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バレンタイン決戦
クロウとフェラーリ
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二階堂家の広い庭。
芝生にテラコッタタイルが庭の風景にアクセントを加えている。
白いガーデンテーブルやチェアは、お客を招いた時にくつろいでもらうため。
だが、客のない普段は、彩音がお茶を飲み、芝生はフェラーリ達の遊び場になっている。
冬の日でも日なたは温かい。
芝生に転がってくつろぐフェラーリ。
フェラーリの背中にはクロウが乗って昼寝している。
「クロウ殿は、なぜそこに乗る?」
「モフモフの毛皮であったけぇ。しかもデカいし安全。この条件でなぜ乗らない?」
あくびをしながら「当然だろう?」とクロウがフェラーリの背中顔を埋める。
フェラーリは想像してみる。
自分よりもデカいモフモフの動物……。熊か? それが友好的で背中の上で昼寝ができるほどの友人で……。
「確かに。それは乗ってくつろぎたいやもしれんな」
ふむふむと納得するフェラーリに、だろう? と、クロウが笑う。
チラリと家の中を見れば、窓ガラス越しに彩音が台所に立って何か作っているのが見える。
彩音の父親が、頑張る彩音の隣で筋トレしているのは、ますます増えそうな体重を気にしているからか。
「お嬢、頑張っているな」
「だろう? お嬢は頑張り屋なのだ。何もかも全力で立ち向かう。拙者は、それを応援しお守りするのが生きがいなのだ」
フンスと鼻息荒くフェラーリが語る。
お嬢の彩音のことを話すフェラーリは、いつも楽しそうだ。
「勝てるんかな?」
「知らん。それは杉下殿次第であろう?」
「それな!」
クロウは、天板とコタツの騒ぎの時に見た杉下少年の姿を思い出す。
人間で言う『イケメン』。動物に優しい。いたっておっとりした子。剣道をやっているとか言ってたか。
そして、アンジュの飼い主の菜々子も杉下少年のことが好きなようだ。
どうだろう。
あの杉下少年が、誰を恋人として選ぶのか……。
そもそも、そもそもだ。彩音と菜々子以外に好きな人がいる可能性はないのか?
烏のクロウには、人間の雄の気持ちなんて、さっぱり分からない。
「なあ、もしも、もしも杉下がお嬢を選ばなかったら?」
「杉下殿をかみ殺す……と言いたいところだが、それはお嬢が望まない。愛する人を、世界一忠義な愛犬の拙者が殺害し、拙者がお縄につくようなことがあれば、お嬢が悲しむ。まあ、お嬢の心が傷つかないように、拙者と遊ぶことで癒す……それしか出来まいな」
クロウもフェラーリも人間ではない。
残念ながら杉下少年の変わりは出来ないし、言葉で励ましてやったり癒すことは出来ない。
だが、それでも寄り添える術はある。
「その時は、せいぜい、『きゅーと』で『可愛らしい』ワンコ姿を見せてやればいい」
「また無茶を。忠義なかっこよい侍ワンコでは、なぜ駄目なのだ。というか、負けるのが前提というのが勘に触る!! あれほど頑張っているお嬢だ。運が味方してくれるやもしれんだろう? 努力とは、人事を尽くして天命を待ち、チャンスを逃さぬためにするものだ」
ああ、こうしてはいられない! お嬢が頑張っているのだから、拙者がくつろいでいるばかりでは、申し訳ない!!
突然、すくっとフェラーリが立ち上がり、クロウは転げ落ちそうになる。
「わ、何だ。どうした」
「ちょっと庭を十周してくる!!」
「はあ?」
どうしてそうなるのか……。
クロウには、この大きな友達の思考が、時々分からない。
ま、だからこそ面白くって一緒にいるのだが。
全力で庭を駆け巡る友を、クロウはガーデンテーブルに座り眺めていた。
芝生にテラコッタタイルが庭の風景にアクセントを加えている。
白いガーデンテーブルやチェアは、お客を招いた時にくつろいでもらうため。
だが、客のない普段は、彩音がお茶を飲み、芝生はフェラーリ達の遊び場になっている。
冬の日でも日なたは温かい。
芝生に転がってくつろぐフェラーリ。
フェラーリの背中にはクロウが乗って昼寝している。
「クロウ殿は、なぜそこに乗る?」
「モフモフの毛皮であったけぇ。しかもデカいし安全。この条件でなぜ乗らない?」
あくびをしながら「当然だろう?」とクロウがフェラーリの背中顔を埋める。
フェラーリは想像してみる。
自分よりもデカいモフモフの動物……。熊か? それが友好的で背中の上で昼寝ができるほどの友人で……。
「確かに。それは乗ってくつろぎたいやもしれんな」
ふむふむと納得するフェラーリに、だろう? と、クロウが笑う。
チラリと家の中を見れば、窓ガラス越しに彩音が台所に立って何か作っているのが見える。
彩音の父親が、頑張る彩音の隣で筋トレしているのは、ますます増えそうな体重を気にしているからか。
「お嬢、頑張っているな」
「だろう? お嬢は頑張り屋なのだ。何もかも全力で立ち向かう。拙者は、それを応援しお守りするのが生きがいなのだ」
フンスと鼻息荒くフェラーリが語る。
お嬢の彩音のことを話すフェラーリは、いつも楽しそうだ。
「勝てるんかな?」
「知らん。それは杉下殿次第であろう?」
「それな!」
クロウは、天板とコタツの騒ぎの時に見た杉下少年の姿を思い出す。
人間で言う『イケメン』。動物に優しい。いたっておっとりした子。剣道をやっているとか言ってたか。
そして、アンジュの飼い主の菜々子も杉下少年のことが好きなようだ。
どうだろう。
あの杉下少年が、誰を恋人として選ぶのか……。
そもそも、そもそもだ。彩音と菜々子以外に好きな人がいる可能性はないのか?
烏のクロウには、人間の雄の気持ちなんて、さっぱり分からない。
「なあ、もしも、もしも杉下がお嬢を選ばなかったら?」
「杉下殿をかみ殺す……と言いたいところだが、それはお嬢が望まない。愛する人を、世界一忠義な愛犬の拙者が殺害し、拙者がお縄につくようなことがあれば、お嬢が悲しむ。まあ、お嬢の心が傷つかないように、拙者と遊ぶことで癒す……それしか出来まいな」
クロウもフェラーリも人間ではない。
残念ながら杉下少年の変わりは出来ないし、言葉で励ましてやったり癒すことは出来ない。
だが、それでも寄り添える術はある。
「その時は、せいぜい、『きゅーと』で『可愛らしい』ワンコ姿を見せてやればいい」
「また無茶を。忠義なかっこよい侍ワンコでは、なぜ駄目なのだ。というか、負けるのが前提というのが勘に触る!! あれほど頑張っているお嬢だ。運が味方してくれるやもしれんだろう? 努力とは、人事を尽くして天命を待ち、チャンスを逃さぬためにするものだ」
ああ、こうしてはいられない! お嬢が頑張っているのだから、拙者がくつろいでいるばかりでは、申し訳ない!!
突然、すくっとフェラーリが立ち上がり、クロウは転げ落ちそうになる。
「わ、何だ。どうした」
「ちょっと庭を十周してくる!!」
「はあ?」
どうしてそうなるのか……。
クロウには、この大きな友達の思考が、時々分からない。
ま、だからこそ面白くって一緒にいるのだが。
全力で庭を駆け巡る友を、クロウはガーデンテーブルに座り眺めていた。
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