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2章

アナザーゲートキーパーズ 『セイヤと変態科学者』

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ユウヤが棺の蓋に手を掛けて思う
(ヴィンに聞くまでは正直この蓋を開ける事が恐ろしくもあった けどディークは生きている それが分かっている今なら…)
ユウヤがふと気付いて思う
(…あれ?けど、俺は元々ディークを起してヴァンパイアの謎を聞こうと思っていたんだけど?それはもう今ならヴィンに聞いたら良いんじゃないか?だとしたら…?)
ユウヤが苦笑して言う
「…って言っても 今更だよな?」
ユウヤが思う
(それに…)
ユウヤが棺の蓋を開いて言う
「ディーク?」
ユウヤの視線の先 ディークの胸が大きく息を吸ったように膨らむ ユウヤが微笑して言う
「お早うディーク 僕だよ?ユウヤだよ?」
ユウヤの脳裏で 子供の頃に同様にしてディークを起していた様子が思い出される ユウヤが思う
(そうだ 昔は良く… こうやって…)
ユウヤが言う
「思い出した…」
ユウヤが微笑して思う
(子供の頃の俺は毎日こうやってディークを起していた… あの頃と全く同じだ)
ディークの目がゆっくりと開き 吸血衝動の現れた瞳が向けられる ユウヤが微笑して思う
(そう… こんな風に目覚めたばかりのディークはヴァンパイアの目をしていて 少し怖いと感じる けどディークは 『ユウヤ』って… あのいつもの落ち着いた静かな声で…)
ヴィンの声が聞こえる
「ユウヤッ!」
ユウヤが思う
(静かな声 で…っ!?)
ディークがユウヤへ襲い掛かる ユウヤが驚いて悲鳴を上げる
「うあっ!?」
ユウヤが思う
(えっ!?な、なんでっ!?)
ユウヤの目前でディークが誰かの手に噛み付く ユウヤがディークの噛み付いている手の持ち主であるヴィンへ向いて言う
「ヴィンッ!?」
ディークがヴィンの手から血を吸い取る ユウヤがハッとして思う
(ヴィンの…っ!ヴァンパイアの血をっ!駄目だっ!ヴァンパイアはっ!)
ユウヤが慌てて言う
「ディークっ!駄目だよっ!ヴァンパイアはヴァンパイアの血を吸ったらっ!」
ユウヤが思う
(吸血鬼になってしまう…っ!)
ディークが衝撃を受け飲み込んだ血を吐き出して言う
「うっ!?お…っ おえっ!?おえぇ~…っ!」
ユウヤが疑問して言う
「って?は… 吐いてる…?」
ヴィンが噛み付かれた手を押さえながら言う
「やれやれ… 科学者の繊細な手を傷付けて置きながら失敬な… とは言え」
ディークが顔を上げる その視線の先でヴィンが微笑して言う
「その拒否反応こそが正常なヴァンパイアの反応… 自立神経は無事回復した様子だ それに… ヴァンパイアの細胞の方も」
ヴィンが噛まれた手の傷を見る ユウヤが見て思う
(ヴァンパイアの細胞…?)
ユウヤが言う
「あの… 大丈夫ですか?ヴィン?」
ヴィンが言う
「ああ、大丈夫だユウヤ 少々痛むが通常より時間が掛かると言うだけで この傷はじきに塞がる そしてヴァンパイアの細胞修復を遮る こちらの現象こそが彼の体が細胞レベルから正常なヴァンパイアとしての機能を取り戻したと言う その表れ これで彼は完全にヴァンパイアとして回復を遂げたと言う事になるのだが… もっとも そうなれば…」
ディークが吸血衝動を抑え息を切らしながらユウヤを見る ユウヤが呆気に取られて言う
「ディ… ディーク…?」
ヴィンが苦笑して言う
「フフ… 大丈夫だ ユウヤ 正常なヴァンパイアの身体で目を覚ましたばかりの彼は極度の飢餓状態にある その中にあってもユウヤを認識し己の欲を堪える事 吸血衝動に駆られながらも 守るべき対象を認識出来ている …これで彼の身体はもちろん 意識の心配も不要だ」
ユウヤが困って言う
「それは良かった …でも それならどうしたら?いくら自己自制が効いていると言っても 飢餓状態と言う事は…」
ユウヤが思う
(このままではディークは人間の血を求めて… ならやっぱり目覚めさせない方が良かったのか?)
ヴィンがディークへケースを見せる ユウヤが気付いて言う
「あ… それは」
ディークがハッと驚く ヴィンが苦笑して言う
「おや 失敬?驚かしてしまったかな?そうだな 君にとっては一種のトラウマとなっているのかもしれないが だが、安心し給えディーク ケースは同じだが中身は紛う事無く人間の血を用いて作られた凝縮血液製剤… 残り少ないものだが君の復帰を祝い私からの餞別として贈呈しよう 精々大切に…」
ディークがヴィンの手からケースを奪い取り中身を一気に口に入れて咬み砕く ユウヤが呆気に取られて思う
(あれって確か以前 ヴィンが飲んでいたアレだよな?だとしたら本当なら1粒だけを水に入れて それで…)
ディークが飲み込んで息を吐く 間もなくしてディークの吸血衝動が収まり ディークが息を整えながら言う
「はぁ… はぁ… ああ助かった 感謝する ヴィン…」
ヴィンが溜息を吐いて言う 
「…なるほど?いや、礼には及ばないともディーク お陰で君が あの薬を用いて どの様に 吸血鬼を越え吸血衝動の無いヴァンパイアへ至ったのかの謎が解明された… 最も今更不要なそちらの知識へ対する その代償は随分と大きかった様だが?」
ユウヤが衝撃を受け思う
(お… 怒っているのかっ?あの温厚なヴィンが…っ?けど、そうだよな?確かアレはヴィンにとっても色々と思い入れのあったものだったのに それを一度にあんな風に噛み砕かれて飲まれたんじゃ)
ヴィンが軽く息を吐き 気を落ち着かせてから改めて後方を気にして言う
「…さて?」
ユウヤがヴィンの様子に疑問する 一瞬の風が過ぎ去る ユウヤが驚き周囲を見て疑問する ヴィンが微笑して言う
「実力の差を思い知ったのか もしくは狂戦士のディークの無言の気迫に圧倒されたのか 彼らも今度は大人しく引き下がった様子だ」
ユウヤが反応して改めて辺りを見る 周囲に倒れていたはずのC高のヴァンパイアたちが居なくなっている ユウヤが言う
「それなら良かった…」
ユウヤが思う
(素直に引き下がってくれて… まぁ、あの実力差を思い知ったのなら当然か?)
ユウヤが気付いて言う
「…うん?あれ?今“狂戦士”って?つまりディークは あのカルと同じ?」
ディークがユウヤの言葉に衝撃を受けてから顔を逸らして言う
「っ!…カルを知っているのかユウヤ?それなら… その事実は言わないでもらいたかったのだが?ヴィーンリッヒ?」
ヴィンが微笑して言う
「フフフ… そのように紳士を装っていられるのも時間の問題だろう?そもそも先ほどの君の行動でユウヤへは大方 気付かれていると私は思うのだが?」
ディークがユウヤを見て苦笑して言う
「そのユウヤの前に居る間くらいは格好を付けさせてくれても良いではないか?天才科学者ヴィーリッヒは意地悪だな?」
ヴィンが言う
「意地悪とは心外な?私は、家族とも言えるユウヤへ対して言動を偽るのは如何な物かと問うているのだよ ユウヤは以前の君との時を過ごしていた頃の幼い子供ではないのだから …なぁ?ユウヤ?」
ディークがユウヤを見る ユウヤが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「あ、うん… そうだよ ディーク?俺はもうすっかりオッサンだよ… けど何だろうな?ディークを見ていると今でも何だか…」
ディークが微笑して言う
「ユウヤ… 私もだ 例え見た目が大人になろうとも ユウヤは変わらず私の大切な…」
ディークがユウヤの頬へ手を近づける ヴィンが咳払いをして言う
「う、うんっ!」
ディークとユウヤが衝撃を受け ディークが苦笑して言う
「あ… いや、私の獲物である”タカヤの”大切な息子だ… そして、その大切なユウヤへ牙を立てる様な事は決して…」
ユウヤがハッとして言う
「“獲物であるタカヤの”?それじゃディークと父さんは…」
ユウヤが思う
(俺とヴィンの関係と同じだった… 親父はディークの獲物だったのか?)
ヴィンが言う
「心配をせずともユウヤの事は この命を賭けて私が守る 君の牙に晒される様な事などは決して無いとも」
ユウヤが思う
(う…っ それは嬉しい様な なんと言うか…?)
ヴィンが視線を逸らして言う
「従って如何にユウヤの指示の下とあろうとも あの若輩ヴァンパイアがユウヤの首に牙を立てた時は 己の身を裂かれる程の苦しみだったのだがっ しかし、それがユウヤの願いとあっては 私は あの瞬間までを耐える他に無かった!」
ヴィンが手を握り締めて悔やむ ユウヤが思う
(あの若輩ヴァンパイアって?…ひょっとしてリョウタ君の事か?それで…)
ユウヤが言う
「あの瞬間と言うのは?」
ヴィンが言う
「ああ、ユウヤが意識を喪失させた あの瞬間だとも …私はそれを見極め 同時に行うべき処置の遅い あの出来損ないヴァンパイアたちの間へ割って入り ユウヤの救出を行った」
ユウヤが思う
(そう言う事か… 俺がリョウタ君へ血をあげて そのまま失神したあの時… 俺はてっきりB高のヴァンパイアの彼らが助けてくれたのだと思って居たけれど)
ユウヤが言う
「知らなかった てっきり俺は彼の仲間たちが助けてくれたものと… では、そうと言う事なら今更ですが有難う御座いましたヴィン それに さっきも?」
ヴィンが言う
「礼には及ばないとも ユウヤ それに、過去のそれらどちらの時とあっても 瞬間を見極める必要性から救出が遅くなってしまった 従って… まったく なんと羨ましい…っ いやっ 何とも忌々しいあのヴァンパイア…っ!私の大切なユウヤの血をユウヤが失神するほどに吸い尽くし…っ クゥッ…!」
ユウヤが呆れて思う
(ヴィン… いつもの饒舌な中に本心が現れているけど… これもまぁ それだけ俺の事を大切に想ってくれていると言う訳で…)
ユウヤが思わず言う
「大丈夫かな… リョウタ君…」
ユウヤがハッと気を取り直して言う
「…あっ そうだっ!そんな事より 俺は2人に聞きたい事が!」
ユウヤが思う
(そうだ!思わず彼らとの再会に喜んで安心してしまっていたけど 今は喜んでいるだけでは いけないんだっ)
ヴィンが言う
「ああ、分かっているとも ユウヤ」
ユウヤがヴィンを見る ヴィンが言う
「正に先ほどの彼ら そのものでもある この地に生まれ始めた若きヴァンパイアたちの事だろう?」
ユウヤが言う
「そうですっ!14年前に俺たちは…!俺は多くのヴァンパイアを殺しましたっ この世界から殲滅させたと思っていました …しかし それが今になって突然16歳の少年少女たちがヴァンパイアになってしまったんです そして その原因は…っ!」
ユウヤがヴィンとディークを見る 2人は黙っている ユウヤが言う
「原因は… 原因の方は分かりません ただ同じく14年前まで存在していた貴族と行動を共にしていたヴァンパイアなら知っている筈です …人間をヴァンパイアにしない為の その方法を!」
ヴィンが黙って聞いている ディークが驚いて言う
「驚いたな… まさか人間の方が自身で現実を受け入れるとは…」
ユウヤがディークを見て言う
「現実を受け入れて?それは彼ら貴族が人間を守っていたと言う事?」
ヴィンが微笑して言う
「流石は私のユウヤだ」
ディークが苦笑して言う
「タカヤだって時間は掛かったが最終的には受け入れたぞ?」
ユウヤが驚いて思う
(父さんがっ!?)
ユウヤが言う
「親父が…!?俺の親父も知っている…っ!?…いや知っていたの?」
ディークが苦笑して言う
「ああゲートキーパーズの… いや 以前のゲートキーパーズの皆には最終的に伝えたが タカヤとリーダーであった もう一人の人間以外は皆…」
ヴィンが言う
「ディーク 今は そちらの事に関しては それ以上の説明は必要ない 強いて言うのであれば ユウヤにはユウヤの父親であるタカヤが同じ知識を有していた …と言う事実が分かれば それで十分である筈」
ユウヤが思う
(…そうだったのか 親父は それを知っていた… 知っていて?知って どうしたんだ?それで…?)
ディークが言う
「ああ、分かった」
ユウヤがハッとする ヴィンとディークがユウヤを見詰めている ユウヤが気を取り直して思う
(いや、駄目だ ヴィンの言う通り今は 俺がやるべき事をっ!)
ユウヤが言う
「貴族と そのヴァンパイアたちが知っていた… 行なっていた その方法を俺に教えて下さいっ!俺は今度こそ仲間を!仲間のヴァンパイアたちを助けたいんですっ!」
ディークが疑問する ヴィンが言う
「”ヴァンパイアたちを”助ける?」
ユウヤが言う
「はいっ 先ほどの彼らもそうですが 俺が14年前に貴族やヴァンパイアを退治した そのせいで 彼らは皆ヴァンパイアになってしまった… 彼らは被害者なんですっ!ですから…っ」
ユウヤが思う
(今度こそ俺が助けないと…っ)
ユウヤが言う
「…これ以上 俺は罪を重ねたくないんです」
ユウヤが思う
(俺は多くのヴァンパイアたちを殺した… 唯でさえ それだけの罪があると言うのに これ以上 俺のせいで…っ)
ユウヤの脳裏に 少年ヴァンパイアたちの姿が蘇る

リョウタが泣きながら言う
『もし俺が病院へ連れて行ったら 俺がヴァンパイアだと言う事が…っ それで… それで… どうしたら良いか分からなくなって… うぅ…っ ごめんなさい… ごめんなさい…っ 俺が…っ 俺が父さんを…っ』

ユウヤが思う
(増して自分の愛する人を死なせてしまう可愛そうなヴァンパイアにしてしまうなんて事は…っ!)
ユウヤがうつむいていた顔を上げて言う
「早く彼らを助けないとっ!…っ!?」
ユウヤが驚く ヴィンがユウヤの頬に触れて悲しそうに言う
「すまなかったユウヤ… ユウヤがどれ程苦しんで来たのか そして現在も続く その苦しみもまた 私には良く分かる」
ユウヤが言う
「俺の苦しみが…?それは…」
ヴィンが言う
「しかしユウヤは何も悪くは無いのだよ 全ては私が悪い… 私はヴァンパイアとして己の獲物へその苦しみを与えぬ為 様々な実験を行っていた しかし結局 その方法を得る事が叶わないまま ついには悲願の末に得られた私の… 大切なユウヤへまで同じ苦しみを与えてしまった… 本当にすまない 不甲斐無い私を恨んでくれて構わない」
ユウヤが言う
「同じ苦しみを?」
ヴィンが言う
「ああ… 私は…」
ヴィンが話を続けようとして顔を横に振ってから言う
「…いや今話すべき事は」
ヴィンが周囲の状況に耳を澄ましてから言う
「今ならば この周囲にヴァンパイアや人間の気配は無い従って伝えようユウヤ… まずはユウヤが最初に私へ質問した それへ対する回答だ」
ユウヤが頷きヴィンの顔を見る ヴィンが言う
「ユウヤの言う通り貴族の権力を利用して あの城へ呼び寄せた子供たちへ 人間をヴァンパイアにしない為に我々が行っていた事 それは…」
ユウヤが言う
「それはっ?」
ヴィンが言う
「人間である子供たちへ我々の血を… ヴァンパイアの血液を与えていたのだよ」
ユウヤが驚いて言う
「人間の子供へヴァンパイアの血をっ!?」
ヴィンが言う
「ああ、そうする事で人間がヴァンパイアになる事を阻害する事が出来る… 言うなれば予防接種と言った所か」
ユウヤが言う
「予防接種… ヴァンパイアの血で…?なるほど?それにしても… まさか人間の方へヴァンパイアの血を与えていただなんて…っ」
ユウヤが思う
(それが人間をヴァンパイアにしない為の方法 つまり病気の予防接種と同じ様に抗体を作ると言う事なのか?…だとしたら!?)
ユウヤが言う
「ではっ!?リョウタ君たちを!既にヴァンパイアになってしまった彼らを治療する方法は?彼らを人間へ戻す その方法は!?」
ユウヤが思う
(貴族の城で行なわれていた事 人間をヴァンパイアにしない為の その予防方法は分かった …それなら?人間への回帰方法は!?そもそも どうしてヴァンパイアになってしまうのか その理由も調べないと これからも生まれてしまうであろう 彼ら少年ヴァンパイアたちを助けられない!)
ヴィンが言う
「ユウヤ…」
ユウヤが言う
「俺は彼らを助けると約束したんですっ 教えて下さい!ヴィンっ!」
ヴィンが言う
「それは…」
ユウヤが息を飲んで言う
「まさか…っ 出来ないんですか!?」
ユウヤが思う
(ヴィンでも出来ない事なのか?だからヴィンやディーク… 彼らもヴァンパイアのまま生き続けている…?)
ヴィンが言う
「出来ない事は無い」
ユウヤが表情を明るめてヴィンを見上げて言う
「それならっ!」
ヴィンが言う
「正し、ユウヤの言うユウヤの新たな仲間… あの少年ヴァンパイアたちを助ける事は出来ない」
ユウヤが驚いて言う
「えっ!?そんなっ!?方法があるのなら俺は何としてもっ!」
ユウヤが思う
(俺に出来る事なら何だってやる!俺は彼らを助けるんだっ!)
ユウヤが言う
「俺に出来る事なら!」
ヴィンが言う
「ヴァンパイアを人間に戻す… それには その人間の体内の血液量の凡そ半分ともなる大量の他のヴァンパイアの血液を必要とする」
ユウヤが驚いて言う
「凡そ半分… そんなに沢山の…?」
ユウヤが思う
(それは …確かに その半分を1人のヴァンパイアから抽出するとなれば 人間なら命を失ってしまう量になる …だけどっ!?)
ユウヤが気を取り直して言う
「大丈夫ですっ ヴィン!それならっ!」
ユウヤが思う
(そうだっ 幸か不幸か彼らは大勢居る その半分と言う量を1人のヴァンパイアから抽出するのではなく 他の… 複数のヴァンパイアで補い合えば!)
ユウヤが言う
「その血液を複数のヴァンパイアで補い合えば可能であるのではっ!?それとも必要分は全て1人のヴァンパイアからでなければ ならないと言う事ですか?」
ユウヤが思う
(そうだ ヴィンが出来ないと言うからには きっと何か そう言った問題が…?)
ヴィンが言う
「いや、ユウヤの推測通り必要とする血液は複数人であっても有効だ …最も そちらの場合には 私ないし化学技術を有した者による成分の調整が必要となるが… そちらは大した事では無い 以前にユウヤと私でデュークの為の濃縮血液を用意した あの程度の技術があれば可能だ」
ユウヤが言う
「なら!?それは今でも出来ると言う事ですよね!?他に何が問題だと言うんですか!?彼らを助けるのに…っ」
ヴィンが言う
「そう… 彼らは数が多い ユウヤが助けたいと願う彼らの数は我々を遥かに越える」
ユウヤが言う
「”我々を”?…いえっ 血液の用意なら彼ら少年ヴァンパイアたちにも 協力をしてもらって… …っ!?」
ユウヤがハッとする ヴィンが言う
「そう その血液は彼ら若いヴァンパイアたちの血液であっては出来ないのだよ ユウヤ」
ユウヤがヴィンを見る ヴィンが言う
「だからこそ我々は生きなければならない …人間を人間のままであり続けさせる為に その為にはヴァンパイアとなり100年以上の年月を生き抜いた 正しく完成されたヴァンパイアの血液が必要だ」
ユウヤが目を見開いて言葉を失っている ヴィンが言う
「16歳… いや、ヴァンパイアとしては 今 生まれたばかりの彼らの血液が それに利用出来るようになるには これから100年の年月が必要とされる そして それに満たない現在の彼らの血液では意味を成さない」
ユウヤが言う
「俺が… 殺してしまった…」
ユウヤの脳裏に 14年前の光景が思い出される ユウヤが言う
「俺が… 俺が あのヴァンパイアたちを殲滅させなければっ 彼らの中には100年以上を生きたヴァンパイアだって居た筈でっ!?」
ユウヤが震えて涙を流し始める ヴィンがユウヤの両肩を掴んで言う
「確かにユウヤの言う通り彼らの中には その条件に値する者は数多く居ただろう …しかしユウヤ 先ほども言った事だが そちらの事に対しユウヤが負うべき罪は何も無い」
ユウヤが言う
「そんな事は無いっ!俺がやったんです!俺が皆を先導して…っ 俺がやると言わなければっ!」
ユウヤが思う
(もしくは…っ もっと早くにっ!あの時ヴィンに話して相談をしていれば…っ!)
ヴィンがユウヤの目頭を舐める ユウヤが驚く ヴィンが構わずもう片方を終えて言う
「ユウヤの体は現在 圧倒的に血液量が足りていない 涙は血液が原料赤血球は流れずとも その他の成分は失われる 従って 一時的に涙腺内の毛細血管を萎縮させ涙の分泌を止めさせてもらった 作用は時期に戻る心配は不要」
ユウヤが沈黙する ヴィンが言う
「そしてユウヤが困惑しているのは 私の行動だけでは無いものと推測し話を進めさせてもらうが …まずは聞いてもらいたいユウヤ ユウヤは この14年間 自責の念に駆られていたが それは ユウヤが負うべき罪では なかったのだと言う事を」
ユウヤが言う
「そんな事は無いっ!それは俺が負うべき罪ですっ 何があっても否定するつもりはありません!」
ヴィンが言う
「聞き給え ユウヤ それは全て… 私が謀った事だ」
ユウヤが疑問して言う
「…えっ?」
ヴィンが言う
「ユウヤは唯… 私の作り上げた計画に誘導されていただけなのだよ」
ユウヤが驚いて言う
「俺が… 誘導されて…?」
ユウヤが思う
(俺が誘導されていた?ヴィンに…?それは… 確かに俺はヴィンに色々な事を教えられて 影響を受けていた それは認める …でも だからって?)
ヴィンが言う
「ユウヤが行った事で生じた事象は全て私が事前に計画した事であり… ユウヤには何の責任も無い ユウヤの言葉を借りれば ユウヤこそが被害者と言える」
ユウヤが沈黙して思う
(俺が被害者?)
ヴィンが言う
「だからユウヤは もうこれ以上 苦しむ必要は無い そして どうか… 私を恨んでくれ ユウヤの14年間を …人間であるユウヤの大切な時間を不意にさせてしまった 本当に申し訳ない」
ユウヤが言う
「それは…」
ユウヤが思う
(俺には分からない 何をどう誘導されていたのか… けど、ヴィンが作り上げた計画だ それは言い換えれば天才ヴァンパイアが作り上げた計画 人間の俺が気付ける筈が無かったのだろう …けど それでも)
ユウヤがヴィンを見上げて言う
「俺は… 昔ヴィンの話を聞いてヴィンに協力したいと思いました 人間とヴァンパイアが共存する世界を目指すと言う事… けど俺はその途中で やっぱり人間の味方をする事に… 協力する方を選んだんです だから… ヴィンに相談もしないで むしろ人間の仲間たちと一緒に!」
ヴィンが言う
「そう、それこそが私が何時も利用している手段なのだよ 状況が整い次第ゲートキーパーズの人間の仲間を利用してヴァンパイアの殲滅を誘発させる事 …貴族などの権力を持つ者に抑圧され それから逃れて平和を目指す弱く優しい人間たちは 次は力を持つヴァンパイアを恐れ排他しようと決起する …その先に今度こそ彼らが求める人間の安住の地があるものと夢見て」
ユウヤが言う
「夢…」
ユウヤが思う
(…そうだ 夢だった 貴族に抑圧されていた俺たちは奴らを退ける事が そして、そこにヴィンの言う安住の地があると思っていた… だけど貴族を排除すれば 次は もう1つの力 ヴァンパイアたちが恐ろしくて… 彼らヴァンパイアは…)
ユウヤがヴィンを見て思う
(仲間であっても)
ユウヤがディークを見て思う
(家族であっても)
ユウヤが肩の力を抜く ディークが言う
「人間がヴァンパイアを恐れるのは当然だ ヴァンパイアは人間より遥かに強く そして 自分たちより弱い人間の血を求めるのだからな?」
ユウヤがディークを見る ヴィンが苦笑して言う
「ああ しかし その人間も …人間としてあり続ける為には我々の血を必要とする」
ユウヤが言う
「だから共存を?しかし、それなら何故っ!?何故ヴァンパイアの殲滅を誘導したりしたんですかっ!?彼らが生きていれば!彼らと共存させる事が目的じゃなかったんですかっ!?」
ユウヤがヴィンを見る ヴィンが言う
「それは… 我々ヴァンパイアも一様では無いがヴァンパイアとなり人間を超える能力を持った彼らは人間以上に欲に囚われ横暴を行う しかし、それを行っている者は まだ可愛いもの… 力に狂酔する彼らは更なる力を持って抑え付ければ 仲間にはならずとも従わせる事が可能となる だが その他の者は…」
ユウヤが言う
「その他の者は…?」
ヴィンが言う
「人間とヴァンパイアの共存が必要であると分かった所で ただ従えと言うのは難しい 増してヴァンパイアは年齢を重ねるうちに人間の頃には得られていた欲や快楽を感じられなくなる そうとなれば人間は勿論ヴァンパイアも諭す事は難しくなる 欲の無い者ほど扱い難い者は居ないのだよ そして その様な彼らが数多く存在するようになるのが1世紀と言う時の流れ…」
ユウヤが言う
「だから1世紀に1度 あの様な事を…!?」
ヴィンが言う
「その通り ヴァンパイアとなっての100年とは 正に その苦しみを乗り越えられるかの瀬戸際と言える 乗り越えられぬものは自ら死を選ぶヴァンパイアの永遠の命を呪って …そして、乗り越える事も自ら死を選ぶ事も叶わなかったヴァンパイアが人間を守る事もせず ただ 闇雲に人間をむさぼり生き永らえるだけの者と成る その彼らとの共存は同じヴァンパイアの我々であっても耐え兼ねない我々が救った人間を… 我々の獲物を横取りするだけの彼らは人間にとっても我々にとっても害獣だ」
ユウヤが言う
「だから殲滅した…」
ヴィンが言う
「そう これは避けようも無く繰り返される歴史にして それを行う事が我々ゲートキーパーズの使命でもある」
ユウヤがヴィンを見て言う
「ゲートキーパーズの?」
ヴィンが言う
「この計画は代々ゲートキーパーズのリーダーが担う作業だった しかし、今回は それを行うべきゲートキーパーズのリーダー テールは この作戦を行うのには余りにも難が有り過ぎた あの彼では恐らく計画を遂行する事は出来ないだろうと そこで…」
ユウヤが言う
「俺に…?」
ヴィンが表情を悲しめて言う
「まさか私が初めて得た獲物に… ユウヤに この苦しみを与える事となってしまうとは… 本当にすまなかった謝って済むものではないと分かってはいる 正しく… これが この計画を作り上げた私への罰か… いくら考案しようともユウヤへ与える苦しみを抹消する術を得られなかった …天才科学者などと呼ばれていながら 実に不甲斐無い私は無力だ…」
ヴィンが言葉を飲んで俯く ディークが言う
「ヴィン… いつもリックが言っているだろう?ヴィンの作り上げた その計画で この世界は救われているのだと」
ヴィンが言う
「私は 世界を救う事などよりっ!ユウヤを救いたかったのだよ…っ!」
ディークが苦笑して言う
「やれやれ… いつもなら それでまた ベットへ泣き寝入りしてはリックに叩き起される所だな?」
ヴィンが言う
「ああ… しかし今回は そんな事はしないとも 今の私の苦しみなどよりユウヤの苦しみは もっと深く辛いものだ 私は それを知っているのだから」
ユウヤが言う
「…知っている?分かるんですか?俺の苦しみが…?」
ユウヤの脳裏に様々な記憶がフラッシュバックする ヴィンが言う
「ああ 分かるともユウヤ… それに、私はユウヤの苦しみに加え より多くの…」
ユウヤが怒って言う
「分かる筈が無いっ!自分でやった事も無いくせにっ!いくら俺や俺と同じ事をした過去のリーダーたちを見ていたとしたってっ!」
ユウヤが思う
(この苦しみが分かる筈が無いっ 自分の手で例え害獣と言われようとも その多くのヴァンパイアたちの命を奪い多くの少年たちを可愛そうなヴァンパイアにしてしまったっ!そして 助けると約束したのにっ それが出来ないだなんて…っ!)
ユウヤがヴィンへ向いて言う
「ヴァンパイアのヴィンに 人間の俺の苦しみなんか分かるはずがないっ!」
ヴィンが言う
「分かるとも 私も同じ… 知っているのだよ ユウヤ」
ユウヤが言う
「知識と実体験は違うんですっ!俺だって自分で体験しなければっ!」
ヴィンが言う
「私も実際に この手で行った事だ …私が人間であった頃に」
ユウヤが驚いて思う
(ヴィンが…?)
ユウヤが言う
「人間だった頃に…?」
ヴィンが言う
「ああ、そもそも この計画そのものが私が人間であった頃に作り実行した計画であり永遠に繰り返される その再現だ」
ユウヤが言う
「ヴィンも行った… ヴァンパイアを殲滅させるこの計画は人間であった頃のヴィンが考えた計画だったと言う事ですか…?」
ヴィンが言う
「ああ… 私が人間であった頃 今から800年以上昔に初めて人間はヴァンパイアを殲滅させる事に成功した 方法はもちろん今回もユウヤとゲートキーパーズの彼らが行ったのと同じ方法で …最も私の時には私自身が全ての機械を操作したのだが …そうして私が計画し操作した事でヴァンパイアは殲滅した …耐え切れない恐怖だったとも 例えそれが人間とヴァンパイア 双方が生き残る為の方法であったのだとしても それは私が編み出し行なった所業なのだから」
ユウヤが言う
「では… 今から800年前にもヴァンパイアを殲滅させて… それから1世紀ごとに同じ事を繰り返して?…それでもヴァンパイアは再び現れるのですよね?現代のリョウタ君たちの様に ヴァンパイアの血を与えられなかった人間がヴァンパイアになってしまう それは… そもそも 何故 人間はヴァンパイアになってしまうのですか?ヴァンパイアの血が予防接種だと言うのなら その元となるものを無くしてしまえば良いのではっ!?」
ユウヤが思う
(そうだ それさえ解決出来ればっ)
ヴィンが言う
「それが出来れば何よりなのだが… 残念ながら現状の予防を行い人間のままで留めさせると言う方法が我々の科学の限界だ」
ユウヤが言う
「そう なんですか…」
ユウヤが思う
(そうだ 分かっていた事だ ヴィンが研究していても出来ない事なんだから…)
ユウヤが言う
「…それなら やっぱり今からでも すぐに予防を再開させないとリョウタ君たちが間に合わないのだとしたら その前の… ヴァンパイアになる以前の少年少女たちに…っ」
ユウヤが思う
(そうするしかないよな?可能な限りを助けて それで手が回らなかった人たちは…)
ユウヤが言う
「…しかし、この方法では手が回らなくなる人の方が多くなってしまうのでしょうか?具体的に 今 生き残っている100歳以上のヴァンパイアの数は?」
ヴィンが言う
「その数は 厳密に言えば我々ゲートキーパーズと志を同じくしている トランペスターキングの仲間も含まれるのだが」
ユウヤが表情を明るめて言う
「彼らも無事なんですね!?」
ヴィンが言う
「ああ そして その彼らを合わせ条件に見合うヴァンパイアの数は街の数と同じく10名」
ユウヤが驚いて言う
「じゅ… 10名っ!?たった それだけ…っ?」
ヴィンが言う
「そう 従って 少年少女と呼称されるほどに成長した彼らへの対処を行っていては とても間に合いはしない そうと有れば今から そちらを行えるのは」
ユウヤが目を見開いて言う
「子供… もしや それが貴族の居た城から招待状を受けていた2歳になった子供たち…?」
ヴィンが言う
「その通り 自らの獲物以外の人間を自らの血を使ってまで救う事を了承するヴァンパイアは 我々の他に居ない そして、人間の子供の2歳と言う年齢は その少ない有志である我々ヴァンパイアと人間の条件が整うギリギリのラインなのだよ」
ユウヤが言う
「ギリギリの?それ以前でも以降でも駄目だと言う事ですか?」
ヴィンが頷いて言う
「生後2歳の人間は生物学的に人間の第一成長期を完了している頃であり彼らが元から有するヴァンパイア細胞も その頃であれば他のヴァンパイアの細胞を認識出来る様にまで進化している 更に体の小さな彼らが必要とする ヴァンパイアの血液は500ミリリットルに満たない」
ユウヤが気付いて思う
(2歳と言えば 確かに離乳も終えているし そう言えば急に… 何と言うか人間らしくなったと言うか 自我が目覚めたかのような… そんな感じだったな?セイヤも… それで その頃であれば元から有するヴァンパイア細胞も …うん?)
ユウヤがハッとして言う
「あの ちょっと待って下さい ヴィンっ?今 ”元から有する”とっ!?ヴァンパイア細胞は ヴァンパイアが持っている細胞じゃないんですか!?それが 何故 人間の赤ん坊に!?その… 元からっていうのは…っ!?」
ヴィンが言う
「そう、それは 生まれたばかりの赤ん坊も然り ヴァンパイア細胞は この土地に生きる人間が皆 元々有している細胞であるのだよ ユウヤ」
ユウヤが驚いて言う
「そんなっ!?元々有しているっ!?では ヴァンパイアになるのは外的要因ではなかったと言う事ですかっ!?予防を行うと言うのは元から有している その細胞を…っ!?」
ヴィンが言う
「正しく その細胞を休止させる物だと思ってくれて構わない休止させるのであるから再び 活性化させる事も可能だ… 私の様に」
ユウヤが呆気に取られたまま視線を落として言う
「それじゃ… つまり 既にヴァンパイアになっているリョウタ君たちはもちろん… そのすぐ下の まだヴァンパイアになっていない彼らも そうなると言う事が確定されている と言う事ですかっ?15歳の少年少女たち所か そこからずっと下の!?3歳や… 間に合わなければ今2歳になっている子供たちまで…?そんな… そんな大勢の子供たちがヴァンパイアにっ!?」
ユウヤがヴィンを見る ヴィンが言う
「その彼らは 己の持つヴァンパイア細胞の活性化に伴い 人間としての完成体 第二成長期を持ってヴァンパイアへと進化する」
ユウヤが呆気に取られて言う
「彼らが… 全員…」
ユウヤが気付き衝撃を受けて言う
「ならっ!?セイヤもっ!?俺の息子もっ!?」
ディークが視線を逸らす ユウヤがヴィンに掴みかかって言う
「俺の息子は 今っ 14歳なんですっ!なら 2年後にはっ!?セイヤもっ!?…セイヤもっ ヴァンパイアに…っ!?」
ユウヤが脱力する ヴィンが抱き止めて言う
「ユウヤ」
ユウヤが俯いたまま言う
「俺のせいで… これが俺への罰ですかっ!?」
ユウヤがヴィンを見上げて叫ぶ
「俺がヴァンパイアを殺したからっ!?」
ヴィンが言う
「ユウヤ 聞いて欲しい」
ユウヤが乱心して言う
「何をですかっ!?もう何も聞きたくないっ!何を聞いたって やっぱり過去は変えられないっ 未来だってっ!!」
ヴィンが言う
「その通り過去は変えられない 私やユウヤが行った事は何も変わらない …しかし、例え何があろうとユウヤは私の獲物であり私は… 天才科学者ヴィーンリッヒは ユウヤのヴァンパイアだ」
ユウヤがヴィンを見上げて言う
「だから何ですかっ!?だったらっ!?」
ヴィンが言う
「これを」
ヴィンがユウヤを立たせ ケースを手渡す ユウヤが自身の手にあるケースを見て言う
「これ… は…?」
ユウヤがケースから中身を手に出して見る ディークがそれを見て衝撃を受け顔を逸らす ヴィンが言う
「そう そちらこそが正真正銘 ヴァンパイアの血液にて造られた血漿タブレット」
ユウヤが気付いて言う
「ヴァンパイアの血…!?それじゃ もしかして これでっ!?」
ヴィンが微笑して言う
「そちらを全てユウヤの息子セイヤ殿へ… 一度に全てを飲ませれば14歳の少年の血液量の半分 約2リットルのヴァンパイアの血液と同じ効力が得られ これにより現在14歳のセイヤ殿であっても彼が元より有するヴァンパイア細胞を休止させる事が可能だ」
ユウヤが目を見開いてヴィンを見る ヴィンが苦笑して言う
「私に出来る事は この程度の事… すまない… 私はユウヤの願いを全て叶える事が出来ない それが例え実現可能な事であろうとも …それを行う事は許されない事であるから」
ヴィンが表情を落とし視線を逸らす ユウヤが思う
(可能でも許されない… それは…?…いや、それよりも 今 俺は…っ!)
ユウヤが苦笑して言う
「…有難う 御座い… いや… ありがとう ヴィン」
ヴィンがハッとユウヤを見る ユウヤが 微笑して言う
「俺、ヴィンの獲物で …良かった」
ヴィンが驚き 涙を堪えて言う
「…っ …ユウヤッ」
ユウヤが言う
「泣かないで下さい ヴィン… 貴方の血液だって これからは… 大切ですよ?」
ヴィンが苦笑して言う
「ああ… ユウヤの言う通りだ…」
ユウヤが苦笑してから 手に持っているケースを握り締める

ユウヤの家

内側のドアにノックの音が響く 料理をしていたリマが気付き 返事をしながら向かう
「はーい どちら様?」
ドアの向こうからユウヤの声が聞こえる
「リマ 俺だよ」
リマがハッとしてから ドアを開け 微笑して言う
「良かった お帰りなさい 貴方 …っ?」
リマがユウヤの後ろに居る人物に気付いて疑問する ユウヤが言う
「ただいま リマ 彼はヴィン こっちは ディーク …2人の事は以前話したよな?」
リマが驚き後退る ヴィンが言う
「挨拶は初めましてと言うのが妥当だろうか?」
ディークが疑問して言う
「ユウヤ?彼女は…?」
ユウヤがディークへ向いて言う
「あ、そっか?彼女は俺の妻で名前はリマって言うんだ」
ディークが驚いて言う
「妻!?…そうか そうだな?子供が居ると言う事は ユウヤは結婚をしていたと言う事か おめでとうユウヤ …と言うには少し遅過ぎるか?」
ユウヤが苦笑して言う
「そうだね?けど有難うディーク」
ディークが苦笑する リマがディークの牙を見て言う
「…ヴァンパイアッ」
ディークがリマを見てから表情を困らせて言う
「やはり私は来ない方が良かっただろうか?」
リマが驚く ディークが言う
「いくら話しの上で聞かせてあるとは言え恐ろしいものである筈だ人間にとってのヴァンパイアは… そうであるのなら せめてヴィンが1人であった方が?」
ユウヤが言う
「大丈夫だよディーク …だよな?リマ?」
リマがユウヤを見る ユウヤが言う
「彼らの事は俺が保障する 彼らはヴァンパイアでも俺の仲間だ 絶対に俺の大切な人を傷付ける事はしない」
リマが言う
「うん… そうだって聞いたよね?…分かった ユウヤがそう言うのなら」
ユウヤが微笑してから言う
「有難うリマ …それじゃ2人共入って」
リマが言う
「あ… ごめんなさい 私 今 お料理をしている所だから…」
リマが立ち去ろうとする ユウヤが言う
「ああ、大丈夫 気にしないで… あ、でも その前にセイヤは部屋に居るかな?」
リマが驚いて立ち止まり ゆっくりとユウヤを振り返る ユウヤがヴィンへ言う
「ちょっと呼んで来るから2人は ここで…」
リマが慌てて言う
「セイヤに何か用なのっ!?」
ユウヤが言う
「うん この時間なら もう帰ってるよな?」
リマが慌てて言い掛ける
「えっと…っ あの…っ そ、そうっ!今日は その…っ!」
ヴィンが言う
「ああ、彼は今 自室に居る様だ 目には見えずとも私には分かる」
ヴィンが部屋の方へ向く リマが息を飲む ユウヤが言う
「なら俺が呼んで来るから 2人はここで待ってて」
ユウヤが向かう リマが困った様子で言う
「あっ…」
リマがユウヤの背を追えずに立ち尽くす ディークが懐かしそうに室内を見渡していて気付き 咳払いをしてから言う
「う、うんっ… そ… その… リ、リマ …婦人?」
リマが驚いてディークを見る ディークが困った様子で言う
「…失礼だが …調理場で 何かが焦げている様子だが?」
リマがハッとして言う
「…え?…あっ!」
リマが慌てて走って行く ディークが呆気に取られた後苦笑して言う
「…言わぬ方が良かっただろうか?」
ヴィンが軽く笑って言う
「フフ… いや?良かったのではないかな?日々の調理をこなす ご婦人の失態だ 私は あえて口にしなかったが…」
ディークが苦笑して言う
「う… うーむ… その… 実は以前 同じ様な事があってな?言い辛く黙っていた所 後々に 激しく怒られた… それで つい…」
ヴィンが軽く笑う

キッチンではリマが慌てて鍋の蓋を開け 少し焦げた魚を裏返してホッとする

ヴィンがキッチンとダイニングの間にあるガラスに 反射している像を見て その様子に目を細めてから言う
「どうやら良い意味で 多少は気が紛れた様子だ」
ディークが疑問する 部屋の奥の扉が開いて ユウヤがやって来る 続いて現れたセイヤが不満そうに言う
「用って何だよ?こっちは明日提出の課題があって 忙しいってぇのに… …ん?」
ユウヤが振り返って言う
「そんな事より よっぽど大切な事だ …それじゃ 2人共 紹介するよ俺の息子セイヤだ」
セイヤがヴィンとディークを見て疑問して言う
「…誰?」
ヴィンが微笑して言う
「こちらも初めましてと言うべきか私の名はヴィーンリッヒ ご覧の通りヴァンパイアだ」
ヴィンが微笑する 口元に牙が見える セイヤが呆気に取られてからユウヤを見る ユウヤが微笑する セイヤがヴィンへ視線を戻す ヴィンが言う
「こうして互いを認識した上で会う事は初めてだが 私は君が生まれたその日から何時もその君を見守っていた」
セイヤが呆気に取られて言う
「え?何時も?俺を見守って…?」
ヴィンが言う
「君がユウヤの近くに居る時は ユウヤと共に私の五感の全てを用いて… そして その他の時は…」
ヴィンが言いながらチラッと横目にセイヤの近くの壁へ目を向ける そこに居た機械で出来た小さな蜘蛛を指に乗せて言う
「こちらにて…」
ヴィンが機械の蜘蛛を見せる 蜘蛛に付いている小さな赤いレンズが光る ユウヤが呆気に取られる セイヤが気付いて言う
「あ…っ!この蜘蛛!俺の部屋の天井に巣作ってて!…それに服に付いていた時もあったんだよな?赤い目でやたら体がキラキラしてる変な蜘蛛だって…」
ユウヤが驚いて言う
「えっ?それじゃ… ヴィン?もしかして見守っていたとは この蜘蛛で見る物をヴィンも見る事が出来ると言う事ですか?」
ヴィンが言う
「いや 残念ながら この大きさでは そこまでの事は出来はしない しかし、この機械にはサーモセンサーとそれに伴う演算機能を… 即ち熱量を感知させ彼の近くにヴァンパイアが近づく事の無い様にと見張りをさせていた 我々ヴァンパイアの体温は人間よりも低く人間のそちらとの相違を感知させる事が可能で在る事から その反応が見られた時には私が直接 彼の下へ駆け付けていたと言う風に」
ユウヤが苦笑して言う
「なるほど そうだったんですか… 知らなかった」
ヴィンが微笑して言う
「それと、例え同性であろうとも私は各自のプライバシーは尊重する ユウヤの時もプライベートな時間は この蜘蛛を用いての警護へと移行していた為 安心してくれて構わない …最も その私自身も休息が必要だったとも言えるのだが」
ユウヤが言う
「それは有難う御座います …ちなみに俺のそれは何時から?さっきセイヤの方は生まれたその日からって言ってましたけど… それじゃ俺の事は…?」
セイヤが呆気に取られて言う
「…って その前に凄くねぇ?こんなちっこい機械でさ?そんな事が出来て それを… 配線も無しにどうやって?」
ヴィンが言う
「ユウヤの事は もちろん もっと以前から」
ユウヤが言う
「もっと以前から…?」
ユウヤが思う
(…と、言う事は もしかして ずっと…?)
ヴィンが言う
「ああ、そして、そちらの蜘蛛型の機械に関しては ユウヤに子供が生まれると分かった時に 作り上げたもので 配線は用いず無線通信を使用している 超微電流制御装置の影響がなくなれば もっと様々な事を… それこそ映像や音声の情報さえ いくらでも配信させる事が可能なのだが 現状では熱量の情報程度の軽量な数値情報が限界と言った所だ」
セイヤが呆気に取られつつ考えて言う
「超微電流?それって確か大昔には存在したとかって…?」
ヴィンが微笑して言う
「おや?その反応は もしや?少しでも君の興味を誘っただろうか?」
セイヤがハッとして慌てて言う
「えっ!?い、いや 別にっ …た、ただっ!?なんか… 凄ぇなって…?」
ヴィンが微笑して言う
「フフ… そちらの言葉は科学者にとっては十分な賞賛に値する ”凄い”とは その者が得ている常識を覆す新たな発見であったと相手を評価する言葉 …必要に応じて作り上げたものではあったが多大なる評価を頂き光栄だよ セイヤ殿」
セイヤが呆気に取られて言う
「は、はぁ…?コウエイ…?」
セイヤが疑問する リマがやって来てハッとして心配げに見詰める ユウヤが苦笑して思う
(ヴィンの事だから このまま放って置いたら永遠と話が続いてしまうかもしれない …とは言っても それほど急ぐ必要があるのかは分からないけど やっぱり早くこれを飲ませて… 俺自身が安心したい… …って あれ?そう言えば 俺?)
ユウヤが言う
「それはそうと 俺、ディークは紹介したっけ?」
セイヤが言う
「ディーク?そっちのデカイ人?」
ディークが軽く笑う ユウヤが言う
「ああ、彼がディーク ディークはずっと昔… まだ セイヤが生まれる前 俺が6歳位の子供の頃までは この家に一緒に居たんだよ」
セイヤが呆気に取られて言う
「え?そうなの?」
ディークが言う
「ああ、家は変わらないが何より そこに住まうメンバーは一新した 変わらないのはユウヤが居ると言う事くらいだが あの幼かったユウヤが今では もう彼のお父さんか…」
ユウヤが苦笑する セイヤが疑問して言う
「そんな昔から居たって… 何で?」
ディークが言う
「私はユウヤの父親タカヤと行動を共にするヴァンパイアであった それ故にだ」
セイヤが言う
「アンタもヴァンパイア… で、行動を共にするって?何で?仲間だからって それだけで普通一緒に住む?」
ディークが言う
「昔は それが普通だった私とタカヤは他人であるが 元々ヴァンパイアは その家の家族… 家系に1人ほど居り そのヴァンパイアが その家系を守っていた 自身と血を分けた人間たちを」
ユウヤが言う
「血を分けた と言うと血を与えたと言う事ですか?」
セイヤが言う
「血を与えた?」
ユウヤがヴィンを見る ヴィンが言う
「ディークが言っているのは両方の意味を持つ 1つはユウヤが言った通りヴァンパイアの血を与える と言う事 そして、もう1つは正真正銘 同じ血を持って生まれた血族であると言う事」
ユウヤが気付いて言う
「血族…?それじゃ本物の家族に1人だけヴァンパイアを…?それで他の家族を助けて一緒に住んでいた… なるほど それなら本当の家族… 血族であるのなら」
ヴィンが言う
「ああ 遥か昔 今から900年近く過去には そちらの風習を再現していたのだが… 残念ながら全てが潰えてしまった それはヴァンパイアたちの限界でもある 如何に大切な家族、血族であろうともヴァンパイアとなったその1人は数百年の孤独と慢性に耐え切れず己の家族を裏切ると言う形で流れを絶ってしまう そして、その家族や それを見た人間たちが… と、その様にして」
ユウヤが言う
「なるほど… 数百年となると流石に 想像も付かないですが …俺も耐え切れないだろうな」
ディークが言う
「そんな時は やはり同じヴァンパイアの仲間が …強い意志を持った仲間が居てくれると助かる ヴィンの様に強い目標を持ち それを求め続けるヴァンパイアがな?」
ユウヤが微笑してヴィンを見る ヴィンが苦笑して言う
「ディーク… 酷いな君は それは言い換えるのなら私が それほどに長く目標へたどり着く事が出来ていない不甲斐無いヴァンパイアであると言っているも同然だろう?」
ディークが気付いて困って言う
「え…?あぁ?そうか…?まぁ そうかもしれんな?」
ユウヤが苦笑して言う
「そんな事無いですよヴィン ヴィンの目標は とても高くて それだけ難しい事なんですから それを求め続ける強い意思を持っていると言うのは凄い事です… 俺は知っていますから」
ユウヤが思う
(何しろヴィンの目標は そんなヴァンパイアと人間の共存の実現だ 今まで数百年どうやっても潰えてしまったのだろう それを求め続け実現させる為に行っている研究… 更には超微電流の事も… 人間の俺たちでは とても出来ない… ヴァンパイアであっても難しいそれらを目標として持ち続けるヴィンは間違いなく すご…)
ヴィンが嬉しそうに言う
「ありがとう ユウヤ そうだな?そんな私もユウヤのお陰で ついに自分の獲物を得る事が出来たのだから これで私の目標は達成されたっ!」
ユウヤが驚いて言う
「…って えっ!?」
ユウヤが思う
(いや… そっちの目標じゃ…?)
ヴィンが言う
「そうとなれば今後は如何にして生き続ければ良いものだろうか?むしろ私の方が仲間のヴァンパイアたちに助けられるヴァンパイアになってしまうのかもしれないが… しかし流石に800年も求め続けた目標を達成させた この優越感は偉大にして寛大だ これだけで私はもう800年を生きられるような気がするっ!」
ユウヤが衝撃を受ける ディークが微笑して言う
「それは良かった それなら私も そのヴィンのお陰で後800年は大丈夫だと言う事か」
ヴィンが言う
「ああ そうだともっ ディーク!」
ユウヤが困惑しながら思う
(えっと… 良いのか?こんなんで?…まぁ俺がヴィンの獲物になった事を それだけ喜んでもらえているって事は分かったから …良いか?もう800年大丈夫だと言うんだし…?)
ユウヤが苦笑した後 手に持っているケースに気付いて思う
(…と、それよりも今は)
ユウヤが気を取り直して言う
「それでは ヴィン?」
ヴィンがユウヤを見る ユウヤが言う
「これを ただ、飲ませれば良いんですよね?確か一度に全部と?」
ヴィンが言う
「ああ、その通り しかし一度にとは言おうともディークのあれを再現するのではなく やはり 水を用いた方が健全だろう そして処方は そちらを水へ落とすのではなくタブレットを口へ含み水と共に一度に飲み干す」
ユウヤが言う
「はい …と言う事だから聞いていたか?セイヤ?」
セイヤが疑問して言う
「え?あ、うん?聞いてたけど?何?何の話?薬って?」
ユウヤが言う
「良し それなら これを…」
ユウヤがケースを渡す セイヤが受け取り疑問して言う
「何これ… これが薬?」
セイヤがケースから薬を取り出して疑問する ユウヤが言う
「ああ、それを一粒じゃなくて全部を一度に飲むんだ」
セイヤが言う
「ん?うん… まぁ 親父が飲めって言うなら…?けどさ?その前に これ一体 何の薬だよ?なんか… 黒いし?…怪しくねぇ?」
セイヤがケースの中身を全て手の平へ出す リマが驚いてユウヤを見る ユウヤが言う
「リマ 悪いけど 水を持って来てやって?後、大丈夫だと思うけど一応ヴィンに見ていてもらいたいからセイヤは今ここで飲んでくれ」
セイヤが言う
「は?うん… だから、それは構わないけど それよりさ?見ていてもらいたいとか全部だとかって?そんな事より まずは先に これが何の薬なのかを教えてくれよ?それを教えてもらわないと いくら親父から言われたって… 俺だって聞く権利とかってねぇの?」
リマがユウヤを見る ユウヤが言う
「それは…」
ヴィンが言う
「では君のそちらの問いに答えるのであれば まず最初に厳密に言うのであれば そちらは薬剤とは言わない 正解はヴァンパイアの血液を凝縮した固体と言う事になる」
セイヤが衝撃を受けて言う
「はぁあっ!?な、何だよそれっ!?血液を!?血を凝縮したって!?…だから 黒いのかっ!?しかもヴァンパイアのってっ!?まさかこれ飲んだら俺もヴァンパイアになっちまうんじゃっ!?」
リマが驚いてヴィンを見る ヴィンが言う
「そして今のそちらの言葉から推測して伝えると セイヤ殿も知っての通り現行この土地にはヴァンパイアが現れ始めている それもセイヤ殿と歳の近い16歳の少年少女たちが …となれば当然 言ってしまえばセイヤ殿も彼ら同様 今のまま16歳の年齢を迎えれば間違いなく君はヴァンパイアとなる」
セイヤが驚く リマがユウヤを見て言う
「ユ、ユウヤッ どう言う事!?だってセイヤにはヴァンパイアになってしまうような事は何もしていないのにっ!?」
ユウヤが言う
「ああ、だからヴァンパイアになってしまうんだ… この世界の人間は元々ヴァンパイアになる様に なってるんだって」
リマが言う
「そ、そんなっ!?嘘よ!?だって私たちはっ!?」
ヴィンが言う
「従って そちらの固体は そちらの事象を制するモノ呼称として薬と呼ぶに相応しい ヴァンパイアへと生まれ変わろうという人間を抑制し人間のままで在り続けさせるための 君が生まれながらに持つヴァンパイアとなる細胞を休止させる薬だ」
セイヤが呆気に取られる リマが驚きユウヤを見る ユウヤがリマへ向いて言う
「俺たち大人は子供の頃に与えられていたんだって …貴族からの命令で呼ばれていた あの城で2歳の頃に…」
リマが言う
「2歳の頃…?そんな子供の頃の事なんて私は覚えていないけど… お父さんだって そんな話は一度も…っ」
リマがハッとして言う
「…そうだわっ 私のお母さんは お城に行った時に あのお城に居たラムールラムール男爵に見初められたって… それじゃっ!?その時に!?私を連れて行ったから?そのせいで!?」
リマが言葉を失う ユウヤが言う
「道理で街に出る事も無い城の貴族たちが街に居る女性たちの事を知っていた訳だよな… けど、それでも自分の子供を連れて行なかったら その子供はヴァンパイアになっていた」
リマが手を握り締めて言う
「お母さん…っ」
ヴィンが言う
「彼らのような貴族を利用する方法は やはり もう少々改善をした方が良さそうだ」
ディークが言う
「うむ… 中々上手く行かぬものだな」
セイヤが困りつつ言う
「で…?それって事はさ?やっぱ これは飲んどかないとヤバイって事 …だよな?ヴァンパイアにならない様に…?これを飲めば人間のままで居られるって そう言う事なんだよな?」
リマがキッチンへ向かう セイヤがそれを見る ユウヤが言う
「俺の仲間であるヴァンパイアのヴィンがセイヤの為だけに用意してくれたんだ 本当なら …セイヤは間に合わない所だった」
リマが戻って来て 一度ヴィンを見てから セイヤへ水の入ったコップを向け微笑して言う
「お父さんが言うのなら間違いないわ お父さんは… ヴァンパイアと一緒に戦ったゲートキーパーズのメンバーなんだから!」
セイヤが言う
「ゲートキーパーズは貴族とヴァンパイアから人々を守ったって…?母さんは いつも言ってたけど」
ユウヤが反応してリマへ向いて言う
「え?そうだったのか?てっきりリマはその2つの話は避けてるものかと」
ユウヤが思う
(そう思って俺は話題に出さないように してたんだけどな)
リマが苦笑して言う
「セイヤのお父さんは凄いのよって教えたかったから…」
ユウヤが呆気に取られた後微笑して言う
「…ありがとう リマ」
リマが微笑する ヴィンとディークが微笑している セイヤが言う
「じゃぁ… その… 別に親父を信じるとか そう言うのは… カンケーねぇけどさ?」
ユウヤが苦笑する リマが苦笑して言う
「こら?セイヤ?」
セイヤが言う
「けど、俺だってヴァンパイアにはなりたく無いから …このまま人間のままで居たいから」
ヴィンが微笑して言う
「そちらで結構 人間のユウヤの息子として現行 人間である君が取るべき正しい判断だ」
皆がセイヤに注目する セイヤが薬を前に息を飲む ヴィンが言う
「…ちなみに そちらの凝縮血液の成分は100%私の血液にて製造されている」
セイヤが衝撃を受ける ユウヤとリマが反応し ディークが苦笑する ヴィンが言う
「従って そちらの効力 並びに生産元の保障を…」
セイヤが怒って言う
「保障は分かったけどっ そう言われると尚更そのアンタを前にして飲みたくないんだけどっ!?」
ヴィンが言う
「おや?そうであっただろうか?それは失敬 私はただ間違いなくユウヤの息子であるセイヤ殿が私の血液を口にすると言う事が立証され とても嬉しく思うのだが?フフフ…」
セイヤが言う
「は、はぁ…?何だよそれ?大体 血液血液って何度も言うなよ唯でさえ血を飲むなんて気持ちが悪ぃのに… 増して目の前の… しかもヴァンパイアの… うぇ…っ やばっ 飲む前から吐きそう…」
セイヤが口をおさえる ヴィンが言う
「ならば こちらも伝えて置こう そちらの凝縮元の血液は しっかりと精製がなされている そうと聞けば安心も出来るだろう?…最も精製とは言っても完全な滅菌をしてしまっては効力も失われてしまう従って可能な限りの不純物を取り除いたと言うのが正しいのだが」
ユウヤが苦笑して思う
(それじゃ やっぱり何となくヴィンの血液だって事が感じられる様な気がするんだけど…?)
セイヤが言う
「もう良いからさ アンタ ちょっと しばらく黙っててくんない?それとも科学者って黙ってらんないのかよ?」
ユウヤが呆気に取られる リマがハッとして慌てて言う
「こ、こらっ セイヤ!?」
ヴィンが苦笑して言う
「フフ… いや、すまない 私は唯 諸君の心配を払拭したいと考え伝えているまでなのだが… しかし君の心境は理解した従ってご希望通り 私はしばらく口を閉ざして居よう」
ヴィンが一歩下がる 皆が再びセイヤへ注目する セイヤが気を落ち着けて言う
「ふぅ… …よしっ」
セイヤがユウヤを見てリマを見てから ディークを見て間を置いてヴィンをチラッと見る ヴィンが微笑するセイヤが一瞬表情を困らせ汗を流してから気を取り直し一気に薬を口に入れ水を飲み干して言う
「…ぷはっ!はぁ… はぁ…っ」
ユウヤが微笑み リマがホッとする ディークが息を吐いて言う
「なにかこちらまで妙な力が入ってしまったが」
ユウヤが苦笑して言う
「う、うん本当に」
ユウヤが思う
(けど これでセイヤはヴァンパイアにはならない… 人間のままで居られる …もう大丈夫だ)
ユウヤが言う
「これでセイヤは…」
ヴィンが言う
「これでセイヤは私のセイヤとなった!」
ユウヤが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
セイヤが疑問して言う
「は?…てぇか さっきまでと呼び方が違…?それより 近っ!?」
ヴィンがセイヤの肩を抱いて言う
「もちろん私の血を分けたと言う事は セイヤは私が人間のまま在り続けるよう手を尽くした者であると言う事 従って、そのセイヤへ他のヴァンパイアが牙を立てる事は決して許されない それは即ち この天才科学者ヴィーンリッヒへ牙を向けるも同然だ」
セイヤが呆れて言う
「はぁ…?何か言ってる事 分かんねぇんだけど?」
ヴィンがセイヤへ身を寄せて言う
「そうか?ではより分かりやすく説明をしよう 14年前までは この私を知らないヴァンパイアは居らず 私が血を分けた人間を襲う者もまた居らなかったのだが しかし、今は生まれたばかりの若いヴァンパイアたちは何も知らない赤子も同然… 万が一にも私のセイヤの身へ牙を立てられては敵わない 従って新たなヴァンパイアの世界にも私の名が知られる その日までは 今しばらく こちらによる保護を続けよう」
ヴィンが指先をセイヤへ向ける 機械の蜘蛛がセイヤへ乗り移って 服の上を歩いて行く セイヤが蜘蛛を見送った後 その視線をヴィンへ向け 衝撃を受けて言う
「…だからっ 蜘蛛は良くてもっ アンタは近いからっ!?」
セイヤがヴィンから逃げる様に身を逸らす ヴィンが言う
「おや?ここまでを言っても やはり怯えるとは… ならばついでに伝えておくが」
ヴィンが微笑して言う
「そもそも現在のセイヤがヴァンパイアによる吸血を恐れる必要は まったく無いのだよ?何故なら本来ヴァンパイアが必要とする人間の血液は人間として完成されていなければ意味を成さない それは即ち人の体が十分に成体となっている状態を意味し年齢で言う所の18歳を越えていなければ吸血する価値が無いと言う事 あまつさえ未熟な血液を吸血すると言う事はヴァンパイア同士の吸血と同じく悪影響を受けると言う可能性すらある 従って私やディークが 今のセイヤを襲い吸血すると言う事は最初から有り得ない」
ヴィンがセイヤへ向かい 壁際まで押し迫る セイヤが言う
「吸血はされなくても ある意味 襲われてるからっ!」
ヴィンが疑問する ユウヤが苦笑して思う
(ヴィンのスキンシップは相変わらずみたいだ… 俺にはギリギリ触れなくなったけど あの様子だと近い内にヴィンはセイヤにも嫌がられるだろうな?…俺の時と同じ様に)
セイヤが言う
「で?俺への用って さっきの薬で終わりだろ!?だったら…っ」
セイヤがヴィンの前からサッと逃れる ユウヤが苦笑した後言う
「ああ、用は済んだけど折角だし そろそろ夕食が出来るんじゃないかな?だったらヴィンとディークも一緒にどう?久しぶりにワインでも?」
ディークが感心する ヴィンが微笑して言う
「もちろんユウヤからの招待とあれば喜んで」
ユウヤがディークを見て言う
「ディークも20数年ぶりに俺にワインを注がせてよ?あの頃より ずっと上手く注げる様になったからさ?」
ディークが微笑して言う
「ああ それは楽しみだ」
ユウヤが苦笑する セイヤが言う
「じゃ、俺は とりあえず課題の続きがあるから…」
ユウヤが言う
「そう言わずにセイヤも一緒に?」
セイヤが言う
「晩飯出来たら声掛けて?マジでヤバイんだよ… それに ここに居ると変態科学者が絡んで来るから」
ユウヤが衝撃を受けて言う
「へっ!?」
ユウヤが思う
(変態科学者… それって…?)
ユウヤがギコチなくヴィンを見る ヴィンが微笑して言う
「フフフ… なるほど?過去に私をマッドサイエンティストと呼んだ者は居たが… 今度はまた 随分とバイタリティに飛んだ呼び名を頂いた …ふむ、実に興味深い」
ユウヤが呆れて思う
(気に入ったのか…?まぁショックを受けてベットへ泣き寝入りされなくて良かったけど)
ユウヤが苦笑して言う
「そ、それじゃワインを持って来るから …2人共とりあえず座っててよ?」
ディークが微笑して言う
「また このテーブルに着ける日が来るとは夢の様だ」
ヴィンが言う
「確かに それこそ君はベットの中で そのような夢を見ている事の方が大分に多いだろうからな?」
ディークが軽く笑って言う
「確かに狂戦士型のヴァンパイアは眠っている事の方が多い」
ヴィンが言う
「たまにはその間の墓守をしている私の身にもなってもらいたいものだ」
ディークが苦笑して言う
「そちらはいつも感謝しているとも?」
ヴィンが言う
「ほう?そちらは初耳だが?」
ディークが言う
「直接そうと言ったのは確かに初めてだが… やはり意地悪だな変態科学者殿は?」
その場を離れようとしていたユウヤが衝撃を受ける ヴィンが言う
「その言葉も今に彼から私への信頼の証へと変えて見せよう」
ユウヤが苦笑して思う
(なるほど… 怒らないんじゃ無くて2人にとっては”いつもの事”なんだな?)
ユウヤが微笑してからリマの居るキッチンへ向かう


続く
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