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痛々しい体

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悠里に連れられ、フォンは湯に入りに来た。
悠里が服を脱がそうとするとフォンは嫌がった。
困り果てた悠里はシーツ持ってきて包んであげた。
「これを体に巻き付けてください、そうしたら体は見えませんから」
「えっと、ありがとうございます」
悠里はふふふふっと笑った。
(なんだか美優様の時の事を思い出しますわ)
美優みゆとは優也の母親である。
美優もこうやって異世界から連れてこられた花嫁だった。
悠里は美優をとても可愛がっていた。
今は王妃を引退して王と共に隠居生活を満喫している。
「優也様、お優しい方でしょう?フォン様」
「フォンでいいです」
フォンは恐縮してそう言った。
フォンは元奴隷だ。
様づけで呼ばれることに抵抗を感じてるらしい。
「そういうわけにはいきませんわ。貴方は優也王の王妃になられる方ですもの」
「・・・きっと私に同情してくれたんでしょう」
「それだけで、王妃選びはなさいませんよ」
そう言いフォンを励ました。
悠里はフォンが体を隠したがっている理由をようやく理解した。
鞭打ちされてきた体は傷だらけで化膿してそのまま放置していた傷は肌が変色してしまっていた。
(何てむごいことを・・・一体どこの世界の娘なのだろう)
こんなことが日常的に繰り返されている国があることに悠里は怒りを覚えた。
「さあ、もう上がりましょう」
「次はお薬を塗りますから・・・」
「・・・自分で出来ます。薬をお借りしてもよろしいでしょうか。悠里様」
「まぁ、いけませんよ。下々の者に様をつけられては・・・私の事は悠里とお呼びください」
いきなり悠里様と言われ、悠里は驚いた。
(よほどひどい目にあってきたのね、可哀そうに・・・)
「では、これが化膿止めのお薬です。これが、傷薬で、あとガーゼと包帯ですね」
「はい。わかりました」
そう言いフォンは衝立の向こうへ走り去っていった。
きていた着物は今まで見たことのないものだった。
フォンがあの調子なら暫く鳳凰の間の話はしない方がいいだろう。
悠里はそう思いフォンの様子を窺った。
「フォン様大丈夫ですか?お薬が終わりましたら次は着物を着つけますね」
「はい。お願いします」
フォンの体は包帯だらけだった。
フォンの表情は乏しい。
ここにきて一度も笑顔を見たことが無い。
フォンは無表情のままだった。
「フォン様帯は苦しくないですか?」
「おび?」
フォンは帯が何かわからなかった。
「帯はこれですよ」
そう説明すると苦しくないと言った。
そのまま着付けも終わり、王の間へ二人はやってきた。
「優也王、フォン様をお連れしました」
「フォン、体の方は大丈夫か?」
「はい。ご主人様」
フォンはそう答えた。
優也はそれが気に入らなかった。
「フォン、俺はお前を助けるためにお前を買ったのは事実だ。だが、お前の”ご主人様”になりたかったわけではないぞ」
「?」
フォンは無言のまま優也の言葉の続きを待った。
「俺はお前にこの国の王妃になってもらいたいと思っている」
「・・・おうひ?」
「悠里、鳳凰の間での儀式については説明したか?」
「いいえ。まだ早いかと思います」
「・・・そうか」
「ほうおうのま?」
フォンには分らないことだらけだった。
「いいか。これからは俺の事は優也と呼ぶんだ。あと、お前はもう自由だ」
「自由?自由とは何ですか?」
「お前の思った通りのことをして良い」
「よくわかりません」
優也の言葉の意味がフォンには伝わらなかった。
「分からないことは何でも悠里に聞いてくれ。俺も出来る限りお前の為に時間を作る」
「・・・」
フォンは黙り込んでしまった。
「さぁ、優也様。そろそろ公務の時間です。フォン様の為に時間が欲しいならさくさく仕事を終わらせてくださいね」
そう言い、ずるずると引きずるようにして紀藤は優也を連れて行ってしまった。
フォンは不安げに悠里を見上げている。
悠里は優しく声をかけた。
「・・・フォン様、お疲れでしょう?お話はあとにしてお休みください」
「・・・休むって眠るという事ですか?眠ってもいいのですか?」
「・・・」
(この子は眠るのにも許可が必要だったのか・・・)
「はい。ゆっくりお眠りください」
二人はフォンの部屋へ戻って行った。
「では、おやすみなさいませ」
「はい、おやすみなさい」
一人になったフォンは今までの生活が一変したことに戸惑いを覚えた。
しかし、ここに居ればもう虐げられることは無い。
フォンは広いベッドまで歩いていき横になり、枕を抱きしめ眠りについた。
疲れていたせいか深い眠りに落ちていった。

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