緑の守り神

えりー

文字の大きさ
上 下
22 / 36
第二章 

セルクのトール王

しおりを挟む
セルクの国には滅亡の危機が迫っていた。
それもこれもあの竜のせいだ。
あの竜・・・ヒスイという神がアーロン国に味方しているせいで自国が劣勢に追いやられている。
ヒスイと出会ったのは愛おしいローズを手に入れようとしたその時だった。
(彼女はヒスイを庇い私が振り下ろした剣に刺さり亡くなった)
トールは幼い頃一度だけあったローズに恋をし、想いを募らせていた。
そして、何度も求婚の手紙をアーロン国に送ったが返事はもらえなかった。
不思議に思い、独自に調査したところ、ローズは化け物の生贄にされるという情報を掴んだ。
そこで彼女を救出しに行ったがローズは救い出されることを拒否した。
きっと何かの暗示か術をかけられていたに違いない。
(そして、セルク国の王である私を拒んだ)
彼女を永遠に失ってから何もする気が起きず政治にも身が入らなかった。
そんな時、竜の刻印を持つ娘が産まれたと知らせが入った。
竜とアーロン国の王は刻印を持つ娘が産まれたらその娘を大切にするよう約束を交わしたらしい。
アーロン国の国民にもそう触れ回っていた。
(その娘の話を聞いた時に私は思った。その娘こそローズの生まれ変わりだと)
その娘はまたアーロン国の姫。
名はローゼというらしい。
その話を聞いてから、トールは政治に力を入れ出し国を大きく発展させていった。
ローズにまた会える。
ローゼに会えることがトールの心の支えとなった。
(今度こそ手に入れて見せる)
そうしてトールはアーロン国に戦を仕掛けた。
ローゼを手に入れるためにアーロン国を滅ぼそうとしたのだ。
アーロン国さえなくなれば肥沃な大地も手に入る。
そしてローゼも。
ローズが死んでから彼は狂ってしまっていた。
狂王きょうおうと国民から恐れられるようになっていった。
それほど深くローズを愛していたのだ。
狂王と呼ばれていることは知っていた。
しかし、この感情は抑えられない。
トールは抑えるすべを知らない。
ただ感情の赴くままに他国への侵略を続けていった。
初めはささやかな恋心からだった感情が今では自分では制御できないくらい膨れ上がっていた。
ローゼが産まれてから10年が経った。
(今度は私を受け入れてくれるだろうか)
「いや、・・・今度こそ受け入れさせてみせる」
そう心に強く誓った。
その為にはあの竜、ヒスイが邪魔だ。
(また森に火をつけ、あいつを誘き出すか?)
「二度も同じ手には乗らないだろうな・・・」
トールはそう一人で呟いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...