妖狐

ねこ沢ふたよ

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5黄金狐

おおかみ

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白金は、古い庵の中で、狼の妖と対面していた。
大きな黒い狼がこちらを見ている。
周囲には、その狼の仲間が取り囲んでいる。

「紫檀のアホのところの子狐か?」

族長らしき狼がそう白金に尋ねる。
紫檀のアホ……ということは、里長の紫檀狐様の知り合いということだろうか? 昔は、強い相手とみるとやたら喧嘩を売っていたという紫檀狐。
狼の妖相手に、腕がならない訳がないか……。

「強そうじゃの。遊ばんか?」
と、嬉々として狼に立ち向かう紫檀狐が目に浮かぶ。

さて、妖狐に悪い印象を持っているのか、友好的に考えてくれているのか。

「紫檀様の里の狐、白金にございます」

白金は丁寧に頭を下げる。
黄金と蒼月に遅れてはぐれそうになっていたところで、狼に手招きされた。
なんだろう? と気を取られた一瞬の隙に連れ去られてしまった。

「何用で山をうろついていた?」

「山猫の妖の仲間を探しております」

「ふうん」

じっと見つめるだけで、族長以外は話をしようともしない。統率のとれた一族。自由奔放で個人主義の妖狐とは違う。

「族長の夜風だ」

「夜風様でございますか。よろしくお願いいたします」

山猫の妖の居所は教えてくれないのだろうか? 歩かずに連れて来てもらえたのは、とても嬉しいが、仲間とはぐれて不安になる。

「あの金の狐は、お前の伴侶か?」

「いいえ。伴侶にはしてもらえていません」

「どうして?」

「尾が成らない半人前だからです。黄金は真面目だから、尾が成らなければ、そう言うことも出来ないと申します」

「じゃあ、修行して器に妖力を貯めればよいのに」

「下手に修行して、万一九尾に成ってしまったら大変です。それこそ、百年の修行に出されて会ってももらえなくなります」
ヘラリと白金が笑えば、夜風が生意気な子狐だと笑う。

「夜風様。あの、山猫の仲間の居所を教えて下さい」
もう一度白金は聞いて見る。

「今、お前の仲間に使いをさせている。それが終われば、教えてやろう」

「では、私は人質ですか?」

「まあ、そんなところだ」

どんな使いを申しわたされたのだろう? 白金は、心細い思いで座っていた。

 蒼月と黄金は、山道を走っていた。
 白金は預かった。返して欲しくば、夜明けまでに人間から、とある鏡を取り戻せと狼に言われた。

 雲外鏡。特殊な鏡の一つ。
 妖魔の国との間を結ぶ鏡。人間界に何枚かある鏡一つ。狼の仲間が一つ手に入れたのだが、悪い人間が、それを運ぶ途中の狼を襲い殺したあげくに奪い去ってしまった。
 狼を殺した人間は始末したが、鏡は、もう別の場所に移動した後だった。
 それを、蒼月と黄金で奪い返せというのだ。

「なんであのアホ狐は、ホイホイと狼について行ったんだ? 警戒心という物はないのか?」

蒼月がいらつく。
狼を訪ねているところではあった。だが、知らない妖だ。一人でついて行って良いかぐらい判断がつきそうな物なのに。

「仕方ないだろ? 里から一歩も出たことがなかったんだ。世間知らずなんだよ」

里に出るような用事は、黄金がやっていた。
白金を過保護に育て過ぎた自覚は……ある。
今更ながら、それに気づいて修行はさせているが、白金本人にやる気がない。

「本当、手を焼くんだよな。あのアホには」
黄金は、はぁ、とため息をついた。
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