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アールスローン戦記0
しおりを挟むアリシア母がハープを奏でて言う
『昔々… アールスローンの戦乱の最中 ペジテと言う国に 1人の美しい お姫様が居ました』
幼いアリシアが嬉しそうにそれを眺めている アリシア母が顔を向け幼いアリシアに微笑み言葉を続ける
『ペジテの姫は竪琴を奏で アールスローンの神様に祈りました ”どうかペジテを敵から 守る 強い兵士を与えて下さい” 姫の願いに 神様は姫へ とても強い守りの兵士を与えました しかし とても強い守りの兵士は 神に作られた兵士なので 決して相手を傷付ける事をしません ペジテの姫は困り 再び竪琴を奏でながら 神様へ祈りました ”どうかペジテの敵を 殺める 強い兵士を与えて下さい”』
幼いアリシアが嬉しそうに聞いている メイドの声が聞こえる
『奥様 旦那様がお戻りです』
アリシア母ハープを奏でる手を止める 幼いアリシアがメイドへあっと嬉しそうに微笑んでから アリシア母へ向く アリシア母が微笑み 幼いアリシアの手を引いて行く
【 物置部屋 】
レクイエムが流れている アリシアが小さなハープで奏でている 横目に周囲を見る 薄暗い周囲 部屋の一角に立派な飾り鎧 両脇にも一体ずつ 他にも飾り物が雑然と置かれている アリシアが曲を弾き終えると 小さなハープを見つめて言う
「お父様 お母様…」
アリシアが目頭の涙をぬぐい 間を置いて立ち去る
【 雑談室 】
軍兵たちが雑談をしている ハープの音が流れている曲はレクイエム 雑談所の一角演奏所でアリシアがハープを奏で 横目に周囲を見る 誰もハープを聞いている者は居ない アリシアが目を伏せハープを見て思う
(今日も誰も聞いてくれない… でも 曲が終われば 拍手だけはくれるもの…)
アリシアが曲を終わらせ 立ち上がり礼をする アリシアが驚き周囲を見る 誰もアリシアに気付かず雑談を続けている アリシアが驚きに目を見開いていた状態から 涙をこぼしつつ逃げる様に立ち去る
アリシアが裏通路へ飛び出して来て胸に手を当て息を切らせつつ涙を堪え思う
(私のハープなんて…っ)
アリシアが涙を拭ってとぼとぼと歩く 数歩行った先 ふと気付き前方へ目を凝らす ウイリアムが部屋の中を覗いている アリシアが疑問して言う
「叔父様…?」
アリシアが声を掛けようとした時 ウイリアムがハッとして慌ててアリシアの居る側と逆方向に逃げて行く アリシアが疑問していると 部屋の中から軍曹の声が響く
「誰だっ!?」
アリシアがビクッと身を震わせて立ち止まる 部屋から軍曹が出て来て部屋の外を確認し アリシアに気付いて視線を強める アリシアが怯える 軍曹が言う
「お前か?」
アリシアが怯えながら言う
「え?えっと…っ あの…っ」
軍曹がやって来て アリシアの前で言う
「話を聞いていたのかっ?」
アリシアが怯えながらも顔を左右に振る 軍曹が強い視線でアリシアを見る アリシアが怯えていると 室内から声が掛かる
「軍曹 どうした?」
軍曹がアリシアへ向けていた身を起こし 部屋の方へ体を向けて言う
「はっ!少佐っ!お話の途中で 失礼をしました …異常ありません!…であります!」
軍曹がアリシアを警戒しつつ部屋へ戻り強くドアを閉める アリシアがその音に身を震わせ 間を置いてその場を走り去る
【 車中 】
アリシアが隣の席を見る ウイリアムが書類を見ている アリシアが言い辛そうに言う
「あ… あの 叔父様…?」
ウイリアムはアリシアに気付かず真剣に書類を見ている アリシアが困りつつ視線を逸らす ウイリアムが執事に問う
「明日の懇談は 今日と同じ時刻か?」
執事が答える
「はい、上層部の方々のお時間が 本日と同じとなりますので 懇談のお時間も同じとなるものかと」
ウイリアムが考える アリシアが言い辛そうに言う
「あ、あのっ 叔父様 先ほど… いえ 私は…」
ウイリアムが間を置いて気付いて言う
「…ああ、アリシア 今日も良い演奏だったよ 明日もこの調子で頼む」
アリシアが一瞬驚き視線を落として言う
「…でも 私のハープは 誰も…」
ウイリアムが執事に言う
「明日も 楽団の上層部が軍の上層と 懇談会と銘打って…」
アリシアが視線を落とし息を吐く アリシアを乗せた車がウイリアムの屋敷に入って行く
【 ウイリアムの屋敷 】
車が止まると召使いがドアを開ける 召使いたちが言う
「お帰りなさいませ 旦那様」
ウイリアムに続きアリシアが降り ウイリアムに続いて歩く 召使いがウイリアムに言う
「旦那様 お食事の用意が整っております」
ウイリアムが言う
「ああ、すぐに それから…」
ウイリアムの言葉の途中でエリスが呼びながら駆け寄って来る
「パパー!」
ウイリアムがエリスを抱き止めて言う
「おお!エリス!会いたかったぞー」
エリスがウイリアムに言う
「エリスもー!ねーパパー?今日エリス ヴァイオリンを弾いたのよー!」
ウイリアムが言う
「なにヴァイオリンを!?そうか!エリスは音楽の天才だな!」
ウイリアムが歩みを進める 皆が続いて エリスが嬉しそうに言う
「うん!それからね!?ヴィオラも弾いたのよー!」
ウイリアムが言う
「それはすごいっ!では パパがお祝いをしないとな!」
エリスが言う
「ほんとー!?」
ウイリアムが言う
「ああ!本当だとも 何でも言ってご覧?」
エリスが言う
「それじゃね?エリス あの丘の上のホテルで ディナーを食べたいわ あのホテルからの夜景がね とっても綺麗なんだって 今日お友達が言ってたの!」
ウイリアムが微笑んで言う
「そうか 夜景を見ながらディナーか それは良い 早速 着替えて向かおうじゃないか おい、車を用意しておけ」
召使いが言う
「し… しかし 旦那様 お食事の準備が…」
ウイリアムが言う
「構わん 娘の祝い事だ そちらのホテルとやらへも これから向うと連絡をして置け」
召使いが言う
「畏まりました」
アリシアが沈黙する
【 アリシアの部屋 】
深夜 アリシアがベッドに横になっている テーブルに夕食の後がある アリシアが物思いにふける
【 回想 】
アリシアとアリシア母が向かった先 アリシア父が誰かに指示を出している 飾り鎧がトラックから運び出されている 幼いアリシアが呆気に取られて見ていると アリシア父が2人に気付いて言う
『どうだ!今度の鎧は!?すばらしいだろう!』
アリシア父が嬉しそうに飾り鎧を撫でる アリシア母が困り苦笑して言う
『まぁ貴方?これで何体目ですの?』
アリシア父が衝撃を受け言う
『うっ… そ、それは… いや!そうだともっ!今度のは ハイケルの昇格祝いだ!』
アリシア母が言う
『部下の方の昇格を祝う度に 飾り鎧を買っていては このお屋敷はいつか、飾り鎧屋敷になってしまいますわ?お祝い事で買うのでしたら せめて家族のお祝い事にして下さいまし?』
アリシア父が困って言う
『う、う~ん そうか家族ので… で、では…?うむ!そうだ!これは 初めて君と手を繋いだ あの日の祝いだ!』
アリシア母が言う
『あの日の…?』
アリシア父が言う
『ああ!私は忘れないぞ!?あの暑い夏の日を!手の汗を何度も拭って 君に差し出した あの緊張と胸の高鳴りを!』
アリシア母が苦笑して言う
『ええ… 私だって… では貴方?あの日をお祝いするのでしたら 私にも何か…?』
アリシア父が衝撃を受ける アリシア母が微笑んで幼いアリシアの肩を抱き言う
『それに あの暑い夏の日があったからこそ 私たちの愛しい アリシアが居るのです でしたら この子にも…?』
アリシア父が困りながら言う
『あ、ああ~ …うん?おおっ!そうだった すっかり忘れていた!』
アリシア父が一度身を引き すぐに戻って言う
『アリシア これをお前に』
アリシア父が幼いアリシアへ渡す 幼いアリシアが疑問しながら受け取ると アリシア母が微笑んで言う
『まぁ 可愛らしいハープです事』
アリシア父が笑んで言う
『うむ!今日たまたま 町の骨董品屋で 飾り鎧を眺めていた時に見つけてな?アリシアに普通のハープはまだ大きいが これなら…』
アリシア母が微笑んだ後気付いて言う
『あら?では貴方?たまたま見ていた飾り鎧を 衝動買いなさったのですね?ハイケルさんの昇格祝いなどではなく?』
アリシア父が衝撃を受け慌てて言う
『うっ!?い、いや… その…っ い、良いではないか?お陰で アリシアに良い物を見つけてやれたんだ どうだ?アリシア アリシアも母さんのハープが大好きだろう?』
アリシア母が溜息を吐いて苦笑する 幼いアリシアが嬉しそうに小さなハープを奏でて言う
『はい!アリシアは お母様のハープも お父様の鎧さんも どちらも大好き!とっても綺麗だから!』
アリシア母とアリシア父が一瞬呆気に取られた後 アリシア母が視線を向け苦笑して言う
『ええ… そうね綺麗では ありますけれどね?それでしても…っ』
アリシア父が苦笑して言う
『分かった分かった… 今度はもう少し… それから 君への祝いの品を 見付けに向おうか?あの時のように2人で?…いや 今度は3人でだ!』
アリシア父が手を服で拭ってからアリシア母とアリシアへ向ける アリシア母とアリシアが顔を見合わせてから微笑してその手を取る 皆の視線の先 飾り鎧にちりばめられた宝石が輝く
【 回想終了 】
アリシアが目に涙を浮かべている アリシアが身を起こし 涙を拭う アリシアがベッドから出る
【 物置部屋 】
レクイエムが流れる アリシアが窓辺に腰掛け 小さいハープを奏でている 薄暗い部屋の中 月明かりに埃をかぶった飾り鎧の宝石が鈍く光る 演奏が終わる アリシアが視線を落とし アリシア父と繋いだ自分の掌を見てから言う
「…もう拍手もしてもらえないのに」
アリシアが涙を堪えてから 悲しそうにハープを見て言う
「お父様 お母様…」
アリシアの目から涙が零れる 飾り鎧がゆっくり動き拍手をする アリシアが驚き周囲を見ると 豪華な飾り鎧に続き 周囲の飾り鎧も拍手をする 床に転がっていたぬいぐるみもシンバルの付いた手で拍手をしている アリシアが呆気に取られた後微笑して礼をする
【 雑談室 】
軍兵たちが雑談をしている ハープの音が流れている曲はレクイエム 雑談所の一角演奏所でアリシアがハープを奏で 横目に周囲を見る 誰もハープを聞いている者は居ない アリシアが目を伏せようとして ふと昨夜の事を思い出し ハープを眺めながら思う
(あれは… 夢 …よね?)
アリシアがハープをぼんやり見ながら演奏を終え 立ち上がり礼をする アリシアが礼を終えて周囲を見る 周囲に変化は無い アリシアが目を伏せ静かに立ち去る
アリシアが裏通路へ向かうと ウイリアムが部屋を覗いている アリシアが気付きウイリアムに声を掛けようとするが止めて引き返そうとする ウイリアムが身を乗り出して聞き入り ハッとして身を引くと同時に 銃声が響く アリシアが驚き振り返ると ウイリアムが目の辺りを抑え逃げ去る アリシアが驚き立ち尽くしていると 扉が開き軍曹が周囲を見て アリシアに気付くとハッとしてから表情を怒らせて近づいてくる アリシアが怯えて後づ去り 逃げ出そうとすると 軍曹がアリシアの腕を掴んで言う
「やはり お前かっ!?」
アリシアが顔を左右に振って言う
「ち、違うわっ!私じゃっ!」
軍曹が言う
「昨日も今日も居て 違うだとっ!?その様な事!」
アリシアが怯えて言う
「わ、私は…っ!」
軍曹がアリシアに拳銃を突きつける アリシアが目を見開き怯えて強く目を閉じる 少佐の声が届く
「止めないかっ 軍曹!」
軍曹がはっとする アリシアが恐る恐る目を開く 軍曹が後ろを見て言う
「し、しかし 少佐 この娘はっ」
少佐が言う
「幼い少女が聞いて 分かる内容ではない 事を荒立てるな」
アリシアが逸らしていた目を向ける アリシアからは軍曹の後方に居る少佐が見えない 軍曹が言う
「ですがっ 内容は分からずとも 伝える事なら出来ます!誰かの差し金と言う事もっ」
少佐が身を下げ床を見て言う
「…対象は 君の放った銃弾に負傷したようだが?」
少佐の足元ウイリアムが居た場所に血痕がある 軍曹がはっとしてアリシアを見てから口をつぐむ 少佐が背を向け部屋へ入って行く 軍曹がバツの悪そうにアリシアを手放し部屋へ戻りつつ 駆け付けた衛兵へ何かを伝えている アリシアが怯えその場から逃げる
アリシアが荷物を持って出入り口に出て来て立ち止まり疑問し周囲を見る 周囲に車や人の気配は無い アリシアが一瞬疑問した後 ウイリアムが負傷した事を思い出し少し考えてから バス停に止まっているバスに乗り込む
【 ウイリアムの屋敷 】
夕方 ウイリアムの屋敷が見えるバス停にバスが到着し発車する アリシアが1人立っていて ウイリアムの屋敷を見上げてから 一息吐いて歩き出す
アリシアが屋敷の入り口に現れると 召使いが驚いて言う
「アリシアお嬢様っ!大変です 旦那様がっ!」
アリシアが召使いを見る 召使いが言う
「旦那様がお怪我をなされてっ!お命に別状はございませんが お車でお戻りになってから お部屋でお休みになっておられます ご一緒でした お嬢様はお怪我などはっ!?」
召使いがアリシアの体を見る アリシアが言う
「…私は大丈夫」
召使いがホッとして言う
「そうでしたか… そちらはよろしゅう御座いました」
アリシアが屋敷に入って行く
【 アリシアの部屋 】
夕刻 アリシアがベッドで眠っている 部屋には夕食の後がある アリシアが昼間の事を思い出す
ウイリアムが目の辺りを抑え逃げ去る アリシアが驚き立ち止まっていると 扉が開き軍曹が周囲を見て アリシアに気付きハッとしてから表情を怒らせて近づいてくる アリシアが怯えて後づ去り 逃げ出そうとすると 軍曹がアリシアを掴んで言う
『やはりお前かっ!?』
アリシアが顔を左右に振って言う
『ち、違うわっ!私じゃっ!』
軍曹が言う
『昨日も今日も居て 違うだとっ!?その様な事!』
アリシアが怯えて言う
『わ、私は…っ!』
軍曹がアリシアに拳銃を突きつける アリシアが目を見開き怯えて強く目を閉じる 軍曹がニヤリと笑む 少佐の声が届く
『止めないかっ!軍曹!』
軍曹がはっとする アリシアが恐る恐る目を開く 軍曹が後ろを見て言う
『し、しかし 少佐 この娘はっ』
少佐が言う
『幼い少女が聞いて 分かる内容ではない 事を荒立てるな』
アリシアが目を開き 表情を落として思う
(叔父様は 何を聞いて…?)
アリシアが軍曹の姿を思い出して思う
(あれは… レギストの軍人さん…)
アリシアがアリシア父の姿を思い出して思う
(お父様と 同じなのに…)
アリシアが一度目を閉じてから身を起こし ベッドを出る
【 物置部屋 】
レクイエムが流れる アリシアが部屋の片隅窓辺に腰掛け小さなハープを奏でている アリシアが思い出す
【 回想 】
アリシア母が訴える
『貴方っどうして…っ!?』
アリシア父が放心状態で言う
『分からない…っ 私は… 私は 何故…っ!?』
周囲では家具や財産が持ち出されている 幼いアリシアが呆然と見ている アリシア父の飾り鎧が運ばれる 幼いアリシアが言う
『お父様の鎧さん…?』
アリシア母のハープが運ばれる 幼いアリシアが言う
『お母様のハープ…』
持ち出し作業をしている人がアリシアに気付き 幼いアリシアの小さなハープに手を掛けて言う
『こいつもか…』
幼いアリシアが驚き慌てて言う
『いやぁーっ!』
持ち出し作業をしている人が驚き怒って言う
『この ガキっ!』
アリシア母がアリシアを庇って言う
『止めてっ 娘に乱暴はしないでっ!』
持ち出し作業をしている人が怒ってアリシア母を殴りつける アリシア母が悲鳴を上げて倒れる 幼いアリシアが驚いて言う
『お母様っ!』
別の作業員が振り向いて言う
『おい 撤収するぞ 何をしている?』
持ち出し作業をしている人が振り返って言う
『このガキが手を…』
別の作業員が状況を見て言う
『どうせ子供のおもちゃだろう?そんな物金にならん 放っておけ』
持ち出し作業をしている人が舌打ちをして 幼いアリシアの前から立ち去る 幼いアリシアがアリシア母に向く アリシア母が他方を見て呆気に取られている 幼いアリシアが疑問する アリシア母が叫ぶ
『貴方っ!?あなたーーっ!』
銃声が鳴る
【 回想終了 】
ハープを奏でる手が止まる アリシアが正面を向いたまま視線を落とす 間を置いてふと気付き 窓の外を見て言う
「…何?今 何か…?」
窓の外 下方に見える庭に人が走る アリシアが疑問して立ち上がると 突如 大きな物音がエントランスから響く アリシアが驚いて顔を向ける
エントランスに兵士らが押し入っている 軍曹が指示を出す
「ウイリアム伯爵を探せ!A班は東 B班は西へ!発見次第 少佐の下へ引き連れて来るのだっ!」
アリシアが部屋の扉に近づく エントランスの声が届く
「少佐!ウイリアム伯爵を発見致しました!」
別の声が届く
「夜分遅くに 失礼する 伯爵」
アリシアがハッとして思い出す
『止めないかっ!軍曹!』 『幼い少女が聞いて 分かる内容ではない 事を荒立てるな』
アリシアが扉を薄く開けて外を見る エントランスの中央 隊員たちの前にウイリアムが床に膝を着けられている ウイリアムが見上げて言う
「な、何の用だ!?私は知らない!何もっ!」
軍曹がウイリアムに近づいて言う
「ほぉ~?知らない と?では”何を”知らないのか?うん?」
ウイリアムが焦る 軍曹がニヤリと笑んでウイリアムの右目を覆っているガーゼを引き剥がして言う
「この傷は?まだ新しいな?まるで… 俺が昼間撃った 銃弾の痕の様だが…?」
ウイリアムが慌てて言う
「こ、これはっ!た、たまたま今日 軍隊の演習を見に行った際にっ」
少佐が言う
「ウイリアム伯爵 貴方が我が軍の機密事項を 黒の楽団へ密告した事は 既に確認している また、過去にも 我が軍の機密事項が 流失した事がある 丁度… あの時も 貴方の手配した 宿泊施設での懇談の後だった…」
ウイリアムが言う
「な、何かの間違えだ!私は決してレギストを裏切るような事はっ!」
少佐が言う
「ウイリアム伯爵 …残念だ」
アリシアがはっとする ウイリアムの目前に拳銃が向けられる アリシアが強く目を閉じる 銃声が鳴り響く ウイリアムが倒れる 軍曹が叫ぶ
「屋敷内を捜索しろ!使用人も家族も …全て始末しろ!」
アリシアが驚く 軍曹が気付きアリシアの隠れている部屋の扉に目を向ける アリシアが驚き瞬時に扉に背を向ける 軍曹が口角を上げ歩き出す 少佐が軍曹を見てから視線を逸らす 軍曹が意味深な笑みを浮かべ 隊員へ指示を出す
アリシアが小さなハープを抱きしめ 目を見開き戸惑っている 扉が勢い良く開かれる 兵が一歩入り周囲を見渡す 周囲に人影は無い 兵が視線を細めにやりと笑んでゆっくり言う
「ふむ… 誰も居ないか…」
中央の飾り鎧の後ろにアリシアが背を付けうずくまって怯えている アリシアが横目に後方を見る 部屋の扉が閉じられる アリシアが一瞬間を置いてホッと胸を撫で下ろす その瞬間アリシアの頬を掠め ナイフが突かれて壁に刺さる アリシアが目を見開いて硬直する 部屋を出て行ったと見せかけた兵がニヤリと笑んで言う
「ヴォール軍曹の目に狂いは無い そこに隠れているのだろう…?」
アリシアが怯え強く目を閉じる 兵が言う
「出て来ないのなら…」
兵が壁に刺さったナイフを引き抜き 近づいて来る アリシアが身を縮め 強く思う
(嫌っ…誰かっ 助けて!お父様っ お母様…っ!)
兵がアリシアの居る辺りへ手を伸ばして来る アリシアの後方片脇の飾り鎧が静かに動き 地へ向けていた剣を天へ向けて構える
エントランスに激しい鉄製の物音が届く その場に居た皆が反応し 少佐が顔を向け 軍曹が視線を強め 兵を集めて向かう
アリシアが自分の横に差し込まれた腕を見て怯えている 片側の飾り鎧が静かに動き 地へ向けていた剣を天へ向けて構える 部屋の扉が開かれ 兵たちが銃を向けるが 皆その先の光景に驚き息を飲む 軍曹が驚き言葉を失っていると 少佐がやって来て数歩部屋に入る 軍曹が床に倒れている兵を確認し その横に倒れている飾り鎧を見てから少佐へ言う
「こ… この鎧が倒れた拍子に 運悪く鎧の剣が…」
飾り鎧の剣と 兵の体の周囲に血溜まりが広がる 軍曹が兵を見て言う
「…これでは 即死であったかと」
少佐が兵と倒れている飾り鎧を見てから軍曹へ言う
「この不始末は 君の責任だ軍曹 兵は単身では動かすな 状況証拠だけでは立証には繋がらない」
軍曹が僅かに頭を下げて言う
「はっ… 申し訳ありません 少佐」
少佐が半身逸らして言う
「そちらの兵を回収しろ 血は処理をしている時間が無い」
兵士たちが兵の体を回収する アリシアに向けられていた腕が引かれる アリシアが必死に声を殺している 他の兵が走って来て敬礼して言う
「少佐!ウイリアム伯爵の娘 並びに使用人たちの処理が 全て終わりました!」
アリシアが驚く 少佐が言う
「了解 撤収する」
兵士たちが敬礼して立ち去る 少佐と軍曹が立ち去ろうとして 少佐がふと気付き振り返る 軍曹が言う
「少佐?如何致しました?」
少佐が考え 間を置いて言う
「…いや?この飾り鎧 少し可笑しいと思ってな」
アリシアが声を殺して視線を向ける 軍曹が飾り鎧を見て言う
「…と、申されますと?」
少佐が言う
「これは ペジテ王と両腕の騎士をモチーフにした飾り鎧だ ペジテ王は 戦いを好まぬ王であった為 戦いの沈静 平和を示し その剣は地へ向けられている 両腕の騎士もまた然り …だが この両腕の騎士たちは」
軍曹が両腕の騎士を確認して言う
「どちらも 剣を上に?」
少佐が目を細めて言う
「倒れた飾り鎧が 剣を地へ向けていれば 彼も身を切られずに済んだ筈…」
軍曹が呆気に取られる 少佐が周囲を見て息を吐き 踵を返して言う
「いや、無知な金持ちの道楽か 飾り鎧の経緯など知らずに 飾っていたのかもな …行くぞ 軍曹」
少佐が立ち去る 軍曹が返事をして続く
「はっ!少佐っ!」
アリシアが息を忍ばせている
間を置いて屋敷から車両が発つ音がする 周囲を静寂が覆う 倒れていない飾り鎧が天へ向けていた剣を地へ下ろし 再び元通りに構える アリシアが縮こまったまま怯えている
月明かりが傾く その光に飾り鎧の宝石が鈍く光る アリシアが身を隠したまま眠っている アリシアが背を預けている飾り鎧のマントがひとりでに落ち アリシアの身を覆う
【 翌日 】
警察が屋敷内を確認している アリシアが目を覚まし 周囲を確認して窓の外を見る 警察の車両や人が見える アリシアがそれを確認して扉へ向かう
エントランスに刑事が数人居て確認作業などを行っている 状況を聞いた刑事が言う
「…そうか 屋敷に居た者全てが」「なんと残忍な…」
現場検証をしている警察が上階を見上げ気付いて言う
「ん?あ、あれはっ!?」
刑事が言う
「アリシア・フランソワ・レーベット… ふむ、ウイリアム伯爵の養女か」
アリシアが俯いている 刑事が言う
「君は昨日屋敷に?隠れていたのか?」
アリシアが静かに頷く 刑事がメモを取りながら言う
「では 君は見たかね?屋敷の者を皆殺しにした …その犯人を!」
アリシアがビクッと身を震わせる 別の刑事が気付いて小声で言う
「おい、言い過ぎだろう?この子は 両親だけでなく 叔父まで失ったんだぞ」
刑事が気付き 気を取り直して言う
「…そうだったな、すまなかった だが、君も 君の大切な家族を奪った犯人が憎いだろう?何か 手がかりになるような事を思い出せないか?」
アリシアが昨日の風景を思い出す 少佐の声と軍曹の姿が目に浮かぶ アリシアが表情を強張らせる 刑事がアリシアを見つめる アリシアが間を置いて言う
「…いいえ」
刑事が身を乗り出した状態から呆気に取られ溜息を吐いて身を戻す
【 車中 】
アリシアが窓の外を見ている 刑事が書類をめくりながら言う
「親戚はウイリアム伯爵の他になしか… では 君の身はとりあえず 孤児院に移される事になるが…」
アリシアが視線を細め 手に持っている小さなハープを抱きしめる
【 孤児院 】
院長が書類を見てから言う
「大変だったね アリシア でも、もう大丈夫だ 今日からここが君の家になる 皆一緒だ ここには君のほかにも 色々な境遇を経て集まった子供たちが沢山居る 原則としては16歳までとなっているが 行く当ても無いまま追い出したりなどはしないから 安心しなさい」
院長がアリシアに微笑みかける アリシアが院長を見てゆっくり微笑する
アリシアが園内で小さなハープを奏でている 一部の子供たちがそれを聞いている 副院長がやって来てアリシアを呼ぶ
「アリシア 貴女にお客様です」
アリシアがハープを奏でる手を止めて疑問する
マイルス(・レーン・エレメス)が微笑む アリシアが呆気に取られる 院長が振り返ってアリシアを確認してから マイルスへ言う
「エレメス公 この子が先ほどお話しました アリシアです」
アリシアが驚く マイルスがアリシアへ微笑んで言う
「初めまして アリシア 私はマイルス・レーン・エレメス 官位は公爵 君の話を院長先生から伺ってね?今日はその君に会いに来たんだ」
アリシアが呆気に取られた状態からハッとして礼をする マイルスが微笑む 院長が言う
「アリシア、エレメス公はとても音楽を愛されていて 過去にもこの孤児院から 音楽に興味のある子供たちを 養子に迎えて下されているんだ」
アリシアが呆気に取られつつマイルスを見る マイルスが微笑して言う
「私の子供たちで 小さなオーケストラを作る事が夢でね?とは言っても 本格的なものではなく 休日に 家族が皆で演奏会をして楽しめるような… そんな暖かな ごく個人的なオーケストラだ」
アリシアが呆気に取られている マイルスが軽く首をかしげて言う
「…と、そんな私の家族に どうだろうか?アリシア」
アリシアが驚いて言う
「…え?」
マイルスが微笑んで言う
「ハープが得意だそうだね?先ほどの演奏も とても素晴らしかった 君が来てくれるというのなら さっそく 私の小さなオーケストラにハープを用意しておこう」
アリシアが驚く 院長がアリシアへ優しく問う様に微笑む
【 マイルスの屋敷 】
子供たちが無邪気に走り回る そんな中 一部の子供たちは ヴァイオリンやトランペットを吹いている アリシアが呆気に取られていると マイルスがアリシアの肩に手を置き 微笑みかけてから 皆へ向いて何かを言っている 子供たちがマイルスの言葉を聞く アリシアが慌てて皆へ礼をする 子供たちが一瞬呆気に取られてから笑顔で迎え入れる アリシアが微笑し笑顔になる マイルスがそんなアリシアに笑み頷いてみせる
半年後――
子供たちが少し成長している 人数も少し増えた状態で リーダー格の子供テトが壇上に立ち 大人を真似 指揮棒で譜面台を叩き 皆の視線を集めると咳払いをして言う
「うんっ おほんっ では皆 昨日の続きからだ」
子供たちがクスクス笑う テトが笑っている子供を指揮棒で示して言う
「そこっ セイシュクに では 第2楽章…」
子供の1人が手を上げて言う
「はーい テト先生ー 第2楽章は昨日全部終わりましたー!」
テトが衝撃を受け 慌てて譜面をめくって言う
「あっ… えーとそれじゃ… おっほんっ では 第3楽章から 第3楽章は短いので 今日のうちに終わらせます」
子供たちが返事をする
「はーい」
アリシアが譜面をめくりハープを構えていた状態から解除して思う
(第3楽章は… ハープの出番はないわ…)
1人の子供が場所を移動しながら言う
「第3楽章なら 私チェンバロに代わらなきゃ」
アリシアが間を置いて 周囲を見てから席を立つ テトが指揮棒を上げ 間もなく演奏が始まる
アリシアが部屋を出て歩きながら思う
(私も ハープの他にも 何か練習しようかしら…?マイルスオーケストラは 人数が少ないんだし 他の楽器も出来た方が良いに決まってるわ それに どんな曲でも ハープはずっと出番がある楽器ではないもの…)
アリシアが部屋の前を通りかかると 部屋の中からマイルスの怒鳴り声が聞える
「冗談じゃないっ!」
アリシアが驚いて足を止める 部屋の中からマイルスの怒鳴り声が続く
「私はっ 音楽を愛する気持ちから 貴方方の楽団へ!寄付をしようと 話を聞いたまで!私の子供たちを渡すつもりなど 毛頭ありはしないっ!」
楽団幹部が言う
「寄付はもちろん ありがたく頂戴いたします しかしながら 我々には あなたの子供たちも必要なのです 我々は 楽団の拡大を考えている最中 そこへ 丁度1オーケストラを構成できる 未来ある子供たちとあれば…」
マイルスが言う
「あの子達は 私のオーケストラだ!私の家族だ!貴方方へ寄付出来るのは…っ いやっ 寄付の話も取り消しだ!帰ってくれ!」
楽団幹部が言う
「ご気分を害されたのなら申し訳ない こちらのフルートをお聞きになって 気分を紛らわして下さい」
マイルスが言う
「貴方方の楽団員による演奏など もう聞きたくも無いっ!」
楽団幹部が苦笑して言う
「どうかそうと仰らずに 1曲だけでも…」
一瞬の間の後フルートの音色が響く アリシアが驚き声を殺して悲鳴をあげ両手で耳を押さえて思う
(嫌っ!何!?このフルートの音…っ!?頭がおかしくなりそうっ き、気分が…っ)
アリシアが逃げ出す様に走り去る
アリシアが洗面所で息を整えている アリシアが胸に手を当てて思う
(何だったの?音楽を聴いて気分が悪くなるなんて… ううん 違うわ?何か… 頭の中をかき回されるみたいで…)
アリシアが振り返って言う
「…レーンおじ様 大丈夫かしら?」
アリシアが元来た道を戻ると 部屋から楽団幹部とフルート奏者が出てくる アリシアがハッとする 楽団幹部が部屋の中を一度見てニヤリと笑んで去る フルート奏者がアリシアに気付き振り返る アリシアが怯えて一歩後ず去る フルート奏者が視線を逸らし去って行く アリシアがそれを見送った後 ゆっくり部屋へ向かい 部屋の中へ呼びかける
「レーンおじ様…?」
アリシアが部屋の中を見て驚く マイルスが床に両膝を着き うつろな目で頭を抱えている アリシアが驚くと共に 記憶が思い出される
【 回想 】
アリシア母が訴える
『貴方っどうして…っ!?』
アリシア父が放心状態で言う
『分からない…っ 私は… 私は 何故…っ』
【 回想終了 】
アリシアが目を見開き見つめた先 マイルスが呆然として言う
「分からない…っ 私は… 私は 何故…っ」
アリシアが驚き怯えて言う
「い… 嫌…っ」
マイルスが目の前の床にある書類に手を伸ばして言う
「私の財産… 大切な 子供たち… 何故だ…?分からない 私は なんと言う事を…っ」
アリシアがマイルスが手を伸ばした先にある書類を見て そこにある黒の楽団の印にハッとする
アリシアの脳裏に記憶が思い出される
【 回想 】
アリシア母が叫ぶ
『貴方っ!?あなたーーっ!』
銃声が鳴る 幼いアリシアがゆっくり歩いて来て 見下ろして言う
『お父… 様…?』
幼いアリシアが視線をずらした先 一枚の書類に血が広がって行く 書類の上部に印が 下部にアリシア父の署名がある 幼いアリシアが目を瞬かせる 書類にある印は 黒の楽団の印
【 回想終了 】
記憶の中の父親とマイルスの姿が重なる アリシアが悲鳴を上げる
「いやぁああーーっ!」
アリシアが逃げ出す
【 孤児院 】
院長が笑顔で子供たちの相手をしている ふと気付き門の方へ向かい 門の外を覗いて驚いて言う
「うん…?アリシア?アリシアじゃないか!?どうしたんだ!?」
院長がアリシアの前にやって来る アリシアが体を縮めて怯えている 院長がアリシアの肩に手を当てると アリシアが泣きながら院長に抱き付いて言う
「院長先生っ!」
院長が一瞬驚いた後 アリシアを強く抱きしめる
副院長が受話器を置く 院長が副院長の顔色を伺って言う
「どうかね?エレメス公は?」
副院長が顔を左右に振ってから言う
「…アリシアの言う通りでした エレメス公のお屋敷は競売に出され 子供たちは行方不明 エレメス公ご自身は…」
院長が副院長を見つめる 副院長が言い辛そうに言う
「警察に身柄を保護され 精神病棟で治療を受けていた所 転落事故で… お亡くなりになったと」
院長が驚いて言う
「…そうか なんと言う事か…」
アリシアが驚き目を見開いている 院長が息を吐いて言う
「他の子供たちの事も心配だ… アリシアの話を聞く限り 子供たちは黒の楽団に連れて行かれたと考えて妥当だろう 黒の楽団が最近楽団員を集めていると言う話は 私も噂に聞いている」
アリシアがうずくまって怯える 院長がアリシアの肩に手を置いて言う
「大丈夫だアリシア 君を黒の楽団に渡したりはしない 安心なさい」
アリシアが院長を見上げて言う
「でも…」
副院長が心配そうに院長を見る 院長が微笑して言う
「黒の楽団から身を守るのに 丁度良い場所がある きっと君を置いてくれる そちらを紹介しよう」
院長が席を立ち電話へ向かう アリシアがそれを目で追ってから視線を落とす
【 雑談室 】
レクイエムが流れる アリシアがハープを奏でている 周囲に居る人々は雑談に夢中で聞いていない アリシアが弾きながら思い出す
【 回想 】
院長が言う
『黒の楽団は最近勢力を高めていが それを良しとせず 対立している所がいくつかある 国防軍もその1つだ』
アリシアが言う
『国防軍…?』
院長が頷いて言う
『そう、その国防軍の1部隊に 私の知り合いが居る そこへ君を 音楽演奏者として雇い 守って貰えるように話を付けた 彼は優秀な軍人だ 信用して良い』
アリシアが視線を落として言う
『軍人さん… お父様…』
【 回想終了 】
アリシアが演奏を終え 席を立って礼をする 周囲に反応は無い アリシアが立ち去る
【 夜 】
アリシアがベッドの中で考え事をしている
【 回想 】
刑事が気付き 気を取り直して言う
『…そうだったな、すまなかった だが、君だって 君の大切な家族を奪った犯人が憎いだろう?何か 手がかりになるような事を思い出せないか?』
【 回想 】
マイルスが目の前の床にある書類に手を伸ばして言う
『私の財産… 大切な 子供たち… 何故だ… 分からない 私は なんと言う事を…っ』
マイルスが手を伸ばした先にある書類そこにある黒の楽団の印
【 回想 】
アリシア母が叫ぶ
『貴方っ!?あなたーーっ!』
銃声が鳴る
幼いアリシアがゆっくり歩いて来て 見下ろして言う
『お父… 様…?』
幼いアリシアが視線をずらした先 一枚の書類に血が広がって行く 書類の上部に印が 下部にアリシア父の署名がある 幼いアリシアが目を瞬かせる
【 回想終了 】
アリシアが一度強く目を閉じてから 身を起こしてベッドから出る
【 エントランス 】
レクイエムが流れる 1体の飾り鎧が飾台の上にある 飾台の横でアリシアが小さいハープを奏でている アリシアが思い出す
【 孤児院での記憶 】
院長が言う
『黒の楽団は最近勢力を高めているが それを良しとせず 対立している所がいくつかある 国防軍もその1つだ』
アリシアが言う
『国防軍…?』
院長が頷いて言う
『そう、その国防軍の1部隊に 私の知り合いが居る そこへ君を 音楽演奏者として雇い 守って貰えるように話を付けた 彼は優秀な軍人だ 信用して良い』
【 雑談室での記憶 】
アリシアがハープを奏でている 周囲に居る人々は雑談に夢中で聞いていない
【 回想終了 】
アリシアが演奏を終え 考えながら言う
「…院長先生の お知り合いの軍人さん …あそこに居たのかしら?」
アリシアが雑談室の拍手をしない軍人たちを思い出し 目を伏せて一息吐き ふと飾り鎧を見上げる 飾り鎧に変化はない アリシアが視線を落とし 間を置いて立ち去ろうとする 飾り鎧が静かに拍手を始める アリシアが驚き 物置部屋での飾り鎧の拍手を思い出し 苦笑して礼をする
【 朝 】
アリシアが荷物を持ってエントランスを通り掛かる アリシアが足を止め 飾り鎧を見る 飾り鎧に変化は無い アリシアが間を置いて苦笑して言う
「やっぱり私 夢を見ていたのね」
アリシアが気を取り直して立ち去る 飾り鎧に変化は無い しかし 両手の指先にこすれた跡がある
【 雑談室 】
レクイエムが流れる アリシアがハープを奏でている 兵士たちが雑談をしている アリシアがハープを奏でつつ人を探している 雑談所に軍曹がやって来て ソファに乱暴に腰掛けて言う
「くそっ!あの媚売り男がっ!」
アリシアが僅かに驚く 兵たちが軍曹に気遣い 酒や場を提供する 兵が言う
「軍曹!また あの男に?」
アリシアが驚いて 思わずハープの音を1つ外し 慌ててハープに集中する 兵たちが口々に言う
「奴は軍曹のお力を見くびっているのですよ!」
「そうです!いっその事 軍曹が部隊を率いて見ては!?我々は 軍曹の下でなら どんな任務にも怖気ず向かいます!」
「もちろんです!俺たちは あんな少佐ではなく 軍曹に付き従っているのですから!」
軍曹が気付き 最後に発言した兵の襟首を掴んで叫ぶ
「むっ!?今、少佐を悪く言ったのは貴様かっ!」
兵が焦って言う
「うっ…す、すみません じ、自分はただ 軍曹にと…」
軍曹が視線を細めて言う
「少佐は素晴らしいお方だ 国防軍に置いて 少佐ほど有能な方は居ないっ …だと言うのに あのベジトの外道がっ」
兵が言う
「ベジト… ベジト大佐が 何か?」
軍曹が怒って叫ぶ
「何が大佐だっ!忠誠心も何も無いあんな男が!上層にだけ 媚びへつらいおってっ!大佐など…っ その様な名誉はっ 奴に勤まる筈も無いのだっ!」
軍曹がテーブルを叩く テーブル上の物が飛び上がり大きく音を鳴らす アリシアが視線を怯えさせながら震える手で演奏している 兵たちが顔を見合わせた後 軍曹を見る 軍曹が悔しそうに言う
「少佐は 何故 奴の勝手を放って置くのだ… 少佐であるなら…っ あの博識であられる少佐ならばっ 現状の間違えを 既に認識しておられる筈だと言うのに…っ …クッ!」
軍曹が怒りを吐き捨て振り返って叫ぶ
「おいっ!そんな辛気臭い曲は止めろ!もっと景気の良い曲を鳴らせっ!」
アリシアが驚き 慌てて言う
「は、はいっ」
アリシアが一度手を止めてから 別の曲を弾き始める 軍曹が不満そうに他方へ向いた後 何かに気付いて振り返って言う
「…うん?」
アリシアが必死に怯えを隠しながら演奏しつつ思う
(あの人は…っ あの人は…っ ううんっ 大丈夫落ち着いて 院長先生が安心しなさいって… きっと… きっともう 私の事なんて忘れて…っ それにもう ウイリアム叔父さんもいないのだから 今更…っ)
兵士が軍曹に酒を勧めて言う
「軍曹!どうか 今は…っ 軍曹の敬愛される 少佐に免じて!」
軍曹が兵へ顔を向け 酒を奪い取って飲みながら横目にアリシアを見て思う
(あの娘は…)
軍曹がアリシアを見て 数年前のアリシアの面影と重ねる 軍曹が視線を細める アリシアが曲を奏でている
【 エントランス 】
アリシアが荷物を持って歩いて来る 軍曹が声を掛ける
「久しぶりだな?ウイリアム伯爵の養女 アリシア・フランソワ・レーベット」
アリシアが驚き振り向いた先 軍曹がニヤリと笑んで近づいて来る アリシアが怯え後ず去る 軍曹がどんどん近づき アリシアを壁へ追いやる 軍曹が笑んで言う
「その様子だと お前も俺を覚えていたか …当然だな?お前はウイリアムと同罪 我が軍の極秘情報を 盗み聞きしていたんだ」
アリシアが顔を左右に振って言う
「ち、違いますっ 私は… 私はウイリアム叔父様がそうしているのを 見掛けただけで…っ」
軍曹が言う
「ああ そうか…」
アリシアが困り慌てて言う
「嘘じゃありませんっ 本当に 私は何もっ」
軍曹が言う
「”良いんだ”どちらでも」
アリシアが疑問して言う
「え…?」
軍曹が言う
「例えお前が聞いて居ようが居まいが 俺たちの作戦には関係無かった… あのウイリアムの屋敷で お前も一緒に始末されててくれれば… それで良かったのだっ!それなのにっ!」
軍曹がアリシアの顔のすぐ横の壁を叩き付ける アリシアが驚く 軍曹が表情を怒らせて言う
「翌日 お前が生きていて 政府警察に保護されたと!それが上層に知られ 俺たちの作戦は失敗とされた!お陰で少佐の昇格も取り消され あのベジトの奴がっ!全てお前の責任だっ!!」
アリシアが戸惑って言う
「そ、そんな…」
軍曹が笑んで言う
「そうだ…?お前をここで始末して あのウイリアムの屋敷の作戦を完成させる… そうすれば 上層も 俺たちの処分を取り下げ 考え直すかもしれん 1度は失敗だったと判断された作戦を 半年掛けてでもやり遂げたとなれば 国防軍の意地と誇りを証明するのに丁度良い筈だ」
アリシアが驚く 軍曹がアリシアの頭に拳銃を突きつける アリシアが怯えて声を漏らす
「い… 嫌…っ」
軍曹が目を細めて言う
「死ね…」
アリシアが強く目を閉じて思う
(嫌っ 助けてっ!お父様っ!院長先生っ!)
軍曹の銃を持つ手が震える 続いて ドンッと言う重い音 更に ドサッと何かが落ちた鈍い音がする アリシアが自分を襲わない衝撃と音に 疑問してゆっくり目を開き 正面を見て驚いて目を見開く 軍曹が驚き呆気に取られつつ自分の前 床に突き立つ剣を見て視線を上げると 飾り鎧が剣を落とした状態で有る 軍曹が剣の主を理解した上で 拳銃を構えていた筈の場所を見る アリシアが自分の目前 自分に向けられて 軍曹の腕の断面が見える アリシアが驚きに目を見開き続いて下ろした視線の先 軍曹の拳銃を持った腕が落ちている アリシアが悲鳴を上げる
「キャァアアアアーーーッ!」
人々のざわめきが起き 次第に人が集まって来る 軍曹が自分の身に起きた事を理解して言う
「う、腕が!?俺の!?腕が…っ …うあああああっ!」
軍曹の悲鳴に 遅れてやってきた少佐が驚いて呼びながら駆け寄って来る
「軍曹っ!?」
軍曹が地に両膝を着き 混乱し何も出来ずに居ると 少佐が軍曹の腕を確認し 自分のネクタイを引き抜いて止血をする 軍曹が腕を縛り上げられて悲鳴を上げる
「ぐぅううっ!」
少佐が野次馬たちに向いて声を上げる
「医療班に連絡をっ!」
軍曹が顔を顰めながら改めてアリシアへ顔を上げる アリシアが怯えて壁づてに横へ移動する 軍曹が少佐へ向いて言う
「しょっ 少佐っ!あの娘です!ウイリアムの屋敷で討ち逃した!あの娘がっ!」
アリシアがハッとする 少佐が軍曹の言葉にアリシアへ向く アリシアが息を飲み 一瞬の後逃げる 少佐がハッとして言う
「君っ!」
軍曹が少佐に言う
「少佐っ 追って下さいっ!あの娘を捕らえっ もう一度…っ!」
少佐が一瞬間を置いた後 気を取り直し 軍曹の落ちた腕を手に持ち 軍曹の身を支え立ち上がらせて言う
「良いんだ… 軍曹 それよりも 今は」
軍曹が驚き少佐を見て言う
「しょ、少佐…っ」
【 街中 】
アリシアが息を切らせながら必死に走っている 周囲は雪が降っている
【 病室 】
少佐が水差しを持って来てサイドテーブルに置き コップを探す 軍曹がゆっくり目を覚まし周囲を確認し 少佐に気付く 少佐がコップを探し当て 手に持って歩こうとした所で軍曹の様子に気付き言う
「気が付いたか 軍曹」
軍曹が言う
「しょ… 少佐…」
少佐が微笑して言う
「具合はどうだ?術後すでに6時間が経過している 麻酔の効果も切れる頃だろう 痛みは?」
軍曹がハッとして悔しそうに言う
「少佐… 俺… いえっ 自分は この命ある限り!少佐と共に戦うと!…そう誓って来たと言いますのに う… 腕を落とすとは…っ!」
軍曹が歯を食いしばって悔やむ 少佐が一瞬疑問してから苦笑して言う
「その腕の具合はどうだ?医師の話では 切断された神経や筋肉が繋がるまでの間は 十分安静に 無理はするなとの事だ それらが繋がれば 腕自体は動かせるそうだが 骨が付くには更に時間が掛かると …長期休暇が必要だな?」
軍曹が疑問して言う
「は…っ …はえ?」
少佐が苦笑する 軍曹が疑問しつつ負傷した右腕を確かめ驚いて言う
「う、腕がっ!?…有る?」
少佐が言う
「すぐに処置をした為 腕は無事だった 安心しろ …とは言え 文字通り 折角繋ぎとめた腕だ 安静を欠いて不具合をもたらしたりするんじゃないぞ 軍曹 君は少々注意力に欠ける所があるからな?」
軍曹が言う
「も… 申し訳ありません」
少佐が苦笑してコップを思い出し 一度目を向けてから言う
「これを洗ってくる ついでに医師にも声を掛けておく 状態を見に来るだろう」
軍曹が言う
「しょ、少佐に その様なお手間をっ」
少佐が扉に向かいながら言う
「良いんだ 気にするな」
軍曹がハッとして言う
「…あっ!そ、そうだっ!?少佐!あの娘はっ!?」
少佐が一度立ち止まり 間を置いてから言う
「良いんだ… 軍曹 君は 長期休暇のプランでも考えていたまえ」
軍曹が呆気に取られる 少佐が立ち去る
【 街中 】
雪が降り積もっている 人や車が急ぎ足で行きかう中 アリシアが店の前 地面にうずくまり震えている アリシアが居る店の扉が開き マスターが顔を出して天気を確認し 溜息を付いて店内へ戻ろうとしてアリシアに気付き疑問する
【 店内 】
レクイエムが流れる アリシアがハープを奏でている 老婆が微笑ましそうにそれを聞いている マスターが老婆に紅茶を出すと 老婆が言う
「可愛い子を雇ったね?マスター」
マスターが一度アリシアを見てから微笑して言う
「ええ、あの大雪の日に 店の前で震えてましてね 浮浪者には見えなかったので 中へ入れて話を聞いたら 両親を早くに無くして色々と渡り歩いたそうですよ」
マスターが老婆の前の席に座っている老人にコーヒーを出す 老人が言う
「昔は そんな子も 行くあてのない戦争孤児たちも いくらでも富裕層が養ってくれたもんだが…」
マスターが言う
「最近はすっかり見えませんね それこそ昔は そう言った方々で 改装をする前のこの店も繁盛していました 腕の良い演奏者も何人も雇えて この店に ハープなんてあったのも その頃の名残ですよ」
老婆が微笑して言う
「ハープは富の象徴だったからねぇ… 優雅な演奏と その柔らかい音色 富裕層なんかじゃない私も ハープは大好きですよ」
マスターが軽く笑って言う
「はっはっは… ご謙遜を システリー伯爵のマダムと聞けば この町の誰もが知っているほどの お方ではありませんか」
老婆が静かに笑って言う
「昔の話ですよ… あの人はどう言う訳か それまで国防軍へ送っていた融資をぱったりとやめて 全てあの黒の楽団に渡してしまって… それこそ全て あの屋敷さえ…」
アリシアが驚く 老人が苦笑して言う
「もっとも お陰で わしは幼馴染で一目ぼれだった そのシステリー伯爵のマダムを お迎えする事が出来たんじゃ」
老婆が微笑んで言う
「こんな婆さんを引き取って下さって もう何も出来ませんのに… 可笑しな方ですよぉ?」
老人とマスターが笑う アリシアが視線を正面に戻して一度目を閉じてから曲を終了させる 曲が止まると1人の拍手が鳴り響く アリシアが一瞬驚き 慌てて拍手の人へ礼をする 会話をしていた老人たちが思い出したように拍手をする 最初に拍手をした人物(大山徳佐)が立ち上がりアリシアの下へ行って言う
「素晴らしい演奏だった お嬢さん」
アリシアが慌てて言う
「あっ ありがとう 御座いますっ」
大山が軽く首を傾げて言う
「曲もとても良かった 初めて聞いたのだが なんと言う曲かな?」
アリシアが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「え、えっと… ペジテのレクイエムです」
大山が言う
「ペジテ…?」
アリシアが言う
「ペジテはアールスローン戦記と言う物語に出てくる国で その国のお姫様は 自分を守ってくれた兵士たちを思って 毎夜ハープを奏でているんです その物語を好んでいた母が ペジテのお姫様の心中を 思い浮かべて作った曲なんです」
大山が感心して言う
「ほう… 君のお母上が作られた曲か 確かに 兵士を思う優しい姫君の気持ちを 歌っている様だった… 君のお母上は 素晴らしい作曲技術をお持ちのようだ」
アリシアが一瞬微笑んだ後 僅かに表情を落とす 大山が気付き言う
「おっと… 失礼 辛い事を思い出させてしまったね」
アリシアが微笑して言う
「いいえ!母の作った曲を気に入って頂けて 嬉しいです!」
大山が微笑んで言う
「そうか 是非 また聞きに来させて貰うよ これは少ないが…」
大山がチップを渡す アリシアが驚き 横目にマスターを見る マスターが微笑して頷く アリシアが微笑して大山に礼を行って受取る
「有難う御座いますっ」
大山が頷き去り マスターの横を通り過ぎざまに言う
「美味しいコーヒーだった マスター」
マスターが微笑して言う
「有難う御座います またのお越しを」
大山が店を出て行く マスターがそれを確認してから 大山の使っていたテーブルを片付ける 老人が言う
「今のは…」
マスターが言う
「大和の軍人ですね」
アリシアが呆気に取られて言う
「大和…?」
マスターが言う
「今 この町の港に 大和の軍艦が停泊しているんです きっとそちらの船のお方ですかと?」
老人が言う
「ほう… 大和の船が入るとは 何年振りかねぇ?」
マスターが空いたテーブルを片付けながら言う
「ええ だいぶ久方ぶりになりますね 私の覚えている限りでは ざっと15年は下りましょうか…?」
老人が考える 老婆が言う
「昔は 大和の艦船部隊にも 融資をしたものですよ 大和もレギストも良い交流相手でしたからねぇ… あちらの軍艦を頂いた物が 今でもこの町の公園にあるでしょう?」
老人が思い出して言う
「おおっ そうだった!わしも若い頃は 大海原に出たいと思っていてなぁ!」
老婆が可笑しそうに笑って言う
「あらまぁ… くすくす この前は 登山家のお話を聞いて エベレスト登頂を目指した事がある と仰ってましたね?」
老人が衝撃受け 慌てて言う
「そ、そうだったかのぉ?」
老婆とマスターが笑う アリシアがくすっと笑ってから 大山の出て行った出入り口を見る
翌日
アリシアがハープを奏でている 店に数人の客が居る アリシアが曲を弾き終えると 客たちが軽く拍手をする アリシアが軽く礼をしてから 再びハープを奏でようとすると 店の扉が開き マスターが声を掛ける
「いらっしゃいませ」
店に入ってきた客(大山)がマスターへ向いて言う
「コーヒーを頼む」
アリシアが大山の声に気付き顔を向ける 大山がアリシアに軽く微笑み前日と同じ席に座る アリシアが微笑を返してから 一呼吸置いてレクイエムを奏でる
レクイエムが終わると 大山が拍手をする 近くのテーブルに居た客たちも一歩遅れて拍手をする アリシアが微笑して軽く礼をする 客が言う
「お嬢さん ハープ連奏曲40番なんて分かるかねぇ?」
アリシアがハッとして言う
「あ、はいっ 分かります」
客が微笑んで言う
「思い出の曲なんだ 一曲頼むよ」
アリシアが微笑んで言う
「はい 喜んで!」
アリシアが一呼吸置いてからハープを奏でる 大山が微笑して聞き入る
曲が終わると皆が拍手をする アリシアが微笑むと 曲をオーダーした客が笑顔でやって来てチップを渡しながら言う
「久しぶりに聞けて良かった 有難う」
アリシアが微笑んで言う
「こちらこそ!」
続いて大山が来て微笑んで言う
「今日もとても良かった また来させてもらうよ」
大山がチップを渡す アリシアが微笑んで言う
「有難う御座います!」
客が皆出て行き マスターがアリシアを見る アリシアがマスターに気付き微笑する
映像にノイズが走る
【 軍曹の家 】
メタルミュージックと共にエレキギターが激しく鳴り響く 軍曹がロックンローラーしながら叫ぶ
「ぬあぁあああ!!長期休暇などクソ食らえだぁああ!!」
軍曹がエレキギターを掻き鳴らしながら 叫んでいる
「詰まらん!詰まらん!詰まらぁーーん!俺が欲しいのは こんな時間などではなぁーーい!」
エレキギターの音をひずませ 軍曹が叫ぶ
「俺はぁあーー!さっさと部隊に戻りたいのだぁあ!!そして少佐と共にー!少佐と共にーー!!」
軍曹がエレキギターを激しく鳴り響かせて叫ぶ
「くそぉおお!!何もかもが気に入らーーん あのベジトの野郎が 大佐だとぉおお!?あんな弱虫のへこへこ男に 我らレギストの大佐など務まるはずが無いのだーー!!だというのに だというのにーーー!!」
軍曹が出入り口方向へ背を向け 決めポーズでエレキギターを鳴らして叫ぶ
「ぬあぁああ!!少佐ぁあーー!自分は!少佐が!少佐がぁああ!!」
エレキギターと共に音楽が終了する 軍曹の後方出入り口付近に立っている少佐が言う
「私が何だ?軍曹」
軍曹が衝撃を受け 少佐へ背を向けた状態で体をブリッジさせて後方を見て 激しく動揺して叫ぶ
「しょっ 少佐ぁあーー!?」
軍曹が叫ぶと共にバランスを崩して転ぶ 少佐が言う
「元気そうで何よりだ」
少佐が言う
「それにしても、大した回復力だな?退院してたったの5日と言うのに もうすっかり回復した様子だが?」
軍曹が喜んで言う
「はーっ!少佐!!自分は もうこの通りーーっ!!」
軍曹が両腕でガッツポーズを取ろうとして 傷口が傷み 軍曹が衝撃を受け叫ぶ
「ぐぁあああっ!!」
軍曹が腕を抑えて苦しむ 少佐が呆気に取られた後心配して言う
「おい、無茶はするな 君はまだ静養中の身だ 楽器の演奏だって 本当は控えた方が良いのではないか?」
少佐が周囲を見渡す 軍曹が必死に平静を装って言う
「な、なんの これしきぃ!もう静養は十分であります!少佐!ですから 自分は!」
少佐が溜息を吐いて言う
「しっかりと休んで 早く万全にしなければ 部隊に戻っても何も出来まい?…医師には何と言われた?寝ていなくて良いのか?」
軍曹が困って言う
「う…っ い、医師には… 無理の無い程度で 腕や手を動かし 神経や筋肉に適度な刺激を与えると 治りが早いと…」
少佐が言う
「そうか、それなら… とは言え ギターの演奏は どうだろうか?」
軍曹が言う
「じ、自分は右利きでありますので 右腕はピック操作程度と言う事で 医師には一応 許可されて…いるであります」
少佐が言う
「そうだったのか では 余計な注意だったな すまない」
軍曹が衝撃を受け慌てて言う
「いっ いいいえ!!少佐からの お心に掛けてのご心配を賜り!このヴォール・アーヴァイン 光栄の至りにありますっ!」
軍曹が敬礼する 少佐が苦笑して言う
「相変わらず 君の上官への敬意には 感服させられる」
軍曹が一瞬ためらった後 慌てて言う
「い、いえっ!自分はっ 少佐にのみ 敬意を…っ!と、その少佐は こ、この様な場所に 如何なる御用で…?」
少佐が言う
「それは勿論 君の見舞いに来たのだが?」
軍曹が驚き呆気に取られて言う
「み… 見舞いっ?少佐が… わざわざ 俺を…っ!?」
軍曹がはっと気付き 慌ててソファーの埃を払い 周囲の物を押し退け 少佐へ示して言う
「し、失礼を致しました!少佐!少佐に御足労を頂きましたと言うのに 気が利きませんで!どうぞっ!お掛け下さい!」
少佐が一瞬呆気に取られた後言う
「いや、怪我人は君だろう 座るのは君の方が」
軍曹が慌てて言う
「め、滅相もありませんっ!少佐を立たせ 自分が座るなどっ!」
少佐が言う
「君が座りたまえ 軍曹」
軍曹が気合を入れて言う
「いえっ!少佐がお掛け下さいっ!」
少佐が呆気に取られた後 少し困って言う
「軍曹 君が…」
軍曹が頭を下げて言う
「いえ!どうぞ少佐が!」
少佐が言う
「座りたまえ!軍曹!」
軍曹が衝撃を受け慌てて少佐へ敬礼して言う
「はっ!少佐!」
軍曹がその場の床に正座する 少佐が呆気に取られる 軍曹が言う
「自分が 少佐より高い位置に座るなど 出来ませんっ」
少佐が呆気に取られた後 苦笑して言う
「…分かった 私の負けだ」
軍曹が頭を下げて言う
「い、いえ!自分が少佐を負かす様な事は決して…っ」
少佐がソファへ向かい腰を下ろす 軍曹がソファへ向き直り 一瞬考えてから言う
「あ… あの 少佐」
少佐が言う
「なんだ?軍曹?」
軍曹が言う
「はっ!その… 下々の自分めが申し上げるのも ハダハダシイのでありますが… 少佐は何故 あのベジトの昇格を …後押しされたのでありますか?」
少佐が一瞬間を置いて言う
「…知っていたのか」
軍曹が頭を下げて言う
「はっ!…その …とあるルートから 聞き及びまして」
少佐が軽く息を吐いて言う
「…そうか」
軍曹が少佐を見上げて言う
「じ… 自分が思いますにっ!あのベジトには 大佐所か 現行の中佐の軍階でさえっ 奴には勿体無い位であると思われます!奴は 自分の下の者を それこそ物の様に扱い!上官にのみ 媚びへつらう男でありますっ!射撃の腕も 頭のキレも!何もかも 少佐の足元にも及ばない男です!それなのに…っ!」
軍曹が悔しそうに両手を握り締める 怪我をしている右腕の肩に軽く手が添えられる 軍曹が驚いて顔を上げると 少佐が軍曹の肩を握っていて言う
「適度な刺激を超えている …また私に 君の腕を運ばせるつもりか?」
軍曹が慌てて身を起こして言う
「い、いえっ!申し訳ありませんっ!今後は二度とあの様なっ 少佐のお手を紛らわせる様な事はっ!」
少佐が気を取り直して言う
「…良いんだ 軍曹」
軍曹がはっとする 少佐が続けて言う
「ベジト中佐は 大佐の位に値すると… そう判断し 私なりに報告したまでだ」
軍曹が間を置いて言う
「”良い”…と?」
少佐が言う
「ああ、良いんだ」
軍曹が言う
「…少佐」
少佐が言う
「何だ?」
軍曹がぐっと息を飲んでから言う
「何が 良い のでありますか?」
少佐が反応する 軍曹がハイケルを見上げて言う
「少佐がそうと仰る時には …大抵 別の何かが ある時でありますっ!」
少佐が驚く 軍曹が頭を下げて言う
「自分はっ!馬鹿で無知な故 少佐のお力には…っ なられないのかもしれません!ですがっ 我々のっ!少佐の部隊の隊員たちは 決して馬鹿ではありませんっ!ですから 少佐がお考えの… その別の何かをっ!しっかりと 彼らにも聞かせてやれば…っ!きっと… きっと 奴らは 少佐の為に 全身全霊を掛けっ!!」
少佐が苦笑した後 足元に置かれている 軍曹のエレキギターを拾い上げて言う
「軍曹」
軍曹が顔を上げて言う
「はっ!」
少佐が言う
「君が楽器を弾けるとは 知らなかった」
軍曹が言う
「はっ!…はぇ?」
少佐がエレキギターの弦を見ながら言う
「…長いのか?」
軍曹が一瞬呆気に取られた後 慌てて言う
「ああ!は、はいっ!お恥ずかしながらっ 幼少の頃に そちらを弾いていたアニキに見惚れ… 独学にて…」
少佐が苦笑して1本弦を弾いて言う
「そうか」
少佐がもう1本弦を弾く 軍曹がそれを見つつ 間を置いて言う
「そ、その…」
少佐が軍曹を見て言う
「うん?」
軍曹が慌てて言う
「しょ!少佐も!?…何かっ 楽器を…?」
少佐が言う
「ああ、私は …ヴァイオリンを弾いていたな」
軍曹が衝撃を受けて言う
「ヴァ、ヴァイオリンっ!」
少佐が軍曹を見て苦笑して言う
「似合わないか?」
軍曹が頭を下げて言う
「い、いえっ!滅相もございません!やはりと言いますかっ 流石と言いますかっ 想像していた通り… とても!お似合いであります!」
少佐が微笑して言う
「そうか… 私にはヴァイオリンが 似合うか」
軍曹が顔を上げて言う
「はっ!」
少佐が微笑して言う
「では こちらは似合わないな?」
少佐が言うと共に立ち上がり エレキギターを掻き鳴らす 軍曹が驚く 少佐が少し弾いた所で 脇にある音楽デッキに気付きスイッチを押す 軍曹が驚き言う
「あ!それはっ」
軍曹が言い掛けた所で部屋中に大音量でメタルミュージックが掛かる 軍曹が慌てると 少佐が音楽に合わせエレキギターを演奏する 軍曹が驚き呆気に取られる 少佐がエレキギターを弾き終え 音楽が終わると 軍曹が呆気に取られたまま居る 少佐がエレキギターを外し 手に持って正面を向いたまま言う
「…冷徹な隊長 人の血が通っていない男 レギスト1残忍な少佐 …色々と呼ばれているそうじゃないか?」
軍曹が驚く 少佐が言う
「…だと言うのに 軍曹 何故君は そんな私に忠義を見せるんだ?」
軍曹が言う
「それはっ!少佐がっ!自分のっ 自分の忠誠を誓う程のお方であるからでありますっ!自分はっ 少佐には… 以前昇格が見合わされた 中佐所かっ 大佐であっても間違いないとっ!」
少佐が言う
「その理由は何だ?」
軍曹が驚き少佐を見る 少佐が軍曹を見下ろし苦笑して言う
「ヴァイオリンが似合うから …か?」
軍曹が呆気に取られる 軍曹にエレキギターが向けられる 軍曹が驚く 少佐が言う
「なら これで台無しだな?」
軍曹が言いながらエレキギターを受け取る
「い、いえ… 自分は…っ」
少佐が数歩歩く 軍曹が慌てて立ち上がって言う
「しょ 少佐ぁっ!」
少佐が足を止めて言う
「軍曹」
軍曹が慌てて返事をする
「はっ!少佐っ!」
少佐が言う
「早く部隊に復帰してくれ 君がいてくれないと ”君の”部下たちが 私の命令を聞いてくれない」
軍曹が呆気に取られつつ 慌てて言う
「か、彼らは決して!自分の部下 などではっ!」
少佐が目を閉じて言う
「私にも 彼らの気持ちが分からなくは無い 何も教えず… 酷い噂の立つ男に命令されるんだ 例えそれが 直属の上官の命令であっても あがないたくもなるだろう」
軍曹が心配して言う
「しょ、少佐…」
少佐が振り返り言う
「その彼らを動かす為に 君が必要なんだ 軍曹 …それだけだ」
少佐が再び歩く 軍曹が呆気に取られた状態から表情を落として言う
「少佐…」
軍曹が視線を落とした先 少佐が座っていたソファへ目を向けると 横のサイドテーブルに袋が置かれている 軍曹がそれに気付き慌てて後を追って言う
「あ、あのっ 少佐っ!お忘れ物がっ!」
少佐が一度足を止めて言う
「見舞いの品だ」
少佐が再び歩く 軍曹が驚き慌てて言う
「あ、有難う御座いますっ!少佐っ!この御恩は一生っ!」
少佐が扉を開けながら言う
「食べ終わったら 忘れてくれて結構だ」
少佐が出て行き 扉が閉まる 軍曹が呆気に取られ間を置いて考えながら部屋へ戻って来る 軍曹が視線を落としたまま考える 記憶が蘇る
【 回想 】
『そうか… 私にはヴァイオリンが 似合うか』
『なら これで台無しだな?』
『早く部隊に復帰してくれ 君がいてくれないと ”君の”部下たちが 私の命令を聞いてくれない』
『その彼らを動かす為に 君が必要なんだ 軍曹 …それだけだ』
…それだけだ
【 回想終了 】
軍曹が表情を顰め 歯を食いしばってから言う
「…それ…だけ?…少佐は」
軍曹が正面を向き ふと気付く 視線の先 ネクタイが綺麗に置かれている 軍曹がネクタイを手に取る ネクタイには血痕が残っている 軍曹がネクタイを握ると サイドテーブルに置かれた袋を見て思い出す
『食べ終わったら 忘れてくれて結構だ』
軍曹がネクタイを戻し 袋に近付きながら言う
「食べ終わったら?見舞いの品と言うと やっぱり フルーツか何かか?」
軍曹が袋を覗き込み驚き 袋から弁当を取り出す 更に覗き弁当を取り出すと その下にも合計3つある 軍曹が呆気に取られてからハッとテーブルへ目を向ける 視線の先には カップめんの残骸が積まれている 軍曹が呆気にとられて言う
「しょ… 少佐は 俺の食生活を見越して…っ!」
軍曹が感涙を堪え弁当の1つを開けて一口食べる 軍曹が衝撃を受け叫ぶ
「う…っ うまーーーいっ!!」
軍曹が弁当に食い付く
食べ終わった弁当箱がスライドする 軍曹が床に座っていて 箸をテーブルに叩き付けて言う
「うむ…っ!これほどにお気を配って下さる お優しい少佐がっ レギストの隊員たちには 何故 伝わらんのかっ!冷徹だとっ!?人の血が通っていないだとっ!?レギスト1…残忍!?…それは」
軍曹が視線を落とす 記憶が蘇る
【 回想 】
『ウイリアム伯爵 …残念だ』
少佐がウイリアムの頭を拳銃で打ち抜く 周囲の隊員たちが息を飲む 軍曹が同じく一度息を飲んでから気を取り直して言う
『屋敷内を捜索しろ 使用人も家族も …全て始末しろ!』
【 回想終了 】
軍曹が思う
(少佐は確かに 特務の最重要始末者を 御自分の手で始末される… それは… それは勿論!任務の確実な成功を…っ いや、違う)
軍曹の脳裏に過去の記憶が蘇る 過去に同じ形で少佐が始末者を撃ち殺すシーンが幾つか思い出される 少佐が引き金を引く前に毎回同じ事を言う 軍曹が視線を落として言う
(…少佐がその様にするのは 任務を行う部下たちの為だ 少佐はあえて御自分の手を汚す事で 部下たちへの苦しみを拭って下されている 他の何処の部隊に 自身の手を自ら汚す上官が居るものかっ!?そして 少佐はいつも仰る ”残念だ” と 少佐は… 少佐とて 本部からの命令とは言え 一度はレギストの味方であった 裏切り者の抹殺指令の遂行などしたくはないのだっ それを…っ)
軍曹が弁当箱を見てから 右腕を見る 軍曹が思う
(少佐は頭の切れるお方だ あのベジトを後押ししたのにも きっと理由がある 俺は…っ 俺を助けてくれたのも…?)
『その彼らを動かす為に 君が必要なんだ 軍曹 …それだけだ』
軍曹が意を決した表情で言う
「違う!少佐はっ!少佐は ベジトや他の上官たちとは違うのだっ!だからこそ 俺は少佐の下でっ!」
軍曹が立ち上がり 出入り口へ向いて思う
(…とは言え 俺はまだ 静養中の身… 今少佐の下へ向かっても ただの足手纏いにしか…)
軍曹が呆気に取られて思い出す
『早く部隊に復帰してくれ 君がいてくれないと ”君の”部下たちが 私の命令を聞いてくれない』
軍曹がはっとして弁当を見てから笑んで言う
「そうか…っ そうか!分かったぞ!そう言う事でありますねー!少佐ぁあーーっ!」
軍曹が感涙して居る
画像にノイズが走る
【 マスターの店 】
アリシアがハープを奏でている 数人の客と大山が店内に居る しばらくして客たちが居なくなり 大山だけが残る アリシアがレクイエムを奏で終えると 大山が閉じていた目を開き微笑して拍手をする アリシアが微笑んで礼をする 大山が席を立ちアリシアの下へ行って言う
「今日も素晴らしい演奏だった お嬢さん」
アリシアが笑顔で言う
「有難う御座います!」
大山が軽く頷いてから周囲を見てマスターを見る マスターは他方を向いて作業を行っている 大山がそれを確認してからアリシアへ向く アリシアが疑問する 大山が言う
「私は 大和国の海軍艦長 大山徳佐と言う者だ」
アリシアが一瞬呆気に取られた後 言う
「オ…オオヤマト…?」
大山が苦笑して言う
「ああ、こちらの国では逆だったな 徳佐が名で姓が大山だ」
アリシアが微笑してから言う
「あ… アリシアです 姓はレーベット」
大山が微笑して言う
「アリシアか 良い名前だ」
アリシアが微笑む 大山が言う
「所で、アリシア 実は… こんな話を急にしても 君を戸惑わせてしまうとは思うのだが」
アリシアが疑問する 大山が腰を下ろし寂しそうに微笑して言う
「私には3人の息子が居る そして… 妻を早くに亡くしたのだが 愛する妻を忘れる事が出来ずに 男手1つで彼らを育ててきた」
アリシアが呆気に取られる 大山が微笑して言う
「そんな息子たちも 今では父親以上に立派に育ってくれた 私が彼らにしてやれる事は もう何も無いだろう だが… 3人の息子を育ててきた私としては やはり1人は 娘が欲しいと思っていてね 妻への想いと共に この想いが今になっても捨てられない」
アリシアが見つめる 大山がアリシアを見つめて言う
「そこで アリシア」
アリシアが疑問する 大山が微笑して言う
「失礼だとは思ったが 以前 マスターが他のお客と 君の話をしているのを聞いてしまった 君も、早くに両親を失い 色々な所を渡り歩いたと?もし… 今もその身を留まらせる場所を見付けていないのなら 私と共に 大和に来ては貰えないだろうか?私の… 娘として」
アリシアが驚いて言う
「え…っ!?」
大山が苦笑して言う
「急な話ですまない それに 大和はこの国の遥か西 大海原の先だ 大和の誇る最速戦艦を用いても 丸5日は掛かる 言語の問題はないが あちらへ行けば この国の物事はあまり届かなくなる …そんな場所への誘いだ 断ってくれても一向に構わない」
大山が立ち上がる アリシアが大山を見上げる 大山が微笑してアリシアの手を取って言う
「我が艦隊は まだしばらくこの町の港に腰を据えている どうか ゆっくりと考えてもらいたい …今日も美しい演奏を有難う また聴きに来させてもらうよ」
大山が手を離すと アリシアの手にチップが握らされている アリシアが慌てて言う
「あ、有難う御座いますっ!」
大山が軽く振り返り微笑して頷いてから店を出て行く
アリシアが床にモップを掛けている マスターが言う
「良い話じゃないか アリシア?」
アリシアが呆気に取られて言う
「え…?」
マスターがコップを拭いていた手を止めて 微笑して言う
「私の方で少し調べたんだが あの大山艦長は 今でこそ 大和の第6艦隊の艦長をしているが 過去には大和海軍の全指揮権を任された事もあると言う 有名な方だったよ 3人の息子も 父親の後を追うように 大和の海軍で上層の役職に就いているらしい」
アリシアが困って言う
「そんな 凄い御家庭に 私… 私なんて 学校も出ていなくて ハープを弾く事しか知らないのに」
マスターが微笑して言う
「それでも良いんじゃないか?」
アリシアが疑問して言う
「え…?」
マスターが言う
「君はまだ若いのだし 何かを学ぼうと思うのなら これからだって十分遅くない それに 何か1つでも誇れる特技があるというのは 大したものだ 大山艦長だって きっと 君に何かを求めてなどはいないだろうさ?言っていただろう?ずっと娘が欲しかったんだって… その気持ちは 私にも分からなくは無いね?」
マスターがアリシアに微笑を向ける アリシアが呆気に取られた後微笑する マスターが別のコップを手に取りながら言う
「一度 真剣に考えてみると良い もちろん ここへ留まると言うのなら 引き続き 店の手伝いをしてもらっても良いからな?」
マスターが苦笑してコップを拭く アリシアが微笑んで言う
「有難う御座います マスター」
マスターが微笑して頷く
翌日
アリシアがハープを奏でている 大山がいつもの席で目を閉じて聞いている 他の客が話をしている
「聞いたか?ラストン公爵もだってよ?」
「ああ、リース伯爵に続き ラストン公爵… 何でもデーン男爵もそうらしい」
「男爵までか!?…はぁ~ 一体どうしちまったんだかね?金に不自由の無い富裕層の連中が 融資先を変えるっていうのは …脅されでもしたって言うのか?」
「脅されたんなら 融資をするだけで 他を全て止めちまう必要は無いだろう?」
「いや、分からんぞ これは噂だが 国防軍の一部と 黒の楽団 は対立してるって話だ」
アリシアがハッとして 音を1つ外し 慌てて訂正する 大山が気付き目を開く 客たちが引き続き会話をしている
「その国防軍の部隊が この町から撤退する て聞いたんだが 本当か?」
大山が客たちを見る 客たちは構わず話している
「まさか… ここは港町だぞ?国防軍が他国と繋がる 港を離れるなんて ある訳が無いだろう?そんな事をしたら 何のための国防軍なんだ?」
「だがなぁ?国防軍とは言っても それを維持する金が無ければどうなる?御所から離れた この辺り一体を収めているのは レギストの部隊だ それこそ 富裕層からの融資が無ければ 国防所か部隊の維持すら難しいんじゃないか?」
「そんな事を言ったらっ この町はどうなる?デーン男爵まで辞めちまったんじゃ レギストへの融資で残っているのは あのガリア大尉だけだぞっ!?あんな老人の小さな融資じゃ この町の防衛なんか脇によせられちまうよっ!?」
マスターが客たちへ飲み物を持って来る 客がマスターへ向いて言う
「マスター そのガリア大尉は 最近どうしてる?」
マスターが静かに言う
「そうですね… 3日ほど前までは お見掛けしましたが…」
客が顔を見合わせて言う
「ガリア大尉が 全財産を投げ打ったとしてもな…」
アリシアが表情を落として演奏をしている 大山が深く考えてから立ち上がり マスターへ何か手渡し 一言言って立ち去る 去り際にアリシアを見るがアリシアは放心状態で気付かない
アリシアが曲を弾き終えた状態で座っている 客たちが話をしながら店から出て行く マスターが言う
「またのお越しを…」
客たちが出て行くのを見送ったマスターが アリシアの横へ来て言う
「アリシア?君へと」
アリシアがハッとしてマスターを見上げる マスターが微笑してアリシアへチップを向けている アリシアがハッとして大山が居た事を思い出し 言いながら受け取る
「す、すみません… 有難う御座います」
マスターが一度苦笑してから言う
「その大山艦長が言っていたよ」
アリシアが疑問して言う
「え?」
【 回想 】
アリシアが俯いてハープを奏でている 客たちが大きな声で話をしている 大山が席を立ち マスターの横へ来て言う
『今日は賑やかだな 客の入りが良いのも 少々忙しないものだね』
マスターが苦笑して言う
『申し訳ない』
大山が微笑して言う
『いや、ここは喫茶店だ 色々なお客が休みに来て当然と言うもの …もう少し 演奏を聞いていたいのだが 急ぎの用が出来てしまった すまないが これを』
大山がマスターにチップを2人分渡して言う
『半分を アリシアへ渡して貰いたいのだが 頼めるだろうか?』
マスターが微笑んで言う
『勿論 いつも有難う御座います』
大山が微笑して頷き立ち去ろうとして足を止め 振り返って言う
『…それから この国で 私に出来る事は何も無いが 私は何があっても アリシアの味方で居ると… そう伝えて欲しい』
マスターが頷く 大山が相槌を打って立ち去る
【 回想終了 】
アリシアが呆気に取られて言う
「私の… 味方…?」
マスターが微笑して頷いて言う
「守ってくれる と言う事だ 私には難い事でも あの人になら それも可能だろう」
アリシアがマスターを見上げて言う
「マスター、私っ 実は…」
マスターが手をかざし 顔を左右に振って アリシアの言葉を止めて言う
「私は職業柄 お客がどんな事を抱えて入ってくるのかが 多少は分かる …あの日、店の前で震えていたのは なにも雪の寒さだけでは無かったんだろう?…それ位は 分かっていたよ」
アリシアが表情を悲しませて言う
「…御免なさい」
マスターが微笑して言う
「謝らなくて良い まだ若いと言うのに 苦労してきたんだ」
アリシアが目に涙を浮かべて拭う マスターが微笑してアリシアの肩へ軽く手を置いてから言う
「ホットココアでも入れよう 今日は少し冷える」
マスターがカウンターへ入って行く
外は雪がちらついている 客の居ない店内 アリシアがテーブルを拭いている マスターが棚を調べて気付いて言う
「あ…っと しまったな もう1つあると思ってたんだが…」
マスターがアリシアへ向いて呼ぶ
「アリシア」
アリシアが返事をして顔を向ける マスターが言う
「すまん、ちょっとひとっ走り 行って来てくれないか?」
アリシアが疑問しつつ 布巾を片手にやって来る マスターがお金を用意しながら言う
「ベーキングパウダーの在庫を切らしちまってね マーレの店に300gのは置いてないから 店にあるだけ買って来てくれ」
マスターがアリシアにお金を手渡す マスターが時計を気にしながら言う
「こんな天気だ きっと早めに店を閉めるだろうから なるべく急いでな?」
アリシアが慌ててエプロンを外しながら言う
「はいっ」
アリシアが店を出て左右を見てから走って向かう
マーレの店からアリシアが紙袋を抱えて出てくる 雪が少し積もっていて 歩くたびに音が鳴る アリシアが紙袋を見てホッと微笑する 少し歩いた所で アリシアがハッと立ち止まり 紙袋で顔を隠しつつ歩く アリシアの横の車道を レギストの車両が何台も走り去る アリシアが走り去った車両を見返り疑問する
アリシアが店に戻って来て扉を開け入りながら言う
「ただいま戻りま…」
店内に数人 人が居てAが言う
「ガリア大尉が殺されたってっ!?本当かっ!?」
アリシアが驚く Bが言う
「ああ!今聞いてきた話だ!マダムも 屋敷の使用人たちも 全員 殺されたって話だっ!」
アリシアが驚く Aが言う
「殺された!?まさか レギストにか!?」
アリシアがBへ向く がB言う
「それは無いだろう!?確かにレギストは 自軍に楯突く者に容赦はないが… ガリア元大尉は 元レギスト軍人の上 この町で最後まで レギストへの融資を続けていたんだぞ?」
アリシアがAを見る Aが言う
「そのガリア大尉の 財産も屋敷も 全てあの 黒の楽団 に寄付されたって話だ!」
アリシアが驚き一歩後退り 思わず紙袋を落とす Bが表情を顰めて言う
「本当かっ!?…ついに黒の楽団が この町の全ての富裕層を 味方に付けたって言うのか …それじゃぁ 国防軍は?レギストはどうするんだ?」
マスターがアリシアに気付きやって来る アリシアがハッとして慌てて紙袋を拾い 落ちた商品を紙袋へ戻しながら言う
「ご、御免なさい…っ」
マスターがアリシアから紙袋を取って言う
「いや、ご苦労様 ここは良いから 奥で休んでなさい」
アリシアが一瞬呆気に取られた後 事前にテーブル拭きをしていた場所へ目を向けて言う
「あ… でも まだ片づけが…っ」
マスターが苦笑して言う
「後はやっておくから 大丈夫だ …さぁ、夕食が出来たら呼ぶよ それまで休んでなさい」
アリシアが視線を落として言う
「…はい」
アリシアが去って行く AとBが話している そこへCやDが現れる マスターも入り 会話が続けられる
薄暗い休憩室でアリシアがうずくまっている 頭の中に黒の楽団やレギストの記憶が走馬灯の様に思い出される
『マダムも 屋敷の使用人たちも 全員 殺されたって話だっ!』
『財産も屋敷も 全部あの 黒の楽団 に寄付された…っ』
『エレメス公のお屋敷は競売に出され 子供たちは行方不明 エレメス公ご自身は …お亡くなりになったと』
『ついに黒の楽団が この町の全ての富裕層を 味方に付けたって言うのか …それじゃぁ 国防軍は?レギストはどうするんだ?』
『翌日 お前が生きていて 警察に保護されたと!それが上層部に知られて 俺たちの作戦は失敗とされたんだ!』
『ウイリアム伯爵 …残念だ』
『死ね…』
『『貴方っ!?あなたーーっ!』』
銃声が鳴る
アリシアが驚いて目を開く 扉がノックされ マスターの声が届く
「アリシア」
アリシアがハッとして顔を向け返事をしようとすると マスターが言う
「明日、大山艦長が来たら 答えを伝えると良い」
アリシアが驚く
マスターが扉から少し離れて言う
「夕食はカウンターに置いてある 私は少し用事があるので これで上がるよ …また明日な アリシア お休み」
アリシアが一瞬呆気に取られた後 慌てて扉を開けて声を掛ける
「マスターっ」
アリシアの視線の先 店の扉が閉まり 来客鈴が鳴る アリシアが呆気に取られた後 一度視線を落とし カウンターテーブルに用意されている夕食を見る
翌日
アリシアがテーブルを拭いてから窓の外を見る 窓の外には静かに雪が降っている 人通りも車通りも著しく少ない アリシアが不安げに言う
「静か…」
アリシアが一度視線を落としてから カウンター内に居るマスターへ向く マスターも外を見ているがその表情は険しい アリシアが疑問して言い掛ける
「マスタ…?」
マスターがサッと表情を変え苦笑して言う
「だーめだな!今日は!」
アリシアが呆気に取られて言う
「…え?」
マスターがアリシアへ向いて言う
「こんな天気じゃ 客も来そうに無い 今日はちょっと早いが もう閉めちまおう!たまには2人で外食でもするか?アリシア」
アリシアが驚き慌てて言う
「えっ!?で、でも 私 お金が…」
マスターが苦笑して言う
「もちろん 俺のおごりだ!月末には ちゃんと給料も払うし もし、何か今 必要な物があるなら 先に用立てるから 遠慮せず言いなさい」
アリシアが驚いて言う
「え?お、お給料だなんてっ 私っ このお店に住み込みで ご飯も頂いてるのに…っ」
マスターが苦笑して言う
「もちろん、その分は差し引いてある!…昔みたいに~ 富裕層が入り浸ってくれてれば そんなかっこ悪い事しないで ドーンと渡してやれたんだがなぁ まぁ、その程度だから 余り期待はしてくれるなよ?」
アリシアが呆気に取られた状態から微笑んで楽しそうに笑って言う
「ありがとうございます!マスター!…期待して待ってます!」
マスターが苦笑して言う
「えっ!?おいおい~?」
アリシアとマスターが笑う
店の片付けがほとんど終わった状態の時 店の来客鈴が鳴る アリシアが顔を向けて言い掛ける
「あ、すみません 今日はもう…」
客Aが息を切らせて入って来て一度アリシアを見てから マスターへ向いて言う
「マスター!この町が 黒の楽団に支配されるぞ!」
アリシアが驚く マスターが真剣な表情になって言う
「国防軍の本部が 奴らのやり方を 許したって言うのか?」
客Bがやって来て言う
「おいっ レギストは完全撤退だ!」
客Aが振り返って言う
「それ所じゃない!国防本部が 黒の楽団と手を結んだって話だ!それも ほぼ奴らの言いなりになる形でだ!」
客Bが驚いて言う
「それじゃっ!やっぱりガリア大尉を殺したのは レギストなのかっ!?黒の楽団の命令で あいつらが ガリア大尉をっ!」
客Bが悔しそうにする マスターが険しい表情で居る 客Aが言う
「国防軍が 他の一組織に支配されるだなんて どうなってるんだ?これじゃぁ 国防軍とは名ばかりの… ただの暗殺組織じゃないかっ!」
客Bが言う
「その暗殺組織になる レギストの部隊を指揮する奴を知ってるか?色々な呼び名を付けられている奴で 冷徹な隊長だの 人の血が通っていない男だの レギスト1残忍な少佐だって話だっ そんな奴が 富裕層から融資をぼったくる 黒の楽団と手を組む事んで ガリア大尉は その見せしめの為に 酷い殺され方をしたって…っ」
客Bが表情を歪める マスターが言う
「…それは確かな情報か?」
客A、Bがマスターを見る マスターが言う
「国防軍とレギストは 大本は同じ国防軍ではあるものの 今でも呼び名が分かれている様に 元は2つの組織だった その上で レギストは 国防軍の中にあって 唯一 その黒の楽団と対立していたって話だ ここへ来て それが一気にひっくりかえったとでも言うのか?少なくとも 俺の知るレギストの隊長は そんなに弱い奴じゃない」
客Aが言う
「だが、ガリア大尉が殺された事は確かだ レギストには 食らい付いたら離さない ドッグハウンドとか呼ばれる 軍曹も居るんだ!何処までも追いかけて行って… …必ず殺すって噂だっ」
アリシアが一歩後づ去って怯えて言う
「…軍曹っ」
アリシアの脳裏に軍曹の姿が浮かぶ 客Bが言う
「必ず殺す…だったか?それは… う~ん ちょっと思い出せないが…」
客Aがマスターへ向いて言う
「とにかく 確かな事は この町の富裕層は 全員 黒の楽団に財産を奪われた上殺されて その富裕層から融資を受けていたレギストも 今では国防軍と共に黒の楽団の思うが侭って事だ」
マスターが頷いて言う
「そうだな 現状で把握できる事は それで限界だろう」
客Bが納得して唸ってから気付いて言う
「う~ん… うん?なぁ?ならぁ… 今港に停泊してる 大和の連中はどうするんだ?」
皆の視線が客Bへ向く 客Bが皆を見渡して言う
「だってそうだろう?連中は レギストとの交流を求めて来たんじゃないのか?そのレギストが 訳の分からない楽団に 良い様にされちまったんだ 下手すると これは大和国との大事にだって なり兼ねないんじゃないのか?」
アリシアがハッと心配する 脳裏に大山の微笑が思い出される 客Aが言う
「こうとなっちまった以上 おかしな事にならない内に 出て行ってくれると助かるんだがな…?」
客Bが言う
「そうだな…」
客が居ない店内 アリシアが心配そうに立ち尽くしている マスターが片づけを終え アリシアを見てから窓の外を見て言う
「大山艦長 今日は来なかったな?もしかしたら… もう出航しちまったのかもしれん 町の連中が情報を仕入れている位だ 国家海軍なら もうとっくに知っている」
マスターがアリシアを見る アリシアが表情を落し手に持ったままで居た布巾を握る
重い足音で走る男が店の前の道を走って来る 店の来客鈴が鳴る マスターが顔を向けて言い掛ける
「すまないが今日はもう… アンタっ!?」
大山が軽く息を切らせながら店の扉を押さえている 大山がアリシアを見付けゆっくり近付いて来る アリシアが気付かずに顔を向け驚く 大山がアリシアへ身を屈めて言う
「アリシア とても残念だが 予定より大分早く 我々の艦隊はこの港を出る事になってしまった 恐らく もう この港に立ち寄る事は出来ない 君のハープを聴けなくなるのはとても残念だ 出来る事なら… いや、元々無理を言っていたのは承知だった それでも 時間を掛ければ 少しでも可能性が生まれるのではないかと 思っていたのだが…」
大山が苦笑して言う
「短い間だったが 良い夢を見させてもらったよ ありがとう アリシア」
大山が言い終えると優しく微笑み屈めて居た身を上げる アリシアが大山を見上げる 大山が軽く頷き 別れを惜しみながら背を向け立ち去ろうとする アリシアが引きとめようとしながらも迷う 大山がマスターの前を通り過ぎようとする時 マスターがアリシアへ向いて言う
「アリシア!」
アリシアがその言葉に思わず言う
「あ、あのっ!」
大山が立ち止まる アリシアが必死に決意して言う
「私を… 連れて行って 貰えませんか…っ!?」
大山が驚く アリシアが一歩踏み出して言う
「私…っ」
マスターが言う
「アリシアは 両親を黒の楽団に殺されてる その上 彼女を養女にした叔父のエルメス公もその家族や使用人も 黒の楽団と手を組んだ 国防軍の一部隊に殺された アリシアはそれらの危機を乗り越えて来た訳だが 今でも黒の楽団や国防軍に怯えているんだ 大山さん アリシアを安全なアンタの国へ 連れてってもらえないか?俺からも頼む」
アリシアが驚いて言う
「マスターっ!?どうしてそれを!?」
マスターが苦笑して言う
「お前のあの怯え様は 普通じゃない 悪いが調べさせてもらったんだ」
アリシアが呆気に取られたまま大山へ向く 大山が振り返り微笑して言う
「大和国は その黒の楽団と言う組織や その組織と繋がったこの国の国防軍とは 友好関係を築けないとし 我々はこの港を即刻発つ様にと命じられた 今までもそうであった様に 港を離れれば この国と大和を繋ぐ物は何も無くなる アリシア 君が私と来てくれるというのなら 私はもちろん その大和国の遠さ自体が 君を守る事となる」
大山がアリシアへ手を向けて言う
「行こう?アリシア?」
大山が微笑む アリシアが一度マスターを見る マスターが微笑して頷く アリシアが微笑を返し 大山の手を取る マスターが笑んで言う
「可愛い娘が出来て 良かったな?大山さん?」
アリシアが呆気に取られる 大山が苦笑して言う
「理由が理由だ 無理に娘になってくれなくても良い 今はただ… この子を守ってやりたい」
アリシアが大山を見上げる 大山が微笑してアリシアの頭を撫でる アリシアが呆気に取られる マスターが苦笑して言う
「その気持ちは大いに分かるねぇ?俺が喫茶店のマスターなんかじゃなければ アンタに頼まなくても済んだんだが?」
大山が軽く笑って言う
「はっはっは あれほど美味いコーヒーを作れるんだ 君をその場所から離してしまうのは惜しい」
マスターが笑んで言う
「まぁ、俺には 拳銃だの軍服だのよりも こっちの方が合ってるみたいなんでね?」
大山が苦笑して言う
「やはり 元レギストの隊員か」
アリシアが驚く マスターが苦笑して言う
「バレてたの?」
大山が言う
「これでも 本来は船の舵を握るより 情報収集が得意な方なんだ 私の事を探っていた君を 逆に探らせてもらったよ」
マスターが苦笑して言う
「俺より上手か… ますますアンタに託して 安心だ」
大山が頷いて言う
「いつかまた 君の淹れるコーヒーを飲ませてもらいたいものだ」
マスターが笑んで言う
「もちろん!その時はハープの演奏付きでな?」
2人がアリシアを見る アリシアが呆気に取られた状態から微笑する
アリシアが大山に手を引かれ 店から出て行く マスターが窓の外に見えるその光景に苦笑してコップを拭く アリシアの胸には小さなハープが抱かれている
港
大和海軍 寺沢丸が警笛を鳴らす 周囲の軍艦がそれに反応する 寺沢丸のスクリューが回転を始め 大和海軍16艦隊が出航する
アリシアが船内の一室でベッドに腰を掛け 窓の外を見ている 窓の外には次第に遠くなる港が見える アリシアが小さな袋からお金を出すと 記憶が蘇る
【 回想 】
店を出て行こうとする 大山とアリシア マスターが呼び止めて言う
『アリシア 忘れ物だ』
アリシアが疑問して振り返ると マスターが小さな袋を向けて言う
『ほれっ』
マスターが言うと共に アリシアへ小さな袋を手渡して言う
『給料だ』
アリシアが一瞬呆気に取られた後 慌てて言う
『で、でもっ』
マスターが微笑して言う
『こっちの金なんて持って行っても 大和の国では何の価値も無い けど お前はこの国に居たんだし お前の両親だって この国に居たんだ だから 祖国であるこのアールスローンの事を 今は 好きになれとは言えないが… どうか 忘れないでくれ …良い思い出だって あっただろ?』
アリシアが微笑して言う
『マスター…』
マスターがアリシアの前に来て 軽く肩に手を置いて言う
『いつか遊びに来た時には 今度こそ 俺に夕食をおごらせろよ?アリシア?』
アリシアが目に涙を浮かべつつ 微笑んで言う
『はいっ』
マスターが微笑して頷く
【 回想終了 】
アリシアがお金を見つめながら微笑して言う
「マスター…」
アリシアがお金を小さな袋に戻し抱きしめる
画面にノイズが走る
【 国防軍17部隊 訓練所 】
少佐が言う
「…以上が本日の日程だ 時間を無駄にする事の無い様 直ちに開始しろ」
隊員たちが困惑して顔を見合わせる 少佐が言う
「どうした 直ちに開始しろ」
隊員Aが言う
「少佐っ お言葉ですが 我々が撤退した マイルズの港には 今だ何処の部隊も配備されておりませんっ 他国へ繋がる港町の防衛を このまま放置して 通常の訓練を行っていて宜しいのでしょうかっ!?」
少佐が言う
「マイルズ港からの撤退は 本部からの命令だ 良いも何も無い 我々国防軍17部隊は 本部からの命を受け 撤退した」
隊員Aが言う
「しかしっ!そのマイルズ港には現在 大和国の海軍艦隊が停留していますっ 十数年ぶりに大和の海軍が入港していると言うのです 彼らと友好のある我ら国防軍レギストが 彼らを出迎えるべきではないのでしょうかっ!?」
少佐が反応し目を細めて言う
「友好?…レギストと大和海軍が …友好関係にあると?」
隊員Aが驚き左右の隊員と顔を見合わせる 隊員Eが言う
「勿論です!少佐!我々と大和海軍は 良き友好関係にあり 彼ら大和海軍がわが国へ入港すると言うのであれば 我々は先んじて出迎えても良いものかとっ!」
隊員Iが言う
「その様な状況にありながら 我々は出迎え所か 彼らが来航した港町から撤退し 別部隊の演習所を間借りしながら たかが通常訓練を行うなど!」
隊員Cが隊員Eを心配して小声で言う
「ば、馬鹿っ 言い過ぎだ 相手は軍曹ではなく 少佐なんだぞっ …殺されても良いのかっ」
隊員Iが一瞬怯んでから 虚勢を張って言う
「じ、…自分はそう考えます!」
隊員Iが慌ててから 不安げに少佐を見る 少佐が隊員たちを見渡して言う
「他の者も 彼らと同じ意見か?我々国防軍が… いや、我らレギスト機動部隊が 現在マイルズ港に入港している 大和海軍と良き友好関係にあり その彼らの入港を歓迎するべきだと?」
隊員たちが顔を見合わせ相談した後頷き会い 少佐へ向く 少佐が視線を細めて言う
「…分かった」
隊員たちの表情が和らぐ 少佐が言う
「ならば 好きにしろ」
隊員たちが驚く 少佐が半身逸らして言う
「大和海軍の入港を歓迎し 挨拶でもしたいと言うのなら 行って来れば良い 但し、行くのなら レギストの制服は脱ぎ お前たち個人の歓迎だと伝えろ 間違っても レギストの代表として来た等とは 伝えるなっ」
隊員たちが呆気に取られて顔を見合わせる 少佐が見損なった様子で立ち去ろうとする 遠くから軍曹の呼び声が届く
「少佐ぁーーーっ!」
少佐が立ち去ろうとしていた足を止め声の方へ向く 軍曹が到着して息を切らせつつ 慌てて敬礼して言う
「集合時間に遅れまして 申し訳ありませんっ …そのっ タイを絞めようと苦戦していたら いつの間にか… い、いえっ!申し訳ありませんっ!遅刻を致しましたっ!」
軍曹はネクタイをしていない 少佐が間を置いて言う
「その程度の事も出来ない状態で 何をしに来た?君はまだ…」
軍曹が少佐の言葉を区切って言う
「はっ!自分はまだ 万全ではありませんっ!従って 部隊訓練には参加致しかねますがっ このレギスト機動部隊の軍曹として 少佐のご命令を隊員たちへ伝える事なら出来ると考え 出隊致しましたっ!」
少佐が一瞬呆気に取られた後一度苦笑してから 再び表情を消して言う
「そうか ならば丁度良い たった今 部隊指示に逆らい 勝手な行動をしようと言う彼らを 纏めてみたまえ 軍曹」
軍曹が呆気にとられて言う
「はっ!…はぇっ?勝手な行動?」
少佐が背を向けて言う
「私は 他にやる事がある ここは任せたぞ」
少佐が歩みを開始する 軍曹が呆気に取られた状態から慌てて敬礼を正して言う
「はっ!了解致しましたぁっ!少佐ぁっ!」
少佐が立ち去る 軍曹が間を置いて敬礼を解除して隊員たちへ向き直り不思議そうに言う
「…で?一体どう言う事だ?少佐はお前たちが 部隊指示に逆らい…と 今日の日程は何だ?誰か教えてくれ」
隊員たちが一瞬間を置いてから叫ぶ
「軍曹ーーっ!」
隊員たちが軍曹の帰還を喜ぶ 軍曹が疑問して呆気に取られる
隊員たちが口々に言う
「軍曹もご存知でしょう!?我々レギストはっ!」
「その大和海軍との交流を 少佐は レギストとしてではなく 個人的に勝手にやれと!」
「更には その自分たちがレギストである事は 決して伝えるなと言うのでありますっ!」
「それでは意味がありませんっ つまり 少佐は大和海軍とは 仲良くするなと言っているんですよ!」
軍曹が考えて言う
「ふむ… そう言う事だったのか…」
隊員Cが言う
「軍曹からも少佐に言って下さいっ 我々は国防軍を代表して!当然レギストの制服を着て!少佐が先頭に立ち 我々を引きつれ 向かうべきであると!」
軍曹が困って言う
「しかし~ その少佐は 大和海軍とレギストの友好関係を 知らないと仰られたのだろう?」
隊員たちが一度戸惑うが思い直して言う
「知らない筈がありませんっ!大和海軍とレギストの友好は 我々は勿論 大和海軍が入港する マイルズ港の者であっても知っています!軍曹!軍曹も!…ご存知でしょう!?」
軍曹が困り考えて言う
「うむぅ~… 確かに そう聞いて居た 様な…?」
隊員Iが言う
「ならば もう 我々だけで参りましょう!軍曹!」
軍曹が衝撃を受け呆気にとられて言う
「むっ!?」
隊員Eが力説する
「我々はもうっ 少佐には従えませんっ!ですから!軍曹を先頭に 我々だけで大和海軍の下へ向かうのです!国防軍レギストの代表として!」
隊員Iが言う
「マイルズ港は 我々国防軍17部隊の担当区域です 我々の他 何処に この任務を行う部隊がありましょうかっ!?」
軍曹が考える 皆が口々に言う
「軍曹っ!」「軍曹!」
軍曹が目を閉じて考えた後 言う
「よし、皆の意見は分かった 従って 改めて 自分が直接 少佐へお伺いして来るのだ!」
皆が驚き困惑して言う
「軍曹…」
「軍曹っ 少佐は 何も教えてはくれません!軍曹が行ったとしてもっ!」
軍曹が言う
「我々の隊長は少佐だ!少佐の許可無く レギスト機動部隊として動く事は許されんっ!」
皆が士気を落とす 軍曹が意を決して言う
「少佐には きっと何かお考えがあるのだっ それを確認してくる!お前たちはその間 少佐の御命令通り 通常訓練を行っているのだ!」
皆が悔しそうに言う
「しかし!軍曹っ」
軍曹が振り返って言う
「我々の上官である 少佐からの御命令なのだ!自分が戻るまで 通常訓練を行っていろ!」
皆が肩の力を抜き顔を見合わせてから敬礼して言う
「はっ了解いたしました!軍曹!」
軍曹が言う
「うむっ」
軍曹が立ち去る 皆が訓練を開始する
少佐が建物の入り口前で携帯電話をしている 少佐が携帯へ言う
「…そうか 大和国へ… …いや、それで良い マイルズには間もなく 黒の楽団と手を組んだ国防軍の別部隊が入る予定だ そこへ… 大佐と繋がりのある お嬢様に危険が迫る可能性も 否定出来ない… 以前の様に」
少佐から少し離れた場所に軍曹がやって来て周囲を見渡しつつ言う
「うむ~?…とは言え 少佐はどちらへ向かわれたのか…?部隊を徴収している以上 この駐留所から外へ出ると言う事は考えにくい… やはり館内か?…ん?」
軍曹が建物入り口前に人が居る事に気付く 少佐が携帯へ言う
「…ああ、感謝している この借りはいずれ返す … …情報部に空きがあるぞ 優秀な奴が居ないんだ お前にその気があるなら 俺が…」
軍曹が叫びながら少佐へ向かって走って来る
「少佐ぁーーっ!」
少佐が気付き顔を向ける 軍曹が少佐の前に到着して息を切らせつつ敬礼した所で 少佐が電話をしている事に気付く ハイケルが携帯へ言う
「…分かった 切るぞ」
少佐が通話を切りしまう 軍曹が言う
「お話中の所 失礼致しましたっ!」
少佐が言う
「問題ない …それで?」
軍曹がハッとして慌てて言う
「はっ!その…」
軍曹が考える 少佐が言う
「言いたまえ 軍曹」
軍曹が改めて言う
「はっ!では 失礼致しまして 少佐!」
少佐が言う
「なんだ」
軍曹が言う
「どうかっ 自分にお聞かせくださいっ!」
少佐が言う
「何をだ?」
軍曹が意を決して言う
「少佐は何故 マイルズ港からの撤退を受理なされたのでありますかっ!?何故 大和艦隊へ向かおうとする隊員たちを お見捨てになられるのでありますかっ!?」
少佐が言う
「…1つ目の答えは 彼らへも伝えた 我々がマイルズから撤退したのは 本部からの命令であるからだと」
軍曹が言う
「それだけ でありますか?」
少佐が言う
「それだけだ」
軍曹が少佐から視線を僅かにずらす 少佐が言う
「2つ目の答えは…」
軍曹が改めて少佐を見る 少佐が軍曹を見て言う
「軍曹」
軍曹が敬礼を正して言う
「はっ!少佐!」
少佐が言う
「君はどう思う?」
軍曹が一瞬呆気に取られてから言う
「はっ… どう とは?」
少佐が体の向きを変えて言う
「君も彼らと同じく 我らレギストは大和海軍の良き交流相手である …と?」
軍曹が一瞬呆気に取られてから視線を落とし考えて言う
「…レギストと …大和海軍は」
少佐が軍曹を見る 軍曹が考えてから少佐を見て言う
「確かに 自分も その様に聞き及んでおります」
少佐が溜息を付いて言う
「ふん… そうか」
軍曹が言う
「しかしながら 自分はその詳細については知りませんっ 実際にレギストと大和海軍の間で どの様な事があったか等の話は 聞いた事が無いでありますっ!」
軍曹が真っ直ぐ少佐を見る 少佐が軍曹へ向き直って言う
「では訊こう 軍曹」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
少佐が言う
「彼らが言う レギストと大和海軍との友好… そもそも 友好とはどの様な事を示す?」
軍曹が言う
「はっ!その2者を用いて考えます 友好とは… 例えるなら?両軍部隊にて 共に!演習訓練を行ったり …共に!武装、戦略等を提供し合ったり …と?その様な事を致す事ではないかと?」
少佐が言う
「そうだな そのような事が出来れば 両軍部隊は 良き友好関係にあると言っても 良いだろう」
軍曹が少佐を見る 少佐が軽く首を傾げて言う
「では軍曹」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
少佐が言う
「君は先ほど言ったな?我らレギストと大和海軍の間で どの様な事があったか知らないと」
軍曹が言う
「はっ!お恥ずかしながらっ 存じません!」
少佐が言う
「当然だ そもそも、我らレギストと大和海軍の間に その様な事は無かった」
軍曹が呆気にとられて言う
「…はっ?」
少佐が言う
「大和海軍がマイルズ港を利用していたのは 今から約20年前までだ その間 我らレギストと大和海軍は接触を図ってはいない その2者と接触していたのは マイルズ港の富裕層だ」
軍曹が驚く 少佐が言う
「その頃のレギストは 国防軍とは異なる マイルズ港を拠点とした 自衛組織だった 言い換えれば レギストはマイルズの富裕層によって 彼らを守るために結成された組織 その様な小規模な自衛組織に 他国の海軍と対立するだけの力など ある筈が無い 従って 接触も無ければ 両者の友好なども存在しなかった」
軍曹が呆気に取られた状態からハッとして言う
「で、ではっ 何故現状において 両者は良き友好関係にある などと…?」
少佐が言う
「簡単な話だ 軍曹」
軍曹が少佐に聞き入る 少佐が言う
「マイルズの富裕層は レギストを従えると共に 港へ押し寄せた大和海軍へは 多額の融資を持って 事を収めていた レギストが国防軍へ正式に併合されるまで マイルズの富裕層は その様にして自分たちの町を守っていたんだ レギストは富裕層によって作られた組織 その組織と同様に 融資を受ける事で事無きを得ていた大和海軍 2つの軍隊が対立せずに1つの港に存在する 端から見ればレギストと大和海軍は 友好関係にある とでも見えたのだろう」
軍曹が呆気に取られる 少佐が言う
「しかし、今は違う レギストは正式に国防軍の名の下に その名の通り国防の為に存在している そのレギストが 十数年振りに我が物顔で入港してきた大和海軍を 歓迎すると言うのか?奴らは何をしに マイルズ港へ現れた?」
軍曹が少佐の視線にハッとして言う
「…大和海軍は 国防軍や我が国の政府等には 接触していないとの事! …となれば 奴らの狙いは …再び マイルズの富裕層に?」
軍曹が少佐を見る 少佐が言う
「正直な所 そこまでの確認は取れて居ない しかし、もしそうであるなら あの町の富裕層は 皆 黒の楽団や… 我ら現代のレギスト 別名 国防軍17部隊に始末された」
軍曹が驚く 少佐が言う
「そうとなれば 大和海軍は間もなく港を発つだろう 他の理由があるにしては動きが無さ過ぎる とは言え 奴らに争い事を起こす気が無いのなら 我々が動くつもりも無い だが こちらから 有りもしない両者の友好の元に 奴らを歓迎しに行くなど 私は許可をする事は出来ない」
軍曹が呆気に取られた状態から敬礼して言う
「も、申し訳ありませんでした!少佐!無知な自分は 我が軍の そのような歴史も知らずにっ!」
少佐が言う
「良いんだ 軍曹」
軍曹がハッとする 少佐が言う
「少なくとも君は 我らと大和海軍の間に有るとされた 良き友好とやらを 知らないと答えた …彼らはどうだ?己が 無知であると言う事さえ知らずに 上官の命令に歯向かい 剰え意見して来るなど」
軍曹が表情を困らせて言う
「も、申し訳ありません 少佐っ しかしながら 彼らとて 今まで守って来た マイルズの町をっ!人々をっ!自分たちの手で守りたいと…っ それらの思い故の発言かとっ!」
少佐が言う
「自分たちの担当する町を愛する事は悪くない だが そうであるなら尚更 その町を守って来た 我々レギストの歴史位は確認しておくべきだ 少し調べれば 先ほど伝えた大和海軍との事でさえ 簡単に知る事が出来る 上官へ意見するなら それ位は調べていて当然 何もせず 世間に充満する噂を ただ鵜呑みにする位なら… 黙って命令に従っていれば良いんだっ」
少佐が視線を強める 軍曹が驚き間を置いて言う
「少佐…」
少佐が軽く息を吐き軍曹へ向く 軍曹が一瞬怯えるが軽く頭を下げ考える 少佐が言う
「…少し言い過ぎた」
軍曹が驚いて少佐を見る 少佐が素早く軍曹の胸ポケットに突っ込まれているネクタイを引き抜く 軍曹が一瞬呆気に取られた後 少佐の行動に驚き固まる 少佐が軍曹にネクタイを締めながら言う
「君の言う通り 彼らも彼らなりに 考えてはいるのだろうが 考えが甘い …それだけだ だが、それをいちいち指摘してやれるほど 今の私には余裕が無い 私には…」
少佐が軍曹のネクタイを締め終える 軍曹が驚き呆気に取られていた状態からハッと意識を取り戻して言う
「しょ、少佐…」
少佐が一息吐いて軍曹を見上げて言う
「私には やらなければならない事がある …良く戻って来てくれた軍曹 彼らは 君に任せる」
少佐が背を向けて建物へ入って行く 軍曹が慌てて言う
「少佐っ 少佐!?」
少佐が歩きながら言う
「執務室に居る 用がある時は 携帯へ連絡してくれ」
軍曹が呆気に取られた状態から 慌てて敬礼して言う
「はっ!はっ!了解しました!少佐ぁ!」
軍曹が少佐が見えなくなるまで敬礼を続け 解除すると その手でネクタイを握り締め 強く頷いて立ち去る
少佐が通路を歩いている 前方にある人影に気付き視線を強める ベジトが少佐に気付き笑む 少佐が一瞬間を置いた後 視線を逸らして扉の鍵を開ける ベジトがその扉を押さえて言う
「上官がお前の部屋の前に居ると言うのに それを無視するのか?”少佐”?」
少佐が敬礼して言う
「…お疲れ様です ベジト中佐」
ベジトがニヤリと笑んで言う
「中佐ではない たった今本部から正式に 昇格通知が来た これで俺はベジト大佐だ」
ベジトが少佐を見る 少佐が一瞬置いた後 改めて言う
「失礼致しました ベジト大佐」
ベジトが言う
「まぁ良い 何でも 俺の昇格を お前が後押ししてくれたそうじゃないか?」
少佐が言う
「…自分は 存じません」
ベジトが言う
「隠しても無駄だ 俺が中佐になった時だって お前の後押しがあったと聞いたぞ …どうなんだ?」
少佐が間を置いて言う
「…自分はただ ベジト大佐の昇格は妥当であると申し上げたまで 自分程度の発言など 大した力を持ちませんので 後押しと言えるほどの事は 致しておりません」
ベジトが苦笑して顔を左右に振ってから言う
「自分の昇格を断ってまで 俺を押しておいて 大した力を持たない だと?おまけにレギスト軍最高責任者だった あのレーベット大佐に目を掛けられていたお前の後押しだ 力を持たない訳が無い」
少佐が視線を細める ベジトが苦笑して言う
「隠さなくて良い お前の目的は分かってるんだ …コレだろ?」
ベジトが少佐の胸に封筒を押し付ける 少佐が目を細める ベジトが顔を近づけて小声で言う
「200万入ってる… まぁ 最初だからな?これから毎月となれば 200は渡せないが… どうしてもと言うのなら」
少佐が一歩下がって言う
「国防軍 軍則21状3項により 国防軍隊員は同隊員及びその他との 金銭のやり取りは禁じられております ベジト大佐 そちらはお控え下さい」
ベジトが苦笑して言う
「心配するな 俺を後押ししたお前を 俺が上にチクる様な事はしない …良いから受け取れ」
少佐が言う
「受け取れません 自分はその様なつもりで ベジト大佐の昇格に関し 発言した覚えは有りません どうかお控え下さい」
ベジトが表情を顰めて言う
「200じゃ足りないって言うのか…?最下層の癖に …ならいくらだ?それとも 一度に全額渡せって言うのか?」
少佐が言う
「自分は ベジト大佐から 1銭たりとも 金品を受け取るつもりはありませんっ 失礼致します」
少佐がベジトの横にある扉を開け入ると共に入室し扉を閉める ベジトが舌打ちをして言う
「…チッ!今に見てろ その化けの皮 ひっ剥がしてやるっ」
ベジトが立ち去る
扉の内側
少佐が扉を背に外の様子を伺っていて言う
「…ふんっ お前程度に 剥がされてたまるか」
少佐が立ち去る
訓練所
軍曹が隊員たちの所へ戻って来る 隊員たちが気付き腕立てを止めて言う
「軍曹!」「軍曹!」
軍曹が隊員たちを見る 隊員たちが軍曹の前に立ち並ぶ 軍曹が反応して言う
「むっ!?どうした!?まだ通常訓練の1 腕立て600回は完了していないだろうっ!?作業を途中で止める事は 国防軍の誇りに傷を付けるっ!上官からの命令やそれに匹敵する事でもない限り 作業を途中で切り止めるなっ!通常訓練の1 続行っ!」
隊員たちが顔を見合わせ一瞬戸惑った後言って作業に戻る
「し、失礼致しました!」「通常訓練の1 続行!」
隊員たちが腕立てを再開する
隊員Aが軍曹の下へ駆け寄って来て言う
「軍曹!通常訓練の1 腕立て600回!完了致しましたっ!」
軍曹が言う
「よしっ!隊員たちの中で一番乗りだな!良くやった!褒美として」
隊員Aが言う
「ほ… 褒美っ!」
隊員Aが表情を輝かせる 軍曹が言う
「他の隊員に先んじて 通常訓練の2 駐留所周回走行 30周の追加を許可する!」
隊員Aが衝撃を受け言う
「そっ そんなぁ~っ!」
軍曹が言う
「どうしたっ!?遠慮は要らんっ!行って来いっ!」
隊員Aが呆れて言う
「そ、そうか… 軍曹は少佐に 命令をもらえる事が ご褒美になる方だった…」
隊員Aがガクッとうな垂れた後 やけくそになって敬礼して叫ぶ
「有難う御座いますっ!軍曹っ!行って参りますっ!」
軍曹が頷いて言う
「うむっ!」
隊員Aが周回を終え軍曹の前に戻って来て息を切らせる 他の隊員たちも軍曹の前に集まり終える 隊員Aが敬礼して言う
「軍曹っ!ご褒美に頂きました 駐留所周回走行 30週 終了いたしましたぁっ!」
軍曹が言う
「よしっ!では 全員で 通常訓練の2!」
隊員Iが言う
「お待ち下さいっ!軍曹!」
軍曹が顔を向けて言う
「むっ!?どうしたぁっ!?」
隊員Aが言う
「軍曹っ!まだ我々は 軍曹からのお話を伺っていませんっ!少佐とは お話になれましたのでしょうかっ!?」
軍曹が間を置いてから気付き言う
「むっ?そうだったのだ!すまんっ!忘れていたっ!」
隊員たちが詰め寄って言う
「軍曹っ 少佐は何とっ!?」「お話は出来たのでありますかっ!?」
軍曹が少し考える 隊員たちが見つめる 軍曹が一度目を閉じてから改めて言う
「我々レギスト部隊には 過去においても 大和海軍との間に 友好と言う名で表される事柄は存在しなかった!少佐はそう仰られた!自分は!…正直 その辺りの話を詳しくは知らんっ だが 少佐がそうと仰るのだっ!他に疑う余地などは無いっ!よって 自分は 少佐の御命令通り 何としても お前たちをここへ押し留め 通常訓練を課するっ!」
隊員たちが口々に言う
「軍曹っ!?」「軍曹ー!」
軍曹が言う
「しかーし!もしお前たちの中に 今でも少佐のご命令に背こうと思う者が居るのならっ!少佐が仰られた事を お前たち自身で再確認をし 自分へ報告をしろ!自分はそれを聞き やはりお前たちが正しいと思うのならっ!その時は断固 少佐に意見するつもりであるっ!以上だっ!」
隊員たちが呆気に取られ顔を見合わせ視線を落とす 軍曹がそれを見て言う
「…そもそも お前たちは何故 少佐のご命令に背こうなどと考えるのだ?お前たちの上官である少佐は すばらしきお方なのだ お前たちにはそれが分からんのか?」
隊員が言う
「軍曹こそ お分かりであられないのですっ」「そうですっ 少佐はっ!」
軍曹が言う
「少佐が特務の際 率先して最重要始末者の処理をする事なら 自分も知っている そして、その理由も… 自分なりにではあるが 理解しているつもりだ」
隊員たちが顔を見合わせた後軍曹へ言う
「じ… 自分たちもっ その件については 理解をしているつもりでありますっ しかし… これ以上は…」
軍曹が隊員を見る 隊員Eが言う
「軍曹っ 軍曹が居られなかった この1週間と5日の間 我々は…っ 本部からの命令にて マイルズ港の富裕層たちからっ …金品の押収作業を行っておりましたっ」
軍曹が表情を顰めて言う
「何っ!?どう言う事だ?金品の押収だと?本部からの命令と言う事は …特務ではないのか?」
隊員Iが顔を左右に振って言う
「違いますっ!我々はっ …黒の楽団が契約した 富裕層の全財産をっ 奴ら黒の楽団の為に 押収したのです!」
軍曹が疑問して隊員たちを見る 隊員Aが言う
「軍曹がいらっしゃらない間に… 我々国防軍は 黒の楽団を正式な協力者として契約したんです その為、奴らの得意としない 押収作業を手助けする為に 我々は徴収され本部からの命令として 黒の楽団に随行しました そして…」
隊員Aが視線を落とし唇を噛む
【 少佐の執務室 】
少佐がノートPCを操作している 少佐が目を細めて思い出す
【 回想 】
≪ 軍用移動トラック内 ≫
少佐が目を閉じ座っている 隊員たちが顔を見合わせつつ 皆が少佐を見て再び顔を見合わせる
≪ リース伯爵の屋敷 ≫
少佐が言う
『リース伯爵 本日我らレギスト部隊は 黒の教団より作業を委託され この屋敷並びに屋敷内に在する 金品その他 全て を押収する』
少佐が後方隊員たちへ視線を向けると 隊員たちが敬礼した後 報酬作業へ向かう リースが慌てて少佐の前にやって来て慌てて言う
『待ってくれっ 黒の楽団との契約は 間違いだっ!私はっ!』
少佐がリースへ書類を突き付けて言う
『この契約書のサインは 貴方の物で間違いないと 鑑定されている』
リースが必死に言う
『違うんだっ!確かにそのサインは私の物で間違いないっ だがっ 私はその契約に 同意などはしていないっ!』
少佐が言う
『例え、あなた自身が契約内容に同意をしていずとも この書類には間違いなく貴方のサインが成されている よって、契約は成立している …と見なされる』
リースが言う
『頼むっ 聞いてくれっ 私は契約内容に同意などしていなかったっ!サインなど持っての外っ するつもりも無かったんだっ それなのに あの黒の楽団の音楽を聴かされた途端にっ!』
少佐が言う
『…音楽?』
リースが少佐を見上げて言う
『そうだっ!奴らの音楽を聴かされた私はっ!勝手にサインをっ!』
少佐が目を細める リースが怒りを押し殺しながら言う
『頼むっ!信じてくれっ!分かるだろうっ!?何処の世界に 自分の全財産を 融資する者など居るものかっ!?私には妻が居る!子供たちも居るっ!それにまだ 私にはやりたい事が山とあるのだっ!それなのに こんな所で 全財産を失う訳には行かないっ!』
少佐が沈黙する リースが言う
『君たちはレギストだろうっ!?我々をっ!この港町に住む 富裕層を守る為の組織だろうっ!?それが 黒の楽団に唆され 我々から財産を奪うと言うのかっ!?確かに我々は 君たちへの融資を絶った!それもこれも 全ては奴らのせいなんだっ!全て 奴らがっ!』
少佐の後方で 黒の楽団幹部が連れのヴァイオリニストに耳打ちする ヴァイオリニストが頷きヴァイオリンを構えクルミ割り人形を奏で始める 少佐が一瞬反応して後方を見る リースがハッとして言う
『駄目だっ!奴らの音楽を聴いてはっ!』
リースが少佐へ掴みかかる 少佐の目から光が失われる
≪ ラストン公爵の屋敷 ≫
少佐が言う
『作業を開始しろ』
隊員たちが顔を見合わせつつ不本意ながら作業へ向かう ラストンが怒って少佐の前に立って言う
『リース伯爵に続き 私の財産まで奪いに着たのかっ!黒の楽団にひれ伏した 無様な国防軍がっ!』
少佐が一瞬反応するが すぐに表情を戻して 契約書を片手に言う
『我々は貴方が行った この正式契約に基づき 貴方の契約相手である黒の楽団からの委託を受け…』
ラストンが少佐の胸倉を掴んで言う
『ふざけるなっ!お前の目は節穴かっ!?この契約書内容が読めないのかっ!?』
少佐が目を細めて言う
『契約内容については 十分に確認を行っている よって 我々は ラストン公爵 貴方の全財産を 黒の楽団に代わって 押収する』
ラストンが呆気に取られてから怒りを再発させて言う
『くそっ!何が国防軍だっ!元はこの町の富裕層に養われていた癖にっ!餌を与えなくなったら 手の平を返して噛み付くかっ!貴様らレギストには 意地もプライドも無いのかっ!この 腰抜けどもがっ!』
ラストンが少佐の手から契約書を取り上げ破り捨てて言う
『こんな物っ こうしてくれるっ!…どうだっ!?黒の楽団っ!』
ラストンが少佐の後方に居る 黒の楽団幹部へ向かって言う
『さぁ!契約書はなくなったぞ!貴様が私を操ってサインをさせた!あんな契約は無効に決まっているっ!』
黒の楽団幹部が微笑して言う
『フフフ… ご安心を 今貴方が破り捨てた物は コピーです 本物は こちらに…』
黒の楽団幹部が契約書をちらつかせる ラストンが怒り 黒の楽団幹部へ向かって歩きながら言う
『ならばそれも!同じ様に この場で私が破り捨ててくれるっ!』
少佐が振り返る 黒の楽団幹部が軽く笑って言う
『出来ますかな?』
黒の楽団幹部が隣に連れている フルート演奏者へ目配せをする フルート演奏者が頷きフルートを奏で始める ラストンが一瞬はっとしてから笑んで言う
『はっはっはっ!無駄だ!またそのフルートで私を操って 今度は…!』
少佐の目から光が失われる
【 回想終了 】
少佐が視線を細め怒りを抑えて思う
(…やはり思い出せないっ いつの時もそうだ 奴ら黒の楽団の者が楽器を演奏し始めると そこからの記憶が消えてしまうっ そして…)
少佐が頭を押さえる
【 訓練所 】
軍曹が呆気にとられて言う
「…それは 本当の話であるのかっ?」
隊員Eが険しい表情で詰め寄って言う
「本当ですっ!我々が軍曹に嘘を言う筈がありませんっ!リース伯爵もラストン公爵もっ 少佐に射殺されたのですっ!」
軍曹が言う
「その者たちが 任務の邪魔立てを起こそうとした訳ではないのか?少佐が 無意味にそれらの者を 射殺されるなど」
隊員Cが言う
「自分は 今回の部隊編成により 常に少佐の後方にて 少佐へ背を向けた状態で 後方警備 及び 出入り口の確保を行っていました そのため 少佐と契約者たちとの会話は全て聞えていました その会話内容は どれも 契約者たちが 黒の楽団に騙されたのだとっ 皆… 少佐へ 助けを求めておりました!それなのに 少佐はっ」
【 隊員たちの回想 】
≪ リース伯爵の屋敷 ≫
ヴァイオリンの演奏が始まる 隊員Cが演奏者を見て表情を顰めて思う
(…こんな時に)
リースがハッとして言う
『駄目だっ!奴らの音楽を聴いてはっ!』
隊員Cが僅かに顔を後方へ向け 驚いて目を見開いて言う
『…なっ!』
銃声
リースが倒れる 隊員Cが呆気に取られて見つめる先 遠くから子供の声が響く
『パパーっ!!』
隊員Cが声の方を見る 幼い子供が上階でリースを見て叫んでいる 隊員Cが少佐へ向いて言う
『少佐っ …っ!?』
隊員Cが驚き目を見開く
銃声
子供が倒れる 隊員Cが驚き目を怯えさせて言う
『しょ… 少佐… なにも なにもっ 子供までっ!我々はただっ!』
ヴァイオリンの演奏が終わる 黒の楽団幹部がくすりと笑む 隊員Cが怒りの視線を向けた先 少佐が無表情な状態から僅かに表情を驚かせる
【 隊員の回想終了 】
隊員Cが悔しそうに言う
「ラストン公爵の時もそうでした… 少佐は 黒の楽団幹部の下へ向かおうとしていた ラストン公爵を…っ 後方から何の警告も無しにっ」
軍曹が隊員Cを見て唸る 隊員Eが俯いて言う
「デーン男爵の時もそうでしたっ やはり 男爵が少佐へ助けを求めていたのにも関わらず 少佐が…」
隊員Iが軍曹に掴みかかって言う
「その上少佐はっ!我々の良き指導者にして 最後までレギストへ融資を続けていた 元レギスト軍のガリア大尉をっ!」
【 少佐の執務室 】
少佐がノートPCを操作している 内線電話が鳴る 少佐が気付き受話器を取る 少佐が言う
「…了解」
少佐が内線電話へ一言返事をして立ち上がる
少佐が執務室を出て歩き出す 少佐が目を細め手を握り締めて思い出す
【 回想 】
少佐が表情を悲しませ強く目を閉じぐっと感情を押し殺してから しっかりと前を見据えて言う
『ガリア元大尉 本日 貴方が行った 黒の楽団との契約に基づき その作業を委託された 我らレギスト部隊が 貴方の全財産を 押収いたします』
隊員たちが困惑している 少佐が息を吸い 顔を上げて言う
『作業を開始しろっ』
隊員たちが動かない 少佐が僅かに後方へ向き 怒りを殺して言う
『作業を開始しろ!これは 国防軍総司令本部からの命令だっ!』
隊員たちが顔を見合わせそのまま待機する 少佐が視線を正面に戻し怒りを抑える ガリアが言う
『…そうか 総司令官からの命令か …それでは 逆らえなくて当然だな』
少佐がガリアを見る ガリアが微笑して言う
『この港町の富裕層たちから 同じ事をしたのも お前たちか?』
少佐が答えられず感情を押し殺して俯く ガリアが優しく頷いて言う
『レギストの隊長として 良くやっている 辛かった筈だ しかし レギストはもう国防軍の物 そして その国防軍は…』
少佐が驚いてガリアを見る ガリアが少佐を見て微笑して言う
『大佐が目を掛けていただけの事はある あの幼く生意気だった子供が 少佐か… ふふふっ 時代の流れを感じるな?』
少佐が言う
『ガリア大尉… …申し訳ありません』
ガリアが顔を左右に振ってから言う
『いや 少佐… まだ間に合う!』
少佐がガリアを見る 後方で黒の楽団幹部が目を細め連れのヴァイオリニストへ目配せを送る ヴァイオリニストが頷きヴァイオリンを構える ガリアが言う
『腐り始めているのは 国防軍の上層部だけだ 大佐を亡き者にしたのも 国防軍上層部だ レギストを国防軍へ明け渡す事を 最後まで反対していた大佐へ 奴らは… …少佐 君は 君の信じる道を行きたまえ 君の目は 既にそれを見定めている』
少佐が驚いて言う
『ガリア大尉…』
ガリアが微笑して頷く 少佐が微笑する 後方で撃鉄が上がる音がする 少佐がはっとして振り返り驚く
【 回想終了 】
少佐が目を開き扉をノックして言う
「国防軍レギスト機動部隊隊長 ハイケル少佐であります」
扉の向こうから声が届く
「入れ」
ハイケルが目を細める
【 隊員たちの回想 】
隊員たちがぼうっとした状態からハッとして 顔を見合わせて口々に言う
『…あ、あれ?』『俺たちは…?』『確か音楽が…?』
ハイケルが背を向けたまま言う
『…作業を開始しろ これは最終命令だ 反する物は…』
ハイケルがゆっくり振り返る 隊員たちがハイケルの返り血を大量に受けた姿を見て絶句する ハイケルが隊員たちへ言う
『…この場で射殺する』
ハイケルが拳銃を取り出し隊員たちへ構える 隊員たちが驚いた後 ハイケルの前方へ視線を向け 驚きに言葉を失い 誰かが叫ぶ
『ガリア大尉っ!!』
隊員たちが驚き絶句して ハイケルを見る ハイケルが拳銃の蹄鉄を引く 隊員たちが慌てて叫ぶ
『了解っ!』『りょ、りょうかいっ!』『作業開始っ!』
隊員たちが逃げるように散る ハイケルが黒の楽団たちを睨む 黒の楽団幹部が微笑する
【 隊員たちの回想終了 】
隊員たちが消沈して言う
「…少佐は …ガリア大尉を無残にもっ」
「我々レギストの大尉であった ガリア元大尉へあれほど大量の銃弾を浴びせるなんてっ 自分にはっ!自分にはっ!」
隊員たちが顔を左右に振っている 軍曹が驚き呆気に取られている
【 会議室 】
会議室の扉を入った所に ハイケルが立っている 国防軍上層部幹部が言う
「ハイケル少佐 本日この時を持って 君を大佐の軍階へ昇格する」
ハイケルが視線を細めて言う
「何故 それ程急な昇格を?」
国防軍上層部幹部が言う
「何故も何も無い 君の実力を評価したまでだ 君は以前にも 中佐や大佐への昇進を断ったそうだが 可笑しな意地を張らず 大佐への昇進を素直に喜ぶが良い」
ハイケルが言う
「…今回も 辞退させて頂きたい …と申しましたら?」
国防軍上層部幹部が苦笑して言う
「我が侭を言うのも そろそろ仕舞いにしたまえ ハイケル少佐 いや ハイケル大…」
ハイケルが言う
「私は 自分の実力を推し測った上で 現行の少佐の地位に居ります そして、今後も私は 少佐の地位であるべきだと考えます」
国防軍上層部幹部が苦笑して言う
「何故そこまで 頑なに拘るのかね?君以外の者で 昇格を喜ばない者など 居はしない」
ハイケルが言う
「でしたら その者たちを昇格させて下さい 私は 大佐への昇格を辞退します」
国防軍上層部幹部が言う
「それは認めない ハイケル大佐 君がもし この地位を辞退するというのなら それはそのまま 君の除名処分へと繋がる 君に選べる道は1つしかない」
ハイケルが微笑して言う
「いや、2つだ」
ハイケルが国防軍のブローチを外す 国防軍上層部幹部たちが驚く ハイケルが国防軍のブローチをテーブルへ置き 皆を見て言う
「私は 国防軍を 脱退します」
ハイケルが背を向け立ち去る 国防軍上層部幹部が言う
「待てっ 貴様!後悔するぞっ!?」
扉が閉まる
ハイケルが通路を歩いている 向かう先から軍曹が走って来る
「少佐ぁーーっ!」
ハイケルが気付き苦笑する 軍曹がハイケルの前に到着して息を切らしてから敬礼する ハイケルが言う
「用があるなら 携帯へ連絡しろと言った筈だが?」
軍曹が言う
「はっ!申し訳ありませんっ!少佐っ!しかしながら 少佐の携帯は繋がりませんでしたので 直接少佐の執務室へ向かったのでありますが そちらでは お返事が得られませんでした故 付近を探索させて頂きました!」
ハイケルが一瞬呆気に取られてから苦笑して言う
「あ… ああ そうか 上層に呼び出され 携帯の電源を切っていた すまない タイミングが悪かったな」
軍曹が言う
「はっ!そうでありましたかっ!では 少々タイミングが悪かった様でありますっ!」
ハイケルが微笑する 軍曹が一瞬呆気に取られてから ハッとして敬礼を正して言う
「してっ!少佐っ!申し訳ありませんが 少々お時間を頂きたくっ!」
ハイケルが言う
「…そうか」
軍曹が言う
「はっ!」
ハイケルが言う
「しかし、残念だが 軍曹」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが軍曹を数歩追い越し軽く振り返って言う
「私はもう 少佐ではない」
軍曹が言う
「はっ!…は?…あ!で、では もしやっ!上層からのお話と言うのはっ!」
軍曹が表情を明るめる ハイケルが微笑む 軍曹が喜んで言おうとする
「おめでとうござ…っ!」
ハイケルが言う
「私は 国防軍を解雇された」
軍曹が驚いて言う
「…いっ!?なっ!?なぁああっ!?」
ハイケルが軍曹の横を抜け背を向けたまま言う
「だからもう 私は少佐ではない 勿論 君の上官でも…」
ハイケルが軍曹へ顔を向けて言う
「軍曹 後は任せる」
ハイケルが立ち去る 軍曹が呆気に取られたまま居て ハッとして慌てて追い掛けようとして言う
「…しょ 少佐っ!?少佐ぁ!?」
軍曹がハイケルを追おうとする 兵がやって来て言う
「ヴォール・アーヴァイン軍曹 国防軍上層部の方々がお呼びです 大至急 会議室の方へ」
軍曹が顔を向け怒って言う
「それ所ではないのだっ!少佐が!少佐ぁーっ!」
軍曹が向かおうとすると 兵が軍曹の腕を掴み必死に言う
「ヴォール・アーヴァイン軍曹っ!国防軍上層部幹部の方がお呼びなんですよっ!分かっておいでですかっ!?それに 貴方を連れて行かなかったら 自分がっ!」
軍曹が兵を引きずりながら言う
「うるさい 黙るのだっ!少佐以外の誰が呼ぼうが 俺には関係ないのだっ!少佐ー!少佐ぁーーっ!」
軍曹が手を伸ばす その手の先で ハイケルが去って行く
【 会議室 】
兵が言う
「ヴォール・アーヴァイン軍曹をお連れしましたっ!」
国防軍上層部幹部が言う
「入れ」
兵が言う
「はっ!」
扉が開かれると 兵たちに引きずられて軍曹が入れられる 軍曹が悔しがって言う
「くそぉおーっ!俺は少佐を追わねばならんと言うのにっ!邪魔を… するなぁあーーっ!」
軍曹が兵たちを振り払う 兵たちが振り払われる 軍曹が部屋を出て行こうとする 国防軍上層部幹部が言う
「では、その少佐へと 君を昇格させよう ヴォール・アーヴァイン軍曹 …どうだね?」
軍曹が声の方へ睨みを向ける 国防軍上層部幹部がハイケルの付けていた国防軍のブローチを放り投げる 軍曹がそれをキャッチして見て言う
「これはっ!少佐のっ!?」
軍曹が国防軍上層部幹部を見て 怒って言う
「少佐を追放したのはっ!お前たちかっ!」
国防軍上層部幹部が苦笑して言う
「ヴォール・アーヴァイン軍曹 君もまた 変わった男だ …本来なら 国防軍上層部への入部が約束されていたと言うのに わざわざ軍曹の地位まで落とすとは… その上」
軍曹が言う
「何故少佐を追放したっ!?少佐ほどレギストの事をお考えになっている方は 居られないのだっ!それをっ!」
国防軍上層部幹部が言う
「言葉を慎みたまえ ヴォール・アーヴァイン軍曹 君は今 我ら国防軍上層部の」
軍曹が言う
「知らーんっ!国防軍上層部と言っても お前らなど その上層部の下っ端の者ではないかっ!それが 何を偉そうに 少佐からレギストの指揮権を奪ったのかっ!?お前らなどっ!」
国防軍上層部幹部が表情を引きつらせ言う
「ヴォール・アーヴァイン軍曹っ!それ以上言うのであれば 君への昇格は無かった事にするぞっ!君が我々の命令を聞くのなら 数日後には 少佐どころか あのハイケル少佐が辞退した 大佐の地位にだってしてやっても良いのだぞっ!?」
軍曹が叫ぶ
「だまれっ!少佐はお前らなどより よっぽど頭の切れるお方なのだっ!少佐が辞退されたというのなら 俺が その大佐になどなってたまるかっ!…いや!俺は少佐が少佐である限り 軍曹のまま お仕えするのであるー!」
軍曹が部屋を飛び出して叫ぶ
「少佐ぁーーっ!」
国防軍上層部幹部が頭を抱えて溜息を付く 他の国防軍上層部幹部が顔を見合わせ言う
「ヴォール・アーヴァイン軍曹はともかくとして ハイケル少佐の方は…」
「うむ… どうやら 我々の画策に気付いている …放っては置けない」
「だが、彼は優秀な隊員だ あのヴォール・アーヴァイン軍曹が心酔するだけの事はある 始末してしまうのは惜しい」
「…と、なれば?」
国防軍上層部幹部たちが笑う
【 ハイケルの部屋 】
ハイケルが息を吐いてベッドに倒れる ハイケルが目を開いて思う
(これでもう後戻りは出来ない… いや、端からするつもりは無かった これでやっと… 仇が討てる)
ハイケルが顔を向ける 視線の先に写真がある 写真には5人の人物が写っているが 光の加減で 幼いハイケルとアリシア父の顔しか見えない ハイケルが思う
(レーベット大佐…)
【 軍曹の家 】
メタルミュージックと共にエレキギターが激しく鳴り響く 軍曹がロックンローラーしながら叫ぶ
「ぬあぁあああ!!何が国防軍だ!?何が国防軍上層部だぁ!?何も知らない馬鹿どもめー!少佐を追放しおってーーっ!!俺が居りたいのは こんなレギストなどではなぁーーい!」
エレキギターがキュイーンと歪を鳴らす 軍曹が叫ぶ
「俺はぁあーー!さっさと少佐の居られるレギストに戻りたいのだぁあ!!そして少佐と共にー!少佐と共にーー!!」
軍曹がエレキギターを激しく鳴り響かせて叫ぶ
「くそぉおお!!何もかもが気に入らーーん 俺に少佐になれだとーーっ!?我らレギストの少佐は 少佐以外に務まるはずが無いのだーー!!だというのに だというのにーーー!!」
軍曹が出入り口方向へ背を向け 決めポーズでエレキギターを鳴らして叫ぶ
「ぬあぁああ!!少佐ぁあーー!自分は!少佐が!少佐がぁああ!!」
エレキギターと共に音楽が終了する 軍曹が間を置いて 軍曹の後方出入り口付近を見る しかし 誰も居ない 軍曹が表情を落とし間を置いて俯く
軍曹がソファに乱暴に腰を下ろして言う
「少佐… 自分は… やはり少佐が分からないであります あの日初めて少佐を目にしたときから 俺はずっと 少佐に憧れて… いや 少佐と共に」
軍曹が手を開くと ハイケルのブローチがある 軍曹がそれを見つめて思い出して思う
(あの日俺は… 本当なら 国防軍上層本部への入部処理をする予定だった レギスト部隊の駐屯地へ行ったのは たまたま… 上層本部の連中が 駐屯地を経由して本部へ戻る予定だったから さっさと挨拶だけ済ませてしまおうと 祖父上と一緒に向かった …その時っ)
軍曹がブローチを握り締める 軍曹が思い出して思う
(俺は… 俺はあの演習所で 初めて少佐を目にした そして、一目見て思った この人は凄いと この人は… きっと きっと 何か大きな事を 起こそうとしているとっ 俺にはそう思えて仕方なかった)
軍曹の脳裏に 演習所で部下たちを見ているハイケルの姿が思い出される 当時の軍曹が目を見開き呆気に取られている 軍曹と一緒に居る祖父ラゼルが振り返る
軍曹が立ち上がり ハイケルのネクタイが置かれている棚へ近付いて思う
(だから俺は 無理を言って レギストの軍曹として 入隊させてもらったんだ …あの少佐と共に その何かを成し遂げたかった …それなのに)
軍曹がハイケルのネクタイの横に 少佐のブローチを置く 軍曹が言う
「少佐… 貴方は今… どちらに居られるのでありますか?俺は… 俺は…っ」
軍曹がエレキギターを掻き鳴らして言う
「俺はぁああ!少佐の御自宅のご住所を知らないんだぁああーーーっ!」
エレキギターが空しく響き渡る
翌昼
軍曹がソファでだらしなく寝ている サイドテーブルにおいてあるノートPCにメール受信を知らせるマークが出ている 軍曹が寝言を言う
「むにゅ… 少佐ぁ~… 自分は 少佐が…」
軍曹の携帯が鳴り響く 軍曹が寝苦しそうにする 携帯が鳴り続ける軍曹が嫌々目を覚まし 手探りで携帯を探してソファから落ちる 軍曹が頭を掻きつつ携帯に出ながら言う
「ん?こんな早くに 誰であろうか…?」
携帯から軍曹兄の声が届く
『何だ まだ寝ていたのか アーヴィン?もう昼過ぎだぞ?』
軍曹が言う
「兄貴か… 何か用なのか…?」
軍曹兄が言う
『何か用かとは…っ 酷い言われ様だな?こちらは久しぶりの弟からのお願いに わざわざレギストのデータセキュリティを解析してまで メールを送ってやったのだが?ちゃんと確認はしたのか?』
軍曹が寝ぼけた状態からハッとして言う
「お願い…?メール?―のわっ!少佐のっ!少佐のご住所が 分かったのかっ!?」
軍曹兄が呆れて言う
『分かるに決まってるだろ?こちらは国防軍の全情報を扱ってるんだ』
軍曹が慌ててメールをチェックして喜んで言う
「助かったのだ!兄貴!」
軍曹兄が苦笑して言う
『それ位素直に 上層と話をしたらどうなんだ?まぁ 言葉遣いの方は 相変わらずの様だがな?』
軍曹が住所を見て言う
「ウェスト通り210ストリートW1か… よし!すぐに向かってみるのだ!兄貴!感謝する!」
軍曹が支度する 携帯から軍曹兄の声が聞える
『うん?調査命令でも出てるのか?その部屋の主である ハイケル元少佐なら 先程こちらの本部に来たぞ?』
軍曹が驚いて叫び携帯を掴む
「なにぃいーーっ!」
【 国防軍本部 】
軍曹兄アースがうるさそうに受話器から耳を離す 受話器から軍曹の声が聞える
『何故それを先に言ってくれないのかっ!?兄貴っ!?』
アースが呆れて言う
「そちらを伝えてやろうと思って電話してやったんだ 優しいお兄様に もう一度感謝の言葉を言っても良いのだぞ?アーヴィン?」
軍曹が言う
『少佐は何用で国防軍本部へ!?とにかく 俺もすぐに向かう!』
アースが言う
「今朝 ハイケル元少佐に 国防軍本部から出頭命令が出たんだ …当然だな?少佐にまでなった奴が おいそれと軍を辞められる訳が無いだろう それに…」
アースが言い掛けたところで 緊急サイレンが鳴り響く アースが驚き立ち上がる
【 軍曹の家 】
軍曹が携帯から聞える騒ぎに疑問して言う
「ぬ?兄貴 その警報は どうかしたのか?」
携帯からアースの声が聞える
『アーヴィン 大変だぞ!そのハイケル元少佐が 本部の総会議室で―!』
軍曹が驚き呆気に取られる
【 国防軍 総会議室 】
国防軍上層の役人が苦笑して言う
「おやおや… それは何の真似かね?」
ハイケルが拳銃を構えた状態で言う
「何の真似なのかは 自分の胸に聞いてみる事だ」
【 軍曹の家 】
軍曹が車に乗り込むとアクセルを踏み込んで 車を飛ばす
【 国防軍 総会議室 】
役人1が苦笑して言う
「理由はさておき 昇格辞令を出した事を そこまで恨まれる筈は無いな?となれば… 君を可愛がっていたと言う あのレーベット大佐の仇討ちとでも?」
ハイケルが撃鉄を上げて言う
「後の回答が正解だ 分かっているなら尚更… ―お前から始末してやるっ」
銃声
役人1が倒れる 他の役人たちが驚き戸惑い 役人2が慌てて言う
「おいっ!警備兵は何をしている!」
役人3がテーブルの下のスイッチを押す 緊急サイレンが鳴り響く ハイケルが役人2へ銃を向ける 役人2が怯えて言う
「ま、待てっ や…っ やめろぉーっ!」
銃声
【 国防軍本部前 】
国防軍本部入り口に 軍曹の車両が突っ込んで来る 軍人たちが止めようとしていた状態から慌てて逃げる 軍曹の車両が鉄格子をなぎ倒して乱入して行く
【 国防軍 総会議室 】
兵士たちが集まって銃を向ける ハイケルが国防軍総司令官に拳銃を向けていて言う
「動くな!…今俺を撃てば 俺は 死んでも この引き金を引くぞ?」
ハイケルの後方出入り口に集まった兵士たちが銃を構えたまま止まる 総司令官が言う
「落ち着きたまえ ハイケル少佐 …お前たちもだ」
兵士たちが総司令官を見る 周囲には役人たちのが倒れている ハイケルが言う
「俺は落ち着いているつもりだ 総司令官 答えろ レーベット大佐の話だ」
総司令官がにやりと口角を上げて言う
「何故 大佐を殺したか?かな?ハイケル少佐」
ハイケルが沈黙する 総司令官が言う
「理由は簡単だ 彼は最後まで レギストの国防軍への併合を反対し 尚且つ 黒の楽団とのコンタクトを止めるようにと 私に意見して来た」
ハイケルが沈黙する 総司令官が言う
「君は賢い男だ ハイケル少佐 我々が… 大佐の軍階から上の者へ 黒の楽団から提供される助手を付けてやる事を 知っていた… そして、その助手らの真の目的も… それで君は 大佐への昇格を 頑なに拒んでいた …違うかな?」
ハイケルが言う
「俺は質問に答えろと言っただけで 俺が答えるとは言っていない」
総司令官が苦笑して言う
「ふっふっふ そうか まぁ良い 君が今しがた始末した彼らは そんな君へ 少佐であっても黒の楽団からの助手を付けてやろう 等と言っていたのだ 馬鹿な連中だ だが そんな彼らを君は始末してくれた 私は感謝しているよ」
ハイケルが言う
「…その 黒の楽団からの助手 そいつが レーベット大佐を操り 大佐の財産を提供させ …大佐の奥様を撃たせ …大佐ご自身さえもっ!」
ハイケルが怒りに震える 総司令官が言う
「そうだ その通りだ ハイケル少佐 音楽で人を操るなど 常人が聞いて納得する筈が無い しかし、君はその事実を認識し そして 全ての経緯を調べ上げた 大した者だ それでこそ …私の作る 新しい国防軍に相応しい」
ハイケルが怒り唇を噛み締める 総司令官が握手の手を差し出して言う
「ハイケル少佐 私と共に 新たな国防軍を造ろうではないか?この国を守るだけでなく この国を… 支配する事だって出来る!黒の楽団の 彼らと共に!」
ハイケルが叫ぶ
「ふざけるなぁあ!」
兵士たちが構える 軍曹が駆け込んで来て叫ぶ
「少佐ぁーっ!」
ハイケルが横目に声の方を見る 総司令官が兵士たちへ静止の手を向け 苦笑して言う
「…そうか もっとも 君の答えは 分かっていたとも …だからこそ 私の助手を ここへ連れて来ていた ハイケル少佐 君も… 大佐と同様に 自らの銃で逝くが良い」
総司令官が微笑して目配せを行う 総司令官の後方に控えていたヴァイオリニストが現れヴァイオリンを奏で始める ハイケルが持っていた荷物を軍曹へ投げ渡して叫ぶ
「弾けっ!軍曹っ!」
軍曹がハイケルから投げ渡された物をキャッチして驚く ヴァイオリンの音が部屋中に鳴り響く ハイケルが頭を抑え表情を顰めて叫ぶ
「急げ 軍曹っ!」
軍曹が呆気に取られた状態から笑んで言う
「はっ!了解!少佐ぁー!」
軍曹がエレキギターを掻き鳴らす 国防軍総司令館全館のスピーカーから メタルミュージックと共に軍曹のエレキギターが鳴り響く 軍曹がロックンロールしながらエレキギターを弾き続ける 兵士たちが一度驚いて軍曹を見た後 ハッとして総司令官を見る 総司令官が呆気に取られて言う
「ば、馬鹿なっ 何故… っ!」
総司令官の頭に拳銃が突き付けられる 総司令官が息を飲んで見上げる ハイケルが拳銃を構えていて言う
「人を操る事が出来る 黒の楽団の音楽… 音楽はある種の周波数と同じだ だったら 同じ周波数の別の音楽を流してやれば その作用は相殺される」
総司令官が目を見開いて言う
「ま… 待ってくれっ ハイケル少佐っ わ、私はっ 私はまだっ 死にたくないっ!」
ハイケルが言う
「残念だったな 今 そのお前の目の前に居る男は 冷徹な隊長 人の血が通っていない男 レギスト1残忍な少佐 …そんな別名が付けられていた奴だ そして 何より俺は お前のような 裏切り者が 大嫌いなんだっ!」
総司令官が目を見開く 軍曹が派手なアクションと共に曲を終了させて言う
「センキューッ!」
総司令官が倒れる
【 レーベットの屋敷 】
部屋の中に レーベット大佐の絵が掛けられている ヴァイオリンの優しい曲が流れている 曲が終わると出入り口から軍曹が拍手をして言う
「お見事でありますっ!少佐ぁ!」
ヴァイオリンを弾いていたハイケルが振り返り苦笑する 軍曹がハイケルの近くへ来る ハイケルが言う
「…やはり 似合う か?」
軍曹が笑顔で言う
「はっ!とっても お似合いでありますっ!」
ハイケルがヴァイオリンを見下ろしながら言う
「そうか… だがな、軍曹?」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが軍曹へ向き苦笑して言う
「私は… ヴァイオリンが嫌いなんだ」
軍曹が衝撃を受けて言う
「はっ!…はえっ!?」
ハイケルが絵を見上げて言う
「私の恩師 レーベット大佐だ」
軍曹が呆気に取られたまま絵を見上げて言う
「は… おおっ!こちらが 少佐のご恩師様!レーベット大佐… レ… レーベット?」
軍曹が考える ハイケルが絵を見上げたまま言う
「大佐は高位富裕層のお方だ 私は その大佐に ご支援を頂いていた そして… 大佐は 私がヴァイオリンを弾くと とても喜んで下された だから 私はヴァイオリンを学び 大佐にお褒めの言葉を頂きたくて 弾いていた」
ハイケルが軍曹へ向いて苦笑して言う
「…それだけだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「それだけ…」
ハイケルが言う
「ああ、それだけだ」
ハイケルがヴァイオリンをテーブルへ置き時計を見る 軍曹が考えている ハイケルが軍曹へ向いて言う
「軍曹」
軍曹がハッとして 慌てて敬礼をして言う
「はっ はっ!少佐!」
ハイケルが出入り口の方へ歩いてから言う
「この後 暇か?」
軍曹が一瞬呆気に取られた後 敬礼して言う
「は、はいっ!大いに暇でありますっ!」
ハイケルが軽く笑った後 軽く振り向いて言う
「…なら 食事にでも行かないか?」
軍曹が衝撃を受けて叫ぶ
「え!?えぇえーーっ!?」
ハイケルが言う
「嫌なら無理にとは言わないが…」
軍曹が慌てて言う
「い!?いいいいいいっ!いえいえいえいえいえっ!め、滅相も御座いませんっ!少佐から 食事のお誘いを頂けますとはっ!ヴォール・アーヴァイン軍曹 これ以上に無い 光栄に御座いますっ!!」
ハイケルが言う
「そうか では…」
軍曹がハイケルに駆け寄って来る ハイケルが言う
「…と、すまないが 一度着替えて来て貰えるか?制服では 少々 行き辛い場所なんだ」
軍曹が一瞬呆気に取られた後 笑顔で敬礼して言う
「はっ!了解いたしましたっ!」
ハイケルが言う
「では、18時頃に レイメスト駅の外で」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!了解でありますっ!少佐っ!」
ハイケルが微笑する
【 レイメスト駅 外 】
ハイケルが駅を出て周囲を見渡し軽く驚いてから微笑して歩く ハイケルが軍曹の前に来て言う
「すまない 待たせたか?」
軍曹が喜んで言う
「いえっ!大丈夫であります!」
ハイケルが軍曹の服に積もった雪を見て苦笑して言う
「だが 大分待っていたんだろう?私は18時頃と伝えなかっただろうか?」
軍曹が笑顔で言う
「はっ 18時頃と伺いましたのでっ!自分は 少々早めに到着しておりました!」
ハイケルが苦笑して言う
「…そうか 君は部隊での集合でも 20分前に集合する奴だったな… 分かった、これからは 私的な事で君を呼ぶ時には 20分後の時間を伝えよう」
ハイケルが歩き出す 軍曹が笑顔で続きながら言う
「はっ!では 自分は!その時間より40分前に 集合するでありますっ!」
ハイケルが衝撃を受け 慌てて言う
「それでは 意味が無いだろっ!?」
軍曹が疑問する
ハイケルと軍曹が歩いている ハイケルが言う
「それにしても… 随分と正装をしてきたな?これから行く店は… そんなに大した店ではないぞ?」
軍曹が一瞬疑問して自分の服装を確認してから言う
「正装… ですか?自分としては 少々カジュアルかとも 思ったのですが?」
ハイケルが苦笑して言う
「そうか… まぁ 以前 君の見舞いに行った時には 凄い格好をしていたからな あれではなくて安心したが」
軍曹がハッとして恥ずかしがりながら慌てて言う
「あっ!あれはっ!その…っ!自分の私服と言いますより… 衣装で ありましてっ」
ハイケルが軽く笑う 軍曹がハイケルの表情に安堵してから 改めて言う
「と、所で 少佐」
ハイケルが言う
「なんだ」
軍曹が言う
「これから向かいます店は 少佐の… 行きつけの店 と言う事でありましょうか?」
ハイケルが少し考えてから言う
「行きつけ… とは 少し違うな… 知り合いの店だ」
軍曹が一瞬呆気に取られてから言う
「知り合い… 少佐のお知り合いの方が?」
ハイケルが言う
「ああ、私の… うん?ああ そうだったな?軍曹」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが立ち止まって言う
「とりあえず 店内では ”少佐”は無しだ 無論 敬礼も」
ハイケルが軍曹の敬礼している手を退かす 軍曹が呆気に取られて言う
「は… はえ…っ!?で、では…?」
ハイケルが言う
「そうだな 私の事は ハイケルで良い 分かったな?軍曹」
軍曹が衝撃を受けて言う
「えっ!?い、いえっ 少佐を お名前で呼ぶなどっ 自分はっ そのっ!」
ハイケルが気付き 苦笑して言う
「ああ… そうか 私も 軍曹と呼んではいけなかったな では 行くぞ ヴォール」
ハイケルが店の扉を開く 軍曹が慌てて言う
「あっ お、お待ち下さいっ しょ… あっ えっとっ そのっ ハ…ハ…ハイケ」
軍曹がハイケルに続いて店に入ると マスターが言う
「おっ!ハイケル!やっと来たかー!」
軍曹が驚いてマスターを見る ハイケルが微笑して言う
「ああ 待たせたな」
ハイケルが店の中へ入って行く 軍曹がハッとして 慌ててハイケルを追う
ハイケルがコーヒーを飲む 一口飲んで軽く息を吐く マスターが微笑して言う
「どうだ?久しぶりの俺の淹れたコーヒーは?」
ハイケルが苦笑して言う
「にがい」
マスターが衝撃を受ける ハイケルが言う
「冗談だ」
マスターが苦笑して言う
「ったく 相変わらずだなぁ?」
ハイケルが遠く微笑して言う
「…大佐が好きだった味だ」
マスターが微笑して言う
「いんや、大佐には もう少し濃い目だ… お子様なお前さんには ちょっと薄めにしてやらんと」
ハイケルが顔を背けて言う
「…余計なお世話だ」
マスターが笑んで言う
「無理しちゃって 可愛くないね?」
ハイケルが言う
「悪かったな」
マスターが微笑する 軍曹が呆気に取られて二人のやり取りを見てる マスターが軍曹を見て言う
「君も大変だな?可愛くない上官の下で」
ハイケルがムッとして言う
「上官が可愛くてどうするっ」
マスターが言う
「こいつ 何も教えてくれないだろ?何かあればいつも ”良いんだ” ”それだけだ” だろ?」
軍曹が驚き呆気に取られる ハイケルが頬を染めて怒って言う
「うるさいっ!”良いんだ”!」
ハイケルが衝撃を受ける マスターがくっくっくと笑う ハイケルが顔を逸らす 軍曹がハイケルを見てからマスターを見て言う
「あ、あなたは…?」
ハイケルがムッとしてテーブルを叩き立ち上がって言う
「帰るっ!来るんじゃなかった…っ」
軍曹が驚き慌てて言う
「ぬあっ!?しょ、しょう…っ ハ、ハ…っ」
マスターが言う
「ハイケル?」
ハイケルが椅子を1歩離れた状態で止まる マスターが微笑して言う
「この間の 貸しを 返してくれるんだろ?」
ハイケルが間を置いて言う
「情報部に戻る気は 無い んじゃなかったのか?」
マスターが苦笑して言う
「今更 あそこへ戻るつもりは無いね?」
ハイケルがマスターへ向いて言う
「なら…」
マスターが微笑して言う
「可愛いハープの演奏者を雇ってたんだが 誰かさんが大暴れする前に 居なくなっちまったんだ 町も落ち着いて 折角お客も戻って来たってのに 店内が寂しくてな?お前 今もヴァイオリンは弾けるんだろ?大佐のお墨付きだ… そいつで貸しはチャラって事で …どうだ?」
ハイケルが演奏台を見る 1脚の椅子があり そこにヴァイオリンが置かれている ハイケルが一度目を閉じてから マスターを見て苦笑して言う
「チップは渡さないからな?」
マスターが笑んで言う
「貰えるのかぁ?」
ハイケルが微笑して言う
「見ていろ」
ハイケルが言い捨てて演奏台へ向かい ヴァイオリンを手にすると 客たちへ一礼する 客たちが顔を向ける ハイケルがヴァイオリンを奏で始める 軍曹が感心して言う
「おぉー…」
マスターがコーヒーのお替りを入れながら言う
「うまいだろ?」
マスターが軍曹の前にコーヒーカップを戻す 軍曹がハッとして慌ててマスターへ向き直って言う
「あっ は、はいっ!とっても美味しいでありますっ」
マスターが苦笑して言う
「ははっ そうじゃない あいつのヴァイオリンだよ」
軍曹がハッとして慌てて言う
「あっ は、はいっ!とても!」
マスターが苦笑して言う
「あいつは いつもそうなんだよ… 何でも出来て 何をやっても うまくって…」
軍曹が呆気にとられてから 微笑して言う
「は、はいっ!とてもっ 素晴らしいお方だとっ!」
マスターが遠くを見て言う
「でもなー… そう言う奴って ムカつかないか?」
軍曹が衝撃を受けて言う
「は、はぇっ!?」
マスターが悪笑んで言う
「少なくとも 俺はそうだったね」
軍曹が困って言う
「は… はぁ…?」
マスターが言う
「俺の他にも 孤児院の子供たちは 皆そんな感じだった だから… いっつもあいつは 1人で居たんだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「え?孤児院…?」
マスターが軍曹を見て言う
「うん… ああ?知らなかったか?俺もあいつも 孤児院の出身だ それで、俺とあいつは歳が近くて 俺は16の時 レーベット大佐に援助を受けて 国防軍に入隊した その時 前々から大佐が目を付けていた あいつも …本当は16歳からなんだけどな?大佐の一押しがあって 一緒に入隊したんだ」
軍曹が反応して言う
「レーベット…」
マスターが言う
「なんだ?レギストの癖に レーベット大佐を知らないのか?」
軍曹がハッとして慌てて言う
「あっ いえっ その… も、申し訳ありませんっ しかしながら 先ほどお姿の方は…」
軍曹が視線を落として もごもご言っていると マスターが後方の1枚の写真を示して言う
「ほら、こちらのお方だ 今でも駐屯地に 写真位はあるだろう?」
軍曹がマスターの示した写真を見て衝撃を受け驚いて言う
「ぬあっ!あ、あの娘はっ!!」
写真には アリシアとアリシア母、アリシア父 ハイケル マスター の5人が写っている マスターが苦笑して言う
「アリシアを見つけた時には 本当にびっくりしたね~?一目で分かった この子が… ハイケルの言ってた 成長した あのアリシアお嬢様だってな?慌ててこの写真を隠したっけ?」
軍曹が驚いたままマスターを見る 後方でハイケルの演奏が終わり 拍手が鳴る ハイケルが礼をして チップを受け取ってカウンター席へ戻って来る マスターが微笑して言う
「お見事」
ハイケルが椅子に座りながら言う
「聞いていなかっただろ?」
マスターが笑って言う
「聞いてたさ ちゃんと バックミュージックとしてな?」
ハイケルが軍曹を見る 軍曹が石化している ハイケルがそれを確認してからマスターへ言う
「お前 何か余計な事を言ったな?」
マスターが笑顔で言う
「言ってねーよ?…それより 飯を食べに来たんだろ?何にする?とは言え ここは喫茶店だからな?軽食しかないぜ?」
ハイケルが言う
「ああ なら とりあえず 牛ヒレステーキのセットを 2人分 お前のおごりで」
マスターが衝撃を受けて言う
「ねぇよっ!軽食って言ってるだろっ!?大体 貸しを返しに来た奴に 何で俺がおごらなきゃならねーんだっ?」
ハイケルが軽く笑う マスターが苦笑しながら言う
「まったく エビフライ定食2人分な?しょうがねーから おごってやる」
ハイケルが言う
「年長者がおごるのが筋だ」
マスターが怒って言う
「2つしか 違わねーだろっ」
マスターが調理に向かうと 軍曹がハイケルへ向いて言う
「あ、あのっ 少佐…」
ハイケルが言う
「何だ?軍曹?」
軍曹がハッとして敬礼して言う
「は、はっ!その…」
マスターが軽く顔を向けて言う
「店内では 至って平和的に頼むぜ?」
軍曹がハッとして敬礼を隠して言う
「し、失礼しましたっ そ、その… レーベット大佐というのは もしや… あの…?」
軍曹が写真を見る ハイケルが軍曹の視線の先を見て言う
「ああ… あの アリシア・フランソワ・レーベットの父親だ」
軍曹が驚いてハイケルを見る ハイケルが視線を向けないまま冷えたコーヒーを飲んでから言う
「覚えているか?お前が… 我々の話を盗聴していた ウイリアム伯爵を射撃した時の事だ」
【 回想 】
軍曹がハッと気付き 瞬時に拳銃を抜いて ドアの隙間を撃ち ドアへ向かう 軍曹がドアを開き周囲を見て アリシアに気付き表情を怒らせて近づいて行く アリシアが怯えて後づ去り 逃げ出そうとすると 軍曹がアリシアを掴んで言う
『やはりお前かっ!』
アリシアが顔を左右に振って言う
『ち、違うわっ!私じゃっ!』
軍曹が言う
『昨日も今日も居て 違うだとっ!?』
アリシアが怯えて言う
『わ、私は…っ!』
軍曹がアリシアに拳銃を突きつける アリシアが目を見開き怯えて強く目を閉じる 軍曹がニヤリと笑む ハイケルの声が届く
『止めないかっ!軍曹!』
軍曹がはっとする アリシアが恐る恐る目を開く 軍曹が後ろを見て言う
『し、しかし 少佐』
【 回想終了 】
ハイケルが言う
「お前が銃を突き付けていた その少女を見た瞬間 私にはすぐに分かった 幼い頃のお嬢様… いや、その母親である レーベット大佐の奥様に 良く似ていたんだ」
軍曹が驚いて言う
「あの… 娘が…?」
ハイケルが苦笑して言う
「あの時は 咄嗟に君を誤魔化したが… ウイリアム伯爵の屋敷を襲撃した後になって 実はあの屋敷にお嬢様が居て 偶然にして 我々の目を逃れていた… と、知った時には 血の気が引く思いだった」
マスターが料理を持って来て言う
「きっと大佐が 2人を守ってくれたんだろ?お前と お嬢様を な…?ほら 人のおごりだ 旨いだろうぜ?」
マスターがハイケルと軍曹の前に料理を出す 軍曹が言う
「あっ いえっ 自分まで おごって頂くわけには…っ」
ハイケルが言う
「気にするなヴォール そんなスパイスでもなければ コイツの料理は食えたもんじゃない」
軍曹が衝撃を受ける マスターが怒って言う
「あっ!おいっ?こらっ?これでもちゃんと 店としてやってるんだぁっ」
ハイケルが食べながら言う
「そうだったな… なら悪かった」
マスターが不満そうに言う
「ちっ… とは言え 料理もお前の方が上手いだろうよ!俺がお前に勝てるのは コーヒーぐらいだ」
ハイケルが微笑して言う
「情報収集能力も だろ …折角 大佐が評価して下されていたのに お前は 喫茶店のマスターになりたい などと…っ」
マスターが微笑して言う
「大佐は俺に やりたい事をやって良いって 言ってくれたんだ 俺は 駐屯地の部屋の中で ひたすら人の秘密を探る あの作業が嫌いでね?そんな事よりも 悩みのある人や辛い事が有る人… どんな人でも その瞬間だけはホッとする事が出来る コーヒーを入れる事の方が 好きなんだよ」
ハイケルが顔を背けて言う
「…ふんっ」
マスターが微笑する お客が礼を言って店を出て行く マスターが返事をして 片付けへ向かう 軍曹がそれを見送りハイケルを見る ハイケルが食事を食べている 軍曹が微笑して言う
「お二人は… とても 仲が良いのでありますね!」
ハイケルが不満そうに言う
「出来損ないの上を持つと 下は苦労する」
軍曹が苦笑する マスターが片付け物を持ってきながら言う
「こらー?誰が出来損ないの上だって?」
ハイケルが言う
「相変わらず 耳だけは良いな」
マスターが得意げに言う
「耳の良さは ここに居て更に良くなったぜ?色んな客が 色んな情報をくれるからな?」
ハイケルが言う
「お前が居なくなって 情報部の質が酷く下がったんだ お陰で 大佐もご苦労をされていた」
軍曹が感心して言う
「ほぁ~ マスターは とても素晴らしい 情報処理能力をお持ちなのでありますね!うらやましい限りでありますっ」
マスターが片づけをしながら笑んで言う
「ああ、ガキの頃から こいつとつるんでたからな?無口な一言に隠された 裏の裏まで読み取ってやらねーと 話にならねーからよ?」
ハイケルが言う
「裏の裏なら 表だろう 可笑しな解釈をしているから 話が通じなくなる」
マスターが降参のポーズで言う
「これだー」
軍曹が笑う
ハイケルと軍曹が食事を終えコーヒーを飲んでいる マスターがコップを拭きながら軍曹を見て言う
「所で、今更だが 初めて君に会うな?君があの…」
軍曹がハッとして言う
「あっ ご挨拶が遅れましてっ 失礼をっ!自分はっ!」
マスターが言う
「ヴォール・アーヴァイン・ハブロス公爵 歴代国防軍長と言われる あの大富豪 ハブロス家の次男だって?大した御曹司様だ」
ハイケルが雷に打たれて言う
「なぁあっ!?」
軍曹が衝撃を受け慌てて言う
「なっ!何故っ その事をっ!?ハブロス家の名は 国防軍名簿にも記載されないようにと 処理がなされて居る筈ではっ!?」
マスターが笑んで言う
「ふっふ~ん 君の敬愛する ハイケル君がさっき言ってくれただろう?今 君の目の前に居る この俺は~?と~っても腕の良い 情報収集能力を持ってるって~?」
ハイケルがぎこちなく顔を軍曹へ向けて言う
「ど… どう言う… 事だ…っ!?軍曹っ!?」
軍曹が困り慌てて言う
「い、いえっ それはっ あの…っ!」
マスターが笑顔で言う
「何でも~?本来は 国防軍総司令本部の最上位から 2~3番目当たりの役職に就く予定だったのを?ここの駐屯地で ハイケルを一目見て ゾッコン!少佐であるコイツの下に就く為に わざわざ身分や本名を隠した上 軍階だって軍曹まで落としちまって… そこまでして ハイケルの部下に就いたんだってなぁ?いやぁ~ 流石に国防軍トリプルトップシークレットを探るのは 命がけだったわぁ~?」
ハイケルが表情を怒らせて小声で怒って言う
「どう言う事だっ!?」
ハイケルが密かに隠し持っている拳銃を軍曹の胸に突き付ける 軍曹が慌てて言う
「い、いやっ それはっ あの…っ!」
ハイケルが視線を険しくして言う
「クッ… さては俺を探る 国防軍の回し者だったかっ!?」
軍曹が表情を悲しませて言う
「ち、違うでありますっ 自分はっ!自分はただっ!」
マスターがコーヒーを注ぎながら言う
「ハ~イケル?落ち着けよ?…たく お前は 相手が富裕層だと 本っ当に冷静さに欠けるよなぁ?ヴォール君が回し者なら 俺はとっくに お前へ伝えている …とにかく そんな物騒な物は しまってくれ」
ハイケルが表情を落ち着けながらも 変わらない視線で軍曹を見続けて銃をしまう マスターが1つ溜息を付いてから コーヒーを客へ持って行く ハイケルが変わらず軍曹へ鋭い視線を向けて言う
「何故 隠していた?」
軍曹が辛そうに言う
「そ… それは…」
マスターが戻って来て言う
「そりゃ 隠すだろうさ?高位富裕層 しかも あのハブロス家の御曹司様が 軍曹だなんてなぁ?」
ハイケルが言う
「お前は黙っていろっ 俺は コイツに訊いているっ」
軍曹が言う
「ち、違うであります…」
マスターとハイケルが軍曹を見る 軍曹がマスターへ向いて言う
「自分は 例え 富裕層であろうともっ 下位の役職に就く事は 決して恥じでは無いと思うでありますっ …そんな事より 自分はっ!」
軍曹がハイケルを見る ハイケルが僅かに疑問する 軍曹が言う
「自分には 少佐の… 少佐の… 目に見えない 何か… 強い力が とても… とてもっ 魅力的で…」
マスターがハイケルを見る 軍曹が視線を落として言う
「自分も そんな力が 欲しいと… ソレは… 何なのか どうしたら手に入るのか… とにかく 全てを知りたくて その方法として思いついたのが…」
マスターが言う
「富裕層である事を隠して 普通の兵士として振舞い ”ソレ”を確認しようとしていた って事か…」
軍曹が言う
「は、はい… しかしっ 途中からは そのっ しょ… ハイケル様のっ お力になりたいと…!何を しようとしているのかは… 最後まで 分からなかった でありますが… とにかくっ 何でも良いので!お力に なりたいと…っ!その気持ちはっ 今でもっ 変わらないでありますっ!」
マスターが苦笑する ハイケルが沈黙する マスターがハイケルへ向いて言う
「良いんじゃないか?ハイケル こんな子供みたいに素直な奴 お前の嫌いな富裕層には 居ないって?」
ハイケルが不満そうに言う
「…信じられん」
軍曹が泣きそうな表情で言う
「しょ、少佐ぁ~」
ハイケルが冷たくなったコーヒーを飲み干してカップを叩き置いて言う
「こんな 馬鹿な高位富裕層が居るとはっ 思い付きもしなかったっ!」
軍曹が呆気に取られて言う
「は… はぇ?」
マスターが笑いを隠した後 客を見て ハイケルへ言う
「ハイケル あちらのお客様が 音楽を欲しがっていそうだ 何か~ そうだな?優しめの奴を 一曲頼む」
ハイケルが言う
「お前への借りは さっき返しただろ?」
マスターが言う
「今度のは さっきの食事分の貸しだ おごりだって 貸しの1つだろ?」
ハイケルが席を立ちながら言う
「チッ… 流石 情報処理部の元中佐だ …上手く騙された」
マスターが笑顔で見送りながら言う
「良いじゃねーか そっちは 減るもんじゃねーんだし~」
ハイケルが演奏台に立ち ヴァイオリンを持って礼をして ヴァイオリンを奏で始める マスターがそれを見て微笑してから 言う
「…それで?その 目に見えない何かの正体は 分かったのか?」
軍曹がハッとしてマスターを見る マスターはハイケルを見ている 軍曹がマスターの視線の先を見てから 視線を落として言う
「はっ そ… それが~ 分からないであります …先日までは 少佐がやろうとしていた 国防軍上層部の処理… だと思っていたのでありますが…」
マスターが言う
「俺はな ヴォール君?」
軍曹がマスターを見る マスターが言う
「君の言うソレが 何なのかが分かる気がする 俺が思うに ソイツは… ”意思の力” だったんじゃないかな?」
軍曹が疑問して言う
「意思?」
マスターが頷いて言う
「俺も あいつの力は感じてた それに あいつから事前に話を聞いていたから 何をしようとしているかも 知ってたからな?」
マスターが軍曹を見る 軍曹が考えてからマスターを見て言う
「国防軍の処理をする為の… 決意… の様な物でありますか?」
マスターがひらめいて言う
「うんっ!そうそう!決意ね?そいつだ!」
軍曹が納得するように言う
「は… はぁ…?」
マスターが言う
「実際 そんな強い意志… あぁ 決意がある様な奴は 喫茶店になんて来ないんだ …ここに来るのは その決意が持てなくてモヤモヤした時や …決意が終わって ホッと一息付きたい時 …だから あいつは 幼馴染の俺が店を始めたって言うのに 今まで一度だってここには来なかった」
軍曹が呆気に取られて言う
「そう… でありましたか…」
マスターが微笑して言う
「でな?喫茶店ってのは 面白い事が起きる所でもある」
軍曹が疑問して言う
「面白い事…?」
マスターが笑んで言う
「ああ、物事の 出発点になる事もあるんだ」
軍曹が驚き 話に聞き入る マスターがハイケルを見て言う
「決意が持てなくて モヤモヤして… ここで一服して 何かを閃いて帰る客… 新たに何かを決意して 旅立って行く客… そんな客たちを 俺は何度も見てきた… つい この間もな?割りと年寄りな艦長さんが 守りたい者を見付けて 決意を持って去って行った その時 その艦長さんからは やっぱり強い意志の力を感じたっけ… アリシアにも」
軍曹が反応して疑問して言う
「ア、アリシ…?」
マスターが軍曹を見て言う
「で、ヴォール君」
軍曹がハッとして言う
「は、はっ!」
マスターが言う
「そんな俺から見て… ハイケルは今 その力を持っていない」
軍曹が驚く マスターが苦笑して言う
「君の言う通り 君が最初にハイケルを見て感じた力は 国防軍上層部の殲滅で… 終わっちまったんじゃないかな?」
軍曹が心配げにマスターを見る マスターが軍曹を見て言う
「でも、君は 途中から ハイケルの決意がどうであろうと あいつの力になりたいって思ったんだろ?」
軍曹が慌てて言う
「は、はいっ!」
マスターが苦笑して言う
「なら これからも あいつを頼んでも良いか?」
軍曹が呆気にとられて言う
「…は はぇっ!?」
マスターがコーヒーを入れながら言う
「あいつは見ていて危なっかしい 本当に 何でも出来る… いや、何でも 1人でやらなけりゃならねーって 思い込んじまってるんだ… そんな事 ある訳ねーのに… まぁ、そんな訳だから あいつが ヘマしちまわねー様に これからも助けてやって欲しいんだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「じ… 自分が?そ、その様なっ 重要な役をっ!?」
マスターが微笑して言う
「なーに そんなに難しく考えなくて良い 今まで通り 少佐少佐って 追いかけてくれてりゃ それで良いんだ それで あいつは 1人じゃなくて 君と2人でやる方法を考えられる …悪知恵だけは働くからな?それで十分なんだ 頼むよ ヴォール・アーヴァイン・ハブロス公?」
軍曹が衝撃を受けてから困って言う
「でっ!?…あ、ありますからっ それを…っ そちらをっ!少佐に知られてしまっては…っ!」
マスターが苦笑して言う
「大丈夫!あいつはもう あんたを信用している」
軍曹がマスターを見る マスターが頷いて言う
「その為に あんたの正体を あいつに教えてやったんだ いつまでも隠したまんまじゃ あんただって気分が悪いだろ?」
軍曹が不安そうにマスターを見る マスターが言う
「実はな?アンタのこの情報 俺はずっと以前に手に入れていたんだ」
軍曹が驚く マスターが言う
「けど あいつからアンタの話を聞いていて 思ったんだ あいつは… ハイケルは ヴォール君を信じたがってるってね?だから… 今までは そんな あいつの人を見る目を 俺は信じてみた」
軍曹が呆気に取られる マスターが微笑して言う
「で、やっぱり あいつの目は 間違ってなかった… よな?俺は今 そう信じてるぜ?」
軍曹が呆気に取られた状態から笑んで声高々に言う
「はっ!少佐の人を見る目は 素晴らしいでありますっ!いえっ 少佐はやっぱり 素晴らしいお方でありますっ!貴方様の様な… 素晴らしい ご友人がいらっしゃるのですから!」
マスターが呆気に取られる 軍曹がマスターを見て笑む マスターがニヤリと笑って声高々に言う
「だよなー!俺ほど頼れる 兄貴分が居るんだ!その弟分の あいつは 素晴らしいに決まってるよなー!?」
軍曹が喜んで言う
「はいっ!その通りでありますっ!」
ハイケルが怒り 顔を向けて怒る
「そこーっ!演奏中にうるさいぞっ!」
客が笑う
マスターが微笑んで言う
「有難う御座いましたー!」
客が微笑んで出て行く ハイケルが不満そうに席に着いて言う
「優しい曲を と お前が言うから 静かな曲を弾いていたのにっ そのお前らのせいで台無しだっ」
軍曹が慌てて言う
「も、申し訳ありませんでしたっ 少佐っ 思わず会話に力が入ってしまいましてっ!」
マスターが笑んで言う
「いや、あれで良いんだ」
ハイケルと軍曹がマスターを見て 軍曹が思わず言う
「はぇ…?」
マスターが客の出て行ったドアを見たまま言う
「あの客は 音楽じゃ癒せない痛みを持ってた… だから 他者の元気を分けてやったのさ 笑ってただろ?あの客さん」
軍曹が呆気に取られてドアを見る ハイケルが不満そうにコーヒーを飲んでから言う
「笑われていた の間違いだろう?お陰で俺へのチップも無かったぞ」
マスターが笑って言う
「そりゃ 演奏中に怒鳴る演奏者に チップは無いだろー?」
ハイケルが顔を逸らす 軍曹が微笑して言う
「しかし… 先ほどのお方は …とても良い笑顔をしていました!あちらが チップなのではないでしょうか?」
ハイケルが驚いて軍曹を見る マスターが微笑して言う
「おおっ!ヴォール君 流石!大人だねぇ?」
軍曹が呆気に取られる ハイケルが顔を背けて言う
「金持ちの余裕か」
軍曹が衝撃を受ける マスターが呆れて言う
「こら ハーイケル?」
ハイケルが言う
「ふんっ」
軍曹が呆気に取られた後 微笑する マスターが安堵の表情を見せる
ハイケルと軍曹が店を出る マスターの声が掛かる
「また来いよー?」
ハイケルが店へ向かって言う
「入る前より気の立つ茶店になど来るかっ!」
マスターが笑う ハイケルが不満そうに歩き出す 軍曹が一瞬呆気に取られた後軽く笑いハイケルに続く マスターがそんな2人を見て微笑して言う
「さて… これで あいつも… ちっとは 丸くなるかねぇ?」
マスターが去る
ハイケルが歩いている 軍曹が続いている ハイケルが言う
「…すまなかったな 軍曹」
軍曹が疑問して言う
「…と 申されますと?」
ハイケルが顔を向けないまま言う
「…悪い店に 誘った」
軍曹が呆気に取られた後ぷっと吹き出す ハイケルが不満そうに疑問して立ち止まって振り返る 軍曹がはっと立ち止まり敬礼する ハイケルが不満そうに言う
「…何が可笑しい?」
軍曹が思わず かしこまって言おうとする
「はっ!いえっ!自分は…っ」
軍曹が気付き表情を緩めてから言う
「自分は楽しかったでありますっ!」
ハイケルが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「ふん… そうか … …なら良いんだ」
ハイケルが再び歩き出す 軍曹がハイケルを見た後 微笑して続いて言う
「はっ!良いんだ でありますっ!」
映像にノイズが入る
デスが言う
「…なるほど 人を操る ”音楽”か」
デスが目を開く ジークライトが振り向いて言う
「何か分かったのか?デス?」
デスが立ち上がって言う
「ああ、やはり こちらを調べて正解だった このプラントにも 優秀な奴が居たものだ」
ジークライトがやって来てデスを見てから視線を下ろして言う
「それじゃ あの鎧が勝手に動いた理由が 分かったのか?」
ジークライトが見下ろした先 地上では ハイケルと軍曹が停止している デスが言う
「いや、残念ながら そちらは分からなかった …だが、人体を他者が操る その方法として 音楽などを使った周波数と言う力が 有効であると言う情報を得られた そして、それを打ち消す方法も」
ジークライトがデスを見て言う
「人体を他者が…?それは あの操りのプログラムとは違うのか?」
デスが周囲にプログラムを発生させながら言う
「私が今まで関わったそれらのものは 直接被験者へプログラムを実行するものだった それ故に必要とする情報が多く 対象も固定されてしまう物だった だが、この方法なら 対象も固定される事無く その場で瞬時に行う事が出来る… 実戦の上では こちらの方が有効と言えるだろう」
ジークライトが言う
「ふ~ん …あれ?けど デスが調べたがってたのは あの アリシアって女の子を助けた 神様の力の方 じゃなかったけ?」
デスが苦笑して言う
「ふっ… 確かにそうではあったが いつ、如何なる時でも 有効な情報と言うものは価値を持つ …お前が名付けた ”神様の力”は 今回その正体を掴む事が出来なかったが… そろそろ このプラントを離れた方が良さそうだ」
デスがブラックボックスを手に持ち プログラムを発生させる ジークライトが呆気に取られてから言う
「けど、まだ バーネット様に言われた ”神様の使い”の事は 何1つ分かってねーのに?」
デスが言う
「一度に全てを探る事は難しい 増して その者に関しては このプラントの管理者が関わっている可能性も示唆される …プラントの管理者に見つかる訳には行かない ここはひとまず」
ジークライトが言う
「そっか、分かった じゃ、こいつらには もう起きてもらったほうが良いよな?」
デスが言う
「ああ …雪の中で 風邪でも引かせては 申し訳ないからな 彼らには 良い情報をもらった」
ジークライトが微笑して ハイケルと軍曹を見る デスが言う
「ジーク」
ジークライトが地上へ降り言う
「あいよ!」
ジークライトが2人の首筋に手とうを与える
ハイケルがはっと目を覚まして言う
「っ!…うん?」
ハイケルが周囲を見る 軍曹が首筋を擦りながら言う
「う… う~ん…?」
ハイケルが軍曹へ振り返って目を瞬かせてから言う
「軍曹…?」
軍曹が一瞬ぼやっとしてから ハッとして敬礼して言う
「…はっ!少佐!」
ハイケルが呆気に取られてから疑問して言う
「私は… 何か長い夢を見ていたような…?」
軍曹が言う
「はっ!自分も… なにやら その様な気が…?」
ハイケルが考えた後一息吐いて言う
「うん…?まぁ良い 今日は 久しぶりにあいつの相手をしたせいで 疲れた」
軍曹が笑顔になる ハイケルが歩き出す 軍曹が続く ハイケルが言う
「…所で 軍曹」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが言う
「君は何処へ行くつもりだ?」
軍曹が言う
「はっ!少佐の向かう所でしたら どちらまでもっ!」
ハイケルが立ち止まって言う
「…私は 帰宅をするつもりだが?」
軍曹が言う
「はっ!それでしたら 少佐のご自宅まで お送り致しますっ!」
ハイケルが不満そうに言う
「…いや、良い」
軍曹が言う
「はっ!良い であります!」
ハイケルが振り返って言う
「そうじゃないっ 1人で帰るから 来なくて良いと言っているんだ …大体 君の自宅は逆方向だろうっ!?」
軍曹が言う
「はっ!しかし 良い のであります!」
ハイケルが言う
「何が良いんだっ!帰れっ!」
軍曹が言う
「はっ!しかし!”良いんだ” でありますっ!」
ハイケルが言う
「良くないっ!帰れっ!」
ハイケルが歩き出す 軍曹が1人で笑顔になり続く ハイケルと軍曹が歩いて行く
【 大和国 】
大和海軍の港に艦隊が入港する
船内の一室 ベッドの上でアリシアが目を覚まし 身を起こすと周囲を見てから不思議そうに言う
「私… なんだか 長い夢を見ていたみたい… あのレギストの人たちが…?それに あの人は 誰だったのかしら?… … デ…ス…?」
アリシアが窓の外を見る
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アールスローン戦記1章から12章は、国防軍レギスト機動部隊の活躍を書いています。(12章の「アールスロー戦記Ⅱプロローグ」は目次の一番最後にあります。)
アールスローン真書1話から最終話までは、本編アールスローン戦記を政府の側から見た話となっています。
アールスローン戦記Ⅱは上記2つの話の続編となるので、可能な限り外伝であるアールスローン真書を読んで置くと各キャラの内容が深まり楽しめると思います。
アールスローン戦記Ⅲも現在途中まで制作されているので、こちらは更にアールスローン戦記0を読んでいると内容が深まります。
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お気に入り登録、24hポイント、有難う御座います!
新参者でポイントがどの様に加算されているのかよく分かりませんが、どちらもメチャクチャ励みになっています!
作品はほぼ完成しているので、編集の上公開しているだけなのですが1つの章の編集、公開までに8時間掛かってます(汗)
読むだけでも時間の掛かる作品ですが、少しでも楽しんで頂けると幸いです。
※作中、「了解」や「流石」と言う言葉は、本来目上の方へ用いる言葉ではありませんが、本作の中ではストーリーのリズムを優先して用いています。一応の設定としては国防軍の中では軍階は在っても仲間として使用を了承している。と言う設定であり、礼儀や階級を重んじる政府は許されないので記載を控える様にしています。…が、つまりはフィクションと言う事で、ゆるく見逃して頂けると助かります。。
漫画の様にスラスラ読める小説をめざしたらネームになった物語の1つ。アールスローン戦記Ⅱ
NN
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Ⅱと言う事で、話は繋がっていますが、ここから読んでも問題ないです。(多分…)
――あらすじ――
国防軍の英雄こと、レギスト機動部隊の隊長ハイケル少佐は、ある日唐突に国防軍を除名処分とされてしまう。ハイケル少佐に付き従う隊員たちは、国防軍総司令官へ直談判。17部隊の精鋭29名の脱退を賭けた署名を手に、ハイケル少佐の国防軍復帰を提訴した。が、あっさりと彼らの国防軍脱退は受け入れられてしまう。付き従う上官を失うだけに留まらず、自分たちの在籍すら失い呆気に取られる彼らへ、ハブロス総司令官は言った。
「お前たちを含む こちらの29名へは新たな部隊 アールスローン帝国軍レギスト特殊機動部隊 への入隊を許可する」
唐突なその言葉に理解が及ばず立ち尽くす彼らの後方、開かれた扉の先に居たハイケル少佐が言う
「署名は 無理強いするものではないが… 話は外で聞かせてもらった …有難う 感謝する」
――内容説明――
前日譚『アールスローン戦記』その番外『アールスローン真書』にて戦っていた敵『マシーナリー』。
彼らはそれに対抗すべく今度は ロボット(仮)へ搭乗して戦います。
【完結】新しい我輩、はじめます。
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