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外伝4話

アールスローン戦記外伝 アールスローン真書 暗中飛躍

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【 政府本部 】

秘書が言う
「メイリス長官」
シェイムが顔を向けると 秘書が言う
「たった今 情報局より連絡がありました 国防軍のアース・メイヴン・ハブロス総司令官が 以前 政府の研究局にて常務していた研究員たちを 従えたとの事です」
シェイムが驚いて言う
「何っ!?それは 研究局に常務していた研究員を 全て と言う事かっ?」
秘書が言う
「はい、一部 局の運営を管理していた者を除き 直接研究に携わっていた研究員は 全員であると」
シェイムが言う
「まさか その中に…」
秘書が言う
「ルイル・エリーム・ライデリア元副局長が 含まれて居ます」
シェイムが怒って言う
「どう言う事だっ!?」

【 ハブロス研究所 】

ルイルが周囲を見渡してから微笑して言う
「流石は 大富豪ハブロス家の力 どれも最新の設備を用意して頂けまして 研究者としてこの上ない歓迎です」
アースが言う
「言った筈だが 研究内容はお前が行った過去の清算 ナノマシーンにより破壊された組織を再生させる その為のナノマシーンの研究だ」
ルイルが言う
「はい 以前までは不可能だと思われていた 組織の再生を行う再生型のナノマシーン …そのような物が 偽の女帝陛下の体に携えられているとは …もっと早くに お知らせを頂いていれば ヴォール・アーケスト・ハブロス様は これほど長い間を苦しまずに済んだでしょうに …やはり 政府の反逆の兵士は 国防軍の敵ですね?ハブロス総司令官?」
アースが言う
「一応 言って置くが この研究所は 国防軍の管轄ではなく 私が個人で行っている事だ 従って 余計な事は 言ってくれなくて結構」
ルイルが言う
「分かりました では 呼称も ハブロス総司令官ではなく ハブロス様とお呼びした方が 宜しいのでしょうか?」
アースが言う
「好きにしろ とにかくお前はそのナノマシーンを研究さえしていれば良い 他には何もするな政府も国防軍も関係ない」
ルイルが微笑して言う
「はい 私としましても それで大満足です …しかし」
アースがルイルを見る ルイルがアースを見て言う
「ヴォール・アーケスト・ハブロス様を苦しみから 少しでも早く開放するのでしたら 私が保存しているナノマシーンを改良するよりも その偽の女帝陛下の体にあるとされている 高等なナノマシーンの”実物”がある方が 改良をするにしても 新たに作り上げるにしても より早く確実に 研究を進められると思うのですが?」
アースが考えて言う
「…それは そうだろうな」
ルイルが言う
「本物ではない 偽物の女帝陛下であるのなら 好都合ではありませんか?ハブロス様 主権は政府から国防軍へ変わりました そうとなれば 皇居の管理を行うのも国防軍 それなら国防軍総司令官である 貴方の一存で 政府が作り上げた 偽物の女帝陛下をどうしようと 自由です!」
アースが言う
「例え政府に作られた 偽の女帝陛下であろうとも アールスローンの為に身を賭した者であると言う事は事実だ カルメス外交長ではなくとも それ位は私にも分かる」
ルイルが言う
「もちろん それは私にも分かります ですから 何も彼女の身にあるナノマシーンを 全て奪ってしまおう などと言うつもりはありません サンプルとして 少々 ご提供を頂きたいと」
アースが言う
「…そうだな それ位なら」
ルイルが笑んで言う
「そんな時は やはり 主権を持った国防軍総司令官様の 出番ですよね?ハブロス総司令官?」
アースが表情を顰めて言う
「あまり調子に乗るなよ?お前の事を許した訳ではないぞ?」
ルイルが微笑して言う
「はい 分かっています その清算の為に 私はここへ 呼ばれたのでしょう?ハブロス様」
アースが言う
「分かっているのなら結構だが 私は口の上手い者は好まない ここは政府の研究局ではないと言う事を 肝に銘じておけ」
アースが立ち去る ルイルが笑んで言う
「ええ 国防軍は体を使った訓練ばかりで 頭の方は回りそうにありませんからね?…ふふふっ」

【 皇居 御所 】

アースがやって来て周囲を見る 静かな空間にモニターが数個あり 音を消した状態で映像が流されている アースが部屋の奥を見ると 豪奢な椅子に女帝が座っている アースがそれを見て目を細めると 足を踏み入れる 皇居役人が控える中 アースが女帝の前へ行き言う
「唐突な訪問をお許し下さい 陛下 私は…」
アースが言葉を止め女帝の様子を見る 女帝は無反応でいる アースが疑問すると役人が言う
「陛下は アールスローンの言葉を お忘れです どうか ご了承を」
アースが言う
「言葉を忘れた …とは?それでは 意志の疎通も 出来ないと言う事か?」
役人が言う
「その為に… 陛下のお言葉を代弁される 皇居宗主様がおられましたが…」
アースが一瞬驚いて言う
「カルメス元皇居宗主であれば 会話が可能であると?」
役人が微笑して言う
「皇居宗主様は 日々陛下のお言葉を伺いに こちらを尋ねておいででした…」
アースが視線を逸らして言う
「皇居の管理が国防軍へ移された以上 そちらはもう叶わないと言う事か」
アースが女帝を見る 女帝が静かに涙を流す アースが驚く 役員が言う
「陛下が憂うのは 日々の事ですが 私どもでは 手立てが御座いません」
アースが言う
「カルメス元皇居宗主へ 理由を聞いた事は?」
役人が言う
「皇居宗主様が仰るには 陛下は 全てを 悟ってしまったが故であると」
アースが言う
「その 全て というのは?」
役人が言う
「私どもには知り得ません ただ その苦しみから救う為に 帝国は陛下へ力を与えたと」
アースが目を細めて言う
「…それが 回復型のナノマシーンか」
アースが女帝を見る 女帝の涙が止まっている

【 ハブロス研究所 】

アースがやって来ると至る所で研究処理が行われている アースがそれを見ながら進み入ると ルイルが顔を向けて言う
「ハブロス様」
アースがルイルを見て言う
「これは何の処理だ?」
ルイルが言う
「はい これは今 ナノマシーンの基礎データを 調べ上げている所なのですが… 残念ながら 如何に最新機器でデータの抽出が出来ようとも そのデータを改造すると言うのは 難しそうです」
アースが言う
「それでは 結局…」
ルイルが言う
「しかし ご安心を!」
アースが疑問する ルイルが操作をしながら言う
「データの改造は難しくとも データのコピーは可能だと言う事が分かりました これなら 元となるデータを 他のナノマシーンへコピーをして 増幅させる事が出来ます」
アースが言う
「それで?」
ルイルが微笑して言う
「それはもちろん 偽の女帝陛下の持つナノマシーンのデータを 増幅させる事が出来ると言う事ですから そうすれば そのナノマシーンを使ってヴォール・アーケスト・ハブロス様のお体を治す事が出来ると言う訳です」
アースが言う
「なるほど」
ルイルが言う
「それで ハブロス様っ 基礎となる その偽の女帝陛下の ナノマシーンの方は?」
アースが言う
「ああ 陛下へお会いして来たのだが 陛下はアールスローンの言葉を忘れてしまっていると… 話をするには カルメス外交長に力を借りるしかないらしい …だが、奴は 偽の女帝陛下であろうとも 彼女たちへ手を掛ける事は許さないと言っていた 従って 我々へ手を貸してくれるとは思えない …これをどうしたら良いかが 問題となってしまった」
アースが考える ルイルが呆気に取られてから笑んで言う
「何を仰います!ハブロス様!」
アースがルイルを見る ルイルが言う
「陛下が言葉を忘れていると言うのなら それは好都合!カルメス外交長へ力を借りる必要など 端からありません!勝手に奪ってしまえば良いでしょう?」
アースが驚き慌てて言う
「なっ!?何を言うっ!?」
ルイルが微笑して言う
「何を驚かれるんです?ハブロス様?相手は偽の陛下です ほんの少し ナノマシーンを分けて頂く位 良いでしょう?言葉を話せないのであれば その事実を誰かに言われてしまう心配もありません 政府のカルメス外交長は 主権が無い以上 御所へ上がる事も 皇居へ入る事も出来ません …これは 最高にツイてます!」
アースが視線を逸らして言う
「それは 確かに そうかもしれないが…」
ルイルが言う
「ハブロス様 貴方は主権を持った国防軍総司令官ではありませんか?それも あのハブロス家のお方!貴方に恐れるものは何もありませんっ いや、むしろ 貴方こそ このアールスローン国の王とも言えるっ 貴方様のご命令が全てですっ!」
アースが言う
「私は その様な大それた考えなど 持ち合わせてはいない …お前はそのような事を言って あの ユラ・ロイム・攻長を担ぎ上げたと言う事だな?」
ルイルが苦笑して言う
「ふふふっ 実はそうです しかし、あの 兄上とハブロス様では 比べ物になりません 彼とは違い 貴方は本当に その力を持ち合わせているのですから!…なのに 何故 戸惑う必要があるのです?私には そちらの方が理解出来ません」
アースが言う
「それは 私が国防軍の総司令官であって アールスローンを守る為の存在だからだ 例え 本物の陛下が行方不明であられようとも 陛下がお戻りになる この国を守る事と 定められている」
ルイルが呆気に取られて言う
「定め… ですか?へぇ… 意外ですね 国防軍にも その様なものがあるとは てっきり アールスローン信書における 親兵攻長くらいにしか無いものだと思っていました」
アースが言う
「アールスローンへ身を賭す事を誓う アールスローンの刻印の話か」
ルイルが言う
「あははっ 良くご存知ですね?国防軍の方なのに」
アースが言う
「国防軍の長として 政府の事を調べるのは当然だ」
ルイルが言う
「しかし、政府は長がコロコロと替わるものです 攻長の座に着く者が アールスローンの刻印を身に受ける事など もう とっくの昔から やっていないですよ?」
アースが息を吐いて言う
「それは そうかもな?酷い時には 1年にも満たないうちに入れ替わる程だ その度にアールスローン国の法に触れる者が現れる方が 政府警察も頭を抱えるだろう」
ルイルが軽く笑う アースが言う
「所で …そのサンプルと言うのは どの程度あれば良いんだ?」
ルイルが微笑して言う
「国防軍の長として 国を守る事を定められているのでは なかったのですか?」
アースが顔を背けて言う
「政府が刻印を止める位だ 国防軍が政府の作った偽の陛下から 少量のサンプルを頂く位は 大目に見て頂いても良いだろう」
ルイルが微笑して言う
「そうですね 国を守れとは定められていても 偽の陛下を守れとは定められていませんからね?」

【 政府本部 】

ラミリツが歩きながら言う
「長官の兄上はいつも忙しそうだけど 攻長はやる事ないし 皇居での催しがあるまで待機って 何だよそれっ?」
ラミリツが長官室の前に立って言う
「今日こそ言ってやるっ!やっぱり僕は 警機の隊長が良いって!」
ラミリツがドアノブに手を掛ける 室内から秘書の声が聞こえる
「メイリス長官 国防軍の管轄に 研究を手掛ける部署は 作られてはいないようです」
ラミリツが疑問する シェイムの声が聞こえる
「極秘裏に進めているのか?このメンバーを招集しておいて ナノマシーン以外の研究をしているとは思えない 国防軍が力を欲している証拠だ」
ラミリツが一瞬呆気に取られると 緊張してドアを開ける メルフェスが思い付いてシェイムへ言う
「いえ、シェイム殿 もしかしたら 国防軍の戦力を高めるのではなく 別の理由かもしれません だとしたら」
シェイムがメルフェスへ向いて言う
「別の理由?」
ラミリツがメルフェスを見る メルフェスが言う
「ハブロス総司令官は 国防軍の為ではなく ご自分の父上様の病気を治す為に ナノマシーンを研究させているのかもしれません」
シェイムが言う
「陛下の身に与えられたと言う あの特別なナノマシーンを… ですか?」
メルフェスが言う
「ええ…」
ラミリツが言う
「陛下の身に与えられたって 何…?」
シェイムがラミリツを見る ラミリツが言う
「陛下って アールスローンの女帝陛下は 行方不明なんでしょ?それなのに ナノマシーンって?」
シェイムが一度メルフェスを見る メルフェスが微笑して頷く シェイムがラミリツへ向く

【 国防軍総司令本部 】

アースが言う
「皇居御所の管理状態を調べてくれ」
秘書が言う
「管理状態…ですか?」
アースが言う
「御所の役人は 国防軍にも政府にも属さない管轄だが その管理を行うのは主権を持つ国防軍だ 今後の為にも 警備状態を確認しておきたい」
秘書が言う
「あ、はい、畏まりました 直ちに」
秘書が立ち去る アースが考える エルムの人形がアースを見る

【 政府本部 】

ラミリツが言う
「そうなんだ… 知らなかった 陛下の御簾の中には 誰も居ないんだと思ってた」
メルフェスが言う
「彼女たちの願いは 皆同じく アールスローンの地と人々を 目にしたいと言う事でしたので 可能な限りそれを実現させようと あのような形を取って参りました」
シェイムが言う
「確かに 1世代の内に数回入れ替わる 彼女たちを外へ向かわせるには 御簾を使って人々の目から隠す方法しかありませんね」
メルフェスが言う
「ええ… しかし 彼女たちの身体は とても弱まってしまっているので 当日になって陛下の居られない空の御簾を 用意すると言う事が多いのは確かです」
ラミリツが言う
「そんなに酷いの?陛下の代わりをしたって事は 歳だって若いでしょ?」
メルフェスが言う
「はい… ですから 余計に症状は悪化します 年齢は低いほど 感受性は強く 精神も弱いですから」
シェイムが言う
「偽のペジテの姫を演じた 彼女たちに与えられたナノマシーンというのは 彼女たちの壊された精神を補う作用を行う と言う事なのですか?」
メルフェスが言う
「彼女たちの持つナノマシーンが どの様なものであるのかは 正確な事 私にも分かりません ただ、彼女たちと会話をしていると その効力が現れるのが分かります それらを考慮すると 恐らく 彼女たちの精神を狂わせる その事に関する記憶を 押し止めているのではないかと…」
シェイムが考える ラミリツが言う
「それって その… つまり 嫌な思い出を 忘れさせる ナノマシーンって事?」
シェイムとメルフェスが呆気に取られる ラミリツが困りつつ言う
「あ… いや… そう言うのって 有ったら 良いよね…?僕だって 忘れたい事一杯有るし?」
メルフェスが言う
「そうなのかもしれません」
シェイムとラミリツがメルフェスを見る メルフェスが言う
「ナノマシーンは確かに有力な物ですが 壊れた組織の代わりを行うと言う事は やはり出来ないと思います 彼らはあくまで 補佐をするだけで… ですから 逆に 彼女たちに与えられたナノマシーンは 人の脳内の伝達を阻害して 記憶を封じているのかもしれません それなら 精神が壊れる前に それを思い出す事自体を 止める事が出来るでしょう」
シェイムが言う
「なるほど… もしや そのせいで アールスローンの言葉など 過去には知っていた事をも 忘れてしまうのでしょうか?」
メルフェスが言う
「そうかもしれませんね 彼女たちは 過去の楽しいと思えた記憶以外を 覚えてはいません それ以外を思い出そうとすると 思考を止められ 思い出せない事に涙を流します しかし 僅かの内に その事も忘れてしまうのか 自分が泣いていたと言う事も 意識に残らなくなります」
シェイムとラミリツが考える シェイムが言う
「では そのナノマシーンを手に入れても 国防軍には価値は無い しかし、彼の父親の 精神疾患を押さえる為の力には なりうるのかもしれませんね?」
ラミリツがシェイムを見る メルフェスが言う
「確かに 政府や国防軍と言う事で考えるのなら 我々が彼らを止める必要は無いでしょう」
ラミリツが言う
「けどっ」
シェイムが言う
「しかし 例え そうであろうとも 万が一 彼らが陛下の身体から そのナノマシーンを奪ったりなどしたら?」
メルフェスが言う
「もちろん それは有ってはならない事です ナノマシーンは人の細胞とは異なり 自身で増殖する事は出来ません 少量であっても奪われれば それだけの能力の低下をもたらします」
シェイムが言う
「彼らがそれを行う可能性は?」
ラミリツがメルフェスを見る メルフェスが言う
「可能性は十分にあると思います ハブロス総司令官は 恐らく私の話を聞き それを研究させる為に 彼らを呼び寄せた …そうとなれば 次に必要なのは 作り上げようとするナノマシーンの サンプルではないかと」
シェイムが言う
「皇居は国防軍の管轄になりました 我々が警備に付く事は出来ない」
メルフェスが言う
「それ所か 彼が総司令官として命じれば 御所付きの役人たちを払う事も出来ます」
シェイムが言う
「陛下が言葉を話せないのであれば その事実を誰かへ伝える事も出来ない このままでは 彼の思うがままと言う事にっ!」

【 国防軍総司令本部 】

秘書が言う
「ハブロス総司令官 皇居御所の管理状態が把握されました」
アースが顔を向けると秘書が書類を渡して言う
「皇居内 御所の外部までは 皇居警備部隊の者が配備され 御所内には 陛下付きの役人が3名配置されているご様子です 深夜はその役人3名が除かれ 代わりに女性の付き人が2名で交代で付き 警備は御所の外部までとなるそうです」
アースが書類を見ながら言う
「皇居や御所には 主権を持つ側の長であるなら いつでも入る事を許されている筈だったが それは 深夜でも可能なのか?」
秘書が言う
「皇居内の御所以外でしたら 深夜であっても可能ですが 御所の方へは 深夜の御訪問は叶いません」
アースが言う
「では 深夜より前であれば 総司令官の私と もう1名を 御所へ入れる事は可能だな?」
秘書が言う
「はい そちらは可能であると」
アースが言う
「それから その3名の役人を払い 陛下と我々だけで 話をする事も可能だろうか?」
秘書が言う
「皇居の管理が国防軍へと任されていますので ハブロス総司令官がお命じになられれば 役人たちは席を外すと思われますが」
アースが言う
「よし、分かった」
秘書が言う
「しかし、総司令官」
アースが言う
「うん?」
秘書が言う
「失礼ながら申し上げますと 国防軍の長であられましても 総司令官のお立場では 正式には 事前に陛下へ訪問の是非を伺ってからでなければ 御所へ上がる事は許されないとの事です」
アースが視線を逸らして言う
「そうか… そう言えば 先日も そのような事を言われたな 初の訪問と言う事で特別配慮だったと言う事かもしれないが… 増して 今度は人を連れて行かなければならない …では 予定を入れてくれ いつでも良い なるべく早い日取りを」
秘書が言う
「畏まりました」

【 政府本部 】

秘書が電話を置いて言う
「メイリス長官 情報局から連絡です 国防軍総司令官が皇居御所へ取り次いだ 訪問日時を確認したとの事です」
シェイムが言う
「やはり 陛下からナノマシーンのサンプルを奪う気かっ」
メルフェスが言う
「難しいとは思いますが もう一度私から説得を試みます」
シェイムが言う
「しかし、一度は説得をなさったのですよね?その上で ここまでの事をしているのです 偽とは言え アールスローンの為に身を賭した その陛下へ無礼を行おうと言うのですから これは 公にしてでも 国防軍を抑えた方がっ」
メルフェスが言う
「それをすると言う事は 政府が行っていた過去の問題も浮き彫りになります 彼の父上様へ 人体実験を行ったのは 紛れも無く政府の研究局なのですから」
シェイムが言う
「我々はその彼らへ しかるべき刑を与えました 彼らへ研究を許可していたアミレス長官も その実験で自らの命を失いました 政府によって作られた偽のペジテの姫たちにも 我々は出来うる限りの事をしなければならない …そうとなれば 国防軍を押さえてでも 彼女を苦しめる事態からは救わなければっ」
メルフェスが表情を困らせて言う
「しかし… 例え我々がどの様な正論を述べようとも 自身の父親が苦しんでいる姿を 長年見ていた 彼の苦しみは… とても正論だけで片を付けられるものではない …と言う事が あの時私には分かりました そうとなれば 力も権力も財力さえある彼が それを行おうとするのは当然の事です ですから 私は… 出来る事なら これを政府と国防軍の問題には したくは無いのです」
シェイムが考える メルフェスが言う
「それに 私には責任があります 彼へ陛下の身にある ナノマシーンの話をしてしまったのは私です 私が口にしなければ …ハブロス総司令官が その力を知らなければ このような事にはならなかったのですから」
シェイムが言う
「しかし、それは 彼が政府を許さないと それを静める為に伝えた事です ですから これは やはり政府と国防軍の事となります そうとなれば… ここは 政府長官である私が ハブロス総司令官と 話をします」
シェイムが電話を取る メルフェスが視線を落とす ラミリツが2人を見てから視線を泳がせる

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話をしていて言う
「それは何のお話でしょう?」
電話からシェイムの声が聞こえる
『誤魔化そうとしても無駄です 貴方が私設の研究施設を作った事も そこへ政府の元研究局の局員たちを招いた事も 調べは付いていますっ!』
アースが言う
「それが何か問題でも?例え 過去に貴方方政府へ身を置いていた者であろうとも 今では 私の下で働く研究員たちです 貴方から何らかの指図を受ける謂れはありませんが?」
シェイムが言う
『貴方が 皇居御所への訪問を予定している事も知っています 貴方へナノマシーンの話を伝えた カルメス外交長も言っていた筈ですっ 彼女をこれ以上傷付けないで下さいナノマシーンを奪われれば それだけ 苦しみが増すでしょうっ 精神を蝕まれる苦しみは それを見て来た貴方なら 分かるのではないですか!?』
アースが言う
「もちろん 分かる… いえ 知っている と言うのが正しいでしょうね?本当の苦しみは 当人たちにしか 分かり得ないでしょう?」
シェイムが言う
『でしたら どうかっ アールスローンをっ …一国を守る為に その苦しみを担った彼女へは 手を出さないで頂きたい!』
アースが間を置く

【 政府本部 】

シェイムが受話器に意識を向けている アースの声が聞こえる
『そちらは 何のお話で?』
シェイムが一瞬呆気に取られた後怒って言う
「”何の話か”とは?ですから!何度も言っているでしょうっ?陛下へ手を下さないで頂きたいとっ!」
アースが苦笑して言う
『あぁ… 何を仰るのかと思えば ”陛下へ手を下さないで欲しい” とは 随分ですね?我々国防軍が 管理し お守りしている陛下を 私が傷付け様とでも?』
シェイムが呆気に取られる アースが言う
『私は 貴方方政府が行ってきた 偽のペジテの姫を使った作戦を 引き継いで差し上げているのですよ?アールスローンの女帝陛下が 実は行方不明で 政府は偽物の陛下を作り上げて 帝国へ向かわせ 精神を病ませていた などと言う事が 公に知られればどの様な事になるか… 政府の失墜だけでなく 今まで陛下の下でと 培われて来たアールスローンの秩序がどうなるのか …私には そちらの方が恐ろしいですね?』
シェイムが言葉に詰まり手を握り締める ラミリツが心配する アースが言う
『ですから どうか これ以上無用な詮索はなさらずに 私はこのアールスローンの平和の為 国防軍総司令官として これからも 国防軍と政府が 共に歩める事を願っています それでは』
電話が切れる シェイムが反応してから息を吐いて受話器を置く ラミリツが言う
「駄目… だった?」
シェイムが言う
「ああ…」
シェイムがメルフェスへ向いて言う
「更には 国防軍と政府が 共に歩める事を願っている… などと言われてしまいました それに アールスローンの秩序の為にも 偽の陛下の事は 公表するなと…」
ラミリツが言う
「何だよそれっ 何が共に歩める事をだよっ!?公表するなって 脅してるじゃないかっ!?」
シェイムが言う
「万が一 我々が秩序の混乱を押してでも 公表しようものなら 逆に国防軍は政府へ協力してでも 秩序の安定を求めていた とでも 言うつもりなのだろう …つまり ここまで釘を刺すと言う事は」
メルフェスが言う
「彼は 決行するつもりですね」
シェイムが言う
「何とか止めなければ…」
シェイムとメルフェスが考える ラミリツが2人を見て困る

【 ハブロス研究所 】

ルイルが作業をしながら言う
「あぁ それはやはり 多少はあるでしょうね?」
アースが言う
「では やはり ナノマシーンを奪う事は 許されないと言う事か」
ルイルが言う
「しかし ハブロス様?その偽の陛下は ナノマシーンを使って 苦しみから解放されているのです でしたら 少しぐらい減って 苦しみが増すとしても それはこの際 少々我慢して頂くと言う事で」
アースが不満そうにルイルを見る ルイルが作業途中で顔を向けて言う
「考えても見て下さい?偽の陛下は ナノマシーンが減ったって 一応苦しみから解放される術があります しかし、ヴォール・アーケスト・ハブロス様には その術は全く無いのですよ?不公平じゃないですか?」
アースが呆気に取られて言う
「不公平…?いや、それは 恐れ多くも 偽とは言え 陛下はアールスローンの為に身を賭した者だ それと比べてしまえば 父上は…」
ルイルが作業をしながら言う
「ヴォール・アーケスト・ハブロス様だって 元国防軍総司令官ともなれば 陛下の次に慕われる お方である筈ですが?」
アースがルイルを見る ルイルが言う
「そうでしょう?国防軍は アールスローンの地を守っているのです それは言い換えれば 身を賭して アールスローンを守る者 と言う事でしょう?」
アースが言う
「それはそうだが 陛下と国防軍総司令官では 比べものにならない」
ルイルが言う
「しかし、陛下と言っても 偽者ですよ?でしたら 同等までは行かずとも 少し位 ご協力を頂いても良いじゃないですか?それに ハブロス様?もしこの研究が成功すれば ヴォール・アーケスト・ハブロス様だけではありません その他の精神疾患を患っている アールスローンの国民にも これを使う事が出来るようになります …いえ?もしかしたら?精神疾患だけに留まらないかもしれません この能力は様々な用途で 医療に利用出来る ナノマシーンとなる可能性を秘めていますよ!」
アースがルイルを見る ルイルが言う
「ハブロス様からは 私の過去の清算のみで 研究を行えと命じられていますが これは これからの帝国との戦いで 国防軍の兵士たちが負うかもしれない 怪我や後遺症の治療にも使える それこそ万能な回復型のナノマシーンになる可能性だってあるんです 偽の陛下には 少々ご苦労を与えてしまうかもしれませんが このナノマシーンには アールスローンの人々の未来が託されています!…私だって 元から人を苦しめるナノマシーンを作りたいと思っていた訳ではありません 分かっては頂けないかも知れませんが…?」
アースが言う
「…だが そのサンプルを取る事で 偽の陛下には どの程度の影響が出る?そのせいで 万が一の事でもあっては」
ルイルが考えPCを操作して言う
「うーん そうですね… 正確な事は言えませんが 通常のナノマシーンを マスターの名を持つ者から 摂取する場合から換算して…」
アースが言う
「マスターの名を持つ者が ナノマシーンの検査などを行う際には 検査後のナノマシーンを再び体内へ取り入れると聞くが …その偽の陛下にも 同様にすれば 影響は抑えられるのではないのか?」
ルイルが言う
「それはそうだと思いますが ナノマシーンはデータのコピーには 多少の劣化が見られると言う結果が つい昨日出てしまいました ですので 元となる そのサンプルは 出来るだけ多い方が良いですし お返ししてしまっては 後の研究に支障が…」
アースが言う
「後の研究は 劣化したコピーで行え 元となる陛下のナノマシーンは お返しする」
ルイルが言う
「そんな御無体な… 折角の貴重なサンプルを お返ししてしまうだなんて」
アースが言う
「陛下への負担は 最小限で留める事を約束しろ …そうでなければ 研究は打ち切る」
ルイルが言う
「ハブロス様 ナノマシーンは宿主が死んでしまってからでは 取り出せないのですよ?陛下のお命は短いと言うのなら…」
アースが表情を強めて言う
「何が言いたい?」
ルイルが苦笑して言う
「…いいえ、何でもありません」

【 政府本部 長官室 】

シェイムとメルフェスがノートPCを前に悩んでいる ラミリツが2人を見てたまらずに言う
「ねぇっ どうなのっ!?何か方法は 無い訳っ!?」
メルフェスが言う
「彼が研究を 国防軍の管轄で行っていれば その実験内容を公表するなどをして 世論を持って停止させる事も 可能であったかもしれませんが…」
シェイムが言う
「研究はハブロス家の資産にて 国防軍とは別に 個人で行っている事業と言う事になる この内容を公表する事は 例え政府警察の監査を入れたとしても許されない …許されるのは 事件が起きた後になってしまう それでは遅い」
ラミリツが言う
「なら先にっ!」
シェイムが言う
「その事件を 先に公表したとしても その様な事実は無いと 言われてしまえばそれまでだ」
メルフェス言う
「更に言えば 政府が国防軍へ あらぬ疑いを掛けたと…」
ラミリツが言う
「名誉毀損罪?」
シェイムが苦笑して言う
「そうなるな」
ラミリツが言う
「おまけに 政府の信用はガタ落ちか …折角 最近は良い噂も 立つ様になって来たのに」
シェイムが微笑して言う
「そうなのか?」
ラミリツが言う
「TV見てないの?」
シェイムが苦笑して言う
「生憎 その折角の成果も 確認している暇が無くてな?」
ラミリツが視線を逸らして言う
「僕は 十分見ていられる位だけどね?」
メルフェスとシェイムが苦笑する ラミリツが不満そうに言う
「長官と違って 攻長はただの皇居のお守りだからさ?」
ラミリツが気付いて言う
「…ん?ねぇ そうなんじゃないの?」
メルフェスとシェイムがラミリツを見る ラミリツが言う
「攻長と防長は 陛下を守る為に 傍に居るんでしょ!?だったら 僕は皇居に入れるんじゃないの?」
シェイムが一瞬呆気に取られた後メルフェスへ向く ラミリツがメルフェスへ向く メルフェスが言い辛そうに言う
「それは… 確かに ”元々”は そうなのですが…」
シェイムが言う
「実は 先ほど私が確認した所では 例え主権が国防軍にある場合であっても 以前は 政府の攻長も手続き等はなく 皇居への入所を許可されていました しかし 現代に近付くと それが許可されなくなっています その理由となる物を 調べていたのですが …もしやメルフェス殿は ご存知で?」
メルフェスが言う
「その辺りは少々複雑なのですが 結論から言うと 例え主権があろうとも 政府の長官及び攻長は 公式な皇居の催し以外で 皇居並びに御所へ入る事は 禁じられています その理由は 主権を得ていた間の 政府の状況が… とても思わしくなく 皇居管理の者たちから信用を失っている事が理由です 従って 本来は陛下の身を守る者 とされている攻長であろうとも 入れ替わりの激しい 政府の攻長の出入りを許可する事は 出来ないと」
ラミリツが言う
「なんだよそれ!?そんなんじゃ 結局 政府の攻長なんて 要らないじゃない?」
シェイムが息を吐いて言う
「その失った信用さえ 取り戻す時間があったら良かったが… 残念ながら 今回は間に合わない」
メルフェスが言う
「それが…」
ラミリツとシェイムがメルフェスを見る メルフェスが言う
「間に合わせる事も出来る… と言う事で 少々考えていまして… しかし…」
メルフェスが言い辛そうに言葉を止める シェイムが言う
「複雑だ と仰ったのは その辺りの事ですか?」
メルフェスが言う
「ええ…」
ラミリツが急かして言う
「間に合わせる事が出来るんだったらっ 急いでそれをやれば良いじゃない?何悩んでるんだよっ!?」
シェイムが言う
「メルフェス殿 ラミリツの言い方は悪いですが 事実です 何か方法があるのでしたら 早く行わなければ それこそ間に合いませんっ!」
ラミリツが一度シェイムを見てからメルフェスへ視線を戻して頷く メルフェスが言う
「分かりました… では、申し訳ありませんが 攻長閣下は 一度 席を外して頂けますでしょうか?」
シェイムとラミリツが驚く シェイムがラミリツへ向く ラミリツがムッとして言う
「良いよ… なら 2人で勝手にしろよっ!」
ラミリツが怒って部屋を出て行く 

【 通路 】

ラミリツが通路を歩きながら言う
「何だよっ 結局 こう言う事っ!?いつもいつも 兄上ばっかりっ 僕だってっ!」
ラミリツがふと立ち止まって言う
「…アイツ もしかして 兄上に何かやらせるつもり?…その為に 僕を追い出して!?」
ラミリツが周囲を見渡し 物陰に隠れて無線イヤホンを取り出し 操作をする 無線イヤホンから シェイムの声が聞こえる
『…どうやら 素直に立ち去ってくれたようです …では メルフェス殿 私に何か?』
ラミリツが目を細めてイヤホンに集中する メルフェスの声が聞こえる
『いえ シェイム殿ではなく 本当は攻長である 彼へ直接問わなければならない事だったのですが』
ラミリツが疑問する シェイムが疑問している様子で言う
『え?…そうだったのですか?私はてっきり 私へ何かを行わせる それをラミリツへ聞かせない為に 遠ざけられたものかと』
メルフェスが苦笑して言う
『私はそれほど有能ではありません ラミリツ殿を怒らせてしまうと言う事は 十分 分かっていたのですが 正直な所 今回はもう私1人ではその重さに耐えられませんので シェイム殿へお伺いしようと あの様に言うしかありませんでした』
シェイムが言う
『では 私ではなく… ラミリツへ 何かをさせようと?』
ラミリツが目を細める

【 長官室 室内 】

メルフェスが言う
「…はい 政府の信用を今すぐに取り戻す事は出来ません しかし 対する国防軍の信用は 以前の黒の楽団の一件で 多少は傷付きはしたものの失われては居ません 従って 政府の攻長ではなく 国防軍の防長や国防軍の攻長であるなら 皇居や御所へ入る事は可能です」
シェイムが言う
「国防軍の 攻長 …とは?」
メルフェスが言う
「シェイム殿もご存知の通り アールスローン戦記における 攻撃の兵士と悪魔の兵士は 同一人物とされる事があります そして、攻撃の兵士は攻長閣下 現在のラミリツ殿となります しかし そのラミリツ殿がもし… 同一人物で 悪魔の兵士でもあるのなら?政府の攻長だけではなく 国防軍の悪魔の兵士 言い換えれば 国防軍の攻長 とされるのです」
シェイムが考えながら言う
「悪魔の兵士は… 確かに 守りの兵士と共に戦う存在 従って 国防軍の攻長… えぇっと?それが 政府の攻長と同一人物だとして?」
メルフェスが苦笑して言う
「アールスローン戦記では その様に分かり辛くなってしまうのですが 逆にアールスローン信書で考えていただければ簡単です 悪魔の兵士は 反逆の兵士ですから」
シェイムが言う
「では 悪魔の兵士は 国家家臣であると?」
メルフェスが言う
「そう言う事です 国防軍主権の場合は 国家家臣第1が防長 第2が総司令官 第3が悪魔の兵士です 悪魔の兵士は 神の刻印を身に受けた者ですから 皇居への出入りは自由です」

【 通路 】

ラミリツが指折り数えながら呆気に取られている イヤホンからシェイムの声が聞こえる
『では、政府の攻長が 国防軍の悪魔の兵士を 兼務する事が出来ると言う事ですか?』
メルフェスが言う
『そう言う事になります 元々 政府と国防軍において 攻長と言う者の役割はとても大きく 両者の架け橋的存在なのです …ですから私は ラミリツ殿は とても適していると思っています』
ラミリツが疑問する シェイムが言う
『”フレイスの息子だから”ですね?』
ラミリツが驚く メルフェスが言う
『そう言う事です フレイスは政府の警察長でありながらも 最期まで ハブロス元総司令官の 親友でした』
ラミリツが視線を落とす シェイムが言う
『そうですね…』
ラミリツが視線を戻す

【 長官室 室内 】

シェイムが言う
「では ラミリツに国防軍の攻長を兼務させるには どうしたら良いのです?…もしや 国防軍に入隊させろと?」
メルフェスが苦笑して言う
「いえ その様な事はありません 彼は引き続き政府に身を置き 必要とあれば 政府のあらゆる力を利用し 警機を率いて 国防軍と共に戦う事が定めです ただし、それは 悪魔の兵士と同一人物であろうと 無かろうとも同じ事ですが …では、そこで ラミリツ殿を国防軍の悪魔の兵士と 同一人物とさせるには」
シェイムが言う
「それには?」
メルフェスが言う
「1つは 国防軍が 皇居へ対し 他の悪魔の兵士を認定していない事… 今の所 皇居への そちらの認定書類は出されていません そして もう1つが… ラミリツ殿の身に 神の刻印がある事です」

【 通路 】

ラミリツが呆気に取られている シェイムが言う
『神の刻印… 確か アールスローン信書に置いて 親兵攻長が アールスローンへ身を賭す事を誓って 左胸に刻んだと言うアールスローンへの誓いの印と… それと同じ物ですよね?』
メルフェスが言う
『はい、一般的には アールスローン信書に置ける誓いの印も アールスローン戦記の神の刻印も 2つの印は 同じ アールスローン国の国印であるとされています』
シェイムが言う
『では メルフェス殿が悩まれていたのは ラミリツの身体に その刻印を刻ませる事に対して と言う事だったのですね?』
ラミリツが意を決して構える メルフェスが言う
『いえ』
ラミリツが疑問する シェイムが言う
『え?違ったのですか?』
メルフェスが気付いて言う
『え…?…ああ、すみません?確かに 悩むべき所でも有りましたね?しかし そちらに関しましては… 私は この際 ラミリツ殿には 男らしく 耐えて頂こうかと?』
ラミリツが衝撃を受ける シェイムが言う
『え…?』
メルフェスが苦笑して言う
『フレイスも いつも言っていました ”男なら 逃げてばかりいないで たまには 殴られてみろ”と 私には一生経験する事の 無いものと思っていましたが …痛かったですね?はは…っ』
シェイムが言う
『あぁ そう言えば 父の口癖みたいなものでした …その実 私も今だに 誰かに殴られた事は無いのですが その分 ラミリツは良く殴られていましたね?…ははっ』
ラミリツが怒りを抑える シェイムが言う
『…と、それで?』
メルフェスが言う
『はい、それで 問題は』

【 長官室 室内 】

メルフェスが言う
「アールスローン戦記の本物の神の刻印は アールスローン国の国印では無いかもしれない と言う事です」
シェイムが呆気に取られて言う
「…え?しかし 私も読みましたが アールスローン戦記には 確かに?」
メルフェスが言う
「我々が読む事の出来るアールスローン戦記は 2つの原本の 中間 であるとされています ですから アールスローン戦記の挿絵には 確かにアールスローン国の国印が描かれていますが 作中には ”神が刻印として ペジテの印を刻んだ” と表記されています ペジテはアールスローンに在ったとされる小国ですが その国印が 挿絵にあるアールスローンの国印と 同じであったのか?と言うは その資料が無い現代に置いては 分かりません」
シェイムが言う
「しかし、資料が無いのなら?…ん?まさか!?」
メルフェスが言う
「それはもちろん アールスローン戦記の原本には 答えが記されているでしょう …もしかしたら 片方は複製と同じく アールスローン国の国印かもしれません しかし もう片方には アールスローン国の国印とは異なる ペジテの印が描かれているかも知れません その原本が もし ハブロス総司令官の手元に渡れば ラミリツ殿は攻長に成りすました 偽の悪魔の兵士と言う事にされてしまいます」
シェイムが表情を強める メルフェスが言う
「…そうなれば 政府の攻長を解任される程度の事では 済まされません 彼は 国防軍はもちろん 陛下を騙した 罪人とされてしまいます 例え その陛下を守る為であろうとも ラミリツ殿へ重罪を着せる訳には」
シェイムが間を置いて言う
「…では、ラミリツに代わり …私がっ!」
ラミリツがドアを開けて言う
「上等だよ」
シェイムとメルフェスが驚いて顔を向ける ラミリツが言う
「悪魔の兵士と 同一人物だろうと無かろうと 身を挺して陛下を守るのが 攻長の役目でしょ?だったら それ位… 受けて立つ!」
シェイムが言う
「エーメレスっ」
ラミリツが言う
「それに 一度も人に殴られた事も無いような兄上じゃ マスターを殴った程のハブロス総司令官を抑えられないんじゃない?」
シェイムとメルフェスが呆気に取られ顔を見合わせる ラミリツがそっぽを向いて言う
「それから 兄上と僕で 長官と攻長を入れ替える なんて言われたら それこそ僕が長官なんて出来っこ無いし …こういう時の為に 兄上と僕を専用に育てたんでしょ?父上は」
メルフェスが言う
「しかし 攻長閣下」
ラミリツが言う
「後 それ!攻長閣下って呼ぶの やめてくんないっ?兄上の事はシェイム殿って呼んでるし 僕の居ない所では 僕の事だって ラミリツ殿って呼んでるだろっ?」
メルフェスが言う
「は… はい、そちらは承知しました しかし この作戦は…」
ラミリツが言う
「父上が いつも言ってた ”正義は 信じて 貫かなければ 意味が無い” …ここでやらなかったら 何の為の攻長なの?偽の陛下を政府が作ったなら その陛下を守り通してこその正義でしょ!」
メルフェスが考える シェイムが言う
「ハブロス総司令官の御所への訪問は2日後… その作戦を行うのであれば 急がなければ」
メルフェスが頭を抱える ラミリツが言う
「言っとくけど 僕は 話を無線で聞いていて 逃げる事だって出来た けど ここに来たんだよ?…引く気は無いって事 分かる?」
メルフェスがシェイムを見る シェイムがメルフェスを見る メルフェスが言う
「…分かりました ラミリツ殿がそうと仰るのであれば 私も 出来うる限りの事を行うと お約束します」
シェイムがラミリツを見る ラミリツがシェイムを見る シェイムが頷いて言う
「もちろん 私もだ …では 準備を急ごうっ」
シェイムとメルフェスが立ち上がる ラミリツが頷く

【 政府医療施設 】

シェイムが医師へ書類を見せて言う
「アールスローン国憲法 12条2項に置かれる法律を 政府長攻長の特殊を用いて免除とする」
医師が頷いて言う
「確かに 確認致しました」
シェイムがラミリツへ向いて言う
「これで 政府の攻長としてなら アールスローンの法律には抵触しない …後は」
ラミリツが言う
「悪魔の兵士の刻印が 同じ印である事を願えって?」
シェイムが苦笑して言う
「もしくは 答えの示されている原本を ハブロス総司令官が目にしていない事を」
ラミリツが不満そうに顔を背ける シェイムが苦笑する メルフェスが歩いて来て言う
「シェイム殿ラミリツ殿」
2人がメルフェスへ向く シェイムが言う
「メルフェス殿 如何でした?」
メルフェスが微笑して言う
「上手く行きました 例え主権を失おうとも 元皇居宗主からのお願いと言う事で 皇居における国家家臣第3者としての ラミリツ殿の名前の登録は 免除して頂けました」
シェイムが微笑して言う
「それは良かった」
ラミリツがシェイムへ向いて言う
「それってどう言う事?国家家臣第3者には 登録しなきゃ 駄目なんじゃないの?」
シェイムがラミリツへ向いて微笑して言う
「まぁ 今は深く考えなくて良い ちょっとした トリックと言う奴だ」
ラミリツが疑問して言う
「トリック…?汚い小技って事?」
シェイムが言う
「エーメレス」
メルフェスが微笑して言う
「ええ、そう言う事です 私の持つ知識を 実力以上に用いて編み出した方法です お陰で説明は少々難しいので 今はそうと言う事で ご了承下さい」
ラミリツがメルフェスを見上げ不満そうに言う
「…分かった けど、大丈夫なの?アンタ知能補佐のマスターじゃないんだから あんま調子に乗ると失敗するし?」
メルフェスが衝撃を受け笑う シェイムが慌てて言う
「こらっ エーメレスっ!」
メルフェスが言う
「はい 以前の失敗を踏まえ 立ち向かうのではなく 上手く逃げられる様に と考案しましたので 今回は大丈夫です」
ラミリツが視線を逸らして言う
「そ?まぁ… アンタ逃げる事に関しては 上手いらしいから?それなら大丈夫かも?」
シェイムが顔を顰める メルフェスが微笑して言う
「はい、そちらには 自信がありますので」
シェイムが苦笑する 医師がやって来て言う
「お待たせを致しました 準備が整いました」
ラミリツが医療室の出入り口へ向く シェイムが言う
「親兵攻長の決意の証だ 頑張れよ?エーメレス」
ラミリツが視線を逸らして言う
「ただの刺青だろ?法的にも免除されてるんだから 決意もないし 何も頑張る必要なんて ないんじゃない?」
メルフェスが言う
「医療技術の発達により 一箇所一箇所に刺青を施す必要はなくなりましたが その分 一度に照射する刺青は 結構 痛いそうですが」
ラミリツが衝撃を受ける メルフェスが微笑して言う
「あの殴られる痛みに慣れている ラミリツ殿でしたら 何発受けても大丈夫そうですね?安心しました」
ラミリツが衝撃を受け 顔を引きつらせて言う
「…も、もちろんっ!?よ、余裕っ …だよっ!?」
ラミリツがぎこちなく医療室へ入って行く ドアが閉まると シェイムが苦笑してメルフェスへ言う
「メルフェス殿…」
メルフェスが疑問して言う
「はて?何やら 少々様子が…?」 
シェイムが苦笑して言う
「ラミリツは 確かに父によく殴られていましたが… その度に 私の下へ泣き付いて来ていました」
メルフェスが衝撃を受ける シェイムが苦笑して言う
「幼い頃から 痛い思いを強いられていたので ラミリツは 痛い と言う事に関しては とても臆病なのです」
メルフェスが苦笑して言う
「そちらは… 大変失礼致しました …先に伺っておくべきでしたね?」
シェイムが苦笑して言う
「いえ 私も配慮が足りませんで …先にお伝えしておくべきでしたね?」
メルフェスとシェイムが笑い 医療室を見る

【 ハブロス研究所 】

数本の採血用注射器が用意されている アースが不穏気に言う
「それ程取り出してしまっても 本当に大丈夫なのか?」
ルイルが言う
「サンプルでさえ お返ししてしまうと言うのですから これ位は頂かなければ… 劣化の少ない 最初のコピーの数を増やしたいですからね?」
アースが言う
「しかし、その間に 陛下の御身に不調が出てしまっては 元も子もない… やはり その半分にしろ」
ルイルが苦笑して言う
「ハブロス様…」
アースが言う
「命令だ 従え」
ルイルが苦笑して言う
「…はい 畏まりました 総司令官様っ」
ルイルが半分の注射器をケースに入れる

【 メイリス家 】

ラミリツが包帯を外し刻印を見てから 鏡に映った自分を見て言う
「…ダサ」
ラミリツが溜息を吐いて言う
「もっとカッコイイのだったら良かったのに… これで本物の悪魔の兵士の刻印の方が カッコ良かったとか言ったら マジ幻滅」
ラミリツが鏡を見て言う
「自分の体に アールスローン国の国印とか… 僕がアールスローンの 所有物 だとでも言いたい訳?」
ラミリツが気付いて言う
「あぁ… そっか… そう言う事?…今更分かった」
レコーダーからメルフェスの声が聞こえる
『ラミリツ殿 お聞きになられて いらっしゃいますか?』
ラミリツがレコーダーへ向く メルフェスが言う
『たった今 ハブロス総司令官と ルイル・エリーム・ライデリアと思われる者が 研究所を出たとの報告です ご準備を』
ラミリツがレコーダーの近くに置かれているマイクのボタンを押して言う
「僕が アンタの盗聴器 聞いてなかったら どうするつもりだった訳?」
ラミリツが立ち去る ラミリツが歩きながらイヤホンを付ける メルフェスの声が聞こえる
『ハブロス総司令官が動くのは 今日のこの日だと言う事は 事前に分かっていた事です …もちろん 応答が無ければ 携帯へご連絡をする予定でしたので ご心配なく』
ラミリツがヘルメットを被りながら言う
「本当かな…?」
メルフェスが言う
『本当ですよ?』
ラミリツが衝撃を受けて 困惑して言う
「なっ!?何で 僕の独り言 アイツにバレてんのっ!?」
メルフェスが言う
『貴方はとても似ていますからね… 姿も言動も…』
ラミリツが一瞬呆気に取られた後 意を決してバイクを発車させる

【 皇居 】

高級車が止まるとドアが開けられ アースが降り 続いてルイルが降り 2人が皇居へ入って行く それを物陰からラミリツが確認し イヤホンを押さえて言う
「2人が皇居に入ったよ 僕も行くから」
イヤホンからシェイムの声がする
『頼んだぞ エーメレス』
高級車が発車すると ラミリツがそれを見送ってから皇居へ走る ラミリツが皇居正面玄関の横に身を隠し中を見る アースが認証を済ませ中へ入って行く ラミリツが向かうと衛兵が止めて言う
「本日は 皇居にての催しは御座いません 政府長攻長 ラミリツ・エーメレス・攻長閣下 失礼ながら お引取りを願います」
ラミリツが言う
「僕は政府の攻長であると共に 国防軍の攻長でもある 皇居への入所は 許されている筈だよ?」
衛兵が一瞬驚いてから言う
「国防軍の… 攻長…?」
衛兵2人が顔を見合わせる ラミリツが言う
「信仰を重んじない アンタらじゃ話しにならない 皇居の役人を呼んでよ?」
衛兵が言う
「…畏まりました 少々お待ちを」
衛兵が無線機へ話している ラミリツが皇居の奥を見る

【 御所 】

アースとルイルがやって来る アースが視線を向ける 視線の先 豪奢な椅子に女帝が座っている アースが一度目を細めてから 周囲へ言う
「陛下と我々だけで話をしたい お前たちは席を外してくれ」
役人たちが顔を見合わせる アースが言う
「国防軍総司令官の命令だ 従え」
役人たちが立ち上がり言う
「…畏まりました」
役人たちが立ち去る アースがそれを確認し 一度ルイルを見てから女帝の下へ向かう ルイルが微笑して続く

【 皇居 】

ラミリツが気を焦らせながら言う
「早く…っ」
役人がやって来て 衛兵と話をしてからラミリツへ向いて言う
「失礼ながら 攻長閣下 貴方様が政府の攻長並びに 国防軍の攻長であると仰るので有りませば その証として」
ラミリツが役人を見て言う
「なら これで良いんでだろっ!?早くっ!」
ラミリツが刻印を見せる 役人が僅かに驚いた後 頭を下げて言う
「確かに 確認をさせて頂きました 無礼をお詫び致します どうぞお入り下さい 攻長閣下」
ラミリツが走って向かう 衛兵が顔を見合わせる 役人がラミリツの後姿を見送る

【 御所 】

ルイルが女帝から採血を行っている アースがルイルを見てから女帝を見る 女帝がルイルを見てからアースを見る アースが一瞬驚いた後視線を逸らし ルイルを見る ルイルが1本目の採血を終え 2本目を手にする アースが視線を逸らした後 物音に気付き振り返る ラミリツが駆け込んで来て叫ぶ
「ハブロス総司令官っ!何をしているっ!?」
アースが驚いて言う
「何故お前がっ!?」
ラミリツがルイルへ向く ルイルが一瞬驚くが採血を行おうとする ラミリツが叫ぶ
「やめろっ!陛下を傷付けるなっ!」
ラミリツが向かおうとすると アースが銃を向けて言う
「止まれっ」
ラミリツが驚く アースが言う
「邪魔をするな これは全て お前たち政府の行った …その結果だ!」
ラミリツが言う
「貴方の父上の仇ならっ 僕らの父上とメルフェス殿が果たしたっ!陛下は関係ないっ!陛下を苦しめるなっ!」
アースが言う
「黙れっ!」
ルイルが鼻で笑い 採決を行おうと注射針を刺す 女帝が僅かに表情を顰める ラミリツが叫ぶ
「止めろって 言ってるだろっ!」
ラミリツが向かう アースが一度驚き驚き歯を食いしばって銃を撃つ 銃弾がラミリツの脇腹を掠めるラミリツが一瞬顔を顰めるが アースの銃を掴み体術を用いて アースの両腕を絞める アースの銃が床に落ちる アースが悔しんで言う
「クッ…!」
ラミリツがアースの銃を一瞥してから言う
「皇居及び御所内に置いての武器の使用は 攻長以外は許されないっ ハブロス総司令官 このまま引き下がるというのなら 貴方にこの罪は着せない事を約束するっ …その者と共に この場を去れ!」
ラミリツがアースを見つめる アースが膝を着いた状態で 顔を上げると ラミリツの脇腹から血が滴るのが見える ラミリツがルイルへ視線を向ける ルイルが舌打ちをして作業を中止する アースが立ち上がり言う
「信用の無い政府の攻長が どの様にして ここまで来られたのかは 知らないが… 思っていたよりは 攻長としての自覚があった様だな?」
ラミリツが言う
「アンタのお陰でね?」
アースが言う
「メイリス家との因縁か… 覚悟をしておく事だ ハブロス家の私に 勝てると思うな?」
アースが立ち去る ルイルが澄まして続く ラミリツが振り返ってからイヤホンを押さえて言う
「注射器1本分取られちゃったよ …取り返すなら 今 奴らが出て行ったから」
イヤホンにメルフェスの声がする
『いえ、そちらは見逃しましょう ここで騒ぎを起こせば 周囲の警備を行っている 国防軍の目に止まる事となります』
ラミリツが言う
「でも、あいつら もっと取るつもりだったみたいだよ?それが1本だけじゃ…」
シェイムが言う
『では これからも監視を続け 危険があるようなら 今回と同様に』
メルフェスが言う
『そうですね 念の為 監視は続けましょう』
ラミリツが肩の力を抜き頷く シェイムが言う
『…それで?お前は無事か?エーメレス?』
ラミリツが一瞬呆気に取られた後 脇腹を押さえて言う
「うん… 実は…」
ラミリツが顔を顰めつつ ふと女帝を見る 女帝が涙を流している ラミリツが驚く シェイムが言う
『…実は?…どうしたっ?何かあったのかっ!?』

【 政府本部 】

シェイムが心配げに無線イヤホンを押さえている ラミリツが言う
『…陛下が …泣いてるんだ』
シェイムが呆気に取られた後 苦笑して言う
「それは …我々では どうしようもない …言葉も通じないのでは 声を掛けたとしても」
メルフェスの声が無線イヤホンに聞こえる
『いえ、そうでもありませんよ?』
シェイムが一瞬驚いてから言う
「え?しかし…」

【 皇居 前 】

メルフェスが物陰に隠れ 高級車が出て行くのを見送りながら言う
「言葉は通じなくとも 伝わるものは有ります ラミリツ殿 どうか…」
メルフェスが皇居の入り口を見て 苦笑して言う
「陛下へ お伝えをして差し上げて下さい そして…」

【 御所 】

ラミリツが女帝の前に跪き 女帝を見上げて言う
「『私が お守りします 貴方と このアールスローンの地を』…必ずっ」
ラミリツが女帝の手を取り両手で包み見上げる 女帝がラミリツを見てゆっくり微笑する ラミリツがそれを見て一瞬驚いた後 微笑する

【 政府 医療施設 】

ラミリツが痛がって叫ぶ
「痛っ!いたいいたいいたいっ!痛いってばっ!止めろよっ!」
医者が表情を困らせて言う
「そうは仰いましても 攻長閣下 銃弾によるお怪我は 患部をよく消毒しませんと…」
ラミリツが言う
「だったらっ もっと沁みない消毒液使えよっ!?ただでさえ 痛いのにっ!」
医者が言う
「はい… しかし、こちらの方が 確実ですので どうか もう少々ご辛抱を」
ラミリツが言う
「痛いから 嫌だって 言ってんのっ!」
医者が少し考えて言う
「うーん…」
ラミリツが医者を見て言う
「むーっ」
医者がそっぽを示して言う
「あ!あれはっ!?」
ラミリツが医者の示す方向を見上げて言う
「え?何っ?」
医者がその隙に消毒をする ラミリツが見上げたまま疑問して言う
「何?何か有るの?」
医者が微笑んで言う
「いえ、気のせいでした…」
ラミリツが息を吐いて言う
「なんだ…」
医者がガーゼを持って言う
「と、その間に 消毒は終わりましたので」
ラミリツが衝撃受けて言う
「嘘ぉっ!?」

【 政府本部 】

メルフェスが言う
「ハブロス総司令官は 御所へ武器を所持して入所しています …これなら 陛下への反逆罪を適用する事も可能です」
シェイムがデスクの上にある銃を見て言う
「現物も有り ラミリツの身に受けた弾痕からも この銃によるものであると言う事が確認されている… これは正に 肉を切らせて骨を絶つ 有力な物証となりました」
メルフェスが言う
「はい、これで 以後は 万が一彼が同様の事を企てようものなら 事前に御所への出入りを規制する事が出来る筈です これなら今回の様な事は もう無いと安心しても良いでしょう」
シェイムがホッとしてメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
「流石は 陛下をお守りする 攻長閣下 …ラミリツ殿は よくやって下さいました」
シェイムが苦笑して言う
「私も驚きました… ラミリツが父に厳しく鍛えられている事は 十分知っているつもりでしたが …まさか 銃弾を受けながらも 務めを果たすとは」
メルフェスが微笑して言う
「まだ お若いのに 心強いですね」
シェイムが微笑して言う
「はい 自慢の弟です」
メルフェスとシェイムが笑う 内線電話が鳴り秘書が言う
『メイリス長官 攻長閣下が お見えです 長官室へお通し致します』
ドアがノックされ秘書がドアを開ける ラミリツが入って来る ドアが閉められる シェイムが言う
「お手柄だったな?攻長閣下?」
メルフェスが言う
「お勤め お疲れ様でした …お怪我の具合は 如何ですか?」
ラミリツがソファに腰掛ける シェイムが言う
「銃で撃たれたのに 動いて大丈夫なのか?」
ラミリツが軽く息を吐いて言う
「撃たれたって言っても 掠っただけだよ …それより アイツまた陛下の所に来るんじゃない?ちゃんと監視してんの?」
シェイムとメルフェスが一瞬呆気に取られた後 微笑し シェイムが言う
「一応 監視はしているが ハブロス総司令官が 再び同じ事を行う可能性は 極めて低い」
ラミリツが僅かに驚いて言う
「え?そうなの?何で?」
メルフェスが言う
「彼が ラミリツ殿へ銃を放った事で こちらへ有利な条件が整いました 次に監視の目に掛かれば 事前にこれらを利用し 抑える事が可能です ご安心を」
ラミリツが言う
「そうなんだ… じゃ、もう僕が行かなくても 平気なんだ?」
メルフェスが微笑して言う
「はい そう言う事になります」
ラミリツが肩の力を抜く シェイムが微笑して言う
「攻長は凄いじゃないか?やはり私には出来ない お前だから出来た事だ エーメレス」
ラミリツがそっぽを向いて言う
「けど、もし僕が 皇居に入れなかったら 元皇居宗主様が 止めに行くつもりだったんだろ?アイツは銃を持ってたんだし 結果は同じになってたんじゃない?」
メルフェスが微笑して言う
「私では 銃弾から逃れる事は出来ても ハブロス総司令官を組み敷く事などは出来ません 助けを呼ぶにしても その間に 陛下からは今回以上のサンプルを奪われていたでしょう」
ラミリツが言う
「…そ?なら…」
ラミリツが視線を泳がせる メルフェスとシェイムが顔を見合わせた後 微笑する ラミリツが不満そうに言う
「刺青はされるし 銃で撃たれるし …何で攻長なのに 痛い思いばっかしなきゃいけないの?攻長を守る 防長は 何処で何してるんだよっ!?」
ラミリツがそっぽを向く メルフェスとシェイムが顔を見合わせた後に笑う

【 国防軍総司令本部 】

アースが息を吐いて言う
「まさか奴が入り込んで来るとは… 予想外だった」
ルイルが言う
「そちらはそうと 今度はいつ改めて 採取に向かわれますか?総司令官様?」
エルムの人形がルイルを見て目を細める アースが言う
「御所から追い出していた役人たちは 事前に奴を押さえた様子は無かった 何か相応の手続きを行い 正規の許可の下で あの場所へ入り込んで来たのだろう 今回と同じく採取へ向かえば また同じ事が繰り返される」
ルイルが言う
「では 今度は国防軍の兵士を連れて行けば 良いじゃないですか?総司令官様のご命令で」
アースが言う
「国家家臣の連れとして 連れて行ける人員は1名までだ」
ルイルが言う
「では 採取の仕方を教えるので ハブロス様が もう一名兵士を連れて 行って来て下さい」
アースが言う
「その もう一名で抑えられると言う確証も無い …正直 驚いたな?奴は銃を恐れる事も無く 向かって来たんだ」
ルイルが言う
「ハブロス総司令官が素人だと分かったから 舐められたんじゃないですか?」
アースが言う
「では お前は 素人の銃を前になら 向かって行けると言うのか?私には出来ない 国防軍の兵士であったとしても 出来るもなのか …うん?」
アースがエルムの人形を見る エルムの人形がアースと目を合わせてからルイルへ視線を向ける アースが視線を逸らして考える ルイルが言う
「では何か方法を考えて下さい とりあえず私は 僅かながらも得られました こちらのサンプルを使って 実験を進めておきますから」
ルイルが立ち去る アースが間を置いて立ち上がり 内線電話のボタンを押して言う
「帰宅する 車を回せ」
内線電話から声が聞こえる
『畏まりました 直ちに』
アースがエルムの人形を見る エルムの人形は部屋の様子を見ている アースが視線を戻して立ち去る

国防軍総司令本部の前に高級車が止まる アースがエントランスから出てくると執事が車のドアを開ける

【 車内 】

アースが乗り込むと対側の席にエルムβが座っている ドアが閉められると アースが言う
「エルム少佐 1つ任務を依頼したい」
アースがエルムβを見る エルムβが視線をアースヘ向ける アースが微笑して言う
「大した任務ではない 貴方であれば そつなくこなせる 相手は攻長とは言え 子供だ」
エルムβが言う
「『何の話だ?』」
アースが微笑して言う
「では 屋敷へ戻り次第 詳しい話を」
エルムβがアースへ向けていた視線を戻す アースが微笑してから視線を前へ向ける 車が走って行く

【 ハブロス家 】

高級車が到着すると執事がドアを開ける アースが降りると気付き 微笑して言う
「エントランスの門前で待っていてくれるとは 流石だな エルム少佐?任務への意気込みを感じる」
高級車の対側のドアが開きエルムβが降りる アースの視線の先エルムが言う
「何の話だ?私は お前に話が有り ここで待機していた」
アースが一瞬驚いた後苦笑して言う
「ほう?貴方から話とは 珍しいが …では 中で?」
アースが向かおうとする エルムが言う
「必要ない」
アースが立ち止まり振り向く エルムがアースへ向いて言う
「私は アース・メイヴン・ハブロスの護衛を降りる 以上だ」
アースが驚く エルムが立ち去ろうとする アースが言う
「待て!」
エルムが立ち止まる アースが言う
「どう言う事だ?何故突然?」
エルムが言う
「お前は お前の仲間と共に 生きるべきだ 私は お前の仲間ではない」
アースが言う
「私の仲間ではない?では 何故 今まで力を貸していた?私の仲間であったからでは 無いのか?」
エルムが言う
「…私は 任務を遂行していた」
アースが言う
「任務?」
エルムが言う
「任務内容は アース・メイヴン・ハブロスが ヴォール・ラゼル・ハブロスと 同等の権力を有するまでを 死守する事」
アースが言う
「私が 国防軍総司令官になったら それで終わりであったと?」
エルムが言う
「共に その権力を執行する能力を 得られたものと判断した 任務完了だ」
アースが驚き言葉を失う エルムがエルムβと共に去ろうとする アースが言う
「待て …まだだ」
エルムが立ち止まり一度瞬きをする アースが言う
「私は 貴方からの任務の達成報告を聞く それより以前に 貴方へ依頼をした そちらの効力は 有効である筈だ」
エルムが言う
「そうだな」
アースが微笑して言う
「では 命令だ エルム少佐 私と共に 皇居御所へ向かい そこで私の護衛を行え …誰が現れようと 私の邪魔をする者を 全て排除しろ」
エルムが言う
「無理だな」
アースが呆気に取られて驚く エルムが言う
「以上だ」
エルムが立ち去ろうとする アースが言う
「待てっ 何故出来ない!?貴方であるなら 例え警機の1部隊が攻めて来ようともっ!」
エルムが言う
「戦力の問題ではない お前は既に その作戦を行えない状況にある」
アースが疑問する エルムが向き直って言う
「お前は皇居御所へ 武器を所持した状態にて向かい 更に発砲を行っている そして その物証となる物を お前の作戦を阻害する相手に 得られている 従って 作戦を実行すれば お前は 権力を失う結果となる」
アースが驚いて言う
「何故 貴方が 私が皇居御所へ向かい行った事を 知っている?そして その内容を…っ!?」
エルムが言う
「私は お前の護衛を行っていた」
アースが言う
「だが 貴方の人形の前では そちらの内容を話してはいない」
エルムが言う
「私は お前の護衛を行っていた」
アースが目を細めて言う
「…尾行していたのか?」
エルムが言う
「当然だ」
アースが言う
「だが、貴方が言った事は?…皇居へは 国家家臣と共に1名の連れ以外が 立ち入る事は許されない …貴方が無理やりにでも入ろうものなら 皇居警備の者が騒いだ筈 しかし、それは無かった」
エルムが言う
「私は 悪魔の兵士だ 例え ”もう用済みの 悪魔の兵士”であろうとも 国防軍主権に置かれる 国家家臣第3位である事は 変わらない」
アースが呆気に取られて言う
「国家家臣第3位… …そうか!それを利用して 奴もっ!?」
アースがエルムを見る エルムが視線を戻す アースが言う
「…では 最後に聞く …何故 あの時 私の作戦へ手を貸さなかった?」
エルムが言う
「お前は お前の仲間と共に 生きるべきだ 私は お前の仲間ではない」
エルムが立ち去る アースが間を置いて言う
「…私の仲間ではない?祖父上の命令ではなかったから 私の援護はしなかったと言う事かっ?…クッ」
アースが手を握り締めてから 屋敷へ向かう

【 屋敷内 】

アースが屋敷へ入ると 使用人たちが頭を下げて言う
「お帰りなさいませ アース様」
アースが進み入ると 上階で軍曹が気付いて言う
「おお!兄貴 丁度良かったのだ」
アースが軍曹へ顔を向ける 軍曹が階段を降りながら言う
「先ほど 久方振りに皇居から 俺へ連絡があったのだが…」
アースが疑問して言う
「皇居から?」
軍曹がアースの前に来て言う
「うむ 何でも 間もなく陛下の生誕20年をお祝いする パレードがあるとか何とか…?」
アースが気付いて言う
「ああ、そうだな そう言えば…うん?そうか!皇居御所にて 同じ作戦を行う事は出来ないが …別の手が!」
軍曹が言う
「別の手?それは…?」
アースが言う
「いや、何でもない お前は皇居の役人から 言われた通りにしていろ それだけで良い」
軍曹が言う
「うん?…うむ しかし、そのパレードの警備に 国防軍が付くと聞いたのだ そこで 兄貴 俺は出来る事なら レギストの隊員として 少佐と共に警備をしたいのだが?」
アースが苦笑して言う
「残念だが それは出来ないな アーヴィン?お前はレギストの軍曹である前に 国家家臣防長だ 例え そちらの警備に レギストが就いたとしても お前は それこそ陛下の間近で警備を… 攻長と共に 護衛を行なわなければならない」
軍曹が表情を落として言う
「うむ… そうなのか 俺は… 攻長と?あぁ そう言えば 以前お会いしたのだ 自分より随分と歳若い少年だったのだが…?確か ラミリツ・エーメレス・攻長…」
アースが気づき 悪微笑してから言う
「ああ そうだとも?陛下をお連れしてのパレードとなれば 攻長はお前と共に陛下の横に居らなければならないっ …そして パレードの警備は 国防軍が全て取り仕切る!政府に入り込める余地は無いっ!これは 絶好のチャンスだ!」
軍曹が疑問して言う
「絶好のチャンス?」
アースが微笑して言う
「…いや、何でもない お前にも しばらくしたら 良い知らせを聞かせてやれるだろう 楽しみにしていろ」
軍曹が疑問しつつ言う
「ん?うむ…?」
アースが立ち去る 軍曹が首を傾げながら言う
「相変わらず 兄貴は頭が良いのだ そして その逆である俺には その兄貴の言っている事さえ理解出来んのだが… しかし、兄貴から良い知らせを聞けると言うのであれば きっと 俺は 言われた通りに ただ楽しみにしていれば良いのであろう!」
軍曹が微笑して立ち去る

【 国防軍総司令本部 】

マーレーが言う
「…以上が 今回のパレードの工程であります 以前行われました 陛下の生誕10年をお祝いしたパレードと同様に パレードの行われる メイス地区を担当する 国防軍13部隊と パレードの一部が入る リンド地区を担当する14部隊 この2部隊を用いた警備を行う予定であります」
アースが考えて言う
「ふむ… その工程だが 少し変える事は出来ないか?」
マーレーが僅かに驚いて言う
「え?あ …はっ!どの様な変更でありましょうか?」
アースが言う
「そうだな… 例えば パレードの途中で 一度休憩を入れるとか…?」
マーレーが少し考えてから言う
「はっ 予てより 陛下の外出を警備しておりました 我々の資料によりますと 陛下はご体調を崩される事が 度々あられますので 当日 休憩を必要とするようなご体調であられた場合は あらかじめ空の御簾を用意する事とされております」
アースが言う
「いや、そうではなく 陛下に御所の外で 尚且つ 観客の目に触れない場所で 束の間をお過ごし頂くというのは?」
マーレーが言う
「…はっ …そちらを行うとしました場合は 恐らく 国防軍が周囲から人目を遠ざけ 陛下の身辺を 皇居警備の者が警備に当ると言う形で 可能だと思われます …ただ、パレードの行われます区域には それほどのスペースを用意する場所が取られませんが為 今回のパレードでは少々難しいかと…?」
アースが言う
「そうか… そもそも 国防軍以外の警備を置かねばならないと有っては 意味が無いな… うん?では 逆に 観客ではなく 陛下を遠ざけるか?」
マーレーが疑問して言う
「は?陛下を…?」
アースが言う
「実は 先日私は 陛下へお目通りをさせて頂いたのだが 陛下は皇居警備の者たちによって 常に監視されている事に お疲れであると …恐らく 今までは政府による執拗な警備の中で 窮屈な思いをされていたのだろう 折角 国防軍に皇居の管理が任されたのだ 頭の固い皇居の役人たちでは 話にならない 私は我々国防軍で その束の間を ご用意して差し上げたいと 考えているんだ」
マーレーが感激して言う
「お…っ おお…っ!?素晴らしいっ!流石はハブロス総司令官!歴代国防軍の長っ …小官は感激致しましたっ!」
アースが苦笑して言う
「大げさだな 君は?これ位は普通の事だろう?」
マーレーが言う
「いえっ!それこそ 以前のシュレイガー元総司令官の口からは 決して 聞かされる事の無かった御言葉でありますっ!小官はハブロス総司令官からのご命令で有りませばっ 例え火の中水の中!誠心誠意 邁進致します所存にありますっ!」
アースが微笑して言う
「そうか 君の様な隊長が居るとは 心強いな?…では 早速だが 私の構築した作戦を 遂行してくれるか?」
マーレーが敬礼して言う
「はっ!何なりと 御命令下さい!ハブロス総司令官っ!」
アースが笑みを隠す

【 政府本部 】

TVでニュースがやっている レポーターが言う
『…それでは 次のニュースです 女帝陛下の生誕20周年を記念するパレードまで 残す所2週間となります ここメイス地区では 早くも当日の観覧に向けた整理券なども配られており』
シェイムがTVを見てから言う
「今回のパレードは 以前までとは異なり 警察機動部隊を同行させる事は出来ない… 最も その分は国防軍が 以前まで削減していた人員を 総動員するとなれば 2組織による警備よりは安定する …警備に心配は無いか」
シェイムがノートPCを操作しつつ言う
「…いや、そうなれば むしろ 国防軍に守られている陛下より その中に唯一置かれる エーメレスの方が… とは、少々過保護だろうか?」
シェイムが苦笑する レポーターが言う
『…今回は 先日新しく就任した 陛下の親兵である 防長閣下、攻長閣下も 国民たちへの初めてのお披露目となり 更に今回のパレードには国防軍による招待で 外国からも多数の方が呼ばれる事もあり 女帝陛下は初めてとなります 国民、並びにその他観覧者へ 御言葉を述べられると これら類稀なる 今回のパレードは盛大に』
シェイムがノートPCを操作する手を止め TVへ顔を向けて言う
「陛下が御言葉を?…そんな 馬鹿なっ!?どう言う事だっ!?」

【 国防軍総司令本部 】

マーレーが言う
「手配は完了致しました!製作は1週間以内に可能であるとの事です!当日の予定に支障はありません!」
アースが言う
「よし、では 御言葉を述べられる際の陛下に関しては そちらの人形を使用するとして …後は 当日 人目を避け その人形を陛下と入れ替える作業の方は?」
マーレーが言う
「はっ そちらは 我々13部隊が全責任を持って遂行いたします どうか 我々13部隊にお任せをっ!」
アースが微笑して言う
「良いだろう マーレー少佐 君に任せる」
マーレーが敬礼して言う
「はっ!有難う御座いますっ!」
アースが言う
「これで良い… 陛下の御言葉として その人形を使い 録音された音声が 会場にあるスピーカーから流される それら 約15分の間に…」
マーレーが言う
「はっ 陛下には 束の間の 緩やかな時を お過ごし頂きます」
アースが微笑して言う
「…ああ 15分もあれば 十分だ」

【 政府本部 】

シェイムがデスクを指先で突きつつ考えている 秘書が言う
「メイリス長官 情報局が突き止めたそうです」
シェイムが秘書へ向く 秘書が言う
「国防軍のマーレー少佐の名義にて 外注で人形の発注が行なわれているそうです その発注された人形の容姿から 恐らく 陛下の身代わりではないかと …他にも 陛下の御言葉として使用されると思われる 台詞を吹き込んだデータも確認されたと言う事です」
シェイムが言う
「決まりだな …こうなれば 次の問題は」
内線電話が鳴り 音声が聞こえる
『メイリス長官 攻長閣下がお見えです 長官室へお通しいたします』
ノックが響いた後 秘書がドアを開ける ラミリツが入って来て言う
「兄上!ハブロス総司令官が また 陛下を狙ってるって!?」
シェイムが言う
「その方法が たった今 確認された所だ ハブロス総司令官は パレードの最中に 陛下をすり替えようとしている」
ラミリツが言う
「パレードの時は 僕が陛下の傍に居るんだ そんなの また止めてやるよ!」
シェイムが言う
「だが 今回はそう簡単には行かない 周囲には国防軍の3部隊が控えている 政府の警備部隊を置く事が出来ない以上 お前は その国防軍の中に 唯1人となってしまう」
ラミリツが一瞬驚いた後 表情を困らせて言う
「…そ、そっか 今度は ハブロス総司令官だけじゃなくて 本物の国防軍の部隊が 相手になるんだ… 今度こそ 実戦…っ」
ラミリツが震える手を握り締めて言う
「けどっ 奴らが動くって分かってるなら 何とかしなきゃっ …ねぇ!?アイツはっ!?」
ラミリツが周囲を見渡す シェイムが一瞬呆気に取られて言う
「アイツ…とは?」
ラミリツがシェイムを見る 内線電話が鳴り音声が聞こえる
『メイリス長官 カルメス外交長がお見えです 長官室へお通し致します』
ラミリツがドアへ向く ノックが響き 秘書がドアを開けると メルフェスが現れラミリツに気付いてから微笑して言う
「ラミリツ殿も いらして居られましたか」
ラミリツが怒って言う
「遅いよっ!何やってたんだよ!?こんな時にっ!」
メルフェスが呆気に取られた後苦笑して言う
「あぁ… 申し訳ありません 国防軍が招待したと言う 外国からの招待客に付いて そちらの確認が取られたので お伺い致しました」
ラミリツが怒って言う
「そうじゃなくてっ!そんな事よりっ もっと大切な 仕事があるだろっ!?」
メルフェスが呆気に取られた後 苦笑して言う
「はい?えーと… 攻長閣下?私は一応 外交を担当する 外交長なのですが…?」
ラミリツが言う
「はぁあっ!?」
メルフェスがシェイムへ向いて言う
「シェイム殿 私が改めて確認しました所 国防軍による外国の招待客と言うのは どうやら ガセであったようで 帝国は聞くまでもありませんが メルシ国に置かれても それらの予定は無いとの事でした そもそも 元は本物の陛下のお誕生日をお祝いするこのパレードは 陛下にアールスローンの祝日を祝う国民たちの姿を お見せする事が元よりの主でありますので 外国のお方を招く事は 陛下のご希望ではありませんからね?」
シェイムが呆気に取られつつも言う
「そ… そうでしたか… それは… カルメス外交長 確認を ご苦労様でした」
メルフェスが微笑して言う
「はい 労いの御言葉を 有難う御座います メイリス長官」
ラミリツが怒って言う
「そーじゃなくってーっ!」
メルフェスが言う
「それから ハブロス総司令官が 陛下の入れ替えを企んでいるとの事で」
ラミリツが言う
「それだよっ それっ!」
メルフェスが苦笑して言う
「今回は 国防軍が全警備を行うと言う事ですので 仕方がありません 陛下には パレードはご辞退頂く様に お願いしようと思います」
シェイムとメルフェスが顔を見合わせてから ラミリツが言う
「ご辞退頂くだなんて… そんな事 出来るの?」
シェイムが言う
「もしや 陛下のお加減が 悪いと言う事を理由に?」
メルフェスが言う
「はい、そう言う事です 陛下には残念な思いをさせてしまいますが 今回は規模が大き過ぎますので この国防軍の作戦に 我々政府が対応する手立ては それしかないと思います」
シェイムが言う
「そうですね… では 具体的な方法の方は?」
ラミリツが言う
「そうだよ?陛下は お話出来ないのに どうやって 仮病なんて使わせるんだよ?」
メルフェスが微笑して言う
「そちらは簡単です そもそも陛下に仮病など 使わせる必要は無いのです 必要なのは… お詫びと慰めです ご協力を頂けますか?攻長閣下?」
ラミリツが疑問して言う
「え…?」

【 御所 】

ラミリツが顔を向ける ラミリツの視線の先 女帝が豪奢な椅子に座っている ラミリツが一度視線を落としてから横を向くと メルフェスが微笑する 役人たちがメルフェスへ礼をする メルフェスが女帝の下へ向かう ラミリツがその場で見つめる メルフェスが女帝の下へ行くと 女帝がメルフェスを見て微笑する メルフェスが跪き女帝の手に触れ 女帝を見上げる ラミリツが間を置いて疑問して言う
「あれで…?」
ラミリツの近くに居る役人が微笑して言う
「皇居宗主様がお越しにならなくなられてから 陛下が憂う日々は 我々も胸が痛みました… 攻長閣下 本日は元皇居宗主様こと カルメス様をお連れ頂きまして 真に有難う御座います」
役人が頭を下げる ラミリツが一瞬驚いた後表情を落として言う
「そう… そっか?そうだよね?話が出来る人も居なくて …その陛下を見守っている アンタたたちだって …辛かったんだよね?」
ラミリツが顔を向けると メルフェスが立ち上がり役人たちへ向いて言う
「陛下は 少々お加減が宜しくないご様子です 今回のパレードは 大事を取られて下さい」
役人たちが頭を下げて言う
「畏まりました その様に…」
メルフェスが頷く ラミリツが役人たちを見ていると メルフェスが言う
「攻長閣下」
ラミリツが反応してメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
「陛下が お話をなさりたいと」
ラミリツが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
役人たちが顔を見合わせてから微笑してラミリツを見る ラミリツが戸惑ってからメルフェスを見て  女帝を見る 女帝がラミリツを見て微笑する ラミリツが呆気に取られてから女帝の下へ向かう メルフェスが数歩下がって言う
「陛下の御記憶の中に ラミリツ殿のお姿が有りました」
ラミリツが驚いてメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
「陛下の思い出す事の出来る 御記憶が増えた事は アールスローンへ戻ってからは 初めての事 …とても喜ばしい事です」
ラミリツが女帝を見る 女帝がラミリツを見上げる ラミリツが跪いて礼をすると 女帝が手を差し伸べる ラミリツが気付く 女帝が微笑する ラミリツが微笑し女帝の手を包む

ラミリツとメルフェスが皇居を出ると 高級車が来てドアが開かれる ラミリツとメルフェスが乗り込み車が発車する

【 車内 】

ラミリツが言う
「御所の役人に あんな風に言うだけで 本当にパレードは辞退出来るの?」
メルフェスが言う
「はい 彼らの陛下へ対する忠義は本物です 例え ハブロス総司令官が 陛下へパレードへの参加を強要しようとも 彼らが怖気る様な事はありません ご安心を」
ラミリツが言う
「へぇ… 忠義…?ただの役人かと思ってたけど 凄いんだ?…その役人たちに 指示出来るんだから …アンタも結構 凄いよね?」
メルフェスが一瞬疑問した後 ラミリツを見る ラミリツがハッとして顔を逸らす メルフェスが苦笑して言う
「私が凄いのではなく やはり 陛下のお力だと思います」
ラミリツがメルフェスへ向いて言う
「え?でも…」
メルフェスが言う
「確かに 元は政府によって 作られた女帝かもしれません しかし 彼女からは アールスローンの女帝陛下と言って 過言ではないものを感じます それが何であるかは分かりませんが…」
ラミリツが言う
「あぁ そう言えば 僕もそんな感じがする 何て言うか… 全てを見透かしているみたいな 卓越しちゃってる感じ?」
メルフェスが微笑して言う
「はい、そうですね あの役人たちも 私が初めてお会いした頃は 本当に 一般の管理職の役人の方々と言った様子でしたが それが 陛下のお付をしている内に 忠義を持つようにと 変わって行った様に見受けられます」
ラミリツが言う
「へぇ?けど、何か… 僕にも少し… 分かる かも…?」
メルフェスが微笑して言う
「はい ラミリツ殿も 陛下の御前に居られる時は 正にアールスローン戦記やアールスローン信書さながらの 攻長と言って 十分なお姿に見えます」
ラミリツが衝撃を受けてから不満そうに言う
「…それってさぁ?つまり 陛下の前に居ない時の僕は 全然駄目だって 言ってるようなモンだよね?」
メルフェスが気付いて言う
「うん?あぁ… そうかもしれませんね?」
ラミリツが怒って言う
「言ったなぁーっ!?」
メルフェスが笑って言う
「あっはははっ 冗談です 攻長閣下」
ラミリツが言う
「攻長閣下って 呼ぶなって 言ってるだろっ!?」
メルフェスが言う
「畏まりました ラミリツ殿」
ラミリツがムッとしてからプイッと視線を逸らす メルフェスが軽く笑ってから身を静める ラミリツが間を置いて言う
「ねぇ?陛下と話す時って どんな感じなの?陛下は… 何か言ったりするの?」
メルフェスがラミリツを見てから微笑して言う
「そうですね… まず 言葉は存在しませんので 意識を伝え合う… と言った感じでしょうか」
ラミリツが言う
「意識を?」
メルフェスが言う
「ええ、例えば ラミリツ殿も 誰かと 何かを一緒にされていて… 言葉で伝えなくとも お互いの意志が 伝わる時がおありでしょう?」
ラミリツが僅かに考えつつ言う
「う…ん…?有ると言えば有るけど?…けど それで会話なんて?」
メルフェスが言う
「はい ですので 厳密に言えば 会話にはなっていません しかし 意識の中には 映像が見えるような 音が聞こえる様な時があります そして それが本人の想いを どの様に動かしたのか… それらを共有し 更に伝え合う… と その様な感覚なのですが」
ラミリツが悩んで言う
「うーん…」
メルフェスが苦笑して言う
「と、言いましても やはり言葉での説明では 理解は出来ないでしょう …ですから ラミリツ殿が先ほどしていらした様に ただ 陛下の手に触れて 『貴女と共に在る』と 思って下さるだけで 十分伝わりますよ?」
ラミリツが驚いて言う
「えぇえっ!?何で 分かったのっ!?」
メルフェスが微笑して言う
「例え言葉で伝えなくとも 伝わる時が あるのですよ」
ラミリツが言う
「そう なんだ…?」
ラミリツが考えてから窓の外を見る メルフェスがラミリツを見て微笑する

【 国防軍総司令本部 】

アースが言う
「何?陛下はパレードを ご欠席するだと!?」
秘書が言う
「はい 皇居の陛下付きの役人から その様に ご連絡が入りました」
アースが言う
「理由は?」
秘書が言う
「理由は陛下の ご体調が思わしくない為であると」
アースが言う
「しかし、昨日の医師の診断では 異常は無いと言っていた …急変したと言う事か?」
秘書が言う
「元皇居宗主様が 昨日陛下をご訪問され 直接陛下にお伺いしたとの事です」
アースが呆気に取られて言う
「元皇居宗主… 奴かっ」
アースが一瞬怒り抑えてから秘書へ言う
「皇居宗主は 政府の役職だっ 国防軍は 医師の診断だけを考慮すると伝えろ 陛下にはパレードに御出席を頂く!」
秘書が言う
「はい 知らせを伺いました折 私の独断にて その様に判断し 伝えたのですが…」
アースが言う
「答えは変らないと?」
秘書が言う
「はい」
アースが受話器を取って言う
「分かった 私が直接 指示を行う」

【 政府本部 】

メルフェスが携帯を切る ラミリツが言う
「どう?」
メルフェスが微笑して言う
「はい 大丈夫です やはり ハブロス総司令官からも連絡があった様ですが 彼らが断固お断りをしたと」
シェイムとラミリツがホッとする メルフェスが言う
「そもそも 彼らにとって ハブロス総司令官への信用は 先日の一件で大きく崩れていますからね?当人たちだけで考えるなら 今は 国防軍の総司令官よりも 政府の攻長閣下の方が 陛下にとっても役人たちにとっても 頼られる存在となっています」
ラミリツが驚く シェイムが一瞬驚いた後微笑して言う
「凄いじゃないか 攻長閣下!政府が失っている信用を 1人分とは言え 修復してしまうとは!」
ラミリツが僅かに頬を染め 戸惑って言う
「ぼ、僕は… ただ当たり前の事を… しただけだよ?」
メルフェスが言う
「その当たり前の事を 一人一人が行ってさえいれば 信用と言うものは 失われたりはしないのでしょう しかし それは難しい事でもありますからね?」
ラミリツが視線を落として言う
「え?そうなの…?難しいって… 何で難しいの?」
メルフェスが言う
「人は 弱い生き物ですから」
ラミリツが考えながら言う
「…弱い生き物だから?」
メルフェスが微笑するシェイムが2人の様子に微笑すると内線電話が鳴り 声が響く
『メイリス長官 情報局 局長からお電話が入っております』
シェイムが受話器を取ってボタンを押して話を始める

【 国防軍総司令本部 】

受話器が叩き置かれ アースが表情を怒らせて言う
「クッ …国防軍の管轄でありながらも どうあっても女帝陛下をパレードへは出席させられないとはっ 奴ら皇居管理の連中を 国防軍の者へ替える事は出来ないのかっ!?」
秘書が言う
「残念ながら…」
アースが悔しそうに視線をそらす 秘書が言う
「皇居管理の者は 親族3系統に置いて 国防軍にも政府にも属さない アールスローン国民でなければならないと言う 法律の下定められておりますので」
アースが頭を抑えて言う
「ああ、そうだったな …そもそも それが可能であったのなら 偽の女帝陛下など 祖父上の国防軍が許す筈がなかった筈だ …その上 あの偽の女帝陛下さえ 皇居の者たちは本物陛下に近い者として 認識しているのだろう これでは いくらこちらが手を尽くそうとも あの皇居宗主が陛下の言葉として伝える言葉が 陛下の意思として優先されてしまう… 下手をすれば また何か策を取られるとも…っ!?」
アースが視線を強めて言う
「…やはり 奴らの処理を優先させるか これ以上 奴らの好きにはさせられんっ」

【 政府本部 】

シェイムが電話をしている ラミリツがそれを見てから 立ち上がって言う
「じゃ 僕 帰るから …また 皇居に行くなら 言ってよ?」
メルフェスが微笑して言う
「はい ラミリツ殿 本日はご足労を頂き 有難うございました」
ラミリツが微笑してから立ち去る シェイムが受話器を置く メルフェスが視線を向けると シェイムが言う
「…やはり ハブロス総司令官は お怒りの様です 私やラミリツ… メルフェス殿の情報を 探っていると」
メルフェスが言う
「そうでしょうね 相手は国防軍を従えるハブロス家 …彼が本気になれば 我々は一溜りもありません 2度も彼の行動を阻害しているのですから そろそろ危険でしょう」
シェイムが言う
「では…」
メルフェスが言う
「折角 ラミリツ殿に ご信頼を頂けた所 とても残念ですが …この政府を守るには そのラミリツ殿へ託すしかありません」
シェイムが言う
「しかし… 本当に大丈夫でしょうか?ラミリツは心身共に強いとは言え やはり子供です その彼に この政府そのものを預けると言うのは 流石にそちらは 重過ぎるのでは?」
メルフェスが言う
「そうですね とても可愛そうだとは思いますが 我々には ラミリツ殿へ賭ける他にありません …それに ラミリツ殿には いざと言う時には味方に付いてくれるであろうお方が 2人居られます」
シェイムが言う
「そちらは?」
メルフェスが言う
「1人は攻長を守る防長 ヴォール・アーヴァイン・防長閣下です」
シェイムが呆気に取られて言う
「しかし、彼は国防軍の… ハブロス総司令官の弟ですよっ?」
メルフェスが言う
「ええ しかし、彼の正義は ラミリツ殿と同じく 本物であると …その様に私には感じられました それに 彼はとても 素直です」
シェイムが疑問して言う
「素直?」
メルフェスが言う
「はい、素直と言うのは 一見 相手の思うがままにされる者と取られがちですが 逆に 相手の間違った所を 見透かす力を兼ね備えているとも言えます 今はただ 他者の命令に従っているだけであろうとも その者が 真に何かを行おうと決めた時には 誰よりも強い存在となるでしょう それは ラミリツ殿も同じです」
シェイムが呆気に取られる メルフェスが言う
「そして もう1人は… こちらは 即戦力です 既に全てを見透かされた 元防長ヴォール・ラゼル・ハブロス様に付き従う 元国防軍攻長… 今のラミリツ殿にとっては 大先輩と言った所でしょうかね?」
シェイムが一瞬呆気に取られてから 表情を困らせて言う
「では どちらも 国防軍の方… ですが?」
メルフェスが微笑して言う
「はい、ですので ラミリツ殿には 政府の攻長ではなく 国防軍の攻長として ハブロス総司令官の権力から 逃れて頂きます」
シェイムが言う
「…かなりの 賭けであると 思うのですが…」
メルフェスが言う
「従って 我々に出来る事は 最大限で行い ラミリツ殿を国防軍の攻長へと仕立て上げましょう …シェイム殿 その為には ラミリツ殿の兄である 貴方の力が 一番必要となります …行えますか?」
シェイムが言う
「私がやるべき事であるのなら どの様な事でも」
メルフェスが微笑して言う
「でしたら どうか フレイスと同じ思いで ラミリツ殿に厳しく当って下さい …誰よりも愛しくあろうとも 御自分から …政府から 彼を突き放して下さい 今のままでは 彼を守って下さる 国防軍のお二方も 政府の攻長であるラミリツ殿を 守られません」
シェイムが言う
「…分かりました マスターシュレイゼス 私は ラミリツを信じ そして貴方のその策に賭けます!」
メルフェスが微笑し頷く

【 ハブロス家 アースの部屋 】

アースがデスクの椅子に座って書類を見ている ドアがノックされ 執事が言う
「アース様 フロスト医師が 旦那様の診断結果を お伝えしたいとの事です」
アースが一瞬反応してから言う
「…そうか 分かった お通ししろ」
ドアが開かれ医師が入って来る ドアが閉められると アースが言う
「フロスト殿 わざわざ こちらへお越し頂いたと言う事は…」
医師が言う
「はい… 点滴も もうお体の方が受け付けない状態にあられます ここからは 旦那様の御生命力のみ …と言う事に」
アースが言う
「最近は 意識も途絶える事が多い… そろそろ 身構えておけと言う事か?」
医師が言う
「正直な所 ナノマシーンによる 脳細胞の損傷と言うのは 判断が難しい為 …確かな事は言えませんが 皇居医師から話を聞いた限りでは 旦那様の状態は それほど悪くは無いと…」
アースが僅かに驚いて言う
「それはどう言う事だ?」
医師が言う
「残念ながら 詳しくは… 守秘義務と言う事で 伝えてはもらえませんでした 皇居医師は優秀な精神科医であるため 私も それを頼りに 旦那様の容態を伝え その返答として得たのですが しかし 治療法などの助言は出来ないと言われてしまい 私には もう手を尽くす事は出来ません もし 国防軍のお力で その皇居医師を 旦那様の医師として 従える事が出来れば もしかしたら…?とも思うのですが…」
アースが目を細めて言う
「皇居医師か… 通常では 陛下以外の受診などは行わないと言われているが …いや、もし その医師を連れて来られても 恐らく陛下の身に有る物が 無ければ 意味が無い」
医師が疑問して言う
「何か?」
アースが言う
「いや …そうだな 難しいかもしれないが 私から話をしてみよう …その皇居医師の名前を 知らせておいて貰えるか?」
医師が言う
「はい、執事の方に 詳しい連絡先なども お伝えしておきます それでは」
アースが言う
「ああ 長く 世話になった 父に代わり 礼を言う」
医師が言う
「お力になられませんで 申し訳御座いません」
アースが言う
「いや 良く尽くしてくれた」
医師が深く礼をしてから立ち去る アースが一度視線を落としてから立ち上がる

【 ハブロス研究所 】

アースがやって来て周囲を見る ルイルが作業をしている アースが来て言う
「状況は?」
ルイルが気付いて言う
「あ、ハブロス様 こんな時間に来られるとは 少々驚きましたが …状況ですか?そうですね?サンプルが少ないので 時間は掛かりますが 一応は順調です これで 次のサンプルが手に入れば」
アースが言う
「サンプルは もう手に入らないかもしれない これで駄目だと言うのなら… 時間切れだな」
ルイルが驚いて言う
「え?…もしや ヴォール・アーケスト・ハブロス様のご容態が?」
アースが言う
「ああ… 後は生命力次第だと言われた パレードでは サンプルを手に入れられなくなってしまった 次の陛下の外出が何時になるのかも 今の所予定は無い …もう無理だろう」
ルイルが言う
「そう言う事でしたら!これで行きましょう!大丈夫ですっ 間に合いますよ!」
アースが言う
「だが サンプルが足りないのだろう?」
ルイルが言う
「十分かと聞かれれば 少ないと答える程度ですっ!急ぐなら 多少の劣化は許容範囲っ 間に合いますよ!ハブロス様っ!」
アースが疑問して言う
「では それで 治療が出来ると言う事なのか?」
ルイルが言う
「いいえ そうではありません 陛下からは 元となるナノマシーンを頂きました ですから次は 通常のナノマシーンが必要です!」
アースが言う
「通常の… とは?マスターたちが持っている ナノマシーンの事か?」
ルイルが言う
「そうです!」
アースが言う
「それなら お前が所持しているのだろう?マスターブレイゼスのナノマシーンを」
ルイルが言う
「ええ、しかし 彼のナノマシーンは 過去にも使用し 残っていた物も 今回の実験や 陛下のナノマシーンをコピーするのに使ってしまいました それに 元々1人分の治療を行おうというのですから 1人分のナノマシーンが無ければ 不可能でしょう」
アースが言う
「そうか… では そちらはどうしたら手に入る?」
ルイルが言う
「それは勿論 ハブロス様のお力で!」
アースが言う
「ナノマシーンの売買など 聞いた事が無い お前はどうやって マスターブレイゼスのナノマシーンを手に入れた?」
ルイルが言う
「私は政府の研究局が保有していた物を 拝借しただけですから どうやって手に入れたのかは知りません しかし、政府が手に入れる事が出来たのですから 国防軍に出来ない事は無いでしょう?」
アースが言う
「そうか では 調べさせよう」
ルイルが微笑して言う
「なるべく急いで下さいね?ハブロス様!」
アースがルイルを見て不信な表情を見せてから立ち去る

【 カルメス邸 】

マリが驚いて言う
「え?わ、私と…っ!?」
メルフェスが微笑して言う
「はい、私の古い友人が 酒場を開業したそうなのです 彼はバーテンになりたいと ずっと昔に言っていましてね?しかし 親の仕事を継いで弁護士を行っていたので 今までは出来なかったそうなのですが やっと時間を取られるようになったと」
マリが戸惑って言う
「し、しかし…っ 私なんかが メルフェス様の連れとして お邪魔をするだなんてっ!?」
メルフェスが苦笑して言う
「小さな店です 特に畏まった場所でもないので 何もお気になさらずに」
マリが言う
「で、でも… 本当に私で良いんでしょうか?そのご友人と お話をされていても 私では 話題にも付いていけそうに無いですし… お邪魔になってしまうかもしれません …あ、それに きっと メイリス長官の方が!」
メルフェスが微笑して言う
「実は 私も シェイム殿に ご一緒いただこうと思っていたのですが 彼はお酒が飲めないそうで マリーニ先生は 大丈夫でしたよね?」
マリが衝撃を受け 頬を染めて言う
「え!?な、なんでっ メルフェス様が ご存知なのですかっ!?」
メルフェスが微笑して言う
「何でも何も 以前 政府のパーティー会場で 私と同じ物を飲まれていたでしょう?あれは結構強いお酒でしたよ?意外だと思い 強く記憶に残っています っははははっ」
マリが赤面する

【 マスターの店 】

マリが目を見開いて立ち止まる メルフェスが微笑して言う
「どうしました?マリーニ先生?」
マリがハッとして慌てて言う
「あっ い、いえ…っ その… このお店は…っ」
メルフェスが言う
「ああ、元は 喫茶店だったそうです まだ開業準備中ですから 看板もそのままですが マスターは変わってますよ?」
マリが一瞬驚き 視線を落として言う
「そう… だったのですか…」
メルフェスがマリの背に手を当てて言う
「さぁ 入りましょう?」
マリが表情を困らせつつ言う
「はい…」
店の来客鈴が鳴る レンゼスが顔を向けて言う
「おお?可愛いお嬢様がいらしたかと思ったら お前か シュレイゼス!」
メルフェスが微笑して言う
「私の連れですから 手は出さないで下さいね?マスター」
レンゼスが笑んで言う
「それは残念」
マリが一瞬呆気に取られた後 ハッとし微笑して言う
「は、初めまして マリーニと申します」
レンゼスが微笑して言う
「マスターレンゼスだ よろしくな?マリーニお嬢様」
マリが微笑する

マリがカクテルを一口飲む レンゼスが微笑して言う
「どうだい?お嬢様?」
マリが微笑して言う
「は、はい …とっても美味しいです」
レンゼスが微笑して言う
「そいつは良かった!」
メルフェスが微笑して言う
「”薄い”と仰っていますよ?」
マリが衝撃を受ける メルフェスが笑いを抑える マリが慌てて言う
「メ、メルフェス様っ」
レンゼスが苦笑して言う
「あっはははっ こいつは 驚いた!可愛い見た目に合わず なかなか お強いみたいだな?どれどれ それじゃぁ…」
レンゼスがカクテルにアルコールを足す マリが衝撃を受け慌てて言う
「あっ あっ!あのっあのっ!」
レンゼスがカクテルを軽くかき混ぜてから言う
「さぁ これでどうだっ?」
マリがグラスを持って言う
「で、では…っ」
マリが一口飲む レンゼスがじっと見て言う
「今度はどうだい?」
マリが一瞬間を置いて言う
「は、はいっ とってもっ」
メルフェスが言う
「”アルコールの味しかしない”と」
レンゼスが衝撃を受ける マリが慌てて言う
「メルフェス様っ!」
メルフェスが笑う レンゼスが言う
「くぅ~ まだまだ 修行が足りないかぁ」
マリが慌てて言う
「い、いえっ!大丈夫ですっ!ヴォーカトニックを加えれば きっと 美味しい筈です!」
レンゼスが閃いて言う
「おお!なるほどっ!」
レンゼスがカウンター内からビンを取り出してグラスに足し 更に 別のビンからグラスに足してかき混ぜて言う
「さぁっ 今度こそっ!」
マリが言う
「は、はいっ では いただきますっ!」
マリが一口飲み 微笑して言う
「美味しいっ」
レンゼスが喜んで言う
「よぉーし!」
マリが笑う メルフェスが軽く笑う メルフェスの携帯が鳴り メルフェスが携帯のディスプレイを確認すると言う
「少し 失礼致します」
マリが言う
「あ、はいっ」
メルフェスが立ち去る マリがそれを見送った後グラスを一口飲む レンゼスが微笑して言う
「お嬢様 あいつと一緒に居ると大変だろう?」
マリが疑問して言う
「え?」
レンゼスが言う
「さっきみたいに 心の中で思っている事を 見透かされちまうみたいで」
マリが呆気にとられつつ言う
「あ…!い、いえっ!…でも 不思議ですね?本当に 思っている事が 分かってしまっているみたいでした」
レンゼスが言う
「ああ、なんでも 政府の重役の中に居たら あんな能力が付いちまったらしい」
マリが驚いて言う
「…えっ?そ、それでは…っ!?本当に…っ?」
レンゼスが言う
「ナノマシーンの補佐能力は 大まかには決まっているもんだが 元々は人の持つ力を補佐して強化するものだ だから… 言っちまえば 第六感って奴かね?相手の思っている事が 分かっちまうのは …その力まで 強化されちまったらしい」
マリが呆気に取られた後 気を取り直して言う
「そ、そんな事が… あ、でもっ 凄いですよね!?そんな能力が 私にもあったら… きっと いろんな方と 上手にお話したり 仲良くなったり 出来るでしょうし!?」
レンゼスが言う
「果たして そうかね…?」
マリが呆気にとられて言う
「え…?」
レンゼスが言う
「相手の腹の内なんて 分からない方が幸せだと 俺は思うね?…まして あいつが居るのは 政府の重役たちの中だ それこそ 腹の中なんて 真っ黒い連中ばかりさ」
マリが呆気に取られる レンゼスが言う
「ま、ナノマシーンの制御って言うのは マスターと呼ばれる頃には 有る程度制御出来るようになっているもんだ 嫌なら それをさせないように 止める事も出来る …だが いざ仲良くなった奴の 腹の中を覗いちまった時には ショックも大きいだろう 自分を信じてくれていると思っていたら… 実はそうでもなかったり …なんてな?想像すると怖いだろう?」
マリが視線を落として言う
「は… はい… そうですね…」
レンゼスが微笑して言う
「だが、あいつは もう 吹っ切れたらしい 何があったか知らないが ”最後には分かってもらえる” とか言ってたな?誰かそんな奴でも 居たんだかなぁ?」
マリがレンゼスを見て言う
「最後には…?」
レンゼスが言う
「うん…」
マリが視線を落として言う
「”最後には分かってもらえる” …そうですね 誠意を込めて ずっと そうしていれば きっと いつかは伝わる…」
レンゼスが微笑して言う
「ああ、そうだな?」
マリがレンゼスを見上げて言う
「はいっ」
レンゼスが微笑する メルフェスがやって来て言う
「失礼しました」
レンゼスが言う
「政府 唯一のマスター殿は お忙しそうだな?」
メルフェスが言う
「政府では 敵も味方もありませんでしたからね 全員敵だと思っている分には楽でしたが 守るべき仲間を得ると 一転して忙しくなります」
レンゼスが言う
「その政府重役たちは 一新させたんじゃなかったのか?」
メルフェスが言う
「ええ しかし 力を得ると 人は変ってしまうものですから …面倒ですね」
レンゼスが息を吐いて言う
「そろそろ 政府から離れた方が良いんじゃないか?皇居宗主を下ろされたとなれば 次に 政府のマスター騒動が起きれば 政府長官であっても 庇い切れない …大体 もうアールスローンと帝国の 架け橋をする必要もないんだろう?」
メルフェスが言う
「確かにそうですが …最後まで共に戦うと 約束しましたから」
マリが驚く レンゼスがしょうがないと言った様子で息を吐く メルフェスが言う
「所で レンゼス この店は 気に入りましたか?」
マリとレンゼスが一瞬呆気に取られた後 レンゼスが言う
「ああ、突然の事だったから 驚いたが 良い店を紹介してもらえた カウンター内の使い勝手も良いしな?」
メルフェスが微笑して言う
「それは良かったですね?」
マリが視線を逸らす レンゼスが言う
「店の名前も気に入ってる あの国防軍で有名だった サロス・アレクサー・レーベット大佐の奥様の名前だもんな?」
マリが驚く メルフェスが言う
「ええ、そうですね」
レンゼスが言う
「そう言えば この店の常連だったって言う お客に聞いたんだが… 少し前まで そのレーベット大佐のご息女様が この店に匿われていたらしい ほら、そこに ハープがあるだろう?普段はそのハープを弾いて ハープ演奏者を装っていたらしいんだ それじゃ レギストに捜索されても 見つけられなかったかもな?」
マリが驚き呆気に取られている メルフェスが言う
「ほう… それは 中々上手い逃れ方ですね?ただ身を隠すのでは無く あえて 表に見せて かく乱していたとは …ちなみに そちらのお嬢様は?」
レンゼスが言う
「外国へ逃避させたらしい メルシ国かねぇ?詳しい事は知らないが …俺も見習いたいねぇ?どうしたら もっと 知能補佐能力を上げられるんだ?」
メルフェスが言う
「それはもちろん 基礎となる知識を上げませんとね?」
レンゼスが言う
「あ!言ったなぁ!?」
レンゼスとメルフェスが笑う マリが呆気に取られたまま胸に手を当て握り締める

【 国防軍総司令本部 】

秘書が言う
「ハブロス総司令官 ナノマシーンに付いての情報が届きました」
アースが言う
「情報?私はナノマシーンを手に入れる その方法 を調べろと言った筈だが?」
秘書が言う
「はい、しかし ナノマシーンはどの様な方法を用いても 手に入れる事は不可能だそうです」
アースが言う
「それで情報か… 聞こう」
秘書が言う
「はい、まず 基本としまして ナノマシーンは マスターの名を持つ者より 次の担い手へ託される物であり マスターたちは 如何なる金額を用いても その取引に応じる事は無い との事です」
アースが言う
「しかし 政府は過去において マスターブレイゼスのナノマシーンを手に入れている その方法は?」
秘書が言う
「はい、そちらを確認させました所 マスターブレイゼスは 過去 政府に置いて 己のナノマシーンの力を利用した上で 罪を犯し 捕らえられた罪人であったと」
アースが言う
「罪人か… 珍しいな マスターの名を持つ者でありながら …では 政府内でそのような事が起きた為に ナノマシーンを政府に取り上げられたと?」
秘書が言う
「法律的に ナノマシーンを保有する者が その力を使って犯罪を行った際は その罪の重さによって ナノマシーンの強制除去を命じられる場合があるとされています そして、取り出されたナノマシーンは 破棄されるものと …恐らく それが途中で 政府の研究局へ流れたものと 思われます」
アースが言う
「なるほど… では 過去において マスターの名を持つ者が それに値する犯罪を行ったケースは?」
秘書が言う
「マスターブレイゼスが 唯1人であったと」
アースが息を吐いて言う
「端から 望みの無い研究だったか…」
アースが気付いて言う
「いや、ナノマシーンの除去は 何も罪人だけではないだろう?マスターの名を嫌い 己の持つナノマシーンを除去する者も居る そう言ったナノマシーンは どうなっているんだ?」
秘書が言う
「はい、そちらの場合ですと 除去を行った本人へ 保管を義務付けられるそうです」
アースが言う
「その者たちは 金銭では取引に応じないと言う事だったが では 医療目的であった場合はどうだ?国防軍にも ナノマシーンの除去を行い 在席を希望した者が居た筈だ 彼らへ連絡を取ってくれ」
秘書が言う
「はい 畏まりました」
秘書が立ち去る 別の秘書がやって来て言う
「失礼致します ハブロス総司令官 命じられておりました 政府の情報を手入しました」
アースが言う
「政府の長を下ろす方法は 有りそうか?」
秘書が言う
「国防軍に主権が御座います 現在に置かれましては そちらは難しい事となりますが 政府の長官のみでありましたら その座を退かせる事が出来るかと」
アースが言う
「攻長も変える事は どうしても無理か?」
秘書が言う
「攻長を変える事になりますと こちらの 防長閣下にも 被害が及んでしまいます」
アースが言う
「そうだな… しかし 例え長官だけを替えようとも 攻長が奴の弟であっては 本質は変えられ無い… もう一人の方はどうなっている?」
秘書が言う
「はい 政府外交長に置かれましては 彼の変更における 国防軍への影響は 皆無であるとされております」
アースが言う
「では そちらから行うか… アールスローン国民になりすましている マスターを解任させる事など 簡単だ」

【 カルメス邸 】

車が到着し 開かれたドアから メルフェスとマリが降り屋敷の玄関へ向かう 秘書が出迎えて言う
「お帰りなさいませ カルメス様 マリーニ様」
マリが微笑して言う
「はい ただいま エレンさん!」
秘書が一瞬呆気に取られた後 軽く笑ってから言う
「何か宜しい事があられました様で 何よりです マリーニ様」
マリが一瞬呆気に取られてから羞恥に頬を染めて苦笑する 秘書が微笑してからメルフェスへ言う
「メルフェス様 メイリス長官が お越しにございますが?」
マリが驚きメルフェスへ向く メルフェスが言う
「ああ、少し 打ち合わせがあるのだが 今日は シェイム殿と2人だけで話をするつもりだ 従って 君はもう上がってくれて構わない」
秘書が言う
「畏まりました お留守の間に その他の連絡事項等は御座いませんでした それでは お先に失礼をさせて頂きます」
メルフェスが微笑して言う
「ああ、お疲れ様 今日も有難う」
秘書が微笑して礼をする マリが微笑して秘書へ頭を下げて言う
「お疲れ様でした エレンさん!また明日」
秘書が微笑して言う
「はい 有難うございます マリーニ様 それではまた明日 お目に掛かりたいと存じます」
マリと秘書が微笑して マリが屋敷へ入って行く

【 国防軍総司令本部 】

ドアがノックされ秘書が入って来て言う
「失礼致します お待たせ致しました ハブロス総司令官」
アースが秘書へ向いて言う
「どうだ?」
秘書が言う
「残念ながら どちらの隊員に置かれましても 応じる事は 出来兼ねるとの 返答でした」
アースが目を細めて言う
「国防軍に居りながらも 私の命令に従わないとは… マスターの名を持つ者は やはり気に入らないな …結局 復帰を願い出た マスターは居ないのだろう?」
秘書が言う
「はい 現在も マスターの名を持つ者の 国防軍への復帰は 確認されておりません」
アースが息を吐き視線を逸らす

【 ハブロス研究所 】

アースが言う
「残念ながら そう言う事だ」
ルイルが不満そうに言う
「そんなっ 折角ここまで来て!ハブロス様は 本当にそれで宜しいのですか?それなら その元マスターたちの所有する ナノマシーンを 奪い取ってでもっ!」
アースが言う
「国防軍が ナノマシーンの強奪など 世間に知られれば 国防軍への信頼が地に落ちるだろう その様な事は 命じられない」
ルイルが言う
「ご自分のお父様より 国防軍の方が大切であると?」
アースが言う
「当然だ」
ルイルが言う
「国防軍は仲間意識が高いと思っていましたが その分 ご家族とのそちらは低いのですね?」
アースが言う
「何とでも言え それで、この研究所は近々閉鎖する 礼を言うつもりは無い 早々に出て行って貰おう」
ルイルが言う
「ちなみに ハブロス様は そちらでご満足なのですか?お父様をその様にした 我々を解放されて?」
アースが言う
「お前を牢屋から出したのは 無意味だったな?余計な金を払わされた」
ルイルが言う
「では そちらのお礼を 致しましょうか?」
アースが言う
「結構だ お前と行動を共にするなど」
ルイルが言う
「そうですか?上手くすれば ヴォール・アーケスト・ハブロス様をお助けし 尚且つ メイリス家を長とする 政府を潰せますよ?」
アースがルイルを横目に見る ルイルが微笑して言う
「どうです?折角 仇である私を 牢から出したのですから 利用出来るものは どんどん利用した方が 貴方にとってお徳でしょう?」
アースが言う
「何が望みだ?」
ルイルが言う
「私の望みですか?それはもちろん 私は科学者ですから 自分の興味の有る事を 研究する事が望みです …ですから 最新設備の整った この研究所を閉鎖され 追い出されてしまうのは 困るのです それを回避する為でしたら いくらでもご協力しますよ?ハブロス様?」
アースが言う
「では 言ってみろ その方法を?面白ければ お前の望み通り この研究所を残してやろう」
ルイルが微笑する

【 カルメス邸 マリの部屋 】

マリが着替えをしていると 携帯が着信する マリが反応して振り返る

【 カルメス邸 リビング 】

シェイムが言う
「…では 彼がナノマシーンを手に入れる方法は メルフェス殿へ 罪を着せる事として」
メルフェスが言う
「はい 方法はそれとして 次に長官である シェイム殿が 何時狙われるかと言う事が問題です 私が先になってしまっては シェイム殿をお助け出来ない しかし 逆であれば 少なくとも 貴方を助ける事は出来ます」
シェイムが言う
「しかし 私が助かっていては ラミリツを国防軍へ信頼させる事が難しくなります …ですので、私も考えたのですが ここは 私が政府の敵になりましょう!そうすれば 正義感の強いラミリツは 私を恨んでくれる筈です!」
メルフェスが言う
「いえ それでは 本当に シェイム殿が危険に晒されてしまいます 政府と国防軍の両方が敵になっては 私であっても 守りきれない …シェイム殿 ナノマシーンの使用には限界が有るのです」
シェイムが驚いて言う
「…え?」
メルフェスが言う
「以前 マスターカルンゼスが シェイム殿を通じて 私へ言伝をしていたでしょう?覚えていらっしゃいますか?」
シェイムが言う
「はい ナノマシーンを 使用し過ぎない様にと…」
メルフェスが言う
「そうです ナノマシーンは使用すればするだけ 宿主の身へ負担を掛けます その限界を超えれば…」
シェイムが驚く メルフェスが言う
「ですから やはり 貴方には 生き残って頂かなければいけません …それに」
シェイムがメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
「ラミリツ殿を 本当に1人には させないであげて下さい 貴方は彼に残された たった1人の家族です」
シェイムが視線を落とす メルフェスが微笑する

【 通路 】

マリが部屋のドアの外で盗み聞きをして居て 表情を困らせ視線を落とす

【 カルメス邸 マリの部屋 】

マリが表情を困らせて言う
「メルフェス様もメイリス長官も とっても大事なお話されているのに… 保育園に脅迫状が届いただなんて言っても… きっとメルフェス様を 困らせてしまうだけ…」
マリが視線を向ける 視線の先にマーガレットの花束が有る マリが顔を伏せて言う
「王子様は… レーベット大佐の お嬢様を匿っていただけだったのに… あの時 私が やっぱり 勇気を出せなかったせいで…」
マリが顔を上げて言う
「そうだわ レンゼスさんに!マスターレンゼスさんは 弁護士さんだって仰ってらしたし きっと 何か良い方法を 教えて頂ける筈だわ!私1人で悩んでいるより きっと!」
マリが立ち上がる

【 街中 】

マリが高級車を降りる 女性秘書が言う
「では 御用が済まれましたら 御連絡を下さい」
マリが慌てて言う
「あ、いえっ!帰りはタクシーで帰りますからっ!今日はお休みの日でしたのに ごめんなさいっ」
女性秘書が微笑して言う
「とんでも御座いません マリーニ様のお役に立つ事が 私の役目ですので どうか 御遠慮無く」
マリが微笑して言う
「は、はい… 有難う御座います」
女性秘書が言う
「それでは 行ってらっしゃいませ マリーニ様」
マリが言う
「はいっ!行って来ます!」
女性秘書が微笑して礼をしてから 高級車へ乗り込み車が発車する マリが車を見送ってから遠目に マスターの店を見て 一度気を引き締めてから向かおうとして ふと気付くと近くに花屋が有る マリが微笑して言う
「ご相談をさせて頂くのだから せめて 何か…」
マリが花屋へ向かう

マリがマーガレットの花束を持って花屋から出て来る マリがマスターの店へ向かいながら花束を見て苦笑して言う
「お酒のお店にも そんなに不釣合いじゃないよね?やっぱり 貴方たちは素敵… 王子様と同じくらい… ふふっ」
マリが苦笑して店の前に立ち ドアを開けようと手を伸ばしながら 窓を覗こうとすると 突然ドアが開く マリが驚くと 軍曹がドアを支えつつ言う
「この御恩は一生っ!そして 必ずや 自分は いつの日かっ!マスターのお役にー っととっ!すまんっ!失礼したあ!」
マリが慌てて言う
「あ、い、いえっ こちらこそっ」
軍曹がマリを見てから立ち去る マリが呆気に取られつつドアを抑えたまま言う
「今の方 レギストの…」
マリがマスターへ向きかけて驚く マーガレットの花束と共に マリの姿を確認したマスターが 驚いて言う
「…マリちゃん?」
マーガレットの花束の先に見える マスターの姿に マリが驚いたまま頬を染めて言う
「マーガレットの 王子様…っ!」
マリが驚いたまま言う
「ど、どうして…?レンゼスさんは…?」
マスターが驚いた状態から正気に戻って言う
「レンゼス…?あ、ああ…?師匠には 1日だけ 店を貸していたんだけど…?」
マリが呆気に取られて言う
「い、1日だけ!?」
マスターが言う
「う、うん…?なんでも 知り合いに1日だけの バーテンを頼まれたって…?どうしても この店が良いんだって言うから 仕方なく」
マリがハッとして密かに言う
「メルフェス様…っ」
マスターが微笑して言う
「レンゼス師匠は 俺のコーヒーのお師匠さん!美味いコーヒーを淹れるのが得意な人で 本職は弁護士らしいんだけど それが何でバーテンだったのかは 良く分からないんだが…?」
マリが苦笑した後マスターを見て微笑する マスターが微笑んで言う
「ここは 正真正銘 俺の喫茶店なんだ!良かったら 飲んで行って?俺の淹れるコーヒー!」
マリが言う
「はいっ いただきます!」
マスターとマリが笑い マスターが席を示す マリが微笑して席へ向かう

【 ハブロス研究所 】

アースが言う
「準備の方はどうなっている?」
ルイルが微笑して言う
「はい もちろん順調です なにしろ2度目ですから 本人も慣れたものです」
アースが言う
「では 早速 政府に忍び込んでいる マスターを追い出してやろう …これ以上 邪魔をされては面倒だからな」
ルイルが言う
「先に長官殿の方が宜しいのでは?」
アースが言う
「いや、奴は 身体補佐能力のマスターとは言え その力を 知能補佐へ移す事も可能らしい 下手に我々の先を打たれない様 今の内に 一度追い出しておく …お前の方は 変わりなく そちらの準備を続けておけ」
アースが立ち去る ルイルが苦笑して言う
「はいはい 御命令通りに」

【 カルメス邸 】

高級車が到着し女性秘書がドアを開けると マリが降り 女性秘書に頭を下げる 女性秘書が微笑する

メルフェスが窓からそれを眺めてから 顔を向けて言う
「シェイム殿 申し訳ありませんが 少々 失礼致します」
シェイムが言う
「はい どうぞお構いなく」
メルフェスが部屋を出て行く

マリが屋敷に入って来ると メルフェスが来て言う
「マリーニ先生 マスターグレイゼスに お会いになられたそうですね?」
マリがメルフェスを見て向き直って言う
「メルフェス様 本当に有難う御座いました!」
マリが頭を下げる メルフェスが苦笑して言う
「強引な方法を取りました事を お詫び致します」
マリが微笑して言う
「いえっ また 私が1人では 失敗してしまうかも しれませんでしたから!」
メルフェスが言う
「そう仰って頂けると助かります ちなみに マスターレンゼスがコーヒー好きになる以前は バーテンを夢見ていたのは本当ですよ?本職に影響が出るので コーヒーに変えたそうです」
マリが呆気に取られた後 苦笑して言う
「メルフェス様?私そんな事 疑っていませんよ?」
メルフェスが軽く笑って言う
「そうでしたか 失礼致しました ただ、最後になりますので 出来うる限り 誤解を解いておきたいと 思いました次第でして」
マリが呆気にとられて言う
「最後?」
メルフェスが言う
「はい、今回この様な強引な方法を用いた事も そちらが理由です …マリーニ先生 突然ですが 私はそろそろ 政府から身を引こうと思います」
マリが呆気に取られて言う
「え…?それは…?」
メルフェスが言う
「そうなりますと 私は政府の外交長の役職と共に メルフェス・ラドム・カルメスと言う名前も 高位富裕層の階級も無くなります もちろん この屋敷に住む事も無くなります」
マリが呆気に取られる メルフェスが微笑して言う
「政府のお見合いパーティーは 廃止致しましたので もう マリーニ先生が 私と婚約している必要は無くなりました そちらは ご安心下さい」
マリが驚く メルフェスが微笑して言う
「マリーニ先生の婚約相手は メルフェス・ラドム・カルメスとなっておりますので 早めに解消して置いた方が良いかもしれません ともすれば 私が政府を出た後に 他の者が その名を使用するかもしれない… そうなってしまってからでは マリーニ先生に どの様な被害が及ぶか 分かりませんので」
マリが言う
「は… はい…」
メルフェスが言う
「突然の事で 申し訳ありません 今後もし 何か有りましたら マスターグレイゼスは もちろんでしょうが 彼の友人でも有る マスターレンゼスが 今回の様に力を貸してくれるとの事ですので そちらも どうかご心配なく」
マリが驚いて言う
「マスター …シュレイゼスは?」
メルフェスが一瞬驚いた後 微笑して言う
「…私も 出来る事なら お助けをしたいと思っています …ただ そろそろ 限界が近いようなので」
マリが目を見開く メルフェスが微笑して言う
「最後まで 戦うつもりです 今度は… 私の親友の 残された子供たちの為に」
マリが言う
「せ、政府と国防軍は 手を取り合う事は 出来ないのですか?2つは…っ どちらもアールスローンを守る為にあってっ 争う必要なんて…っ き、きっと 何か 誤解が有るんじゃ!?」
メルフェスが言う
「そうですね きっと近い内に 政府と国防軍の誤解は解け 共に手を取り合う事が出来るでしょう …そして それは より強固なものとなり アールスローンを守る力となる」
メルフェスが微笑して言う
「…ですから 貴女はそれを信じて 今まで通り 保育士の先生を続けていて下さい …いや、マスターグレイゼスと あの喫茶店で働かれるのも 良いのかもしれませんね?」
マリが驚く メルフェスが苦笑して言う
「貴方とマスターグレイゼスの結婚式に 参列出来ないのは残念ですが マリーニ先生のドレス姿は とても お美しい事を知っていますので そちらで 我慢する事にします」
メルフェスがマリの手を取って言う
「いつかも言いましたが どうか 私の分も お幸せになって下さい マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス先生 …貴方は私の 心の支えです」
メルフェスが微笑してから立ち去る メルフェスが部屋へ入りドアが閉められる マリが呆気に取られたまま涙を流す

メルフェスが部屋へ戻って来ると シェイムがノートPCを操作していて言う
「メルフェス殿 マリーニ先生の勤められている保育園に 脅迫状を送ったのは 元政府重役のルハベス氏ではないかと」
メルフェスが言う
「なるほど 恐らく彼は使われているだけでしょうね …ライデリア家に」
シェイムがメルフェスへ向く メルフェスが言う
「そして狙いは ルハベス殿の後に据え置いた バーリミア局長 彼らは政府重役の力を 再び得ようと企んでいるのでしょう」
シェイムが息を吐いて言う
「やはり 唯では引いてくれませんでしたね …この面倒な時に」
メルフェスが言う
「こちらがその時になるのを 彼らは待っていたのでしょう 元重役たちは 再び 政府重役の力を得ようと狙っている そして ライデリア家は ハブロス総司令官と手を組み 我々を狙っている 双方の利害は一致します 手を組むのは当然です …しかし だからこそ 我々の作戦も行えます」
シェイムが言う
「我々が政府へ仇名す者となる事で ラミリツを国防軍へ… ですね?」
メルフェスが言う
「はい しかし、その為にも 我々は 精一杯足掻かなければいけません 頑張りましょう シェイム殿」
メルフェスがシェイムへ向き微笑する シェイムが苦笑して言う
「はい そのつもりですが… 今更ながら恐ろしいです 正直に言いますと …逃げ出してしまいたい気分です」
メルフェスが微笑して言う
「っははっ そのお気持ちは 良く分かりますよ」
シェイムが苦笑して言う
「ご冗談を メルフェス殿は 笑って居られるではありませんか?」
メルフェスが言う
「はい、この様な状況に置かれるのは 2回目ですからね?私も初めての時は 今のシェイム殿と 全く同じ気持ちでした …あの帝国の門を見上げた あの時の恐ろしさと同じです」
シェイムが言う
「あぁ… なるほど そう言う事ですね」
メルフェスが微笑して言う
「はい」
シェイムが苦笑して言う
「でしたら、今なら私も 私にシュレイゼスの力が有るのなら あの時のメルフェス殿とは真逆に 全力で アールスローンから帝国へ逃げてしまいたいと願いますが 生憎私には…」
メルフェスが軽く笑って言う
「そうですね シェイム殿であるのなら シュレイゼスも… そして そちらの帝国さえも 受け入れてくれるかもしれません」
シェイムが呆気に取られて言う
「…え?」
メルフェスが微笑して言う
「しかし、もう 逃げる事は許されない そう言っていますよ?シュレイゼスも …今度は 私自身も」
シェイムが苦笑して言う
「なるほど 力を借りられなかった訳ですね?」

【 メイリス家 】

高級車が到着してドアが開けられると シェイムが降りる メイドたちが出迎える

ラミリツがソファに膝を抱えて転寝していると メイドがやって来て言う
「ラミリツ様 旦那様がお戻りです」
ラミリツが眠りかけていた目を擦りつつ顔を上げ 周囲を見てから立ち上がる

【 メイリス家 シェイムの部屋 】

ドアがノックされ ラミリツが言う
「兄上 入るよ?」
ドアが開きラミリツが入って来る シェイムが顔を向けて言う
「うん?何か用か?エーメレス」
ラミリツが言う
「その… ずっと長官室に 居なかったらしいけど…?」
シェイムが言う
「ああ、メルフェス殿の お屋敷に居たからな」
ラミリツが言う
「何で…?」
シェイムが言う
「何でと言う事も無いだろう?夕食を頂いて その後も 2人で話をしていた」
ラミリツが不満そうに言う
「…僕は1人で食べてたけどね…」
シェイムが言う
「そうか」
ラミリツが不満そうに言う
「普通 長官の方に呼ぶんじゃない?」
シェイムが言う
「メルフェス殿のお屋敷の方が セキュリティが高いからな」
ラミリツが言う
「普通 長官の方を高くしない?」
シェイムが言う
「こちらは 私とお前しかいないだろう」
ラミリツが言う
「それは そうだけど…」
シェイムが言う
「それより お前は こんな時間まで起きてないで 早く寝なさい 早朝のトレーニングは 一番効果的であると 父上が仰っていただろう 明日はパレード当日だが 時間なら十分に間に合う」
ラミリツが不満そうに言う
「兄上が帰って来なかったから…」
シェイムが言う
「私の帰りは 遅くなるといつも言っているだろう?これからはもっと遅くなるかもしれない」
ラミリツが言う
「アイツの屋敷に居るから?」
シェイムが言う
「ああ」
ラミリツが不満そうに言う
「なんか… あっちの屋敷に居る方が 多いみたい」
シェイムが言う
「そうだな?メルフェス殿に お許し頂をければ もう あちらの屋敷に住んでしまった方が 良いかもしれないな?その方が…」
ラミリツが言う
「兄上は メイリス家の長男だろっ!この屋敷の”旦那様”の癖に 他人の屋敷なんかに 住むなよっ!」
シェイムが苦笑し ラミリツへ向いて言う
「では お前を ”旦那様” にしてやろうか?」
ラミリツが驚いて言う
「え…?」
シェイムがラミリツを見て白々しく微笑する ラミリツが怒りを押し殺して言う
「…何で?…そんなに アイツの事が気に入ったの?…父上 より?兄上は 父上に あんなに可愛がって もらえてたのにっ!」
シェイムが微笑して言う
「可愛がって?そうだったか?しかし 今は メルフェス殿に それ以上に可愛がって 頂いているからな?…あっはははっ!」
シェイムが笑う ラミリツが一度シェイムを見てから 怒ってプイッと顔を背けて立ち去る ドアが閉められると シェイムが表情を落とす

翌朝

ラミリツが食堂にやって来ると 一人分の食事の支度がされていて メイドが言う
「おはようございます ラミリツ様」
ラミリツが沈黙してから言う
「…兄上は?」
メイドが言う
「旦那様は 本日は朝食を取られずに お出かけになられたそうです」
ラミリツが言う
「…もう 朝食も この屋敷で食べないんだ?」
ラミリツが不満そうに席へ向かうと メイドが言う
「それから 先ほど…」

【 政府本部 】

シェイムが書類を見ていると 内線電話が鳴り声が響く
『メイリス長官 攻長閣下がお見えです 長官室へお通しいたします』
シェイムが顔を上げると ドアが開けられラミリツが現れる シェイムが言う
「うん?どうかしたのか エーメレス 直接 皇居へ向かうのかと思っていたが?」
ラミリツが不満そうに言う
「呼び出し …されたから」
シェイムが疑問して言う
「呼び出し?私は 何も…?」
メルフェスが携帯を切って言う
「はい、私がお呼び致しました お忙しい所 御足労頂きまして 申し訳ありません」
シェイムが一瞬疑問する メルフェスが2人を見てから言う
「今日のパレードに関しまして 先にお知らせをしておこうと思いまして 私が確認を致しました所 皇居の役人たちは 国防軍からの命令で 陛下の身代わりとして 陛下に似せた人形を 御簾に隠した上で パレードを行うそうです」
シェイムが言う
「では 実際の陛下は 御所の方に 控えられると言う事ですね?」
メルフェスが言う
「はい そうです」
ラミリツが言う
「なんだ それじゃ 予定通りじゃない?…別に呼び出してくれなくったって 最初からそのつもりだったし」
メルフェスが言う
「ただ、国防軍が用意していた 陛下の御言葉を録音したデータは 渡されていないのです しかし、パレードの予定には 間違いなく そのプログラムの時間が有る …従って 恐らく その時に」
シェイムとラミリツが注目する メルフェスが言う
「国防軍は… いえ、ハブロス総司令官は 何かを企んでいる可能性があります… そこで、情報局に探らせていたのですが… 今の所 それに当る情報を得られていません」
シェイムが言う
「それでは…?」
メルフェスが言う
「はい、ですので 私が 直接 ハブロス総司令官へ 伺って参ります」
シェイムとラミリツが声を合わせる
「「えっ!?」」
シェイムとラミリツが咄嗟に顔を見合わせ シェイムが僅かに動揺してメルフェスへ向く ラミリツが一瞬疑問してから同じくメルフェスへ向く メルフェスが微笑して言う
「彼の意識を読み取る事が出来ましたら お二人へもお知らせ致しますので 私の盗聴器を聞いていて下さいね?」
ラミリツが呆気に取られる シェイムが微笑して言う
「はい 宜しくお願いします ”マスターシュレイゼス”」
ラミリツが反応して疑問する メルフェスが微笑する

【 皇居 】

アースが歩いて来ると 気付いて立ち止まり目を細める メルフェスが微笑して言う
「お久しぶりで御座います ハブロス総司令官」
アースが言う
「…私に何か?」
メルフェスがアースの近くへ来て言う
「いえ、特にお話があった訳ではないのですが 最近国防軍の方が 私や政府長のお2人の事を調べているご様子でしたので 何か不信な点が有る様でしたら ご質問を受けようかと思いまして?」
アースが苦笑して言う
「それはまた… わざわざ そちらから出向いてくれるとは面白い しかし、私にとって 貴方方など 大した存在ではありませんので たまたま 国防軍の者が確認をしていただけではないかと… 気に触ったのなら お詫びをして置きますが?」
メルフェスが微笑して言う
「お詫びは結構です 今回も 貴方の作戦を阻害したのは 私ですから 貴方にとっては 迷惑な存在でしょう?…政府のマスターは?」
アースが一瞬怒りを表情に表すが 平静を装って言う
「そうですね… そろそろ 公にして差し上げましょうか?政府の悪事… …貴方の大罪を」
メルフェスが微笑して言う
「おやおや?そちらは 何のお話でしょうか?」
アースが手を握り締める メルフェスが一歩立ち去ろうとして言う
「今日のパレード… 陛下の御言葉を楽しみにしています 私も 陛下のお声を伺うのは 久方振りですからね?」
アースが微笑して言う
「ええ 楽しみにしていて下さい」
アースが悪笑む メルフェスが一瞬目を細めてから立ち去る アースがメルフェスの後姿を見送ってから鼻で笑って立ち去る メルフェスが自身の後ろにそれを伺ってから小声で言う
「シェイム殿ラミリツ殿… 彼の作戦が 分かりました」

【 パレード観覧席 】

シェイムがイヤホンを押さえて言う
「やはり 何かを?」

【 馬車前 】

軍曹が歩いて行く ラミリツが立ち止まってイヤホンを押さえる イヤホンからメルフェスの声が聞こえる
『はい ハブロス総司令官は 国防軍とは別の組織の者を使い パレードの最中に 奇襲を行わせる予定です』
ラミリツが驚いて言う
「なっ それじゃっ!?」
ラミリツがハッとして顔を上げると 役人がラミリツを馬車へ促す イヤホンからメルフェスの声が聞こえる
『はい そして そちらは 恐らく陛下の御言葉が流される予定であった その瞬間だと思われます』
イヤホンから シェイムの声が聞こえる
『では、それまでの間は 何も無いと?』
メルフェスが言う
『そうだと思います 奇襲である以上 それまでに何かを起すと言う事は 考えにくいです …ですから 我々も その前までは 普通に過ごしましょう』
ラミリツが目を細めて言う
「了解」
ラミリツが顔を上げ馬車へ向かう 馬車の上で軍曹が御簾へ言う
「はっ!?陛下!自分が陛下より遅れを取るとはっ!真に申し訳ありませんっ!」
御簾の奥に反応は無い 軍曹が疑問する ラミリツが軍曹の後ろを通りながら言う
「…やっぱ 馬鹿ジャン」
軍曹が疑問して ラミリツと御簾を交互に見る ラミリツと軍曹が持ち場に立つと 役人が剣と盾を持って来て2人に手渡す 2人が剣と盾を自分の前に地へ着けて構える

【 皇居 前 】

メルフェスが周囲を伺いつつ歩きながら言う
「そして 奇襲の狙いですが… 気を落ち着かせて聞いて下さい 彼らの狙いは もちろん 御簾に隠されている 陛下の人形などではなく …政府長である 貴方方 お2人です」

【 パレード観覧席 】

シェイムが僅かに驚き目を見開く イヤホンからメルフェスの声がする
『まず、シェイム殿 近くに その手の者が配備されている筈です どうか 彼らに悟られないように』
シェイムが席に座り 周囲を伺う 周囲に潜んでいる者がシェイムを見る

【 馬車上 】

門が開かれ 大勢の人々が周囲にひしめき合っている ラミリツが一瞬驚いた後 気を引き締め前を見据える イヤホンからメルフェスの声がする
『そして ラミリツ殿 予定に有る 陛下の御言葉の際 陛下を襲うと見せかけ 襲撃犯は貴方を襲う筈です しかし、貴方も防長閣下も 本物の武器や防具は 備えらられていないでしょう?ですから 貴方は逃げて下さい 周囲には国防軍が控えているので 難しいかもしれませんが… 何とか皇居へ そこまで逃げ込んでさえしまえば 少なくとも襲撃犯は 入り込む事は出来ません』
ラミリツが表情を押さえつつ剣を握り締める メルフェスが言う
『私は まず シェイム殿を お助けします そして』

【 皇居 前 】

メルフェスが視線を落として言う
「その後に 出来うる限り 早く…」
メルフェスが歩みの足を踏み出した瞬間 視界が歪み メルフェスが驚くと体が倒れそうになるが その腕を支えられる メルフェスが驚き顔を向けると メルフェスの腕をエルムが支えている メルフェスが微笑して言う
「…ラミリツ殿は ご自分で皇居へ逃げ込んで下さい その後は… 何とかなる筈です」
イヤホンにラミリツの不安そうな声がする
『何とかって…っ?』
イヤホンにシェイムの声がする
『皇居には ハブロス総司令官の息の掛かった 国防軍の警備が居るのでは?』
メルフェスが微笑して言う
「そうですね… では 何処かへ 隠れていて下さい」
イヤホンにラミリツの不安そうな声がする
『何処かって…っ!?』
メルフェスが体勢を立て直し エルムを見てから笑んで言う
「きっと何とかなります 貴方は 国防軍の攻長ですから …彼らの仲間でしょう?」
メルフェスが盗聴器の電源を切る エルムが他方を見て言う
「ナノマシーンの使用を 控えるべきだ お前の命に関わる」
メルフェスが苦笑して言う
「他者の意識を得るには 少々無理が必要でして… それも1つの作戦を読み取るというのは 流石に堪えました 彼からは… 私へ対する 強い憎悪も有りましたので しかし、貴方がこれほど早く援護に来て下さるとは …助かりました」
エルムが言う
「何の話だ?」
メルフェスが微笑する

【 馬車 】

ラミリツが独り言を言う
「逃げろって…?どうやって…?国防軍が 周囲を囲んでいるのに…?隠れてろって… 何処に?隠れてる場所なんか…っ!?」
軍曹が疑問してラミリツを見る 馬車が皇居の前で 演説用に用意される ラミリツが周囲に視線を走らせ 観客席を見る シェイムが立ち上がると 一度ラミリツを見る ラミリツが顔を向けると シェイムの横でメルフェスが立ち上がり ラミリツを見てから僅かに頷き シェイムとメルフェスが一瞬で居なくなる ラミリツがハッとすると シェイムの周囲に潜んでいた者たちが慌てて立ち上がって周囲を見る ラミリツが息を飲み周囲を見る 

しんとした周囲  警備をしている者 その他全ての視線が御簾へ向く ラミリツが視線を向けた先 襲撃犯たちがラミリツを見る ラミリツがハッと息を吸った瞬間 軍曹が瞬時に御簾の前に盾を構えて防御体制を取る ラミリツがその動きに顔を向けると 一発の銃声 軍曹の盾は役に立たず 軍曹が顔を顰めて耐えて言う
「うっ!」
全ての人が驚く 更に3発の銃声が鳴る 観覧者たちが悲鳴を上げる ラミリツが驚き怯えて言う
「う…っ うそぉ…っ!?…何でっアイツが!?一体どうなって!?」
軍曹が3発の銃弾を受け 片手を地に着く 襲撃者が3人 正面から馬車に乗り込んで来る ラミリツが驚き叫んで逃げる
「わ… うわぁああ~~っ!」
ラミリツが馬車の自分に近い乗り込み口を駆け下りて逃げる ランドが自分の前をすり抜けたラミリツに驚きつつ 慌てて叫ぶ
「か、閣下っ!?」
ランドが無線機に叫ぶ
「こ、攻長閣下が御退避した!援護を!」
ラミリツが皇居へ向かって走る 13部隊がラミリツを捕まえようと向かって来る ラミリツが意を決し 13部隊隊員たちの手を逃れ 皇居へ駆け込み柱と壁の角に身を潜め息を抑えて 後ろを見る マーレーが無線へ言う
「攻長閣下が たった今 皇居へ入った B班っ!」
ラミリツがハッとして顔を向けようとした瞬間 大きな背中に押し付けられる ラミリツが驚き潰されながら声を上げる
「ふぎゃっ!ちょっ ちょっとぉっ!?」
エルムがラミリツを角に押し込んだまま背を預け寛いでいる 13部隊隊員たちが周囲を探しながら言う
「こちらB班っ 攻長閣下のお姿 見当たりませんっ!」
ラミリツがハッとして言う
「まさか…っ!?アンタ 僕を隠して…?」
13部隊隊員がエルムに気付き 近くへ来て言う
「そこの お前 攻長閣下を お見かけしなかったか?剣を持った 小さな子供だ」
ラミリツが衝撃を受け怒りを抑える エルムが言う
「何の話だ」
13部隊隊員が不満げに言う
「む…っ まぁ良い …もし見かけたら 国防軍の者に伝えるんだ 良いな?」
13部隊隊員が立ち去る エルムが沈黙している ラミリツが息を飲んで身を潜めている 13部隊隊員たちが走り回っている

【 国防軍メイス駐屯地 最上官室 】

アースが椅子に身を静めている ドアがノックされ マーレーが言う
「13部隊 マーレー少佐でありますっ」
アースが言う
「入れ」
マーレーが言ってドアを開ける
「はっ 入ります!」
マーレーがドアの前で敬礼してから アースの前に立つ アースが言う
「取り逃がしたそうだな?」
マーレーが視線を落として言う
「申し訳ありません」
アースが息を吐いて言う
「カルメス外交長が共に居た メイリス長官は兎も角 攻長閣下を取り逃がすとは 国防軍13部隊は 子供1人 捕まえる事が出来ないのか?」
マーレーが言う
「返答の言葉も見付かりません 誠に申し訳ありません …どの様な 処罰も受け入れる所存にあります」
アースが言う
「そうか… では 君の処罰に関しては 考えておこう」
アースが立ち上がり 部屋を出て行く マーレーが頭を下げている

【 車内 】

ラミリツが座った状態で寝ていて 体が傾いた所でハッとして 目を覚まして言う
「え…?あ、あれ…?ここは?」
ラミリツが周囲を見渡すと メルフェスが微笑して言う
「お疲れ様で御座いました ラミリツ殿」
ラミリツがメルフェスを見て呆気に取られて言う
「…えっと?」
メルフェスが苦笑して言う
「本日のパレードに緊張されて 寝不足気味でしたか?良くお休みでしたね?」
ラミリツが呆気に取られて言う
「僕は… 皇居の中に逃げて そしたら…?」
メルフェスが微笑して言う
「はい、長い事 国防軍部隊の捜索が続けられていた為に 私も中々お迎えに行かれませんでした その間 ずっと同じ場所で 息を潜めてらしたのですから …眠ってしまわれるのも ご無理はありません」
ラミリツが衝撃を受け慌てて言う
「え!?僕っ 寝ちゃってたのっ!?」
メルフェスが軽く笑って言う
「はははっ 敵陣の中で 居眠りが出来るとは 素晴らしい精神力ですね?ラミリツ殿」
ラミリツが表情を困らせつつ視線を泳がして言う
「いや… なんか… その… 最初は ずっと 緊張してたんだけど… 僕を隠していた奴が 凄く… なんて言うか 大丈夫そうな感じがして… 安心 出来ると 思ったら…」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「はい そうですね? 彼は とても強く とてもお優しい方ですよ」
ラミリツが言う
「知ってるんだ?アンタの… 仲間?」
メルフェスが言う
「さぁ どうでしょうか?私は政府の人間で 彼は 国防軍のお方ですからね?」
ラミリツが衝撃を受けて言う
「はぁあ!?国防軍のっ!?」

【 政府本部 】

メルフェスとラミリツが長官室に入って来る シェイムが電話をしている ラミリツがシェイムを見てホッとしてから 灯けられているTVを見る 映像は襲撃の瞬間 次の瞬間ラミリツの居ない映像に切り替わる ラミリツが疑問すると シェイムが電話を終えて 息を吐いて言う
「これで メディアの録画映像に対しては 一応手を打つ事は出来た」
メルフェスが微笑して言う
「先手を打って 新聞や雑誌者の方へは 私から連絡を入れて置きましたので 大丈夫です …但し 申し訳ありませんが 費用は全て メイリス家の方で」
ラミリツが反応してメルフェスを見る シェイムが苦笑して言う
「はい、そちらは当然です シュレイゼス殿がメルフェス殿のままであっても 私が支払いましたよ」
ラミリツが言う
「何?それって どう言う…?」
メルフェスが苦笑して言う
「そうですか しかし、元はと言えば 私が逃げる様にと 指示を致しましたので」
シェイムが言う
「それはそうですが 例え そうとは言いましても 攻長であるのなら もう少し 格好を付けて貰いたかったですね?例えば… 御簾の中にある 陛下の人形を抱き抱えて逃げるとか?」
ラミリツが視線をそらす メルフェスが苦笑して言う
「あっははっ その状態では 恐らく 国防軍の手を逃れる事は 難しかったかと」
シェイムが言う
「そうでしょうか?シュレイゼス殿は いつも私を抱えた状態で 逃げられるではありませんか?それなら 女性型の人形くらい」
ラミリツが不満そうに言う
「だって… 凄く 怖かったんだ… すぐ横で アイツが…」
ラミリツがハッとして言う
「そうだ!アイツ どうなったのっ!?…まさかっ!?」
メルフェスが言う
「防長閣下は ご無事ですよ ご安心下さい 攻長閣下?」
ラミリツが息を吐いて言う
「そうなんだ… でも 何発も受けてたよね?命は助かったとしても きっと…」
メルフェスが言う
「私が皇居の医師を通じて 伺いました所 …あの銃弾は 麻酔銃弾であったそうです」
ラミリツが驚いて言う
「麻酔銃弾?…で、でもっ そんな風には!?」
メルフェスが言う
「既存の麻酔銃の物ではなく 通常の弾丸を特殊加工した物らしく 麻酔銃と通常の銃との 中間に当る物と 考えて欲しいとの事でした 従って それによる 損傷も通常の銃の半分程度であったとか」
ラミリツが言う
「そう… なんだ…」
メルフェスが言う
「とは言え 一歩間違えば 命を奪いかねない物です それを 自分の弟である 防長閣下へ浴びせる事を許すとは」
ラミリツが驚きシェイムを伺う シェイムが言う
「…向こうも 本気の様ですね」
ラミリツが驚く メルフェスが言う
「ええ… その様です」
ラミリツが2人を見てから視線を落とす

【 国防軍総司令本部 】

アースが言う
「多少の被害はやむなしと伝えはしたが… 随分と痛め付けてくれたな?まさかとは思うが 始めから防長を狙っていたのか?」
襲撃者1が言う
「総司令官様が 攻長は陛下を守るだろうと言っていたから 最初は全員で御簾を狙う作戦だったんですよ それが やってみたら 御簾の前に入ってきたのは 防長の方で… 総司令官様は 事前に襲撃作戦を伝えてたんじゃ なかったんですかい?」
アースが言う
「アイツはそう言った事に 手を貸す奴ではないんだ 従って この作戦の事は 一切伝えなかった …これからもそうなるだろう 覚えておいてくれ」
襲撃者2が言う
「やり辛いですね 何とかしてもらえませんか?こっちは 俺らの仲間が1人忍び込んでる位の つもりでした」
アースが言う
「周囲をかく乱するにも 丁度良いと思っていたのだが?お前たち 暗殺組織ガイズは プロではないのか?」
襲撃者たちが顔を見合わせる アースが息を吐いて言う
「出来ないと言うのなら分かった 今後は可能な限り アイツを入れない作戦を立てる」
襲撃者たちが息を吐いて言う
「…そうして下さいよ」
ドアがノックされ アースが顔を向けると ドアが開く 襲撃者たちが身構える メルフェスの姿に似た人物が現れて言う
「お久し振りです ハブロス総司令官」
アースが一瞬驚いた後言う
「…ユラ・ロイム・攻長か」
ユラが微笑して言う
「それは 以前の名前ですね?今の私は メルフェス・ラドム・カルメス …またの名を マスターシュレイゼス ですよ?」
ルイルが現れて言う
「如何です?ハブロス様?」
アースが言う
「まぁまぁだな… 本物を知っている私が見て 僅かながら 違和感を覚える程度だ」
ルイルが微笑して言う
「その違和感は その内消えます 兄上が… いえ、こちらのカルメス外交長が 政府の中に居れば 誰も疑いません」
ユラが言う
「そうは言おうとも、以前は ユラ・ロイム・ライデリアの弟であった お前が一緒にいたから良かったが 今回はどうなる?メイリス長官を これで騙す事は難しいだろう?」
ルイルが言う
「そちらの心配は不要ですよ?兄上 メイリス長官は もうしばらくしたら 長官の座から降りる事になりますから …ね?ハブロス総司令官?」
アースが言う
「やはり そちらを先にするべきだったか…」
ルイルが苦笑して言う
「ですから 私は そうと言いましたのに?」
アースが言う
「攻長を捕まえる事さえ出来れば カルメス外交長と 引き換えに出来ると思ったのだが… 国防軍であれば可能だと思っていた 簡単な任務を失敗された」
ルイルが言う
「では 今度は 私の方で進めておいた計画を 実行します …こちらは 国防軍を使いませんから ご心配なく?」
アースが不満そうに言う
「ふん?旧政府 対 新政府 と言った所か… それで?本当に今の重役たちを お前の手玉に取られるのか?」
ルイルが言う
「ええ ご安心を 彼ら現政府重役たちに関しては 私と元政府重役の彼らにお任せ下さい ハブロス様は 長官たちの方をお願いしますね?」

【 政府重役会議 】

シェイムが言う
「さて、政府の要である 諸君 政府重役を一新させて3ヶ月になるが… ここで 残念な知らせが有る 私は 私と共に歩むであろう 諸君の選定には 細心の注意を払っていたつもりだったが この中に…」
シェイムが重役たちを見る 重役たちが顔を見合わせ 一部の重役が僅かに反応する シェイムが言う
「旧政府重役たちと 繋がっている者が居るようだな?…その者は ここで更なる仲間を増やし 私の解任を狙っていると」
重役たちがどよめき顔を見合わせる メルフェスが重役たちを見る シェイムが言う
「言うまでも無いが その者たちには… 近い内に この重役会議から 消えてもらう事になる」
重役たちが怯える

重役会議が終わり シェイムが出て行く 重役たちが席を立ち出て行く中 メルフェスが立ち上がると 小声で呼ばれる
「カルメス外交長…っ」
メルフェスが視線を向ける

【 政府本部 】

ドアがノックされ メルフェスが入って来て言う
「失礼します シェイム殿」
シェイムが微笑して言う
「如何でしたか?シュレイゼス殿」
メルフェスが苦笑して言う
「予測通り 重役たちから相談されました …メイリス長官が恐ろしくて堪らないと?」
シェイムが呆気に取られてから苦笑して言う
「そうしろと 仰ったのは シュレイゼス殿でしょう?」
メルフェスが苦笑して言う
「私は そうしろではなく その様に見られるだろうと… 実際 悪を成敗される シェイム殿は恐ろしいですからね?」
シェイムが言う
「悪を征するのに 優しさが必要でしょうか?」
メルフェスが苦笑して言う
「確かに それは難しい所ですが…」
メルフェスがノートPCを見て言う
「それで、彼らから聞いた話によると 実際に 旧重役と繋がりが有るのは ナラム局長のみとの事でした 他の者は 彼に脅されているようです」
シェイムが言う
「脅されている とは?」
メルフェスが言う
「協力をしなければ 子供を誘拐すると言われているそうです それを証明する為に 実際に 重役の子供たちが通う保育所へ 脅迫文を送らせたりなども して居るそうで」
シェイムが言う
「では マリーニ先生の勤められている 保育園に送られた脅迫文と言うのも?」
メルフェスが言う
「どうやらそちらであったようです 以前にも同じ保育園に通わせていた リミッツ局長が同様に協力を約束させられ そして、今回はバーリミア局長が 脅されているとの事です」
シェイムが言う
「なるほど… では まずはナラム局長の裏を取りましょう 彼が元重役たちに使われているのか?自ら協力を申し出たのか?…その辺りを調べさせます」
メルフェスが言う
「はい そうですね …しかし、脅迫文が送られてから 間もなく1週間になります 彼らが本当に 脅迫内容を実行する様な事があったら…」
シェイムが言う
「パレードと同時期であった為 時間を取られてしまいましたが 急がせます」
シェイムが受話器を取る メルフェスが言う
「ちなみに シェイム殿は ナラム局長がどちらであっても 解任させるおつもりですか?」
シェイムが一瞬疑問した後苦笑して言う
「そうですね… 今また 人事を行うと言うのは… 何しろ 一番大きな方が お辞めになられた後ですから 今度は少し考えようかとも思います」
メルフェスとシェイムが笑う シェイムが電話で話を始める TVの画像が切り替わり レポーターが言う
『現場から中継します!保育園に接するアイムストリートは 現在通行止めとなっており 保育園の前には報道陣と共に 沢山の警察の車両が集まっていて 事件の物々しさを…』
メルフェスとシェイムが驚きTVを見る

【 マスターの店 】

マスターが反応してTVを見て 驚いて駆け寄ると言う
「あれはっ マリちゃんの勤める 保育園っ!…例の脅迫状が 本当に実行されたか!?」
マスターが視線を強めた後 頷いて言う
「マリちゃん 大丈夫だ!俺がっ …俺たちが必ずっ!」
マスターがPCへ向かう

【 国防軍総司令本部 】

TVからキャスターの声が聞こえる
『…して 本日起きた 保育園立て篭もり事件は 無事解決致しましたが 警察からの詳しい発表は行われておらず 現在も マスコミ各社が』
アースが言う
「それで?」
ルイルが微笑して言う
「失敗してしまったそうです」
アースが言う
「面白いな?」
ルイルが言う
「はい!…おまけに 上手く手駒に取られると思っていた ナラム氏が メイリス長官に許されて 政府重役へ復帰!これでは ナラム氏は二度と我々の手先には なってくれそうにありません!更には我々の情報が メイリス長官へ渡ってしまうかも知れないと言う 窮地です!…お助け頂けますか?総司令官様?」
アースが言う
「私に どうしろと?」
ルイルが言う
「はい、それはもちろん 裏切り者のナラム氏を 消して頂きたいのですが?」
アースが言う
「暗殺組織にでも頼むのだな?ここは 国防軍総司令本部だ」

【 政府本部 】

シェイムが苦笑して言う
「悪を征するのにも 多少の優しさは 必要なのかもしれません ナラム局長が 明日にでも 私へ旧重役たちの国防軍との繋がりを 詳しく教えてくれるとの事です」
シェイムが視線を向けると 視線の先でメルフェスがTV画面へ向けていた視線を シェイムへ変えて言う
「そうですか それは 良かった… 全てを拒絶してしまっては 得られる物も得られずに 終わってしまう所でしたね?」
シェイムがTV画面を見てからメルフェスへ向いて苦笑して言う
「てっきり …マリーニ先生を お助けに 向かわれるおつもりかと 思っていました」
メルフェスが一瞬呆気に取られて言う
「え?ああ…」
TV映像に マリが警察官へ何かを伝えているシーンがリプレイされている メルフェスが苦笑して言う
「もう… 私が行かなくとも 彼女には王子様が付いていますから 大丈夫でしょう」
シェイムがノートPCを操作して言う
「しかし… まだ 彼女はメルフェス殿との婚約を 解消してはいないようですが?」
メルフェスが言う
「え?そうでしたか… なるべく急ぐようにとは伝えて置いたのですが パレードや脅迫事件のせいもあり 時間が取られなかったのかもしれません」
シェイムが苦笑して言う
「ふふ…っ それか?メルフェス殿との婚約を解消するのが お嫌なのかもしれませんよ?」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後軽く笑って言う
「え?…ははっ それなら光栄なのですが 私では 彼女を幸せには出来ませんからね?むしろ 私としましては マリーニ先生には早くお嫁に行って 幸せになって頂きたいです」

【 マリの部屋 】

マリが部屋でTVを見つつホッとして言う
「本当に良かった… これも全て 王子様とハイケル君のお陰…」
マリがふと思い出して視線を向ける 視線の先に婚約解除の書類が有る マリが苦笑して言う
「本当は 今日提出しに行く予定だったのに」
マリが立ち上がり 書類の下へ行って手に取って見てから メルフェスの名前を見て言う
「メルフェス様… 私 ずっとお世話になっていたのに 最後に ちゃんとお礼も言えなくて…」
マリが携帯を見る

マリが名刺を片手に携帯のダイヤルをして 呼び出し音を聞く 間もなく 女性秘書が言う
『お待たせを致しました マリーニ様』
マリが慌てて言う
「あ、あのっ こんな時間に ごめんなさいっ」
女性秘書が言う
『いえ 御連絡を頂きまして とても嬉しく思います …本日は大変でしたね?何のお役にも立てませんで 申し訳御座いませんでした』
マリが一瞬驚いた後慌てて言う
「あ、い、いえっ!そんなっ …有難う御座いますっ それで、その…っ えっと… メルフェス様は… 今…?」
女性秘書が言い辛そうに言う
『…それが』
マリが呆気に取られた後 驚いて言う
「え…?解雇?そ、その…っ エレンさんからは メルフェス様へ 理由を お尋ねしてはいないのですかっ!?」
女性秘書が言う
『もちろん お伺い致しました 私のみならず カルメス様が従えていた部下も 屋敷の使用人たちも 全て 解雇なされ… それでも カルメス様ご本人はメイリス長官に ご同行されていると言う事は まだ政府のお仕事をされていると言う事に間違いは御座いませんので …何かをご計画をされているのでしたら 今までお世話になって参りました 我々は 最後まで ご協力をさせて頂きたいと』
マリが視線をめぐらせてから言う
「あ、あの… エレンさんは メルフェス様が… その…っ」
女性秘書が言う
『カルメス様が 帝国の名を持つお方である事は 存じております そして、現在はもう 政府外交長のお役職と共に メルフェス・ラドム・カルメスの名も 政府へ返納してしまっています …マリーニ様?マリーニ様にお尋ねするなど 失礼だとは存じますが マリーニ様は カルメス様が何をなさろうとお考えなのかは ご存知なのでしょうか?もし… 我々に… いえ、私に何かお手伝い出来る事があるのでしたら…っ』
マリが視線をめぐらせてから言う
「その… メルフェス様は ”最後まで戦う”と 仰っていました それに…」
女性秘書が言う
『最後まで…?それは 国防軍と戦うと言う事でしょうか?それとも 以前の政府の方々と?』
マリが言う
「以前の…?」
女性秘書が言う
『あ… いえ 申し訳ありません どちらにしましても マリーニ様は もう カルメス様とは関わらない方が宜しい筈ですので お早めに婚約解除を行い 王子様の下へご避難下さい それがカルメス様のご希望であられました どうか 私との この会話も全てお忘れ下さい』
マリが言う
「あ、あのっ!待って下さいっ!」
女性秘書が驚いて言う
『は… はい?』
マリが言う
「私にも!何か お手伝いをさせて下さい!何でも良いですっ 私… ずっと助けられていたのですからっ 何かお礼をしたいんです…っ お願いしますっ!」

【 カルメス邸 】

タクシーが到着し マリと女性秘書が降りると マリが屋敷を見る 女性秘書が言う
「私が先に向かいまして 様子を伺って参ります マリーニ様はこちらで 少々お待ち下さい」
マリが言う
「え?しかし メルフェス様は お屋敷に戻っている事が 確認されているのですよね?」
女性秘書が言う
「カルメス様が 役職やお名前を返納された上で こちらのお屋敷に居らっしゃると言うのは 少々不自然とも思われますので どうか…」
マリが言う
「あ… はい… そ、それでは エレンさんもっ お気を付けてっ」
女性秘書が微笑して言う
「はい 有難う御座います」
女性秘書が屋敷へ向かい 玄関のインターフォンを鳴らす マリが緊張しながら周囲を見る 間もなく玄関が開かれると 女性秘書が一瞬驚いた後言う
「あ、あの… 先日まで こちらのお屋敷にお世話になっておりました メイドのエレンと申しますが」
マリが疑問して言う
「え?エレンさん?どうしてメイドだなんて嘘を…?」
女性秘書が言う
「最後に旦那様へご挨拶が出来ませんでしたので もし 一時でもお時間を頂ける様で御座いましたらと思い お伺いをさせて頂いたのですが… 旦那様は 本日 お屋敷に居られますでしょうか?」

ユラがノートPCを見て言う
「ほう… これは 意外な獲物が手に入ったな?奴の婚約者が屋敷にお戻りか… こいつはどうしてやるべきか…?」
ルイルが言う
「もし 上手く騙せるようなら 婚約破棄はなかった事にしてくれ とでも言ってしまってはどうです?」
ユラがルイルを見る ルイルが言う
「きっと この婚約者も 他の使用人たちと同じで 政府組織から退くに当たって 解雇したと言う所なのでしょうが …そこへ戻って来たと言う事は あちらはきっと 今でもカルメス外交長に 気があると言う事でしょう?そこまで思われているのでしたら もしかしたら 役に立ってくれるかもしれませんよ?」
ユラが言う
「ふんっ まぁ良い… もし 私の正体に気付き逃げ出そうとでもしたら その瞬間に捕らえてやれば良いだけだ よし 連れて来い」
ルイルが微笑して合図を送る

女性秘書が密かに言う
「何かおかしな事があっても 全て受け入れる形を取って下さい …あがなえば 命の危険があります」
マリが驚いた後言う
「は、はいっ」
部下が現れて言う
「”旦那様”が お会いになるそうだ」
女性秘書とマリが顔を向ける

女性秘書とマリが部屋に入ると ユラが顔を向ける 女性秘書とマリがユラを見て マリが言う
「メルフェス様…?」
ユラが微笑して言う
「どうした?何か用があったのだろう?」
女性秘書とマリが気付く 女性秘書が微笑して言う
「カルメス様 マリーニ様が 婚約解除を行う前に 最後のご挨拶をしたいと」
マリが慌てて言う
「は、はいっ その…」
ユラが言う
「ああ、マリーニ 私も残念だ お前の事は とても気に入っていたのだがな?」
マリが視線を泳がせてから言う
「大変… お世話になりました…」
ユラが言う
「それだけか?用と言うのは」
マリが言う
「は… はい…」
ユラがルイルへ視線を向けてから言う
「そうか では お引取り願うか?」
マリと女性秘書の後ろに部下たちが現れる 女性秘書が言う
「マリーニ様!カルメス様へ 昨日のご説明を!」
マリが驚いて言う
「え!?さ、昨日のっ!?」
女性秘書が後方の部下たちをチラッと見てから言う
「そうです あの保育園の事件を解決して頂いた あのお方を ご紹介しては如何でしょうか?」
ユラとルイルが反応する マリが驚いて女性秘書を見る 女性秘書が言う
「あの難しい事件を秘密裏に 解決されたほどの凄腕です!カルメス様との事業提携等に とても宜しいかと!」
マリが驚いて言う
「そ、そんなっ そんな事してはっ 彼にご迷惑がっ!」
ルイルがユラへ視線を向ける ユラが微笑して言う
「ほう…?あの事件を解決したのは マリーニの知り合いだったのか?それは驚いたな?」
ルイルが言う
「それは素晴らしい!是非とも 事業提携を!」
マリが表情を困らせる

【 国防軍総司令本部 】

アースが言う
「やはり 先手を打たれていたか… メルフェス・ラドム・カルメスは 既に政府外交長を退任している …これでは 今更 政府にマスターが居ると 公にした所で意味が無い 他に何か 政府の不利になるような 情報はないものか」
ドアがノックされ 秘書が現れて言う
「ハブロス総司令官 皇居の静養施設より連絡があり 本日 防長閣下が ご退院されるそうです」
アースが言う
「そうか …医師には伝えておいたが 襲撃事件に関する事で 何か勘付かれている様子はないか?」
秘書が言う
「医師からは 特にその様な様子は見られないと」
アースが考えながら言う
「アイツは昔から 妙な所で感が働くんだ… 万が一と言う事も有る よし、私が直接確認をする 退院の付き添いに行くと伝えておけ」
秘書が言う
「畏まりました」
アースが立ち上がる

【 カルメス邸 】

ルイルがノートPCを操作しながら言う
「そうですか… 裏組織の者にしては珍しいですね あの金額でなびかなかったとは」
ユラが言う
「いや、奴は怪しい 下手に手に入れない方が こちらの為だ」
ルイルが言う
「へぇ… 珍しい 兄上が… いえ、カルメス殿が 有能な者を手に入れる事を 拒まれるとは」
ユラが言う
「それと あの娘… しっかりと見張りを付けておけ 逃げられれば 面倒な事になるぞ」

マリが部屋に居る ドアがノックされ 女性秘書が言う
「失礼致します マリーニ様 お茶をお持ち致しました」
女性秘書がドアを開け 紅茶のトレーを持って入ってから表情を落とし マリの近くへ行って言う
「マリーニ様 申し訳御座いませんでした この様な事に マリーニ様を巻き込んでしまいまして」
マリが女性秘書へ向いて言う
「いえ 私が お願いしたのですから…」
女性秘書が言う
「王子様のご様子は如何でしたか?メモの方は お渡し出来ましたか?」
マリが視線を落として言う
「いえ… 渡そうと思ったのですが やっぱり これ以上 彼にご迷惑を掛ける訳にはいかないと… それに」
女性秘書が言う
「マリーニ様 彼らはまだ 身辺の準備が整っていない様子です 私が隙を見て マリーニ様をここから抜け出させますので どうか 王子様の下へお逃げ下さい」
マリが驚いてから女性秘書を見て言う
「でも…っ そんな事をしたら エレンさんはっ?」
女性秘書が言う
「私はこちらへ残り 彼らの様子を伺います カルメス様になりすました あの者が 何を行おうとしているのか… それを突き止める所存です」
マリが言う
「で、では…っ 私もそれに ご協力しますっ」
女性秘書が慌てて言う
「それはいけませんっ マリーニ様っ」
マリが言う
「私、分かりますっ!あの人は… きっと とても 危険な人です!ですから…っ 私を逃がしたりなんかしたら エレンさんがっ」
女性秘書が言う
「私の事は お気になさらないで下さい マリーニ様は カルメス様の大切なお嬢様です そのマリーニ様を」
マリが女性秘書の手を取って言う
「お願いです 一緒にやらせて下さい 私… 頑張りますからっ!」
女性秘書が呆気に取られて言う
「マリーニ様…」

【 政府本部 】

シェイムが言う
「ナラム局長 遅いですね」
メルフェスが言う
「連絡を入れてみた方が良いかもしれません 元重役たちが 自分たちの情報を持つ ナラム局長を 放っては置かないと言う事も」
シェイムが言う
「そうですね 確認をさせます」
シェイムが電話を取る TVが臨時ニュースに切り替わり レポーターの声が聞える
『ここで臨時ニュースをお伝えいたします 先ほど 午後3時過ぎ 上位富裕層の屋敷に武装集団が押し入ったとの事です そして、現在 警察が犯人たちとの交渉を…』
メルフェスがTVへ向く シェイムが電話を終え TVへ向くと 電話が鳴り シェイムが受話器を取ると驚いて言う
「ナラム局長の屋敷に 武装集団がっ!?ではっ!?」
メルフェスが驚き2人がTVへ向く

【 カルメス邸 】

TVで臨時ニュースが流れている ルイルが言う
「こんな大事にせず 暗殺した方が良かったのでは?」
元重役1が言う
「我々の復帰には メイリス長官だけではなく 国防軍も邪魔になる 従って 彼らの弱みを得ておきたい ハブロス総司令官は 恐れ多くも陛下の誘拐を企てたのだろう?」
ルイルが言う
「それをどうやって弱みとして 得るつもりです?失敗した誘拐の証拠など…」
元重役2が言う
「陛下はお話が出来ないのだったね?それなのに どうやって国民へ向けた御言葉を 聞かせようとしたのかね?」
ルイルが言う
「あぁ、なるほど それでは」
元重役1が言う
「奴らには 偽の要求を持たせて有る ナラム局長は たまたま その事件に巻き込まれてしまった… と言う事だ」
元重役2が言う
「もっとも そんな事では 政府の2人は 騙せないだろうけどね?」
元重役たちが笑う 女性秘書が密かに聞いている

【 ハブロス家 】

軍曹が車を降りる アースが言う
「まだ しばらく屋敷でおとなしくしてろ もちろん、レギストの訓練に参加するなどとは 言うんじゃないぞ?」
軍曹が車の外から苦笑して言う
「分かっているのだ 兄貴 自分でも 今の俺が行っては レギストの皆の邪魔をしてしまうと…」
軍曹の携帯が鳴り軍曹が疑問しながら 携帯のディスプレイを見て言う
「うむ?たった今戻ったと言うのに 皇居からなのだ」
アースが疑問して言う
「皇居から?」
軍曹が電話に出る アースが軍曹を見ると 執事がアースへ言う
「アース様 少々問題が…」
アースが執事へ向くと 軍曹が電話の内容に驚いて言う
「何っ!?陛下に脅迫 …うぐっ!?」
軍曹が傷の痛みに痛がる アースが呆気に取られると 執事が言う
「現在 誘拐事件が起きており 犯人たちからの要求として 先日のパレードにて 行われる筈であった 陛下の御言葉を 聞かせるようにと…っ」
アースが言う
「何んだとっ!?」
軍曹が携帯を切って言う
「兄貴っ 今 何やら誘拐事件が起きておると そして その要求が…っ」
アースが言う
「ああ、こちらも今聞いた所だ」
軍曹が言う
「皇居からは 俺とラミリツ攻長に 陛下の警護に 付いて欲しいとの連絡だったのだっ」
アースが言う
「そうか… しかし お前は」
軍曹が言う
「そうと言われればっ 俺は やはり 向かわぬ訳には 居られんのだっ 防長として 俺は陛下の下へ向かうっ!」
アースが言う
「分かった …だが 無理はするなよ?こちらも政府警察から事件の委託を受ければ すぐに国防軍の部隊を配備させる」
軍曹が頷き言う
「うむ 了解した」
軍曹が立ち去る アースが運転手に言う
「国防軍総司令本部へ向かえ」
運転手が言う
「はい 直ちに」
車が発車する 執事が電話をしていて アースへ言う
「アース様 ルイル・エリーム・ライデリア所長から お電話です」
アースが執事から携帯を受け取り 携帯へ言う
「まさかとは思うが この事件の黒幕は お前たちか?」
携帯からルイルの声が届く
『はい 上手く事件に見せ掛けて ナラム局長を闇に葬る作戦です しかし ハブロス様には見抜かれてしまいましたか?流石ですね?』
アースが言う
「あの脅迫内容は何だっ?」
ルイルが言う
『もちろん 政府の彼らを欺く為にと 用意をしました』
アースが言う
「どの様な理由を付けようとも 誘拐したのが ナラム局長で有る以上 奴らには気付かれる …余計な事をっ」

【 政府本部 】

シェイムが電話をしている 受話器から ミックワイヤーの声がする
『メイリス長官っ 現在人質となっている ナラム局長をお守りするには 地区警察の力では足りません!警機を使用するにしても 犯人たちが向かっているのは ランドム地区です!あの地区はほぼ廃墟となっている為 我々より 国防軍の方が 得られている情報は多いです 国防軍へ事件を委託しても 宜しいでしょうか!?』
シェイムがメルフェスを見る メルフェスが考えながら言う
「ハブロス総司令官が 元政府重役たちと繋がりがあると言うのなら ナラム局長が我々と接触しない方が良いと言うのは 言うまでもありませんが… まさか このような事件を起こすとは… これが彼らの策略なのか 本当に事件なのか…」
シェイムが言う
「政府警察から正式に委託された事件を 解決出来なかったとなれば それは国防軍の信頼を落とす事になります 彼が 自身の利を取るか 国防軍の信頼を取るか と言う問題にもなりますが… ミックワイヤー警察長が言うのです この事件は警機を使ったとしても 無事解決が出来る 確信が無いと言う事です」
メルフェスが言う
「それではもう 我々への情報を諦めてでも ナラム局長の人命を尊重しましょう」
シェイムが頷いてから電話へ言う
「政府長長官として この事件の国防軍への委託を 許可する」

【 車内 】

アースが電話をしていて言う
「政府長長官の命の下で 正式に政府警察から委託を受けたのであれば 相応に対処をしろ 人質の救助を優先 犯人の拘束は可能な限りで良い」
アースが電話を切ると 携帯へ言う
「…という事だ 貴様らが雇った何者かは 我々国防軍が捕らえる事となる」
ルイルが言う
『それはそれは… お手間をお掛けしまして すみません 何しろ ハブロス総司令官が ご協力をして下さらないと言うもので 仕方なく 無い知恵を絞ってみました …しかし ご心配なく 犯人たちはプロですから!しっかりと 仕事はこなしてくれる筈です ハブロス総司令官 上手く 国防軍を操って下さいね?人質たちには 消えて頂きますから』
アースが言う
「そうは行かない 政府警察から正式に委託を受けた事件は 人質の救助が最優先とされる それを 不意にする事など」
ルイルが言う
『そうですか?面倒ですね なら良いです 国防軍が勝っても 犯人たちが勝っても どちらにせよ ナラム局長に逃げ道は無いですからね?』
アースが言葉を言い掛ける
「それはどう言う…っ!?」
電話が切れる アースが不満げに言う
「勝手な事を…っ まぁ 良い 裏組織の連中などとは異なる 国防軍の力を見せてやる」
アースがカーTVへ視線を向ける TVからレポーターの声がする
『犯人グループは 国道22号から ランドム地区へ向かった模様で… あ、今入った情報です 警察は今回の事件を 国防軍へ委託 以後の犯人グループとのやり取りは 国防軍が行うとの事です …これにより』
アースが微笑して言う
「ランドム地区… 国防軍レギスト駐屯地の管轄か これなら…」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

情報部員が言う
「16部隊より通信 情報部へ対し 無線通信を要求」
マイクが言う
「16部隊 こちら 情報部 応答を」
レムスの声がスピーカーから聞える
『こちら16部隊レムス少佐だ 16部隊の使用できる無線周波数を教えてくれ』
マイクがPCを操作して言う
「そちらの区域で使用できる周波数は 18から21です 今それらの使用確認を」
レムスの声が届く
『では 18を使用する』
マイクが慌てて言う
「あ、待って下さい 今 それらの使用確認をします!無線処理をしなと 盗聴される可能性もありますから!3分ほどで終わるので」
レムスの声が届く
『時間が無い 犯人グループの車両は 既に建物の前に到着した!犯人グループと人質と思われる人物らが 建物に入った事も確認している 隊員たちと連絡したい 全隊員へ周波数18を伝えろ』
マイクが言う
「しかしっ」
レムスが怒って言う
『早くしろ!現場は時間との戦いなんだっ』
マイクが表情を困らせて言う
「…了解 16部隊 無線周波数18を 各隊員へ通達!」

【 国防軍総司令本部 】

アースが呆気に取られて言う
「失敗した だと…っ?」
秘書が言う
「はい 先ほど国防軍レギスト駐屯地のバックス中佐より 任務の失敗を知らせる 連絡を受けました 共に こちらの総司令本部へ謝罪とご説明に伺うとの」
アースが立ち上がって言う
「いや!私が向かうと伝えろ!国防軍の恥晒しを 切り捨ててやらねば 気が収まらんっ」
アースが出入り口へ向かう 秘書が言う
「政府長長官への ご報告は如何致しましょう?」
アースが立ち止まって言う
「先に結果を知らせておけ 私は …詳細の確認へ向かっていると」
アースが歩みを再開する 秘書が言う
「畏まりました」

【 政府本部 】

シェイムが電話をしていて驚いて言う
「失敗した?それはどう言う意味だ?人質を また何処かへ移動させられた と言う事か?それとも 犯人たちを見失ったと 言う事か?」
電話から秘書の声がする
『いえ、我々国防軍における 任務の失敗と言いますのは 最優先事項の失敗を意味致しまして 誘拐事件に置きましては 守るべき 人質の人命が失われた事を 意味致します』
シェイムが驚いて言う
「ではっ 拉致された ナラム局長と秘書はっ!?」
秘書が言う
『事件現場から ご遺体が確認されました』
シェイムが驚く

【 ハブロス研究所 】

アースが怒りを忍ばせて言う
「やってくれたな ルイル・エリーム・ライデリア」
ルイルが苦笑して言う
「怖いですね… 何です?いきなり」
アースが言う
「とぼけるつもりか?よくも国防軍の隊員たちを 巻き込んでくれたものだっ」
ルイルが言う
「そんな事 私に言われても困りますよ 犯人たちには ナラム局長と秘書を消してくれと 方法は任せると言っただけです それに巻き込まれて 勝手に死なれても それが私のせいだとでも 言うのですか?」
アースが言う
「お前たちは 敵と味方の 区別も付かないのかっ?」
ルイルが苦笑して言う
「それこそ 犯人たちと国防軍の隊員 双方に言って下さいよ?協力して 人質を消すようにって …だから 私は事前にお電話して 差し上げましたのに?」
アースが悔しさを押し殺して言う
「ク…ッ」
ルイルが言う
「あ、そうでした 事前にと言う事で またお知らせして置きますが」
アースがルイルを見る ルイルが微笑して言う
「昨日の事件が 我々の作戦だと言う事をかく乱させる為に 今日もう一度 同じ犯人たちに事件を起こさせます …あ、でも今回は 人質を消す事が目的ではないので 人質の救出をして 後は 殺すなり生かすなり 適当にお願いしますね?犯人たちを 生きたまま警察に渡すのだけは 止めて下さいよ?総司令官様?」
アースが言う
「お前の目的は この研究所に留まる事ではなかったのか?」
ルイルが言う
「え?はい そうですけど?」
アースが言う
「では これ以上 事件を起こさせたりなどはするな」
ルイルが言う
「ですから 次のは 昨日の事件をかく乱させる為であると」
アースが言う
「必要ない もし 決行するようであれば 今度は 現、国防軍の最強部隊を向かわせる 人質の救出はもちろん 犯人たちも全員拘束する!」
ルイルが微笑して言う
「へぇ~ そんな部隊が国防軍にあったのですか?それは是非 実力を拝見してみたいですね?」
アースが目を細める

【 政府本部 】

内線電話が鳴り声が響く
『メイリス長官 国防軍総司令官アース・メイヴン・ハブロス様から お電話が入っております』
シェイムが一瞬驚いた後言う
「分かった」
シェイムが受話器を取って言う
「ご報告は頂きました 残念ながら 事件は未解決に終わり 人質と共に 国防軍の隊員たちも 犠牲になってしまったと お悔やみを申し上げます」
受話器からアースの声がする
『政府長長官のご指示の下 国防軍へ委託を受けておきながらも 人質を救出する事が出来なかった結果へ対し 国防軍総司令官として お詫びを致します』
シェイムが僅かに驚いた後視線を逸らして言う
「遺体の確認は行いました 人質となったのは 我々政府の重役である ナラム局長とその秘書で 間違いはありませんでした …このような事を言いたくはありませんが ハブロス総司令官 今回の事件は もしや…?」
アースが言う
『今回の事件には 貴方方政府の元重役の方々が関与しているという 情報を得ました』
シェイムがムッとして言う
「その重役たちに関連する者をっ …貴方は雇っておられるのではっ?」
アースが言う
『はい その者が 今回の事件に関わっている可能性は 高いと思われます』
シェイムが怒って言う
「何を白々しいっ!貴方が命じたのではないのかっ!」
アースが言う
『そのような事はしていませんが しかし その者を通じ 元政府重役の方々が 更なる事件を行うと言う 有力な情報を得ました』
シェイムが呆気に取られて言う
「なっ!?」
アースが言う
『そこで 政府長官である 貴方に 国防軍総司令官として 頼み事が有り この連絡を入れた次第です』
シェイムが言う
「…どう言う意味です?」
アースが言う
『私が入手した情報が正しければ 再び起こされる事件は 本日 内容は 恐らく昨日と同様ものになるかと …従って 昨夜の事件で犠牲となった 国防軍隊員たちの無念を晴らす為にも どうか 最初から事件への対応を 我々国防軍へお譲り頂きたい』
シェイムが目を細める アースが言う
『ご了承を頂けますでしょうか?』
シェイムが言う
「…では 1つ こちらからも 条件を」
アースが言う
『何でしょう?』
シェイムが言う
「拘束した犯人たちの処置は 予てより 我々政府警察へ委任されていますが 今回は その犯人たちを護送する為の警察官を 作戦初期から 同行させて頂きたい」
アースが言う
『構いません』
シェイムが言う
「分かりました それでは 事件が発生した場合は 速やかに 貴方方国防軍へ 事件の委託を行います」
アースが言う
『その様に お願いします』
電話が切れる シェイムが受話器を見てから息を吐いて 電話を切る

【 国防軍総司令本部 】

アースが言う
「今すぐに 現 国防軍部隊における 名実共にNo1の部隊を探せ!戦力だけではない 統括力、情報収集能力 それらを含めた 国防軍No1の部隊だ!」
秘書が言う
「畏まりました 直ちに」

【 国防軍レムル 駐屯地 】

マックスが受話器を取って言う
「こちら国防軍レムル駐屯地 情報部主任 マックス大尉であります… ハブロス総司令官」
受話器からアースの声が聞こえる
『名実共に国防軍No1とされている 国防軍レムル駐屯地情報部 及び 国防軍15部隊 諸君を見込んで 総司令官特殊任務を与える』
マックスが言う
「有難きご名誉を頂き 国防軍レムル駐屯地情報部 並びに 国防軍15部隊 我ら至福の極みに御座います …必ずや ハブロス総司令官のご期待に沿いましょう」
アースが言う
『期待しているぞ』

【 皇居 女帝の間 】

ラミリツと軍曹が定位置で構えている 13部隊長が現れ敬礼してから軍曹の下へ行き耳打ちする ラミリツが横目に見て表情を顰める 軍曹が頷き言う
「うむ 良くやったと伝えよ」
13部隊長が敬礼して言う
「はっ!」
13部隊長が立ち去る ラミリツが言う
「…何?今の」
軍曹が微笑して言う
「うむ!良い知らせである!我が国防軍の15部隊が 事件を無事解決!人質を救助し 且つ 犯人グループを取り押さえたとの事だ!」
ラミリツが一瞬呆気に取られた後 視線をそらして言う
「ふーん… けどそれって 普通 当たり前の事じゃない?その為の 国防ー軍だろ?」
軍曹が苦笑して言う
「まぁ そうとも言うが 実際には そんなに簡単な事ではないのである!自分はまだ 実戦の経験は無いが 話を聞いただけでも 大変な事なのだ!」

【 カルメス邸 】

シェイムが言う
「国防軍に拘束され 我々政府警察へ連行された犯人たちが 教えてくれました …貴方方の関与を」
元重役1が言う
「まさか 貴方の政府と あの国防軍が手を組まれるとは …これは 大きな誤算だった」
シェイムが言う
「ハブロス総司令官が 直々に私へ協力を要請されましたので 私はそれを受託しただけです」
元重役2が言う
「国防軍は仲間意識が高いからね?あの犯人たちが 調子に乗って 国防軍の隊員たちを手に掛けたと聞いた時から 嫌な予感はして居たんだよ」
元重役5が言う
「国防軍の部隊など 取るに足らない等と言っておきながら 今度は あっさりと やられたようですな?」
シェイムが言う
「貴方方が引き起こさせた事件によって 10名の尊い人命が失われました よって 貴方方を 殺人事件首謀者として 逮捕します」
警察官たちが現れる 元重役たちが息を吐く

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話をしていて言う
「そうですか その者たちは 具体的にどれ程の刑罰を受けるもので?」
ルイルが遠目にアースを見る アースが電話に言う
「…分かりました 直接の犯人ではないとは言え それくらいの刑に架せられるのでしたら 事件の被害者たちも 浮かばれるかもしれません… それから事件関与の元重役たちとは異なり 犯人たちはどうなるのでしょう?…ほう 国民を守る政府と言うが 中々恐ろしいですね 国防軍は アールスローンの法律に従い 人命は尊重しますが」

【 政府本部 】

シェイムが電話をしていて言う
「10名もの人命を奪っているのです 終身刑などでは足りないでしょう?命を奪われた者は もちろん 残された家族を思うのなら 当然の事だと思いますが… それはそうと ハブロス総司令官 貴方に質問があります」
受話器からアースの声がする
『何でしょうか?』
シェイムが目を細めて言う
「何故… カルメス元外交長のお屋敷を 購入されたのです?」
アースが言う
『いけませんか?私は正規の契約に則り 物件を購入しただけですが?』
シェイムが言う
「カルメス元外交長は 貴方にとって 気分の良い相手では無い者だと 思っていましたが?」
アースが言う
『貴方には関係のない事でしょう?あの屋敷は 販売業者の所有物となっていました それを私が購入しただけです』
シェイムが言う
「では、その屋敷に 何故 元政府重役たちが潜んでいたのでしょうか?あの場所で 彼らは会談を行っていた… 貴方も関わっているのでは?」
アースが言う
『所有者は私であっても 使用者は私ではありませんから 使用者が誰と関わっていようとも 私の関与する所ではありませんね』
シェイムが悔んで言う
「…クッ」

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話に言う
「犯人たちの刑が執行されましたら またお知らせを頂けると幸いです それでは」
アースが電話を切る ルイルが言う
「犯人たちは 死刑ですか?」
アースが言う
「そうらしいな」
ルイルが苦笑して言う
「それはそれは… しかし 首謀者たちの方は 禁固刑で それも 保釈金を支払えば すぐにでも自由の身になれるのに」
アースが言う
「その保釈金が いくらだったか知りたいか?」
ルイルが苦笑して言う
「御遠慮しておきます それに、本職でお返し致しますと 最初から言っているではありませんか?いつになったら カルメス外交長… おっと マスターシュレイゼスのナノマシーンを 奪って下さるのです?」
アースが言う
「奪うと言うな こちらも正規のルートで 手に入れてやるさ」

【 政府警察本部 】

シェイムがやって来て視線を向ける 視線の先にメルフェスとミックワイヤーが居る ミックワイヤーが気付いて言う
「メイリス長官」
メルフェスが振り返ると シェイムがやって来て言う
「犯人たちから ハブロス総司令官に関する事は 聞き出せましたか?」
ミックワイヤーが顔を横に振って言う
「いえ 後に逮捕された 元重役たちの事以外は何も」
メルフェスが言う
「ライデリア家の2人の名も 聞き出せてはいないそうです」
シェイムが言う
「そうですか… 物証も無く供述も得られないのでは 事件への関与は得られないか…」
ミックワイヤーが言う
「はい…」
メルフェスが言う
「それに 今回は前日の事件で犠牲になった 国防軍の隊員たちを思っての 国防軍の勝利として 世論も彼らへ味方しています 調べを進めようにも そちらの意味でも 難しくなっています」
シェイムが言う
「ふむ…」
ミックワイヤーが苦笑して言う
「しかし、その国防軍の為に 事件の処理を全面的に任せたという 政府長官の名も 世論へは良い評価を得ていますよ?」
シェイムが呆気に取られる メルフェスが微笑して言う
「それは 良いお話ですね」
シェイムが苦笑する ミックワイヤーが言う
「政府と国防軍の長が 同時期に変わった事も有り 今は皆 この2大組織がどうなって行くのかと言う事に 注目しているようです ですので 今回の様に 事件とは言え その2つの組織が協力し合っている姿と言うのは とても好感が持たれるのでしょう」
シェイムが苦笑して言う
「協力か… 確かに 今回はその2者が協力して 元政府重役たちの悪事を 押さえたと言う事になるのだろうが …その実 彼らは我々を出し抜こうとして失敗し その結果失った仲間の仇討ちを行ったと言うのが事実であり 我々も また、国防軍の彼らが捕らえた犯人たちから その国防軍の情報を 聞き出そうとしている …これでは どちらも世論を味方に付ける者とは 言い難いな」
ミックワイヤーが苦笑して言う
「どうにか 互いが手を取り合う事は出来ないのでしょうか?アールスローンの国民は どちらが良いではなく 両方が良い事を願っている筈です」
シェイムが言う
「そうですね… 出来る事なら 私もその様に願いたいものです」
メルフェスが シェイムを見てから意味深に考える

【 政府本部 】

シェイムが驚いて言う
「…え?」
メルフェスが言う
「試して見る価値は 有るかと」
シェイムが困って言う
「し、しかし…っ」
メルフェスが言う
「今回の事で 少なくとも ハブロス総司令官は 国防軍の総司令官としては 十分その器にあると言う事が分かりました 国防軍の彼らにとって 最も必要な事は 何よりも 自分たちの仲間を思う その仲間意識であるとされていますので」
シェイムが視線を落として言う
「それはそうかもしれませんが… 国防軍が… ハブロス総司令官が 私が長官であるこの政府を許容するかどうか」
メルフェスが言う
「今の彼であるなら フレイスへの誤解も解かれていると思います フレイスは彼の父親を守ろうとして 2人で帝国から逃げ出した… それを聞いた彼は 話を疑っている様子はありませんでした そうとあれば少なくとも メイリス家へ対する その誤解は解かれているのではないかと」
シェイムが言う
「そうだとしても 今まで我々は 彼が父親を助ける為に行おうとした事を阻んで来ました それまでを許すとは」
メルフェスが言う
「その為に あえてこちらから ナノマシーンを提供する事で 和解が出来るのではないかと思うのです そうすれば メイリス家の2人の長であっても この政府と ハブロス家の国防軍が これからは 本当に協力していけるのでは ないでしょうか?話してみる価値は有ると思うのですが」
シェイムが言う
「しかし、もし ハブロス総司令官が その条件で受け入れたとしても 肝心のナノマシーンはどうやって?もしや マスターの名を持つ方は 何処かでナノマシーンを手に入れる事が 出来るのですか?」
メルフェスが苦笑して言う
「いえ 何処を探しても そのような伝手はありませんよ」
シェイムが言う
「では どうやって?…まさかっ!?」
メルフェスが微笑して言う
「はい 私の持つ シュレイゼスを 渡そうかと」
シェイムが慌てて言う
「そ、そんな事っ!」
メルフェスが言う
「このまま争いを続けていても 先は見えています ハブロス総司令官は 私が過去に政府のマスタートップシークレットを破壊した容疑を理由に 私に罪を着せ ナノマシーンの強制除去を迫るでしょう そして除去された ナノマシーンが 廃棄される前に 国防軍が力を持って それを強奪する… もしくは 何らかの理由を作り 手に入れる …そうであるのなら 最初から和解を求めて渡してしまうというのは どちらにとっても 特になります」
シェイムが言う
「それはそうですが 我々も 今 あのマスタートップシークレットが悪しき物であったと言う裏付けを 探している所です 実際 あのマスタートップシークレットは 政府の力になるようなものでは なかったのですから それを破壊した事は 元々罪になど ならないのですっ」
メルフェスが言う
「そのマスタートップシークレットに最も精通していたのが 今国防軍に身を寄せている ルイル・エリーム・ライデリアです 彼があちらに居る限り どの様な裏付けを得ようとも 覆される可能性が高いです」
シェイムが困る メルフェスが言う
「それに それらの事で 国防軍とライデリア家の繋がりが より深まってしまう事は 政府にとっても国防軍にとっても プラスにはなりません ライデリア家は ハブロス家に継ぐ力を持っています 何時 そのライデリア家が ハブロス家や国防軍に手を出すとも限りません …そうなる前に」

【 ハブロス家 アースの部屋 】

アースが言う
「父上のお加減に変わりはないか?」
執事が言う
「はい、アーケスト様の御容態は ここ最近 お変わりはあられません やはり 皇居御用医師である マスターカルンゼス様から ご処方頂きましたお薬が 良い効力をもたらしておられます様で 以前まで御座いました発作の方も 殆どみられなくなりました」
アースが言う
「その マスターカルンゼス医師を 専属にする事は?」
執事が言う
「ご要望をお伺いしたのですが どの様な優遇を頂いても お引き受けは出来兼ねると…」
アースが言う
「そうか…」
アースが息を吐く 執事が表情を悲しめる アースが言う
「結局 マスターの名を持つ者は 誰一人私の国防軍には 付かないと言う事なのだろう 対する政府には そのマスターカルンゼスと共に あのマスターシュレイゼスが… 何故だ?」
アースが表情を顰める 執事が言う
「政府はアールスローン信書を信仰される組織でありますので そちらの影響も多少は有るのかもしれません」
アースが言う
「反逆の兵士か… なるほどな それ所か 今の政府には 悪魔の兵士まで居る始末だ… 政府長のメイリス家は 権力も財力も低いくせに 得ている力は ハブロス家の私より多い」
執事が言う
「アース様 お言葉ですが 悪魔の兵士は 国防軍の力では?」
アースが言う
「だが 皇居の役人たちは あのラミリツ・エーメレス・攻長を 悪魔の兵士として認めたと…」
アースが気付いて言う
「…うん?認めた?そうだな 奴は 悪魔の兵士である 神の刻印を持つと言う事を理由に 認められたらしいが そのような物で 何故認められる?」
執事が本棚からアールスローン戦記を取り出し ページをめくりながら言う
「アールスローン国の法律にて 心臓に近い位置へ刺青処置を行う事は禁じられておりますが その理由のひとつは人命尊重の精神 そして もう1つは 陛下の親兵である 攻長のみの特権とされている事に 由来致しておりますので 皇居の役人が確認をなさったというのは そう言った法律的な意味では 御座いませんかと?」
アースが言う
「では その法律を破ったとなれば 奴を攻長の座から下ろす事が出来るか?こちらの 防長への被害は無く」
執事が言う
「確かな事は分かりかねますが 法律の上で攻長としての座を追われるとなりませば 信仰への背信と言う事にもなりますので アールスローン戦記を用いた法律の上で有りましても 防長が攻長をお守りする理由は無く 防長は据え置き 攻長は変更と言う事も有り得るかも知れません」
アースが言う
「それだっ それを行わせるっ!」
執事がアールスローン戦記のページを開いた状態で アースへ渡す アースが言う
「問題は 今も尚 謎とされている ペジテの印 これの答えだが… やはり アールスローン戦記の原本か…」
アースが執事を見上げて言う
「レミック お前は父上と共に その原本を探したそうだな?それで 結局」
執事が言う
「はい 残念ながら 見付け出すには至りませんでした」
アースが言う
「それは 本当の事か?私が聞いた話では 原本はアーヴィンに託されたと聞いたが」
執事が言う
「はい、従いまして アーヴァイン様のお部屋はもちろん アーヴァイン様に関連する施設等も 全て御探し致しましたが…」
アースが言う
「だが、あの頃は アイツも幼かった では 今なら…?」
執事が言う
「しかし… アース様」
アースが言う
「うん?」
執事が言う
「僭越ながら アース様の目的は アールスローン戦記の原本を探し出す事ではなく その悪魔の兵士に施されていると言う ペジテの印のご確認に御座いますよね?」
アースが言う
「ああ、そうだ その為に 原本を見つけ出し そこに記されているであろう ペジテの印を」
執事が言う
「しかし、ペジテの印は 悪魔の兵士の身に 記されているというのですから そちらが事実で御座いませば… エルム少佐へ 直接 お尋ねをなさいませば 宜しいのではないかと?」
アースが驚いて言う
「そ、そうか…っ!」
執事が微笑して言う
「と、申しましても ともすれば 原本を探すのと同程度の ご苦労を強いられるかもしれませんが…?」
アースが表情を顰めて言う
「それもそうだな… それに もしエルム少佐から ペジテの印を確認したとして 次にはまた ラミリツ・エーメレス・攻長にそれがあるのかを 確認しなければならない… こちらは更に困難だ」
アースが息を吐く 執事が苦笑する

【 国防軍総司令本部 】

アースが部屋へ入ってきながら 付き添っている秘書へ言う
「各部隊からの昨日の報告書を 国防軍レギスト駐屯地の物を上に置いておけ それから」
秘書2が電話をしていてアースに気付くと 電話を保留しながら言う
「あ、少々お待ち下さい …ハブロス総司令官」
アースが秘書2へ向くと 秘書2が言う
「政府長官シェイム・トルゥース・メイリス様から お電話が入っております ご用件は …ナノマシーンに関する事であると」
アースが一瞬疑問した後 デスクの椅子に座り受話器を取り  間を置いて驚いて言う
「…それは 本気で言っているのか?ナノマシーンを譲渡する など…!?」
受話器からシェイムの声が聞こえる
『ええ、本当です ナノマシーンは元々 親からその子へと受け継がれる物ですが カルメス殿… いえ、マスターシュレイゼスに子息は居られません 従って 彼の持つナノマシーンは 彼と共に終わりを迎えるのが 通常となりますが 彼は我々政府と国防軍の為に そのナノマシーンを提供して下さると』
アースが呆気に取られる シェイムが言う
『ハブロス総司令官 これをもって 我々政府と貴方の国防軍との冷戦を 終わらせる事は出来ないでしょうか?私の父 ソロン・フレイス・メイリスは 貴方の父上様である ヴォール・アーケスト・ハブロス様の友人でした 父は最期に 貴方の父上様に会いたいと… もう一度話をしたいと言っていました 貴方もマスターシュレイゼスから話を聞き 誤解は 解かれている筈です』
アースが間を置いて言う
「…唐突なお話ですので 改めてこちらから 連絡を入れます」
アースが受話器を置く

【 政府本部 】

シェイムが受話器を置き顔を向けると メルフェスが携帯を切る シェイムが言う
「まだ マリーニ殿への連絡が?」
メルフェスが言う
「はい… 保育園も 急に長期の休暇を取って 休んでいるというので 少々心配です」
シェイムが言う
「そうですか 今の所 外交に関しては 既存の外交官たちで賄っているので 新たな外交長を置く予定は立っていませんが… 必要となれば 再びマスターの名を持つ方を得て メルフェス・ラドム・カルメスの名を使用する可能性は 否定出来ません」
メルフェスが立ち上がって言う
「私に個人的に動かせる者は もう居ませんので 直接 私が行ってきます」
メルフェスが室外へ向かう シェイムが言う
「何か有りましたら 御連絡を下さい 政府に関わりの無い事であっても 私個人への協力要請であっても 構いませんので」
メルフェスが振り返り微笑して言う
「はい 有難う御座います シェイム殿」
メルフェスが部屋を出て行く

【 国防軍総司令本部 】

ルイルが言う
「え?本気ですか?ハブロス様?」
アースが言う
「向こうがそうと言って来ている こちらに異論は無い それに これはナノマシーンを手に入れるのに 最も確実な方法だ 私は メイリス長官からの 打診を受け入れる」
ルイルが言う
「ちょっと待って下さいっ!?それでは 今政府警察に囚われている連中は 見殺しですか?総司令官様?」
アースが言う
「元々 お前たちが 勝手に立てた作戦だろう?」
ルイルが言う
「しかし、良いんですか?彼らは 総司令官様が 偽物の陛下を使って 偽の演説をしようとしていた事を 知っていますよ?その事を政府警察でバラされたりなどしたら」
アースが間を置いて言う
「…では 保釈金を払ってやろう それで終わりだ お前は メイリス長官から受け取る ナノマシーンを陛下のナノマシーンと同じ物にしろ そこまでが お前の使命だ」
ルイルが苦笑して言う
「私は構いませんが… ハブロス様?あんまり我が侭を 言っていますと 元重役の皆さんや カルメス殿になった兄上が 国防軍をどうにかしてしまうかもしれませんよ?」
アースが言う
「私の国防軍に勝てるとでも?」
ルイルが言う
「国防軍には勝てなくとも ハブロス家には勝てるかもしれません ライデリア家と元政府重役の皆さんで 協力をすれば?」
アースが言う
「それならそうで こちらには 国防軍と共に 現役の政府の力が味方に付く」
ルイルが苦笑する
「そうですか… 現役の政府 メイリス家では 少々心許無いかと思われますが 国防軍だけでなく 政府の力まで ハブロス家のものに出来たら それは 確かに 最強かもしれませんね?…ふふふっ」
アースが言う
「何が言いたいんだ?」
ルイルが言う
「ハブロス様 私の望みをお覚えで?」
アースが言う
「あの研究所に 居続ける事だと思っていたが?」
ルイルが言う
「はい ですから 私としましては ハブロス様には もっともっと力を有して頂きたいのです!それこそ 国防軍だけではなく 政府の力も!」
アースが言う
「私に国防軍総司令官と 政府長官を兼務しろとでも言いたいのか?」
ルイルが言う
「それは難しいかもしれませんが 攻長は 兼務をするのでしょう?」
アースが反応する ルイルが言う
「その攻長を 意のままに操る事が出来たら それはもう 政府さえ ハブロス様が操っていると言う事になりますよね?」
アースが言う
「…そうだな あの攻長 一度は大した者かとも 思っていたが あのパレードの様子と言い 見舞いにやって来た時の様子と言い アイツ程ではないが 奴1人であるなら 操る事は出来そうだ」
ルイルが言う
「ナノマシーンを除去するというのなら もう あちらの反逆の兵士に怯える必要はありません そうとなれば 長官を取り替える事は簡単だと思います そして、攻長と長官が異なる家の者となれば その2人の繋がりは それほど強くはならないでしょう?…何しろ 相手は騙し合いの政府ですから?」

【 政府本部 】

内線電話が鳴り 秘書の声が響く
『メイリス長官 国防軍総司令官 アース・メイヴン・ハブロス様から お電話が入っております』
シェイムが受話器を取って言う
「お考えを頂けましたでしょうか?ハブロス総司令官」
受話器からアースの声がする
『はい、そちらの提案を 受け入れたいと思います』
シェイムが間を置いて言おうとする
「…では」
アースが言う
『ただ、その前に1つ 未解決の事件を解決させる為に 今一度 ご協力を頂けないでしょうか?』
シェイムが一瞬驚いてから言う
「未解決の事件… とは?一体何の事件で?」
アースが言う
『先日まで行われていた 元政府重役たちによって 引き起こされていた事件です』
シェイムが言う
「あれは 元重役たちと共に 犯人たちを捕らえ それで解決したのでは?」
アースが言う
『犯人たちは 死刑判決がなされたのですから そちらの心配はありませんが… 犯罪関与の元政府重役たちは 禁固刑とは言え 保釈金を払えばすぐにでも釈放されるでしょう その為に 事件そのものを終わらせる必要があるのです』
シェイムが言う
「あの事件は… そう言えば 犯人たちから要求が出されていた」
アースが言う
『そうです 犯罪関与の元政府重役たちは 陛下の御言葉を頂きたいと …それがどう言う意味か メイリス長官はご存知で?』
シェイムが一瞬間を置いてから目を細めて言う
「…いえ?」
アースが言う
『では お伝えします あのパレードの際 襲撃事件が起き そちらのお陰で行われなかった 陛下から国民へ向けた御言葉… それは 我々国防軍が偽造した 録音を流す事で行われる予定でした』
シェイムが反応した後 平静を装って言う
「ほう…?そうだったのですか?」
アースが言う
『貴方もご存知かと思われますが あの偽の陛下は 言葉を話せません 従って 我々はその様な手段を講じるしかありませんでした しかし、襲撃事件が起きた事で 実際には 録音を流す事は無かった訳です』
シェイムが沈黙する

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話をしている アースが言う
「そして、今回の事件 逮捕された元政府重役の者たちは 我々国防軍が行おうとしたこの事を …どうやら知っているようなのです そうとなれば 釈放された彼らは そちらを元に 再び 国防軍への脅迫を行うでしょう …そこで それをさせない為に これらの事を 一度終わらせてしまおうと言う 作戦です」
受話器からシェイムの声が聞こえる
『…具体的には?』
アースが言う
「彼ら元政府重役たちは 偽の陛下が言葉を話せないことを知っている …それなら 言葉を話させてしまおうと言う事です」
シェイムが言う
『それは?一体どうやって?』
アースが微笑して言う
「もちろん 陛下が言葉を話せない事は事実 従って 今回も録音された御言葉を用意します …そこで 我々は協力して この言葉に沿うシュチュエーションを造ろうと言う事です 言葉を話せないと思われていた陛下が 言葉を話したら?それはもう 我々国防軍が過去に行おうとしていた裏さえ 覆されると言う事になるでしょう?…如何ですか?メイリス長官 この作戦に ご協力を頂けますか?」

【 政府本部 】

シェイムが閉じていた目を開いて言う
「…分かりました ご協力を約束します」
受話器からアースの声が聞こえる
『有難う御座います メイリス長官 …貴方の政府と私の国防軍が これを機に これからも互いに協力出来る事を願います』
電話が切れる シェイムが息を吐いて受話器を置く

シェイムが息を吐いて言う
「罠かもしれません… しかし…」
メルフェスが言う
「ハブロス総司令官へ協力をしましょう 例え罠だとしても それで 我々の目的は果たされます」
シェイムが言う
「しかし、こちらの善意を 無にするような国防軍だとすれば」
メルフェスが微笑して言う
「その時は メイリス家の信条に従い ラミリツ殿が立ち上がってくれる筈です 我々は 今まで通り ラミリツ殿を信じましょう シェイム殿」
シェイムが苦笑して言う
「流石は… 皇居宗主や外交長を退任しても 貴方は反逆の兵士ですね?マスターシュレイゼス殿?」
メルフェスが疑問して言う
「え…?それはどう言う…?」
シェイムが微笑して言う
「反逆の兵士は 元は帝国の兵士 …しかし アールスローンの親兵攻長を信じて 最後まで共に戦ってくれます 敵国の兵士である 親兵攻長を そこまで信じられるとは やはり 反逆の兵士のそちらの力は 私は凄いと思います」
メルフェスが微笑して言う
「そこまで敵国の兵士を信じさせた 親兵攻長の信念も 凄い力だと 私は思いますよ?」
シェイムが微笑した後 立ち上がって言う
「では 不本意ではありますが 一芝居行ってきます 死刑判決のなされた彼らだけならまだしも… ラミリツまで騙さなければならないと言うのは 少々心苦しいですが お芝居は武器を持たない我々の 唯一の武器ですから」
メルフェスが微笑して言う
「無線で名前を呼んで差し上げましょうか?あれは力になりますよ?」
シェイムが一瞬呆気に取られた後笑う メルフェスが共に笑う

【 政府警察本部 】

シェイムが見下ろして言う
「”国防軍の部隊など 取るに足らない” のではなかったのか」
拘束された犯人たちが顔を上げる リーダーが言う
「くっ… 先日の国防軍16部隊が 余りにも余裕だったから …油断したんだっ」
シェイムが言う
「言い訳なら もっとマシなものを用意したまえ …君たちに残された道は2つだ このまま ここで国防軍16部隊の8名と人質2名 計10名の命を奪った殺人犯として 刑を受けるか もしくは…」
リーダーが言う
「依頼は必ずやり遂げるっ」
シェイムが言う
「分かっているのなら結構 次の策を用意した …言って置くが 今度こそ 失敗は許されない」
犯人たちが焦りの表情を見せる シェイムが苦笑して言う
「だが 安心しろ 今までとは違い 人質も篭城も不要 …簡単なお芝居だ」
犯人たちが疑問し顔を見合わせる

【 メイリス家 】

ラミリツがシャワーを浴び終えた様子で浮かない様子で居る ドアが開かれシェイムが言う
「エーメレス」
ラミリツが一瞬驚いた後振り返って言う
「兄上…?こんな時間に 屋敷に戻るなんて 何かあったの…?」
シェイムが言う
「訓練ばかりでは退屈だろう そんな 攻長閣下へ 仕事を持って来てやったぞ 喜べ」
ラミリツが呆気に取られて言う
「え?」
シェイムが言う
「お前もTVを見ていたなら知っているだろう?先日起きた 国防軍が関連した2つの事件だ」
ラミリツが言う
「あ… うん… 政府重役のラダム局長と秘書が犠牲になって 国防軍の隊員も8人犠牲になった …けど 次の日には 国防軍がその犯人を捕らえたって」
シェイムが言う
「ああ、犯人たちは 死刑判決がなされた」
ラミリツが不満そうに言う
「人質と国防軍の隊員 両方で10人も殺したんだ 当然でしょ」
シェイムが言う
「そう、その当然の犯人たちの死刑を 政府を代表し エーメレス …お前にやってもらいたい」
ラミリツが呆気に取られて言う
「え…?」
シェイムが言う
「実はあの事件 二つとも 元政府重役たちと共に 私も 関与をしているんだ」
ラミリツが驚いて目を見開く シェイムが言う
「その事が 死刑が実行されるまでの間に 奴らの口から漏れては 私は終わりだ… もちろん 同じ メイリス家の お前も」
ラミリツが驚いたまま言う
「そ… そんな…っ 嘘だよね?兄上が…っ!?何でっ!?」
シェイムが微笑して言う
「全ては 私とメルフェス殿で 作り上げた策略だ 権力や財力で敵わない ハブロス家の国防軍に勝つには そうするしか無かった …が、お陰で 後一歩の所で 国防軍に勝てるかもしれないと言う所まで来ている そうとなれば ここからは 攻長閣下にも ご尽力を頂きたいんだ …私の言いなりとなった 奴ら犯人たちと同じく お前も私の命令に 従ってくれるな?エーメレス」
ラミリツが驚いて言う
「兄上…っ それじゃ あの2つの事件は どちらも兄上がっ!?」
シェイムが微笑する

屋敷前から高級車が発車する 部屋の片隅でラミリツがうずくまっている

【 車内 】

シェイムが電話をしていて言う
「どうやら 上手く信じさせる事が出来たようです」
受話器からメルフェスの声がする
『作戦成功ですね お疲れ様でした シェイム殿』
シェイムが苦笑し耳元から無線受信機を取り外して言う
「確かに 力になりますね 名前を呼んで頂けるのは」
メルフェスが言う
『そうでしょう?自分の意思とは離れた事を行わなければならない時には それを応援してくれる声と言うのは とても励みになります』
シェイムが微笑して言う
「では 今度は 私がまた シュレイゼス殿を お呼びしましょうか?」

【 政府医療施設 】

メルフェスが電話をしていて微笑して言う
「有難う御座います …しかし 今回は シェイム殿から シュレイゼスの名を呼ばれては 彼らは私の体から出て行く事を 拒んでしまうかもしれませんので お気持ちだけを 受け取っておく事にします」
受話器からシェイムの声が聞こえる
『マスターシュレイゼス… 本当に…』
メルフェスが苦笑して言う
「マスターカルンゼスに言われました このまま ナノマシーンを保持していても 次にうっかりにでも その力を借りてしまった時には 私の命は無いだろう …と」
シェイムが驚いて息を飲む
『…っ!?』
メルフェスが苦笑して言う
「余りにも色々な所で 彼らの力を借りたせいで 我侭な宿主に愛想を尽かされてしまったようです …ですので 十分に 感謝とお詫びをしてから お別れする事にします」
シェイムが言う
『そうですか… なんと言うか… 私も とても寂しい気持ちです… マスターシュレイゼスに その様な無理をさせたのは 私でもありますから』
メルフェスが微笑して言う
「その道を 選択したのは私です どうか シェイム殿はお気になさらないで下さい」
シェイムが沈黙する メルフェスが言う
「…それに シェイム殿に寂しいと言って頂けた事は 彼らにとっては とても嬉しい事だと思います …実は この様な事にならなければ 私は貴方へ譲りたいと思っていたほどですから」
シェイムが驚いて言う
『私へ…?いえ?しかし…?』
メルフェスが言う
「ナノマシーンの継承は 帝国の人間であっても アールスローンの人間であっても 変わりはないのです …元々、その2つの人種に 違いなど無いのですから」
メルフェスの後方でカルンゼスが咳払いをする メルフェスが気付き苦笑する

【 車内 】

シェイムが受話器を耳に当てたまま呆気に取られている 受話器からメルフェスの声がする
『それでは 国防軍との共同作戦の成功を 願っています』
シェイムが気を取り直して言う
「あ、はいっ こちらの事は… どうか ご心配なさらずに」
電話が切れる シェイムが受話器を見てから言う
「出来る事なら ”彼ら”を渡したくなど無かったが… 全ては 政府とエーメレスの為か…」
シェイムが表情を落とし 受話器を置く

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話をしていて言う
「それでは 作戦の開始は 予定通りにお願いします」
受話器からシェイムの声が聞こえる
『はい、午後6時40分に 政府警察と皇居へ 脅迫犯行声明が出される手筈が整っています 内容も予定通り 政府警察は皇居での事件と言う事で 国防軍へ事件を委託します』
アースが言う
「分かりました では 実際の委託のご連絡は結構です 事件の発生を確認次第 国防軍13部隊を配備すると共に 作戦を展開します …その後も予定通りで お願いします」
アースが微笑して電話を切り TVへ向く TVの映像が切り替わり キャスターが言う
『たった今入ったニュースです 先ほど 午後6時40分 警察と皇居へ 脅迫犯行声明が出されたとの事です 内容は 先日国防軍15部隊が拘束した 犯人グループの釈放 それが行われない場合は 彼らが果たせなかった 女帝陛下のお言葉を 直接、頂きに参上する との事です 警察は この事件を国防軍へ委託 その委託を受け 現在国防軍13部隊が緊急配備』

【 皇居 】

13部隊員たちが警備に付いている ぞくぞくと国防軍の車両が集まり増員されて行く 外にマスコミが押し寄せている 高級車が入って来て 玄関の前で止まる 軍曹が降り立つ

【 皇居 女帝の間 】

ラミリツが剣を着いて立っていて考える ラミリツの手が震える ラミリツがハッとして手を押さえ僅かに視線を上げる 視線の先 監視カメラが起動している ラミリツが視線を正面へ戻して 冷や汗と共に唾を飲み込む ドアが開かれ ラミリツが一瞬構える 軍曹が現れラミリツの様子に疑問して顔を向ける ラミリツが肩の力を抜いて 浮かない表情で一度視線を落としてから正面を見据える 軍曹が疑問しつつも 女帝の御簾の前に跪き言う
「陛下!陛下の御身は 必ず!自分とラミリツ攻長が お守りするでありますっ!」
女帝は沈黙する ラミリツが横目に軍曹を見てから 視線を戻し表情を困らせる 軍曹が定位置に着き 盾を床に着く 重い音が響く ラミリツが剣を握り締める

【 国防軍総司令本部 】

TVに女帝の間の映像が映っていて レポーターが言う
『この様に 陛下の御所の様子は しっかりと監視され 我々を含む大勢の目に 見守られているとも取られます この状態であるなら 犯人たちによる 陛下の誘拐なども無いかと思われ』
アースがTVを見て微笑して言う
「作戦現場を映像で確認出来るとは 国防軍総司令官であっても これは中々得られない状況だな?」

【 政府本部 】

TVに女帝の間の映像が映っている キャスターが言う
『尚、政府警察は 犯人の要求を断固拒否 現在政府警察省長に拘留されている 犯人グループの釈放には応じないとの事です これにより 陛下の御身に危険が及ぶのではないかとの意見がある中 陛下と共にある 皇室関係者に話を伺った所 犯人たちの凶悪且つ独創的な考えには 共感出来ないとの事 政府警察は国防軍と連携を取り 今後も犯人たちとは 徹底抗戦の構えを見せています』
シェイムがTVを見ながら言う
「犯人グループの釈放所か 犯罪の作戦に参加するとは… この様な事に関わるのは 今回限りに願いたいものだ」
TVの映像が切り替わりレポーターが言う
『たった今っ 皇居玄関前に 一台のトラックが入りました!警察とも国防軍とも異なる 無印のトラックです 一体あのトラックはっ!?』
シェイムが目を細めて言う
「その犯人たちの ご到着か」
TVからキャスターの声がする
『…尚 陛下の心身を気遣い 皇居へは オーケストラの一団が入るとの連絡が 先ほど政府警察への確認で分かりました このオーケストラの身柄は 政府警察並びに 国防軍が正式に確認を取っているとの事で』
シェイムが疑問して言う
「うん?政府警察が確認しただと?」
シェイムが電話を見る

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話をしていて言う
「あぁ… 勝手に言わせてしまい申し訳ない しかし、この作戦は 我々国防軍と貴方の政府との共同作戦です それを強調する為にも 各所で両者の名を出すのは 良い効果を得られると思いますが?」
受話器からシェイムの声がする
『それはそうかもしれませんが 一応 政府の関係省長の名を出すからには 事前にお知らせを頂きたいです 私の知らない場所で 政府の名を使われるのは 困ります』
アースが微笑して言う
「そちらは失礼しました 国防軍と政府が同じ作戦を行えていると言う事で 少々調子に乗ってしまいました 気を付ける事にします …所で メイリス長官 作戦の最中に恐縮ですが ナノマシーンの方は どうなっているのでしょう?この作戦は 云わば そちらを頂けると言う事が前提として 行われている事ですので」
シェイムが言う
『そちらのご心配は無用です それに 今はそちらの心配をするより 作戦の成功に向け集中をされていた方が良いでしょう?この作戦が万が一にでも失敗すれば 政府と国防軍両者の敗北として 双方の評価を大きく落とします』
アースが言う
「確かにそうですね では 失敗が無い様に 十分な手を打ちますので どうぞ ご心配なく」
シェイムが言う
『それは一体…?』
アースが電話を切る

【 政府本部 】

シェイムが受話器を見て不満そうな表情を見せてから 受話器を置いて言う
「何と傲慢な… これで両者が協力していると言うつもりか?殆ど 向こうの言いなりではないか」
ドアがノックされ 秘書が言う
「メイリス長官 マスターカルンゼス様がおいでです」
シェイムが一瞬驚いた後言う
「うん?マスターカルンゼス殿が?…ああ お通ししてくれ」
ドアが開かれ カルンゼスが現れる シェイムがカルンゼスの前に行って言う
「マスターカルンゼス どうかなされたのですか?マスターシュレイゼスは?」
カルンゼスが苦笑して言う
「ナノマシーンを除去したマスターは もう マスターとは呼ばないのだよ?シェイム・トルゥース・メイリス長官」
シェイムが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「シェイムで結構です では 彼は?」
カルンゼスが言う
「新しい名前が必要だな これを貴方が受け取るのなら お返しに 良い名前を 考えて差し上げてはどうだろうか?」
カルンゼスがアタッシュケースを向ける シェイムが反応して見つめる カルンゼスがアタッシュケースを開けて言う
「これが ナノマシーン 彼らの固有名称が シュレイゼス ご存知だったかな?シェイム殿」
シェイムが言う
「はい マスターシュレイゼスから 以前に伺いました」
カルンゼスが微笑して言う
「結構 …反逆の兵士が見付けた アールスローンの騎士は やはり 間違いは無かった様だ」
カルンゼスがアタッシュケースを閉じる シェイムが言う
「アールスローンの騎士?」
カルンゼスが苦笑して言う
「親兵攻長の事だ 敵国の兵士から見れば その騎士が 親兵攻長だ なんて事は分からないだろう?」
シェイムが微笑して言う
「なるほど そうですね?」
カルンゼスがアタッシュケースを渡して言う
「その剣が折れるまで 精一杯戦うと良い」
シェイムがアタッシュケースを受け取り 表情を落として言う
「はい… 私自身はそのつもりですが 果たして上手く行くのか…」
シェイムがTVへ向く カルンゼスがシェイムの視線を追う TVの映像が切り替わり レポーターが言う
『あ、たった今 もう一台のトラックが…』
シェイムが気付いて言う
「もう一台?」
TVからレポーターの声が届く
『…どうやら あちらも同じく オーケストラのトラックだった様です 先ほどと同様に 皇居の玄関へと向かって行きました』
シェイムがTVへ向き直り 不信そうに言う
「また勝手な事を!もう一台とは どう言う事だっ!?」
シェイムが焦りの表情を見せる カルンゼスが目を細める

【 皇居 女帝の間 】

ラミリツが気付く 軍曹が疑問する 演奏を開始しようとしていたオーケストラのメンバーが 楽器を放り拳銃を向ける 軍曹が驚いて言う
「なっ!?」
ラミリツが剣を抜き声を上げて向かう
「やぁあああっ!」

【 国防軍総司令本部 】

TVからキャスターの慌てた声が聞える
『なっ!何と言う事でしょうっ!オーケストラの演奏者たちが!』
TVの映像が一瞬乱れ 扉が乱暴に開かれ 人が押し入る キャスターが叫ぶ
『た、大変ですっ 陛下の御所に 今度は武装集団がっ!』
アースが微笑して言う
「フッ… これで ラミリツ・エーメレス・攻長が 本当に悪魔の兵士で有るのかを 確かめさせてもらおう …あのエルム少佐と同じ 本物の悪魔の兵士であるのなら この程度の敵は 目でもない筈だ」
電話が鳴る アースが息を吐いて言う
「心配性な兄上殿だな?この程度の事で また文句を言いに連絡を寄越したか」
アースが受話器を取る 受話器からシェイムの声がする
『政府長官シェイム・トルゥース・メイリスです ハブロス総司令官』
アースが苦笑して言う
「今入り込んだ武装集団は 先ほど伝えた ”十分な手”と言うものです しかし 万が一にも 悪魔の兵士とも言われる 攻撃の兵士が負けようものなら 13部隊が突入しますので ご心配なく」
シェイムが言う
『そうですか 分かりました』
アースが言って電話を切ろうとする
「では また 作戦の終了時にでも」
シェイムが言う
『ナノマシーンが ご用意出来ました』
アースが一瞬驚いて 視線を強める

【 政府本部 】

シェイムが受話器に言う
「お渡しはいつでも構いません 何時にしましょう?」
受話器からアースの声がする
『では 出来るだけ早くにお願いします 私が直接 受け取りに向かいますので』
シェイムがカルンゼスを見る カルンゼスが頷く シェイムが言う
「そうですね 貴方も お父上のご病気を治す為に お急ぎなのでしたね?分かりました こちらこそ いつでも結構です 私もナノマシーンも 今 政府本部に居ります …難でしたら 今すぐにでも いらっしゃいますか?」
アースが言う
『そう言って頂けるのでしたら すぐにでも伺いますが 宜しいのですか?』
シェイムが一瞬間を置いて言う
「…あ、しかし やはり 弟の事が心配ですので この騒ぎが収まる頃に ご到着される様に お願いします」
アースが言う
『分かりました では 後ほど』
電話が切れる シェイムがカルンゼスを見る カルンゼスが息を吐きTVを見る シェイムが続いてTVを見る

【 皇居 女帝の間 】

ラミリツが顔を上げ 叫びながらナイフを持ったガイズに剣を振り下ろす
「やぁあああっ!」
ラミリツの剣に ガイズのナイフが弾かれる 銃声が鳴りラミリツがハッとして振り返ると 軍曹が盾で防いでいる ラミリツが周囲を見てから言う
「もう止めろっ 御簾の中に 陛下は居ないんだっ!こんな事をして 一体 何になるんだよっ!?」
軍曹が驚いて言う
「な、何んとっ!?陛下は居らんとっ!?」
ガイズのメンバーが言う
「奴を 黙らせろっ!」
ガイズのメンバーがラミリツへ銃を向ける ラミリツが驚くと 軍曹がラミリツの前へ叫びながら向かう
「ラミリツ攻長っ!」
ラミリツが防御体制を取ると 軍曹がその前に盾を構える 銃弾が弾かれる ラミリツが背けていた顔を戻すと 横からガイズがナイフを手に 軍曹へ言う
「邪魔をするなっ!お前は 俺たちの 仲間だろうっ!?」
軍曹が驚いて言う
「なぁあっ!?じ、自分がっ!?」
ラミリツが軍曹へ向いて言う
「仲間だってっ!?」
ラミリツが軍曹から一歩後ず去る ガイズがナイフを持ってラミリツへ切りかかる ラミリツがハッとして驚き慌てて剣を構えようとするが 間に合わずナイフがラミリツの肩に刺さる ラミリツが悲鳴を上げる
「あぁああっ!い、痛いっ 痛いよっ やめてぇえ!」
ガイズがラミリツを押し倒す 軍曹が叫ぶ
「ラミリツ攻長っ!…ぐっ!」
軍曹へ向けガイズたちが銃を乱射する ラミリツへ攻撃していたガイズが軍曹を見て ナイフを抜き軍曹へ言う
「えぇいっ面倒だ!そっちも やっちまえっ!」
ガイズが軍曹へ向かう 軍曹がハッとする ガイズが軍曹へナイフを振り下ろす 軍曹が顔を上げると 銃声が鳴り 軍曹へ振り下ろされていたナイフが弾け飛ぶ 軍曹が驚き顔を向けて叫ぶ
「しょ… 少佐ぁあーっ!?」
ラミリツが肩を押さえて四つん這いになって顔を上げる 視線の先 ハイケルがガイズへ向かい 銃を乱射 体術も利用して次々にガイズのメンバーを倒して行く ラミリツが言う
「…なん なの… あいつ…」

【 政府本部 】

シェイムがTVへ駆け寄って言う
「エーメレスっ!」
シェイムが受話器を掴むと カルンゼスがその手を止めて言う
「あの場所であるなら 命の心配は無用 私が責任を持とう… 今は それより 貴方には やるべき事が有る」
シェイムが表情を苦しめると 内線電話が鳴り 秘書の声が響く
『メイリス長官 国防軍総司令官アース・メイヴン・ハブロス様がお見えです 第1応接室へお通し致します』
シェイムが堪える カルンゼスがアタッシュケースを渡して言う
「これで分かったも同然 残念だが間違いない シェイム殿 元マスターシュレイゼスと共に信じなさい あの小さな親兵攻長を」
シェイムが気を取り直し頷いて言う
「ラミリツの手当てを 宜しくお願いします マスターカルンゼス」
カルンゼスが言う
「引き受けよう」
シェイムがアタッシュケースを持って立ち去る

【 政府本部 第1応接室 】

アースがソファに身を静めていると ドアがノックされ シェイムが入室する アースが微笑してシェイムの手に持たれているアタッシュケースを見る シェイムが近くへ来ると アースが立ち上がって言う
「この度は 我々国防軍の作戦に ご協力を頂きまして 国防軍総司令官として 礼を言います」
シェイムがアースへ向いて言う
「作戦予定にあった 襲撃に関しては 上手く行った様ですが 追加された襲撃には 驚きました …攻長にも伝えては居なかったので 予定外の事に 困惑したと思います」
アースが言う
「移動中の車内にて確認していました 攻長閣下にお怪我を負わせてしまい 申し訳ありません どうやら あの者たちは プロではなかった様です そのせいで 少々手違いがあった様で 加えてお詫び致します」
シェイムが言う
「そうですか …そのせいか そちら国防軍の防長閣下も 危うくお怪我を負われる所でしたよ …それと あのレギストの隊員も 予定通りですか?」
アースが疑問して言う
「レギストの隊員?」
シェイムが言う
「ああ… その時にはもう こちらの本部内にいらしていたのかも知れませんね?以前のパレードの時にも話題に上がった あのレギスト機動部隊の隊長が 皇居内へ飛び込んで来て 2人の閣下をお助けして下さいました …予定通りではなかったのですか?」
アースが一瞬間を置いてから言う
「…ああ、彼ですか 彼は万が一の時に備え 待機させていたのです …ですので この作戦は 全て予定通りであったと」
シェイムが言う
「そうですか… では 先に彼の事もご連絡を頂いていれば 政府警察の国土交通局を出動させ 交通整備の方を行わせておきましたのに …それとも 作戦に遅刻でもなさったのでしょうか?至る所で 道路交通法違反をなさっていますよ?」
アースが僅かに言葉を詰まらせてから言う
「…彼には厳重注意を行う事を お約束致します」
シェイムが言う
「そうして下さい 国民を守る政府として 器物破損は許せても 人命に関わる危険性を併せ持つ 道路交通法違反は 目を瞑る訳には参りませんので」
アースが言う
「分かりました …それで」
シェイムがアタッシュケースを見せて言う
「こちらが ナノマシーンです この中には ナノマシーンはもちろんですが 我々政府と国防軍が 共に在る事を願った 1人のマスターの多大なる想いが込められています どうか その事を重々ご理解の上 お受け取り下さい」
アースが微笑して言う
「もちろん …その重みは しっかりと受け取るつもりです これからも協力をしましょう?メイリス長官」
アースがアタッシュケースを受け取り シェイムを見る シェイムがアースを見る アースが微笑して言う
「それでは 今日の所は 失礼させて頂きます 事件の後始末をしなければなりませんので」
シェイムが言う
「何かお手伝いを しましょうか?」
アースが背を向けて言う
「結構です 後は国防軍だけで補えるでしょう 犯人たちは拘束して 通常通り 政府警察へ渡します …そうですね では、そちらの 後始末の方をお願いします」
アースが立ち去る シェイムが表情を顰めて言う
「やはり 協力は無理か…」

政府本部からアースとSPが出て来て高級車に乗り込む

【 車内 】

アースがTV映像を見る ラミリツが運ばれる中無数のフラッシュが焚かれている ラミリツの右肩に包帯が見え 開かれた上着の下に 刻印が見え隠れする アースが言う
「13部隊のマーレー少佐へ繋げ」
秘書が電話を操作する 電話からマーレーの声がする
『13部隊隊長 マーレー少佐であります』
アースが受話器を取って言う
「ラミリツ・エーメレス・攻長の 刻印は確認出来たか?」
マーレーが言う
『はっ 確認致しました 刻印は アールスローン戦記にあるものと同じく アールスローン国の国印にて 間違い御座いません』
アースが言う
「位置も同じか?」
マーレーが言う
『はっ 刻印の位置も アールスローン戦記の挿絵に在るのと同じく 左胸に近い 丁度 心臓の上に当る場所であると』
アースが言う
「そうか分かった 報告ご苦労 作戦の後始末は頼んだぞ」
マーレーが言う
『はっ 了解致しました!総司令官っ』
アースが電話を切り言う
「研究所へ向かえ」
車が走り去る

【 皇居医療施設 】

ラミリツが処置を終えベッドに寝かされている メルフェスが車椅子に座った状態で 窓越しにそれを見ている シェイムがやって来てメルフェスに驚いて言う
「シュレイゼス殿っ!?」
メルフェスが声に向くと シェイムが駆け付けて来て言う
「お、お体が?」
メルフェスが微笑して言う
「私は身体補佐能力のマスターでしたから その影響が身体に出てしまうのだそうです しかし 細胞の破壊等は見受けられなかったとの事で ナノマシーンの補佐が無い 常人の状態に慣れれば それ以外の影響は無いだろうと言われました」
シェイムが苦笑して言う
「そうですか… では 除去による後遺症などは 無かったと言う事で?」
メルフェスが笑んで言う
「はい 沢山謝っておいたお陰か どうやら恨みは残さずに 行ってくれた様です」
シェイムが微笑する カルンゼスが来て言う
「とは言え 常人の状態まで回復しても 2メートルの高さから 飛び降りでもしたら 怪我をするのだから 今の内に 常人の限界を学んでおくと良い」
メルフェスが呆気に取られて言う
「え?たった 2メートルで怪我を?」
シェイムが衝撃を受ける カルンゼスが呆れて言う
「これだから 身体補佐能力のマスターは 除去を行ってリハビリを終えたかと思うと すぐに外科病棟へ入院するんだ… シェイム殿からも 暇を見付けて常人の常識を教えてやってくれ」
シェイムが軽く笑って言う
「ははっ そうですね そちらに関してでしたら 私の方が 先輩ですから」
カルンゼスが言う
「うむ、常人の知識の方はシェイム殿に習い リハビリを含めたトレーニングは 攻長閣下から学ぶのも良いかもしれないな?」
3人が窓ガラスの先に寝かされているラミリツを見る カルンゼスが言う
「とても良い鍛え方をされている 国防軍の様な 瞬発力や耐久力だけと言うのではなく 柔軟性や持久力にも長けている 一昔前の政府警察機動部隊の鍛え方だ」
メルフェスが微笑して言う
「それは当然です 彼の父親は 元警察長 お爺様は あのメイリス部隊の隊長ですから 生粋の戦士でしょう」
シェイムが首を傾げて言う
「それはそうなのですが… ラミリツは 持久力に関しては 余り無い様にも 私は思うのですが?」
カルンゼスが苦笑して言う
「私は 彼の身体を診ての感想だが 持久力には精神力が大いに影響する あの彼に持久力が無いとしたら 恐らく そちらが欠けているのだろう」
シェイムが苦笑して言う
「なるほど そちらでしたら思い当たります」
メルフェスが苦笑する

【 ハブロス研究所 】

テーブルの上にアタッシュケースが開かれていて ルイルが書類を見ている アースが言う
「偽物だという可能性は?」
ルイルが書類に頷いてから言う
「この書類があると言う事は 少なくとも マスターシュレイゼスのナノマシーンが除去された事に 間違いありません ナノマシーンの保有数と出力数の対比記録がされているので 後は この記録が正しいかどうかを ここに在る実物へお伺いして 答えを確認すれば…」
ルイルがナノマシーンの入れられている注射を取り出し 1滴トレーに乗せて装置に入れる 装置が起動し データが現れる ルイルがデータを見て頷いて言う
「どうやら 本物の様ですね?そうとなれば このナノマシーンにある基礎データを 一度全て消去して そこへ 陛下のナノマシーンのデータコピーを入れれば 完成です」
アースが言う
「どれ位掛かる?」
ルイルが言う
「何しろ コピー元である 陛下のナノマシーンが少ないですから 丁寧にやるなら5日位掛かってしまうかもしれません」
アースが言う
「丁寧に急げ 完成したら連絡をしろ」
アースが立ち去る ルイルが息を吐いて言う
「はいはい…」

【 国防軍総司令本部 】

アースが入室して歩きながら言う
「先ずは報告を」
秘書が居て言う
「皇居に置かれての作戦は 完了を確認しています 任務達成ランクはBランクと推定 減点箇所に関しましては 1点は 襲撃犯B班反政府組織ガイズの指揮系統の不備 2点目は 国防軍レギスト機動部隊隊長ハイケル少佐の独断行動 3点目に ラミリツ・エーメレス・攻長閣下による襲撃犯B班の殲滅任務の失敗 以上3点が上げられます」
秘書が言う
「更に 任務達成ランク減点箇所2点目に御座います 国防軍レギスト機動部隊隊長ハイケル少佐に関係して 多数の問題が上がっておりますが 直接 今作戦へ関わる事は無いと判断されています 詳しいご報告を致しますか?」
アースがデスクの椅子に座り言う
「作戦に影響が無いのなら 後で確認をする 作戦中の映像を送ってくれ ラミリツ・エーメレス・攻長の戦い振りを 確認したい」
秘書が言う
「畏まりました 既に用意がされてありますので 映像をお流し致します」
アースがモニターを見る

【 ハブロス家 】

高級車が到着し アースが降り立ち執事へ言う
「アーヴァインは戻っているか?」
執事が言う
「はい アーヴァイン様は お戻りに御座います 只今は 自室にてお休みでいらっしゃるかと」
アースが歩きながら言う
「そうか 何か問題は?」
執事が言う
「お見受けした所 特段 普段とのお変わりは ございません様に見受けられます」
アースが言う
「そうか お前が言うのなら… 所で レミック 皇居での事件を メディアの映像で確認していたか?」
執事が言う
「はい 拝見しておりました」
アースが言う
「では お前から見て ラミリツ・エーメレス・攻長の戦い振りは どの様に見えた?率直に 凄いと思ったか?」
執事が一瞬疑問してから 苦笑して言う
「そうで御座いすね 常人から考えますれば あの剣術は素晴らしいものと 思われましたが… 私の勝手な判断から申し上げますと その攻長閣下よりも 後に皇居へ現れた 国防軍レギスト機動部隊の隊長様の方が 悪魔の兵士と呼ばれるお方としては 近い様にも見受けられました」
アースが言う
「同感だ ハイケル少佐の姿は 本物の悪魔の兵士とされている あのエルム少佐の戦い方に かなり近い様に見えた …最も どちらも 同じ 国防軍レギスト機動部隊の隊長だ そう言った意味で 似通うのかもしれないが…」
執事が言う
「ラミリツ・エーメレス・攻長閣下に関しましては 国防軍はもちろん 政府の警察機動部隊などにも 正式に属した記録は御座いませんので そちらも考慮するとなれば 難しいご判断になりますね」
アースが言う
「元警察長の家だ ともすれば 記録には残さず 訓練のみを受けていたという可能性も 否定は出来ないが… やはり最後は刻印の確認だな …エルム少佐を呼び出してくれ 私の部屋へ来るようにと」
執事が言う
「畏まりました 只今 ご連絡致します」
執事が携帯を取り出して連絡する アースが部屋へ到着すると レミックがドアを開ける アースが進み入ろうとすると レミックが言う
「アース様」
アースが言う
「すぐに来られると?」
レミックが言う
「残念ながら エルム少佐は アース様からのご命令には 従えないとの事で…」
アースが衝撃を受ける レミックが苦笑して言う
「”用が有るのなら お前から来い”との ご返答に御座います」
アースが怒りを押し殺して言う
「あの野郎ぉ…っ」
レミックが苦笑する アースが怒って言う
「私の方が階級も名誉も上だろうっ!?こちらへ来るようにと 命じろっ!」
レミックが言う
「畏まりました 只今 その様に ご連絡を致します」
アースが不満そうに言う
「まったく…っ」
アースがデスクの椅子へ向かう レミックが言う
「アース様」
アースが言う
「すぐに来られると?」
レミックが苦笑して言う
「”無理だな” との ご返答で」
アースが衝撃を受け 怒りを押し殺す レミックが苦笑する

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

アースが怒りを込めて言う
「どうせ 貴方の事だっ 言い出したら切りが無い思い 今回は 私が来たが?」
エルムが言う
「当然だ」
アースが怒りを押し殺して言う
「…クッ 階級や名誉を重んじる時代に 生きていた貴方ならっ その貴方が来るべきでは無いのかっ!?」
エルムが言う
「私は お前の命令を受託するつもりは無い 私に命令を出来るのは その時代の 国防軍総司令官である ヴォール・ラゼル・ハブロス… 元総司令官のみだ」
アースが不満そうに言う
「ほう?そうかっ!?お陰で理解が出来たっ」
エルムが言う
「上出来だ」
アースが衝撃を受け怒りを押し殺す
「クッ…」
エルムが言う
「それで お前は私に 何の用だ?」
アースが衝撃を受け怒りを押し殺して言う
「気になっていたのなら 是非 貴方の方から 来て貰いたかったのだがなっ!?」
エルムが言う
「無理だな」
アースが怒りを押し殺した後に 溜息を吐いて言う
「もう良い…っ!…では用件を言うが エルム少佐!貴方に質問があるっ」
エルムが言う
「何だ?アース・メイヴン・ハブロス」
アースが言う
「悪魔の兵士に施された 神の刻印 ペジテの印と言うのは アールスローン国の国印で 間違いは無いのか?」
エルムが言う
「私は 知らない」
アースが一瞬あっけに取られた後言う
「は?…今 何と?」
エルムが言う
「私は 知らない」
アースが疑問して言う
「…貴方は 悪魔の兵士である筈だが?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが言う
「では 何故知らない?貴方が悪魔の兵士である事は 国防軍の者だけではなく 皇居の役人たちにも 了承されている事だろう?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが言う
「では 貴方も 神の刻印を持つ 悪魔の兵士ではないのか?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが衝撃を受けた後困惑する アースが言う
「っ!?…エルム少佐?」
エルムが言う
「何だ アース・メイヴン・ハブロス」
アースが言う
「貴方は 悪魔の兵士だな?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが言う
「では 神の刻印を持っているのだな?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが言う
「その神の刻印は アールスローン国の国印なのか?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが呆気に取られて言う
「…!?…今 何と言った?」
エルムが言う
「『そうだな』」
アースが衝撃を受けて言う
「そうではなくっ!」
エルムが言う
「私が持つ 神の刻印は 現政府攻長 ラミリツ・エーメレス・攻長と 同じく アールスローン国の国印だ」
アースが驚いて言う
「それは 本当かっ!?」
エルムが言う
「本当だ」
アースが間を置いて言う
「…本当に?」
エルムが言う
「本当だ」
アースが言う
「嘘ではないだろうな?」
エルムが言う
「私は嘘を言わない」
アースが間を置いて言う
「エルム少佐」
エルムが言う
「何だ アース・メイヴン・ハブロス」
アースが言う
「悪いが 確認をさせて貰いたいのだが?」
エルムが言う
「私は嘘を言わない」
アースが言う
「その言葉を疑うつもりはないが 私は この目で確認をしたい 従って …脱いでくれ」
エルムが言う
「私は お前の命令を 受託するつもりは無い」
アースが衝撃を受け 一瞬間を置くと 歯を食いしばり エルムの服を掴んで左右に開き驚く アースの視線の先 エルムの体にはアールスローン国の国印が印されている アースが呆気に取られていると エルムが言う
「私は嘘を言わない」
アースが肩の力を抜いて言う
「…では あのラミリツ・エーメレス・攻長が 悪魔の兵士である事は これで確定と言う事に…」
エルムが言う
「悪魔の兵士は 攻撃の兵士と 同一人物 私は ”もう用済みの攻撃の兵士”…だ」
アースが息を吐いて言う
「…なるほど そうとも言い変えられる と言う事だな?」
エルムが言う
「そうだな」
アースが言う
「分かった 協力を感謝する」
アースがラゼルへ向いて言う
「祖父上 夜分遅くに お騒がせを致しました」
ラゼルが微笑して言う
「ああ… お休み メイヴィン」
アースがエルムを見てから立ち去る エルムがアースの立ち去った方向を見ている ラゼルが言う
「アールスローン戦記の原本は2つ… 片方は 少佐と同じく 攻撃の兵士と悪魔の兵士は同一人物… そして もう片方は…」
エルムが服を直しながら言う
「攻撃の兵士と悪魔の兵士が同一人物である この私が現存している以上 次世代の悪魔の兵士は 攻撃の兵士とは 別の人物… ラミリツ・エーメレス・攻長は 攻撃の兵士 そして 悪魔の兵士は …別に存在する」
ラゼルが苦笑して言う
「では何故 その事を メイヴィンへ伝えては 下さらなかったのでありますか?少佐?」
エルムが言う
「私は ”もう用済みの攻撃の兵士”…だ」
ラゼルが言う
「攻撃の兵士として… 政府の味方に 付かれると?」
エルムが言う
「何の話だ?」
ラゼルが苦笑する

【 国防軍総司令本部 】

アースがやって来ると 秘書が言う
「お早う御座います ハブロス総司令官 早速ですが ルイル・エリーム・ライデリア所長が お電話を頂きたいと」
アースが言う
「うん?ナノマシーンの事だと言っていたか?」
秘書が言う
「内容の方はお伺いしておりません」
アースが言う
「そうか…」
アースが席に座ると受話器を取る

【 カルメス邸 】

ルイルが携帯に出て言う
「お早う御座います ハブロス総司令官様」
アースが言う
『研究所の方に居ないそうだな?今は何処に居るんだ?』
ルイルが苦笑して言う
「設定さえ済ませてしまえば 後は掛かりきりで無くても大丈夫ですから ご心配なく」
アースが言う
『そうであろうとも 近くに居るに越した事は無いだろう?すぐに戻れ』
ルイルが苦笑して言う
「私も 研究所へ戻りたい 気持ちは同じなのですが ハブロス様?元政府重役の皆様がお待ちですよ?早く 釈放して頂きたいと!」
アースが言う
『ナノマシーンが完了するまでは 作戦は完了にはならない 後何日だ?その日数だけ待てと お前から伝えておけ』
ルイルが言う
「ナノマシーンの完成には 後4、5日は掛かります 元重役の皆さんは 高位富裕層のお方なのですから そんなに長い事 牢屋の中に閉じ込めていては それこそ 精神が壊れてしまいますよ?ハブロス様?」
アースが言う
『私の知った事じゃないな それこそ そうなってくれるのであれば こちらは本望だ』
ルイルが苦笑して言う
「お冷たいですね?お仲間じゃないですか?」
アースが言う
『冗談じゃない そちらは 腐っても 元政府重役だろう?こちらは国防軍だ』
ルイルが言う
「その国防軍の総司令官様は 現政府を 手に入れられるのですよね?だとしたら 次に必要なのは 元政府長官と共に 元政府重役の皆さんなのでは?」
アースが言う
『生憎だったな?新しい政府長官は ”元”を使用するにしても 重役まそちらを使うつもりは無い 折角 現 長官殿が片付けてくれた者たちだ そいつらに用など無い』
ルイルが微笑して言う
「そうですか… では 彼らが自ら自由を得て それこそ自由に行動されても宜しいと?少なくとも 政府重役へ復帰させれば その行動は制限させる事が可能ですよ?」
アースが言う
『復帰などさせずとも 保釈金を払ってやる事で 終わりに出来るだろう?そちらは払ってやると言っているんだ それ以上を言うのなら 再び暗殺組織の世話になるぞ?』
ルイルが苦笑して言う
「おっと 恐ろしい… 本性が垣間見えてきましたね?総司令官様?」

【 国防軍総司令本部 】

アースが電話をしていて言う
「何とでも言え こちらがその気である事を証明するためにも 作戦さえ終わらせれば 早々に 奴らを釈放してやる それだけだ」
アースが受話器を置き 秘書へ言う
「政府長官から 昨夜の事件に関する連絡は来ていないか?犯人たちが 反政府組織ガイズを名乗る連中だと言う事が 分かったとでも」
秘書が言う
「いえ、今の所犯人に関します事で ご連絡は頂いておりません」
アースが言う
「反政府組織である奴らが 政府警察に捕まって それを主張しない筈は無い …私に隠しているのか?…良いだろう 昨日はナノマシーンを頂いたんだ 改めて 私が向かい礼を伝え …そして探ってやる」
アースが席を立って歩きながら言う
「政府本部へ向かう 車を回せ」

【 政府警察本部 】

シェイムが犯人たちを見て気付いて言う
「うん?奴らは… あのパレードの時の 襲撃犯たちでは?」
ミックワイヤーが言う
「パレードの時の?」
シェイムがミックワイヤーを見てから言う
「ああ、少なくとも あの右に居る3人には見覚えが有る」
ミックワイヤーが言う
「そうなのですか?あの時の犯行グループは 全員捕らえられ 今も投獄されていますが ずっと黙秘を続けております」
シェイムが言う
「では 恐らく 国防軍からこちらへ引き渡される際に 犯人たちをすり替えられたのだろう 私は現地に居て 奴らが私の周囲を囲っていたのを この目で確認している… もしくは 奴らは私を取り押さえる事に失敗しただけで終わり 後にラミリツへ向かった実行犯ではなかったのかもしれないが… どちらにしても あのハブロス総司令官に 使われていた奴らだ」
ミックワイヤーが言う
「彼らは 反政府組織ガイズを名乗っていますが 国防軍やハブロス総司令官に関する事には 一切供述をしておりません」
シェイムが言う
「それはどういう事だ?国防軍と我々の合同で行った作戦に使用した連中から 国防軍の話を聞き出せないと言うのは?反政府組織であるが故に その精神から 我々への協力を拒んでいるとも取られるが …そうであるなら 尚更 そんな連中を政府との共同作戦に利用するとは」
シェイムが怒りを表す シェイムの携帯が鳴る シェイムが気付き着信させると 携帯から秘書の声がする
『メイリス長官 国防軍総司令官アース・メイヴン・ハブロス様が 昨日の件で お会いになりたいと 政府本部へお越し下さるとの事ですが』
シェイムが言う
「そうか… では 今は政府警察本部の方にいるので 時間を改めて頂くか もしくは 私の方から向かうと伝えてくれ」
秘書が言う
『畏まりました』
シェイムが携帯を切って言う
「犯人たちの事情聴取を続けておいてくれ 後ほど連絡する」
ミックワイヤーが言う
「はっ 畏まりました メイリス長官」
シェイムが立ち去る

【 車内 】

秘書が電話を終えて言う
「ハブロス総司令官 政府のメイリス長官は 只今 政府警察へ外出中との事で 時間を改めるか メイリス長官から こちらへ いらして下さるとの事ですが」
アースが言う
「そうか それならこちらが時間を改める 先に 国防軍レギスト駐屯地へ向かえ 独断行動のハイケル少佐に一言 釘を刺して置いてやらねばな …放っておけば 何時何処かの 悪魔の兵士の様になるとも 限らないだろう」
車が走り去る

【 国防軍レギスト駐屯地 会議室 】

ハイケルがぎこちなく出て来て 手にしている請求書を見てから言う
「これは… 俺では敵わない強敵だ… 俺は… どうすれば…?」
ハイケルがフラフラしながら立ち去る

室内

バックスが苦笑して言う
「ハイケル少佐にとりましては あれが一番良い薬になりますかと …今後はこの様な事をしなくなるでしょう」
アースが微笑して言う
「フッ そうか 実力の方は十分に有る様だが 現総司令官である 私の命令を聞かなくなるようでは 困るからな?」
バックスが苦笑して言う
「そのような者は この国防軍には居りませんでしょう?」
アースが視線を逸らして言う
「いや、居るんだ 1人 強力なのが…」
バックスが疑問して言う
「は…?」
アースが立ち上がって言う
「まぁ 当時の総司令官の命令には 従うというのだ そちらはそれで良いだろう …では 私はこれで 後は宜しく頼む」
バックスが立ち上がり敬礼して言う
「はっ!お疲れ様で御座いました 総司令官っ」
アースが会議室を出て歩く 秘書が来て言う
「ハブロス総司令官 政府のメイリス長官から いつでもおいで下さいとの 御連絡を頂いております」
アースが言う
「そうか それなら 改めて政府本部へ向かおう」
アースと秘書が立ち去る

【 車内 】

アースが新聞を見ている ハイケルの記事がデカデカとある アースが苦笑してページをめくると ラミリツの記事がある ラミリツの胸にある刻印が写された写真がある アースが目を細めて言う
「本当に神の刻印などがあったとは 彼が陛下の剣である事は これで確かなものとなった …しかし」
アースが助手席へ視線を向けて言う
「彼の兄であり 政府長官である シェイム・トルゥース・メイリス 奴が何を企んでいるのか …そろそろ ハッキリさせなくてはな 我々との格の違いを」
助手席の執事が微笑して言う
「心得ております」
車が向かう

【 政府本部 】

シェイムがTVを見ている TVではニュースが流れていて キャスターが言う
『…この様に 昨夜の皇居襲撃事件は 攻長閣下、防長閣下のお二方を始め 国防軍13部隊と 同じく17部隊の隊長 ハイケル少佐のご尽力により 襲撃犯は全てその場で捉えられ 現在彼らの身柄は警察省長に 拘留されているとの事です 尚 この事件の際 お怪我を負われた ラミリツ・エーメレス・攻長閣下は 皇居内の施設で治療を受けられ 現在はご本人の希望により メイリス邸にてご静養されているとの事です』
映像にはラミリツの刻印を確認するようにアップにされている シェイムが微笑して言う
「予定外ではあったが これで アールスローン戦記の 悪魔の兵士として 攻長閣下は受け入れられた筈だ これからは その攻長閣下をどうやって…」
電話が鳴る シェイムがボタンを押すと 電話から声が届く
『国防軍総司令官 アース・メイヴン・ハブロス総司令官がお越しです 第1応接室へご案内します』
シェイムが驚き言う
「分かった すぐに向かう」

【 政府省長 応接室 】

アースが言う
「攻長閣下のご容態は?」
シェイムが言う
「ご心配なく 防長閣下と同じく 彼もまたペジテの姫の為つかわされた 悪魔の兵士 彼の命を奪えるのは防長閣下か 何処かの王子の兵士だけかと」
アースが微笑して言う
「なるほど… しかし、攻長閣下の身に神の刻印があると言う事は 少なくとも 防長閣下と攻防を行うと言う事は 無いでしょう」
シェイムが言う
「仰る通りかと」
アースが軽く笑む シェイムが言う
「それで、国防軍総司令官ともあるお方が わざわざ攻長閣下の容態を聞きに こちらへ?」
アースが言う
「いいえ」
シェイムが微笑して言う
「では どう言ったご用件で?」
アースが首をかしげて言う
「昨夜も… では ありますが 以前のパレード襲撃事件で捕らえ そちらへ身柄を引き渡した あの犯人ら …そろそろ何か 情報のようなものは 聞き出せたのでしょうか?何しろ 奴らは 我ら国防軍の代表とも言える 防長閣下を傷付けた者たちだ 我々としては」
シェイムが一瞬間を置いてから 微笑して言う
「生憎 彼らは今も 黙秘を続けています とは言え どの道陛下のお命を狙った者たちです 防長閣下の痛みと苦しみを拭って差し上げられるほどの刑を 架す事を約束しますよ?」
アースが苦笑して言う
「それは… 警察と言うのも 中々恐ろしいですね 我々国防軍は 防長閣下が示すように 防衛が主 私としても その襲撃犯たちを どう懲らしめてやりたい と言うよりも 何故 あの様な事を… 陛下のお命を奪おう等としたのか それを聞き出したいのです」
シェイムが苦笑して言う
「…それは失礼 少々言葉が荒かった様ですね 何しろ 彼らには 昨夜 我々政府の代表である 攻長閣下を傷付けられたばかりですので どうか お許しを」
アースが微笑して言う
「心情はお察し致します」

アースが応接室を出て行く シェイムが息を吐いてソファに身を静めて言う
「相変わらず パレードの襲撃に関しては 知らぬ振りか… 怪しいな 何を企んでいる?私を政府長官の座から下ろす為に 現状で何か策を得られるのだろうか?」
シェイムが考えてから視線を落として言う
「あの襲撃が ハブロス総司令官の差し金であった事は マスターシュレイゼスの力で得られた情報だ その裏付けを取ろうにも 当の犯人たちは黙秘を続けている ハブロス総司令官も 協力を約束した我々政府へ その事を伝えるつもりは無いらしい これらの裏付けを取らなければ …何か嫌な予感がする」

【 車内 】

アースが乗り込むと 執事が言う
「アース様 手筈が整いました 先日の皇居襲撃事件 及び パレード襲撃事件に利用した 反政府組織ガイズたちの他 元政府重役たちが雇っていた 暗殺組織の首脳らへ話を通し 彼らが皆 ”反政府組織ガイズの一味”を名乗る事を 了承させました」
アースが言う
「ご苦労 良くやってくれた これでもう 政府長官シェイム・トルゥース・メイリスは お終いだな」
執事が言う
「はい …しかし アース様 こちらに用いた金額は とても大きく この様な大事を続けておりましては 如何にハブロス家と言えども 力を衰退させる事にもなりかねません」
アースが言う
「確かに 少し無理をしたが それで 政府の力が私の物になるのなら その価値はある」
アースが執事へ言う
「組織の連中を全て手中に収めたのなら 作戦を急がせろ 次は 唯メディアへ話を持ち掛ければ良い こちらは金など掛からない 政府長官が裏組織の者を利用し 陛下のパレードを襲撃させ 更には 政府重役を含む人質と国防軍の隊員10名を死なせた そして 攻長閣下を傷つけてまで 陛下の御前を荒らしたとは… 元警察長の息子である 現政府長官とは 聞いて呆れるだろう …奴らは喜んで シェイム・トルゥース・メイリスの逮捕劇を報じてくれる」
執事が言う
「畏まりました アース様」

【 メイリス家 ラミリツの部屋 】

シェイムが苦笑して言う
「とりあえず 今日と明日位は休んでいても良いだろう 明後日には 防長閣下の様に外へ姿を見せるんだ」
部屋の扉が叩かれ 執事が言う
「旦那様 少々問題が…」
シェイムが表情を顰めて言う
「うん?」
シェイムが立ち去る ラミリツが毛布に潜り込む

【 メイリス家 シェイムの部屋 】

シェイムが机を叩いて言う
「ガイズから ”仲間の釈放要求する連絡” とは何だっ!私は聞いていないぞ!?」
シェイムの視線の先TVニュースが流れている シェイムが電話を掛ける

【 警察長官宅 】

警察長が電話に出ていて言う
「はいっ 我々も一切聞いておりませんっ!その様な事実はっ!」
受話器からシェイムの声が届く
『ではっ 何故 メディアに知られているっ!?奴らの仲間が釈放を求めているとっ それも 人数は10人!』
警察長が冷や汗を拭って言う
「私は知りませんっ!本当ですっ!」

【 メイリス家 シェイムの部屋 】

TVにニュースが流れていてキャスターが言う
『…昨夜 皇居にて陛下を襲い捕らえられた犯人たちは その後の調べで 以前 陛下の20周年をお祝いするパレードにおいて 襲撃を行った 反政府組織 ガイズを名乗っているという事が 警察の調べで』
シェイムがTVニュースを見てから言う
「そもそも 奴らが ガイズと言う名の 反政府組織であると言う事でさえ まだメディアには伏せて置くようにと!」
シェイムがハッとする シェイムの脳裏に回想が蘇る

アースが首をかしげて言う
『昨夜も…では ありますが 以前のパレード襲撃事件で捕らえ そちらへ身柄を引き渡した あの犯人ら …そろそろ何か 情報のようなものは 聞き出せたのでしょうか?何しろ 奴らは 我ら国防軍の代表とも言える 防長閣下を傷付けた者たちだ 我々としては』
シェイムが一瞬間を置いてから 微笑して言う
『生憎 今も 黙秘を続けています とは言え…』

受話器から警察長の声がする
『長官!?長官っ!?』
シェイムが気付いて言う
「”昨夜も…”だとっ!?では 奴は 反政府組織である 奴らガイズを利用してっ!?…あのパレードの時からっ!?」
シェイムが机を叩いて言う
「最初から奴は 私を狙っていたのだっ そして 私を大罪人にっ …おのれ ハブロス総司令官っ!」
受話器から警察長の声がする
『長官っ!?メイリス長官っ!?』
シェイムが受話器を電話機へたたき付ける様に切ると 椅子に座り込んで言う
「政府長官を下ろされるだけではない 私は全ての犯罪を犯した首謀者とされる… 元警察長 ソロン・フレイス・メイリスの息子である 私が…っ …父上 申し訳ありません…っ」
シェイムが頭を抱えて机に伏せる


続く
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