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2章

アールスローン戦記 レギスト機動部隊 パレード警備任務

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【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】 

軍曹が叫ぶ
「どうしたーっ!この程度の事で音を上げるとは!それでもお前たちは 少佐の率いるレギストの隊員であるのかぁっ!?立てーっ!」
軍曹の前で隊員たちが倒れている 隊員たちが言う
「軍曹~ もう 自分たちは限界であります~」「どうか休憩を~」
軍曹が怒って叫ぶ
「え~いっ 情けないっ!お前たちにはっ!少佐と共に戦おうと言う 強き意志はあらんのかーっ!?」
隊員が言う
「その少佐も 居られませんし~」「どうか少佐が戻るまで 休憩を~」
隊員たちがダウンする 軍曹が衝撃を受け叫ぶ
「おぉお~~っ 何と言う事かーっ!少佐ー!どうかお早く お戻りをー!少佐の部下たちは!少佐が居らなければ 立ち上がる事も 出来ないでありますーっ!」
軍曹が1人で叫んでいる

【 国防軍メイス駐屯地 会議室 】

アモンが言う
「今回のパレードでは 以前までとは異なり 2箇所の橋を通過するルートが組まれている 移動距離も今までより長く 当日は観覧者で混雑する事も考えられる為 国防軍は3部隊を用いてこの警備に当たる パレードの行われる メイス地区を担当する 国防軍13部隊を始め パレードの一部が入る レムル地区を担当する14部隊 そして…」
会議室に居る者たちの視線がハイケルに集まる アモンが言う
「メイス地区の西 マイルズ地区を担当する17部隊 …以上 3部隊を起用する事とした 各部隊の隊長諸君 本日はメイス駐屯地への出向 ご苦労だった」
3部隊の隊長が敬礼する アモンが敬礼を返してから 改めて言う
「では、諸君の貴重な時間を無駄にしないためにも 過去 女帝陛下のパレードを取り仕切ってきた 13部隊の隊長 マーレー少佐に 既に用意してある今パレードの作戦を説明してもらう マーレー少佐」
マーレーが敬礼してから アモンと入れ替わって言う
「13部隊隊長 マーレー少佐です 各部隊隊長諸君 パレード当日を含む数日間の協力を どうか宜しく頼みます では早速 まずは概要から説明します 警備はパレード当日は勿論 その数日前 厳密には5日前からの予備警戒と 2日前からの警戒を予定しています 以前までとの相違として 先ほどアモン大佐が御説明をされたように…」
ランドがメモを取っている ハイケルは聞いている アモンがハイケルを見て目を細める マーレーが説明を続ける
「…と言う工程で行う予定であります そして、パレード当日は 皇居から3頭の馬が引く大型馬車が出され 中央に陛下の御簾が下ろされ その前に 攻長閣下と防長閣下のお二方が立たれる事となっており」
ハイケルが僅かに反応して思う
(そうか… 陛下のパレードとなれば 当然防長である あいつが…)
ハイケルがマーレーへ再び注目する マーレーが言う
「当日は 万が一の自体が起きた場合 その区域に居る部隊は 陛下の御身の保護を最優先とし 次に 攻長閣下、防長閣下の保護を 続いて観覧者の保護と言う手順にて」
ハイケルが疑問する
(国民である観覧者の保護が 2人の兵士より後になるのか…?)
マーレーが言う
「ここまでの説明で 何か質問は?」
ハイケルが軽く周囲を見てから手を上げる マーレーがハイケルを見る ハイケルが言う
「万が一の自体が起きた際 陛下の保護を最優先とする事は勿論だが 次の保護が攻長閣下と防長閣下と言うのは?その2人が 陛下の近くに居ると言う事が 理由だろうか?それとも?」
マーレーがアモンを見る アモンが言う
「優先順位は マーレー少佐が説明した通りだ 異論はない」
ハイケルが僅かに視線を細めてから言う
「…了解」
ハイケルが身を静める マーレーが言う
「他に質問等は?…無いようなので続けます パレードの開始地点にして終着地点でもある 皇居前ですが 終着時には 女帝陛下からのお言葉を頂く時間があります その際 我々は万全の警戒態勢を持って これに当たる事とし パレードが終了した地区の部隊は 速やかに 皇居前への集結をお願いします そして、集結と共に 各部隊には 予てより保護対象を固定しておき その保護と警戒に当たる事で 万全を期するものとします では、その際の 各部隊の保護対象と共に パレード時の各部隊の警戒区域を発表します」
マーレーが全員を見た後ハイケルを一瞥してから続ける
「先に警戒地区を言います 皇居周囲を我々13部隊 リンド地区からレムル地区の手前までを 14部隊 レムル地区からラムル地区までを 17部隊が担当」
ランドがメモを取りつつ横目にハイケルを見る ハイケルは話を聞いている マーレーが言う
「そして、各部隊の保護対象は 我々13部隊が女帝陛下を 14部隊が攻長閣下、防長閣下を 17部隊が観覧者の保護とします …以上 ここまでで質問は?」
ハイケルが手を上げる マーレーが目を向けると ハイケルが言う
「13部隊が陛下の保護を行うと共に 皇居への避難を誘導するとなれば 攻長閣下と防長閣下もそれに随行する筈 よって 陛下に随行する者たちへ 14部隊1部隊を用いる必要は無いのでは無かろうか?」
マーレーが言う
「…とすると?」
ハイケルが言う
「陛下の身を守ることは重要だが 国民である観覧者を守ることも 国防軍の使命だ よって 14部隊はその半数なりとも 我々17部隊と共に 観覧者の保護へ向かうべきではないだろうか?」
マーレーが困り アモンへ向く アモンが言う
「…ハイケル少佐」
ハイケルが言う
「はっ」
アモンが言う
「もしそれで 攻長閣下や防長閣下の身に 何かあった場合 君はその責任を取られるのかね?」
ハイケルが疑問して言う
「…それは どう言う意味で?」
アモンが言う
「攻長閣下と防長閣下は 国家家臣だ その御二方の身に何かあった際 14部隊を振り分けた君は その責任を取られるのか?と聞いているんだ 我々国防軍は 陛下は勿論の事 国家家臣である そちらの御二方をお守りする事も 重要な使命としている その為の1部隊を用いての警戒だ」
ハイケルが一瞬表情を顰めた後 間を置いて言う
「…了解」
マーレーがアモンを見る アモンが頷く マーレーが相づちを返してから皆を見て言う
「他には何か?…無い様なので 続いて 以前の資料を基に 細かい説明を行います」
ハイケルが腕組みをして聞いている ランドがハイケルを見てハイケルの前の机を見る 机には何も無い ランドが自分の前を見る 机にはメモをしている手帳がある 再びハイケルを見る ハイケルは何もせずに話を聞いている ランドが沈黙する マーレーが言う
「橋の警備には 対岸の橋からの監視も有効とされ 以前の警戒時には 6名の隊員を配置 その時の記録からして 6名もしくは4名以上の配置は不可欠であるとの…」
ランドがメモを取り ハイケルを見る ハイケルは話を聞いている ランドがアモンを見る アモンがメモを取っている ランドが不満そうにハイケルを見る

【 国防軍レギスト駐屯地 】

正門前にジープがやって来る 警備兵が気付き敬礼して門を開ける ハイケルが疑問してジープを止め警備兵へ言う
「何時からIDの提示が不要になった?」
警備兵たちが衝撃を受け 慌てて言う
「あ、いえっ ハイケル少佐のお姿が確認出来ました為 門を開きましたっ」
ハイケルが疑問する 警備兵が慌てて言う
「ど、どうぞっ!お通り下さいっ!」
ハイケルが不思議そうにしながらもギアを入れつつ言う
「そうか …楽と言えば楽だが」
ハイケルがジープを発進させ去る 警備兵たちがホッとする ハイケルがジープを運転しながら思う
(新しく基準でも出来たのか?少佐の軍階以上はIDの提示を免除… いや、少佐程度の階級から免除をしては 警備にならないだろう?)
ハイケルが疑問しつつジープが走り去る 門前に軍用車両が来る 警備兵が敬礼する バックスがIDを見せる 警備兵が確認し敬礼して言う
「バックス中佐 お帰りなさいませ!」
警備兵が合図をすると門が開かれる バックスが苦笑して言う
「そのお前たちへ すぐに戻ると言って 戻って来たんだ ID提示くらい簡略出来ないのか?」
警備兵が言う
「申し訳ありませんっ!規則ですので」
バックスが溜息を吐きながら車を発進させる 警備兵2がやって来て言う
「とりあえず、ハイケル少佐だけ特別って事で」
警備兵が言う
「だな?おっかねーから」
警備兵2人が苦笑する

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】

軍曹が叫びながら全力疾走している
「ぬおぉおおおーーっ!」
隊員がタイムを計っている 軍曹が走り去り 隊員がタイムウォッチを見て驚いて言う
「い…っ 1分21秒…」
記録係が衝撃を受け呆れて言う
「世界大会に出られるんじゃないか…?」
軍曹に遅れて他の走者たちがへろへろになってゴールする 軍曹が走り終えた走者たちへ言う
「どうしたーっ!自分に遅れをとるとは!情けないーっ!」
走者たちが地面に座り込んで言う
「む… 無茶苦茶だぁ~」
走者たちが息を切らしている 軍曹が意気揚々と周囲を見て ふと気付き振り返って叫ぶ
「はっ あれは…っ!少佐ぁー!」
隊員たちが衝撃を受け 慌てて立ち上がり敬礼して言う
「おかえりなさ…」
軍曹が敬礼して叫ぶ
「お帰りなさいませーっ!少佐ぁーー!!」
ハイケルが言う
「ああ…」
ハイケルが隊員たちを一瞥してから 軍曹を見て言う
「君以外は 限界の様だな?」
軍曹が一瞬疑問した後 気合を入れて言う
「いえー!そんな事はありませんっ!少佐ぁー!こいつらは 少佐の率いる 国防軍レギスト起動部隊でありますっ!昼飯前の訓練程度で へこたれる様な 奴らではありませんっ!」
隊員たちがうな垂れている ハイケルがそれを見て言う
「大分 へこたれている様だが?」
軍曹が敬礼して言う
「いえー!そんな事はありませんっ!少佐ぁー!少佐の一声さえ頂ければっ!こいつらは その一瞬で立ち直るであります!従いまして 少佐!どうかこいつらに!」
隊員たちがギクッとする ハイケルが考えてから言う
「…そうか だが、良い」
隊員たちが驚く 軍曹が疑問して言う
「は?良い…とは?」
ハイケルが時計を確認してから言う
「全員ミーティングルームへ集合しろ 休憩前に今後の任務について大まかな説明をする」
軍曹が疑問して言う
「今後の?」
ハイケルが立ち去る 軍曹が慌てて言う
「よし!全員 ミーティングルームへ集合だっ!全力でっ!」
ハイケルが言う
「…館内は走らせるなよ?」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!了解っ!…では 館内入り口まで 全力で向かえーっ!」
隊員たちがだらけて返事をする 軍曹が衝撃を受け怒って言う
「こらーっ!気合が足りんぞーっ!返事はどうしたぁっ!?」
隊員たちがヤケクソに敬礼して叫ぶ
「了解しましたぁ!軍曹ー!」
軍曹が言う
「よぉおし!では 自分に続けーっ!」
軍曹が走る 隊員たちが必死に追い掛ける

【 国防軍13部隊駐屯地 会議室 】

マーレーが言う
「では14部隊とは連絡を密に」
ランドが言う
「ああ、よろしく頼む」
マーレーが微笑して言う
「こちらこそ …これを機に両部隊の結束も深められると 私も嬉しく思うので」
ランドが微笑して言う
「私もだ そちらの13部隊の区域には 何と言っても皇居がある 我々14部隊に出来る事があれば いつでも手を貸す所存だ」
マーレーが微笑して言う
「心強い」
ランドが頷き メモを見ながら言う
「こちらも同じ言葉を返そう マーレー少佐 今日のレクチャーはとても良かった 私は関心さえした なにしろ 数字に関する部分がとても細かく 今作戦において これらの情報はとても有意になるだろう」
マーレーが苦笑して言う
「そう言って頂けると 私としても この所の徹夜の甲斐があったと言うものです 今回の任務は 陛下と共に攻長、防長閣下の警護ですから 失敗は許されない それと、元々数学的なことは得意分野ではあったので その私の情報を 有効に使って頂けるとあれば 嬉しい限りです」
ランドが微笑してメモを見ながら言う
「うむ… それにしても 本当に細かい… と、これほど重要な情報を あの17部隊の隊長は メモ1つ取っていなかった アモン大佐ですら書き留めていたというのに」
マーレーが苦笑して言う
「ええ、私も気になっていました」
ランドが苦笑して顔を左右に振って言う
「国防本部に乗り込んで 前総司令官や幹部を射殺し 黒の楽団に支配されかけていた 国防軍を救ったと… 彼を支持する者も多いが」
マーレーが苦笑して言う
「正直 分かりませんね 軍と言うものは 元々1人で動くものでは無いと 私は思いますので」
ランドが頷いて言う
「私も同意見だ 今は英雄視されていようとも いずれは地に落ちるのではないか とな?」
マーレーが苦笑してから言う
「とは言え、今回は残念ながら そのハイケル少佐の率いる17部隊と合同ですから もし、彼が後日 私へ それらの確認を取る様な連絡を入れて来る事が有れば 私は協力するつもりです」
ランドが苦笑して言う
「ああ、我々は軍だからな 協力を惜しんで 陛下や閣下方の御身に何か有っては 全体の責任となる」
マーレーが頷く

【 国防軍レギスト駐屯地 ミーティングルーム 】

ハイケルが言う
「今回のパレードでは 以前までとは異なり 2箇所の橋を通過するルートが組まれている 移動距離も今までより長く 当日は観覧者で混雑する事も考えられる為 国防軍は3部隊を用いてこの警備に当たる事とし パレードの行われる メイス地区を担当する 国防軍13部隊を始め パレードの一部が入る レムル地区を担当する14部隊 そして…メイス地区の西 マイルズ地区を担当する17部隊 …以上 3部隊を起用」
隊員たちがメモを取っている 軍曹もメモを取り ハイケルを見る ハイケルが間を置いて言う
「警備はパレード当日は勿論 その数日前 厳密には5日前からの警戒準備と 2日前からの警戒を予定している」
ハイケルが説明を続けている
「…と言う工程で行う予定で そして、パレード当日は 皇居から3頭の馬が引く大型馬車が出され 中央に陛下の御簾が下ろされ その前に 攻長閣下と防長閣下のお二方が立たれる事となっており…」
ハイケルが言った後 ハッとする 軍曹が気付き 隊員たちが反応して周囲と顔を見合わせる ハイケルが視線を逸らして思う
(…クッ こういった時は不便だな)
軍曹が疑問する ハイケルが気を取り直し 軽く咳払いをしてから言う
「…うんっ 以降の概要は省略する 大体そんな感じだ では作戦内容へ移る」
隊員たちが反応し小声で喋る
「なんだ、今までは書類を読んでたのか?」
「そうみたいだな?てっきり少佐の言葉かと…」
隊員たちがハイケルの周囲を見るが 周囲に書類らしき物は一切無い

隊員たちが食堂で食事をしている

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルが言う
「ここの主任は 今は誰になっているんだ?」
マイクがやって来て敬礼して言う
「マイク少佐です この情報部の主任をしています 我々情報部に何かご用命で?」
ハイケルが敬礼して言う
「機動部隊のハイケル少佐だ マイク少佐 国防本部からの任務に 協力を願いたい」
マイクが微笑して言う
「もちろん 喜んで …とは言いましても 我々情報部が レギスト機動部隊のハイケル少佐に協力出来る事と言えば 当日の無線管理くらいだと思いますが?」
ハイケルが言う
「いや、我々機動部隊の実質的な作戦の製作に 協力を願いたい」
マイクが疑問して言う
「へ?はぁ…?」

マイクが数字を入力して言う
「よしっと」
ハイケルが言う
「それから ”橋の警備には 対岸の橋からの監視も有効とされる 以前の警戒時には 6名の隊員を配置 その時の記録からして 6名もしくは4名以上の配置は不可欠であると”」
マイクが数字を入力して言う
「6名から最低数は4名… 他には?」
ハイケルが間を置いて言う
「…ああ、それから」
マイクが苦笑して言う
「それにしても ハイケル少佐」
ハイケルが疑問して言う
「何だ?」
マイクが言う
「凄い記憶力ですね?数字だけでなく 言葉まで… そう、まるで レコーダーに録音したみたいに 全て覚えているみたいですね?」
ハイケルが間を置いて言う
「…ああ、そんな感じだ」
マイクが疑問して言う
「え?」
ハイケルが言う
「お陰で編集が面倒になる 特に丁寧語などを使われると 私らしくないと 隊員たちにも可笑しな顔をされる …気を付けてはいるが 編集しきれない言い回しもあるからな?」
マイクが呆気に取られる ハイケルが言う
「後、警備巡回に使った人数も言っていた 言うぞ?」
マイクが慌ててPCへ向き直って言う
「あ、はい…」
ハイケルが言う
「”13部隊が以前行った巡回時の人数は 全隊員数65名である我々の隊員数から算出し…”」
マイクが入力しながら考える

ハイケルが言う
「どうだ?」
マイクが言う
「ええ、この区域を 13部隊の以前のデータを元に レギストの隊員数で展開させるとなると」
マイクがPCを操作する モニターの地図上に表示が出る ハイケルが考えて言う
「うん… 少し少ない様にも思うが これで問題ないと言う事か?」
マイクが言う
「そうですね… ただ、これはあくまで以前の13部隊のデータを 元にしての数字ですから レギストで行うとなると 多少変わる可能性もあるでしょうね」
ハイケルが疑問して言う
「その修正は出来ないのか?」
マイクがハイケルを見上げて苦笑して言う
「その修正をしようと思ったら レギストの情報をもっと入手しませんと 出来ないですよ?」
ハイケルが疑問して言う
「レギストの情報を とは どう言う意味だ?お前たちはレギストの情報部だろう?」
マイクが苦笑して言う
「ハイケル少佐… ここで言ってしまうのもなんですが 我々レギストの情報部にとって そのレギストの機動部隊である ハイケル少佐とその部隊の事と言うのは ブラックボックスなんですよ?」
ハイケルが呆気に取られて言う
「…何を言っている?」
マイクが言う
「ですから 我々は今まで レギストとしての自覚と言うか… 誇りみたいなものは持てなくてですね?レギストのハイケル少佐が 国防軍を救った と言われても… 自分たちには何処か遠い存在だったんですよ 正直 今隣に居ても 同じ軍階の少佐だとは思えませんしね?」
ハイケルが疑問してマイクを見てから ふと周囲を見渡す 情報部の隊員たちがハイケルを見ていてはっとして視線を逸らす マイクが息を吐いて言う
「ですから 我々は レギストであって レギストではないと… あの勇名なハイケル少佐に 我々の力など及ばないでしょう?」
ハイケルが言う
「…俺は」
マイクが反応してハイケルを見上げる ハイケルが言う
「以前ここの担当をしていた あいつのお陰で 機動隊員としての力を身に付けたんだ …俺にとってレギストの情報部は 俺自身の命よりも大切なものだ」
マイクが驚く ハイケルがマイクを見て言う
「そして 我々 国防軍レギスト機動部隊の今後の作戦には この国防軍レギスト駐屯地 情報部の力が どうしても 不可欠だ …協力してもらえないか?」
マイクが驚いた状態から 苦笑して言う
「驚いた」
マイクが立ち上がり ハイケルへ手を差し伸べて言う
「そこまで言われちゃ 協力しない訳にいきません 我々国防軍レギスト駐屯地情報部 ハイケル少佐の率いる レギスト機動部隊へ 全力を尽くさせて頂きます!」
ハイケルが言う
「宜しく頼む」
2人が握手を交わす

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】

軍曹が叫びながら全力疾走している
「ぬおぉおおおーーっ!」
隊員がタイムを計っている ハイケルが見ている マイクが隣に居て言う
「まずは徹底的に隊員たちのデータを取りを行い 隊員数だけではなく 隊員たちの能力自体も数値化します」
ハイケルが言う
「必要な計測は言ってくれ 直ちに行わせる」
情報部員が計測の数値を見て驚いて言う
「せ…世界記録…!?」
ハイケルが言う
「…あれの数値は入力しなくて良い 部隊の数値を著しく狂わせる」
マイクが呆気に取られて言う
「…確かに」

隊員たちが腕立て 腹筋 背筋 射撃 様々な計測を行う マイクと情報部員が話し合いながら情報入力を行っている ハイケルが見つめる

軍曹が上体を上げ気合を入れて言う
「よおぉおしっ!次なる測定は何かーっ!?」
隊員たちが倒れていて言う
「計測は 全て終わったそうであります~」
軍曹が衝撃受け 残念そうに言う
「むっ!?…そうであったか 自分は まだまだーっ!少佐ーっ!自分は これからっ!」
軍曹がハッとして周囲を見ながら言う
「しょ… 少佐!?少佐ぁ!?」
隊員が言う
「少佐でしたら 先ほど 情報部の方と一緒に 何処かへ行きましたよ~」
軍曹が衝撃を受け言う
「何とっ!?そうであったか… 情報部の者と と言う事は 情報部の部室か?よしっ それなら 自分も!」
隊員が身を起こして言う
「現地の情報を収集してくるって 言ってました だからきっと 今度の担当区域へ視察に行ったんじゃないでしょうか?」
軍曹が衝撃を受け叫ぶ
「なにーっ!?」

【 国防軍レギスト駐屯地 正門前 】

警備兵が言う
「ええ、ハイケル少佐でしたら 情報部のマイク少佐と共に 先ほど いつもの ジープでお出掛けになられました」
軍曹が叫ぶ
「ぬあぁああーーっ!少佐ぁあ!何故自分を置いて 他の者と 外出をーっ!?」

【 車中 】

ハイケルが運転しながら言う
「無理を言ってすまない 情報部の者は 外へ出る事を好まないと聞いたが 現地の情報を一度 その目で確認してもらいたい」
マイクが言う
「いえ、たまには外に出るのも良いですよ それに、今言われて思い出したんですが 以前 情報部に居たとても優秀な主任が やはり 重要作戦の前には 現地の情報を自分の目で確認していた と言う話を聞いた事が有りました」
ハイケルが一度マイクを見てから 苦笑して言う
「…ああ、いつも そうしていたさ」
ジープが走り去る

【 マスターの店 】

マスターがくしゃみをして言う
「はっくしょんっ!…あぁ …誰か 噂でもしてるのかな?」
マスターが苦笑する

【 レムル地区~ラムル地区 】

ハイケルのジープが橋の中央路肩で止まっている ハイケルが双眼鏡で周囲を見ている マイクが言う
「確かに この橋からだと パレードが行われる両サイドの橋が 見えると言えば 見えますが…」
ハイケルが双眼鏡を離して言う
「当日はこの橋も 観覧者で溢れると言う話だ この地区の警察部隊が交通整理に当たると言っていた」
マイクがノートPCを操作して言う
「前回のパレードの時も 交通整理はされていたらしいですけどね 当日は大渋滞でまったく動かなかったそうです」
ハイケルが双眼鏡で見ながら言う
「そうか… 見晴らしは良いが 距離的に この橋からの狙撃は 不可能だな」
マイクが驚いて言う
「え!?」
ハイケルが双眼鏡を離して言う
「警護をすると言う事は そう言った事にも備えろと言う事だ ルートを一通り走り 建物の位置なども確認しておくぞ」
ハイケルがジープを発進させる

【 国防軍レギスト駐屯地 ハイケルの執務室 】

ハイケルが椅子に座りノートPCを見ている 部屋のドアがノックされ軍曹の声が届く
「少佐!アーヴァイン軍曹でありますっ!」
ハイケルが言う
「入れ」
軍曹が言ってドアを開ける
「はっ!入りますっ!」
軍曹が部屋に入りドアを閉め敬礼する ハイケルが一度視線を向けてから再びノートPCへ視線を戻して言う
「どうした?」
軍曹が言う
「はっ!あのっ…少佐!」
ハイケルが向かずに言う
「何だ?」
軍曹が表情を落として言う
「さ、…先ほど 情報部のマイク少佐と 現地視察へ向かわれたとっ 伺いましたぁ…」
ハイケルが言う
「ああ …それで?」
軍曹が一度困ってハイケルを見てから再び視線を落として言う
「そ… そのぉ… 現地視察でしたらっ 当日配備される 我々レギストの機動部隊の皆も 一度見ておく必要があるのではないかとっ!」
ハイケルが言う
「…ああ、そうだな」
軍曹がハイケルを見る ハイケルが変わらず言う
「だが、皆で行くのは もう少し後で良い 今はまず 現地の情報を集め 機動部隊を展開させるその作戦や 戦略を立てなければならない …先ほどの視察は その為のものだ」
軍曹が言う
「な、なるほど… で、ではっ!自分も 一度現地を視察して来るでありますっ!」
ハイケルが変わらず言う
「必要ない」
軍曹が驚いて言う
「えっ!?」
ハイケルがノートPCの電源を切りながら言う
「視察から得られる情報は 先ほどマイク少佐と向かって得られた これ以上の情報処理は 彼らにとってはキャパオーバーだと言われた 個人的に確認しておくと言うのなら 止めはしないが…」
ハイケルが軍曹を見る 軍曹がハッとして敬礼して言う
「はっ!それでは 自分は個人的に確認をっ!」
ハイケルが苦笑して言う
「必要ないのではないか?」
軍曹が疑問して言う
「は…?」
ハイケルが軍曹の前まで歩いて来て言う
「君は当日 陛下と共に馬車に居るんだ その君や 陛下をお守りする為の作戦だぞ?君には君のやるべき事が 当日はあるはずだ レギストの作戦を案じている暇は ないのではないか?」
軍曹が呆気にとられて言う
「しょ… 少佐…」
ハイケルが言う
「…退いてくれ」
軍曹が驚いて言う
「え?」
ハイケルが言う
「使い慣れた方で 確認したくて ここへ来ただけだ まだマイク少佐との打ち合わせが終わっていない 情報部へ向かう …そこを 退いてくれ」
軍曹がハッとして 自分がドアの前に居る事に気付く 軍曹が慌てて言う
「し、失礼しましたっ!」
ハイケルが言う
「問題ない」
ハイケルがドアを開ける 軍曹がハイケルに続きながら言う
「じ、自分も 行っても宜しいでしょうかっ!?」
ハイケルが歩きながら言う
「構わないが… そろそろ戻らなくて良いのか?そちらでも パレードに向けての話し合いなどはないのか?」
軍曹が言う
「あ、は、はいっ 今の所 自分は その様な話は…っ」
ハイケルが軍曹を見てから言う
「そうか… もし、我々へ伝える事が可能であれば 情報の提供をもらえると 助かる」
軍曹が一瞬呆気に取られた後喜んで言う
「…はっ!自分が得られます情報はっ!全て少佐にっ!」
ハイケルが苦笑して言う
「警備に関わる話だけで良いからな?」
軍曹が歩きながら敬礼して言う
「了解しましたぁ!少佐ぁー!」
軍曹とハイケルが歩いて行く

【 マスターの店 】

マスターが微笑して言う
「へぇ~ ハイケルの奴が レギストの情報部と?ふふ~ん… と、それで?なんでヴォール君 …いや、アーヴァイン君が しょげてるのかなぁ?」
マスターの視線の先 軍曹が泣きながら言う
「いえ~っ!自分は…っ 自分はっ!しょげてなど おりませんっ!」
軍曹が泣く マスターが呆れて言う
「いや… それ以上でしょ?」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルがマイクと共にモニターを見て打ち合わせをしている

【 マスターの店 】

マスターが言う
「元々 機動隊員の作戦って言うのには 情報部も大きく関わるものなんだ ハイケルだって 昔は良く 俺の居た情報部に入り浸っていたんだぜ?」
軍曹が驚いて言う
「そ、そうだったので ありますか…?あっ!ではっ やはり そのマスターが お辞めになられてから!」
マスターがコーヒーの仕度をしながら言う
「いや、俺が辞めた後だって 情報部には行ってたみたいだ しょっちゅう 質が落ちたって 嘆いてたからな?少なくとも 情報部の力は利用していた筈さ」
軍曹が呆気にとられて言う
「そう… でありましたか …自分がレギストに入隊してからは 少佐が 情報部に居ると言うのは 見た事が無かったのでありますが…」
マスターが作業を続けながら言う
「あぁ… それは…」
軍曹が疑問して言う
「それは?」
マスターがまを置いて言う
「あいつが レギストの事なんて 放ったらかしにしちまってたから じゃないか?」
軍曹が驚いて言う
「え…?」
マスターが言う
「アーヴァイン君が入隊した頃って言うと 丁度 レーベット大佐が お亡くなりになって 少し後って頃だったと思う その頃には ハイケルはもう 大佐の敵討ちをするって事しか頭になかったんだ それで、国防軍や前総司令官の事… 黒の楽団の事… そう言った事ばかり調べていたから 情報部に依頼する事は出来ないし 正直言って まともな部隊指揮は執っていなかったと思う アーヴィン君はどう思った?」
軍曹がびっくりして言う
「えっ!?」
マスターが軍曹を見て言う
「君の目から見て ハイケルは まともに部隊指揮を執っていたかい?」
軍曹が視線を泳がせて言う
「そ… それは…」
マスターがコーヒーを淹れながら言う
「大まかな命令だけして 重要な所だけ自分で確実にこなして… 後は… 言い方は悪いが 適当にやらせていたんじゃないか?」
軍曹が驚いて目を丸くする マスターが苦笑して言う
「あいつに憧れて レギストに入隊した君に こんな事を言っては 可愛そうだが… あの頃のハイケルは ハッキリ言って 最低の部隊長だっただろうね …ま、その辺りを上手く誤魔化せていたって所が 完璧なあいつらしくもあるんだが」
マスターが軍曹にコーヒーを出す 軍曹がハッと我に返りマスターを見上げる マスターが微笑して言う
「だが、そんなあいつが 君のお陰で 元のあいつに戻った …きっと今度こそ 君を驚かせるほどの 隊長になるはずさ …ハイケルを信じてやってくれ」
軍曹が呆気に取られた状態から 笑んで言う
「はっ!勿論であります!少佐はっ!少佐は 素晴らしい隊長でありますっ!自分は 少佐をっ …少佐を!常にっ信じているでありますーっ!」
軍曹がコーヒーを一気飲みして叫ぶ
「熱いーーっ!」
マスターが呆気に取られてからから苦笑して言う
「そらぁ 淹れたてをそんな一気飲みしたら 熱いに決まってるだろぉ?」
マスターが軍曹に笑う 軍曹が照れて笑う

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルがモニターを見て考えている コーヒーが置かれる ハイケルがハッとして見上げると マイクが自分もコーヒーを飲みながら言う
「お疲れさまです ハイケル少佐」
ハイケルが気付き周囲を見渡す 外は暗いが部屋の中には多くの情報部員たちが居て 作業を行っている ハイケルが軽く息を吐いて言う
「…すまない 私のせいで マイク少佐や情報部の皆を 巻き込んでしまったな」
マイクが自分の席に座って言う
「いえ、皆 喜んでるんですよ 自分たちもやっぱり レギストの隊員だったんだ!ってね …どうぞ?」
マイクがコーヒーを示して言う
「ここのコーヒー 食堂のと違って美味いんですよ なんでも 昔ここに居た主任が えらいコーヒー好きだったらしくて」
マイクがコーヒーを飲んで一息吐く ハイケルが苦笑して言う
「ああ、知っている …だが、ここの部室に あのコーヒーメイカーが入れられたのは あいつの我が侭等ではなく 情報部員たちの事を想っての事だ 当時 相当高い物だったのを 自腹で購入したと言ってた」
マイクが呆気に取られて言う
「ハイケル少佐… もしかして そちらの主任の事を御存知なんですか?」
ハイケルがコーヒーを飲んでから言う
「ああ 幼馴染だしな」
マイクが慌てて言う
「それじゃっ!今何処に居るのかもっ!?」
ハイケルが言う
「…ああ」
マイクが言う
「ハイケル少佐っ!どうかっ!教えて下さいっ!その方は 我々情報部にとっては!伝説のっ!」
ハイケルが沈黙する マイクが言う
「ハイケル少佐っ!?」
ハイケルがコーヒーを飲んでから一息吐いて言う
「…あいつは 情報部には戻らないと言っている きっと 関わりたくも無いのだろう どうしても力を借りたい時には 声を掛ける事もあるが なるべくなら そっとしておいてやりたい」
マイクが呆気に取られる ハイケルがモニターに視線を戻す

【 マスターの店 】

TVでニュースがやっている レポーターが言う
『…それでは 次のニュースです 女帝陛下の生誕20周年を記念するパレードまで 残す所2週間となります ここメイス地区では 早くも当日の観覧に向けた整理券なども配られており』
マスターが片付け作業をしながら聞いている レポーターが言う
『…今回は 先日新らたに就任した 陛下の盾と剣であられる 防長閣下、攻長閣下も 国民たちへの初めてのお披露目となり 更に今回のパレードには国防軍による招待で 外国からも多数の方が呼ばれる事もあって 女帝陛下は初めてとなります 国民、並びにその他観覧者へ 御言葉を述べられると これら類稀なる 今回のパレードは盛大に』
マスターが反応してTVを見て思う
(女帝陛下は 今までのパレードには座していなかった それが 今回は外国からも人を呼んだ上で 御言葉を述べる… その外国からの客は 国防軍が呼んでいる…?)
マスターが視線を細め PCへ向かいスリープ画面から起動させながら思う
(外国から人を呼ぶのなら パレードのついでに お言葉を頂戴するなんて失礼だ 国防軍の名が出されていると言う事は 主権を取り戻した国防軍への色付けか?いや、それにしたって… 何か可笑しい きっと裏が…っ)
マスターがハッとして操作をしていた手を止め屈めていた上体を戻して言う
「…や~めた~ 俺はもう… 関わらないって決めたんだ 俺たちは 組織のイザコザに 付き合うつもりは 無いんだ …ってな?」
マスターが苦笑してから ハッとしてホットプレートへ走って行き 慌てて蓋を開けると 真っ黒い煙が上がる マスターが顔を顰めうな垂れる

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクが言ってエンターを押す
「…っと こんな感じで」
モニターを見ているハイケルが頷いて言う
「ああ、これで行く」
マイクがハイケルを見て微笑する

【 国防軍レギスト駐屯地 ミーティングルーム 】

マイクがスクリーンに映し出された映像を示しながら言う
「レギスト機動部隊の当日の配置はこの通り」
スクリーンに映し出されている地図上にABC地点が表示される マイクが言う
「陛下の馬車が過ぎ次第 各地点の隊員は速やかに皇居前へ向かい…」
隊員たちがメモを取っている 軍曹もメモを取りつつ ハイケルを見る マイクが説明を続ける
「なお、各地点のメンバーはこの通り このメンバーの組み合わせは 各隊員の得意項目不得意項目を補って作られているので 万が一 持ち場の変更を余儀なくされる場合は 私か、ハイケル少佐の方へ連絡を」
隊員たちがメモを取る 軍曹がマイクを見る ハイケルが言う
「当日は観覧者も多く 混雑の激しい事が予想されている その為 皇居への移動が遅れるか もしくは不可能であると確認された際も 私かマイク少佐へ迅速に連絡をしてくれ」
軍曹が驚いてハイケルを見る ハイケルとマイクが顔を見合わせ相づちを打った後 マイクが言う
「ここまでで、何か質問は?」
軍曹が不満そうに表情を顰める マイクが周囲を見渡してから言う
「では、パレード当日まで5日となる明日から 各地点の警備巡回を開始する事になっているので 各地点のこのメンバーにて なお 巡回を行う時間の方は…」
マイクが説明を続けている

昼を告げるチャイムが鳴る

【 国防軍レギスト駐屯地 食堂 】

軍曹が悔しそうに叫ぶ
「ぬぉおおおーーっ!」
軍曹が隊員たちに悔しがって言う
「あれはーっ!?一体どう言うことであるのかぁあーっ!?」
軍曹の指差した先 ハイケルとマイクが一緒に食事を取っている 隊員が言う
「あぁ… 最近少佐とマイク少佐は 夕食の時一緒に食べてたんで… 昼も一緒に食べる様になったんじゃないですか?」
軍曹が衝撃を受けて言う
「なにぃっ!?そ、そうであったのかぁ~っ 自分はっ 夕食時には 皇居へ戻っていた為 し…知らなかったぁっ」
隊員が言う
「あ、軍曹 やっぱり 皇居にも食堂ってあるんすか?」
「皇居の食堂… 豪華そうだよなぁ~」
「羨ましい~」
軍曹が悔しそうに顔を左右に振って言う
「ぬぅう~~ 何が羨ましいかぁあ!自分はぁっ 皇居の贅沢な夕食などよりっ!ここで少佐と粗末な食堂食を食べるほうが よっぽど羨ましいのであるーっ!」
隊員たちが呆れて顔を左右に振る

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】

軍曹が叫ぶ
「よぉおーしっ!次は 全員30キロの装備を担いだ上で 訓練所周回30週ーっ!」
隊員たちが衝撃を受け嫌そうに言う
「えぇ~…」「そんなぁ~」
軍曹が怒って言う
「えぇええいっ!なんだぁー!?その顔はぁー!?実戦時には 負傷した隊員を担いで 拠点まで戻らねばならぬ時もあるだろー!?たかが30キロ位で音を上げるではなぁーいっ!」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクがPC操作をしながら言う
「所で、ハイケル少佐?」
ハイケルが言う
「何だ?」
マイクが言う
「機動隊員のアーヴァイン軍曹は」
ハイケルが言う
「軍曹は 女帝陛下の盾 ヴォール・アーヴァイン・防長閣下だ」
マイクが苦笑して言う
「…ですよね?」
ハイケルがPCマウスを操作しながら言う
「…それがどうした?」
マイクが苦笑して言う
「いえ…っ ただ、それなら そろそろ…」
ハイケルがマイクへ向く マイクが考えながら言う
「今回のパレードに向けた 皇居の方の情報なんかも 教えてもらえると助かるんですけどね?」
ハイケルが言う
「軍曹には 私からその様に伝えてある それに、我々へ伝えられる情報があれば 聞かずとも 向こうから言って来るだろう …あいつはそう言う奴だ」
マイクが困って言う
「そうですか… ハイケル少佐がそうと言うなら そうなのかもしれませんが… パレードはもう目の前ですよ?唯でさえ 10年に1度 しかも今回は 外国からの客人も招くと言うのに そのパレードに付いての打ち合わせが 全く無いのでしょうかね?」
ハイケルがマイクを見てから 間を置いて言う
「…なら 我々へ伝えられる情報が無いのだろう」
マイクがハイケルを見る ハイケルはモニターを見ている マイクが考えてから言う
「あの~ ハイケル少佐?」
ハイケルが言う
「何だ」
マイクが言う
「私、どうしても 1つ確認したい事が有るので 一度 防長閣下に… いや、アーヴァイン軍曹に お話を聞いても良いですか?」
ハイケルがマイクへ向いて言う
「好きにすれば良い あいつも他の機動隊員たちも 皆 同じレギストの隊員だ 所属が異なろうとも同じくレギストの隊員であり 上官でもあるマイク少佐が 奴らに気を使う必要は無いだろう?」
マイクが苦笑して言う
「いえ、彼らに気を使っていると言うよりも…」
ハイケルがマイクを横目に見て言う
「…私に気を使っているのか?」
マイクが苦笑して言う
「まぁ… そんな感じで」
ハイケルが苦笑して言う
「それこそ 余計な気を使うなと言う奴だ そもそも 私とこれだけ話しているのに 今更何を言う?」
マイクが軽く笑って言う
「言われてみれば そうでした!…では 少し行って来ます!」
ハイケルが言う
「ああ、私も これを一通り確認したら 向かう」
マイクが頷き席を立つ ハイケルがPCマウスを操作する

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】

隊員たちが30キロの荷物を背負いしんどそうに走っている 軍曹が言う
「むっ!皇居の方の動きだとっ!?」
マイクが言う
「ええ、パレードに向けての打ち合わせなど 行われていると思う…のですが?」
軍曹が90キロの荷物を背負った状態で言う
「自分は知らーんっ!」
マイクが言う
「えぇえ?」
軍曹が言う
「皇居には 日々朝も晩も居るがっ 自分はパレードやその他についての話し合いに 呼ばれた事は無いのであるっ!」
マイクが疑問して言う
「…本当に?」
軍曹が怒って言う
「本当に決まっているっ!そもそもっ!自分はっ!少佐から パレードに関する情報などが入った場合はっ!少佐へお知らせするようにと 命じられているのだっ!少佐からご命令を頂いて居ていると言うのに!自分がそれを お伝えしないなどと言う事はっ 断じて無いのであるっ!」
マイクが軍曹の勢いに押されながらも疑問して言う
「う~ん… そうなのか… では、もしや… 国防軍の関係者である 防長閣下には それらの情報は 伝えられないのだろうか…?」
軍曹が怒って言う
「なにぃいーっ!?それはっ どう言うことであるのかぁあっ!?」
マイクが軍曹を押さえるようにして言う
「いやぁ… ほら、実際は居ないのに 警備しろ~とは 言えないでしょぉ?まぁ 攻長閣下と防長閣下は居らっしゃる訳ですから?警備はしますけど…?」
軍曹が怒って言う
「なにぃいーーっ!?ますます 分からーんっ!そもそもっ!お前は一体 何を言いたいのであるかぁっ!?少し少佐に仲良くして頂いたからと言ってっ!お前など… お前などぉおーーっ!うおぉおーーっ!自分はっ 自分はっ 羨ましくなんか無いので…っ」
軍曹が泣く マイクが疑問して言う
「はぁ?」
ハイケルが歩いて来ながら言う
「マイク少佐 確認事は済んだのか?」
軍曹がハッとしてハイケルへ敬礼する マイクがハイケルへ言う
「う~ん 分からないと言われてしまいました」
ハイケルが言う
「…そうか」
軍曹が衝撃を受け慌てて言う
「しょ、少佐っ!自分はっ!」
ハイケルが軍曹を見てからマイクを見て言う
「何を確認しようとしていたのかは知らないが 分からないものはしょうがない マイク少佐 そろそろ隊員たちを警備巡回へ向かわせるが 出来れば 同行してもらえるか?」
軍曹が衝撃を受ける マイクが言う
「ええ、初日ですしね 自分が作り上げたプランで 問題は無いか… しっかりと この目で確認させて頂きますよ」
マイクがメガネを軽く上げる ハイケルが微笑して言う
「心強いな」
軍曹が激しくショックを受け 心の中で叫ぶ
(ガッビーーッン しょ、少佐がっ 少佐が こ こここここ…っ 『心強いな』 『心強いな』 『心強いな』 … … … お、俺では なく マ、マイク少佐にっ…っっっ!?)
マイクが微笑して言う
「おっと?ハイケル少佐にそこまで言って頂いては 更に頑張りませんとね!情報部の連中にも 後で気合を入れておきますよ!」
ハイケルが言う
「そうか 期待している」
軍曹がショックを受け石化して 心の中に響く
(『期待している』 『期待している』 『期待している』 …しょ、少佐が き、期待を!? お、俺では無く 俺では無… (以下略) … …・・)
軍曹の意識が遠ざかる ハイケルが言う
「では 予定通り 13時に車両保管所の方へ来てくれ 準備が整い次第 出発する」
マイクが軽く敬礼して言う
「りょーかい」
ハイケルが軽く敬礼を返す 軍曹が倒れる ハイケルとマイクが疑問する

車両保管所から ジープ1台とレギストの車両が2台発車する ジープを運転するハイケルが正門前で警備兵へIDを見せ 後方車両を説明する 門が開かれ 3台の車両が出発する

【 マスターの店 】

マスターが困って言う
「アーヴァイン君 店に来てくれるのは嬉しいが… せめて制服は脱いで ついでに… 泣かないで来てくれる?」
軍曹が号泣しながら言う
「あぁあああ~~っ あのっ あの少佐がっ!あの少佐がっ!マイク少佐には 『心強い』とか『期待している』とかっ!自分はっ 自分は一度もそんな 羨ましい言葉はぁぁああ~っ」
軍曹がカウンターに伏して泣く マスターが溜息を付いて言う
「あのなぁ アーヴィン君?俺は 君が と~っても素直で それこそ 子供の様に純粋な大人だと 知っているけどねぇ?少しはその… 大人の黒い部分ってヤツを 理解した方が良いと思うぜ?」
軍曹が顔を上げ疑問して言う
「く… 黒い部分 …と言いますと?」
マスターが苦笑して言う
「社交辞令に 決まってるだろ?」
軍曹が衝撃を受け驚いたまま呆気に取られる マスターがコップを拭きながら言う
「まぁ 普段そんな事を言わない あいつが言うとなると それこそ効果はてき面 何とかも煽てれば木に登るっていうが あいつに煽てられれば それこそ 空でも飛んじまうかもなぁ?」
軍曹が呆気に取られてから自分の前にあるコーヒーを見ながら言う
「しゃ… 社交辞令… 少佐が…?あの 少佐が そんな…」
マスターが言う
「アーヴィン君」
軍曹がハッとしてマスターへ向いて言う
「はっ!」
マスターが言う
「部隊や軍隊って言うのは 大勢で動くものだ それをまとめる指揮官は あらゆる面で優れている必要がある 1人で強くても駄目なんだ …だから 以前のハイケルが 最低の部隊長だって言ったのは あいつ1人がズバ抜けて凄くて 他の連中は まったくまとまってなかっただろ?あいつは 部隊を レギストを率いるつもりが無かった …それが これからは 自分だけじゃない レギストをしっかり率いていく為に その為の 全体をまとめる行動を 開始したんだ …だから、社交辞令も その1つ」
軍曹が視線を落として言う
「は… はぁ…」
マスターが苦笑して言う
「もっとも、君みたいに 根っから人を信じて… 惹き付けて 引っ張っていけるような人には 必要ない能力なのかもしれないが」
軍曹が疑問して言う
「はぇ?」
マスターが軽く笑って言う
「まぁ、そう言う事だ ハイケルは別に そのマイク少佐の事を 君以上に有能だと 思っている訳ではないと思うよ …むしろ、そんな世辞や 社交辞令を用いなくても 部隊を任せておける 君の事は とても高く評価していると思うね?」
軍曹が驚く マスターが微笑して言う
「さ、分かったなら そろそろ戻らなくて良いのか?パレード当日は居ないからと 置いてけぼりを食ったとは言え 巡回から戻って来た所に 君がぶらりと遊びに行っちゃってました!…だなんて知ったら ハイケルは怒るだろうなぁ?」
軍曹が衝撃を受け慌てて立ち上がって言う
「じっ 自分は決してっ!あ、遊びに 訪れていた訳ではっ!」
軍曹が慌てて出口へ向かいながら言う
「そ、それでは マスター!本日も 素晴らしきご指導を頂きっ 真に 有難う御座いましたぁっ!この御恩は一生っ!そして 必ずや 自分は いつの日かっ!マスターのお役にーっ!」
マスターが軽く笑って見送る 軍曹と入り違いで マリが入ってくる マリが軍曹を振り返りつつドアを押さえている マスターが言う
「いらっしゃいませ どうぞ?」
マリが微笑しながら マスターへ向きつつ言う
「今の方 レギストの…」
マリがマスターへ向きかけて驚く マーガレットの花束と共に マリの姿を確認したマスターが 驚いて言う
「…マリちゃん?」
マーガレットの花束の先に見える マスターの姿に マリが驚いたまま頬を染めて言う
「マーガレットの… 王子様…っ!」

【 国防軍レギスト駐屯地 】

軍曹が敬礼して叫ぶ
「お帰りなさいませーっ!少佐ぁーっ!」
ハイケルが軍曹を見てから言う
「ああ」
軍曹が微笑し ハイケルが歩く 軍曹が敬礼を解除してハイケルに続きながら言う
「少佐ぁー!巡回の方は如何でしたでありましょうかぁ!?あいつらは しっかと少佐のご期待に 沿えらていましたでありましょうかぁっ!?」
ハイケルが言う
「そうだな マイク少佐に構成を 任せただけの事はあった」
軍曹が衝撃を受ける ハイケルが続けて言う
「全体的に 能力が均等であり かつ 必要な場所では それに秀でた者が しっかりと組み込まれていた …当日の配備メンバーとしても問題無い このままの構成で 当日の警備に当たらせるつもりだ」
軍曹が複雑そうな表情をしてから改めて言う
「…はっ!少佐のご期待に 答えられていた様でっ!自分もあいつらの上官として 嬉しいかぎりでありますっ!」
ハイケルが微笑して言う
「フッ… そうだな」
軍曹が驚き疑問する ハイケルが言う
「日々の君の訓練のお陰で 彼らの持久力も上がっている様だ …射撃や対戦的な能力だけでなく 持久力の向上も 必要な事だと知らされた」
軍曹が呆気に取られた後慌てて敬礼して言う
「はっ!お褒めの御言葉を頂戴し 真に有難う御座いますっ 少佐ぁー!これからも 少佐のお力になるべくっ!自分はっ!あいつらを バシバシしごいてやるでありますっ!」
ハイケルが軽く笑ってから言う
「そうだな 君にしごかれる分には 彼らも不思議と 怯えはしない様だからな?」
軍曹が呆気に取られた後 満足そうに笑む 間を置いて 軍曹がハッとして言う
「あっ それはそうと 少佐っ!」
ハイケルが言う
「何だ?」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!真に恐縮ではありますがっ 本日 これより自分はっ 皇居への呼び出しがあり 勝手ながら 3時間ほど部隊から離れさせて頂きたく」
ハイケルが時計を確認して言う
「これから3時間となれば 就業時間を過ぎるだろう それなら 今日はもう上がって良いぞ 後の事は 私が引き受ける」
軍曹が困って言う
「はっ!少佐!真に申し訳ありませんっ どうか 宜しくお願い致しますっ」
ハイケルが言う
「問題ない」
ハイケルが執務室のドアの鍵を開ける 軍曹が言う
「あっ それとっ」
ハイケルが振り向いて言う
「何だ?」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!その、…これからの そちらの呼び出しの方で 何かしら パレードの事が分かりましたら すぐに少佐へ お知らせいたしますので…」
ハイケルが一瞬呆気に取られてから苦笑して言う
「そうか、それは助かる」
軍曹が敬礼を正して言う
「はっ!微力ながら 自分もっ 少佐へご協力をっ!」
ハイケルがドアを開けて言う
「だが、本当に… 無理はするな」
軍曹が呆気に取られてハイケルを見る ハイケルが振り向いて言う
「可能な限りで良い …それだけだ」
ハイケルが執務室に入る 軍曹が一瞬続こうとして 目の前で扉が閉まる

【 マスターの店 】

マリが言う
「そうなんだ… レギストを辞めて この喫茶店のマスターさんに?」
マスターが言う
「うん、コーヒーの魅力に 取り付かれちゃってね?」
マリが微笑して言う
「ふふふっ 面白い」
マスターがマリの前にコーヒーを出して言う
「一言にコーヒーって言っても 奥が深いんだぜ?」
マリがコーヒーを手にとって言う
「そうなんだ?」
マスターが言う
「飲んでみて?俺の自慢の一品」
マリが苦笑して言う
「どれどれ~?」
マリが一口コーヒーを飲んで驚いて言う
「わぁ~…」
マスターが言う
「どう?」
マリが微笑して言う
「おいしい」
マスターが微笑んで言う
「良かった」
マリが言う
「私ね?実は コーヒーってちょっと苦手なの 特に何も入れないブラックコーヒーとか?コーヒー独特のあの苦味がね?好きな人は それが良いって言うけど 私には 分からなくて… でも、これは」
マリがコーヒーを見る マスターが微笑して言う
「コーヒーの苦味は独特で 好きな人と嫌いな人に分かれるけど あの苦味は調整が出来るんだ 豆を軽目に挽いて 強く煮立てない それで さっと入れれば 苦味の少ないまろやかで 香りの良いコーヒーになる」
マリが言う
「すご~い」
マスターが苦笑して言う
「けど、やっぱり 女性は少し甘めで デザート感覚に楽しむコーヒーを 好む傾向にあるから こんなのが良いかと思ってね?」
マスターが小さな入れ物を出す マリが覗き込んで言う
「ミルクかな?」
マスターが微笑して言う
「ただのミルクじゃないんだ 良いかい?」
マスターが小さな入れ物を持ってマリに訊く マリが楽しそうに言う
「うん!」
マスターが軽くミルクをコーヒーに入れる 入れられたミルクがふわっとメレンゲ状になる マリが驚いて言う
「わぁ… 不思議 これはお砂糖?」
マスターが言う
「ミルクに生クリームと氷砂糖の砕いた物を入れているんだ それを凍るギリギリの所まで冷やしておいて こうして 熱いコーヒーに入れると 化学反応でメレンゲみたいに固まってね?」
マリが感心して言う
「すご~い」
マスターが微笑して言う
「それに、こうやって固まるから 氷砂糖の甘さや ミルクがゆっくりコーヒーに混ざって 変わって行く味を楽しみながら飲める …まぁ、少し甘くしたいと思ったら かき混ぜちゃって?」
マリが軽く笑ってから一口飲んで嬉しそうに言う
「おいしい~ とっても優しい甘さ… 私、このコーヒーも大好き」
マスターが驚き僅かに頬を染める マリがハッとして視線を逸らしながら言う
「やだ…っ 私… ごめんね あんまりにも美味しいから ついっ」
マスターが照れながら言う
「ああっ!いやっ!そんなに喜んでもらえて 俺も凄く嬉しいよ!」
マスターとマリが笑う

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所】

隊員Aが鉄パイプを振りかぶって言う
「てぇやぁあーっ!」
隊員Bが気合を入れて叫ぶ
「せいやぁああっ!」
隊員Aの鉄パイプが隊員Bの白羽止めを抜けて頭に当たる コーンとキレの良い音が響く 隊員Aが困って言う
「あぁ~ わ、悪ぃ」
隊員Bが頭を抱えもがいて言う
「たあぁ~~… しょ、少佐ぁ~ やっぱり 自分には 無理でありますぅ~~…っ」
ハイケルが表情少なく残念そうに言う
「…そうか」
マイクが遠くで見ていて呆れて言う
「はぁ…?」
ハイケルの下にマイクがやって来る
「ハイケル少佐」
ハイケルがマイクへ向いて言う
「マイク少佐 …何だ?何か変更でも?」
マイクがハイケルの近くへ来て言う
「あぁ いや、変更という程の つもりではないんですが…」
マイクが隊員AとBを見て言う
「ちなみに これは今 何の訓練で?」
ハイケルが隊員たちを見て言う
「実戦訓練の一環だ 今度のパレードの時もそうだが 周囲に人が居る場合 誤射を誘発させない為にも 拳銃を使えないと言う事がある その様な時には 敵が武器を持ち こちらが素手で応戦すると言う事も あるだろう?」
マイクが隊員たちを見て言う
「ああ… なるほど… 確かに~?」
マイクがハイケルを見て ハイケルのサーベルに気付き 他の隊員たちを見てから疑問して言う
「ハイケル少佐?」
ハイケルが言う
「何だ?」
マイクが言う
「すみません 私は詳しくは知らないんですが… そのハイケル少佐が所持している剣は 上官のみが許される物でしょうか?」
ハイケルが気付き一度サーベルを見てから言う
「ああ… まぁそんな所だ レギスト機動部隊だけの物で 少佐から上位の者は 所持を義務付けられている …とは言え 昔はそれなりの物だったらしいが 今は飾り程度の物だ 以前1度使ったが…」
マイクが首を傾げて言う
「ふ~む… では ハイケル少佐の他の隊員たちは 拳銃以外の武器は 所持していないと?」
ハイケルが間を置いて言う
「ナイフは所持しているが …とは言え 実戦では大して役に立つものではないな」
マイクが言う
「素手で対応すると言う事も 確かに必要かと思いますが 拳銃以外の武器も所持を考えてみてはどうでしょう?例えば その隊員たちのナイフですが もう少ししっかりした 実戦で使用出来るものを所持させる …と、これをするだけでも レギストの戦力は18%ほど上がるんですよ」
ハイケルが言う
「18%…」
マイクが言う
「現状のレギスト隊員で言いますと 6名近く人数が増える と言い換えられる数字です」
ハイケルが考えて言う
「そうか… それは大きいな」
ハイケルが考えていると 隊員AとBが攻守を入れ替え 隊員Bが鉄パイプを振りかぶって言う
「てぇやぁあーっ!」
隊員Aが気合を入れて叫ぶ
「せいやぁああっ!」
隊員Bの鉄パイプが隊員Aの白羽止めを抜けて頭に当たる コーンとキレの良い音が響く 隊員Bが困って言う
「あぁ~ やっぱ 無理?」
隊員Aが頭を抱えもがいて言う
「ぬあぁ~~… しょ、少佐ぁ~ じ、自分にも 無理でありますぅ~~…っ」
ハイケルが表情少なく残念そうに言う
「…そうか」
マイクが呆れて言う
「…それと」
ハイケルがマイクへ向いて言う
「何だ?」
マイクが苦笑して言う
「さきほどから これはもしやと 思っていたのですが …白羽止めの練習でしょうか?」
ハイケルが疑問して言う
「…白羽止め?」
マイクが言う
「ええ、元々は 大和刀を用いる技法ですよね?こう… 上から斬られそうになるのを ぱしっと両手で刃を押さえる」
マイクが言いながら動作をしてみせる ハイケルが首を傾げつつ言う
「…そうなのか?」
マイクが苦笑して言う
「ええ… あれ?違いました?ははっ てっきり私は その練習かと?」
ハイケルが言う
「以前 この様な訓練を行っていた折り あの軍曹が私の攻撃を受け止めた… その技術を 彼らにも得てもらいたいと思っているのだが… 同様に私が訓練してやろうとすると 何故か全員が無理だと言うので 隊員同士でやらせている」
マイクが疑問して言う
「ほう…?」
隊員AとBが思考錯誤しながら 鉄パイプを振ったり 押さえるフリをしている マイクが言う
「それでは アーヴァイン軍曹に その受け止める手法を教わらなければ 出来ないのでは?」
ハイケルが言う
「奴は 私の一言で出来る様になったぞ?」
マイクが感心して言う
「おおっ そうだったのですか!?因みに その一言とは!?何か コツの様なものでも?」
ハイケルがマイクに向いて言う
「コツ…?いや 違うな ただ明確に ”掴め” と」
マイクが呆気に取られる 後方で隊員AとBが失敗している

【 マスターの店 】

マスターが話している
「…で、ハイケルは 相変わらず何でも出来ちまうから!」
マリが笑って言う
「ふふふっ ほんと 変わってないのね?」
マスターが呆れて言う
「ああ お陰で 一緒に入った年上の俺は 立場が無くってさぁ?」
マリが軽く笑ってから言う
「私ね?実は 孤児院を出た後やその後も… レギストの駐屯地を見に行ってたの」
マスターが軽く驚いて言う
「え?マリちゃんが?」
マリが言う
「うん!…あ、でもね 別に 私がレギストに入りたいって訳じゃなくて …その …2人が居るかな~?って ちょっと覗きに!」
マスターが苦笑して言う
「そう言う事か… あぁ でも…」
マリが言う
「金網越しに覗いてもね?どうせ見えないだろうな~って 思ってたんだけど 見て ビックリ!」
マスターが疑問する マリが微笑して言う
「ハイケル君が居たの!」
マスターが驚いて言う
「ホントに~?」
マリが微笑んで言う
「うん!一目で分かっちゃった!だって… ハイケル君 全然変わってないんだもんっ ふふふっ」
マリが笑う マスターが釣られて笑って言う
「ああ、そういえば確かに… あいつ 変わってないからなぁ~」
マリが苦笑して言う
「あ、もちろん 背も大きくなってたし そう言う意味では変わっていたけど 何って言うのかなぁ ハイケル君特有の あの… 怖さ?」
マスターが苦笑して言う
「それは分かるよ 俺も孤児院に居た時は 年下の癖に 怖くて近寄りがたいって… 他の子供たちと 同じ様に思ってたからね?」
マリが微笑して言う
「うん… でもね 私、昔から… ハイケル君の事 …ずっと 気になってた」
マスターが驚く マリが遠くを見る様子で言う
「いつも1人で… 近寄りがたいんだけど… とっても… 寂しそうで… … 何度も勇気を振り絞って 話し掛けてみようって 思ったんだけどね?…結局出来なかったなぁ」
マスターがマリを見て表情を落として言う
「マリちゃん…」
マリがハッとして慌てて言う
「あ!でも、凄いよね!?」
マスターが呆気に取られて言う
「え?」
マリが微笑して言う
「ハイケル君 少佐さん なんでしょ?」
マスターが驚いて言う
「あれ?俺… 言ったっけ?」
マリが顔を左右に振って言う
「ううんっ 違うの その、駐屯地で見てた時にね?ハイケル君の横に おっきな隊員さんが来て 『少佐ぁー』って!」
マリが敬礼の真似をする マスターが呆気に取られた後プッっと噴出して言う
「あっははっ!その隊員さんも 俺知ってるよ!ついさっき 出て行った あ、ほら マリちゃん すれ違ったでしょ?」
マリがはっとして 驚いて言う
「あっ!そっか あの人!通りで!何処かで見た気がするなって 思ってたの!」
マリとマスターが笑う

【 皇居 会議室 】

役人が言う
「陛下の生誕20周年をお祝いするパレードまで 残す所後3日となりました そこで 当日へ向けての予定をお伝えします為 本日は 攻長閣下防長閣下の貴重なお時間を頂戴致しまして 真に恐れ入ります」
役人が頭を下げる その先に ラミリツと軍曹が居る ラミリツが面倒臭そうに椅子に身を静める 軍曹は望む姿勢で聞いている 役人が言う
「パレードはこの皇居を出まして リンド地区からレムル地区、ラムル地区を経由して 再び リンド地区へ入り 皇居前へとご到着いたします その間 攻長閣下、防長閣下のお2方には 馬車の中央に下げられます 陛下の御簾の両脇に控えて頂き パレードの間をお過ごし頂きたいと存じます」
軍曹が頷いて言う
「うむ…」
ラミリツが言う
「椅子はないの?」
軍曹が衝撃を受け隣のラミリツを見る 役人が言う
「真に申し訳ございませんが パレードの最中は お立ちになってお控え頂きたいと…」
ラミリツが不満そうに言う
「めんどくさ~」
軍曹が不満そうに見る 役人が言う
「パレードの開始は 当日の午前10時を予定 パレードの終幕 皇居前到着が 11時40分ほどと 予想されております 当日の集合は9時30分ごろ 衣装の方は 前夜にお届けに上がらせて頂きますので そちらを御着用頂くと言う事で… 説明の方は以上となります」
軍曹が衝撃を受けて言う
「そ、それだけっ!?」
ラミリツが立ち上がって言う
「終わり?じゃ、帰るから 車回して?」
役人がラミリツに深々と頭を下げて言う
「お疲れ様で…」
軍曹が慌てて言う
「ま、ちょっ… ちょっと待てっ!」
役人が疑問し ラミリツが嫌そうに視線を向けて言う
「なに?」
軍曹が言う
「陛下をお連れしてのパレードだと言うのに その陛下をお守りする 自分とこやつへの説明が その程度であるのかっ!?万が一の事態に対する 作戦はどうしたぁっ!?」
役人が呆気に取られる ラミリツが呆れて言う
「おまえ… ばかぁ?」
軍曹が衝撃を受ける ラミリツが笑い言う
「あぁ、そっか 国防ー軍だもんね?そう言う事 やりたいんだ?」
軍曹が言う
「なぁ!?」
ラミリツが可笑しそうに笑う 軍曹が呆気に取られていると 役人が微笑して言う
「防長閣下 陛下の御身は 閣下の国防軍が しっかりと死守して下さるものと 御伺い致しております」
軍曹が言う
「そ、それはっ そうなのだが…っ」
役人が言う
「更には 陛下と共に 攻長閣下防長閣下の御身も 警備に当たられます 国防軍の皆様にお任せすると言うのが 我々皇居の者たちの慣わしですので… 今回もその様に致します所存に御座います」
軍曹が驚いて言う
「自分らの警護までっ!?」
役人が微笑んで言う
「はい ですので 防長閣下も 攻長閣下と同じく どうぞ、ご安心をなさって下さい」
軍曹が困って言う
「そ、それは… 確かに 今回のパレードは 少佐の率いるレギストが警護に当たるのであるっ 従って… 陛下の護衛は間違いは無いのであるっ し、しかし… 我々とて 万が一の事態に備え 陛下をお守りする… その策を考えなくて良いのかっ!?」
ラミリツが歩き出しながら言う
「あ~ もう やだやだ 僕先行くから 車ねー?」
役人が頭を下げる 軍曹がラミリツと役人を交互に見ながら言う
「お、おいっ!?まだっ…」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルが疑問して言う
「大和剣術?」
マイクがPCを操作して言う
「ええ、私の友人が好きでしてね 良く一緒に見に行ったもんですよ …あぁ、ほら 昨日 隊員たちが練習していた 白羽止めを見たのも その友人と行った 大和剣術ででしてね?」
ハイケルが言う
「…ほう?」
マイクが言う
「それに 大和剣術は凄いですよ!?白羽止めも凄いですけどね?こう… スッと横から斬られるのを シュッ!と押さえたり それに 自分に向かって来る木片を シュパパパーッっと!」
マイクが言いながら身振り手振りで伝える ハイケルが呆気に取られている マイクが嬉しいそうに言う
「いやぁ~ あれには 感動しましたよ!まさに 神業!」
ハイケルが言う
「…興味深いな」
マイクが苦笑して言う
「まぁ、あの人たちは 普段から そう言う訓練ばかりをしてて ちょっとやそっとの訓練で 出来るようになるものでは ないでしょうが… それに、ハッキリ言って 実用的なものではなくて 見せ物としての技法ですよ 普通 意味も無く木片が飛んできたりなんて しないでしょう?あははっ」
ハイケルが少し考える マイクがPC操作に戻る ハイケルが考えた後言う
「…それは 何処へ行ったら 見られるんだ?」
マイクが疑問してハイケルを見上げる

【 国防軍レギスト駐屯地 運動場 】

ハカマ姿の侍たちが刀を振り回して言う
「せいっ!」「はっ!」「とーぅ!」
隊員たちが喜んで見ている マイクが苦笑して隣のハイケルへ言う
「あ、あの~ ハイケル少佐?まさか これは… 国防軍の訓練費で…?」
ハイケルが舞台へ目を向けたまま言う
「もちろんだが?何か問題があるのか?」
マイクが衝撃を受け 困って言う
「えっ!?いやっ!問題… あるようにも 思えるんですが…?」
ハイケルが舞台へ目を向けたまま言う
「何故だ?拳銃を使わない 戦術を学ぶための出費だ まったくもって 問題ない」
マイクが呆気に取られつつ 舞台へ目を向けながら小声で言う
「…あの技術が 実戦で役に立つって言うのか?…大体 真似なんて 出来ないだろうに?」
マイクがハイケルをチラッと見る ハイケルが真剣に舞台を見ている マイクが舞台を見ると 侍が自分に向かって来る木片を次々に切り落とす 隊員たちが声をあげ 盛大に拍手をする 侍が隊員たちへ礼をする マイクが思わず拍手している ハイケルは黙って見つめている

軍曹が運動場の入り口に来て消沈しながら運動場内の盛り上がりに顔を上げる 軍曹が中に入ると活気の中を見渡し ハイケルを見つけ近くへ来て敬礼して言う
「少佐っ!遅くなりまして 申し訳有りませんっ!」
ハイケルが舞台へ目を向けたまま言う
「問題ない」
軍曹が視線を落として言う
「は… はぁ…」
舞台でアンコールの白羽止めが行われる 隊員たちが喜んで拍手する マイクもすっかり楽しんでいる 軍曹が周囲を見渡し言う
「と、ところで これは…?」
ハイケルが視線を向けないまま言う
「大和剣術の観覧会だ」
軍曹が呆気にとられて言う
「大和剣術…?」
ハイケルが言う
「マイク少佐から与えてもらった情報だ 拳銃を扱わずに行う 実戦の予備材料にでもなればと 思ったのだが」
軍曹が舞台へ向く 舞台では侍姿の者が ゆっくり自分に向かって来る刀の刃を 片手の指二本で押さえ引き寄せて払う 隊員たちが笑っている 軍曹がハイケルを見る ハイケルは無表情ながら目を離さず見ている 軍曹が不思議そうに舞台とハイケルを見て マイクを見る マイクは楽しんでいる 軍曹が溜息を吐く

【 国防軍レギスト駐屯地 正門前 】

歌舞伎な絵が描かれたトラックが出て行く 警備兵たちが不思議そうに見送る

【 国防軍レギスト駐屯地 食堂 】

隊員たちが昼食を食べながら 大和剣術や歌舞伎の話をしている
「いや~ まさか少佐が 観覧会を開くだなんてなー?」
「面白かったなー!」
「今度は 西部劇の観覧会でも やらないかな?」
隊員たちが楽しそうにしている

【 ハイケルの執務室 】

軍曹が頭を下げて言う
「申し訳ありませんっ!少佐ぁーっ!」
ハイケルがノートPCから視線を上げて言う
「…何だ?」
軍曹が頭を下げたまま言う
「はっ!実はっ 昨日皇居にて パレードに向けての打ち合わせがあったのですが まったくもって 何の情報も得られず… 本日もっ!その 埋め合わせになるものでもないかと 色々と当たってはみたのですが…っ 結局… 何もっ」
ハイケルが間を置いて言う
「…何の情報も …とは?」
軍曹が顔を上げ 表情を困らせて言う
「はっ それが その… 役人には 当日はただ… 自分や攻長には 陛下の御簾の前に立って居ろと… それだけしか言われなかったであります!…当日に 何か万が一の事態が起きた際は どうするのか?との自分からの問いにも 全ては国防軍に任せ 自分と攻長に与えられる使命は まったくもって …無い様子で あります」
ハイケルが間を置いて言う
「…そうか 有力な情報を 感謝する 軍曹」
軍曹が悲しそうに言う
「そ、…それは その… お叱りの言葉 と言う事で…?」
ハイケルが疑問して言う
「いや?有力な情報だと 言っている …言葉の意味が分からないのか?」
軍曹が困って言う
「いえ、自分は… 陛下を お守りする兵士と言う防長でありながら 何の任務も与えられない 役立たずだと言う事で… 折角、少佐のお役に立てるかとも 思っていたのでありますが… 申し訳ありません」
ハイケルが首を傾げて言う
「…何故その様な解釈になる?」
軍曹が言う
「はぇ?」
ハイケルが立ち上がって言う
「今回のパレードにおいて 皇室側では 警戒に要する事は 国防軍に一任すると言う事なのだろう?例え 陛下の剣や盾と称される者が居ようとも その者たちを使った警備は 一切行わないと …そうと言うのなら 我々国防軍が万全の体制で 全体の警護を行えば良い …それだけだ」
ハイケルが軍曹に向かって歩いて来る 軍曹が呆気に取られる ハイケルが言う
「警戒や警備は 多数の組織で行うより 一組織で統一した方が効率は良い 皇室関係者が余計な手を掛けないでくれる事は 我々にとっても好都合だ …これで 最終的な詰めが出来る 軍曹」
軍曹が慌てて敬礼して言う
「はっ!」
ハイケルが言う
「私は情報部で 最終調整を行う 可能であれば午後の訓練の後 警戒巡回にも 彼らと共に君が向かってくれ」
軍曹が呆気に取られた状態で思い出す

【 回想 】

マスターが軽く笑って言う
『まぁ、そう言う事だ ハイケルは別に そのマイク少佐の事を 君以上に有能だと 思っている訳ではないと思うよ …むしろ、そんなお世辞や 社交辞令を用いなくても 部隊を任せておける 君の事は とても高く評価していると思うね』

【 回想終了 】

軍曹が慌てて言う
「は、はっ!了解いたしましたっ!少佐ぁー!」
ハイケルが微笑して言う
「任せたぞ」
軍曹がハイケルへ振り返り敬礼して叫ぶ
「はーっ!少佐ぁー!少佐が離れられている間の レギスト機動部隊の事は 自分にご一任下さいっ!少佐ぁー!」
ハイケルが軽く頷いて部屋を出て行く 軍曹が間を置いて喜びを噛み締める

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】

軍曹が叫ぶ
「ぬおぉおおーーっ!まだまだぁーーっ!」
軍曹が90キロ越えの荷物を背負って走り抜ける 隊員たちがへろへろになりながら追いかけている 軍曹が振り返って叫ぶ
「どうしたぁああ!お前たちっ!荷物も背負わぬ状態で 自分に遅れを取るとはっ!情けないーっ!お前たちはそれでも 少佐の率いるーっ!」
隊員たちが言う
「む…無茶苦茶だぁ~」
隊員たちが倒れる 軍曹が衝撃を受け 怒って叫ぶ
「こらぁーーっ!何を休んでいるのかぁーっ!まだまだぁーっ!訓練所周回300週には 全く足りておらんぞぉーー!?自分に続けーっ!」
最後まで走っていた隊員が倒れる

【 マスターの店 】

マスターがコップを磨いている 店の来客鈴が鳴る マスターが顔を向け言う
「いらっしゃいま…」
マスターの目に マーガレットの花束が見える マリが顔を覗かせ 微笑して言う
「来ちゃった」
マスターが微笑して言う
「ようこそ いらっしゃいませ!さぁ どうぞ こちらのお席へ!」
マスターが席を勧める マリが照れたように笑って言う
「ふふっ ありがとっ」
マリがマスターの勧めるカウンター席に座る

マリがアイスコーヒーをストローで飲んで言う
「おいしい!」
マスターが微笑んで言う
「今日は少し暑いからね 外を歩いてきたなら 丁度良いでしょ?」
マリが微笑んで言う
「うんっ とっても!」
マリがストローを吸う マスターが微笑して クッキーを出して言う
「良かったら 食べて?この前は仕込みで焦がしちゃって 出せなかったんだ」
マリが疑問して言う
「え?焦がしちゃって?それじゃ クッキーも お店で焼いているの?」
マスターが微笑して言う
「うん、やっぱり 出すコーヒーによって 合う味も変わるからね コーヒーに合う物をって 探しているうちに… 気付いたら自分で」
マリが感心して言う
「わぁ~ すごいんだ ふふっ 喫茶店のマスターさんって コーヒーだけじゃなくて クッキーまで焼けちゃうのね?」
マスターが苦笑して言う
「あ~でも、軽食の方は 若干苦手なんだ この前 ハイケルにエビフライの作り方を習ったばっかりで まだまだ練習途中だもんだから メニューにはあるけど オーダーはしないで?」
マリが呆気に取られた後笑う マスターも照れる様に笑う マリが言う
「すごいねー 2人とも… マスターさん に 少佐さんか…」
マスターが少し話題を探してから言う
「あぁ、マリちゃんは?今何してるの?」
マリが一瞬驚いて言う
「…え?」
マスターがマリの荷物にある マーガレットの花束を見て言う
「あ!もしかして お花屋さんかな?この前も 花束を持っていたよね?」
マリが頬を染めて慌てて言う
「あ… これは…っ」
マスターが言う
「ああ、違った?」
マリが言う
「…私ね?今 保育園で 保育士をしているの!」
マスターが言う
「保育士… へぇ 良いね!保育園か~」
マリが微笑して言う
「ほんとはね?孤児院の保育士になろうかと思ってたんだけど… 駄目だったんだ」
マスターが言う
「え… それは…?」
マリが苦笑して言う
「孤児院の子供たちを見ているとね あんまりにも… 自分と同じだから 今、自分が子供たちの お母さん位なんだって思ったら …どうして こんなに可愛いのに… まして 自分の子を…?って思っちゃって…」
マスターが表情を落とす マリが慌てて言う
「そ、それでね!保育園に変えたの!そしたらね?」
マスターが表情を戻して言う
「うん!」
マリが微笑んで言う
「毎日 お母さんやお父さん… 時には ご両親で!ちゃんと 子供たちを迎えに来るのね?当たり前の事なんだけど それが… とっても嬉しくて… 子供たちも!保育の時間中は まったくそんな素振り見せないのに お母さんやお父さんが来ると 喜んで走って行くの!それを見るのが 私は 凄くうれしくて ホッとして… 駄目だよね?こんな理由じゃ」
マスターが顔を左右に振ってから言う
「いや、良いんじゃないかな?」
マリがマスターを見て言う
「ホントに?」
マスターが微笑して頷いて言う
「もちろん!…人それぞれ 思いも違ければ 感覚も違う それに、マリちゃんが そう思うことで 誰かが傷つく事なんて無いだろ?それ所か 沢山の子供たちを とても大切に思っているのが 俺には伝わって来た …俺はー まだ子供とか 居ないけど… マリちゃんみたいな保育士さんなら 安心して預けられるよ?」
マリが微笑して言う
「ありがとう… やっぱり 優しいね?マーガレットの王子様は」
マスターが呆気に取られて言う
「マーガレットの…?」
マリがハッとして顔を手で隠しながら言う
「あっ やだっ 私…っ またっ」
店の来客鈴が鳴る マスターがはっと顔を向けて言う
「いらっしゃいませ どうぞ お好きなお席へ」
マスターが客の下へ行く マリがほてった顔を冷やしながら ストローを吸う

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルが疑問して言う
「マーガレット中佐?」
マイクがPCを操作しながら言う
「そうなんですよ!昨日徹夜をしてて うっかり棚をひっくり返しちゃって… そしたら マーガレット中佐の 伝説のデータファイルが 偶然!これって運命だと思いませんか!?ハイケル少佐!?」
ハイケルが黙る マイクがハッとして苦笑して言う
「あ… あぁっと そのっ …すみませんっ つい 慣れ慣れしい 言い方をしてしまって…」
ハイケルが気付き言う
「いや、問題ない それより その マーガレット中佐 と言うのは 誰だ?」
マイクが呆気に取られて言う
「え?」
ハイケルが言う
「…国防軍の歴代中佐軍階の者に その様な名前の者は」
マイクが驚いて言う
「えぇ!?だ、だって 先日までは!?あ、ほら この コーヒーメイカーの!ハイケル少佐の 幼馴染だったと!以前!」
マイクがコーヒーを見せる ハイケルが言う
「…あぁ あいつか …何故あいつが マーガレット中佐なんだ?」
マイクが言う
「えぇえ!?…あ!もしかしてっ!」
ハイケルが疑問する マイクがPCを操作してから言う
「はっは~ん さては 情報捜索時の 偽名だったって事かぁ」
ハイケルがコーヒーを飲みながら気付いて言う
「偽名か… なるほど それなら あいつらしい名だ」

【 マスターの店 】

マスターがお客にコーヒーを渡して言う
「どうぞ ごゆっくり」
お客が微笑する マスターがカウンターに戻り マリへ言う
「ごめんね」
マリが微笑して顔を左右に振ってから言う
「ううんっ 気にしないで?」
マスターが苦笑して言う
「それにしても 懐かしいなぁ マーガレットの花束か…」
マリがマーガレットの花束を手に取り 微笑して言う
「私、とっても嬉しかったの 孤児院に来たばかりで… 何もかも分からなくて不安だった時」
マスターが苦笑して言う
「はははっ… 大変だったぜ?あんまり話をしない子だって 噂だったマリちゃんの好きな花を 孤児院の女子に 聞き出してもらうの」
マリが微笑む マスターが微笑して言う
「それで、副院長先生にお願いして 花壇からマーガレットの花を 摘ませてもらってさ?…俺、めちゃくちゃ勇気出して マリちゃんに渡したんだ」
マリが嬉しそうに微笑んで言う
「うんっ そのお陰でね?私 孤児院に来て 良かったって… 私の事受け入れて もらえたんだって思ったの だから… あの日から 私にとっての貴方は マーガレットの王子様!」
マリがマーガレットの花束を見せて笑う マスターが笑って言う
「なるほど そう言う事か… 知らなかったなぁ~ マリちゃん その割りには 全然声掛けてくれないんだから 俺すっかり振られたんだと思ってさ?かなり落ち込んでたんだぜ?」
マリが頬を染めて言う
「だって…」
マスターとマリが軽く笑う 来客鈴がなる マスターが顔を向けて言う
「あ、いらっしゃいませ どうぞ奥へ」
マリが微笑して言う
「行って?」
マスターが微笑して言う
「ごめんね ゆっくりして行って」
マリが頷いて言う
「うん!」



ハイケルがコーヒーを口から放して言う
「…マリ?」
マスターが片付けをしながら言う
「そうそう マリちゃん 孤児院に居ただろ?可愛いくて可憐な感じでさ… 何となく 守ってあげたくなるような…」
ハイケルが首を傾げる マスターが言う
「俺の憧れの… マーガレットのお姫様」
ハイケルが気付いて言う
「…ああ マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスの事か」
マスターが衝撃を受け 苦笑して言う
「そうそう… あ、何だって?悪いっ!もう一回!」
ハイケルが言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスだ」
マスターがメモを取りながら言う
「早いって もっと ゆっくり!」
ハイケルがムッとして言う
「マリーニ・アントワネット… そもそも 何故好きになった相手の名を覚えていない?」
マスターが言う
「マリちゃんが孤児院に来た時は まだ 俺だって5歳や6歳の頃で そんなに長くて難しい名前は覚えられなかったんだ …それに 院長先生が 長いからマリちゃんって呼びましょうって言って ずっと皆でマリちゃんって呼んでただろ?その上、15、6の頃になって 改めて訊くだなんて 出来なかったんだよ」
ハイケルが視線を逸らす マスターが苦笑して言う
「それに、あの頃は お前にそんな能力があるなんて 知らなかったしな?」
ハイケルが間を置いて言う
「…知っていても 俺にさえ訊けなかったのだろう?」
マスターが言う
「お前の場合は 人を寄せ付けないオーラが強すぎるの!…マリちゃんだって ハイケル君は怖かった~って 言ってたぜ?」
ハイケルが沈黙する マスターが言う
「で?アントワネットの次からは?」
ハイケルが言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス」
マスターが言う
「だから 早いってっ!ライミア・アーミレテス?」
ハイケルが言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス」
マスターがメモを書き直している

【 皇居 】

軍曹が疑問して言う
「これは…?」
役人が言う
「盾です」
軍曹が衝撃を受けて言う
「そんな事はっ 見れば分かるのだっ!自分が言っているのはっ その盾が何故 鉄で出来ておらんのか!?と そちらを訊いているのだっ!こんな板では 陛下をお守りする事は 出来ないのであるっ!」
役人が苦笑して言う
「は?…はぁ?」
ラミリツが溜息を吐いて言う
「ま~だ言ってる 何とかは死ぬまで治らない とか言うけど… ホントだったんだぁ?」
軍曹がラミリツに気付き 近くへ着て言う
「それはどう言う事であるかっ!?」
ラミリツが呆れて言う
「あんたの事だよ?…あのさぁ?いい加減 僕やあんたが 陛下をお守りする必要なんて 無いって事 気付かない訳?」
役人がラミリツに剣を渡しながら言う
「攻長閣下には こちらを…」
ラミリツが受け取りながら言う
「はいはい… ほら、見ろよ?これだって…」
ラミリツが剣を鞘から抜く 剣は刃が無い 軍曹が衝撃を受け叫ぶ
「なぁあーっ!?」
ラミリツが言う
「はぁ~ 分かったぁ?この剣も あんたの盾も 作り物 僕らだって ただの お飾りなんだよ?」
軍曹が気付き視線を落とす 間を置いて慌てて言う
「…む?いや、待てっ!?では 前攻長であった あのユラ長官はどうかっ!?あの剣は 真 上等なる剣であった!無論 刃も存在した!その鋭さは この身を持って 味わったのであるっ!」
ラミリツがムッとして振り向いて言う
「じゃぁ あんたはどうなの?」
軍曹が驚いて言う
「じ、自分が?」
ラミリツが言う
「あんたは国防軍の 総司令官じゃないだろう?僕だって 政府の長官じゃないっ」
軍曹が呆気に取られた状態から慌てて言う
「自分はっ!確かにっ 国防軍総司令官ではないがっ!その位にはっ!自分の兄が就いているのであるっ!」
ラミリツが言う
「だから、お飾りだって 言ってるんだよ!ユラ長官や 前防長は 実務的な事を兄弟に任せていた事はあったけど 自分たちだって… ちゃんと 組織を把握してやってたんだっ!それなのに…」
軍曹が気付いて言う
「ラミリツ攻長…」
ラミリツがムッとして言う
「馴れ馴れしく呼ばないでよ 防長っ」
ラミリツがぷいっとそっぽを向いて去って行く

【 マスターの店 】

マスターが翌日の仕込をしながら嬉しそうに言う
「…でな?訊いて驚けー?ハイケル!マリちゃんの勤めている保育園は レムル地区にあって しかも!丁度パレードが行われる アイムストリート沿いなんだってさ!だから当日は その区域を担当するレギストの!もしかして お前にも会うんじゃないかってな!?」
ハイケルは頬杖を突いて転寝をしている マスターが気付かず言う
「もちろん、お前の方は 警備に当たっている訳だから そんな事言ってる場合じゃないだろうけど… けど、もしかしたら 軽い挨拶位は出来るんじゃないかー?って話したら マリちゃん… 凄く嬉しそうだった …だからさ?ハイケル もし お前 当日マリちゃんを見かけたら 何とか、軽い会釈くらい… ん?」
マスターが顔を向け ハイケルが寝ている事に気付くと 苦笑して言う
「これだー …おいっ ハーイケル?起きろよ?」
マスターがテーブルを指先で軽く小突く ハイケルが反応してゆっくり目を覚ます マスターが苦笑して言う
「お前、いっつも 俺がこーいう話してると 居眠りするよなぁ?」
ハイケルが眠気覚ましに置きっ放しの冷えたコーヒーを飲んで言う
「…興味が無いんだ」
マスターが苦笑して言う
「相変わらず 話し甲斐のねーやつー」
ハイケルが立ち上がりながら言う
「大体、今でも気になるのなら さっさと本人へ そう言えば良いだろう?」
マスターが衝撃を受け 僅かに頬を染めて言う
「あ、あのなぁ?ハイケル 大人の恋愛は そんな簡単なもんじゃねーんだよ …マリちゃんが独身なのか それさえも分からないんだぜ?」
ハイケルが言う
「ならば 訊けば良いだろう?2日も話しているなら 何故訊き忘れる?」
マスターが困り怒って言う
「訊き忘れてるんじゃないのっ!オマケに…」
ハイケルが歩きながら言う
「悪いが 帰るぞ 明日はパレード本番 その前に 早朝ミーティングがあるんだ」
マスターが苦笑して言う
「はいはい、お疲れさん 俺は TVで見させてもらうぜ …レムル地区の保育園で マリちゃんに会ったら よろしくな?」
ハイケルが疑問してから僅かに表情を顰めて言う
「…警備中に 挨拶など出来る訳が無いだろう?そんな事より さっさと 告白でもなんでもするんだな また マーガレットの花束でも用意すれば良いだろう?」
マスターが一瞬呆気に取られた後苦笑する ハイケルの出て行った店のドアが閉まる

【 国防軍レギスト駐屯地 】

ハイケルが隊員たちの前に居る ハイケルが全体を見渡した後言う
「これより 女帝陛下のパレードが開催される現地へと向かう 我々は受け持ちのメイス地区西部へ直行し 到着次第 各自担当する区域へ移動 尚、今回使用する 我々レギストの無線の周波数は36 通常時はこの36へ設定し 逐一警備連絡を行う」
隊員たちが無線の設定を行う ハイケルが言う
「担当区域のパレードが終了次第 各班 皇居前 演説会場へ集合 混雑回避の為 移動ルートは予定通り3ルートを使用 移動時のトラブル等は 直ちに…」
ハイケルの話が終わり 隊員たちが敬礼する 正門前からレギストの車両が発進する 警備兵たちが敬礼している

【 皇居 】

ラミリツがあくびをしながらやって来る
「ふあ~ぁ… めんどくさぁ~」
シェイムがやって来て言う
「エーメレス」
ラミリツがビクッとして振り向いてから言う
「…兄上」
シェイムが近くに来て止まる ラミリツが言う
「来てた… いや いらしていたのですか?」
ラミリツが周囲の人々の様子を気に掛ける シェイムが言う
「もちろんだ 今日は陛下の生誕20周年を祝う 国家的パレード そうとなれば 政府の長官として それに出席するのは当然の事 …それより どうなっている?」
ラミリツが疑問して言う
「え…?」
ラミリツが言う
「ハブロス家の 防長閣下とは 上手くやれているのか?」
ラミリツが不満そうに言う
「…あんな馬鹿と 上手くなんて …出来る訳が無い」
シェイムがムッとしてラミリツを平手打ちにする ラミリツが驚いて打たれた頬に触れて言う
「っ!?」
シェイムが表情を怒らせて静かに怒って言う
「ハブロス家とは上手くやれと… 父上がそう仰っただろうっ!?忘れたかっ」
ラミリツがムッとして言う
「兄上こそっ あんな馬鹿と 上手くなんて出来っこ無いって事…っ!」
シェイムが再びラミリツを叩く ラミリツが涙を堪える シェイムが言う
「防長閣下は とても人柄が良いと聞いている お前が下手に出さえすれば あちらは受け入れて下さるだろう …相手は 我々メイリス家を遥かに越える ハブロス家の者だと言う事を 忘れるなっ」
シェイムが立ち去る ラミリツが悔しそうに手を握り締める

待機室

軍曹が驚いて言う
「なにぃっ!?武器を回収するだとっ!?」
役人が苦笑して言う
「はい…」
軍曹が怒って言う
「何を言うかっ!?あんな板だけの盾しか無いというのにっ 武器を回収されては いざと言う時はどうするのだっ!?」
役人が言う
「ですので、防長閣下 どうか 警護の方は… それに、パレードは観覧者だけでなく TV中継も行われます それらの映像などに 防長閣下が武器を所持している事が映ってしまっては 困るのです ですので…」
軍曹が唸ってから言う
「う~む… 分かったっ そこまで言うのなら しかたもあるまいっ」
軍曹が拳銃のフォルダーを役人へ渡す 役人がうやうやしく受け取る ドアがノックされる音がする 軍曹が振り返ると 解放されたドアをノックしたアースが苦笑して言う
「防長閣下 お疲れ様で御座います」
軍曹が苦笑して言う
「兄貴…」
アースが近くへ来る 軍曹が言う
「兄貴 そう言うのは止めてくれと 俺は言ったのだ」
アースが苦笑して言う
「そうは申されましても ここには防長閣下と私と… その外の者も 居りますので」
軍曹が気付き周囲を見渡してから言う
「役人の者たち すまんが 自分と総司令官殿の2人きりに してもらえぬか!」
役人たちが頭を下げてから部屋を出て行く ドアが閉められると アースが苦笑して言う
「ふ…っ 防長閣下暮らしには 慣れてきたのか?」
軍曹が言う
「慣れるも何も 屋敷に居る時と変わらん」
アースが言う
「そうか …言われてみればそうかもな?」
軍曹が言う
「それより 何か俺に用があって来たのではないのか?もうすぐパレードが開始される 兄貴も観覧するのだろう?」
アースが言う
「ああ、もちろん」
軍曹が微笑して言う
「今回は 少佐の率いるレギストが パレードの警護についているのだ!警備体制は万全である 兄貴も安心してくれ!」
アースが苦笑して言う
「ハイケル少佐か… 相変わらず あの少佐の下で 軍曹としてやっているそうだな?」
軍曹が意気揚々と言う
「もちろんなのだっ!少佐が居られる限り 俺は少佐と共に レギストを率いるのであるっ!」
アースが軽く息を吐いて言う
「お前の人を見る目が 大したものだったと… あの事件で分かった …お陰で 私が国防軍の総司令官に なられた訳だしな?そう言った意味に置いては 彼に感謝をしている」
軍曹が疑問して言う
「それは どう言う意味なのか?兄貴?」
アースが言う
「アーヴァイン お前は確かに ハイケル少佐の率いる レギスト機動部隊においての軍曹ではあるが …お前は ハブロス家の人間だ それを忘れるな」
軍曹が言う
「俺はそんな事っ!」
アースが言う
「そんな事 ではない アーヴァイン!ハイケル少佐は 最下層の人間だ 本来なら お前の下に 付く者!」
軍曹が怒って言う
「それこそっ!そんな事なのだっ!兄貴っ!いくら兄貴でも 少佐を悪く言う事は 俺が許さんっ!」
軍曹がアースへ強い意志を向ける アースが一瞬驚いた後視線を逸らして言う
「…分かった ハイケル少佐に付いては もう言わない」
軍曹が呆気にとられて疑問する アースが気を取り直して言う
「では お前の相方である あの攻長閣下はどうだ?」
軍曹が疑問して言う
「あの攻長… ああ、ラミリツ攻長の事か」
アースが言う
「彼はメイリス家の者だ」
軍曹が不満そうに言う
「だから、兄貴 俺はそう言う事は」
アースが言う
「以前の攻長は ライデリア家の者だった 我々ハブロス家と1、2を争う家柄だ それが いきなり3階級は下るメイリス家の者が攻長となった …私の方でも調べたよ」
軍曹が疑問する アースが言う
「アーヴァイン、お前は父上から アールスローン戦記の如く  ペジテの姫へ 神より与えられた 守りの兵士だと 言われて居ただろう?従って 陛下の盾となるのだ と」
軍曹が表情を落として言う
「あぁ… けど それは… 俺が馬鹿だったと言う事が 分かった」
アースが言う
「いや、それがどうやら ただの子供だましでは ないのかもしれない 実際メイリス家の彼が 陛下の剣…  ペジテの姫へ 悪魔より与えられた 攻撃の兵士であると 認められたのも アールスローン戦記の記述が理由であるのだと…」
軍曹が驚いて言う
「え?」
ドアがノックされ 役人が言う
「防長閣下 そろそろお時間になります どうか御仕度を」
アースが言う
「まだ詳しい事は分かっていないが メイリス家… いや、その長男が長官となった 政府が裏で動いていると言う情報もある アーヴァイン お前も十分に気を付けろ」
軍曹が表情を険しくして言う
「わ、分かった …あ、兄貴もっ!兄貴も 十分に気を付けてくれなのだっ」
アースが立ち去ろうとしていた足を止め 振り返り微笑して言う
「ああ そうする 有難う アーヴィン」
軍曹が微笑して頷く

【 皇居 正門前 】

軍曹がやって来て馬車を見て言う
「おお… 3馬の馬車か 初めて見るが 中々の物だ」
役人が言う
「防長閣下は 御簾の左側へお願いします」
軍曹が気付いて言う
「…ん?陛下は もう 来座されているのか?」
役人が軍曹を見てから微笑して頭を下げる 軍曹が疑問しつつ御簾を見てから馬車に上がる ラミリツがやって来る 役人が軍曹と同じ様に馬車を示す

軍曹が御簾の前に来て 御簾を見る 御簾には人影が薄っすら見える 軍曹がそれに気付き頭を下げて言う
「はっ!?陛下!自分が陛下より遅れを取るとはっ!真に申し訳ありませんっ!」
御簾の奥に反応は無い 軍曹が疑問する ラミリツが軍曹の後ろを通りながら言う
「…やっぱ 馬鹿ジャン」
軍曹が疑問して ラミリツと御簾を交互に見る ラミリツと軍曹が持ち場に立つと 役人が剣と盾を持って来て2人に手渡す 2人が剣と盾を自分の前に地へ付けて構える 役人が遠くで言う
「それでは 門をお開け致します どうか 宜しくお願い致します」
門がゆっくり開かれる 軍曹が一度視線を落として思う
(俺は… 階級だとか何だとか… 人を勝手に格付けする物は大嫌いだっ …しかし、兄貴も父上も ハブロス家の為にと 力を尽くしている… そして、俺は… 俺も同じハブロス家の者 品や格など気にしたくはないが 兄貴たちが守ろうとしているのなら 俺は…っ)
門が開かれ 大勢の人々が周囲にひしめき合っている 軍曹が意志を持って前を見据える 馬車が動き出す

【 マスターの店 】

マスターが店内で1人 TVの前の棚へ背を付けて見ながら あくびをして言う
「ふあ~… やっぱこんな日は お客も何も来ないよなぁ 皆 現地へ行ったり 家でTVで見てるんだろうし …店 閉めるかなぁ?」
店の来客鈴が鳴る マスターが一瞬驚き 慌てて振り返って言う
「おっと いらっしゃいま…」
マスターが驚き呆気に取られる マリが微笑して言う
「また… 来ちゃった」
マリが周囲を見てから言う
「お休み… だった?」
マスターが微笑して顔を左右に振って言う
「いやぁ!このまま誰も来なかったら 閉めちゃおうかと思ってたんだけど… あれ?今日は保育園は?」
マリが言う
「パレードで混雑するからって 臨時休園になっちゃって… 家で1人でパレードを見ようかと思ってたんだけど… なんとなく」
マスターが微笑して言う
「それなら!一緒にここで どう?」
マスターがTVを示す マリが微笑して言う
「良いかな?」
マスターが笑んで言う
「もちろん!さぁ、特等席でどうぞ?お姫様!」
マスターがTVの前のカウンター席を示す マリが微笑して言う
「ありがとっ 王子様!」
2人が笑い マリが勧められた席に座る

【 メイス地区 】

ハイケルのイヤホンに無線が入る
『パレードの開始を確認 陛下を乗せた馬車は 予定通り10時に皇居を出立 馬車には陛下のほか防長閣下、攻長閣下の2名が同乗 時速およそ6キロ パレード予定コースを順調に移動中』
『こちらレギスト機動部隊A班 担当地区 異常なし』 『同じくB班 異常なし』 『同じくC班 異常なし』
ハイケルが言う
「了解 各班 引き続き警戒に当たれ」
ハイケルが周囲を見渡す ハイケルの携帯が着信する ハイケルが携帯に出て言う
「こちら国防軍17部隊 ハイケル少佐」
携帯からマーレーの声が届く
『こちら国防軍13部隊 マーレー少佐 ハイケル少佐 そちらの状況は?』
ハイケルが言う
「我々17部隊の担当区域に異常は無い 引き続き警戒を行う」
マーレーが言う
『了解 パレードは間もなく 我々13隊担当区域から14部隊担当区域へ移動する 14部隊との協力、連絡の強化を願いたい』
ハイケルが言う
「了解 こちら17部隊から 14部隊へ状況を確認する」
マーレーが言う
『了解 よろしく頼む』

【 マスターの店 】

マスターが棚に背を預けつつ コーヒーを飲んでTVを見ながら言う
「へぇ~ 防長閣下… 流石はハブロス家の人間だ こんな時は しっかり 上流階級な顔をしちゃって…」
マリがコーヒーを飲みつつ気付いて言う
「あら?この人…」
マスターがマリを見て微笑して言う
「お?気が付いた?」
マリが不思議そうに言う
「あ、やっぱり そうだよね?『少佐ぁー』の隊員さん… だよね?」
マリが敬礼のしぐさをする マスターが軽く笑って言う
「そうそう 『少佐ぁー』の隊員さん」
マリが不思議そうに言う
「うん?でも、どうしてかな?…あそこに居るのは 女帝陛下の特別な兵士様 なんだよね?それなのに… ハイケル君の 隊員さんでもあるの?」
マスターが軽く笑って言う
「うん、ここだけの話 実はそうなんだ 女帝陛下の盾である あの防長閣下は とても素晴らしいお方で 御自分が高位富裕層の方であっても それを気にする事無く 普段は下級軍階に身を置いて ハイケルの部下をやっているんだよ」
マリが感心して言う
「へぇ~…」
マスターが微笑して言う
「凄いよなぁ?俺がもし 彼の立場だったら 同じ事が出来るのか… 正直 分からないね」
マリが言う
「そうだよね?だって レギストに関わらず 軍人さんは 危険な任務にも携わるでしょ?怪我をする事や… 命の危険だってあるのに」
マスターが頷いて言う
「うん、本当に… 俺は昔 ハイケルと いくつかの任務に携わって …俺はまぁ 情報部だったから 直接身の危険は無かった訳だけど そこへ向かう あいつの為の作戦工程を作るときには やっぱりとても怖かったよ」
マリがマスターを見て 頷いて言う
「そうだよね… 怖いよね…?」
マスターが苦笑して言う
「でもさ、作戦を作る俺が それほど怖がってるって言うのに 当のハイケルの方は まったく怖がる様子はなかったけどね?」
マリが苦笑して言う
「そうなんだ… やっぱり 凄いんだね?ハイケル君」
マスターが苦笑して言う
「ああ、ホントに…」

【 メイス地区 】

ハイケルが言う
「パレードの先頭を確認 レギスト機動部隊 警備体勢を最大値へ拡大しろ」
ハイケルのイヤホンにマイクの声が届く
『了解っ!』
ハイケルの居る場所の近く 建物の上階でマイクがPCを操作して言う
「レギスト機動部隊 警備体制を最大値へ拡大!」
画面上3つの拠点が点滅している スピーカーから声が届く
『レギスト機動部隊A班 了解』 『同じくB班 了解』 『同じくC班 了解!』
マイクが頷き窓の外を見る ハイケルがイヤホンを押さえていた状態から 手を離しパレードへ顔を向ける 3馬の馬車がやって来て ハイケルが見上げた先 軍曹が真っ直ぐ前を見据えている ハイケルが僅かに微笑し周囲を確認して移動する

【 マスターの店 】

マスターが電話に出ていて言う
「…ええ、こちらは営業しておりますよ?…はい…そうですね 多少影響は有るかもしれませんが …はい …はい、それでは お待ちしております」
マスターが電話を終え マリの近くに戻って来る マリが微笑して言う
「ご予約のお電話?」
マスターが苦笑して言う
「うん、普段はあんまり無いんだけど 今日は ほら?このパレードがあるから 営業しているかの確認だったみたい パレードが終わった後 一気に混むかもしれないから 一応 予約しておきたいって」
マリが微笑んで言う
「パレードを見て 疲れた体を ここのコーヒーで ホッとさせたいんだね?」
マスターが微笑して言う
「そうかもね 今日はそれほど暑くは無いけど あの人だかりの中に居たら 暑くもあるだろうし …アイスコーヒーの御注文が 多いかな?」
マリが微笑した後TVを見て気付いて言う
「あ、この後ろの建物 私の勤めてる保育園なの!」
マスターがTVを見て言う
「ああ ここ?本当に 通りに面しているんだね?」
マリが微笑して言う
「そうでしょ?だから パレードの観覧には丁度良いと思ってたのに… 残念!」
マリが軽く笑う マスターが笑って言う
「そうだね 良く見えただろうに」
マリが言う
「でも… 休園のお陰で ここで 王子様と一緒に見られたから… やっぱり これで 良かったかも?」
マスターが微笑して言う
「うんっ 俺はラッキーだったよ!」
マリが笑う マスターも笑う

【 皇居前 】

ハイケルがイヤホンを押さえて言う
「こちらハイケル少佐 皇居前予定地点に到着 各班の状況は?」
イヤホンからマイクの声が聞える
『こちらマイク少佐!各班の状況は A班とB班は予定通り C班に遅れが出ていると!』
ハイケルが少し考えてから言う
「了解 A班B班へ連絡を C班の警備範囲へ 両班の予備メンバーを送れ」
イヤホンからマイクの声が聞える
『しかし、ハイケル少佐 C班は遅れであって 陛下の演説前の到達は可能であると』
ハイケルが言う
「ルートは何処も 予想混雑具合の最上位と推測されている 先の連絡で間に合うと言っていても 不足の事態に備える A班B班の分配を指示しろ C班は到着と共に予備メンバーをA班B班の不足へ振り分け その他の移動は行わず 警護体勢を維持させろ」
イヤホンからマイクの声が聞える
『…了解!A班B班の分配 共に 合流時のC班の分配を指示します』
ハイケルがイヤホンから手を離し周囲を見渡す 3馬の馬車が定位置に止まり 馬車の周りに国防軍13、14部隊が集結する ハイケルが周囲を見る 観覧者の周囲一定位置にレギスト隊員たちが就いている ハイケルのイヤホンに無線が入る
『レギスト機動部隊A班予備メンバー C班西側配備に到着!』 『同じくB班予備メンバー C班東側配備に到着!』 『レギストC班!間もなく皇居北門に到着!A班B班の予備位置へ急ぎます!』
ハイケルが視線を向けた先 3馬の馬車が固定され 報道陣が集まる ハイケルがイヤホンに手を当てて言う
「間もなく陛下の御言葉が始まる 全員 最大警戒にて備えろ」

【 マスターの店 】

マスターが気付いて言う
「お!そろそろ陛下の御言葉かな?」
マリが言う
「そうみたいね?私、陛下のお声を聞くの 初めて!」
マスターが言う
「俺もだよ きっとそれもあって 今回のパレードは これだけ盛大なんだろうね 国防軍も普段より3倍の警戒に当たっているし」
マリが言う
「へぇ~ …その部隊に ハイケル君の部隊が入るのって やっぱり凄い事?実力が認められて!とか?」
マスターが苦笑して言う
「いや~ 残念ながら?今回は皇居に近い区域の部隊が 収集されたみたいだよ」
マリが苦笑して言う
「あはっ そうなんだ?」
マスターが言う
「うん でもまぁ もし 実力順だったとしても レギストが選ばれる可能性は 十分にあると思うけどね?なにしろ …この俺が統括して居た部隊だから!…な~んちゃって?」
マリが一瞬呆気に取られた後軽く笑い出す マスターが笑い 間を置いて言う
「…っはは あ、陛下の御言葉が始まりそうだ」
TVからリポーターの声が届く
『…間もなく 陛下から 国民へ向けての 初めてのお言葉が…』
マリがTVモニターを見ながらはっと気付いて言う
「あっ ねぇ!?そこに居るの ハイケル君じゃない!?」
マスターが一瞬驚き 面白そうにモニターに近付いて言う
「えっ?どこどこ?」
マリが指差して言う
「ほらっ そこ!馬車から左上の!」
マスターが気付き腕組みをしながら言う
「はっは~ん この位置と言う事は ハイケルやレギストは 観覧者の警備って事だな?」
マリが驚いて言う
「え?…そんな事 分かっちゃうの?」
TVからリポーターの声が届く
『この為 外国からも多くの…』
マスターが言う
「ああ、この位置からだと 観客者たちが一望出来て それに、ハイケルからは見えない位置に居る部下たちの事も その対角線上に居る部下たちの目を使って 確認する事が出来るんだ …ついでに この位置なら陛下に万が一の事があった時も ハイケルはすぐに向かえるからね?…ピースグリット陣形 …俺が以前作った陣形だ …これを今も使ってくれるとは 嬉しいねぇ」
マスターがTVモニター内を指で示しながら言い終える マリが呆気にとられて言う
「…やっぱり 凄いんだ」
マスターがマリの声に気付かず言う
「おっ!始まるぞ!?」
TVモニターが御簾を中心に映す にぎやかだった周囲が一瞬にして静まる マスターとマリが見つめる

【 皇居前 】

しんとした周囲 ハイケルが周囲を見渡した後 御簾を見る 警備をしている者 その他全ての視線が御簾へ向く 軍曹が周囲の静けさに視線を細め観覧者席を見る と、その瞬間 観覧者席で1人の人物が銃口を向ける 軍曹がはっと気付き 瞬時に御簾の前に盾を構えて防御体制をとる 軍曹以外の全ての人が疑問した瞬間 一発の銃声 軍曹の盾は役に立たず 軍曹が顔を顰めて耐えて言う
「うっ!」
全ての人が驚く ハイケルが叫ぶ
「軍曹っ!」

【 マスターの店 】

マスターとマリが驚いて マリが怯えて言う
「キャ… キャァッ!」
マスターが思わずTVモニターに数歩詰め寄る

【 皇居前 】

ハイケルが走り出している 更に3発の銃声が鳴る 観覧者たちが悲鳴を上げる 馬車の上 ラミリツが驚き怯えて言う
「う…っ 嘘ぉ…っ!?」
軍曹が3発の銃弾を受け 片手を地に着く 襲撃者が3人 正面から馬車に乗り込んで来る ラミリツが驚き叫んで逃げる
「わ… うわぁああ~~っ!」
ラミリツが馬車の自分に近い乗り込み口を駆け下りて逃げる ランドが自分の前をすり抜けたラミリツに驚きつつ 慌てて叫ぶ
「か、閣下っ!?」
ランドが無線機に叫ぶ
「こ、攻長閣下が 御退避した!援護を!」
ランドが叫んでいる横を ハイケルが駆け上がる ランドが驚いてハイケルの向かった先を見上げる 軍曹が必死に身を支え盾を構えている 襲撃者が軍曹に剣を振り上げる 軍曹が歯を食いしばりながら見上げた矢先 ハイケルが拳銃を放つ 2発の銃弾が 2人の襲撃者を捕らえ ハイケルが軍曹の前の襲撃者へタックルする 2人が倒れる ハイケルが3人目へ拳銃を向ける 3人目がハイケルへ剣を振り下ろす 軍曹がハッとして言う
「少佐ぁーっ!」
3人目がハイケルの拳銃を剣で弾く ハイケルの拳銃が馬車の外へ落ちて行く ハイケルが瞬時にサーベルを抜き 3人目が拳銃に目を取られている隙を突いて3人目を切り捨てる 3人目が斬られた瞬間 観客席から再び3発の銃弾が放たれる ハイケルが気付き瞬時に体勢を作り 3発の銃弾をサーベルで切り払う 観客たちが驚いて目を丸くする ランドが呆気に取られて言う
「…なっ!?」
ランドや観客たちが呆気に取られている中 4人目の襲撃者がランドの前を抜け 馬車へ駆け上がる ランドがハッとして言う
「し、しまっ!」
4人目が剣を振り上げハイケルへ攻撃する ハイケルが横目にそれを見て サーベルで受け止めると サーベルが折れる ハイケルが目を見開く 4人目がニッと笑み剣を突く ハイケルが瞬時に気付き 自分に向かって来る剣の刃を 左手の指二本ではさみ 引き寄せるようにかわしつつ 右手に力を集中させ 4人目の腹を突き上げる 4人目が目を見開く ハイケルのイヤホンに無線が入る
『レギストA班!狙撃者1名を拘束!』  『同じく A班予備メンバー!狙撃者1名を拘束!』  『C班!狙撃者1名を拘束しました!』
4人目が気絶して倒れる ハイケルがイヤホンを押さえつつ言う
「了解 他の狙撃者、襲撃者が居ないか 警戒を続行しろ」
ランドが呆気に取られた状態からハッとして 無線機に言う
「じゅ、14部隊!周囲を確認!」
ランドが携帯を操作して言う
「陛下の警護は!?…マーレー少佐!警戒はどうなっているっ!?」
ハイケルが周囲を見渡してから振り返り 軍曹の前に膝を着いて言う
「軍曹 無事か?」
軍曹が苦笑してハイケルを見上げ言う
「しょ… 少佐 …お見事 で…」
ハイケルがハッとして言う
「軍曹っ!?」
軍曹が意識を失う ハイケルが咄嗟に軍曹の身を支え イヤホンを押さえて叫ぶ
「マイク少佐っ 救護班をっ!」

【 マスターの店 】

マリが驚いたまま怯えている マリの震える手に マスターの手が置かれる マリがハッとしてマスターを見上げる マスターが微笑して言う
「もう、大丈夫だよ マリちゃん」
マリがホッと息を吐いて言う
「…わ、私 …びっくりしちゃって」
マスターが苦笑して言う
「うん… 俺も びっくりした」
マリが苦笑して言う
「…ハイケル君が 悪い人たちから 陛下を守ってくれたんだよね?…凄いね?ハイケル君」
マスターが苦笑して言う
「ああ …とは言え 本当は あいつの担当じゃ なかっただろうに」
マリが疑問して言う
「…え?」
マスターがTVモニターを見ながら言う
「放って置けなかったんだろうな …アーヴィン君が居たから」
マリがTVモニターを見る TVモニターには混乱する現場が映し出されている

【 国防軍メイス駐屯地 ミーティングルーム 】

モニターにTVニュース映像が映し出されている キャスターが言う
『女帝陛下を襲った犯人らは その場にて警戒に当たっていた 国防軍に捕らえられ 現在…』
アモンが言う
「まずは諸君 陛下をお守りした事 共に陛下を狙った襲撃犯を その場で全員捕らえた事 この2点に付いては 良くやってくれた」
マーレー、ランド、ハイケルが敬礼する アモンがモニターを見る モニターにTVニュース映像が映し出されている キャスターが言う
『尚、陛下をお守りし お怪我を負われた 防長閣下は皇居内医療施設にて緊急手術を終え 現在は皇居内の施設にて ご療養しているとの事 お命に別状はなく…』
アモンが言う
「しかし 御自分で避難なさった 攻長閣下はご無事であったが 陛下をお守りした 防長閣下はこの通りだ 今回はお命に別状は無かったとは言え 一歩間違えば 取り返しの付かない事になっていただろう」
ハイケルが沈黙する アモンが言う
「ランド少佐」
ランドが敬礼して言う
「はっ!」
アモンが言う
「攻長閣下、防長閣下 両閣下の警護は 14部隊の担当であった筈 君はこの間 どうしていたのかね?」
ランドが言う
「はっ!我々14部隊は 御自分で御退避なさった 攻長閣下の警護へ向かうと共に…」
アモンが言う
「攻長閣下は 即座に 皇居内へ御退避した為 ご無事だった 万が一の事態に備え その皇居への守備へ人員を当てたのは 悪くは無い判断だ しかし、」
モニターにTVニュース映像が映し出されている 映像はハイケルが攻防を繰り広げているシーン キャスターが言う
『防長閣下と共に陛下をお守りした こちらの国防軍隊員の見事な働きに 国内共に外国からも多くの関心が寄せられ このたった40秒の攻防戦は 我がアールスローン国の国防軍としての能力を 大いに表したものとして…』
ランドが視線を落とし ハイケルを横目に見る アモンが言う
「…ハイケル少佐」
ハイケルが一瞬疑問しつつ敬礼する
「はっ」
アモンが言う
「君は… そもそも、君の部隊は 観覧者の警護に当たっていた筈だ それが どうして その隊長である君が 本来14部隊が担当するべき 陛下の馬車に上がったのか?そして、この戦い 君は もし、必要とあって14部隊に援護をするならば まずはランド少佐の」
ハイケルが不満そうに沈黙する ドアがノックされる アモンが溜息を付いて言う
「入れ」
ドアの外から声が届く
「邪魔をする」
アモンが声の主に疑問する ドアが開かれ アースが入ってくる ハイケルが一瞬驚いて思う
(軍曹…っ?)
アモンが慌てて敬礼して言う
「総司令官っ!?」
ハイケルがアモンを見て軽く肩の力を抜いて思う
(総司令官…?そうか あいつの…?)
ハイケル以外の者が敬礼している ハイケルがハッと気付き敬礼する アースが微笑して言う
「私を アーヴァインと見間違えたか?ハイケル少佐」
ハイケルが僅かに表情を変え言う
「…失礼致しました」
アースが軽く笑って言う
「いや それだけ 気に掛けて居てくれたのだろう?礼を言う …それと その弟を助けてくれた事にも」
ハイケルが一瞬驚いた後僅かに表情を和らげ敬礼して言う
「はっ …しかしながら 自分は 自分の担当区域を離れた上 本来の担当であったランド少佐の前に出てしまいました 今しがた それらの事に対し アモン大佐よりお言葉を頂いておりました」
アモンが驚き慌てる アースがアモンを見る アモンが慌てて言う
「い、いえっ 私はっ」
アースが言う
「…確かに 本来は 任務を受け持った者が その任務に対して 死力を尽くす事が一番だ」
アモンが微笑する アースがアモンを見て言う
「だが、このハイケル少佐が とても優秀な隊員である事も事実 どれ程優秀であるかは 君も 既知ではなかったか?アモン大佐」
アモンが焦る アースが微笑して言う
「私の判断であるなら 女帝陛下の警護に… もしくは 最初から攻長、防長閣下方の警護にと 彼を就けただろう 今回のような 重大な任務の時は尚更 適材適所を考える事こそ 万全の体制となる」
アモンが言葉を失い視線を落とす アースが言う
「今回彼らの総指揮は君が取っていた よって、防長閣下がお怪我をされた この責任は アモン大佐 君の責任となる 相応の覚悟はしておく事だ …そして、ハイケル少佐」
ハイケルが敬礼して言う
「はっ」
アースが微笑して言う
「君の見事な立ち回りに メディアの報道陣が賑わっている お陰で、しばらくは 就業時間に限らず君の周囲が慌しくなるだろうが 対応には十分気を付ける様に 無駄な事は言わず 且つ、邪険にする事も無いように頼みたい」
ハイケルが困惑して僅かに視線を落として言う
「は…っ」
アースが苦笑して言う
「状態が理解出来ていない様であるなら ここで少しメディアの情報を確認してから 外へ出る事だ …では 邪魔をした」
アースが立ち去る アモンが言う
「総司令官へ 敬礼っ!」
ハイケル以外が敬礼する ハイケルが気付き敬礼する

【 マスターの店 】

マスターがTVモニターを見て微笑しながら皿を拭いている TVモニターにハイケルの攻防が映し出されている マリが苦笑して言う
「まるで… 我が子の演劇会の映像を 何度も見ている お父さんみたい?」
マスターが衝撃を受け言う
「はぁっ!?」
マスターが皿を落としそうになって慌てる マリが一瞬驚き可笑しそうに笑う マスターが体勢を立て直して苦笑して言う
「マリちゃん~」
マリが笑いを収めて言う
「ふふふっ ごめんなさい だって 本当に」
マスターが苦笑して言う
「いやぁ… 以前はこんな風に あいつの状況を見ながら 仕事してたもんだから… ちょっと懐かしくてね」
マリが言う
「そうなんだ… すごいね 私、こんな事 TVや映画の中だけかと思ってた…」
マスターが言う
「あいつがやると 尚更なんだ 表情1つ変えずに 凄い事をひょいひょいとこなすから そこがまた 現実離れしてるって言うか 何って言うか… 妙に 安心出来ちまうんだよなぁ… こいつとなら 絶対に 大丈夫だって…」
マリがマスターを見る マスターが何処か懐かしそうにTVモニターを見ている マリが微笑して言う
「どうして… 戻らないの?」
マスターが呆気に取られて言う
「へ?」
マリが苦笑して言う
「なんだか 今でも一緒にやりたいって 思ってるみたいだから」
マスターが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「あ~ …ははっ そうかも …ね?」
マリがはっとして言う
「あ、でも 喫茶店のマスターさんだもんね?美味しいコーヒーを淹れて お客さんに幸せになってもらいたいんだよね?」
マスターが呆気に取られてから微笑して言う
「…うん!そうそう!そう言う事~!」
マリが笑顔で言う
「うん!」

【 皇居 静養施設 】

軍曹がTVを見ている モニターにハイケルの映像が映し出されている キャスターが言う
『こちらの隊員は 国防軍17部隊 通称レギスト機動部隊の隊長 ハイケル少佐で ハイケル少佐は これまでも 多くの任務にて 数々の功績を上げ…』
軍曹が嬉しそうに笑む 軍曹がチャンネルを変える TV映像が切り替わり 記者たちが一斉に集まりながらレポーターが言う
『たった今!ハイケル少佐がいらっしゃいました!インタビューしてみます!ハイケル少佐!ハイケル少佐!』
軍曹が驚きTVモニターに食い入る TV画像にハイケルが映る ハイケルが記者たちに困惑しつつも先へ進もうとする レポーターがマイクを向けながら言う
『ハイケル少佐!パレードでの出来事に付いて一言っ!ハイケル少佐!』
レポーターたちの執拗にハイケルが不満そうに言う
『…特に言う事は無い』
軍曹が呆気に取られた後苦笑する レポーターがハイケルを防ぐようにして言う
『ではっ!今回の国防軍の任務は 成功であったと言う事でしょうかっ!?』
ハイケルが間を置いて言う
『…被害があった以上 成功とは言えない』
軍曹がハッとしてから視線を落とす レポーターが言う
『ハイケル少佐の素晴らしい攻防劇に 国内共に国外からも絶賛の声が上がっておりますが!そちらの件に付いては如何でしょう!?』
ハイケルが溜息を吐いている様子で言う
『興味が無い …退いてくれ』
ハイケルが進むレポーターたちが追いかけて言う
『つまりそれはっ!国防軍では どちらの隊員であっても同じ事が出来ると そう言った事なのでしょうか!?それとも ハイケル少佐のレギスト機動部隊 特有の技術でしょうか!?ハイケル少佐!ハイケル少佐!』
ハイケルが警備の者にIDを見せ 門の先へ入って行く レポーターが言う
『以上、皇居前から お伝えいたしました!』
軍曹が疑問して言う
「む?皇居前…?」
TV映像がスタジオ内に戻り キャスターたちが話している 軍曹が考える 間を置いて 部屋のドアがノックされる 軍曹が顔を向けると ハイケルの声が届く
「軍曹 私だ」
軍曹が衝撃を受け 慌てて言う
「しょ、少佐ぁー!?」
ハイケルが言う
「…入っても?」
軍曹が慌てて言う
「はっ!はーっ!もちろんっ!只今ドアを!」
ハイケルがドアを開けて言う
「動くなっ!」
軍曹がベッドを出ようとした状態で止まる ハイケルが苦笑して言う
「怪我人は大人しくしていろ …ドアは開けに来なくて良い」
軍曹が呆気にとられつつ言う
「は…っりょ、了解」
ハイケルが入って来る

軍曹が言う
「あ、あの… 少佐」
ハイケルが言う
「…具合は?」
軍曹が慌てて言う
「は、はーっ!それはもちろんっ!この通…っ りっ!?」
軍曹が衝撃を受けうずくまる ハイケルが軽く息を吐いて言う
「…無理をするな」
軍曹が苦しそうに言う
「な… なんのっ これしきぃ…っ」
ハイケルが言う
「…あの盾は ただの飾りだったそうだな」
軍曹が気付き苦笑して言う
「…は、はい 自分も… まともな盾をと 言ったのではありますが …申し訳ありません 少佐」
ハイケルが言う
「君は国防軍の保護対象だった 盾に関しては 予想外ではあったが …本来保護対象は 武器防具を所持していない事が通常だ そう言った意味で 今回の事は 国防軍の失態となる」
軍曹が視線を細めて言う
「し、しかし… 保護対象では有ったとは言え 自分はレギストの隊員であり …防長は 国防軍の代表でもありますっ その自分が …被害者となり 今回の国防軍の任務が 成功とは言えない …失敗と判断されるのは やはり」
TVニュースで再び映像が流れており 先ほどの映像が流れる レポーターがハイケルを防ぐようにして言う
『ではっ!今回の国防軍の任務は 成功であったと言う事でしょうかっ!?』
映像のハイケルが間を置いて言う
『…被害があった以上 成功とは言えない』
ハイケルがTV画像を見る レポーターが言う
『ハイケル少佐の素晴らしい攻防に 国内共に国外からも絶賛の声が上がっておりますが!その件に付いては如何…』
ハイケルがTVを消し 軍曹を見る 軍曹が視線を落として居る ハイケルが言う
「今回のパレードにおける責任は 総指揮を任されていた アモン大佐の責任になる と …先ほど 総司令官が仰っていた」
軍曹が驚いてハイケルを見て言う
「兄貴…っ い、いえ 総司令官が?」
ハイケルが言う
「わざわざメイス駐屯地に顔を出し 私に… 君を助けた礼を 言いに来て下さったのだろう」
軍曹が驚く ハイケルが微笑して言う
「…それと、もしかすれば 私の独断行動を アモン大佐から庇う為に」
軍曹が呆気に取られる ハイケルが言う
「だが …軍曹」
軍曹がはっとして言う
「はっ はっ!」
ハイケルが軍曹を見て言う
「今回の総指揮を取っていたのが アモン大佐であったとしても 私は… レギストの隊長として 事前に 直属の部下であり 且つ 防長閣下でもある 君を 私自身が守りたいと… そう進言する事は可能だった 例えそれが 認められなかったとしても 進言を怠った事実は 紛う事無く私の失態だ すまなかった」
ハイケルが頭を下げる 軍曹が驚き慌てふためいて言う
「なぁあっ!?いえっ!少佐ぁっ!そんなっ!自分はっ!自分が 少佐にっ!少佐が 自分にっ!?いあっ!それは そのっ!?あ、あああっ と、とにかく!少佐っ!お顔をお上げ下さいっ 少佐ぁあーっ!」
ハイケルが顔を上げ 言う
「14部隊ではなく 我々レギストが 君の警護に付いていれば …私があの瞬間 ランド少佐の位置に居れば 少なくとも 後2発は防ぐ事が出来たっ …すまない」
ハイケルが手を握り締める 軍曹が驚いてハイケルを見上げて言う
「少佐…」
ハイケルが軽く一度息を吐き言う
「…言いたかった事は それだけだ …邪魔をした …ゆっくり休んでくれ」
ハイケルが立ち去ろうとする 軍曹が慌てて言う
「しょっ 少佐っ!少佐ぁー!」
ハイケルが立ち止まる 軍曹が慌ててあれこれ考えて はっとして言う
「えっと?あっと?…そ、そうだっ!しょ、少佐っ!そのっ!も、申し訳ありませんでしたぁっ!」
ハイケルが疑問し顔を向け 振り返って言う
「何だ?パレードの襲撃に付いてなら これ以上…」
軍曹が慌てて言う
「い、いえっ!そのっ パ、パレードの事ではあるのですがっ!そのっ レギストの担当区域での事でっ」
ハイケルが疑問する 軍曹が言う
「じ、自分はっ!その… 高い場所からでは有りましたが!少佐の!少佐のお姿を!確認致しましたのにっ その… け、敬礼をする事が 出来ませんでしたっ!た、大変 失礼をっ!」
ハイケルが呆気に取られ思い出す 間を置いてハイケルが微笑して言う
「…良いんだ 軍曹」
軍曹がハッとする ハイケルが背を向けて言う
「我々国防軍の防長閣下として とても誇らしく見えたぞ」
軍曹が驚く ハイケルが言いながら立ち去る
「いつもの君とは まるで別人だったが… 援護に行ってみたら やはり君だったな …安心した」
軍曹が呆気に取られた後喜び 衝撃を受け慌てて言う
「…えっ!?あ、そ、それは どう言う!?しょ、少佐!?少佐ぁーっ!?」
ハイケルが立ち去る 軍曹が疑問する

ハイケルが病室を出て少し歩くと アースがやって来る ハイケルが気付き道を空けて敬礼する アースが立ち止まり微笑して言う
「今度は 間違えなかった様だな?ハイケル少佐?」
ハイケルが間を置いて微笑して言う
「…本人を 確認して参りましたので」
アースが微笑して言う
「本人を確認して か… ふっ… それなら?私の方が 断然イケメンだっただろう?あっはははは…」
アースが立ち去る ハイケルが衝撃受け沈黙して見送る

軍曹が嬉しそうにしている ドアがノックされる 軍曹がはっとして言う
「しょ、少佐っ!?」
ドアが開かれ アースが入って来て言う
「うん?今度は私が ハイケル少佐に似ていると?」
軍曹が苦笑して言う
「なんだ 兄貴か… まさか?先ほどまで 少佐がお見舞いに来て下さっていたのだ それで」
アースが近くへ来て言う
「ああ、たった今 すれ違った所だ」
軍曹が言う
「おおっ」
アースが言う
「”兄君の方が 断然イケメンですね”と 言われたぞ?」
軍曹が衝撃を受けて叫ぶ
「えぇええーーっ!?」
アースが考えながら言う
「ハイケル少佐の昇給でも考えるか…?」
軍曹がショックのまま石化している アースが苦笑して言う
「と、それは冗談だが… アーヴィン うん?どうした?具合が悪いのか?アーヴィンっ!?」
軍曹が倒れる

ハイケルが皇居から出てくる レポーターたちが詰め掛ける ハイケルが相手にせず向かい ジープに乗って立ち去る

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練場 】

ハイケルが隊員たちの前に立つ 隊員たちが敬礼して言う
「おはようございますっ!少佐!」
ハイケルが僅かに疑問してから 軽く敬礼して口を開きかける 駐屯地の外金網越しに報道陣が押しかけている ハイケルが若干表情を曇らせてから言う
「…通常訓練を開始しろ」
隊員たちが敬礼して気合の入った返事をする
「はっ!了解っ!」「通常訓練の1 開始ー!」
報道陣のフラッシュが激しく焚かれる ハイケルが嫌そうな表情をしている

隊員たちが気合を入れて通常訓練1,2,3、を終了させ ハイケルの前で敬礼する ハイケルが隊員たちを見た後 外をちらりと見ると 報道陣が変わらず居る ハイケルが一度視線をそらし 間を置いて言う
「では… 実戦訓練の2を開始しろ」
ハイケルが隊員たちを見て苦笑する 隊員たちが一度周囲と顔を見合わせてから気合を入れて返事をする
「はっ!了解っ!」「実戦訓練の2 開始ー!」
ハイケルが疑問する 隊員たちが2人1組となり 攻撃側が鉄パイプを振り下ろしながら言う
「ていやぁああっ!」
防御側が気合を入れて叫ぶ
「せいやぁああっ!」
攻撃側の鉄パイプを 防御側の隊員が見切って掴む 29組が成功する ハイケルが驚く 最後の1組が失敗して 鉄パイプのキレの良い音が響く ハイケルが疑問する フラッシュが一斉に切られる

【 マスターの店 】

店のドアに準備中の札が掛けられている ドアを前に女性が胸に当てていた手を握り俯く 一瞬間を置いた後 女性が立ち去ろうと振り向いた先 マスターが買出しから戻った姿で驚いて言う
「マリちゃん…?」
マリがマスターを見て思わず言う
「あ…」
マスターが少し慌てて言う
「ああっ 折角来てくれてたのに ごめんね!材料を切らしちゃって ついでに買い物したら 少し遅くなって… えっと その~?コーヒーの準備もまだなんだけど 良ければ 中へ?」
マリが視線を落として言う
「ごめんなさい… 迷惑 だよね?」
マスターが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?いやあっ 迷惑だなんて!とんでもないっ!」
マスターがドアの鍵を開けつつふと気付いて言う
「…ん?あれ?けど、昨日は月曜日とは言え パレードがあったから …でも、今日は?保育園は?」
マリが表情を落として俯く マスターがマリを見て疑問する

店内

マスターが驚いて言う
「保育園に脅迫状っ!?」
マリが椅子に座っていて 俯いて言う
「…うん」
マスターが言う
「一体どんなっ!?」
マリが言う
「”園児たちを苦しめたくなければ 5億用意しろ さもなくば 子供たちの命は保障しない”って…」
マスターが言う
「警察にはっ!?」
マリが言う
「もちろん 言ったのだけど …他にも以前から同様の脅迫状が 多数の育児施設に送られていて それが未遂だから これも悪戯じゃないかって…」
マスターが悩みつつ言う
「他にも以前から…?でも、マリちゃんの保育園は 今回が初めてなんだよね?」
マリが表情を困らせて言う
「それが、以前にもあったらしいの… それで、その時は1週間ほど 保育園を休園にして 様子を見たらしいんだけど 何も起こらなかったから 唯の いたずらだろうって …それで 今回も同じゃないかって でも私っ!」
マリが怯える マスターが言う
「…ずっと何かを隠して 明るく振舞っていたのは …そのせいだったんだね?」
マリがはっとしてマスターを見上げる マスターが苦笑して言う
「ごめん …困っているのなら 助けてあげたいと思って 色々訊いていたつもりだったんだけど …気が付いたら 俺 マリちゃんとの再会を 素直に喜んじゃってて」
マリが顔を左右に振って言う
「ううんっ 私も!…2人で楽しく話していられる この時間が ずっと続けば良いのにって… 脅迫状なんて 夢だったら良いのにって …思ってた」
マスターが表情を落として言う
「マリちゃん…」
マリが苦笑して言う
「保育園側も パレード前の警戒とか当日だからとか 今日は パレードの片付けだとか …色々理由を付けて 休園にしていたんだけど もう 休園にする理由が無くなっちゃって 明日から 通常保育が始まるの でも、私 やっぱり心配でっ もしっ あの子達に 何か有ったらっ!?私…っ」
マスターが表情を落として黙る マリがマスターへ向いて言う
「ねぇ!ハイケル君に!レギストに依頼出来ないかなっ!?園児たちを守ってって!レギストは国防軍でしょっ!?陛下だけじゃなくて 園児たちの護衛だって 出来るよね!?」
マスターが間を置いて言う
「…残念だけど レギストへの依頼は 出来ないよ」
マリが表情を困らせて言う
「どうしてっ!?」
マスターが言う
「保育園のあるレムル地区は 国防軍14部隊の管轄だ もし、依頼をするなら その14部隊になるけど 国防軍は元々 事件が起きたその後に動くのが通常だから 今、保育園の警備に就けるのは 警察って事になる その警察が 今回の脅迫状に対して 動かないと言っているのなら …残念だけど このままの状態で」
マリが立ち上がって言う
「でもっ それで!本当に事件が起きたらっ!?子供たちが 危険に晒されるかもしれないって 分かっているのにっ!」
マスターが視線を落として言う
「…うん そうなんだけどね」
マリが脱力して椅子に座り顔を覆って泣きながら言う
「…ごめんなさい 貴方に当たっても 意味が無いのに 私…」
マスターが表情を落として言う
「うん… もし ハイケルに直接言ったとしても 残念だけど 同じ答えになるよ マリちゃん」
マリがハッとする マスターが苦笑して言う
「ハイケルに 依頼しに行こうと 思ってたんでしょ?」
マリが視線を落として言う
「…気付いてたんだ?」
マスターが苦笑して言う
「うん」
マリが言う
「…ごめんなさい」
マスターが間を置いて微笑して言う
「…いやぁっ いつでもっ!」
マリが驚いてマスターを見上げる マスターが微笑して言う
「俺はマリちゃんの王子様だから!お姫様に何か有ったら 白馬に乗って いつでも助けに行くよ!お供のハイケルと一緒にね?」
マリが呆気に取られてから軽く笑い 2人が笑う



ハイケルが怒って言う
「誰が お供だっ」
マスターが皿を拭きながら言う
「いいじゃねーか?別に お供でも?」
ハイケルが言う
「良くはない」
マスターが言う
「じゃぁ 俺がお前のお供でも良いからよ?」
ハイケルが言う
「結構だ …ようやく 俺を追いかけ回す連中から解放されたと言うのに また何かに付き纏られるのは もう沢山だ」
マスターが苦笑して言う
「総司令官が手を回してくれたんじゃないのか?お前が余りにも報道陣に無愛想だから これ以上国防軍の品位を落とさない様にって?」
ハイケルがコーヒーを片手に言う
「最初の内はまだマシだったが どんどん質問が下らない事になって行くんだぞ?あれに答える事が 高品位だと言うのか?」
ハイケルがコーヒーを飲む マスターが苦笑して言う
「恋人はいるか?位の質問に答えたって 品は落ちないだろう?」
ハイケルが言う
「それに答える事で 品位が上がる事だって無いだろう」
マスターが言う
「いやぁ?それこそ 富裕層の彼女でも居れば 流石!レギストの隊長様だ! って事になるんじゃないか?」
ハイケルが言う
「くだらん …金持ちの女が居れば 上等だと言うのか こちらが最下層の人間でも」
マスターが苦笑する ハイケルが言う
「…で?お前こそ その富裕層の女とは どうなったんだ?」
マスターが衝撃を受ける ハイケルが言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテス… 4構想の名前だ 孤児院に来たとは言え その名が示す 高位富裕層の出身 …国からの十分な補償が受けられる」
マスターが言う
「俺には高嶺の花だよ」
ハイケルが言う
「向こうが受け入れさえすれば 問題ない」
マスターが苦笑して言う
「…なら そのマリちゃんが お前を選んだら?」
ハイケルが疑問して言う
「は?…何を言っている?」
マスターが言う
「マリちゃんが俺ではなくて 本当は… お前の事が好きだったりして?そうしたらお前は…」
ハイケルが即答する
「当然、断る」
マスターが驚く ハイケルが立ち上がって言う
「興味が無い …それだけだ」
ハイケルが立ち去る 店の来客鈴が鳴り ハイケルの出て行ったドアが閉まる マスターが苦笑して言う
「…ははっ それだけ か」

【 レムル地区 保育園 】

マリが園児たちを迎え入れている 母親に挨拶を終えた園児がマリへ向かって走りながら言う
「マリせんせー!」
マリが微笑んで屈む 園児が走っている途中で転ぶ マリが驚き慌てて駆け寄る 園児が涙を堪えて言う
「うっうっうっ…」
マリが園児を撫でて言う
「あらあら~ 痛かったね?良いのよ 痛かったら 一杯泣いて」
園児がマリに抱き付いて泣く
「うえ~~んっ!」
マリが抱きしめて言う
「うんうん 痛かったね でも大丈夫 すぐ治るんだから!お水で キレイキレイしましょうね?」
園児が落ち着き マリを見て笑う マリが微笑んで園児を連れて行く 

その様子を双眼鏡で見ていた 裏組織の面々が 顔を見合わせ頷き合う

【 マスターの店 】

店の来客鈴が鳴り 客が出て行く マスターが言う
「またのお越しを」
マスターがカウンターを出ながら言う
「さて… 午後の仕込みでもしますか …今日の天気だと ブルマン辺りが良いかな~?」
マスターがドアを開け 外の天気を確かめてから 準備中の札にして 店内へ戻って来る TVの画像が切り替わり レポーターが言う
『現場から中継します!保育園に接するアイムストリートは 現在通行止めとなっており 保育園の前には報道陣と共に 沢山の警察の車両が集まっていて 事件の物々しさを…!』
マスターが反応してTVを見て 驚いて駆け寄る

【 レムル地区 保育園 】

マリが武装集団Aに言う
「お願いっ!子供たちは解放して!人質なら 私がなりますっ!」
武装集団Aが言う
「お前じゃ意味が無い この中の… こいつか」
武装集団Aが1人の園児の腕を引っ張る 園児が驚き泣き出す
「うわ~~んっ!マリせんせーっ!」
マリが叫ぶ
「やめてっ!その子に 何をする気なのっ!?」
武装集団Bが来て言う
「ああ、そいつだ このガキがバーリミア伯爵の子供で 間違いないな?マリせんせー?」
マリが一瞬反応してから 表情を強めて言う
「子供たちには関係ないわっ!乱暴しないでっ!」
マリが武装集団Aの腕に掴みかかる 武装集団Aが振り払って言う
「うるせー!邪魔をするなっ!」
マリが床に叩きつけられる 園児が驚いて言う
「マリせんせーっ」
園児の頭に銃が向けられる マリが驚いて言う
「やめてっ!」
武装集団Aが微笑して言う
「心配するな そう簡単には殺しはしねーよ」
武装集団Aが武装集団Bへ向く 武装集団Bが周囲を見てから言う
「大人が多いと面倒だ ガキたちの相手をさせるのに 1人を残して 後は解放する」
マリが言う
「それならっ!私がっ!私が残りますっ!子供たちと居させてっ!」
武装集団Aが武装集団Bへ向いて言う
「…どうする?」
武装集団Bが周囲を見渡してから言う
「いや、女は解放しよう あの爺さんが良い 他の大人どもは 全員出て行け」
マリが言う
「お願いっ」
武装集団Aが武装集団Bへ向いて言う
「…別に こいつでも良いんじゃねーか?子供たちにも 好かれてそうだしよ?」
武装集団Bが言う
「…いや、女はいざと言う時に ガキを守るものだ 邪魔になる 残すのは あの爺さん1人だ」
武装集団Bが武器を皆へ向ける 武装集団Aがマリへ向いて言う
「だってよ?残念だったな?俺としては 可愛いあんたで 良かったんだけどな?」
武装集団Bが怒りを忍ばせて言う
「おい」
武装集団Aが苦笑して言う
「おっと… そうそう、アンタに1つ頼みがある な~に簡単さ 脅迫文は覚えているだろう?そこに Toバーリミア伯爵 と付け加えて 知らせてやってくれ 園児たちはもちろん お前の子供の命を保障しない ってな?クククッ…」
マリが言う
「…最初から バーリミア伯爵を狙っていたのねっ」
武装集団Aが言う
「当然だろう?5億なんて金 一般のガキの親が用意できるか?」
武装集団Bが痺れを切らして言う
「おい さっさと行かせろ」
武装集団Aが園児の頭に突きつけた拳銃を動かして言う
「って訳で あいつ怒らせると怖ぇーから さっさと行ってくれ 可愛いせんせー?」
マリが悔しそうに一歩下がり 園長へ向いて言う
「園長先生 子供たちをお願いしますっ」
園長が頷いて言う
「もちろんだ さぁ 彼らを刺激しない為にも 後は私に任せ 行ってくれ」
マリと他の先生たちが頷き立ち去ろうとする 園児たちが先生先生と騒ぐ 武装集団Bが銃を天に向けて撃つ 銃声に皆が驚き静まる 武装集団Bが言う
「騒ぐな どうしても騒ぐガキは… 殺す」
武装集団Bが園児たちに銃を向ける 園長が子供たちを庇う様に武装集団Bの前に立つ マリが心配で堪らない表情で一度強く目を閉じる 他の先生がマリの肩に手を置いて言う
「マリ先生、子供たちは 園長先生にお任せしましょう」
マリが目を開き涙を堪えて言う
「はい…っ」
マリと先生たちが立ち去る

【 マスターの店 】

店のドアに 準備中の札が掛かっている 老紳士がそれを見て残念そうに立ち去る 店内にタイピング音が響いている マスターが真剣にPCを操作している TVでは映像が流れ レポーターが言う
『あっ!あれはっ!保育園の先生方でしょうか!?たった今 保育園の正面入り口から この保育園の先生方と思われる大人たちが…!』
マスターがタイピングを止め TVモニターを見てはっとして言う
「マリちゃんっ!」
TVモニターにマリの姿が映っている マリが周囲を見渡した後 駆け寄ってきた警察官へ何か言っている

【 国防軍レギスト駐屯地 】

辺りは暗く 警備関係者だけが居る

【 ハイケルの執務室 】

TVモニターにニュース映像が映っていて レポーターが言う
『開放された保育園の先生方からの情報によると 武装組織は 反政府組織を名乗っており 政府関係者の子供が通っている この保育園を選び襲撃したとの事です …尚 その政府関係者の子供も 現在他の園児たちと共に…』
ハイケルがTVモニターを横目に見てからノートPCへ視線を戻す

【 レムル地区 保育園 前 】

マリが保育園の壁に背を付けしゃがみこんで祈っている マスターがやって来て声を掛ける
「マリちゃんっ!」
マリがはっとして顔を上げた先 マスターが息を切らしていて言う
「ごめん 遅くなって…」
マリが堪えていた涙を溢れさせ マスターへ抱き付く マスターがマリを抱きしめる

マスターがノートPCを操作しながら言う
「反政府組織が 政府の重役である バーリミア伯爵の子供を人質に… これじゃ 国防軍は動かれないな」
マリがマスターへ向いて言う
「どうしてっ!?」
マスターが言う
「国防軍は政府の組織じゃないからね 政府内の争いごとに 政府が事件を国防軍へ委託する事は無い そして、政府の組織で部隊となると 警察の機動部隊が動く事になる」
マリが言う
「警察の機動部隊… その人たちも レギストみたいに強いの?」
マスターが考えて言う
「う~ん… そうだね 一応 それなりの訓練は受けているけど」
マリがマスターを問う様に見る マスターが言う
「警察の機動部隊は どちらかと言うと あまり攻めるタイプの部隊ではないから 相手の出方を待つ 長期戦になる事が多いんだ でも、今回は 園児たちが人質だから 作戦は出来る限り迅速に 園児や犯人たちに 長期のストレスを与えない内に済ませたい」
マリがはっとして言う
「犯人の1人が 子供たちが どうしても騒ぐようなら こ… 殺すってっ」
マリが震える マスターが表情を曇らせて言う
「うん… とにかく 出来るだけ 両者へ刺激を与えないように …うん?」
マスターが気付き立ち上がる マリが続いて立ち上がる マスターが目を向けていた先 警察の機動部隊車両が次々やって来て 開かれたハッチから機動部隊員たちが出て来て 保育園の前に終結して銃や盾を構える 保育園の園内に居た襲撃犯Cが表情を怒らせ 園内へ退避する マスターが表情を曇らせて言う
「言ってるそばから これだっ 犯人は大勢の子供の人質と一緒に居るって言うのに 正面から威嚇して どうするって言うんだっ」
警察車両から拡声器を使った声が響く
『保育園を占拠した犯人に告ぐ 大人しく投降しなさい 繰り返す 保育園を占拠した犯人に告ぐ 大人しく投降しなさい 君たちは 完全に包囲されている 君たちに逃げ場は無い 人質を解放し 速やかに投降しなさい』
マスターがしゃがみノートPCを操作しながら言う
「犯人は 反政府組織を名乗った上 その子供を盾に篭城している …これは ただの身代金目的の犯行じゃないっ 組織を狙った テロだっ!こんな時こそ 国防軍の出番だって言うのにっ」
マスターが必死にノートPCを操作している マリがマスターや周囲を見て強く祈りつつ言う
「お願い…っ アールスローンの神様…っ」

【 国防軍レギスト駐屯地 】

警備兵の交代が行われている

【 ハイケルの執務室 】

TVモニターで映像が流れている レポーターが言う
『警察の必死の説得にも 依然として 犯人たちに投降の様子はなく 間もなく時刻は 夜10時を回ろうとしています 園児たちの体調も心配される中 保育園前には 園児の保護者たちが 不安の表情で状況を見つめています 尚、保育園前には 警察の機動部隊が集結しておりますが 子供たちを盾に取られては 打つ手が無いといった状態でしょうか?今の所 大きな動きは…』
TVが消される ハイケルがリモコンを置き ノートPCを引き出しに閉まって立ち上がる ハイケルが出口へ歩き部屋の電気へ手を向けた所で携帯が着信する ハイケルが疑問して携帯を取り出して着信させる 携帯からマスターの声が届く
『ハイケルっ!…頼みがあるっ』
ハイケルが疑問する 

駐屯地の正門から無印のトラックが一台出て行く

【 レムル地区 保育園 前 】

マリがしゃがみ込んで祈っている マスターの携帯が着信する マスターが携帯で会話を終わらせた後 マリの肩に手を置く マリが疑問し 置かれた手を伝ってマスターを見上げる マスターがマリへ言う
「マリちゃん、マリちゃんも 協力して?子供たちを 助ける為にっ」
マリが一瞬呆気に取られた後 ハッとして目を見開く マスターが微笑して言う
「通行止めで ここまでは来られないから …こっちへ!」
マスターがマリの手を引く マリが頷き 2人が走って行く

【 車内 】

マスターが荷台の明かりをつける 照らされた荷台は情報処理機材で埋め尽くされている マリが驚いて呆気に取られている マスターが乗り込み 言いながら機材の電源を入れて行く
「無理言ってすまない 情報部の私物を借り出すとなると お前でも大変だっただろう?」
マリが疑問する マリの後ろからハイケルが言う
「問題ない 情報部とは上手くやっている」
マリが一瞬驚いた後 ハッとして振り返る ハイケルが言う
「乗れ 誰かに気付かれると面倒だ」
マリがハッとして慌てて進みながら言う
「ご、ごめんなさいっ」
ハイケルがドアを閉めながら入る マリがマスターの横に立つ マスターが言う
「ハイケル 久しぶりの再会だろ?そんな冷たい言い方するなよ?」
ハイケルが設備から道具を取り出しながら言う
「本来なら 関係者以外 立ち入り禁止だ」
マリが困って言う
「ご、ごめんなさい…」
マスターが作業しながら言う
「こら?ハーイケル?」
ハイケルが言う
「お前もだ」
マスターが気付き苦笑して言う
「ま~それは~ 過去の功績に免じて 大目に見てやって頂戴?」
ハイケルが装備を取り出しながら言う
「ふんっ」
マスターが微笑しつつ作業を行う マリが視線を巡らせる マスターが言う
「マリちゃん」
マリがハッとしてマスターへ向いて言う
「は、はいっ」
マスターが言う
「犯人たちの情報を確認させて それから 保育園内の構造についても」
マリが言う
「私に分かる事ならっ」

【 レムル地区 保育園 前 】

保護者たちが痺れを切らして叫んだり 警察に当たったりしている レポーターが言う
「園児たちを心配する保護者たちも この犯人たちと警察との長い攻防戦に 痺れを切らしている模様です 警察に依然動きはなく 身代金の5億円も 今だ用意される気配は見られません このまま…」
警察の拡声器から声が響く
『犯人に告ぐ 犯人に告ぐ 大人しく投降しなさいっ 逃げ場は無い 子供たちを解放し…』
レポーターが向けていた顔を戻し言う
「たった今 再び警察から犯人へ向けての 呼びかけが…」

【 車内 】

TVモニターで映像が流れている レポーターが言う
『…これで3度目になる呼びかけにも 犯人たちからは一向に…』
ハイケルが言う
「警機は本気で投降させる気か?」
マスターが言う
「ああ さっき公証人の依頼が 警察本部の方で上がってた おまけに バーリミア伯爵本人が 国防軍へ依頼を掛けたのを 政府の長官が総司令官へ 押さえの連絡を送ってる …こう言う場合は大半」
ハイケルが言う
「政府内での抗争か… くだらん」
マスターが言う
「そんな事に 関係の無い子供たちが巻き込まれてるんだ… 早く助け出してやらないとな?」
マリが祈りの手を強める マスターが言う
「マリちゃん」
マリが言う
「はいっ!」
マスターが言う
「犯人たちの人数は 外の見張りを含めて3人から4人 …かな?他にも 居る様子があった?」
マリが表情を落として言う
「…ごめんなさい ハッキリとは …私が確認したのは 3人だけだったけど でも、それ以上居る感じもしていたし…」
マスターが考えて言う
「う~ん…」
ハイケルが言う
「センサーを上げろ」
マスターが言う
「え?良いのか?」
ハイケルが言う
「”間違って押してしまった”とでも言っておく 犯人たちの動きと共に 人数は最重要だ 1人でも残したら この作戦の意味がない …任務は確実に遂行させる」
ハイケルが立ち上がる マスターが慌てて言う
「けどっ お前っ 熱源センサーの打ち上げは 一発で100万っ!」
ハイケルが壁の蓋を開け ボタンを押す 車両上部の収納が開き 小さなロケット花火が飛び上がり 保育園の上空で傘を開く 中心に付けられたセンサーが起動する ハイケルが言う
「”間違って押してしまった”」
マスターが慌てて言う
「嘘付けっ!大体そんな言葉で誤魔化せる訳ないだろっ!?どーすんだよっ!?100万っ!」
マリが呆気に取られている

【 皇居 静養施設 】

TVモニターに映像が流れ警察部隊が映っている 軍曹がイライラして言う
「え~いっ まどろっこしいっ!奴らは本当に 園児たちを救わんとする気持ちがあるのかっ!?あんな呼びかけなどっ 逆に犯人たちを応援していようなものなのだっ!」
TVモニターからレポーターの声が届く
『あ、今再び 警察から犯人へ向けての呼びかけがありました!身代金は用意しない 投降しなさい との呼びかけです!この度重なる警察からの 呼びかけではありますが 園児の保護者たちは 5億円の身代金で 園児たち全員が助かるなら と 現在話し合いを行っていると言う情報です この長期にわたる攻防は 夜を徹して行われるかと予測されており』
軍曹がイライラして言う
「ぬぅううううっ!5億などっ!それで園児たちが救われようものなら 自分がさっさと支払ってやるのだっ!…とは言え この犯行は きっと身代金目的ではない 反政府組織と名乗っておる以上 奴らの狙いは あの保育園に居る園児の親 政府組織の人間なのだ…っ ここで金を払わぬ事事態が 反政府組織の犯人たちと政府との戦い… う~むぅ~っ こんな時 こんな時… 少佐なら!?少佐なら 如何なる作戦でっ!?」
軍曹がTVモニターを睨む

【 車内 】

マスターが操作を完了させて言う
「これで…よしっと!ハイケル!」
マスターが振り返る ハイケルが靴紐を結び終える マスターが微笑して言う
「こっちの準備は仕上がったぜ?」
ハイケルがゴーグルをセットして言う
「こちらもだ」
ハイケルが立ち上がる マスターが軽く操作をしながら言う
「園内の 大人と判断される熱源は6箇所 うち2つは 園児たちの集団と一緒に居る …その2つのどちらかが マリちゃんの言っていた 園長先生 だから 犯人の数は」
ハイケルがマスターの後ろを通り過ぎながら言う
「ターゲットは5つ」
マスターが言う
「保育園の裏通りには警察と 犯人の1人が柵越しに居る けど、一箇所だけ 壁に隠されている場所があるから 最初のターゲットはここで 進入経路は後で情報を送る」
ハイケルが言う
「了解」
ハイケルが扉を出ようとする マリが意を決して言う
「…っ ハイケル君っ!」
ハイケルが立ち止まる マリが言う
「…気を付けて」
マスターが横目にマリを見る ハイケルが間を置いて言う
「…問題ない こいつとなら 絶対に 大丈夫だ」
ハイケルが出て行く マリが一瞬驚きマスターを見る マスターが1人微笑する ハイケルが周囲を見てから走り出す マスターが口元へマイクを持って来て言う
「状況を」
ハイケルの声がスピーカーから聞える
『進入経路を確保 ターゲット1を確認 …作戦を開始する』
マスターが頷きモニターのスイッチを入れる ハイケルのゴーグルに付けられている小型カメラの映像が映る 

保育園裏通り

警官たちが保育園を包囲している 武装集団1が機関銃を片手に見回りをしている 警察官たちの視線の先 武装集団1が移動し壁の影に隠れる 

壁の内側

ハイケルが身を屈めて隠れていた状態から瞬時に飛び出し 武装集団1がハッとした瞬間 ハイケルが武装集団1の口を押さえ 腹を殴り付ける 武装集団1が目を見開き気絶する

車内

モニターに 拘束される武装集団1の姿が映っている マスターが微笑して言う
「お見事」
スピーカーからハイケルの声が届く
『ターゲット1を拘束 建物への進入路へ向かう』
マスターが機械操作をして言う
「了解」
マリが心配そうに見つめている

保育園

ハイケルが建物を背に見上げる イヤホンからマスターの声が届く
『その場所の上部にある窓が 換気用に開かれている筈だ 確認出来るか?』
ハイケルが言う
「…目標を確認」
イヤホンからマスターの声が届く
『警察部隊の目に 気を付けてな?』
ハイケルが言う
「了解」
ハイケルが周囲を見てから 上部の窓を見上げる イヤホンからマスターの声が届く
『内部に熱源反応は無し』
ハイケルが中部分にある窓枠に飛び乗り 上部の窓を開けると同時に滑り込む 建物内に進入したハイケルが すぐ近くの物陰に隠れて言う
「進入した」
イヤホンからマスターの声が届く
『よし、ターゲットへ向けてのナビゲーションを開始する 通路を左へ 20メートル先にターゲット反応 …拘束しろ』
ハイケルが言う
「了解」
ハイケルが身を屈めて走り出す ハイケルが通路の手前で一度身を隠し 一瞬の後飛び出して 通路を歩いていた武装集団2の口を押さえ 腹を殴り上げる

車内

マリが怯えながらモニターを見ている モニターに武装集団2へ拘束を施している映像が見える ハイケルの声が届く
『ターゲット2を拘束』
マスターが言う
「そのまま通路を直進 角を曲がって23メートル先にターゲット反応 だが、そこまでの間に 外部から見える箇所が5メートル感覚である 通路の角で待ち伏せ カウントを待て」
ハイケルの声が届く
『了解』

保育園

武装集団3が外部と前方を交互に見ながら見回りをしている ハイケルのイヤホンにマスターの声が届く
『ターゲット3が接近 5・・4・・3・・2・・』
ハイケルが顎を引き 瞬時に角から飛び出す

車内

ハイケルの声が届く
『ターゲット3を拘束』
マスターが言う
「よし、それじゃ次は 園児たちの見張りをしている奴だ… 慎重に」
ハイケルの声が届く
『了解』

保育園 音楽室

園児たちが一箇所に集められている 園長が気を張っている 武装集団Aが苛立って言う
「…くそ 交代はまだか?」
園児がぐずって言う
「…うっうっ… お母さん… お母さ~ん…」
園児たちが伝染してぐずり始める 園長が園児たちへ向く 武装集団Aが苛立って言う
「うるせぇ!黙らせろ!」
武装集団Aが園長に銃を向ける 園長が武装集団Aを横目に見てから 園児たちへ言う
「さぁさぁ 皆 大丈夫だ もう少しだけ 頑張るんだ もう少しだけ…」
武装集団Aが舌打ちをしてふと出入り口を見る 出入り口に人影は無い 武装集団Aが気を取り直して園児たちを見る 園児が大泣きして言う
「おかーさんっ!おかーさぁ~~ん」
武装集団Aが怒って叫ぶ
「うるせぇええ!!」
武装集団Aが泣いている園児へ銃を向ける ハイケルが出入り口から駆け込んで来る 武装集団Aがハッとして ハイケルへ銃を向ける ハイケルが銃を手で押さえ 武装集団Aを力技で床へ叩き付ける 銃が床を滑る 武装集団Aが応戦する ハイケルと武装集団Aが肉弾戦を行い ハイケルが武装集団Aの首筋へ打撃を与えると 武装集団Aが目を見開き倒れる

車内

ハイケルの声が届く
『ターゲット4を拘束 …共に』
モニターの映像に 園児たちと園長の姿が映る マリが思わず言う
「皆っ!園長先生っ!」
マスターが一度微笑してから 気を取り直して言う
「よし、最後に ターゲット5へ案内する 進入路と同じ場所から外部へ」
マリが一瞬驚いてから言う
「…っ あ、外へ出るのなら 近くの通路に 非常口が」
マスターが機械操作をしてから言う
「今回の俺たちの作戦は 誰にも知られてはいけない …と、子供たちの口を止めるのは 難しいけど マリちゃん 園長先生には 後で言っておいて?この作戦を行ったのはレギストではなくて… そうだなぁ… お姫様のナイトだって?」
マリが呆気に取られた後苦笑して頷く

保育園

ハイケルが銃を用意する 園長が来て言う
「有難う御座いますっ!助かりました!貴方は一体?警察の方でしょうか?」
ハイケルが銃にサイレンサーを付け ホルダーに収納して言う
「…俺の事は 誰にも言うな …特に その警察に知られると 面倒になる」
園長が呆気にとられて疑問する ハイケルが立ち上がって言う
「犯人はもう1人 …そいつを処理する 合図の音が聞えたら 外へ向かい 警察へ無事を知らせろ」
ハイケルが立ち去る 園長が呆気に取られたままハイケルを見送る

車内

マスターが言う
「よし、外へ出たら 建物沿いに… 西側の側面から 対岸の樹木の陰へ移動 そこから狙撃してくれ」
マリが驚く

保育園

ハイケルが言う
「了解」
ハイケルが上部の窓から飛び降り 着地と共に身を屈め移動する

車内

マリが心配そうに言う
「狙撃って… 犯人を撃つのっ?」
マスターが苦笑して言う
「だ~いじょうぶ~ ハイケルの狙撃の腕は完璧!しっかり急所を外して撃てる筈さ 命を奪ったりはしないから 安心して?」
マリが一瞬驚いた後ホッとする スピーカーからハイケルの声が届く
『…簡単に言ってくれる』
マリが驚く

保育園

ハイケルが木に背を付けて後方を確認する イヤホンからマスターの声が届く
『お前にとっては 大して難しい事じゃないだろ?』
ハイケルが言う
「狙撃自体は問題ない 問題は… あの警察たちの目だ …突入するつもりも無いくせに 邪魔な連中だ」
イヤホンからマスターの声が届く
『まぁまぁ そう言ってやりなさるなって?あいつらだって 本当は突入したくて イライラしてるんじゃねーか?この間の… 誰かさんみたいに?…プククッ』
ハイケルがムッとして言う
「余計な事を言っている暇があるのなら 最終工程を急げ」

車内

マスターが機械を操作しながら言う
「はいはい そう急かすなって ちゃんとやってるよ?」
ハイケルの声が届く
『…本当か?…俺に言われて 今、やってるんじゃないのか?以前のお前なら…』
マスターが衝撃を受け慌てて言う
「だぁ~~っ もうっ!久しぶりで ちょっと忘れてただけだろぉ!?そう意地悪言うなって?」

保育園

ハイケルが微笑して言う
「伝説の マーガレット中佐 …情報部の連中が泣くぞ?」
イヤホンからマスターの慌てた声が届く
『あっ!お前っ!今 ここでその呼び方するっ!?』
イヤホンからマリの声が届く
『マーガレット?』
イヤホンからマスターの焦りの声が届く
『ああっ!いやっ!何でもっ!気にしないでっ?あ、ほらっ!作戦名とか~』
ハイケルが苦笑して言う
「早く花を咲かせて見せろ」
ハイケルが空を見上げる

車内

マスターが赤面しながら機械を操作しながら言う
「だぁあっ!もうっ!お前っ!何時からそんなおしゃべりになったんだぁ?昔のお前だったら もっと クールに!それこそ ターミネーターみたいだったのによ!」
スピーカーからハイケルの声が届く
『たーみねーたー?』
マスターが困り怒って言う
「もう良い!カウント行くぞ!5!4!3!」

保育園

ハイケルのイヤホンからマスターの声が届く
『2・・1・・』
ハイケルがサイレンサー付きの銃を握り 一度目を閉じてから マスターのカウント終了と同時に息を吸う 上空の熱源センサーが微動する

パーンッ! …パン パーンッ!

皆の視線が上空へ向く 上空に花火がきらめく 夜空一杯のマーガレットの花火 皆が呆気に取られている中 ハイケルがサイレンサー付きの銃を下ろして言う
「任務完了 …帰還する」
ハイケルが立ち去る 見張りを行っていた武装集団Cが倒れる

【 皇居 静養施設 】

軍曹が呆気にとられて言う
「花火…?」
軍曹の見つめるTVモニターに 夜空に広がるマーガレットの花火が映っている レポーターが言う
『…っ 花火… の様ですっ!一時は 銃声かとも思われ 辺りは緊張に…』
軍曹が不満そうに言う
「なんと不謹慎な… こんな時に花火など 一体何処の馬鹿者が…?」
TVからレポーターの驚いた声が聞える
『あっ ど、どうした事でしょう!?見張りを行っていた 犯行グループの1人が 倒れて… あっ!ああっ!』
TV画像に園長と園児たちが映る 軍曹が衝撃を受け驚いて言う
「ぬぉおおっ!?」
TVからレポー他の驚いた声が聞える
『子供たちです!たった今!人質となっていた 園長先生と園児たちが!』
軍曹がTVモニターを掴んで叫ぶ
「ぬあぁああ!?どっどう言うことかっ!?犯人グループはどうなったぁっ!?外の見張りだけではなく 奴らは内部にも居るとぉお …がぁっ!?」
軍曹が衝撃を受け 身を押さえてうずくまって言う
「うぐっ ぐぁ… き、傷がぁ…」
 
【 車内 】

マリがTVモニターを見てほっとして胸を撫で下ろし言う
「良かった… 皆 無事で…」
マスターが振り向いて言う
「行ってあげなよ?マリちゃん 子供たちも きっと会いたがっているよ?」
マリがハッとして言う
「で、でも…」
マスターが微笑して言う
「あいつには 俺から言っておくから ほら、行った行った」
マスターが荷台のドアを開け マリへ微笑する マリが微笑して言う
「本当に ありがとう!」
マスターが微笑む マリがドアを抜け 一度振り返ってから走って向かう マスターが微笑してドアを閉めると 運転席からハイケルが言う
「良いのか?行かせて」
マスターが驚き振り返って言う
「ハ、ハイケル!?いつの間に …お前、戻ったのなら 戻ったって言えよ!?」
ハイケルが間を置いて言う
「…戻った」
マスターが衝撃を受けて言う
「今言っても意味が無いだろうっ!?マリちゃんだって お前にも 礼が言いたかっただろうにっ」
ハイケルが運転席へ座り直して言う
「必要無い 彼女から依頼を受けたのは お前だ 俺は… そのお前から依頼を受けた …それだけだ」
マスターが呆気に取られた後苦笑して言う
「ハイケル…」
ハイケルが車のエンジンを掛けて言う
「100メートル先に お前の車を確認した 送ってやる」
マスターが助手席に座って苦笑して言う
「そら どーも」
無印のトラックが動き出す
 
【 マスターの家 】

マスターが風呂上りの姿でTVモニターを見て微笑して言う
「子供たちはもちろん マリちゃんも… 本当に安心したって顔だ やっぱり… ずっと無理してたんだな…」
マスターが苦笑する マスターの家の前 来客が訪れる インターホンが鳴り マスターが疑問して言う
「ん?こんな時間に?」
マスターが時計を見上げてから玄関へ向かう マスターが上着を着ながら言う
「はーい?どちら様で?」
マスターが言いながらドアを開ける ハイケルが立っていて マスターが一瞬驚いて言う
「っと ハイケル!?ど、どうしたぁ?」
ハイケルが言う
「報酬を貰いに来た」
マスターが衝撃を受けて言う
「えっ!?い、今っ!?」
ハイケルが踏み入る マスターが慌てて言う
「って おいっ そんな 急に言われても せめて 明日まで待って」
ハイケルが言う
「明日まで 待てないから来たんだ 時間が遅すぎて 駐屯地のは閉められてしまった」
マスターが疑問して言う
「…は?駐屯地の?」

シャワーの音が聞える マスターが苦笑して言う
「何が報酬だよ~ シャワー貸して欲しいなら そうと言えば良いのに… 脅かしやがって~」
マスターがコーヒーを飲みつつ 気付いて言う
「うん?…待てよ?駐屯地のシャワールームが閉められたって シャワーなんて家で… んじゃっ まさかっ 本当に報酬っ!?」
マスターが慌てて財布を捜して言う
「…っつぅ~ 今日買出しで 思いっきり使っちまったから 頭金程度すら 残ってねーわ…」
シャワーの音が終わり マスターが頭を掻いて言う
「参ったな… こりゃ」
足音がして ハイケルがタオルで髪を拭きながら来て言う
「タオル 借りたぞ」
マスターが苦笑して言う
「ああ、そんなのは 構わねーけど」
ハイケルがマスターの横を過ぎ ベッドに軽く置いておかれていた 制服とシャツの下へ向かう マスターが言う
「あのよ~ ハイケル 本当に悪ぃんだが…」
ハイケルが言う
「心配するな 泊まり込むつもりは無い」
マスターが一瞬疑問してから改めて言う
「いや、そうじゃなくてだな?」
ハイケルがタオルを近くの椅子の背へ置き シャツを取って袖を通す マスターが言う
「今回の報酬は、ちゃんと支払う!…けど、今は本当に 持ち合わせが無いんだ 明日 下ろして置くから 明日の部隊訓練が終わったら… まぁ 急ぎだって言うなら 昼休みでも良いからよ?その時に店に… あぁ こう言う時は 俺が渡しに行くべきか?」
ハイケルがボタンを止めようとしていた手を止め 疑問して振り返って言う
「…何を言っている」
マスターが呆気に取られ 困惑して言う
「何って… 報酬の話だ」
ハイケルが言う
「報酬なら もう受け取った …シャワーを借りただろう?…後タオルも」
ハイケルが横目にタオルを見る マスターが困惑して言う
「…は?それだけ?」
ハイケルがマスターを見て言う
「それだけだ 他に何がある?」
ハイケルがシャツのボタンを閉めて行く マスターが呆気に取られて言う
「ほ… 他に何がって?情報部の車両を借り出させた上 お前に ランクAの任務をやらせたって言うのに その報酬が!?」
ハイケルがネクタイを締め終え 制服を手にとって言う
「帰るぞ」
ハイケルが制服を羽織り 帽子を手に取って出て行く マスターが慌てて言う
「あっ!おいっ!」
ハイケルが立ち止まり言う
「それから…」
マスターが疑問する ハイケルが顔を向けて言う
「明日はパレードの振り替えで 部隊訓練は休みだ ついでにレギストも 大半が休みとなっている お陰で… シャワールームも開かれないんだ …助かった」
ハイケルが出て行く マスターが呆気に取られた後 苦笑して言う
「ああ… そう言う事… なるほど、今日も明日もシャワールームが使えないんじゃ 今、シャワーを…」
マスターが一瞬微笑した後 気付いて慌てて言う
「…って だから おいっ!?ハイケルっ!?」
玄関のドアが閉まる

【 マスターの店 】

老紳士がコーヒーを飲み 一息吐いて言う
「うん… 結構結構」
マスターが微笑する 老紳士がマスターへ向いて言う
「マスター 今日も、とても良い塩梅ですね?」
マスターが言う
「有難う御座います そう仰って頂けるのが 何よりで」
老紳士が頷いて もう一口コーヒーを飲んで 一息吐いて言う
「…最近は 臨時休業が 少し多い様ですが?」
マスターが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「申し訳ない 懐かしい顔ぶれが遊びに来るようになり 少々振り回されている次第でして」
老紳士が軽く笑って言う
「フォッフォッフォ… 結構結構 若い内は 何でもやって行くべきでしょう …とは言え ここのコーヒーが飲めないと 私の一日が 少々 味気なくなってしまうのだが… マスターは最近 とても良い表情をされている …きっと その懐かしい方々の お陰でしょうな?」
老紳士が微笑を向ける マスターが一瞬呆気に取られた後 微笑して言う
「ええ そうですかと」
老紳士が軽く笑う
「フォッフォッフォ…」

店の来客鈴が鳴り 老紳士が出て行く マスターが言う
「またのお越しを」
マスターがカップを下げ カウンターから出て言う
「さて 午後の仕込みを… 今日の天気は~」
マスターが店のドアへ向かって行くと 店の前を高級車が通り過ぎる マスターがドアを開け 準備中の札を掛けると 近くに人の気配がやって来る マスターが振り向いた先 マリが微笑する マスターが一瞬驚いてから微笑して言おうとする
「ああ、マリちゃ…」
マスターが言い掛けた言葉を止め マリの後ろに居る見るからに富裕層の男(メルフェス)に気付き向き直る メルフェスが微笑する



ハイケルが店の前に来て ドアを開けようと手を伸ばして疑問する ハイケルの視線の先 準備中の札が掛かっている ハイケルが首を傾げ 一息吐いてから立ち去ろうとする ハイケルの携帯が着信する ハイケルが立ち止まり携帯を取り出し 相手を見て店のドアを見る

店内

コーヒーが注がれる ハイケルがポットを置き コーヒーカップを手に言う
「では マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスは 既に 婚約済み だったと言う事か」
ハイケルがコーヒーに口を付ける カウンターテーブルに突っ伏しているマスターが言う
「…ああ …今日 その婚約者と一緒に… 店に来たんだ…」
ハイケルが口に入れたコーヒーの味に衝撃を受け コーヒーを噴出す マスターが言う
「昨日の作戦の お礼に来たんだってさ…」
ハイケルが口を拭って言う
「…苦い」

【 回想 】

メルフェスが封筒をカウンターテーブルへ置いて言う
『これを』
マスターが視線を向ける メルフェスが言う
『マリーニから 話は聞きました 彼女の為を思って 貴方の個人的にお付き合いのある 特別な部隊の方に力を借り 昨夜の保育園での事件を 解決して下さったと …これは そのお礼です』
マスターがメルフェスを見る メルフェスが微笑して言う
『私が居れば 私も個人的に付き合いのある者を 動かせたのですが 生憎 2週間ほど外国へ出ていましたもので …その間も マリーニの良き話し相手になって下さったと聞きました …ですので こちらは その分の追加で 貴方へのお礼に…』
メルフェスが更にもう1つの封筒を出す マスターが目を伏せ軽く息を吐く マリが言う
『あの… 本当に ありがとう… 私っ …とっても 嬉しかった… ずっと… ずっと 前からっ!あのっ』
メルフェスが言う
『私とマリーニは 今週末に式を挙げる予定です 籍の方は既に入れてあるのですが 私の仕事がひと段落するまで 後回しにしていまして …もし宜しければ マリーニの友人として ご出席頂けると言うのでしたら 私も マリーニも とても嬉しく思いますが …なぁ?マリーニ』
マリが一瞬困って言う
『えっ?は、はい…』
マスターが苦笑してから言う
『素敵なお誘いを 有難う御座います …しかし、申し訳ない 店を閉める訳には 行きませんので』
メルフェスが微笑して言う
『そう仰らずに お店の方は その一日だけ 従業員の方へお任せするなどして …どうか ご無理を押してでも』
マスターが笑んで言う
『残念ながら こんな小さな店なんでね 従業員は 私1人ですよ』
メルフェスが苦笑して言う
『…それは失礼 愛する我妻 マリーニの為とあれば 私に出来る事は ご協力します …ではどうでしょう?その日一日の利益を 私が』
マリが困って言う
『メルフェスっ お願いっ それ以上 失礼な事は 言わないでっ』
メルフェスがわざとらしく驚いて言う
『っと… 驚いた マリーニが声を荒げるとは どうやら… そうとう貴方の事を気に入っている様子だ 宜しければ 私と手を組みませんか?街中へ幾つか置く 小さな喫茶店と言う事業も 中々面白そうだ』
マスターが言う
『生憎 コーヒーって奴は そんなに簡単なものじゃないでね 金を積んで 店を作れば それだけ儲かるってモンでも無いんですよ』
メルフェスが微笑して言う
『ほう… それは興味深い それなら 尚更』
マスターが封筒を2つメルフェスへ突き返して言う
『それから 俺は 報酬が欲しくて 彼女に協力した訳じゃない …彼女の 子供たちを思う気持ちに 共感したから …彼女の持つ保育園内の知識を借りて 一緒に事件を解決しただけだ …ですので こちらは 受け取るつもりは有りません』
メルフェスが悪笑んで言う
『ほう… 良いんですか?例えば レギスト程度の部隊を動かすとしても 最低報酬は この位掛かるでしょう?それとも 報酬を必要としない様な その様な者たちにでも依頼をしたのですか?』
マスターが言う
『アンタには関係の無い事だ 俺の個人的な知り合いなんでね 報酬は払うとしても この金を渡すつもりは無い それに 相手も 受け取ってはくれないでしょう』
メルフェスが笑んで言う
『そうですか… それは残念だ 私の個人的な知り合いと共に そちらの方とも 良い仕事が出来ると思ったのですが』
マスターが視線を強めて言う
『悪いが そろそろ帰ってもらえないか?午後の仕込みがあるので』
メルフェスが苦笑して言う
『…ふふっ そうですか お忙しいとあっては しょうがない また 次の機会にでも』
メルフェスが立ち上がる マスターが言う
『この店は 貴方の様な高位富裕層のお方には似合わない 二度と来ないでくれ』
マリが驚いて表情を落とす メルフェスが軽く笑って言う
『確かに… 少々 色が合わない様ですね マリーニは 気分が落ち着く 良い店だと 言っていましたが』
マスターが言う
『昔の好で 気を使ってくれたのでしょう』
マリが悲しそうにマスターを見る メルフェスが微笑して言う
『そうですね 彼女が 一時でも 孤児院と言う 惨めな場所で 時を過ごさねばならなかった折も 貴方にはお世話になったとの事だが …どうか 貴方のその御記憶も 私と共に 消えてくれる事を願います』
マスターが視線を強める メルフェスが微笑して立ち去る マリが残り 手で顔を覆って悲しんで言う
『ごめんなさいっ こんな…っ こんなつもりじゃっ』
マスターが近くへ来て言う
『俺の方こそ 御免ね 折角 マリちゃんの事 大切にしてくれる 良い旦那さんを 紹介してくれたのに …変な意地張っちゃって』
マリがマスターを見上げる マスターが微笑して言う
『ご結婚 おめでとう』
マリが驚き表情を悲しませ 視線を落とす 店の外で高級そうなクラクションが鳴る マスターが苦笑して言う
『ほら、心配してるよ?早く行かないと』
マリが顔を上げて言う
『私にもっ!ハイケル君の様な 強い心があればっ 私っ 私 本当は…っ!』
店の外で高級そうなクラクションが痺れを切らすように高鳴る マリが叫ぶマスターが驚く マリが泣きながら逃げる様に店を出て行く マスターが驚き呆気に取られている

  私、貴方の事が ずっとずっと好きだったの!探していたの!…さようならっ!

【 回想終了 】

ハイケルが持っていたコーヒーカップを握り潰して言う
「馬鹿か!お前はっ!」
マスターがカウンターテーブルにひれ伏して言う
「うわぁ~~ まさか まさかぁ~~ マリちゃんが 昔から 俺の事を好きで 探していた だなんてぇええ~~~っ」
ハイケルが足早にカウンターの外へ回り マスターの後ろを過ぎ様に言う
「行くぞっ」
マスターが驚き 顔を上げて言う
「い、行くって 何処に?」
ハイケルが立ち止まり 振り返って言う
「決まっている マリーニ・アントワネット・ライネミア・アーミレイテスを 奪還する!」
マスターが衝撃を受け 慌てて言う
「なっ ばっ 馬鹿 何言ってるんだよ!?お前っ!?」
ハイケルが言う
「馬鹿はお前だ お前は彼女を思い 彼女もお前を好いていると言った それなら 力ずくでも 取り返せば良いだろう」
マスターが呆気に取られてハイケルを見て言う
「ハ…ハイケル…」
ハイケルが言う
「高位富裕層の屋敷ともなれば それなりの警備はある筈だ 情報部の車両までは必要ないが 手持ちの武器だけでは足りない 一度駐屯地へ戻る」
ハイケルが歩き出す マスターが衝撃を受け 慌ててハイケルの腕を掴んで言う
「ばっ!馬鹿っ 本気で言ってるのか!?」
ハイケルが立ち止まり振り返って言う
「もちろん 本気だ 何故止める」
マスターが言う
「何故も 何も無いっ!相手は一般の高位富裕層なんだ そこに レギストのお前が乗り込んで 花嫁を連れ去るだなんてっ!」
ハイケルが言う
「一般の高位富裕層とは何だ?そんな言い回しは存在しない」
マスターが衝撃受け慌てて言う
「だっ だから!そりゃ 可笑しい言い回しだけど お前と比べて 一般の人だって事でっ」
ハイケルが言う
「ああ そう言う事か 言葉が間違っているぞ それから、通常屋敷に居るだけの女に 花嫁と言うのも 間違っている お前は まず落ち着け」
マスターが衝撃を受けて言う
「お前の行動の方を 落ち着かせてくれーっ!」

マスターが息を吐いて言う
「…マリちゃんと その旦那は …もう籍を入れているんだ お互い 夫婦だって認めているんだろ …今更それを どうこうしようだなんて 思えねーよ」
ハイケルが沈黙してから言う
「一度 他の男に寝取られたら それで」
マスターが衝撃を受け怒って言う
「おいっ!こらっ!ハイケルっ!何処で覚えて来たんだっ!?そう言う言葉を お前が使うなっ!…と、それから そんなんじゃ… ねーよ」
ハイケルが疑問する マスターが一息吐いて言う
「向こうは 超が付くほどの高位富裕層だぞ?マリちゃんだって お前が前に言った通り 4構想の名前をもつ高位富裕層だ …2人は お似合いなんだよ」
ハイケルが沈黙する マスターが肩の力を抜いて言う
「だから 良いんだ… 俺は そのマリちゃんたちを 祝福するよ…」
ハイケルが沈黙する マスターがハイケルの腕を掴んでいた手の力を抜く マスターの手が重力のまま ハイケルの腕から手を伝って落ちる マスターが間を置いてから気付いて言う
「…うん?」
マスターが自分の手を見て 驚いて叫ぶ
「ぬあぁあっ!?な、なんだ!?この血…」
マスターがハイケルの手を見て 気付いて叫ぶ
「あーっ!ハイケルっ!お前っ!」
ハイケルが自分の手を見て気付いて言う
「…ああ、すまん …先ほど カップを1つ割ってしまった」
マスターが振り返った先 壊れたカップの破片がある ハイケルが間を置いて言う
「…来月の給料で 弁償する」
マスターが叫ぶ
「いやっ!そーじゃねーだろっ!馬鹿っ!」
ハイケルがムッとして言う
「…馬鹿?」
マスターが立ち上がり 棚を探しながら言う
「まったく お前は… 何を考えているんだか 相変わらず 分からねー奴だよ …まぁ これでも大分」
ハイケルが手を見て言う
「…俺が 間違っていたのか?」
マスターが救急箱を持って来て言う
「ほら、手出せ …それから、そこ座って」
ハイケルが間を置いてから 言われた通りにする マスターがハイケルの手の手当てをする

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルが包帯の巻かれた手でドアをノックして言う
「ハイケル少佐だが…」
ドアの内側からマイクの機嫌の良い声が届く
「あー!ハイケル少佐!どうぞ どうぞー!」
ハイケルがドアを開けて言う
「邪魔をする」
マイクが夢中になってPC作業をしながら言う
「いえいえ、邪魔だ何て飛んでも無い!ハイケル少佐!なんなら ここはハイケル少佐の部室と思って!これからは ノック無しで良いですよ!」
ハイケルが言う
「そうか… なら また そうさせてもらう」
マイクがハイケルへ向いて言う
「また?」
ハイケルがマイクの隣の席に座り PCにパスワードを入力しながら言う
「…ああ、以前にも その様にしていた頃が あった」
マイクが微笑して言う
「なるほど… それで そこのPCのパスワードをご存知だった訳ですね?」
ハイケルが気付き 間を置いて言う
「…すまん 勝手に使っていたな」
マイクが軽く笑って言う
「いえ、良いんですよ 実は そこのPCだけ パスワードが紛失しちゃってて 正直 今まで使ってなかったんです …だから パレードの時 ハイケル少佐が 当然の様に使っているのを見て 驚いていたんですよ」
ハイケルが言う
「…そうか」
一瞬の静寂の後 ハイケルとマイクが同時に言う
「それと…」「所で ハイケル少佐」
ハイケルとマイクが驚き マイクが慌てて言う
「ああ!どうぞ どうぞっ!」
ハイケルが一瞬黙ってから言う
「…ああ、一昨日は 急な車両の借り出しを言って すまなかった」
マイクが一瞬 呆気に取られてから 慌てて言う
「あ、ああ!そうそうっ!それで!ハイケル少佐!」
ハイケルが言い辛そうに言う
「それから …熱源センサーのスイッチを …『間違って押してしまった』」
マイクが呆気に取られる ハイケルが言う
「…すまん」
マイクが微笑し ニヤリと笑んで言う
「『間違って押してしまった』んですか?ハイケル少佐?」
ハイケルが視線をそらして言う
「…ああ」
マイクが首を傾げて不思議そうに言う
「う~ん スイッチにはしっかり『熱源センサースイッチ』って書いてあるのになぁ?オマケに 蓋まで付いてるんですよ?押すまでには1手間2手間 ある様に思うんですが?」
ハイケルが衝撃を受け 苦し紛れに言う
「ふ、蓋が付いていたからっ 余計に 押してみたくなったんだっ …も、文字の方は …く、暗くて見えなくてっ」
マイクが呆気に取られた後 表情を困らせて言う
「…知ってます?ハイケル少佐 あのセンサー1発の お値段」
ハイケルが悔しそうに俯いて言う
「し… 知りたくは無いが …知っている …やはり 弁償か…?」
マイクが呆気に取られた後プッと噴出し笑い出す ハイケルが衝撃を受け 表情を歪めて言う
「な… 何が 可笑しい…?」
マイクが笑いを収めて言う
「あっはっはっはっは… いや、すみません ハイケル少佐… でも 私は 凄く嬉しいですよ!」
ハイケルが疑問して言う
「…どう言う意味だ?」
マイクが言う
「マーガレット中佐」
ハイケルが驚く マイクが微笑して言う
「ご一緒だったんですね?それで… うん!あの保育園の事件を こっそり解決した」
ハイケルが衝撃を受け言う
「なっ 何故知っているっ!?」
マイクが呆気に取られた後 爆笑する ハイケルが衝撃を受け 怒って言う
「おいっ マイク少佐っ」
ハイケルが怒りの視線を向ける マイクが気付き慌てて言う
「あわわっ すみませんっ 怒らないで…」
ハイケルが言う
「…何を知っている?」
マイクが苦笑して言う
「実は マーガレット中佐から メッセージが残ってたんです」
ハイケルが驚く マイクがPCを操作しながら言う
「それで、車両の使用と 熱源センサー1発の使用を謝罪すると共に 協力を感謝すると そして」
マイクがPCモニターにプログラムを映し出して言う
「見てください!このプログラム!」
ハイケルがモニターを見て疑問する マイクが大喜びで言う
「こんな凄い演算プログラムは ちょっとやそっとじゃ見られませんよ!これがあれば 今までの1.8倍の速度が出せます!これを残して行ってくれたんです!このプログラムを金額に換算したら!ざっと5000万は下らないですよ!?」
ハイケルが衝撃を受けて言う
「5000万っ!?」
マイクが言う
「ええ!ですから 熱源センサーの弁償なんて まったく!こっちは それ所じゃない 大喜びの 大騒ぎですから!」
マイクが笑む ハイケルが間を置いて言う
「…そうか」
マイクが嬉しそうに作業をしている ハイケルが言う
「…で、何故 保育園の事件に関わった事を マイク少佐が知っているんだ?まさか そこまで…?いや、今回の任務は 私が勝手にやった事だ それも 別の国防部隊の管轄で …この事が上に知られれば 私は勿論だが 車両を貸し出した お前だって ただでは すまないぞ?」
マイクが思い出したように言う
「ああ、…はは それは きっと 大丈夫でしょう?恐らく誰にも気付かれてません」
ハイケルが疑問して言う
「では 先ほどのは…?」
マイクがハイケルへ向いて微笑して言う
「先ほどのは 失礼ながら ちょっとハイケル少佐に 鎌を掛けて見ただけですから」
ハイケルが僅かに驚いて言う
「なにっ?」
マイクが言う
「私が 戻ってきたあの車両を見て分かった事は 熱源センサー1発の使用 それから マーガレット中佐から残された プログラムとメッセージ」
ハイケルが言う
「メッセージ…」
マイクが言う
「ええ、そこには先ほども言ったように 車両の使用とセンサーの使用に関する事と共に…」
ハイケルが視線を強める マイクが笑んで言う
「”ハイケル少佐が 熱源センサーの使用を 『間違って押してしまった』と言ったら 彼は君を信頼している 思う存分 からかって 鎌を掛けて見るように” と!」
ハイケルが衝撃を受け怒って言う
「あの野郎ぉおっ!」
マイクが嬉しそうに言う
「私が知ったのは それだけです!いやぁ それにしても まさかのまさか!あの保育園の事件を解決したのが 我らレギストのハイケル少佐と 我ら情報部の伝説の中佐 マーガレット中佐だったとは!いやぁ~~ 声を大にして 言えないのが 心苦しいっ!」
ハイケルが机を叩き付け 立ち上がって言う
「車両の礼は言ったぞ 失礼するっ」
ハイケルが怒りながら立ち去る マイクが笑顔で言う
「またいつでも!今度はノック無しで いらして下さいね~?ハイケル少佐~!」
ハイケルが通路を怒りながら歩いて言う
「…クッ 情報部の主任になる奴は 皆 あんな奴らばかりなのかっ!俺をからかうのも 好い加減にっ」
ハイケルが一度立ち止まり 包帯の巻かれた手を見てから 一息吐いて軽く笑う
「まぁ… 良いか…」
ハイケルが歩いて行く

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所 】

ハイケルが立つ 隊員たちが敬礼して言う
「お早う御座います!少佐!」
ハイケルが敬礼を返して言う
「お早う」
隊員たちがハイケルの手の包帯に驚く ハイケルが構わず言う
「まずは 通常訓練を行え そして、終了次第 全員 第2訓練所へ向かえ」
ハイケルが立ち去る 隊員たちが一度顔を見合わせた後敬礼して言う
「はっ!了解!」「通常訓練の1 開始ー!」
隊員たちが腕立てを開始する ハイケルが立ち去ると 皆顔を見合わせ 腕立てをしながら言う
「少佐の手!見たか?」
「もちろん!どうされたんだろうな?」
「…もしかして?」
「…やっぱりか?」
「あの保育園の事件」
「だったりしてな?少佐なら有り得る!」
隊員たちが腕立てをしながら笑って話している

第2訓練所

ハイケルがやって来て周囲を見渡し苦笑して言う
「…懐かしいな」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクがPC操作を行っていた手を止め コーヒーを飲みつつプログラムの全体を見て言う
「いやぁ~… 素晴らしい これは本当に 伝説と言われるだけの事はある …これほどの技術をお持ちなのに マーガレット中佐は何故 レギストをお辞めになってしまったのか…?はぁ… 一目でも良い お会いしたい マーガレット… もしかして 女性だったり?まさか…?」
マイクが1人で笑う ハッとして言う
「あっ!けどっ!…あのハイケル少佐が マーガレット中佐には… なんだか お優しい様な…」
マイクの脳裏に ハイケルとの会話が思い出される

【 回想 】

ハイケルがコーヒーを飲んでから一息吐いて言う
『…あいつは 情報部には戻らないと言っている きっと 関わりたくも無いのだろう どうしても力を借りたい時には 声を掛ける事もあるが なるべくなら そっとしておいてやりたい』

【 回想終了 】

マイクが衝撃を受けて言う
「『そっとしておいてやりたい』!?い、今考えると とても とても 優しい言葉じゃないか!?はっ!ま、まさかっ!ハイケル少佐の こ、こ、こ… 恋人っ!?」
マイクが思わずキーボードに手を付く PCがエラーを起こす マイクが焦って叫ぶ
「あーーっ!」
マイクが慌てている

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所2 】

ハイケルが吊るされているロープを確認して言う
「…問題ない」
ハイケルが全体を見渡し軽く頷く 後方に隊員たちがやって来て 周囲を見渡しつつ ハイケルに気付き 敬礼して言う
「少佐!集合しました!」
ハイケルが振り返り言う
「今までは行わなかったが これからは あらゆる場面を想定した訓練を行って行く」
隊員たちが返事をする
「はっ!」
ハイケルが視線で示して言う
「使い方を説明する必要は無いだろう?適当なグループに分かれ 訓練を開始しろ」
隊員たちが敬礼して言う
「はっ!了解!」
隊員たちがアスレチック式の訓練装置へ3グループに分かれて向かう

【 マスターの店 】

マスターが鼻歌交じりで コーヒーの仕込みをしている 作業がひと段落して言う
「よし、後は少し煮立てて… その間に~」
マスターが振り返り PCモニターへ向かい言う
「ハイケルの奴 以前よりずっと作業が素早くなってたからな 拘束に掛かる時間が1.9秒も短くなってるんじゃ しっかり入力しといてやらんと 演算に狂いが生じちまう」
マスターがPCを操作して 棚の奥に隠しておいたディスクケースを取り出す PCからROMを取り出し別のROMを入れてエンターを押す PCが作業中になる マスターがそれを見て微笑すると 何気なくディスクケースを覗き気付いて言う
「ん?あら?ディスクが1枚… うん?」
マスターがPC周囲を見て ディスクケースを再び見て 首を傾げて言う
「おかしいなぁ?何で1枚…」
マスターが考えた後 ハッとして言う
「あっ!思い出したっ!」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクが鼻歌交じりにPCを操作して言う
「よし!さっきエラーになった所も ばっちり!いやぁ~ マーガレット中佐 様様だ~ この速度なら 今まで処理し切れなかったかったプログラムも… お?」
マイクが思い出して デスクの引き出しを開けて言う
「そういえば マーガレット中佐の 伝説のデータファイル!」
マイクが1枚のディスクを取り出して 見て言う
「この演算スピードなら もしかしてっ 再生出来るんじゃないか!?」
マイクがPCにROMを入れ エンターを押す しばらくしてプログラムが流れ 切り替わって3D映像になる マイクが目を見開いて言う
「こ… これはっ!」

【 マスターの店 】

マスターがコーヒーを淹れながら言う
「そう言えば… 俺が辞める日だった あの日 当日だって言うのに 急な事件が起きちまって 即興であのデータを応用して 作戦に利用したんだった そのまま… PC本体の方に 入れっ放しにしちまったんだなぁ… まぁ あの頃の情報部の能力じゃ プログラムの再生すら無理だったろうから …もしかしたら 訳の分からねーファイルだって 破棄されちまったかもな」
マスターがコーヒーを味見して微笑して言う
「うん …上出来だ!」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクが驚き呆気に取られながら見つめて言う
「…こ、これは もしかしてっ ハイケル少佐のっ!?…こうしちゃ居られない!」
マイクが頷き PCを消して駆け出す

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所2 】

マイクが走って来る マイクが息を切らせ 訓練をしている隊員たちを見渡し それを見ているハイケルに気付き 慌てて駆け寄りながら叫ぶ
「ハイケル少佐ーっ!」
ハイケルが振り返り 疑問して言う
「マイク少佐 どうかしたのか 慌てている様だが?」
マイクがハイケルの横に来て 息を切らせながら言う
「あ、あのっ ハイケル少佐っ し、失礼ながら ハイケル少佐ご自身は以前にでも この訓練所の設備を使った 訓練を行った事が!?」
ハイケルが疑問しつつも間を置いて言う
「勿論だが それがどうした?」
マイクが息を整えて言う
「その時は!やっぱり マーガレット中佐とご一緒に!ハイケル少佐の 能力データを取る タイムの計測なども!?」
ハイケルが言う
「ああ 良くやっていたが」
マイクが目を輝かせて言う
「すごいっ!では あの完璧な クリアデータは ハイケル少佐のデータなのですね!?凄いですよ!人間の限界とも言える!完璧なデータ!やはり 我らレギストのハイケル少佐は 超人!」
ハイケルが疑問して言う
「おい、ちょっと待て …恐らくお前は 何か勘違いをしている」
マイクが疑問する 隊員たちがハイケルの前に集合して言う
「少佐!第2訓練所の 設備を使った訓練!全員完了しました!」
ハイケルが隊員たちを見て頷く マイクが隊員たちを見てからハイケルへ言う
「ハイケル少佐!是非 ここの施設を使った レギスト隊員の能力数値も 我ら情報部へ!」
ハイケルがマイクへ顔を向けて言う
「この施設を使った訓練は 彼らにとっては 今日が初めてだ データを取るにしては まだ早過ぎるんじゃないのか?」
マイクが言う
「いえ!むしろ 初期と後期 …出来れば中期も取れれば 一人一人の成長能力データともなります これは 良い機会です!」
ハイケルが少し考えてから言う
「…そうか では 少し時間も余っているからな マイク少佐がそこまで言うのなら 協力しよう」
マイクが笑んで言う
「おおっ!有難う御座います!ハイケル少佐!」
ハイケルが言う
「礼は不要だ 情報部と機動部隊は レギストの要 両者の協力は惜しまない事が 鉄則だ」
マイクが喜ぶ ハイケルが隊員たちへ向いて言う
「…と言う事だ 全員2人一組で 互いのタイムを計測しろ」
隊員たちが敬礼して言う
「はっ!了解!」

【 国防軍レギスト駐屯地 食堂 】

ハイケルが1人で食事を食べている 隊員たちが他方で集まりハイケルを見ながら言う
「あれ?さっきまで一緒に居たのに…」
「今日は マイク少佐と一緒に食べないのかな?」
「って言うか マイク少佐が居ないって感じだけど…」
隊員たちが顔を見合わせてからハイケルを見る

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクが残念そうにPCを操作し眺めながら言う
「大体4分ぐらい…かぁ おかしいなぁ このクリアデータなら 大体で言っても 2分半なのに…」
マイクが疑問する マイクの脳裏に記憶が戻る

【 回想 】

隊員Aが倒れて言う
「ぜぇ…ぜぇ… た、タイムは?」
隊員Bが言う
「5分58秒02… ほとんど6分だね?」
隊員Aが衝撃を受け 慌てて言う
「お、おいっ ちゃんと58秒って書けよ!」
隊員Bが笑って言う
「あ、バレた?にひひっ」
マイク少佐が軽く笑って言う
「そうそう 例え0.2秒だって プログラムの中では ものすごく重要なんだから しっかり頼むよ?」
隊員Bが呆気に取られ困りながら訂正して言う
「あ、は、はい 失礼しました マイク少佐…」
マイクが微笑して振り返り ハイケルに言う
「あ!そうだ!訊き忘れてました ハイケル少佐!」
ハイケルが言う
「何だ」
マイクが言う
「ハイケル少佐の 以前ので宜しいので この施設を使ったタイムの方は いくつ位だったか 覚えていらっしゃいますか!?」
ハイケルが間を置いて言う
「…回数が多すぎて 確かな数字は言えないが 平均して大体4分くらいだ」
隊員AとBが喜んで言う
「おお!」「流石少佐ぁ!」
マイクが疑問している ハイケルが言う
「そうでもない 恐らく 計測をすれば アーヴァイン軍曹の方が速いだろう」
隊員AとBが呆気に取られて言う
「「えっ?」」
ハイケルが微笑して言う
「だから あいつが戻ってくる前に お前たちに やらせておいてやろうと思ったんだ また しごかれるだろうからな?」
ハイケルが軽く笑う 隊員AとBが呆気に取られた後 敬礼して言う
「はっ!有難う御座います!少佐!」

【 回想終了 】

【 国防軍レギスト駐屯地 食堂 】

ハイケルが食事を終え 食堂を後にする 隊員たちが見つめ 隊員Aが言う
「それにしても 今日の少佐!」
隊員Bが頷いて言う
「うんうん!俺 チョー驚いちゃったよー!」
隊員Aが微笑して言う
「少佐って あんなに優しかったっけ?」
隊員Bが笑顔で言う
「ねー?少佐があんな風に笑うのってー?俺初めて見た気がするー」
他の隊員たちが驚いて言う
「えっ!?」

【 マスターの店 】

店の来客鈴が鳴る マスターが出入り口へ向き言う
「いらっしゃいませ …お?アーヴィン君!」
軍曹が微笑して言う
「お疲れ様であります マスター」
マスターが苦笑して言う
「流石に まだ 調子は出ないみたいだな?」
軍曹が苦笑して言う
「は…っ お恥ずかしながら…」
マスターが微笑して言う
「いやぁ?4発も食らって 3日で歩けるだけでも 大したもんさ …さぁ とりあえず座り給え」
軍曹が苦笑しつつ頷いて言う
「はっ 有難う御座います マスター それでは 失礼致します」
マスターが軽く笑って言う
「喫茶店に来て 失礼致します はないだろ?相変わらずだな?君は」
軍曹がカウンター席に座り 微笑して言う
「自分にとって マスターは 少佐と同じ位 尊敬するお方で ありますので」
マスターが一瞬呆気に取られた後 微笑して言う
「まぁね 俺が居てやらなけりゃ ハイケルは実力の半分程度しか 出せねーもんな?」
軍曹が疑問して言う
「はぇ?半分…?」
マスターが冷蔵庫を開けて言う
「さて?静養中のアーヴィン君は オレンジジュースとミルク どっちが良い?」
軍曹が疑問して言う
「え?えっと… 自分は… コーヒーで…?」
マスターが微笑して言う
「残念だけど 今の君の体に コーヒーは禁止だ 刺激物になるからな?うーん やっぱりミルクにしとくか 早く部隊に復帰したいだろ?」
軍曹がハッとして慌てて言う
「は、はいっ!それはっ!もちろんでありますっ!」
マスターがミルクをコップに入れながら言う
「きっと 部隊の連中も ハイケルも 君を待ってるだろう …今日はこれから 顔を出すのか?」
軍曹が視線をそらし苦笑して言う
「いえ… 自分としては レギストへ向かいたいのでありますが… あいつらや 少佐のお顔を見てしまうと 自分は静養中の身である事を 忘れてしまうと 思われますので… 少し気分転換に 散歩をして ついでにこちらへ」
マスターが軍曹の前へミルクを出して言う
「ああ、良い判断だね 自分自身の性格を 正しく理解しての行動だ」
軍曹が苦笑して言う
「あ… 有難う御座いますっ マスターにお褒めの言葉を頂き 自分は とても励みになるでありますっ」
マスターが軍曹を見る 軍曹が出されたミルクのストローを吸い上げる マスターが苦笑して言う
「面白いなぁ あんた」
軍曹が疑問してマスターを見て言う
「はぇ?」
マスターが微笑して言う
「この前のパレードで見た時には 紛れも無く 高位富裕層の防長閣下だったのに ここで見る君は やっぱり いつもの アーヴィン君だ …安心したよ」
軍曹がはっとする マスターが言う
「…と、安心した は ちょっと失礼か?ごめんな?」
軍曹が言う
「い、いえ!そのっ …少佐にも 同じ事を言われました」
マスターが呆気に取られて言う
「え?ハイケルが?」
軍曹が視線を下げて言う
「はい… 自分はっ その… 馬鹿で無知な為 少佐やマスターの仰る その ”安心した” と言うお言葉の意味する所が 分かりかね… 嬉しいような 不安な様な?その…っ!出来れば 詳しい意味の方を 教えて頂けないかと」
マスターが間を置いて苦笑して言う
「いやぁ 分かってるじゃないか?」
軍曹が言う
「はぇ?」
マスターが言う
「君が今 言っただろ?俺やハイケルに そう言われる事で 『嬉しいような 不安な様な』 …俺たちの言ってる事は そう言う事だ」
軍曹がマスターを見つめる マスターが苦笑して言う
「俺たちみたいな 最下層の人間から見て …高位富裕層の方ってのは 不安の対象なんだよ」
軍曹が驚く マスターが言う
「もちろん 君や レーベット大佐の様に 分け隔ての無い お優しい方も居る けど… 大半が違うだろ?だから、パレードが終わって 防長閣下じゃない …俺たちと仲良くしてくれる 軍曹の君の状態に 俺もあいつも 嬉しくて …安心したんだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「あの少佐が… 自分を見て 不安になど…」
マスターがコーヒーを淹れ 自分で飲んで 一息吐いてから言う
「君とハイケルが 初めてこの店に来た時の事 覚えてるか?」
軍曹が反応して言う
「は、はっ!もちろんでありますっ!」
マスターが言う
「その時 俺が君の正体を ハイケルに教えてやっただろ?あの時の あいつの様子も 覚えてるか?」
軍曹が一瞬呆気に取られ 思い出して言う
「あの時は…」

【 回想 】

ハイケルが表情を怒らせて小声で怒って言う
『どう言う事だっ!?』
ハイケルが密かに隠し持っている拳銃を軍曹の胸に突き付ける 軍曹が慌てて言う
『い、いやっ それはっ それは…っ!』
ハイケルが視線を険しくして言う
『クッ… さては俺を探る 国防軍の回し者だったかっ』
ハイケルが変わらず軍曹へ鋭い視線を向けて言う
『何故 隠していた?』

【 回想終了 】

マスターが苦笑して言う
「あいつは 嘘や裏切りってのが 許せないタイプだ… けど、それだけじゃない あの時あいつは… 君を恐れていた …ふふっ 中々珍しいハイケルを 見せてもらったよ」
軍曹が表情を困らせて言う
「マ、マスター…?」
マスターが苦笑して言う
「あぁ 悪い悪い ま、そう言う事だ 俺は この店のお陰で 大分富裕層の方々にも慣れて来たけど あいつはまだ… 修行中かな?防長閣下の君に慣れるのは まだまだ先かもしれないが… 少なくとも 軍曹の君には 気を許しているみたいだから そう心配しなくても 大丈夫だろう」
軍曹が困って言う
「しかし… 自分は 出来れば そう言う事は… 自分もっ その… 富裕層だとか 違うとかって言うのは 好きでは無いので ありますので…」
マスターが言う
「なら、それで十分 慣れようと思って すぐ慣れるってモンでもない 気長に行けば良いさ」
軍曹が言う
「は… はぁ…」

【 国防軍レギスト駐屯地 】

軍曹が正門前を遠くから見て言う
「うぅ~… 来てはいけないと 分かっていつつも… ついっ」
軍曹が周囲を見てから言う
「す、少しだけ… 遠くから ひ、一目だけでも…?あいつらや 少佐のお姿を~…っ」
軍曹が徐々に場所を変え 結局 金網越しまでやって来る 警備兵が疑問して話す
「あれ… アーヴァイン軍曹だよな?」
「だな?…何やってるんだ?」
「…さぁ?」
軍曹が疑問して言う
「むっ!?何故だ!?」
軍曹が金網にしがみ付き 駐屯地内をきょろきょろ見て言う
「こ、この時間ならっ 昼休憩を終え ここで午後の訓練を行っている筈!?何故 誰も居らんのだっ!?皆!何処だっ!?少佐!?少佐ぁー!?」
警備兵たちが呆れている

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所2 】

隊員たちがアスレチック式設備で訓練を行っている 隊員Aが倒れて言う
「ぜぇ…ぜぇ… た、タイムは?」
隊員Bが言う
「5分32秒05… ん~ 四捨五入すれば やっぱり 6分だね?」
隊員Aが衝撃を受け 慌てて言う
「お、おいっ ちゃんと32秒05って書けよ!」
隊員Bが笑って言う
「にひひっ 分かってるって!」
隊員Bが記入をしてから言う
「…けど、あれから3回やって 26秒も縮まったのか~」
隊員Aが笑んで言う
「後6回くらい練習したら4分台になるかも!?そしたら…」
隊員AとBがハイケルを見る ハイケルは他方を見ている 隊員Bが言う
「少佐と同じ4分台?」
隊員Aが笑んで言う
「やる気出てきたぞ~~!」
隊員Bが笑んで言う
「ま、四捨五入すれば まだ6分だけどね?」
隊員Aが怒って言う
「だからっ!ちゃんと32秒05って書けよ!夢が遠ざかっちまうだろっ!?」
隊員Bが笑ってから言う
「にっひひっ 分かってるって!それじゃ 次は俺の番!しっかり計測してくれよー!?」
隊員Aがストップウォッチを受け取って言う
「大体の計測だろ?」
隊員Bが衝撃を受け怒って言う
「あぁーっ!」
隊員Aが笑む

ハイケルが隊員A、Bの様子を見る マイクがやって来て言う
「ハイケル少佐 どうです?」
ハイケルが言う
「ああ 大分 設備に慣れて来た様子だ タイムの方も 順調に上がっている」
マイクが隊員たちの様子を見てから言う
「ふ~む… 確かに 午前中の様子だと まだ 一つ一つの設備の越え方が 手探り状態って感じでしたからね?感覚が掴めて来た この辺りから 隊員たち一人一人の実力の差が 出てくるって感じでしょうか?」
ハイケルが視線を向けないまま言う
「…そうだな」
マイクが表を見てから気付いて言う
「ん?そうか…!?ハイケル少佐!」
ハイケルがマイクを見て言う
「何だ?」
マイクが微笑して言う
「私に1つ提案が!」
ハイケルが言う
「提案?」
マイクが言う
「5分!いや、10分ほど!隊員たちの練習を 中断させても良いでしょうか?」
ハイケルが言う
「…ああ、構わないが?」

【 皇居 静養施設 】

軍曹がベッドに寝ていて言う
「はぁ~… 暇だ… ここではギターの練習も出来ん… それに…」
軍曹が思い出す

【 回想 】

警備兵Aが言う
「ああ、機動部隊の訓練は 今第2訓練所の方で 行われているらしいですよ さっき 食堂で 機動部隊の友人から聞きました」
軍曹が衝撃を受けて言う
「なっ!?」
警備兵BがAへ向いて言う
「第2訓練所って 中庭辺りにある あのアスレチック系の奴だよな?ちょっと 面白そうだって思ってたんだよな~」
警備兵Aが言う
「いや、俺もそー思ってたけど 実際やってみると かなりキツイらしいぜ?腕とかパンパンになるってさ」
警備兵Bが言う
「へぇ~ 機動部隊の連中って いつも腕立てやってるから その連中がキツイって言うなら かなり かもな?」
警備兵Aが言う
「ああ」
軍曹が悔しがって言う
「ぬおぉお~~!皆が新たな訓練を開始しているというのにっ!自分はっ!自分は… ぐあっ!」
軍曹が身を屈めて苦しがる 警備兵A、Bが驚いて言う
「だ、大丈夫ですか!?アーヴァイン軍曹?」
「無理しない方が良いですよっ?しっかり 治された方が…」
軍曹が苦しそうに言う
「な… なんの これしきぃ…」

【 回想終了 】

軍曹が溜息を吐いて言う
「いや… 彼らの言う通りなのだ マスターにも お褒めを頂いたと言うのに 自分は 結局レギストへと… ぐぅう~~っ 自分でも 分かってはいるのだっ とは言え やはり 一目だけでも 皆の姿を 目にしたかったというのに… 第2訓練所だけは 外からでは伺えん…」
軍曹が溜息を吐いて周囲を見渡し 消沈して言う
「はぁ~… それに、いくらなんでも 声を張るだけで倒れるようでは 少佐の下にも あいつらの前にも行けんのだ… こんな時 少佐なら… 如何なされるのだろうか?自分とは違い 少佐なら… 少佐なら… 何を…?」
軍曹が考え 普段のハイケルの様子を思い出す ハイケルの執務室 ハイケルが椅子に座り ノートPCを眺めている 軍曹がハッとして言う
「そういえば…」
軍曹が周囲を見渡しノートPCに気付く 軍曹がノートPCを起動させながら言う
「少佐は普段 こうして…」
ノートPCが起動する 軍曹が間を置いて焦りの汗を掻き言う
「とは言え 自分は 少佐がこれで 何をなさっているのか?までは 知らんのだったっ …う~ん 少佐の事だ きっと何か とても 有意義な…」
軍曹が間を置いて 疑問する

【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所2 】

マイクがモニターの前で言う
「これから皆に見てもらう映像は この訓練施設を使ったデモ映像だ 各設備の最も適した使用方法を算出し それを表現している… うん、言い換えれば 最も速いクリア方法だと思ってくれ ちなみに、このデモンストレーションに沿った方法で ここの設備を全てクリアして出るタイムは 2分28秒08」
隊員Aが驚いて言う
「2分っ!?」
隊員Bが言う
「四捨五入すれば 少佐の半分…」
マイクが言う
「ああ、それから このデモに使われている人物データは 身長169.8センチ体重55.4キロと 男性で考えれば 少々小柄なタイプだから」
ハイケルが密かに衝撃を受ける マイクが苦笑して言う
「もし、身長体重が これより上回る 君たちが このデモと同じ要領で ここの施設をクリアすれば タイムはもっと縮まる可能性もある」
隊員たちが静かに歓喜の声を上げる
「おお~っ」「すげーっ」
マイクが残念そうに言う
「う~ん 本当に この人物データに 後.2センチの身長があれば もっと良いデータが取れるんだが…」
ハイケルが怒りを忍ばせ静かに言う
「…悪かったな」
マイクが衝撃を受ける 隊員たちが汗を掻く マイクが機械を操作すると モニターに映像が映し出される マイクが言う
「それじゃ しっかり見ていてくれよ?」
マイクがエンターを押す 隊員たちが密かに唾を飲む モニターに3D映像が映し出され 各設備をクリアする様子が流れる 隊員たちが食い入る様に見つめ 口々に言う
「あっ あのロープ あんな風に使うのか」「手よりも足の動きが重要だったんだな?」「お、おいおい いくらなんでも3回で あそこまで上るは 無理だろう!?」
ハイケルが隊員たちと共に 映像を見ている

映像を見終わった隊員たちが 俄然やる気を出して言う
「よっしゃ!」「なんだかコツが見えてきた気分だ!」「俺もっ!ちょっと試してみたいのが出来た!」
隊員たちが立ち上がり敬礼して言う
「マイク少佐へ敬礼!」「有難う御座いましたー!」
マイクが笑んで言う
「何の何の!さ!頑張ってくれたまえ!」
マイクが敬礼すると 隊員たちが言う
「はっ!了解!」
隊員たちが設備へ走って行く マイクがそれを見て微笑してからハイケルへ言う
「ハイケル少佐 どうです?良い案だったでしょ?」
ハイケルが隊員たちを見て言う
「…コンピュータグラフィック(仮想)の映像を 流して見せた後に それを何処まで再現が可能かは 分からんが …見ないよりは良いだろう …感謝する」
マイクが笑顔で言う
「何の何の!いや~ 私はてっきり あのデモはハイケル少佐のデータ そのものだと思っていたんですが マーガレット中佐が作った 最有力データって事だったみたいですね?」
ハイケルが言う
「ああ、他にも 様々な物がある筈だ ここの駐屯地にある設備の物から 他の駐屯地にある物 街中や 郊外の建物 山の中で採取した事も あったからな」
マイクが驚いて言う
「え!?そんなに…?あ、ああ そうか、私が手に入れたあのディスクは それらの1部だと言う事か…」
ハイケルが言う
「また、それらを基にした あいつ独自の物もあった …そして、全てのデータを 事件を解決する為の 作戦へ用いていたんだ」
マイクが疑問して言う
「これらのデータを用いて 作戦を?…う~ん それは… ああ、例えば どの程度の障害物なら あの設備と同じ位だから 同じ要領で越える事が出来る …など ですか?」
ハイケルが少し考えて言う
「…そう かもな 厳密に言えば そのデータを編集し その場所の設備に完全に置き換えたデータを こちらへ転送していた と言うのが正しいと思うが」
マイクが呆気に取られて言う
「…転送?」
ハイケルが言う
「ああ、映像を送ってもらい それを見ながら作戦を実行していた …以上だ」
ハイケルが隊員たちの方へ向かう マイクが疑問して考える
「映像を送って…か 確かに その映像を見る事で 感覚を掴む事位なら 今回と同じ様に 可能だとは思うけど… わざわざそんな事を …事件の度に?」
マイクが首をかしげてハイケルを見る ハイケルが隊員へ何か言っている

【 皇居 静養施設 】

軍曹がノートPCにIDを入力しながら言う
「…っと 少佐が普段これで 何をご覧になっていたかは 浅はかな自分には分かりかねるのだが きっと… いや、それよりも 自分は今…」
軍曹が叫ぶ
「どーうしてもっ!レギストの皆に会いたいのだぁああーーっ!」
軍曹が傷口に衝撃を受け 苦しみながら言う
「ぬぐぅ… …と、言う事で ぽちっと」
軍曹がエンターを押す モニターにログイン処理が映り 間を置いて 軍曹の写真と名前が出る 軍曹がはっとして衝撃を受けて言う
「ぬっ!?し、しまった!…つい うっかり アーヴァイン軍曹ではなく 過去のIDでログインを… まぁ 良いのだ 正直自分は 新しい方のIDを 未だ覚えていないのである」
軍曹が言いながら PCマウスを操作する 軍曹が表情を落とし気味に言う
「ふむ… ヴォール・アーヴァイン・防長か… こちらのIDの自分は 兄貴と同じ 国防軍の最上軍階に 設定されておるのだな?…これなら 過去には見られなかった 軍曹の軍階より上位の者のデータを 閲覧する事も… …お?」
軍曹が気付いてキー入力をしながら言う
「と言う事は?今なら自分は 少佐のデータを閲覧する事も 許されておるのではっ?…以前はご住所さえ閲覧が許されず 兄貴に頼ってしまったが 今なら…」
軍曹がエンターを押す モニターに検索表示が現れた後 ハイケルの写真とプロフィールが表示される 軍曹が衝撃を受け思わず敬礼して叫ぶ
「おっ!おおーっ!しょ 少佐ぁー!自分はっ 例え 画像であろうとも 少佐にお会いする事が出来て 光栄でありますーっ!」
軍曹が叫んだ後はっとして モニターに近付き 疑問して言う
「むっ!?な… なんだ?これは…?」

【 国防軍レギスト駐屯地 ハイケルの執務室 】

ハイケルが椅子に座り ノートPCを見ている モニターには柔道の試合映像が流れている ハイケルが無言で眺めた後 PCマウスを操作し 映像を切り替える モニターにK-1の試合が映り ハイケルが見ている しばらくすると 館内放送が流れる
『…本日は 駐屯地内の 清掃が入りますので 館内南塔は21時をもって閉鎖 …尚 東塔の施設も 全て21時をもって閉鎖されます 食堂、シャワールームの使用は 30分前を原則とし…』
ハイケルが顔を上げ 時計を確認すると PCを切り 机の引き出しに閉まって 立ち上がり 部屋を出て行く

【 皇居 静養施設 】

軍曹が困惑の表情でノートPCを見て PCマウスで画面をスライドさせている 軍曹が言う
「こんな事は… 何かの 間違えではあらぬのか…?あの博識な少佐が 一体 なぜ…?」
軍曹がノートPCに食い入っている

【 国防軍レギスト駐屯地 シャワールーム 】

シャワーのコックが閉められる ハイケルがタオルを被り 脱衣所へ向かう

【 マスターの店 】



ハイケルが店のドアを見る 営業中の札が掛けられている ハイケルが一度向かおうと足を向けるが それを止めて言う
「…今日は 止めて置くか」
ハイケルが向けていた足を戻し 店の前を立ち去る

店内

マスターが言う
「ああ… その事?」
軍曹が顔を上げて言う
「やはり マスターは ご存知で?」
マスターが皿を拭きながら言う
「まぁね… 良く知ってるよ …正直 俺以上に あいつの事を知ってる奴は この世に居ないだろうからね?」
軍曹が言う
「では何故っ あの少佐が… あの知識溢れる少佐が …全ての学位を 未修得 で あられるのか…」
マスターが言う
「うん…」
マスターが皿を置き コップを拭く 軍曹がマスターへ向いて言う
「…例え 最下層の方であっても 孤児院ご出身の方であっても… 中等学位試験までは 国の援助で 無償で受けられるものであります そして、その国が運用する 国防軍への入隊には 中等学位は必須項目となっているのであります …それなのに 少佐は 中等学位だけでなく 小等学位も 未修得 とは… これは 何かの間違えでは?」
マスターがコップを置いて言う
「いや、間違えじゃない あいつは 中等も小等も どの学位も取れていないんだ …同じ孤児院出身で 同じ最下層の人間である俺でさえ それらの学位は 国防軍の入隊前に取得していたけどね」
軍曹が驚いて言う
「で、では?」
マスターが言う
「あいつの優秀さは 君の言う通り …知識だけで考えれば レギストへ入隊して 博士学位まで取った俺と 同等か それ以上だ …けど、あいつには1つ 大きな欠点がある」
軍曹がマスターを見る マスターが言う
「あいつは… ハイケルは 文字が書けないんだ」
軍曹が驚いて言う
「え…?」
マスターが苦笑して言う
「もちろん 習ってないからだとか そう言う事じゃない …それに、何らかの入力装置を使っての入力なら 問題はない事から スペルを覚えていないとか そう言う事でもない …でも 書けないんだ」
軍曹が呆気に取られる マスターが言う
「学位試験に 入力装置なんかの持込なんて 出来ないだろ?だから あいつは全ての試験で 自分の名前さえ書けなくて …それで、全て未修得」
軍曹が呆気にとられて言う
「そんな事が…?一体 何故?」
マスターが皿を拭きながら言う
「うん… それが分からないんだが それでも ハイケルの状態を知った レーベット大佐のお陰で レギストへの入隊が特別に許され 昇格試験ではなく 実戦での活躍を評価されて 今の少佐の地位まで上ったんだ」
軍曹がコーヒーを見つめて言う
「…そう だったので ありますか…」
マスターが苦笑して言う
「幻滅した?」
軍曹が衝撃を受け 慌てて言う
「げ、幻滅だなんてっ!とんでもないっ!実力を持って 国防軍の!…レギストの少佐の地位まで上り詰めるとはっ!流石は少佐っ!正に!真の力を 評価され 上り詰めたお方でありますっ!」
マスターが軽く笑って言う
「…ははっ 良かった 俺があいつの秘密をばらした事で 君がハイケルの傍から居なくなってしまったら 俺の責任になるからな?…あいつに合わせる顔がなくなっちまう」
軍曹が一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「少佐は… 自分が少佐のお傍を離れても 少佐は…」
マスターが言う
「そうか?以前にも言ったと思うが あいつは君を信用しているし きっと 頼りにもしている… あいつがそこまで他人を認めるなんて 結構、珍しい事なんだぜ?」
軍曹が驚いてマスターを見る マスターが軽く笑んで言う
「後、あいつの欠点を教えちまった以上は その逆の 誰よりも秀でている事を 教えて置こう …もしかしたら あいつが文字を書けない事は この事が逆に 影響しているのかもしれない」
軍曹が言う
「そ、それはっ?」

【 ハイケルの部屋 】

暗い部屋の中 ノートPCの機動ランプが光っている ノートPCから配線が伸ばされた先 ハイケルがつけているゴーグルに K-1の映像が映し出されている ハイケルがそれを眺めている

【 マスターの店 】

軍曹が驚いて言う
「そ、そんなっ 馬鹿な…っ」
マスターが苦笑して言う
「そう思うだろ?けど 本当だ あいつがヴァイオリンを弾けるのも そう あのパレードで 前日に見たって言う 曲芸染みた技を披露出来たのも その能力のお陰だ …ハイケルは 一度見た 誰かの行動を 確実に再現する事が出来る それも 速度や位置的な変化を 限界まで補った上でね」
軍曹が呆気に取られる マスターが言う
「ただし、幾つかの条件はある 例えば 力だ 少し前のデータになっちまうけど ハイケルの機重力は86キロが限界だ 多分 筋力や体格が勝る君なら100は越えるだろう だから 単純に力だけの勝負なら ハイケルは君には勝てない けど あいつには それを補って越えるだけの技術がある もし仮に 君が正面から ハイケルに殴りかかったとしても あいつは君の力を応用して 確実に急所を狙って 討ち取るだろうね」
軍曹が驚き言葉を失っている マスターが微笑して言う
「どうだ?驚いただろう?」
軍曹がやっと声を出して言う
「…は… はい… とても…」
マスターが言う
「それから もうひとつある ハイケルは 人が言った言葉を 一字一句間違えずに 覚える事が出来る …だから これを応用して 作戦会議なんかでは メモを取らずに 間違いなく話を覚えていられる …ただ、これにも ちょっと条件が 言うまでも無く ”一字一句間違えずに”って事だから その言葉を応用して 自分の言葉に置き換えたり 敬語だったものを 標準語に直す事なんかは出来ない ま、レコーダーに録音したって感じだな?切り貼りする事位は 出来るみたいだ」
軍曹が納得した様子で頷く マスターが言う
「後、最後に1つ …こいつが凄い」

【 ハイケルの部屋 】

ノートPCの電源ランプの横バッテリーランプが点滅していて 次の瞬間消灯と共に ハイケルの付けていたゴーグルの映像が消える ハイケルが寝息を立てている

【 マスターの店 】

軍曹が慌てて思わず立ち上がって言う
「あ、あのっ マスター!」
マスターが言い掛けていた口を止め 疑問して言う
「ん?どうした?」
軍曹が表情を落とし椅子に腰を下ろして言う
「そ、その… せ、折角 少佐のお話を 頂いていると言うのに 恐縮なのでありますが… …自分は その… それ以上 少佐の個人的なお話は …まだっ 伺って良い者では 無いと思われ」
マスターが呆気に取られた後 苦笑して言う
「あぁ… 悪い悪い… 俺も~ おしゃべりだよなぁ?元情報部の中佐だってーのに 人のトップシークレットを ぼろぼろと…」
軍曹が言う
「い、いえっ 少佐が信頼を寄せるマスターに それほど 御信頼を頂け 自分は今 言葉に出来ないほど 感銘しておりますっ ただ、自分は これ以上は いつの日か 少佐ご自身から 伺いたいとっ」
マスターが微笑し頷いて言う
「ああ、…それが良い きっと近い内に その日が来るだろう」
軍曹がマスターを見てから微笑して言う
「はっ!少佐のご信頼を 更に得られますよう!自分は誠心誠意!頑張らせて頂きますっ!」
マスターが軽く笑って言う
「ああ!精進し給え!」

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースがノートPCを操作し気付いて言う
「ほう… なるほど… そう言う事だったのか これは ともすれば 防長閣下へ 御協力を頂かなければな?」
アースが悪微笑する 扉が開き 執事がやって来て言う
「アース様 そろそろ お時間の様に御座いますが?」
アースが顔を上げ言う
「ああ、そうか つい面白くて 時間を忘れてしまった …すぐに向かおう」
執事が礼をして言う
「はい」
アースが立ち上がり 執事と共に立ち去る

【 皇居 静養施設 】

ラミリツが表情を困らせ通路を歩いている 手に持ったフルーツバスケットを見て 悔しそうに言う
「なんでっ 僕が…っ?」
ラミリツが病室の前で立ち止まり ドアを見てから視線を落とし 溜息を付いてからノックをしようとする 同時にアースの声が室内から聞える
「本当に大丈夫なのか?アーヴィン」
ラミリツが疑問して声に耳を傾ける

室内

軍曹が振り返って言う
「ああ 大丈夫なのだ 実は 昨日から 外出もしていた 屋敷に帰る事くらい なんとも無いのである」
アースが言う
「まぁ 屋敷には医者も居るからな 傷の手当てなどの心配は無いが」
軍曹が荷物を持とうとする アースがそれを先に取って言う
「車まで 私が持とう」
軍曹が苦笑して言う
「兄貴…」
アースが言う
「これでも お前が銃弾を受けた際は 私自身が 身動きが出来なくなるほどの 衝撃だったんだ」

部屋の外

ラミリツがハッとして視線を落とす 軍曹の声が聞える
「俺が無事であったのは 紛う事無く 少佐のお陰なのだ 少佐は1度ならず2度までも 俺の命を救って下された まさに 命の恩人なのである」
ラミリツが視線を戻す アースの声が聞える
「そうだな 神に与えられた兵士 守りの兵士であるお前は 攻撃をする事が許されない …そして、そう お前とは逆の 悪魔に与えられた兵士 攻撃の兵士である あの攻長閣下だが」
ラミリツがハッとしてドアから飛び退く ドアが開かれ 軍曹とアースが出てくる 軍曹がラミリツに気付いて一瞬疑問した後微笑して言う
「お?おおっ!ラミリツ攻長!この様な場所で会うとは 奇遇な!」
ラミリツが呆気に取られた後 不満そうに言う
「…アンタ やっぱ 馬鹿?静養施設にアンタが居て 僕と会うとしたら …奇遇なんかじゃなくて」
ラミリツがフルーツバスケットを突き出す 軍曹が疑問して呆気に取られる ラミリツがムッとして言う
「何発も銃弾受けといて たった5日で退院するとか… どんな体してるんだよっ …普通 死ぬんじゃない?」
軍曹がフルーツバスケットを見て気付いて言う
「むっ!?これはもしや 自分を見舞いに来てくれたのであるか?ラミリツ攻長!」
ラミリツが不満そうに言う
「…だから 気安く呼ぶなって 言ってるだろ …とりあえず 重いから 受け取ってよ」
軍曹が受け取ろうとしながら言う
「では 有り難く 頂戴するのだ!わざわざ 自分を見舞いに来てくれて 感謝する!」
ラミリツが言う
「僕は全然 来たく無かったんだけどね」
軍曹が呆気に取られて言う
「うむ?では 何故…?」
アースが 軍曹が受け取ろうとしていたフルーツバスケットを取って言う
「防長閣下は お怪我を負われている身の為 私が代わって頂戴致します」
ラミリツがアースにフルーツバスケットを渡すと言う
「じゃ、見舞いはしたから」
ラミリツが立ち去ろうとする 軍曹が呆気に取られつつ 思い出したように言う
「う… うむ…?あ、ああっ!では また!陛下のお傍で!」
アースが言う
「攻長閣下 …不躾ながら1つ御伺い致しても?」
ラミリツが立ち止まり 不満そうに言う
「…何?」
アースが微笑して言う
「ペジテの姫が悪魔から得た兵士である 攻撃の兵士… またの名を 悪魔の兵士とされる 攻長閣下の胸には 神の刻印が刻まれている… と言うのは …本当なのでしょうか?」
ラミリツが反応する アースがラミリツの背へ言う
「攻撃の兵士は 本来 政府の信仰書 アールスローン信書に置かれる親兵攻長とされますが ラミリツ・エーメレス・攻長閣下は その刻印を持つが故に 国防軍の信仰書アールスローン戦記に置かれる 悪魔の兵士としても 認められていると 伺ったのですが?」
ラミリツが言う
「…だったら 何?」
アースが苦笑して言う
「いえ、申し訳ありません ただ、私は そちらのお話は 物語の中だけの事と 思っていたもので… もし事実なら 神の刻印とは 一体どの様なものかと…?」
ラミリツが振り返り言う
「今ここで 裸になって アンタに見せろって言うの?」
アースが言う
「…いえ、滅相も御座いません 不躾な発言を 失礼致しました」
ラミリツが不満そうに言いながら立ち去る
「ああ、凄く 失礼だよ 気を付けた方が 良いんじゃない?」
アースが頭を下げたままラミリツを見送る 軍曹が呆気に取られたまま2人を交互に見る

医療施設を軍曹とアースが出てくる 出入り口前で待っていた執事が頭を下げ アースから荷物を受け取り 2人が高級車に乗り込む 執事が乗り車が発つ

【 車内 】

軍曹がアースへ言う
「兄貴 さっきのは…」
アースが言う
「ああ あの様子では 判断はし兼ねるが もしかしたら本当に 神の刻印を刻んでいるのかもしれないな…」
軍曹が不満そうに言う
「そうではない あの様な事を尋ねれば ラミリツ攻長が気分を害するのは 分かっていた筈なのだ 何故あの様な言い方を?」
アースが苦笑して言う
「ふっ… 相変わらず 優しいな アーヴィン」
軍曹が疑問する アースが軍曹を見て言う
「確かに少し 言い方にトゲがあったかもしれないが それ位は 仕方が無いだろう?彼は あのパレードでの襲撃の際 お前を置いて 1人で逃げ出したんだぞ?」
軍曹が表情を困らせて言う
「それは… 致し方なかったのだ 俺の盾が作り物であった様に ラミリツ攻長のあの剣も作り物で 刃すらない物を持たされていたのだ 従って…」
アースが言う
「そうであろうとも お前は陛下を守るため それこそ役名の通り 身を盾にした そうであるならば あの攻長とて同じく 陛下をお守りしようと 身を持って戦うのが当然だろう?」
軍曹が言う
「し、しかし 俺はレギスト… いや、国防軍の代表で あのパレードは国防軍が警護に当たっていたのだ だから 俺が陛下をお守りする理由はあるが 政府の代表であるラミリツ攻長は ご退避しても…」
アースが言う
「さっきの話を聞いていただろう?アーヴィン 彼は確かに政府の代表ではあるが 同時にアールスローン戦記における 悪魔から与えられた兵士 攻撃の兵士だ 例え国防軍が警護に付いていようとも 陛下を放って逃げ出すなどと言う事は許されない」
軍曹が呆気に取られ視線をめぐらせつつ言う
「う…?え、えっと…?しかし その…」
アースが言う
「お前は確かに レギストでの訓練により あのような場面でも臆する事が無かったのかもしれない だが、彼がアールスローン戦記の記述を理由に 陛下の剣となったと言うのなら …神の刻印を持った 悪魔の兵士であるのなら 咄嗟の事態に 逃げるのではなく 戦うのが道理だ 違うか?」
軍曹がアースを見る アースが言う
「私のこの意見は 多くの者の意見でもある 現に あのパレードで 攻長が逃げ出した事は 皆が疑問し話題にもなった それでも、マスコミが騒がなかったのは 私がハイケル少佐への取材を止める手を打つ ずっと以前に 政府の者から 攻長閣下に関わる 全ての話題を取り立たさない様にと 多額の金が積まれていたとの事だった」
軍曹が呆気に取られる アースが軍曹へ向いて言う
「可能であるなら 本当に彼の胸に 神の刻印があるのか この目で確かめてみたいものだよ」
軍曹が視線を落とす アースが苦笑して言う
「まぁ… 難しい話だがな?」
車が走り去る

【 皇居 ラミリツの部屋 】

ラミリツが着替えをしながら溜息を吐いて言う
「はぁ… たく ホント めんどくさ… 何が神の刻印だよ こんなの…」
ラミリツがシャツのボタンを留めようとする手を止め 鏡を見る 鏡に映ったラミリツの姿 左胸心臓の近くにアールスローンの国印が刻まれている ラミリツが溜息を吐いて 着替えを続ける ドアノブが音を立てて開き シェイムが入って来て言う
「エーメレス 防長閣下の御見舞いには 行ったのか?先ほど その防長閣下が 御退院されたと」
ラミリツがシェイムへ向いて言う
「さっき行って来たー ちゃんと兄上に渡された 見舞いのアレも渡してきたし」
シェイムが言う
「襲撃の際に お前が逃げ出した事への謝罪も してきたのだろうな?」
ラミリツが視線をそらし言う
「…それは」
シェイムがムッとして言う
「していないのか?」
ラミリツがシェイムを見上げて言う
「だってっ」
シェイムがラミリツへ平手打ちする ラミリツが悔しそうに顔を顰めてからシェイムへ向いて言う
「あれは 国防軍の!あいつの部下たちのせいだろ!?陛下や僕たちを守らなきゃいけないのに!あいつらが しっかりしないからっ!…それなのに 何で僕がっ!?」
シェイムが怒りラミリツに近付く ラミリツが怯え後ず去って言う
「…嫌だ ぶたないでっ」
シェイムが怒って言う
「お前のお陰で どれだけ マスコミ各社へ 金を積まされたのかっ 分かっているのかっ!」
ラミリツが言う
「だから 僕はっ こんな攻長になんか なりたくないってっ」
シェイムが強く平手打ちをする ラミリツが床に倒れる ラミリツが打たれた頬を押さえ涙を堪える シェイムが言う
「お前は 神の刻印を持つ 陛下の剣 攻長だっ …今後はお前に 本物の剣を所持させる もし、再び あのような事が起きた際は 今回の事を払拭するだけの働きをしろ 必ずだ!良いな!」
ラミリツが視線を落とす シェイムが出て行く ドアが閉められる

【 マスターの店 】

コーヒーカップを置いたハイケルが言う
「そうか …構わない」
マスターがコップを拭きながら言う
「だよな?お前なら そう言うと思った」
ハイケルが言う
「それより あいつの様子はどうだった?まだ 部隊には復帰出来そうに無いか?」
マスターが言う
「うーん 本人は相変わらず すぐにでも復帰したいって様子だったけどな 流石に 4発も食らってちゃ 声も張れない様子だった」
ハイケルが間を置いて言う
「…そうか …では当分先かもな あいつが叫ばない姿など 想像出来ん」
マスターが苦笑する ハイケルがコーヒーを飲んで立ち上がる マスターが言う
「もう戻るのか?」
ハイケルが言う
「あいつのお陰で 部隊の連中も やる気を出したらしい 昼休みも返上して 新たに始めた 第2訓練所の施設を 個人的に練習している 俺が遅れる訳には行かない」
マスターが微笑して言う
「第2訓練所の施設か~ あの施設は 割と良く出来てるよな 実戦でも 役に立つ事が多いし」
ハイケルが言う
「ああ…」
ハイケルがドアに手を掛けた時 マスターが思い出して言う
「あ、そうだ ハイケル」
ハイケルが疑問して振り向く マスターが言う
「その第2訓練所のデータを取った ディスクをだなぁ?どうやら俺は駐屯地を後にする時に 忘れて来ちまったみたいなんだが もし…」
ハイケルが気付き微笑して言う
「そのデータなら 今 マイク少佐が 大いに喜んで鑑賞している」
マスターが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「あらま …恥ずかしいねぇ 俺とお前の 熱い青春の1ページ」
ハイケルがうんざりして言う
「確かに あのデータを取るまでに行った 何千回という訓練には汗を掻いたが その言い方は止めろ …で、取り返して欲しいのか?」
ハイケルがマスターを見る マスターが少し考えてから顔を左右に振って言う
「う~ん… いや、そんなに喜んでくれているんなら 預けておいても良い ただ、少しデータの変更があるから… ん?ああ、そうか ハイケル」
ハイケルが疑問する マスターが微笑して言う
「これから言う俺の言葉を そのマイク少佐へ伝えてくれ お前自身は意味が分からないだろう C言語も入るが 良いか?」
ハイケルがマスターを見る マスターが何か言っている

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクがキー入力をしている ハイケルが言う
「…それから 0100 001011 3684番目の プログラムも同じく変更 これで1.9秒のマイナス処理が成される」
マイクがPC処理を終わらせエンターを押す モニターに表示されているプログラムが更新され セット処理される マイクが言う
「よし完璧 …いやぁ それにしても 凄い!」
ハイケルが言う
「…良かったな そのデータファイルは マイク少佐に預けておいて良い と言っていたぞ」
マイクがハイケルへ向いて言う
「ああっ 失礼 それについては とても嬉しく有り難いと しっかり保管させて頂きますと お伝え下さい」
ハイケルが一瞬間を置いてから言う
「…了解」
マイクが言う
「私がさっき 凄いと言ったのは やはり ハイケル少佐の そちらの記憶力ですよ」
ハイケルがマイクを見る マイクが微笑して言う
「その言い方からして ハイケル少佐は C言語なんかは ご存知無いでしょう?」
ハイケルが言う
「ああ 管轄外だ」
マイクが苦笑して言う
「ええ、それなのに 難しいC言語は勿論 ただの数字と思っては 覚えきれない数字の羅列を 1つも間違えずに覚えていらっしゃるのですから」
ハイケルが言う
「…途中を変更しろと 言われる方が無理だ」
マイクが苦笑して言う
「本当に 凄い能力ですよ 羨ましい」
ハイケルが間を置いて立ち上がって言う
「…部隊の様子を見に行く 邪魔をした」
マイクが言う
「いえ とんでもない!重要な伝言を 有難う御座いました!…ああ、また 後で 隊員たちのタイム統計を取りに そちらへ伺いますので」
ハイケルが立ち去る マイクがPC操作を行う
 
【 国防軍レギスト駐屯地 訓練所2 】

隊員たちがアスレチック式設備で訓練を行っている 隊員Aが倒れて言う
「ぜぇ…ぜぇ… た、タイムは?」
隊員Bが言う
「5分31秒44… ん~ 四捨五入すれば 6分だね?」
隊員Aが衝撃を受け 慌てて言う
「お、おいっ ちゃんと31秒44って書けよ!」
隊員Bが笑って言う
「にひひっ 分かってるって!」
隊員Aが起こしていた上体を倒して言う
「…けどよぉ」
隊員Bが記入をしてから言う
「うん?」
隊員Aが残念そうに言う
「…昨日は 初めてやってから3回で 26秒縮まったのに 今日は殆ど縮まらねーよ」
隊員Bが言う
「ああ… そうだねー?」
隊員Aが言う
「後6回くらい練習したら4分台になるかも!?だなんて 言ってたのにさ?未だに四捨五入したら6分だぜ?夢が遠ざかってく~」
隊員Bが苦笑して言う
「5分31秒44だろ?1秒ちょっと引いて 四捨五入すれば 4分台じゃない?がんばれって?」
隊員Aが呆気に取られ隊員Bを見る 隊員Bがストップウォッチを向けて言う
「次は俺の番だからなー?しっかり計測してくれよ?俺は少佐に追いつくより 軍曹と一緒に少佐を追いかければ良ーんだから!少佐に追いつけなくても 頑張るもんねー?」
隊員Aが苦笑して立ち上がって言う
「けど、少佐が言ってたのが本当なら 軍曹の方がタイムは速いって」
隊員Bが笑んで言う
「うーん それならー?俺たちは やっぱり少佐にも軍曹にも届かないけどー 軍曹はさー?なんか本人は速くても 俺たちに合わせて 一緒に走ってくれそうだからー?俺はその軍曹の足を 出来るだけ引っ張らないようにって したいんだよねー」
隊員Aが呆気に取られてから微笑して言う
「そうだな?軍曹なら そんな感じがする… うん、分かった 俺も もっと頑張るぜ!少佐に追いつくんじゃなくて 軍曹の足を引っ張らねー様に!」
隊員Bが笑んで言う
「そうそうー!」
隊員AとBが拳を突き合せ 隊員Bが向かいながら言う
「よーし!張り切って行くぞー!?」
隊員Aが苦笑して言う
「俺より遅いくせに…」
隊員Bが合図を送る 隊員Aが頷きストップウォッチを開始する 隊員Bが訓練を開始する 隊員Aが微笑して見ていると タイム計測ボードがスッと抜かれる 隊員Aが疑問すると ハイケルが隣に居てタイム計測ボードを眺めている 隊員Aが驚き慌てて言う
「しょっ 少佐ぁっ!?」
ハイケルがボードを見ながら言う
「そろそろ足止めの様だな」
隊員Aが敬礼して言う
「は、はっ!…も、申し訳ありません その… もっと 訓練を… 強化します!」
ハイケルが顔を上げ隊員Bを見る 隊員Bが訓練をしている ハイケルが言う
「お前はいつも バイスン隊員と組んでいるだろう」
隊員Aが言う
「はっ!はい」
ハイケルが隊員Aを見て言う
「では、その彼から お前の訓練を見た感想などは 聞いているのか?」
隊員Aが呆気に取られて言う
「え?…い、いえ タイムは訊いていますが…」
ハイケルがタイムボードを向けて言う
「それは これを見れば分かる事だ 仲が良いのなら尚更 相手の訓練を見て学び 共に注意し教え合う事で 互いの能力を上げろ …期待している」
隊員Aが驚く ハイケルが立ち去る 隊員Aがハッとして 慌てて敬礼して言う
「は、はいっ!有難う御座います!」
隊員Aが放心状態で立っている 隊員Bがやって来て苦笑して言う
「にっひひ~ また失敗しちったー 今の無しで… ん?どうした?」
隊員Aがぎこちない動きで隊員Bへ向いて言う
「き… 期待してるって…」
隊員Bが疑問して言う
「はぁ?」
隊員Aが隊員Bの両肩へ両手を叩き付けて叫ぶ
「やるぞっ!バイちゃん!俺らは 少佐に 期待されてるんだぁああ!!」
隊員Bが呆気に取られて言う
「え?…えっと~?一体どうしたんだ?」
隊員Aがストップウォッチとタイム計測ボードを隊員Bへ突きつけて言う
「バイちゃん!俺のを良く見てろ!あの4番目の設備を超えるには しっかり ロープを握ってる事が重要なんだ!やって見せるから!」
隊員Bが呆気に取られたまま受け取って言う
「う、うん… 分かった 見てる…」
隊員Aが走って行く 隊員Bが呆気に取られて言う
「どうしちゃったんだ?いつもなら 休憩したいからって 俺が失敗したら もう一度やらせるのに…」

【 国防軍レギスト駐屯地 食堂 】

隊員たちが驚いて叫ぶ
「「えぇえええーーっ!?」」
隊員Aが笑顔で言う
「どうだ!?すげーだろ!?5分02秒32だぜ!部隊トップ記録!」
隊員Cが言う
「す、すげぇ… 俺なんて まだ5分40秒なのに」
隊員Bが言う
「アッちゃんは ホントすっげーよ 今日一日で 29秒12も縮めたんだ」
隊員Aが喜んで言う
「いやぁ~ 食堂の寂れた夕食が こんなに美味いのは 初めてだなぁ~」
隊員Cが落ち込んで言う
「負けた…」
隊員Aが言う
「いやあ!バイちゃんのお陰だって!俺の不得意だった 5、6、7番目の 魔の施設を越えるコツを 教えてくれただろ!?あれで一気にタイムが縮まったんだ!」
隊員Bが苦笑して言う
「アッちゃんは 上る系の設備越えが得意な分 地面を這う系のは苦手だったもんね?今でも5,6,7番目のだけなら 俺の方が速いもんねー」
隊員Aが笑んで言う
「んじゃ 明日は バイちゃんは1から4までの設備強化で 俺は5,6,7の訓練をもっと練習しよう!」
隊員Cが驚いて言う
「え?お前ら 全部通してのタイム計測をやってるんじゃないのか?」
隊員Bが言う
「最初はそうだったんだけどー?」
隊員Aが言う
「お互いの様子を見てたらさ 相手の不得意な設備が見えてきたんだ だから、全体の訓練ばかりじゃなくて その不得意箇所を てってー的に練習する方が良いんじゃねーかって で、少佐にそうして良いか 訊いたら 良いって言われたから」
隊員たちが衝撃を受け言う
「えっ!?」「お、お前らっ!?」「いつの間に そんなに 少佐と親しくなってたんだよっ!?」
隊員Bが言う
「俺も アッちゃんから 少佐に言われた言葉を聞いたときには びっくりしたけど… けど、そう言ってくれるって事は 俺たちから質問とかしても 良いかなーってー?」
隊員Aが言う
「そうは言っても バイちゃん やっぱ勇気あるよな?俺はびくびくしてたのに 正面から”少佐 お伺いしても宜しいでしょうか!?”って」
隊員Bが言う
「でも、お願い内容を全部言ったのは やっぱり アッちゃんだったじゃない?」
隊員Aが言う
「ああ 俺前に少佐を探しに 行かされた事があっただろ?その時 俺、一度少佐に怒られて… あ、いや 怒ってる少佐を見てさ …それで 分かったんだ 普段の少佐は 別に 俺たちが頼りなくて機嫌が悪い って訳じゃないんだな~って ホントに怒ってる時の少佐は …まじで こえーから …ははっ」
隊員たちが呆気に取られる 隊員Bが微笑して言う
「そうなんだ… あーけど、俺も今日 アッちゃんから聞いて 分かったよ 軍曹だけじゃなくて 少佐も俺たちの事 ちゃんと自分の部下として 見てくれてるんだって …なにしろ!」
隊員AとBが声を合わせて言う
「「”期待している” だもんなー!?」」
隊員AとBが大喜びで笑う 隊員たちが呆気に取られる サイレンが鳴る 隊員たちが驚く スピーカーからアナウンスが流れる
『緊急指令 緊急指令 国防軍16部隊 直ちに 戦闘装備を行い 車両収納所へ集合せよ 繰り返す 緊急指令 緊急指令 国防軍16部隊 直ちに 戦闘装備を行い 車両収納所へ集合せよ』
隊員たちが言う
「俺たちじゃなくて 16部隊だ」
「緊急指令って… まじかよっ」
「何があったんだろ…?」
隊員たちが顔を見合わせる

【 国防軍レギスト駐屯地 ミーティングルーム 】

バックスが言う
「18時40分 先ほど 政府警察から 我々国防軍へ応援要請がなされた 犯人グループは人質2人を取り 現在 警察へ要求し手に入れた車両を使い 国道22号をメルヘ地区から南下中 間もなく16部隊の管轄である ランドム地区へと到達する …レムス少佐」
レムスが言う
「はっ!」
バックスがレムスへ向いて言う
「犯人グループが ランドム地区の何処かへと逃げ込む可能性がある あの地区には 廃墟となっている建物が多い そちらへ到達後は 16部隊の総力を挙げ 人質の救出 共に 犯人グループの拘束を行え」
レムスが言う
「了解っ!既に我が16部隊は 駐屯地を出発しております 現在は 部隊の一班が国道22号へ向かい 残りは 犯人たちが逃げ込む可能性のあるランドム地区一帯への配備へと 向かわせています」
バックスが頷き言う
「よし、それでは レムス少佐 君もすぐに合流したまえ」
レムスが立ち上がり敬礼して言う
「はっ!了解!」
レムスが立ち去ろうとする バックスが視線を変えて言う
「情報部は 16部隊の援護と 引き続き 犯人グループの行動 警察の行動 その他の情報を集めて置くように 以上だ」
バックスが立ち去ろうとする マイクが立ち上がって言う
「お待ち下さい バックス中佐!」
バックスとレムスが立ち止まりマイクを見る バックスが言う
「何だ?」
マイクが言う
「17部隊 レギストへも 是非 出動要請を!」
バックスとレムスが驚き レムスがムッとする


続く
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