妖狐

ねこ沢ふたよ

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3 妖狐

安倍晴明の仕掛け

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「ちょっと、蒼月、お前なんでかじりついている? それは、隙を突いてやればたちまち力を失って……」

「うるせえ、白金。俺はパワー型なんだ。まだるっこしい。好きにやらせろ。お前の方こそ、さっさとそのデカいのを片付けて、佐次と黄を助けてやれ」

白金と蒼月が、互いに言い合いながら、戦いをすすめる。

 暴れて蒼月に巻き付こうとする龍を、蒼月がひらりと避ける。水を吐き激しく攻撃する龍。だが、龍の形をしている以上、その弱点は決まっている。龍玉はこの紛い物は持っていない。ならば、これだ。蒼月は、龍の逆鱗を引きはがそうと、喉笛に喰らいつく。

 ギャアアアアア。

 龍の形をした呪物は、そのまま蒼月を引きはがそうと、式神の金棒でとっくに抜け落ちていた天井を越えて、天高く昇って行く。

 あいつ、どうやってそこから降りる気なのか? 山猫は飛べないだろうに。
 
 自分の妖力で宙にとどまりながら、白金は、蒼月の消えていった天を仰ぐ。

 懐かしい。昔は、黄金と蒼月、白金の三人で旅をして、こんな風に戦っていた。

 眼下では、佐次と佐門が黄の炎の真ん中で睨み合って槍と剣を交えているのが分かる。
 黄は、必死で妖魔たちを追いかけて退治している。

 白金の目の前に、式神二体。
 白金は、憐れに想う。使役者が善であれば、善に。悪であれば悪に。そう従わざるを得ない式神。小さな依り代に宿されて、かの天才安倍晴明に仕えた時から、この世にある。
 晴明が、解呪せずに逝ってしまったからな。このように悪用される未来は、晴明も考えていなかったのであろう。

 白金が、その憐れな命運を終わらせてやろうな。

 さて、この式神。敵の手に渡った時や暴走した時のために、晴明が解呪の法を用意していたのだろうということは、すぐ分かる。恐らく、何か呪言のような物を消せば、式神も消える。
問題は、どこにあるかだ。晴明が簡単に解呪できて、敵には分からぬ場所。分かっても、おいそれとは解呪出来ない仕掛け。

……晴明は、妖狐の血筋。おそらく管狐も使えた……。会ったことはないが、妖狐の里にも名が知れた天才晴明。人間の血の混じる半妖の身であっても、晴明ならば数体同時に出すことも可能だったであろう。

 では、答えは自明だ。

 暴れる式神たちを翻弄しながら、白金は、ねずみほどの大きさの管狐を出して式神の体内に潜り込ませる。
 管狐を使える晴明ならば、きっと式神の内側に呪言を書く。人間には出来ない事。
 何事かあったとしても、いつかは妖狐が現れて解呪するだろうと晴明は高をくくっていたのだろう。母と同じ血筋である妖狐を信頼する晴明の人柄が垣間見える。

……あった。

 白金の思惑通りに、式神の胃の壁に晴明の呪言。試しに消してみるが、消えない。

「フフ。楽しい。晴明と遊んでいるようだ。では、こういうことだろう」

今度は、二体の式神の呪言を同時に狐火で焼き消してみる。

 たちまち二体の式神は姿を消して、小さな紙の依り代だけが、講堂の床に落ちていた。
狐火で依り代の紙を燃やしてやれば、式神は、完全に自由になり、あるべき世界に帰っていった。
 安倍晴明、聞きしに勝る天才。千年の妖狐紫檀様なら実際に会ったことがあるかもしれない。機会があれば、ゆっくり聞いてみたいものだ。


「白金!! 受け止めろ!」

呼ばれて天を仰げば、蒼月が人間の姿で落ちてくる。

「ちょっと、もう。本当、向こう見ず」

慌てて狐に変じて、蒼月を乗せて白金は飛ぶ。

「あなたという方は、昔から変わりませんね」

白金が嫌みをいえば、

「お前が面倒ごとを俺に持ってくるのが悪い」
と、蒼月がシレッと言ってのけた。
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