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祐樹

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3年前両親が交通事故で亡くなって以来この喫茶店は閑散としてしまった。
家族で仲良く喫茶中島を切り盛りしていたのだ。
その頃は常連も多く、にぎやかな喫茶店だった。
自分も調理師の免許やら色々な資格を取った。
少しでも家族の負担を減らそうと頑張った。
これから父の味を教わろうという時に起きた事故。
周囲は憐れんでくれたが、父の味に惚れこんでいた常連客は店を離れていった。
「頑張ってたのにな・・・」
父の残したレシピ通りに作っても同じ味にはならなかった。
何とか近づけようとしたが駄目だった。
その頃の事はあまり思い出したくない。
だが真由子とはそんな中出会ったらしい。
一体どんな出会い方をしたのだろう。
その事だけは思い出したかった。
今朝、真由子にキスをしてしまった。
謝ろうとしたが遮られてしまった。
どうしてあのキスを受け入れてくれたのかこの時の祐樹にはまだわからなかった。
3年間1人で店を守るので精一杯で恋愛をする余裕なんてなかった。
もちろん今も恋愛をする余裕があるとは言い難い。
しかし、祐樹は真由子の事を好きになってしまった。
祐樹は真由子の屈託のない笑顔が好きだ。
素直で可愛いし、性格もいい。
(僕のおかしな発言にも引かなかった)
コミュ障なのはすぐには治らないかもしれないが、せめて真由子の足を引っ張らないようにしたいと思った。
あんなに頑張ってくれているのだ。
自分も頑張らなければいけない。
料理の仕込みの量も増え大変だが客がいない時は真由子が手伝ってくれた。
まるで家族が帰って来たみたいな気にさえなった。
ー・・・そんなことあり得ない・・・-
それは分かっているが真由子がいてくれたらそれだけで幸せな気分になれた。
自分でも何故キスをしてしまったのか分からない。
とても愛おしく感じ、気がついたらキスをしていたのだ。
真由子は変質者にあったばかりで怖い思いをしたばかりだったのに。
(はー・・・気まずくならなければいいけど)

ようやく昼過ぎになり客足が途絶えた。
休憩するために掛け看板をcloseにし、また遅めの昼食を摂り始めた。
「プリンセスカフェは大成功ですね!!」
「この調子でいけば売り上げが最高新記録達成できそうだよ」
「本当ですか」
そう問われ頷くと真由子は嬉しそうに僕の作ったオムライスを食べてくれた。
「美味しいです」
「でも父の味を超えることは出来なかったんだ」
寂しげにそう言うと真由子から怒られた。
「マスターにはマスターの味があります!!お父さんと同じ味でなくても良いと思います」
そんな事言われたのは初めてだった。
「・・・ありがとう・・・」
一番欲しかった言葉だった。
「なぁ、どうして今朝キスした時怒らなかったんだ?」
「そ、それはー・・・嬉しかったから・・・」
真っ赤になってそう言う真由子は更に魅力的だった。
「もう一度キスしたいって言ったらさせてくれるかい?」
真由子は両手で唇を押さえた。
「駄目です!食事中ですから」
きっぱり断られてしまった。
「ん?食事中じゃなければいいのかい?」
真由子は更に真っ赤になりながら頷いた。
(分からない・・・やはり思い出せない)
祐樹は考え込みながらオムライスを平らげた。
真由子との気まずさは無かった。
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