魔王の息子に惚れられました

和樹の想い

和樹は次期魔王になる為に花嫁を連れ帰った。
それが試練だったからだ。
しかし、肝心の花嫁は自分の事をまだ好きではないと言う。
その花嫁の名は唯奈。
唯奈は外側からは魔術が効かない体質らしい。
内側から直接注ぎ込めば魔術が効いてくる。
その為には交わらなければならない。
和樹は焦っていた。
自分の父親である魔王が唯奈を狙っている。
魔王は一度目を付けた女は必ず抱くような男だ。
だから、早く唯奈を自分の物にしなくてはいけない。
だが、そのためには結婚式を執り行い宣言をしなくてはいけない。
唯奈はまだその事を知らない。
自分が魔王に狙われていると知ったらどんな顔をするだろうか。
きっと青ざめて、怖がるだろう。
だから、唯奈にはその事を伝えていない。
唯奈は本当に好きになった相手としか交わりたくないという。
そして結婚も好きになった人としかしないという。
（俺はこんなに唯奈の事が好きなのに・・・）
だから唯奈に”まだ好きではない”と言われるたびに苛立ちが募っていく。
完全に自分の一方通行の恋。
あの雨の日、傘をさしかけてくれた優しい唯奈。
自分の家はすぐそばだからと嘘をつき、傘をただのクラスメイトに貸してくれた。
不器用な優しさが胸に染みた。
あの日以来、彼女を意識するようになっていった。
何をやってもうまくいかず、それでもめげない彼女の強さを知った。
唯奈は不器用なだけで本当は強い少女なのだ。
魔族の俺たちに恐れを抱いている様子もない。
本心はどうなのだろうか？
やはり怖いと思っているのだろうか。
それは本人に聞かない限り分からないことだ。
ただ、交わる時だけ怯えの表情を見せる。
その事で少し胸が痛んだ。
優しく抱いているつもりなのに怯えられる。
一体何に不満があるというのだろうか。
この軟禁状態の生活は父から唯奈を守るためのものなのに。
それにもし、唯奈が父を好きになっても困る。
そうなるともう手出しが出来なくなる。
だから、唯奈が退屈せず満足して過ごせる空間を作ってやった。
しかし、唯奈はそんなに喜んでいなかった。
理由を聞くと”この部屋は自分に不釣り合い”だと言う。
少しでも気分が晴れればと思い用意したのに喜ばすのに失敗してしまい恥ずかしい思いをし、赤面していると彼女が近寄って来て顔を覗き込まれた。
その時の俺の顔は真っ赤に染まっていたに違いない。
唯奈は今日からその部屋で過ごしてもらうことにしている。
もちろん、自分もその部屋に居座るつもりだ。
魔界には危険がたくさんある。
人肉を好んで食す魔物もいれば人間が嫌いですぐに殺してしまう悪魔もいる。
この城の連中はそんな事はしないが用心に越したことはない。
そろそろ唯奈を外に連れ出すのもいいかもしれない。
ずっと部屋に閉じ込めておくのも可哀そうだ。
和樹の頭の中は唯奈の事で一杯だった。