妖狐

ねこ沢ふたよ

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5黄金狐

夜風

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 狼の族長、夜風の前にボロボロの畳が二枚。

「なんだ? これは……」

「お前らが持って来いっていったんだろうが。鏡だ。中から攻撃してくる奴がいるから、畳で梱包して無理矢理運んできた」

黄金が言い返す。
鏡から槍はもう出て来てはいない。
諦めたのか、様子をうかがいに来るのを待っているのか。

夜風が畳の間から鏡を取り出して、妖力を込めた渾身の拳で粉々に割ってしまう。
あれほど苦労した鏡が、狼の族長の力では、一撃だった。

「ずいぶん不細工な運び方だ」
手に付いた破片を払いながら夜風が笑う。

「事情を教えてもらおうか?」

「ここまで運んで持ち帰ったのだから、教えてやろうか……」

 鏡は、狼の一族で管理していた物。ある日、一匹の狼が、見張りの最中にその鏡を外に持ち出してしまった。

 鏡の中の人間の女に恋をして、その女に、妖魔界に囚われている自分を助けるために、鏡を持ち出して欲しいと懇願された。

 愛しい女に言われるがまま、狼は鏡を抱いて走ったが、中から槍で突かれた。さすがに、槍の一突きくらいでは、狼は死ななかったが、大きな傷を負ったところを人間に囲まれて殺された……全ては、その鏡を人間が手に入れるためであったようだ。

「騙されたのだよ。女は、槍の男の仲間。虫の息の狼は、全てを告白して遠吠えを一つ仲間に残して死んでしまった」

その時に囲んだ人間は、全て狼達の胃袋の中。
だが、鏡は人間の元に渡ってしまい、妖魔の国の不思議な男と女は、そのままになっている。

「残念ながら、妖魔の国の奴らは、俺達には管轄外。俺達は、あくまで山にいる奴らにしか手は出さないのが力の制約。後の心残りは、その鏡。その鏡で人間がどんな悪だくみを考えるかと思えば、腹も立つし気にもなる」

「だから、俺達に鏡を取り戻せと?」

「まあ、そんなところだ。……白金をここへ」

夜風に言われて、狼が一匹、白金を呼びに行く。

しばらくすると、ヘラヘラと笑った白金が奥から出てくる。

「ご飯を頂いてしまいました。とても美味しいお酒も土産にもらったので、後で飲みましょうね」

とても人質とは思えないのん気な様子の白金。
黄金の横にちょこんと座る。

「ああ、夜風様に、山猫の行方も教えていただきました。とても親切にしていただいたんですよ? お礼を言わなければ!」
ニコリと笑う白金に、黄金も蒼月もあきれていた。

「黄金、もうちょっとこいつに危機感という物を……」
蒼月が言えば、

「無茶言うな。こいつは、産まれた時からこんな奴だ」
と、黄金がため息をつく。

「狐、紫檀に会ったら、二度とお前とは飲まんと、伝えておけ。あいつ、酒蔵の酒をほとんど飲み干しちまいやがった」
去り際に、夜風が黄金たちにそう声をかけた。
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