回行くときには、もう少し対策を考えて行くようにしよう。……電動自転車買うとか……。
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