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第一章〜神々と巨人たち〜

巨人の王の戯れ 一節

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 次は、こっちの番だ。

 わざわざ言わなくても行動は早く、黒い靄と
も塊とも付かない謎の何かを纏った拳でボルの
頭めがけ、振り下ろす。
 咄嗟に避けるが、それでも一撃、二撃程度は
受けてしまう。なので、すかさず腕に魔力を巡らせ、更には防御の効果を持つ特殊な紋様を貼った防御魔術でよりガードを固める。

「ぐっ! がぁぁッ……」

 それでも、異様に重い。
 背丈よりも遥かに高い巨石の幾つかを押し付けられたような、圧倒的重量がボルの両腕に掛かる。

「うーん? 防ぐだけ? まっさかアレで終わりってわけじゃないよね?」

 確かにユミルの言う通り、切り札は一つだけじゃない


 だが。

「容易く出すわけ、ないじゃないか!」

 精一杯の挑発で応える。
 できるだけ悟られずに、よりユミルの集中をこっちに向ける為に。

「ボムレア!」

 早々に切らず、威力が高い爆発の魔術『ボムレア』を連続で繰り出す。
 連続使用は大幅に魔力を消費してしまう為、あまり使えない魔術だが、近くに火か炎があればそれを魔力を大幅に節約し、尚且つ火力向上もできる。 
 しかも使うのはムスペルヘイムの業火。
 威力一点で言えば数千数万の巨人の群れを滅ぼせる域にまで至れる。

「うぉぉぉぉ!! これ、意外とキツいかもぉぉぉ!!!!」

 情け容赦のない衝撃と業火の舞い。いや、舞いという程優雅ではないソレは、もはや嵐か。
 一撃一撃が上位個体の巨人でさえ蹂躙できる。
 並の巨人なら声を上げる暇さえなく、消し飛ぶだろう

 しかし、そこは巨人の王ユミル。
 これで呆気なく終わる程、かの巨人の王の力は易くなどない。
 現にその体に火傷などない。
 ちょっとした傷さえない。
 ユミルの耐久値は未だ底が見えてないどころか、浅い部分さえ見えない。

「ボムレア……バァァァァァァストォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!」

 金切り声を上げ、最大火力のボムレアをバーストと呼ばれる上位互換させることで威力を底上げさせる。
 途方もない熱気と衝撃、爆炎が結界上空に炸裂する。いつの間にか、結界を突き抜け跳び上がっていた。
 念の為、身体そのものに結界を張っていたおかげで超高温の熱によるダメージはない。
 ともあれ、ここが契機だった。
 
「フィラァァァァッッッ!!!!!」

 自身ではなく、妻とブーリたちに。
 おそらく爆煙で見えないし、関心は自分に向いている。
 わざわざ距離もあるのに一々関心を変えたりはしないだろう。
 ユミルは自由奔放で突拍子も行動をよくする
らしいが、面倒をかなり嫌う性分だとヴルズから聞いている。
 ならば賭けは、成功したに等しい。

 パァァンッッッ!!!!!

 破裂か、あるいは掌底鳴らしか。
 それに似た甲高い音を確かに聞き取ったボルは、ニヤリと笑う。
 成功が確実なものになった。

「はぁぁ。逃したわけね。でも、大丈夫?」

 声と共に爆煙が晴れる。
 ユミルは背中から黒い靄のようなモノ…混沌を出し、ソレを菱形の翼として形成。
 変わらず三つの瞳でボルを見ていた。

「そんなにさ、魔術ってやつ? 使ってたら疲れて大変じゃないの?」

「問題ないさ。まだまだ遊んであげるよ」

 半分は当たっている為、強がりを入ってる。    
 仮に戦闘の意思を放棄して降伏したとしても
ユミルが続ける意志を簡単に手放すとは思えない。
 一度遊ぶ相手を決めたら、とことん遊び尽くす。相手の腕や足が千切れようと。
 どんなに血を滴らせようが。
 徹底的に壊しにかかる。遊びたいが為に。

「ふーん。じゃあ、せっかくだから僕の十八番の"呪い"も見せてあげるよ」

 そう言ってユミルは口から大量の混沌を吐き出す。無論、それで終わりじゃない。
 混沌が炎や氷、雷、白いガスとなって異形の顔を形成しながらボルに迫る。

「巨人の残留思念を使ったものか!」

 呪いの本質を看破したボルは、炎の顔に対して水の魔術を使う。

『ーーーーーッッッ!!!!』

 物ともしなかった。炎に水は有効属性となる
筈だが、ユミルの生み出した炎は耐性でもあるかのようだった。

「ぐぅッ!!」

 八方に先分かれた大口で捕えようと迫る炎の顔を紙一重で躱わすものの、炎だけじゃない。
 あと三つ、顔がある。
 
『ーーーーーッッッ!!!!』

 炎の顔と同じように咆哮を鳴らす雷の顔。
 炎のように迫ることはないが、代わりに周囲に雷の球を生成。それが弾け、ボルを焼き焦がす。
 さながら、それは文字通り『機雷』の役割を
果たしていた。

「クソッ! 逃げ場が少ない!!」

 自身がいる空域で百とも千とも付かない大量の雷球が展開されては、躱わす行為そのものが
至難の業だ。
 上手く機雷の威力が及ばない僅かな隙間を見つけては何とか凌げるが、それを許さないとばかりに白いガスの顔が周囲に靄を展開。
 靄には、毒があった。
 即座に殺すほど強い物じゃない。が、じわりと追い詰めるのには適していた。

「ぐぅぅ!」

 吸わなくても、触れただけで毒は身体を蝕む
。まず四肢に痺れが出た。
 軽度だが、このまま進行すれば重症化しボルの身体を再起不能の状態に追い込むかもしれない。
 そして、最後の氷は鋭い氷の礫を連続で飛ばして来る

 威力は一撃で巨人の頭蓋が吹き飛ぶほどだ。
 
「はっはっはっは!!!! 存外粘って踊るじゃないかぁ!!」

 追い詰められつつも、防御の結界を身体に幾重にも纏い、休む暇もなく舞うように回避し続けるボルの姿がさも滑稽なのか。
 ユミルはとことん嘲笑っていた。

「あ、そうだ。ボル……だっけ?」

 グシャっと。手で何かを潰すようなジェスチャーをすると、四つの顔は瞬く間に消えて無くなる。
 おかげで余裕が出来た。
 堪らずボルは荒い息を吐いて、肩を上下に揺らす。

「ゼェー、ゼェー、ハァ、ハァ、ゼェ……そう
だけど、それが?」

 気まぐれで自由過ぎる性分は知ってはいる。
 だがそれを迎えても突然名前を尋ねて来る意図に関しては、予想しなかった。
 名前を聞いて得心がいったとばかりに頭を軽く叩く。

「そーそー! 合ってて良かった。ボルくんさぁー、奥さん以外にも子供が3匹いたよね?」

「!!ッ それがどうし」

 唐突な質問に苛立ちが増す。逆に問い詰めようとしたボルの言葉は、

「僕お気に入りの"上位眷属"が向かってるよ」

 最悪的に。邪悪に笑うユミルの言葉に防がれた。









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