妖狐

ねこ沢ふたよ

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5黄金狐

狐退治

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 山猫の一族が数人、人間の酒蔵で働いているらしい。

 そう夜風は言っていた。
 ここ最近、次第に人口が増えて勢力を増してきた人間。妖は、四神獣の統治する妖の国に戻るか、人間界に居座すわるならば、人間に紛れて暮らすしかない。

 狼の一族は、妖の国に移住することを考えているのだそうだ。

「その山猫が、お前の仲間かどうかは、分からないのだろう?」
黄金が聞けば、

「まあ、そうだが。ここ最近、山猫もずいぶん姿を消したから、可能性は高い」
と蒼月は言った。

「ねえ、それよりもなんなの? あの人間達は……」

ずっと、白金達の後ろを付けている人間の気配がする。
とても友好的だとは思えない人間達。幾人かが交代で、白金達の後を追っている。

「たぶん、あの鏡を拝んでいた宗教団体の奴らなんだろうけれど……。面倒だな」

「ああピッタリくっつかれれば、妖力で逃げることも憚られる……」

「ま、宿に着くまでの辛抱かな? 宿に着けば、さすがに姿を消す隙はあるだろう」

その日の宿は、小さなお堂。
山の中の寂れたお堂に三人は身を寄せて過ごす。

虫の音が外に鳴り響く中、がさりと歩く幾人もの足音。

「人に害なす妖どもめ。ここで我らが、その息の根を止めてやる」

教団に協力してくれている男が手に入れてくれた悪魔の鏡。悪魔の力を人間のために活用するための鏡であったのに、急に入ってきた狐と山猫の妖が、それを強引に持って行ってしまった。

 捕まえて、鏡のありかを聞き出したい。
 鏡を取り返せば、後は、殺してしまえばいい……。

 御堂の入り口を開ければ、そこには一匹の金の狐。闇の中に温かい光を放って悠然と座っている。数多の尾が、狐の後ろで揺らめく。
 黄金が狐の姿でニイと笑えば、

「ば、化け狐!」
と、侵入してきた男達が慌ててだす。

「大丈夫か? あれ……」

「黄金が任せろっていうんだから、任せて大丈夫だよ」

白金の結んだ結界の中。蒼月と白金の二人で黄金の様子を、お堂の傍の木の上でうかがっている。
こんなに大勢の人間が潜んでいたのだ……白金は、周囲を見て驚く。
この小さなお堂を取り囲んでいる。十人……いや、二十人?

ぞろぞろと姿を現す人間達。
これほどの人間に取り囲まれて、黄金はどうするつもりなのだろう?

「に、人間に仇をなす化け物は死すべき! 逃してはならぬ!」

後ろの方から、指導者とおぼしき人間が、皆に号令をかける。
人間の手には鉄砲や刀……鍬、包丁などの武器が握られているが、普通の状態で、八尾の妖狐である黄金を傷つけることはできないだろう。
 
動かずじっとする黄金。
 じりじりと間を詰めていく人間達。

 黄金は、一鳴き高く鳴くと、狐火を周囲に灯す。
 お堂に火が移り、お堂が燃え出す。
 黄金は、お堂の屋根の上に躍り上がって、周囲の人間を威嚇する。

 慌てて逃げる人間達。お堂の外から、不思議な呪文を唱え始める。

「なんでしょうね? あの呪文は?」
意味の分からない呪文に、白金は興味津々で眺めている。

 黄金が、その呪文をうけて、苦しみ悶えだす。
 黄金は、炎上するお堂の中に力尽きて落ちいった。

 人間達から、歓喜の声があがる。

「わ、我らの力で化け狐を退治したぞ!」

指導者の男が、高らかにそう宣言する。
周囲から、歓声があがる。

勝鬨をあげて、人間達は、お堂が燃え尽きるまで取り囲んでいた。

 眺めている白金達の隣に黄金が戻ってくる。

「これで、もう付きまとうことはないだろう」
黄金が、ニヤリと笑う。

「自分達で退治したと信じ切っていますからね」

「じゃあ、人間どもに気づかれる前に、出発するか」

三人は、今だ勝鬨を上げる人間達をそのままにして、さっさとその場を立ち去った。

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