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5黄金狐
清姫の悲しみ
しおりを挟む「なんだこいつは!!」
外で男が怒鳴る!
何か攻撃を仕掛けてはいるようだが、九尾狐となった白金には、効かないようだった。
……道成興行の 寺なればとて 道成寺とは 名づけたりや
歌い終わったようで、白金の声が止まる。
「人間よ。邪魔だ。私の道行きを、何故邪魔するか?」
怒気を含んだ白金の声。
「おのれ、邪悪な妖め!」
男が、退魔の呪文を唱えるが、稲荷神の覚えめでたき妖狐にそんな物が効くはずがない。
今、白金は、清姫の意識に引っ張られている。白金が、清姫の失恋した心にあまりに同情しすぎたのだろう。
道成寺での悲恋。清らかである誓いを立てて修行する安珍に、失恋した清姫。清姫は、道成寺で大きな釣り鐘の中に匿われた安珍を、大蛇となって炎で焼き殺す。
長年、この人がお前の許婚と親に言われて、すっかりその気でいた清姫が、いつになったら結婚して下さるのかと、安珍に詰めよれば、安珍は逃げ出してしまったのだ。
清姫を焦がしていた恋の炎は、そのまま大火となって、安珍を焼き殺したという。
約束をしたはずなのに愛しい者に受け入れられない悲しみは、白金は良く知っている。
「くっそ! 準備が足らん!」
男は、諦めたのか、気配を消してしまった。
「さて、残るは、いまだ暴走が止まらない、あのアホ狐か」
黄金が長屋の戸をスッと開ければ、空に白金が浮かんでいる。
白く輝いて見えるのは、高すぎる妖力が暴走しているからか。九本の尾が、確かに白金の後ろで揺らめいている。
「出てきてくれたか」
ニコリと白金が嗤う。狂気じみているのに、高山の雪の様に清らかで美しい。
「出てきてくれなければ、焼き尽くすところであった」
物騒なことを白金が平然と言う。
清姫の意識にとらわれているのであろう。
「白金、おめでとう。尾成りだな」
黄金が寂し気に笑えば、白金の目から涙がこぼれる。
長年一緒にいたから、九尾に成った白金を黄金がどうするのかは、白金には痛いほど分かる。
白金の中の清姫の悲しみが、グルグルと白金の中で渦巻く。
「おいで。白金」
黄金が手を広げれば、大きな白狐に転じた白金が、黄金を一飲みにする勢いで飛んでくる。
黄金の鼻先ギリギリで白金が止まる。
白金の意志が、必死で清姫の想いを止めているだろう。
「俺は逃げない。お前がそうしたいなら、喰い殺すでも、焼き殺すでも好きにしろ」
苦しむ白金を、黄金が優しく撫でれば、
「黄金!」
白狐から人の姿に転じた白金が、黄金に抱きつく。
黄金からも、白金を抱き返してくれる。
「離れたくない」
「だが、九尾狐だ。一緒には居られない」
「うん……」
黄金が亡くなった白金が聞いたのは、稲荷神の用事で狐の里を訪ねた時だ。
例の雲外鏡の男に襲撃されて、あの時産まれて子狐を守るために死んだのだと。
「私が、その子をなんとかしましょう。その子が、元に戻るまで」
白金は、傷つき弱る黄を引き取り、二度とは、稲荷神の元へ戻らなかった。
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春暁様!
応援ありがとうございます♪♪
黄ちゃん 管狐もカッコイイですね
春暁様
ありがとうございます😊
お狐様は皆々様可愛いしカッコいいと思って書いております♪
伝わったならばとても嬉しいです〜!