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受け継いだ朝は、こんなにも眩しく

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―アレクサンドル…アレクサンドル・ウォーカー


何処からか声が聞こえる。
それは、聞いたことの無い声でありながらも、どこか身近に感じるもの。
動けない意識下のなかでアレクサンドル司教はそう感じていた。


「…エスカロッソ」


―すまなかった、お前にこんな重荷を背負わせてしまった事で、お前は人で在る事をやめなくてはならなかった。


「違う。私は、私の意志で誰かを、救いたいと願ったのだ。妻に先立たれた孤独を、私自身の自尊心によって埋めたかった。それだけだったのだ」


人々の信仰だけが自身の孤独を埋めてくれた。
例え、自身の意思が神に挿げ替えられたものだと知ってもなお、それを続けたかった。

それだけが、他人以上に自分を導く術であると知っていたから。


「結局は、私の我が儘だったのだ。寂しいだけの老いぼれが成そうとしてた…な」


―それでも…だからこそ、私はお前にこの身を託した。かつて英雄などと呼ばれていた私の魂が封じ込められた剣。聖剣エスカロッソ
この私を使うにはそれに見合った意志を必要とする。だからこそ、私はお前の心に同調し、お前の望むがままに力を奮った。


「…厄災そのものになったとしてもかね?」


アレクサンドルは思い出す。
自身の行った事全てを。エスカロッソを利用してまで、竜を生み出し、人を騙し、人を殺しながらその果てに神になろうとしていた事。
その全ての記憶が映像化され自身に流れ込んでいる。
それをまるで他人事のように見てしまう。


「ああ、なんとも醜いザマだ。そうは思わんかね?」


―大事なのはその結果では無い。結末は、人がひとりになって抱え込む時に訪れるものだ。お前に足りなかったのは…その思いを
心の内にある闇を伝える事だった。それを託せるものに託す事だった。それがお前を魔神に駆り立てた理由だ。


「託せるものを託す…か」


―…人は常に不完全で、愚かで、何もかもが足りない生き物だ。だからこそ完全なものを求めて、託す。未来を創り続ける。
そうやって人間の世界への認識は空のように広がっていくものだ。その願いの燃焼した果てが、厄災だ。
そして、あの少女はそれを魔剣と共に請け負った。


「実にみっともない話しだがね」


―私は少女に託した。お前を救ってくれると信じていた。“私の墓前の前で敬意を払った彼女”ならと


「そうか、だから魔剣はお前の仕組みを知っていた。私にすら言葉を齎さないお前が、どうして話せたのかをようやく理解した…」


アレクサンドル司教はフッと溜息をつく。ようやく気づいたのだ。彼は孤独では無かったと。共に背負っていた意志が
いつもすぐ側にあったのだと。


「…ああ、お前があの魔剣のようにもっとお喋りであったならよかった」


―無理を言わないでくれ。あれはもとより特別なのだ。あんな真似出来る筈がない。


「だが、学ぶ事もあった。そうだ、厄災などと呼ぶものではなかったのだ…業は、向き合うべきものだった。背負うものでも無かった。
今ならわかる。孤独を作っていたのは私自身なんだと。それを知り、伝え、戒める事こそが…我々人間の役目だったのだ…この年になって
ようやく気づくなんて…」



―今からでも間に合う…。お前はこれからその残りの人生を、もっと最良に全うすればいい。


司教の目の前に、虹色の球体が現れる。


―これは私からの選別だ。


「なんだね?これは」


―少女はお前を生き返らせる更なる代償に、その記憶のこどごとくを忘却させられる。
死んだ魂はすでに死神から回収されてしまう。それを修復するのに必要なのは、記憶の媒体。
彼女の持つ記憶から複製させる必要がある為だ。


「なら…これは」


―これは、そんな代償となる記憶を私の全てをかけて複製したものだ。お前には覚えていてほしい。アレクサンドル司教。
あの娘は飲み込みが早い。全てを取り込む程に器が空いているのだ。
それ故に…まだ生まれたばかりの人間だ。だからこそ…今度はお前が、少女が道を違えぬように救ってくれ。


「…私にはそれが出来ると?」


―出来る事を理由にするな。私の…ザザ



最、s;lvklんs ザザ… 期ザkぢんlめm;dfの意志。




お前に託すぞ。



「エスカロッソっ」



―sklsんv。mlfkmjrかm・v、私は、こんな時でも…お前の剣であった事を…誇りに思っているぞ…






アレクサンドル・ウォーカー
































エスカロッソは最期の言葉を司教に託し、その瞬間に視界が暗転する。


…そして、司教が目を覚ました時には既に教会の成れの果てでは朝を迎えていた。
いつからだろうか。彼は暫くの呼吸を忘れていたせいか、年不相応にも大きく両手を広げながら空を仰ぎ
胸一杯に息を吸う。


「…ああ、戻ってきたのか…私は」


朝日をその眼で迎えながら、彼は傍らで嗚咽しながらむせび泣く声が聞こえる。


「うう…司教様…生きて…生きてくれてよかった…」


彼が生き返ってすぐに目撃したのは、みっともない声で泣いている一人の男の姿だった。


「…おまえは、グレゴリー…」


「あなたが…私にとっての全てだった…それなのに…
それなのに私は…私には…どうすばいいのかわからなかった…あんな鬼のような姿になっても…何も出来なかったっ」


「…」


「あなたの心が、こんなにも多くのものを抱えていたと知っておきながら…私には…しきょぉ…」


「泣くのをやめんか。グレゴリー」


司教は今になって気づく。


(ああ、こんな近くに…私を思ってくれる者がいたんだな。こんな老いぼれを…今でも慕う存在が)


「さあ、グレゴリー。私の手を引いてくれ…暫く動いてなかったせいか、一人では起き上がれん」


「は、はいっ、司教」


グレゴリーは司教の手を引いて、肩を借りながら起き上がると
もはや面影すら無い、砕けた教会を二人で眺める。


「ああ、すべてが瓦礫の山じゃないかグレゴリー」


「…ええ」


周囲を見渡す。


ところどころで、死んだ筈の人間全てが生き返っており、一体何が起きたのかを理解しないまま呆然としている。


「人の心は都…か」


「司教?」


「“全て”を壊されてしまったな、グレゴリー」


「…はい」


「だが、ここが我々の結末では無い…私は、もう二度と違えん。もう、識っているのだから」


「司教…」


「グレゴリー…共に、もう一度歩いてはくれぬか?この老いぼれと…」


「…ぐすっ、当然じゃないですか…いつまでも…あなたは私の司教です。信仰なんかじゃありません…これは、貴方への、信頼なんです」


「…くく、そうか」


アレクサンドルは、見渡しながら暫く探していたが、もう彼女の姿は何処にもなかった。


「…感謝せねばな、この場にいてくれるお前にも…あの少女にも…そして…こいつにも」


彼は見下ろした先にある砕けた聖剣、エスカロッソを見つめる。











「ありがとう」
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