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美優の宝物

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美優には宝物があった。
それは結城から買ってもらった結城とお揃いの指輪だ。
しかし朝起きると指にはめていたはずの指輪が無くなっていた。
「えぇ!?どうして!?」
「美優様!?いかがなさいました!?」
美優の叫び声を聞き、悠里が部屋に入ってきた。
「えっと・・・何でもありません・・・」
「ですが・・・」
悠里は心配そうにしている。
これ以上心配をかけたくなかった美優は嘘をついた。
「あははは、何か寝ぼけてたみたいで・・・」
「・・・そうですか?それならいいのですが・・・」
美優は努めて明るく振舞った。
(確かに昨日までは指にはまってた・・・)
(どうしよう。無くしたなんて言えないよ)
美優は急に不安になった。
もし、なくしたと言ったら結城は優しいから同じ指輪を探して買ってくるだろう。
それでは意味がないのだ。
あの日あの時買ってもらったあの指輪でなければ意味がない。
美優はそう思った。
結城はまだ気づいていない。
「探さなくっちゃ」
「え?何をですか?」
「いいえ、何でもありません。今日は一人で行動してもいいですか?」
美優がそう言うと不思議そうな顔をした後、悠里が言った。
「はい。良いですが、危険なことがあったらすぐに呼んでくださいね?」
(早く見つけないと・・・!!)
美優はそう思い探しに出かけた。
昨日と通ったところを探して歩いた。
昨日は調理場と庭と、書庫だった。
調理場でお菓子を作った時一度外して・・・。
(でも、その後また指にはめたわ)
「じゃあ、ここではないのね」
うーんっと唸りながら歩いていると紀藤と会った。
「おや、今日はお一人ですか?悠里どのは?」
「・・・今日は私一人で過ごさせてもらっています」
美優の後ろに悠里の気配を一瞬感じた。
(ああ、今日は一人になりたい気分なのか。でも、後ろに悠里がいることに気付いていないのか)
悠里は元暗殺者。
気配を消すのは得意中の得意。
美優に何かあってはいけないと思い気配を消してついてきていたのだ。
「美優様、あまり外をうろつかれては結城様が心配されますよ。なるべく建物内でお過ごしくださいね」
そう言い紀藤は去っていった。
「そうは言われても・・・どうしても探さなくちゃいけないし・・・」
美優はしゃがみこんで庭の土の上を見てみた。
しかし指輪は見つからなかった。
着物が汚れるのも厭わないで探し続ける。
けれどやはり見つからない。
次は書庫へやってきた。
昨日読んだ本に挟まっていないか慎重に探す。
けれどやはり見つからない。
書庫の床の上、机の上も探した。
(どうしよう・・・どこにもない)
美優は段々悲しくなってきた。
瞳に涙がにじみ出した。
「見つからないよぅ・・・」
そんな美優を見ていた悠里はついに我慢できなくなって事情を聴きに行った。
「美優様。一体先ほどから何をお探しなのですか?私で宜しければ一緒に探します」
美優は悠里に迷惑をかけたくなかった。
「・・・もういいんです。正直に結城様に言います」
(結城はきっと許してくれる)
「・・・とりあえず湯殿のお支度をしますからお入りください」
「はい・・・」
美優は元気なくそう答え、悠里に続いて自室へ戻った。
指輪をいつも、つけていた指を触りながら物足りなさを感じていた。
(どうしても見つけたかったのにな・・・)
そう思い湯に深く体を漬けた。

夜になると結城が美優の部屋へやってきた。
美優の様子がおかしい事に気がついた結城は美優に声をかけた。
「美優?どうした?具合でも悪いのか?元気がないな」
「あの、実は・・・結城様に買って頂いた指輪をなくしてしまって・・・」
そう言いながら美優は泣き出してしまった。
「美優!?どうした?泣くな!!」
「だって、せっかくお揃いで・・・」
「あの指輪の事か」
美優は黙って頷いた。
結城は美優を抱きしめ、美優の左の薬指に指輪をそっとはめた。
「え?・・・どうして・・・?」
「昨夜指輪を見た時少し部品が欠けているのを見つけてな。今修理から戻ってきたところだ」
「えぇ!!?じゃあ、私、指輪をなくしたわけじゃなかったんですか!?」
「ああ」
(・・・)
美優の中で怒りが湧いてきた。
「一言、言ってくれたらよかったじゃないですか!私、失くしたと思って今日一日必死で探して・・・」
そう言いながら美優は再び泣き始めた。
「・・・何かわからんがすまん」
結城は美優を抱きしめ宥めようとしたが結城の手からするりと逃れると悠里の方へ向かっていった。
「悠里さん~、指輪ありました。結城様が持ていらっしゃいました」
泣く美優を悠里が優しく包み込んだ。
悠里と結城の目が合う。
悠里が怒っていることが伝わってきた。
結城は逃げ出したい気持ちになった。
愛しい美優の為を思ってしたことなのに何故こんなに責められるのか結城には分らなかった。
冷たい瞳の悠里がこう言った。
「ちょっと結城様にお話がありますの?場所を変えませんか?」
「・・・ああ」
こういう時の悠里に逆らうと後が面倒だ。
ここは大人しく従った方がいいだろうと思い、部屋を出る悠里の後に続いて結城は部屋を後にした。
その後、結城がどうなったかは知らないが美優は指輪が戻ったことにほっとした。
(結城様の馬鹿!勝手に持って行かなくてもいいじゃないの!)
一日必死になって探した宝物。
さすがに今日は疲れたので美優は指輪の存在を確認しながら眠りにつくことにした。






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