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5黄金狐
河童の怒り
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「これで大丈夫だろう」
タエの義母に化けていた黄金が元の姿に戻る。
「相変わらず上手だな」
白金が黄金を褒めれば、
「化け狐のくせにお前が下手過ぎるんだ。六尾狐の子どもでも、お前より上手い」
と、黄金が白金を睨む。
黄金の厳しい言葉に、白金は耳をぺたんと伏せる。
「ありがとうございました。妖狐様」
河童が深々と頭を下げる。
「後は容器を回収するだけだけれども、それは自分でできるね?」
「はい。タエの家に行き、空になった容器を回収するくらいは、自分でなんとか」
河童の薬は特殊だ。万一、河童を欺く者がその薬を触れば、たちまち猛毒になり命を失う。
昔、人間に騙された河童が、その怒りから一族の薬に作った制約。容器に残った僅かな薬でも危険だ。
白金達は、薬の始末は河童に任せて、旅立っていった。
診療所では、大騒ぎになっていた。
不思議な薬を塗った直後に結核を患っていた少女が回復し、元気になった。
医師が薬の成分を調べてみても、何を使っているのか、見当もつかない。
この薬を持ってきた、タエの義母が呼び出され、医師が問うたが、義母はキョトンとしていた。
「この薬が、ですか?」
義母は、容器に残っていた薬を自らの手に塗ってみる。
塗った先から、手の皺が取れ、細かい傷が治っていく。薬をわずかに塗った指先だけが、若々しい滑らかな肌になっている。
「良かったら、この僅かに残った薬を譲っていただき、この薬の入手先を教えていただきたいのです。もし、この薬を我々で開発できれば、そうとうな数の病人を助けられます」
医師は懇願する。
明日の医学の発展のためにと、義母に頭を下げる。
「残念ながら、流れの行商から購入したので、入手先はわたくしにも分かりません。……残りの薬は、タエが病をぶり返した時に使ってやりたいのでお譲りできません」
義母は嘘をついた。
薬なんて、身に覚えはない。
タエの病が良くなって欲しいだなんて、思ったこともない。
だが、この薬は欲しい。この薬を顔に塗れば、若返ることが出来るだろう。
最近増え始めた皺も、肌のあれも、たちどころに良くなるだろう。出来れば、自分のために使いたい。
義母は、残念がる医師を無視して容器を家に持って帰った。
しばらくして、小汚い男が一人。玄関先に訪ねてきた。
「タエさんの薬の容器がこちらにあるとお聞きしまして。あの薬は特殊ですので、容器は回収しとうございます」
男は、そう言って、義母に頭を下げる。
……薬。では、あの薬は、この男が売ったものであったのだろうか?
「あの薬。まだ分けていただくことは可能かしら?」
義母が聞けば、
「申し訳ありません。特殊な薬ですので」
と、男は断る。
「容器をお返しください」
男が汚れた手を出す。
細い指に泥がこびりついている。
義母は、顔をしかめる。
「申し訳ないけれども、容器はとっくに捨ててしまったのよ」
嘘だ。
鏡台の引き出しに大切にしまっている。
少しずつ、気になるところに使っている。
新しく手に入れられないなら、あの残り僅かな薬を手放す気はない。
男は、ふうん、そうですか。
それだけ言って、素直にそのまま立ち去った。
おかしな男だった。
小汚い男、なんだか玄関先が、あの男の匂いで少し臭く感じる。
義母は、鏡台に向かう。頬に小さな出来物があることに気づく。
これくらいなら、あの薬を使えば、たちどころに治る。
義母は、あの薬の容器を取り出した。
タエの義母に化けていた黄金が元の姿に戻る。
「相変わらず上手だな」
白金が黄金を褒めれば、
「化け狐のくせにお前が下手過ぎるんだ。六尾狐の子どもでも、お前より上手い」
と、黄金が白金を睨む。
黄金の厳しい言葉に、白金は耳をぺたんと伏せる。
「ありがとうございました。妖狐様」
河童が深々と頭を下げる。
「後は容器を回収するだけだけれども、それは自分でできるね?」
「はい。タエの家に行き、空になった容器を回収するくらいは、自分でなんとか」
河童の薬は特殊だ。万一、河童を欺く者がその薬を触れば、たちまち猛毒になり命を失う。
昔、人間に騙された河童が、その怒りから一族の薬に作った制約。容器に残った僅かな薬でも危険だ。
白金達は、薬の始末は河童に任せて、旅立っていった。
診療所では、大騒ぎになっていた。
不思議な薬を塗った直後に結核を患っていた少女が回復し、元気になった。
医師が薬の成分を調べてみても、何を使っているのか、見当もつかない。
この薬を持ってきた、タエの義母が呼び出され、医師が問うたが、義母はキョトンとしていた。
「この薬が、ですか?」
義母は、容器に残っていた薬を自らの手に塗ってみる。
塗った先から、手の皺が取れ、細かい傷が治っていく。薬をわずかに塗った指先だけが、若々しい滑らかな肌になっている。
「良かったら、この僅かに残った薬を譲っていただき、この薬の入手先を教えていただきたいのです。もし、この薬を我々で開発できれば、そうとうな数の病人を助けられます」
医師は懇願する。
明日の医学の発展のためにと、義母に頭を下げる。
「残念ながら、流れの行商から購入したので、入手先はわたくしにも分かりません。……残りの薬は、タエが病をぶり返した時に使ってやりたいのでお譲りできません」
義母は嘘をついた。
薬なんて、身に覚えはない。
タエの病が良くなって欲しいだなんて、思ったこともない。
だが、この薬は欲しい。この薬を顔に塗れば、若返ることが出来るだろう。
最近増え始めた皺も、肌のあれも、たちどころに良くなるだろう。出来れば、自分のために使いたい。
義母は、残念がる医師を無視して容器を家に持って帰った。
しばらくして、小汚い男が一人。玄関先に訪ねてきた。
「タエさんの薬の容器がこちらにあるとお聞きしまして。あの薬は特殊ですので、容器は回収しとうございます」
男は、そう言って、義母に頭を下げる。
……薬。では、あの薬は、この男が売ったものであったのだろうか?
「あの薬。まだ分けていただくことは可能かしら?」
義母が聞けば、
「申し訳ありません。特殊な薬ですので」
と、男は断る。
「容器をお返しください」
男が汚れた手を出す。
細い指に泥がこびりついている。
義母は、顔をしかめる。
「申し訳ないけれども、容器はとっくに捨ててしまったのよ」
嘘だ。
鏡台の引き出しに大切にしまっている。
少しずつ、気になるところに使っている。
新しく手に入れられないなら、あの残り僅かな薬を手放す気はない。
男は、ふうん、そうですか。
それだけ言って、素直にそのまま立ち去った。
おかしな男だった。
小汚い男、なんだか玄関先が、あの男の匂いで少し臭く感じる。
義母は、鏡台に向かう。頬に小さな出来物があることに気づく。
これくらいなら、あの薬を使えば、たちどころに治る。
義母は、あの薬の容器を取り出した。
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