妖狐

ねこ沢ふたよ

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4 紫檀狐

酒代

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「それで、その後はどうなったのですか? 九尾に成られてからも、晴明様や鳴滝様とご一緒に?」

黄がワクワクしながら続きをせがむ。

「それがな、九尾狐には、尾成りすれば、まず稲荷神様の元で働くという決まりがあってな。それから百年ほど稲荷神様の元で働いてから帰ってきたら、誰もおらなんだ」

 紫檀がにこやかにそういう。

 それは、分かっていたとはいえ、とても寂しいことではないだろうか?
 晴明の庵の跡で佇む紫檀が、目に浮かぶようだ。
 黄は、紫檀の心を慮る。

「因果なものだ。せっかく九尾狐となったのに、友人とは別れなければならなくなる。まあ、この白金は、その掟を破ってのうのうとしておるが」

長い紫檀の昔話に、酒の酔いが回ってうつらうつらしている白金を見て、紫檀が、儂もそうすれば良かった、とつぶやく。

よほど、晴明や鳴滝と共にいることが楽しかったのだろう。

「まあ、縁があれば、そのうちにまた会える」

そう言って、紫檀が席を立つ。

「おい、酒代。踏み倒す気か?」

 蒼月が、帰ろうとする紫檀に声をかける。

 紫檀の座っていた前には、大量の酒瓶が転がっている。
 これを踏み倒されるのは、流石に困る。

「ふふ。狐竜に酒代を要求するか。……そうだな……じゃあ」

 紫檀は、つかつかと歩いて、眠りかけていた白金を抱き上げると、蒼月のいるカウンターの中に放り込む。

「わっ」

「ええ??」

慌てて、蒼月が白金を抱きとめれば、

「酒代じゃ。もらっとけ」
と紫檀がケラケラと笑う。

「ちょ、ちょっと!! 紫檀様!! 人の師匠を勝手に!!」

黄が、紫檀に抗議する。

「酒代って、おい」

「……どうしましょう? 皿洗いでもいたしましょうか?」

白金に皿を洗わせる。それは、全ての皿の命運が危うい。

「では、料理でも……」

「食えるか。お前の作った料理なぞ」

妖魔を丸ごと喰らう味音痴白金。そんな奴の作った料理が売れる道理がない。

「勝手にもめていろ。それ以上は、知らん。若草と佐次といい……縁結び、向いおるかもな。大発見じゃ」

笑ながら、紫檀は、天に戻って行った。


 後に残されたのは、蒼月と白金と黄。

「差し上げませんからね。返して下さい」

黄が蒼月を睨む。

「しかし、紫檀様の酒代分は働かなければ……」

白金は、オロオロしている。

「どうしろっていうんだ、こんなの。とんだ疫病神じゃないか。あの紫檀って狐は!!」

蒼月は、頭を抱えていた。

「まあ、仕方ない。しばらくは、黄と共に働かせてもらおう。何か役に立つこともあるだろう?」

 ヘラリと笑う白金に、蒼月は、苦笑いを返した。

 外には、紫檀からの手向けの天気雨が降っていた。
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