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2 若草狐
母
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佐次が切りかかれば、佐門は軽々と避ける。
どのくらいの妖や妖魔を喰らったのだろう。どれぐらいの妖力を手に入れたのだろう。佐門の体から感じる妖力がすごい。
「親父は、お前を大事に育て過ぎだ。なんだその甘い剣筋は」
佐門が馬鹿にしたようにそう言う。
「はあ? 知るかよ」
佐門の重い槍の動きを払いながら佐次は答える。
「親父は、佐次を守れとばかり俺に言っていた。よほどお前が可愛かったのであろうな。俺が、命がけの仕事をしている間も、お前は宝物と一緒に親父の張った結界の中で安全に遊んでた」
佐門ばかりを優先して、佐門にのみ秘儀を教えていた親父。才気あふれる佐門に期待して、佐次には失望していたのかと思っていた。
佐門からすれば、その重すぎる負担に嫌気がさしていたということか。
「親父は、お前に期待していたんだろ? それに、どう答えるかは、お前次第だろうが」
今更な話だ。
親父はとうの昔に、佐門の手によって、あの世に行っている。
「あの日、若草と佐次を逃がして俺をひっぱった時も、また佐次の味方をこいつはするのかと、心の底から腹が立ってな。思い切り槍で貫いてやった。親父の呪力もまた、俺の物にしてやった」
ゲラゲラと佐門が笑う。佐門と戦う佐次に、その言葉に答える余裕はない。
妖力を込めた重い槍の攻撃。
躱して、しのぐのが精一杯だ。
ほんの少しで良い。隙を、隙を見つけなければ、考えた策も駄目になる。
佐次は、集中する。
「とうとう、腹が立つお前を葬れる。母様には悪いが、佐次は、俺の前から消えろよ」
「母様?」
佐門の口から出た単語に、思わず言葉を返す。
「なんだ。それも愚弟は、親父から聞いていないのか。滑稽なほどの溺愛だ」
バリバリと大きな音がして、壁が崩れる。
現れたのは、大きなドクロの妖。女がその頭の上に乗っている。
大妖怪ガシャドクロだ。
弔われずに恨み降り積もる人間の魂を寄せて、その妖力を増す大妖怪。幻術で男をたぶらかし、その精気を吸うと言われている。
佐門の槍で妖力を集める技も、若草を騙した幻術も、このガシャドクロから学んだとしたなら、納得がいく。
「おやおや、兄弟喧嘩かえ? 元気なことじゃ」
ドクロの上の女が嗤う。
紫檀がそのドクロを追って、走ってくる。
「兄弟水入らずのところすまんの。このご婦人が、なかなかお転婆で、素直に喰われてはくれんのだよ」
カラカラと笑う紫檀。
「ああ、九尾狐。なるほど、それなら、この屋敷の低級妖魔を喰い荒らしながら、佐次の周囲の瘴気を浄化して、さらに母様とも戦うことも可能だろう」
佐門がなにやら納得している。
ふと佐次が自分の肩を見ると、黒い小さな管狐が肩に乗っている。
この管狐を通して、ずっと佐次の周囲の瘴気を、紫檀が浄化してくれていたのだろう。
佐門が、女の隣に立ち、
「母様」
と女を呼ぶ。
「母だと?」
「佐次や。大きくなりおって。あの男は、佐次の顔を少しも見せてはくれなんだ」
ニコリと女が笑う。
「お、俺は、妖の子なのか……?」
佐次は動揺する。親父は、母のことを少しも話してはくれなかった。それは、母が妖怪だったからなのだろうか?
「安心いたせ。腰抜け。母様は、お前を産んだ時には、まだただの人間。術師だった。そうでなければ、お前のような腑抜けは産まれん」
佐門の言葉に、佐門の人面瘡が、全くだと笑いながら相槌をうつ。
佐門が親父を裏切ったのも、このガシャドクロの女。母が後ろにいたからか。
色々と分からなかったこと全てが、合点がいく。
なぜ、ダイダラボッチなんてデカい妖怪を佐門が操れたのか。なぜ、半妖の身でこんな妖魔の国の深くに住まうことが出来たのか。なぜ、あんな不思議な技を身につけることが出来たのか。なぜ、親父が、佐次に話さない事が多かったのか。
なぜ、この魂を吸い出す護符を、親父は作ったのか。
「佐次や。美丈夫の妖狐を手土産にするとは、気が利いているの。だが、ちぃと食いでがあり過ぎる」
「ぬかせ、ドクロ女。この九尾を喰うなどと大それたことを、よく考える」
紫檀は、鷲掴みにしようとするドクロの手をひらりと避けて、ドクロに拳を食らわす。
紫檀の拳を喰らった骨は、粉々に崩れるが、すぐに回復して、また元のように動き出す。
元々、数多の魂を寄せ集めて作ったドクロ。
その体は、積み木のように寄せ集め。崩れたならば、別の物を入れ込むだけのこと。だから、修復も早いのだろう。
このままでは、埒があかない。
「紫檀様。俺に考えがあります。試してみて良いですか?」
佐次の言葉に、紫檀は、
「おう。面白い。存分にやれ」
と、笑ってくれた。
どのくらいの妖や妖魔を喰らったのだろう。どれぐらいの妖力を手に入れたのだろう。佐門の体から感じる妖力がすごい。
「親父は、お前を大事に育て過ぎだ。なんだその甘い剣筋は」
佐門が馬鹿にしたようにそう言う。
「はあ? 知るかよ」
佐門の重い槍の動きを払いながら佐次は答える。
「親父は、佐次を守れとばかり俺に言っていた。よほどお前が可愛かったのであろうな。俺が、命がけの仕事をしている間も、お前は宝物と一緒に親父の張った結界の中で安全に遊んでた」
佐門ばかりを優先して、佐門にのみ秘儀を教えていた親父。才気あふれる佐門に期待して、佐次には失望していたのかと思っていた。
佐門からすれば、その重すぎる負担に嫌気がさしていたということか。
「親父は、お前に期待していたんだろ? それに、どう答えるかは、お前次第だろうが」
今更な話だ。
親父はとうの昔に、佐門の手によって、あの世に行っている。
「あの日、若草と佐次を逃がして俺をひっぱった時も、また佐次の味方をこいつはするのかと、心の底から腹が立ってな。思い切り槍で貫いてやった。親父の呪力もまた、俺の物にしてやった」
ゲラゲラと佐門が笑う。佐門と戦う佐次に、その言葉に答える余裕はない。
妖力を込めた重い槍の攻撃。
躱して、しのぐのが精一杯だ。
ほんの少しで良い。隙を、隙を見つけなければ、考えた策も駄目になる。
佐次は、集中する。
「とうとう、腹が立つお前を葬れる。母様には悪いが、佐次は、俺の前から消えろよ」
「母様?」
佐門の口から出た単語に、思わず言葉を返す。
「なんだ。それも愚弟は、親父から聞いていないのか。滑稽なほどの溺愛だ」
バリバリと大きな音がして、壁が崩れる。
現れたのは、大きなドクロの妖。女がその頭の上に乗っている。
大妖怪ガシャドクロだ。
弔われずに恨み降り積もる人間の魂を寄せて、その妖力を増す大妖怪。幻術で男をたぶらかし、その精気を吸うと言われている。
佐門の槍で妖力を集める技も、若草を騙した幻術も、このガシャドクロから学んだとしたなら、納得がいく。
「おやおや、兄弟喧嘩かえ? 元気なことじゃ」
ドクロの上の女が嗤う。
紫檀がそのドクロを追って、走ってくる。
「兄弟水入らずのところすまんの。このご婦人が、なかなかお転婆で、素直に喰われてはくれんのだよ」
カラカラと笑う紫檀。
「ああ、九尾狐。なるほど、それなら、この屋敷の低級妖魔を喰い荒らしながら、佐次の周囲の瘴気を浄化して、さらに母様とも戦うことも可能だろう」
佐門がなにやら納得している。
ふと佐次が自分の肩を見ると、黒い小さな管狐が肩に乗っている。
この管狐を通して、ずっと佐次の周囲の瘴気を、紫檀が浄化してくれていたのだろう。
佐門が、女の隣に立ち、
「母様」
と女を呼ぶ。
「母だと?」
「佐次や。大きくなりおって。あの男は、佐次の顔を少しも見せてはくれなんだ」
ニコリと女が笑う。
「お、俺は、妖の子なのか……?」
佐次は動揺する。親父は、母のことを少しも話してはくれなかった。それは、母が妖怪だったからなのだろうか?
「安心いたせ。腰抜け。母様は、お前を産んだ時には、まだただの人間。術師だった。そうでなければ、お前のような腑抜けは産まれん」
佐門の言葉に、佐門の人面瘡が、全くだと笑いながら相槌をうつ。
佐門が親父を裏切ったのも、このガシャドクロの女。母が後ろにいたからか。
色々と分からなかったこと全てが、合点がいく。
なぜ、ダイダラボッチなんてデカい妖怪を佐門が操れたのか。なぜ、半妖の身でこんな妖魔の国の深くに住まうことが出来たのか。なぜ、あんな不思議な技を身につけることが出来たのか。なぜ、親父が、佐次に話さない事が多かったのか。
なぜ、この魂を吸い出す護符を、親父は作ったのか。
「佐次や。美丈夫の妖狐を手土産にするとは、気が利いているの。だが、ちぃと食いでがあり過ぎる」
「ぬかせ、ドクロ女。この九尾を喰うなどと大それたことを、よく考える」
紫檀は、鷲掴みにしようとするドクロの手をひらりと避けて、ドクロに拳を食らわす。
紫檀の拳を喰らった骨は、粉々に崩れるが、すぐに回復して、また元のように動き出す。
元々、数多の魂を寄せ集めて作ったドクロ。
その体は、積み木のように寄せ集め。崩れたならば、別の物を入れ込むだけのこと。だから、修復も早いのだろう。
このままでは、埒があかない。
「紫檀様。俺に考えがあります。試してみて良いですか?」
佐次の言葉に、紫檀は、
「おう。面白い。存分にやれ」
と、笑ってくれた。
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