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こたつと天板

お、溺れる!!

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 台車は大破。
 最後まで台車に乗っていた大型犬と三毛猫は、宙を舞う。

 ほんの数秒のはずなのに、体感では永遠に感じるほどの時間。
 命の危機にある時って、周りが遅く感じるって、本当なのね……。

 妙に冷静にアンジュは、吹っ飛ばされながら考える。猫だから受け身は得意。高いところからでも難なく降りられる。

 でも、こんなスピードで落ちたらどうなるかしら?
 ああ、骨の一本や二本は折れちゃいそうね。
 なら、折れても命に別状のない体勢を取らなきゃ……。

 ゴンッッ!

 地面に落ちた音ではない。大型犬フェラーリが、アンジュの鼻先にぶつかった音。

 そのまま、体勢もへったくれもないような、もつれた状況で二匹は、真っ直ぐ落ちていった先には小川。

 ドボーン!!!!

「お、良かった。地面に叩きつけられなかったか」

 呑気な感想を述べるのは、空を舞うクロウ。

「コタツ! 大事ないか?」

 天板の言葉に、コタツがコクンと首を縦に振る。「良かった……」と、天板が胸を撫で下ろす。

「ごめんね……。天板おじいちゃん」

 小さな小さな声で、コタツが天板に謝る。

「コタツ……」

 天板は、優しくコタツの頭を舐めてやる。コタツは、嬉しそうに天板にすり寄っていた。

「お、あちらは上手くまとまったようだぜ」

 クロウは満足そうに天板とコタツを見ているが、小川の中でもがいている最中のアンジュはそれどころではない。

 水は苦手。
 もがけばもがくほど、沈む気がする。

 ガボガボゴボゴボ

 溺れそうなとアンジュがとっさに掴んだのはクロウの足。

「うわっ! アンジュ!! 離せ! お前の体重じゃあ飛べん!」
「うっさい! 離せば私が溺れるでしょ!」

 ギャアギャア暴れる二匹に気づいて、フェラーリが犬かきで泳いで助けに来る。

「いや、危なかったな! なんだ、二匹とも水はきらいか? なんだったら教えてやろうか? 犬かき」

 アンジュとクロウを背に乗せて鼻歌混じりで泳ぐフェラーリ。
 吹っ飛ばされたのは、アンジュと一緒のはずのフェラーリだが、ずいぶん余裕そうだ。

「あ、あなた良くそんな余裕が……まぁ、良いわ。あなたの運転する物には、金輪際一緒には乗らないから!」
 
 ずぶ濡れの毛皮が気持ち悪くて、アンジュは不機嫌だ。溺れているところを助けてもらって背中に乗せてもらっているのに、フェラーリにお礼を言う余裕がない。
 
「はっはっは! アンジュ殿は、風のように颯爽と走るのはお嫌いか? 走り、台車に乗って、泳ぐ……待てよ。走り、乗り物(台車)に乗り、水泳。これは『とらいあすろん』なる物と一緒か! 通りで楽しい!」

 楽しいんだ。
 この状況が。

 もはや理解の範疇を超えているフェラーリの思考回路に、アンジュは返す言葉を持たなかった。
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