妖狐

ねこ沢ふたよ

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3 妖狐

蒼月

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 構える剣にのしかかる佐門の槍は重い。
 紫檀と共に打ち破った時以上に重くなった槍を、佐門は受け流す。

 槍は長い。一度でもいい。間合いに何とか入り込めば、勝機はある。

 じりじりと歩みを進めて、佐次は佐門の隙をうかがう。

 黄の狐火が、炎となって周囲の妖魔を防いでくれているのが有難い。
 おかげで、佐門に集中して、剣を構えることができる。

 懐に入れた小豆は、ほのかに温かく、佐次を勇気づけてくれる。
 これほどの妖魔が蠢いているのだから周囲には瘴気が充満しているはずなのに、小豆の浄化の力で少しもそれを感じさせない。

「うっとおしいな。まだ分からんらしい」

佐門の胸の人面瘡が、はあ、とため息をつく。

「いい加減、この兄に敵わぬことを理解すればよいのに」

勝手に話し続ける人面瘡は、佐次の集中力を削ごうとしている。

「本当だ。この馬鹿、いい加減にシッポを巻いて平安に暮らすことを覚えればよいのだ」

佐次の腕の人面瘡が、佐門の人面瘡に呼応する。
 
 以前の俺ならば、イラついて集中力を欠いただろうが、その手には乗らん。

 佐次は、人面瘡を無視して、佐門に集中する。

「大馬鹿だよ。お前は。俺が真っ向勝負などする訳がないだろう? 面倒くさい」

 佐門がニタリと嗤う。

 佐門が人面瘡に手を突っ込んで出してきたのは、一枚の札。
 札は、龍の形に変化していく。

 げ、幻術?
 まさか、龍までは使役出来ないだろうと佐次は思うが、それでも威圧感に怯んでしまう。龍は、水柱を立てて、妖魔から佐次を守っていた炎を消してしまう。
 もし、幻術なのだとしても、これでは、妖魔と龍と佐門を同時に相手しなければならなくなる。

「本物なわけがないだろうが。呪物だ」

 見たことのない隻眼の男が、いつのまにか佐次の後ろに立っている。
 白金の管狐が見張っているこの講堂。並みの人間で、入れるわけがない。

「蒼月様。来てくださったのですね」

 黄が男の名前を呼ぶ。
 ということは、こちらの味方の妖なのだろう。

「佐次。あのアホ狐から話は聞いている。あの龍モドキは俺に任せて、存分に兄貴をぶん殴れ」

 蒼月は、そう言うと、大きな山猫の化け物に変化した。

 化け猫蒼月の力は強い。龍の首に蒼月が喰らいつけば、たちまち水柱は消えて、黄の狐火がよみがえり、妖魔は再び近づけなくなる。

「本当にうっとおしい愚弟だ。何匹妖を使役してやがる。身の程知らずめ」

佐門は、自分の槍で挑みかかってくる。

「違う。お前が親父の言葉を忘れたのが悪い。妖狐の怒りをかえば、妖全体の怒りをかう」

佐次の言葉に、佐門がケッと言い返した。
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