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探し人
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吉野琴音は昔からおかしな癖があった。
それは誰かを探す癖だった。
(私は一体誰を探しているんだろう・・・)
街中を見つめながら琴音は溜息をついた。
琴音が空を見上げた時、雨が降り始めた。
喫茶店の軒下で雨宿りをすることにした琴音は大きな声で呟いた。
「はぁ~・・・傘なんて持ってないよ」
「この傘やるよ」
急に男の人の声がしたので琴音は顔を上げた。
その男の人こそ琴音の探し人だった。
驚いた琴音は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
男の人は雨の中、駆けて行った。
琴音は男の人に手渡された傘をさし家路についた。
「見つけた・・・あの人だ・・・」
本能的に琴音はそう感じていた。
毎日、琴音は傘を借りた場所で彼が通るのを待った。
そうして数日が過ぎた頃、ずっと待っていた彼が街中にいるのを見つけると琴音は無意識に彼を追った。
「待って!!」
傘を握り締めた琴音は気が付くと叫んでいた。
すると彼は振り返り歩みを止めた。
「さっきからついてきていたのはあんただったのか」
「え、覚えているんですか?」
琴音は少し嬉しくなった。
持っていた傘を握り締めながら琴音は返事を待った。
「そりゃ、忘れられないよ。あんなに大きな声でため息ついていたこと」
そう聞き琴音は顔を真っ赤にして両手で覆った。
「で?俺に何の用?」
「あ・・・傘を返そうと思って・・・」
じっと見つめられると照れてしまう。
彼は琴音が差し出した傘を受け取ってくれた。
「わざわざいいのに」
そう言い彼ははにかんだ笑みを浮かべた。
それだけで琴音の胸が高鳴った。
「俺の名前は氷室 翔だ」
「わ、私は、吉野 琴音と言います」
名乗り合い互いに暫く見つめ合っているのが気まずくなり琴音は口を開いた。
「あの。傘のお礼がしたいです。あの喫茶店に行きませんか?」
「お礼なんていいのに・・・」
「そんなわけにはいけません。それともご迷惑でしたか?」
琴音が不安そうな表情をしているのを見ていると断る理由もないなと思い喫茶店へ入って行った。
店に入ると案内された席に腰を下ろした。
「・・・」
「・・・」
2人共話題もなく特に会話が無かった。
とりあえず探し人が見つかったことに安堵した琴音は嬉しかった。
こうして目の前にしてみると彼はとても綺麗な顔立ちをしていた。
「・・・俺に何か用事でもあるのか?」
「用事はもう終わりました。傘も返せましたし」
「これ返すために俺を探していたんだ?」
琴音は頷いた。
「用事はすんだか?」
注文していた珈琲とココアがテーブルに置かれ2人は冷えきった体を温める為、飲んだ。
「・・・」
何と説明していいのかわからず琴音は黙ってしまった。
「他に用事があるんじゃないのか?」
翔は琴音の事が気になり始めていた。
「・・・今はまだ話せませんが連絡先交換してまた会ってくれませんか?」
「構わないけど、今はなさなくていいのか?」
「はい、何て言っていいのかわからないのでー・・・」
そう答えると翔はますます琴音に興味が湧いた。
翔は珈琲を飲み干し琴音にお礼を言うと席を立った。
「今から用事があるんだ。何かあったら連絡くれ」
「あ、はいっ」
翔はコートを羽織ると店から出て行ってしまった。
「はぁー・・・緊張した・・・」
琴音の気は一気に緩んだ。
また会えるということが嬉しかった。
それは誰かを探す癖だった。
(私は一体誰を探しているんだろう・・・)
街中を見つめながら琴音は溜息をついた。
琴音が空を見上げた時、雨が降り始めた。
喫茶店の軒下で雨宿りをすることにした琴音は大きな声で呟いた。
「はぁ~・・・傘なんて持ってないよ」
「この傘やるよ」
急に男の人の声がしたので琴音は顔を上げた。
その男の人こそ琴音の探し人だった。
驚いた琴音は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
男の人は雨の中、駆けて行った。
琴音は男の人に手渡された傘をさし家路についた。
「見つけた・・・あの人だ・・・」
本能的に琴音はそう感じていた。
毎日、琴音は傘を借りた場所で彼が通るのを待った。
そうして数日が過ぎた頃、ずっと待っていた彼が街中にいるのを見つけると琴音は無意識に彼を追った。
「待って!!」
傘を握り締めた琴音は気が付くと叫んでいた。
すると彼は振り返り歩みを止めた。
「さっきからついてきていたのはあんただったのか」
「え、覚えているんですか?」
琴音は少し嬉しくなった。
持っていた傘を握り締めながら琴音は返事を待った。
「そりゃ、忘れられないよ。あんなに大きな声でため息ついていたこと」
そう聞き琴音は顔を真っ赤にして両手で覆った。
「で?俺に何の用?」
「あ・・・傘を返そうと思って・・・」
じっと見つめられると照れてしまう。
彼は琴音が差し出した傘を受け取ってくれた。
「わざわざいいのに」
そう言い彼ははにかんだ笑みを浮かべた。
それだけで琴音の胸が高鳴った。
「俺の名前は氷室 翔だ」
「わ、私は、吉野 琴音と言います」
名乗り合い互いに暫く見つめ合っているのが気まずくなり琴音は口を開いた。
「あの。傘のお礼がしたいです。あの喫茶店に行きませんか?」
「お礼なんていいのに・・・」
「そんなわけにはいけません。それともご迷惑でしたか?」
琴音が不安そうな表情をしているのを見ていると断る理由もないなと思い喫茶店へ入って行った。
店に入ると案内された席に腰を下ろした。
「・・・」
「・・・」
2人共話題もなく特に会話が無かった。
とりあえず探し人が見つかったことに安堵した琴音は嬉しかった。
こうして目の前にしてみると彼はとても綺麗な顔立ちをしていた。
「・・・俺に何か用事でもあるのか?」
「用事はもう終わりました。傘も返せましたし」
「これ返すために俺を探していたんだ?」
琴音は頷いた。
「用事はすんだか?」
注文していた珈琲とココアがテーブルに置かれ2人は冷えきった体を温める為、飲んだ。
「・・・」
何と説明していいのかわからず琴音は黙ってしまった。
「他に用事があるんじゃないのか?」
翔は琴音の事が気になり始めていた。
「・・・今はまだ話せませんが連絡先交換してまた会ってくれませんか?」
「構わないけど、今はなさなくていいのか?」
「はい、何て言っていいのかわからないのでー・・・」
そう答えると翔はますます琴音に興味が湧いた。
翔は珈琲を飲み干し琴音にお礼を言うと席を立った。
「今から用事があるんだ。何かあったら連絡くれ」
「あ、はいっ」
翔はコートを羽織ると店から出て行ってしまった。
「はぁー・・・緊張した・・・」
琴音の気は一気に緩んだ。
また会えるということが嬉しかった。
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