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悠里の過去

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美優は最近どうしても気になることができた。
悠里が何者かだ。
いつもは温厚で優しい彼女。
結城から悠里が昔は彼の命を狙っていたことがあると聞いた。
詳しくは話してはもらえなかったが二人の主従関係が気になった。
今では悠里は生涯の忠誠を結城に誓っているらしい。
美優が知っているのはここまでだ。
(うーん。直接聞いてみようかな・・・でもなんて聞く?)
「美優様?どうかなさいましたか?」
「・・・あの、えっと。昔、結城様の命を狙っていたって話は本当なんですか?」
「!」
その話をした瞬間彼女の笑顔が凍るのを感じた。
「美優様・・・そのお話は結城王からお聞きに?」
「はい。世間話程度に聞きました」
(世間話では重たすぎる話だな・・・)
「そうですか。ついに知ってしまったんですね」
「・・・はい。何か事情があったんですか?」
きっと何か特別な事情があったに違いない。
美優はそう思っていた。
「いいえ。仕事だったんです」
悠里は軽く言ってのけた。
「仕事・・・暗殺者・・・みたいな?」
「はい。昔は暗殺業をしていました。収入がとても良くていい仕事でした」
「・・・」
(暗殺業をいい仕事って・・・!!やっぱり悠里さんは怖い人だったんだ)
「美優様には刺激の強いお話ですよね。すみません。美優様のいらした世界には暗殺業なんて無いですよね?」
「私のいた国にはありませんでしたけれど他の国にはあったかもしれません」
悠里はにっこり笑って美優に話しかけた。
「それで美優様は何が知りたいのですか?何でもお答えいたしますが・・・」
(ひぃー!!何でもは結構です。怖い~)
「私が知りたいのはどうして結城様を暗殺しようとしたのに今はお仕えしているかという事です」
「美優様は・・・元暗殺者が信用できませんか?」
悠里は少し悲しそうな表情をして俯いてしまった。
「いいえ!違います。単なる好奇心からです。怖いもの見たさというか・・・」
「そうでございますか」
安心したようにぱっと悠里は顔をあげた。
「そうですね・・・何からお話ししましょうか・・・まず依頼が来た時の事からお話ししますね」
「はい」

あれは今から10年前ー・・・
「今の国王を暗殺してほしい。報酬は言い値で払おう」
ある王族からの依頼だった。
「わかりました。今晩決行します」
悠里はにっこり笑いながらそう言った。
(今回のターゲットは15歳になったばかりの国王か・・・確かまだ即位したばかりだったはず)
(私が暗殺しなくても他の誰かに命を狙われるでしょうし私が苦しまないように一思いに殺してあげた方が幸せですよね・・・)
悠里はそんな事を考えながら夜になるのを待った。
暗殺は闇夜に紛れて行う。
警備をかいくぐり、王の寝室までやってきた。
「甘い警備ですこと」
寝室に鍵はかかっておらず簡単に侵入できた。
「・・・」
悠里は王が眠っているベッドへ近づいてみた。
ベッドの上の体に思い切り刃を突きたてた。
しかし手ごたえはなかった。
不思議に思い布団を這いで見るとそこには丸められた羽布団が入っているだけだった。
それに驚いていると天井から王が悠里めがけて剣を振りかざしながら降ってきた。
幸い急所は外れたものの悠里の足が使い物にならなくなった。
「足の腱を切られなかっただけありがたく思え」
勢いよく切られたため立ち上がることができない悠里の足に容赦なく短剣を両足に2本突き立てた。
「王に歯向かったんだこれくらいの責め苦どうってことないだろう」
「・・・王はお強いんですね」
「・・・そんなことはどうでもいい、それより言え!どこの王家の差し金だ!」
「それを言ったら私を消すんですよね?」
「・・・わからん」
「え?」
悠里は怪訝な顔をした。
「暗殺者は役に立つから生かしておいて使いたいところだが、歯向かうなら殺すしかない」
そう話す王の瞳はとても冷たいものだった。
「さぁ、お前はどうしたい?生きたいか?死にたいか?」
表情一つ変えず言って見せる15歳とは思えない王は怖かった。
「俺は今からお前以外の暗殺者にも狙われるだろう。それを覚悟の上で玉座に座っている。お前も死を覚悟して暗殺業をしているんだろう?」
「・・・ええ。命がけで暗殺業をしています」
「そうか」
王は短く答えた。
この王は・・・一体どういう人間なのだろう。
悠里は王に対して興味がわいた。
「結城王様、私は決めました。貴方に生涯忠誠を誓います」
「信じられんな。急に態度を変えるなんて、理由はなんだ?」
「王に興味がわきました。これからの貴方を見ていたい」
「ふん。それが理由か?」
「はい」
「では俺から信用を得ることのできる行いをしてこい」
「わかりました」

それから数日して足が少し癒えたころ、悠里は王暗殺を依頼してきた王家を皆殺しにしてきたのだった。
それを知った王は悠里を呼び出した。
そして悠里に問うた。
「本当に俺に仕えたいのか?」
「はい」
「わかった。では今日から侍女としてこの城で働いてもらう」
(え?侍女として?)
「暗殺者としてではなく?」
悠里が聞くと王はこう答えた。
「俺は争い事は好まない。今日から大人しく侍女として働け」
そう言うと王の部屋から追い出されてしまった。
「ますます興味が湧いてきましたわ」
そうして悠里は侍女として働くことになったのだった。

「・・・というわけでいまは侍女として美優様にお仕えしております」
「・・・何というか・・・壮絶な話でした。悠里さんはそれから暗殺業は引退されたんですよね!」
「ふふふふふ。さてどうでしょう?そこは秘密にしておきます」
「え?」
美優は目を見開いて驚いた。
(もしかして今も・・・)
そう考えて途中で考えることを止めた。
それ以上聞くと今みたいに仲良くできるか自信がなくなりそうだった・・・。
(生きている次元がちがいすぎる)
美優はそう思ってそれ以上深入りすることを止めた。







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