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3 妖狐
狐竜 紫檀
しおりを挟む妖魔は、佐門を喰らいつくせば、佐次にも襲い掛かってくる。
佐門を倒すのに気力を使いつくし、もう木花咲夜姫の神通力も消えてしまった。人面瘡も持たない、ただの人間に戻った佐次には、どうしようもない。
このまま、命運尽きるのもよいか。
佐次が諦めかけた時に、目の前の妖魔たちが、蒼月の拳に吹き飛ばされる。
「佐次、大丈夫か?」
蒼月が、ニコリと笑う。
「ちょっと、これ何とかして下さい」
情けない声を出しているのは、黄。シッポに何匹も妖魔がくっついていて、オロオロしている。
慌てて白金の管狐が飛んでいって、黄にまとわりついた妖魔を始末する。
「まだ、八尾に戻ったところだし、仕方ないよ。よくやった方だよ」
しゅんとする黄に、白金が優しく声を掛ける。白金の管狐が、黄に代わって、講堂に残る妖魔を喰らって飛び回る。
まだ、妖魔を湧き出す雲外鏡。佐門がいなくなった後でも、その力が衰えない。
「佐次。小豆は残っているかい?」
白金が促す。
まだ、後少し残っている。
懐から小豆の袋を佐次が取り出せば、
「それを鏡面にぶつけるが良い」
と、使い方を白金が教えてくれる。
佐次は、袋の中の小豆を全部握りしめて、雲外鏡の鏡面にそれをぶつける。
雲外鏡は、浄化の力を持つ小豆をぶつけられて、そのまま粉々になってくずれてしまった。
妖魔を全て白金が喰らいつくして、講堂の外に四人が出れば、そこには、紫檀が立っていた。
「無事達成したようだな」
ニコリと紫檀が笑う。
「なんだ。強そうな奴がいるじゃねえか。手伝ってくれればいいのに」
蒼月が、紫檀をみて、不平を言う。
「無理だよ。今の紫檀様が動けば、この辺り全てが吹っ飛んでしまう」
白金が、蒼月をたしなめる。
「すまんな。不便な身だ。許せよ」
紫檀は、楽しげにそう言う。
「さて、佐次。ようやく、お前の願掛けが叶えられる」
紫檀に言われて、佐次は戸惑う。
願掛け? 何かあっただろうか?
望みはあるが、それはもう死してからしか叶うことはない。人間に戻れた今は、その日まで待つだけのことだと思っていた。
「借りるぞ」
紫檀がそう言って、佐次を抱えて空を飛ぶ。
連れ去られたのは、かつて自分が住んでいた社の跡地。
もう、何年も帰っていないそこは、多少の石垣などの痕跡は残れど、ほとんど何も残っていなかった。
紫檀は、そこに佐次を下ろすと、ここで待て。
それだけ言って、帰ってしまった。
ここに何があるのだろう?
どうして良いのか分からずに、佐次は瓦礫の間を歩く。
見つけたのは、小さな石積み。親父の墓だ。
佐次は、その周りを掃除して、親父に佐門を始末したことを報告する。
「親父。悪かったな。佐門は俺が殺してしまった。蔵の呪物も、何もかも、俺が壊してしまった」
親父たち、佐次の祖先が脈々と守り継いできたものを、佐次が全て無に帰してしまった。
社も、術も、人面瘡も、雲外鏡も、有能な術師である佐門まで。
もし、あの世というものがあって、親父たちに会えるのならば、きっと叱られるだろうと、佐次は苦笑いする。
「あの……」
声をかけられて振り返れば、女が一人立っている。
「ここは、ハイキングコースでは、ないですよね。道に迷ってしまって」
ザックを背負った姿は、この辺りの山を登りに来たハイキング客なのだろう。
この辺りは、ハイキングコースとはずいぶん離れた場所にあるはずだ。
「ずいぶん方向音痴な……」
つい、思ったことを佐次は口にしてしまう。
「だって、黒い狐がいて。可愛いから、追っかけたら、道が分かんなくなってしまったんだから仕方ないでしょ?」
女がムッとする。
黒い狐……紫檀様?
女も話し方も気になる。髪は黒いが、どこか懐かしい人の面影を感じる。
「串本……佐次と申します。名前は?」
佐次は、まさかと思いつつ女に名前を聞いてみる。
女は、
「篠山若草といいます」
と、ニコリと笑った。
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