65 / 73
5黄金狐
おおかみ
しおりを挟む
白金は、古い庵の中で、狼の妖と対面していた。
大きな黒い狼がこちらを見ている。
周囲には、その狼の仲間が取り囲んでいる。
「紫檀のアホのところの子狐か?」
族長らしき狼がそう白金に尋ねる。
紫檀のアホ……ということは、里長の紫檀狐様の知り合いということだろうか? 昔は、強い相手とみるとやたら喧嘩を売っていたという紫檀狐。
狼の妖相手に、腕がならない訳がないか……。
「強そうじゃの。遊ばんか?」
と、嬉々として狼に立ち向かう紫檀狐が目に浮かぶ。
さて、妖狐に悪い印象を持っているのか、友好的に考えてくれているのか。
「紫檀様の里の狐、白金にございます」
白金は丁寧に頭を下げる。
黄金と蒼月に遅れてはぐれそうになっていたところで、狼に手招きされた。
なんだろう? と気を取られた一瞬の隙に連れ去られてしまった。
「何用で山をうろついていた?」
「山猫の妖の仲間を探しております」
「ふうん」
じっと見つめるだけで、族長以外は話をしようともしない。統率のとれた一族。自由奔放で個人主義の妖狐とは違う。
「族長の夜風だ」
「夜風様でございますか。よろしくお願いいたします」
山猫の妖の居所は教えてくれないのだろうか? 歩かずに連れて来てもらえたのは、とても嬉しいが、仲間とはぐれて不安になる。
「あの金の狐は、お前の伴侶か?」
「いいえ。伴侶にはしてもらえていません」
「どうして?」
「尾が成らない半人前だからです。黄金は真面目だから、尾が成らなければ、そう言うことも出来ないと申します」
「じゃあ、修行して器に妖力を貯めればよいのに」
「下手に修行して、万一九尾に成ってしまったら大変です。それこそ、百年の修行に出されて会ってももらえなくなります」
ヘラリと白金が笑えば、夜風が生意気な子狐だと笑う。
「夜風様。あの、山猫の仲間の居所を教えて下さい」
もう一度白金は聞いて見る。
「今、お前の仲間に使いをさせている。それが終われば、教えてやろう」
「では、私は人質ですか?」
「まあ、そんなところだ」
どんな使いを申しわたされたのだろう? 白金は、心細い思いで座っていた。
蒼月と黄金は、山道を走っていた。
白金は預かった。返して欲しくば、夜明けまでに人間から、とある鏡を取り戻せと狼に言われた。
雲外鏡。特殊な鏡の一つ。
妖魔の国との間を結ぶ鏡。人間界に何枚かある鏡一つ。狼の仲間が一つ手に入れたのだが、悪い人間が、それを運ぶ途中の狼を襲い殺したあげくに奪い去ってしまった。
狼を殺した人間は始末したが、鏡は、もう別の場所に移動した後だった。
それを、蒼月と黄金で奪い返せというのだ。
「なんであのアホ狐は、ホイホイと狼について行ったんだ? 警戒心という物はないのか?」
蒼月がいらつく。
狼を訪ねているところではあった。だが、知らない妖だ。一人でついて行って良いかぐらい判断がつきそうな物なのに。
「仕方ないだろ? 里から一歩も出たことがなかったんだ。世間知らずなんだよ」
里に出るような用事は、黄金がやっていた。
白金を過保護に育て過ぎた自覚は……ある。
今更ながら、それに気づいて修行はさせているが、白金本人にやる気がない。
「本当、手を焼くんだよな。あのアホには」
黄金は、はぁ、とため息をついた。
大きな黒い狼がこちらを見ている。
周囲には、その狼の仲間が取り囲んでいる。
「紫檀のアホのところの子狐か?」
族長らしき狼がそう白金に尋ねる。
紫檀のアホ……ということは、里長の紫檀狐様の知り合いということだろうか? 昔は、強い相手とみるとやたら喧嘩を売っていたという紫檀狐。
狼の妖相手に、腕がならない訳がないか……。
「強そうじゃの。遊ばんか?」
と、嬉々として狼に立ち向かう紫檀狐が目に浮かぶ。
さて、妖狐に悪い印象を持っているのか、友好的に考えてくれているのか。
「紫檀様の里の狐、白金にございます」
白金は丁寧に頭を下げる。
黄金と蒼月に遅れてはぐれそうになっていたところで、狼に手招きされた。
なんだろう? と気を取られた一瞬の隙に連れ去られてしまった。
「何用で山をうろついていた?」
「山猫の妖の仲間を探しております」
「ふうん」
じっと見つめるだけで、族長以外は話をしようともしない。統率のとれた一族。自由奔放で個人主義の妖狐とは違う。
「族長の夜風だ」
「夜風様でございますか。よろしくお願いいたします」
山猫の妖の居所は教えてくれないのだろうか? 歩かずに連れて来てもらえたのは、とても嬉しいが、仲間とはぐれて不安になる。
「あの金の狐は、お前の伴侶か?」
「いいえ。伴侶にはしてもらえていません」
「どうして?」
「尾が成らない半人前だからです。黄金は真面目だから、尾が成らなければ、そう言うことも出来ないと申します」
「じゃあ、修行して器に妖力を貯めればよいのに」
「下手に修行して、万一九尾に成ってしまったら大変です。それこそ、百年の修行に出されて会ってももらえなくなります」
ヘラリと白金が笑えば、夜風が生意気な子狐だと笑う。
「夜風様。あの、山猫の仲間の居所を教えて下さい」
もう一度白金は聞いて見る。
「今、お前の仲間に使いをさせている。それが終われば、教えてやろう」
「では、私は人質ですか?」
「まあ、そんなところだ」
どんな使いを申しわたされたのだろう? 白金は、心細い思いで座っていた。
蒼月と黄金は、山道を走っていた。
白金は預かった。返して欲しくば、夜明けまでに人間から、とある鏡を取り戻せと狼に言われた。
雲外鏡。特殊な鏡の一つ。
妖魔の国との間を結ぶ鏡。人間界に何枚かある鏡一つ。狼の仲間が一つ手に入れたのだが、悪い人間が、それを運ぶ途中の狼を襲い殺したあげくに奪い去ってしまった。
狼を殺した人間は始末したが、鏡は、もう別の場所に移動した後だった。
それを、蒼月と黄金で奪い返せというのだ。
「なんであのアホ狐は、ホイホイと狼について行ったんだ? 警戒心という物はないのか?」
蒼月がいらつく。
狼を訪ねているところではあった。だが、知らない妖だ。一人でついて行って良いかぐらい判断がつきそうな物なのに。
「仕方ないだろ? 里から一歩も出たことがなかったんだ。世間知らずなんだよ」
里に出るような用事は、黄金がやっていた。
白金を過保護に育て過ぎた自覚は……ある。
今更ながら、それに気づいて修行はさせているが、白金本人にやる気がない。
「本当、手を焼くんだよな。あのアホには」
黄金は、はぁ、とため息をついた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる