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はじまり
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黄昏にしては赤く
静かな場所にしてはあまりにも煩わしい程の景色。
…景色だけじゃない、目を白黒白黒と瞬きするカラスが途端にギャアギャアと騒ぎ出す始末。
暮れの光によって辺り一帯が得体の知れない影になって映えるこの場所で
彼は胸いっぱいのため息をつく
『…はぁ~~~~~~~』
“彼”が目を覚ました場所―
見ただけで解る。ここは居心地の良い場所では無いと。
日が沈むに連れて延びる影はまるで這い寄ってくる黒い茨のようだ
『ああ、なんて日だ。今回はこんな場所からのスタートなんて…クソ』
唾を吐くように悪態をつく。
…それでも、どうしようも無い程に時間だけが過ぎていってしまう。
何もできないまま…
そう、彼には何も出来ないのだ。
何かを掴む手があるわけでは無く
何処かへ進む足もあるわけでは無い
ルビーの水晶から、ただただジッと景色を眺め、
無い口で『景気が悪い場所』だと文句を垂れるだけ。
唯一あるのは“なんでもきれる”という鋭利な刃と、べらべらとくだらないことを喋る口だけ。
だが、要である“主”が居ない。
己を握り、断つという意思を持って振る主が今、この場には居ない。
それが、『魔剣』である彼の最大の欠点だ。
彼という魔剣を使う事は非常に単純だ。先ほど言ったように己を握って斬れば良いだけ。
そうすれば。それを繰り返せばいずれは彼自身の目的に至る。
そういう風に出来ているのだ。
だが、この場所には声を掛けるべき存在が居ない。人が居ない。
いや、居た…声を掛けてはみた。
『おっ、どうも魔剣です。ちょっとお喋りな魔剣です。なんでも切れるよ。凄いよ。使用方法は簡単。握って振るだけさ、それだけさ』
返事は当然無い。何故なら屍だったのだから…
『大きな口を開けてさ、今にも喋りたそうな顔してるからさ、俺はきっとイけると思ったんだよ』
誰もいないところで言い訳をする魔剣。
言い訳を向ける相手は、単なる苦悶の表情を浮かべた死に顔に過ぎなかったのだ。
その死体だけではない。
ようく見ればここら一帯は全て、文字通り死体の山
ボロボロになった武器や盾、鎧と一緒にゴチャゴチャと積み上げられた死体の山に魔剣はぽつりと存在していた。
『クソがよぉ…なんでこんな場所から始めるんだよ、全部死神が掻っ攫った後じゃねえかよ』
さっさと主を見つけて次に進みたい彼にとってはなんとももどかしい状況に違いない。
自らでは何も出来ない彼にも、目的があるのだから。
『あ~あ~。急に空から主が降ってきたりしないかな~?しないかな~?ぶんぶんぶぶ~ん』
変な歌に淡い希望を織り交ぜながら魔剣はぼやく。
『―あ』
すると、上からトサリと黒い布に包まった“何か”が魔剣の目前に降り注いできた。
『…』
魔剣は黙ってそれを見ていると、その何かは黒い布の中でもぞもぞと蠢いている。
彼は一瞬だけその様子を見て、高いところから落ちた芋虫を連想してしまったが…それは全くの関係の無い事だ。
しかし、それは蠢くだけでそれ以上の事は何も無い。寧ろ、徐々に弱々しくなってさえいるように視える。
そして微かにだが、無い耳を澄ますと小さなうめき声が聞こえた。
うう…
うう…
『何だ?捨て犬か?』
魔剣は、それでも『自分の視界に動くものがあるならまだマシだ』と暫く眺め続けていた。
それだけで結局時は過ぎ―
既にお空には、爛々と輝く光と共に黒い蓋がされていた。
周辺も真っ暗になり、辺りを照らすのはルビー色の光を放つ魔剣の水晶だけであった。
『…』
この地獄のような静寂の中、魔剣はふと何かを思いついたように『うー、ワン!ワン!』等と犬の真似をして叫び始める。
…すると、目の前の“何か”はビクリと反応して、再びもぞもぞと動き始める。
(おお、動いたうごいた)
その程度の感想しか抱かないとしても
眠るという概念さえ無い魔剣にとっては気を紛らわすには十分だった。
しかし、それだけじゃなかった。
したしたと
ぺたぺたと
何かが近づいてくる足音が幾つもしてくるのだ。
(一つ…二つ…?いや、結構いるな)
それらは揃いも揃って「グルル…」と喉を鳴らしながら
死体の山から小さく魔剣の水晶に似た色の双眸を覗かせてきた。
『んだよ…黒死犬じゃねえか…』
死神の使いとも呼ばれている赤目の犬は5匹程度の群れをつくりながら
魔剣と降ってきた黒い布の辺りを囲うようにグルグルと回っていた。
『何それ、おもしろ』
それらは唐突に鼻をスンスンと鳴らし、大きく裂けた口から生臭い息と涎を漏らしながら
何かがあるであろう黒い布へと駆け寄ってくる。
『あ』
数匹の黒死犬が黒い布の中身を確認する事も無く、バウバウと吠えながら襲い掛かり噛み付く、そして引きずり回す。
頭をぐるんぐるんと物凄い速さで揺らしながら布をひっぺがそうとしている。
…それでも布の中身は弱々しく抵抗するように悶え蠢くだけ
『ああ、この世は弱肉強食の世界だ。来世ではいい人生を貰えよ。畜生』
魔剣には同情する気持ちもなく。ただ一言、心にも無いくだらない事をつぶやいていた。
しかし、暇つぶしにそれを眺めていると。魔剣はある事に気づく。
黒死犬が引っ張る布から、ポロリと中身らしきものが出てきたのだ。
―それは、手だった。人の手。武器を掴み取る事の出来る手。その手は抵抗するように地を掻きむしっている。
黒ずんだ、血が固まって出来たヘドロのようなものを握り締めながら
そこに微かな意思を彼は感じた。
『おい、おいおいおいおーい。なーにやってんだよクソ犬がぁ!!!大切な命弄んでんじゃねえぞ!ワンワン!!!』
魔剣はさっきとはまるで反転した言葉を大声で言い放ち、黒死犬たちがビクリとその声に反応して動きを止める。
すると、一匹の黒死犬がひたひたと魔剣に近づいてまるで品定めをするように鼻を鳴らす。
(刀身には鼻を近づけないとは…さすが、ちょっとは頭が出来てるんだな)
等と関心するのも束の間で、近づいた犬は口を大きく開いて鍔の辺りを大きく齧り始める。
しかし、犬畜生の顎程度では魔剣が砕ける事も当然ない。
魔剣はその様子に嫌悪する態度を一つもせず『…惜しいなぁ。もうちょっと上だ。上だよ』と背中を掻いてもらってる時のような言い回しで
他の所も齧るように促す。
…その言葉を理解したのかどうかは別として、黒死犬はそのまま流れるように柄の方へと牙を持っていく。
『ああ、そこそこ。じゃあな』
―と言った瞬間、黒死犬はビクリと身体を大きく後ろに跳ねのき、のたうち回った後にすぐ動かなくなった。
それらを見ていた他の黒死犬たちは驚いて皆が反射的にその場を逃げるように走り去っていく。
…再び静寂が舞い戻る。
しかし、魔剣にとってはそれどころでは無かった。
黒死犬が襲っていた黒い布の中身。
そこから覗かせる人間の腕。それは彼が今、何よりも欲しいものであった。
…しかし、想像していた以上にそれは寡黙で。感謝の言葉さえも返ってこない。
『…おい』
その質問に対して、再びその手はビクリと反応する。
『ギリギリ死んでないのはわかっているんだよ。黙ってないで言葉の一つぐらい発したらどうだ?』
魂を覗ける彼にとって、最初見たときは本当に微かな灯火のような魂を見て単なる畜生だと思っていたが
どうやら見当違いだったようだ。
もしこれが人であるならば、彼にとってこの状況は非常に重要なものになる。
すると、その手は探るようにピタピタと地を這って動き出す。
そして、黒い布からもぞもぞともうひとつの手を出してゆっくりとその姿をみせる。
「…あなたは、だれ?」
丁度。雲に隠れた月の光がくらがりに覆われた彼女の姿を照らしだした。
ぺたぺたと小さな足で立ち上がったのは小さな少女だった。
ボサボサと手入れのされていない長い黒髪。
簡素でボロボロな一枚布で出来た服を身に纏い
体には所々に、何針で縫われたものか数えるのも躊躇うような縫い目の跡が這うように残っている。
違和感を覚えるのは、そんな出で立ちも含めて
表情に全く動きが無いとこだ。
瞬きひとつもせず、ただただジッと魔剣に一言の質問だけをして佇んでいる。
その様はまるで
『人形みたいだな、おまえ』
と、魔剣は質問を返す前に姿を見せた少女に対しての感想を一言述べた。
「―ありがとう?」
『今になってようやく感謝するのかよ』
「村の人は子供を褒めるとき人形みたいだと言っていた。言われた子供も喜んでいた」
『そっちかよ』
『まぁいい…』と、魔剣は話題を急に戻し始める。
『お前の最初の質問に答えよう。俺は魔剣だ。なんでもきれる』
「ありがとう」
『いや、まって。話の腰おらないでね?なんで急に感謝するんだ?』
「あなたは私の質問に答えてくれた。村の人はみんな私がどんなに質問しても何も答えてくれなかった。手のひらで頬を打たれるだけだった。
あなたは何もしてこない。ちゃんと答えてくれる。質問を忘れないでいてくれる。だから、ありがとう」
『…お、おう』
『まぁいい…』と、魔剣は今一度話を戻そうとする。
『俺は魔剣だ。ちょっとだけお喋りな魔剣だ。なんでもきれる。凄いんだぜ?どう使うかは簡単だ。この柄を握って振るだけ。それだけでいいんだ、ぜ』
「ありがとう」
『今度はなんでしょうか?俺なんかやっちゃいましたか?感謝するような事しましたか?あと話の腰おらないでね?』
「犬に襲われてたの、助けてくれて、ありがとう」
『今なんだ?今になってそこなんだ??どういたしまして!そんで話を戻すけどな?』
「ありがとう」
『ああああああああああああああああああ!なんでしょうか!?お・じょ・う・さ・ま!!』
「…私のこと、気味悪がらないでいてくれた事。本当に嬉しい」
『…そうか』
魔剣は真っ直ぐ見つめる少女の瞳をルビーの眼で受け止める。
その瞳はどうにも薄気味悪く。光を当てても反射する事のないような…まるで絵の具で重ねて塗られたような黒紫の色があてがわれていた。
身も震えそうな程に身体中を這う縫い目。
その縫い目に沿うようにちらほらと魔術の刻印が刻まれている。
(こいつ…いや、まさかな)
『お前の感謝の気持ちは十分わかった。常に感謝するのはいい事さ。ああ、全てに対して感謝すればお神様もそりゃあ気分がいいだろうよ。でもな、常日頃から聞いている奴にとっちゃ気が滅入っちまうときだってあるんだありがとうを欲しがるよっぽどの欲張りさんじゃなけりゃあな』
「…私は、また間違えた?」
少女は首を傾げる。眉をハの字にして―
『間違ってはねぇよ。でも正しくもない。世の中で間違わないように生きる事はそりゃあ大事さ。
でも、それだけじゃあ正しい事を自分から見つける事もできなくなっちまう。そりゃあ自分自身をいつかは殺す事になるんだぜ』
「…わからない。間違ってしまえば私は常に叩かれた、殴られた、水も掛けられた…私は、どうすればいい?」
(…へぇ、そりゃあご愁傷様ってところか?)
魔剣は黒い布に包まれて降ってきた先の出来事を思い出す。
どうやら捨てられたのだろう。使い物にならないと判断されたのか。忌み子として処理されたか。
だが、魔剣にとってはそんな事はどうでもいい事だった。
どうでもいい事だと知ったうえで答えた。
『そうだなぁ。最初は誰かの考えを借りればいいさ。そっから間違ってたなら否定すりゃあいい。自分でも、他人でも。
生きていりゃあそんな事の繰り返しだ。でも、そうすりゃあいつかは出会うんだよ。自分にとってかけがえのない大切なものがさ』
「大切なもの?それは何?」
『そりゃあ、いつかのお楽しみさ。…というわけで。どうだ?俺という魔剣を、その手に…その手で振るってみないか?
俺と一緒に最高の景色を見ていこうぜ!』
最高の景色。それは魔剣にとっての最高の景色。
切り離した腕の断面、舞い上がる飛沫。球のように転がる頭。食卓に並べられるように微塵に刻まれた人間。
その凄惨な情景に賛美歌を歌うように鳴り響く断末魔。魔剣は思いだすだけでそわそわとしてしまう。
本来の目的を前によそ見をしてしまう程には求めてしまう景色なのだ。
「…わかった」
『いいねぇ!判断が早いねぇ!即決は大事だぜぇ。今のお前のその言葉は、さっき満遍なく振り撒いた感謝の言葉よりも価値がある』
「そうなんだ」
『んで、お前さんの名前は?』
「なまえ?」
『ああ、そうさ!名前だ!生まれた時にパパやママに呼ばれていただろー?愛を囁くようにさ』
「パパに呼ばれた名前…」
『そうさ!来い!どんと来い!』
「試作型蘇生術式聖女併合型第二被検体」
『はぁ』
「生まれた時にそう言われた」
『はえ~。さいですかぁ~』(うっわ)
「…」
『ちょっと前まで、こいつ…まさかな…とか伏線みたいなもん心の中でほざいてたけど見事にRTAにて回収されちゃいました。不本意ながらぁ。
そんで、それだけ?その他には?愛称とかあるだろ?』
「…略式名ではニドと呼ばれてた」
『あー、はいはい。ニド…ニドねぇ。んじゃそれでいこっか』
彼には感じていた。
試作型蘇生術式聖女併合型第二被検体。
その出された名には“存在者”としての意味を持っていない事を。
名前とは、誰かにその名を呼ばれて存在を認識されて初めて唯一の存在者として確率する。
唯一者としての意義を持つ事となる。それは魔剣を振るってもらう為には非常に重要な事だった。
だからこそ、魔剣は少し狼狽していた。
だが、そんな場面に出くわすケースがないわけでは無いと既に策は持っていた。
『んじゃあ、今からお前さんの名前を呼ぶから。ちゃんと返事してな。ニド』
「…?」
少女は首を傾げる。
「どうして?」
『お前はニドだからだ。今から俺にとってのニドだ。試作型蘇生術式聖女併合型第二被検体なんてのは名前じゃねえんだよ。生まれた時にママが強く抱きしめて「私の可愛い赤ちゃん」って呼ぶ時ぐらいのちんけなちんけな呼び名なんだよ』
「赤ちゃん?ちんけ?」
『おうおうおう、そんな事はぁ気にする必要ねぇんだよ。お前さんは俺が呼んだら返事だけすればいい。それでいい』
「…わかった」
『ようし、いい子だな。んじゃ呼ぶぞ?ニド!』
「…」
『…ニド?』
「は、はい…」
と少女は唐突に。真顔でボロボロと涙を流しながら震えた声で返事をした。
能面のように動かないその顔が濡れる事も気にならずに、ジッと魔剣を見つめながら「あ、れ?」と呟いてボロボロと涙が止まらない。
『…何、泣いてんだよ』
「解らない…でも、あなたとこうして話をするだけで、あなたに名前を呼ばれるだけで、私は…胸が苦しくなっている」
―…この少女には解らない事が多すぎた。
生まれた時から理由も解らずに失敗作と呼ばれ
理由もわからずに村人に疎まれ、この煩わしい程に視界に入ってしまう自身の縫い跡を不気味がられる。
真っ白な心のままで、彼女はずっと自分がどうするべきか考える事も出来なかった。誰も教えてくれなかった。
唯一するべきだと思ったのは、間違えない事。それ以外は何も知らずに生きてきた。
だからこそ、魔剣とのくだらない会話は彼女にとって不可解で
不可解な分だけ自分を感じる事が出来た。
それが、彼女にとっての…
『剣を握れニド』
「はい…」
『この真っ暗でしみったれた場所で、お前はお月の光を目一杯浴びてる。それはきっとお月様にとっちゃあ誰の為でもないだろうよ。でも、お前にはそれが自分の為だと思える権利がある。お前が俺という魔剣を握り締める理由もそれと同じだ。この出会いを偶然にまかせるな。これが、お前のただ一つとしかない意思だ』
「はい…」
魔剣は知っている。何も知らないからといって、失敗作だからといって、誰かに不要だからといって
何も感じずに黙って死ぬ事が出来る心など、存在など、一つも無いのだと。
たとえ虫のようにうずくまって蠢く風前の灯火の魂であっても、不幸を不可解と握り締める権利がある。
『だから、掴め。ニド。今から俺が、お前の魔剣だ。そして俺の名前を知るんだ、名はジャバー。魔剣ジャバーだ』
「はいっ…」
魔剣ジャバーの柄を握り締める失敗作の少女ニド。
彼女は魔剣を掴み取り、そのまま刀身を地から引っこ抜く。
抜いた剣は空気に触れただけでリン、と甲高い音を響かせる。
その瞬間から彼女の運命は、流れるような道筋から遠く外れた。
ギチギチと何処かで回る歯車が大きく軋んで違う未来を生み出そうとする。
彼女と魔剣の終わりへと向かう物語。
静かな場所にしてはあまりにも煩わしい程の景色。
…景色だけじゃない、目を白黒白黒と瞬きするカラスが途端にギャアギャアと騒ぎ出す始末。
暮れの光によって辺り一帯が得体の知れない影になって映えるこの場所で
彼は胸いっぱいのため息をつく
『…はぁ~~~~~~~』
“彼”が目を覚ました場所―
見ただけで解る。ここは居心地の良い場所では無いと。
日が沈むに連れて延びる影はまるで這い寄ってくる黒い茨のようだ
『ああ、なんて日だ。今回はこんな場所からのスタートなんて…クソ』
唾を吐くように悪態をつく。
…それでも、どうしようも無い程に時間だけが過ぎていってしまう。
何もできないまま…
そう、彼には何も出来ないのだ。
何かを掴む手があるわけでは無く
何処かへ進む足もあるわけでは無い
ルビーの水晶から、ただただジッと景色を眺め、
無い口で『景気が悪い場所』だと文句を垂れるだけ。
唯一あるのは“なんでもきれる”という鋭利な刃と、べらべらとくだらないことを喋る口だけ。
だが、要である“主”が居ない。
己を握り、断つという意思を持って振る主が今、この場には居ない。
それが、『魔剣』である彼の最大の欠点だ。
彼という魔剣を使う事は非常に単純だ。先ほど言ったように己を握って斬れば良いだけ。
そうすれば。それを繰り返せばいずれは彼自身の目的に至る。
そういう風に出来ているのだ。
だが、この場所には声を掛けるべき存在が居ない。人が居ない。
いや、居た…声を掛けてはみた。
『おっ、どうも魔剣です。ちょっとお喋りな魔剣です。なんでも切れるよ。凄いよ。使用方法は簡単。握って振るだけさ、それだけさ』
返事は当然無い。何故なら屍だったのだから…
『大きな口を開けてさ、今にも喋りたそうな顔してるからさ、俺はきっとイけると思ったんだよ』
誰もいないところで言い訳をする魔剣。
言い訳を向ける相手は、単なる苦悶の表情を浮かべた死に顔に過ぎなかったのだ。
その死体だけではない。
ようく見ればここら一帯は全て、文字通り死体の山
ボロボロになった武器や盾、鎧と一緒にゴチャゴチャと積み上げられた死体の山に魔剣はぽつりと存在していた。
『クソがよぉ…なんでこんな場所から始めるんだよ、全部死神が掻っ攫った後じゃねえかよ』
さっさと主を見つけて次に進みたい彼にとってはなんとももどかしい状況に違いない。
自らでは何も出来ない彼にも、目的があるのだから。
『あ~あ~。急に空から主が降ってきたりしないかな~?しないかな~?ぶんぶんぶぶ~ん』
変な歌に淡い希望を織り交ぜながら魔剣はぼやく。
『―あ』
すると、上からトサリと黒い布に包まった“何か”が魔剣の目前に降り注いできた。
『…』
魔剣は黙ってそれを見ていると、その何かは黒い布の中でもぞもぞと蠢いている。
彼は一瞬だけその様子を見て、高いところから落ちた芋虫を連想してしまったが…それは全くの関係の無い事だ。
しかし、それは蠢くだけでそれ以上の事は何も無い。寧ろ、徐々に弱々しくなってさえいるように視える。
そして微かにだが、無い耳を澄ますと小さなうめき声が聞こえた。
うう…
うう…
『何だ?捨て犬か?』
魔剣は、それでも『自分の視界に動くものがあるならまだマシだ』と暫く眺め続けていた。
それだけで結局時は過ぎ―
既にお空には、爛々と輝く光と共に黒い蓋がされていた。
周辺も真っ暗になり、辺りを照らすのはルビー色の光を放つ魔剣の水晶だけであった。
『…』
この地獄のような静寂の中、魔剣はふと何かを思いついたように『うー、ワン!ワン!』等と犬の真似をして叫び始める。
…すると、目の前の“何か”はビクリと反応して、再びもぞもぞと動き始める。
(おお、動いたうごいた)
その程度の感想しか抱かないとしても
眠るという概念さえ無い魔剣にとっては気を紛らわすには十分だった。
しかし、それだけじゃなかった。
したしたと
ぺたぺたと
何かが近づいてくる足音が幾つもしてくるのだ。
(一つ…二つ…?いや、結構いるな)
それらは揃いも揃って「グルル…」と喉を鳴らしながら
死体の山から小さく魔剣の水晶に似た色の双眸を覗かせてきた。
『んだよ…黒死犬じゃねえか…』
死神の使いとも呼ばれている赤目の犬は5匹程度の群れをつくりながら
魔剣と降ってきた黒い布の辺りを囲うようにグルグルと回っていた。
『何それ、おもしろ』
それらは唐突に鼻をスンスンと鳴らし、大きく裂けた口から生臭い息と涎を漏らしながら
何かがあるであろう黒い布へと駆け寄ってくる。
『あ』
数匹の黒死犬が黒い布の中身を確認する事も無く、バウバウと吠えながら襲い掛かり噛み付く、そして引きずり回す。
頭をぐるんぐるんと物凄い速さで揺らしながら布をひっぺがそうとしている。
…それでも布の中身は弱々しく抵抗するように悶え蠢くだけ
『ああ、この世は弱肉強食の世界だ。来世ではいい人生を貰えよ。畜生』
魔剣には同情する気持ちもなく。ただ一言、心にも無いくだらない事をつぶやいていた。
しかし、暇つぶしにそれを眺めていると。魔剣はある事に気づく。
黒死犬が引っ張る布から、ポロリと中身らしきものが出てきたのだ。
―それは、手だった。人の手。武器を掴み取る事の出来る手。その手は抵抗するように地を掻きむしっている。
黒ずんだ、血が固まって出来たヘドロのようなものを握り締めながら
そこに微かな意思を彼は感じた。
『おい、おいおいおいおーい。なーにやってんだよクソ犬がぁ!!!大切な命弄んでんじゃねえぞ!ワンワン!!!』
魔剣はさっきとはまるで反転した言葉を大声で言い放ち、黒死犬たちがビクリとその声に反応して動きを止める。
すると、一匹の黒死犬がひたひたと魔剣に近づいてまるで品定めをするように鼻を鳴らす。
(刀身には鼻を近づけないとは…さすが、ちょっとは頭が出来てるんだな)
等と関心するのも束の間で、近づいた犬は口を大きく開いて鍔の辺りを大きく齧り始める。
しかし、犬畜生の顎程度では魔剣が砕ける事も当然ない。
魔剣はその様子に嫌悪する態度を一つもせず『…惜しいなぁ。もうちょっと上だ。上だよ』と背中を掻いてもらってる時のような言い回しで
他の所も齧るように促す。
…その言葉を理解したのかどうかは別として、黒死犬はそのまま流れるように柄の方へと牙を持っていく。
『ああ、そこそこ。じゃあな』
―と言った瞬間、黒死犬はビクリと身体を大きく後ろに跳ねのき、のたうち回った後にすぐ動かなくなった。
それらを見ていた他の黒死犬たちは驚いて皆が反射的にその場を逃げるように走り去っていく。
…再び静寂が舞い戻る。
しかし、魔剣にとってはそれどころでは無かった。
黒死犬が襲っていた黒い布の中身。
そこから覗かせる人間の腕。それは彼が今、何よりも欲しいものであった。
…しかし、想像していた以上にそれは寡黙で。感謝の言葉さえも返ってこない。
『…おい』
その質問に対して、再びその手はビクリと反応する。
『ギリギリ死んでないのはわかっているんだよ。黙ってないで言葉の一つぐらい発したらどうだ?』
魂を覗ける彼にとって、最初見たときは本当に微かな灯火のような魂を見て単なる畜生だと思っていたが
どうやら見当違いだったようだ。
もしこれが人であるならば、彼にとってこの状況は非常に重要なものになる。
すると、その手は探るようにピタピタと地を這って動き出す。
そして、黒い布からもぞもぞともうひとつの手を出してゆっくりとその姿をみせる。
「…あなたは、だれ?」
丁度。雲に隠れた月の光がくらがりに覆われた彼女の姿を照らしだした。
ぺたぺたと小さな足で立ち上がったのは小さな少女だった。
ボサボサと手入れのされていない長い黒髪。
簡素でボロボロな一枚布で出来た服を身に纏い
体には所々に、何針で縫われたものか数えるのも躊躇うような縫い目の跡が這うように残っている。
違和感を覚えるのは、そんな出で立ちも含めて
表情に全く動きが無いとこだ。
瞬きひとつもせず、ただただジッと魔剣に一言の質問だけをして佇んでいる。
その様はまるで
『人形みたいだな、おまえ』
と、魔剣は質問を返す前に姿を見せた少女に対しての感想を一言述べた。
「―ありがとう?」
『今になってようやく感謝するのかよ』
「村の人は子供を褒めるとき人形みたいだと言っていた。言われた子供も喜んでいた」
『そっちかよ』
『まぁいい…』と、魔剣は話題を急に戻し始める。
『お前の最初の質問に答えよう。俺は魔剣だ。なんでもきれる』
「ありがとう」
『いや、まって。話の腰おらないでね?なんで急に感謝するんだ?』
「あなたは私の質問に答えてくれた。村の人はみんな私がどんなに質問しても何も答えてくれなかった。手のひらで頬を打たれるだけだった。
あなたは何もしてこない。ちゃんと答えてくれる。質問を忘れないでいてくれる。だから、ありがとう」
『…お、おう』
『まぁいい…』と、魔剣は今一度話を戻そうとする。
『俺は魔剣だ。ちょっとだけお喋りな魔剣だ。なんでもきれる。凄いんだぜ?どう使うかは簡単だ。この柄を握って振るだけ。それだけでいいんだ、ぜ』
「ありがとう」
『今度はなんでしょうか?俺なんかやっちゃいましたか?感謝するような事しましたか?あと話の腰おらないでね?』
「犬に襲われてたの、助けてくれて、ありがとう」
『今なんだ?今になってそこなんだ??どういたしまして!そんで話を戻すけどな?』
「ありがとう」
『ああああああああああああああああああ!なんでしょうか!?お・じょ・う・さ・ま!!』
「…私のこと、気味悪がらないでいてくれた事。本当に嬉しい」
『…そうか』
魔剣は真っ直ぐ見つめる少女の瞳をルビーの眼で受け止める。
その瞳はどうにも薄気味悪く。光を当てても反射する事のないような…まるで絵の具で重ねて塗られたような黒紫の色があてがわれていた。
身も震えそうな程に身体中を這う縫い目。
その縫い目に沿うようにちらほらと魔術の刻印が刻まれている。
(こいつ…いや、まさかな)
『お前の感謝の気持ちは十分わかった。常に感謝するのはいい事さ。ああ、全てに対して感謝すればお神様もそりゃあ気分がいいだろうよ。でもな、常日頃から聞いている奴にとっちゃ気が滅入っちまうときだってあるんだありがとうを欲しがるよっぽどの欲張りさんじゃなけりゃあな』
「…私は、また間違えた?」
少女は首を傾げる。眉をハの字にして―
『間違ってはねぇよ。でも正しくもない。世の中で間違わないように生きる事はそりゃあ大事さ。
でも、それだけじゃあ正しい事を自分から見つける事もできなくなっちまう。そりゃあ自分自身をいつかは殺す事になるんだぜ』
「…わからない。間違ってしまえば私は常に叩かれた、殴られた、水も掛けられた…私は、どうすればいい?」
(…へぇ、そりゃあご愁傷様ってところか?)
魔剣は黒い布に包まれて降ってきた先の出来事を思い出す。
どうやら捨てられたのだろう。使い物にならないと判断されたのか。忌み子として処理されたか。
だが、魔剣にとってはそんな事はどうでもいい事だった。
どうでもいい事だと知ったうえで答えた。
『そうだなぁ。最初は誰かの考えを借りればいいさ。そっから間違ってたなら否定すりゃあいい。自分でも、他人でも。
生きていりゃあそんな事の繰り返しだ。でも、そうすりゃあいつかは出会うんだよ。自分にとってかけがえのない大切なものがさ』
「大切なもの?それは何?」
『そりゃあ、いつかのお楽しみさ。…というわけで。どうだ?俺という魔剣を、その手に…その手で振るってみないか?
俺と一緒に最高の景色を見ていこうぜ!』
最高の景色。それは魔剣にとっての最高の景色。
切り離した腕の断面、舞い上がる飛沫。球のように転がる頭。食卓に並べられるように微塵に刻まれた人間。
その凄惨な情景に賛美歌を歌うように鳴り響く断末魔。魔剣は思いだすだけでそわそわとしてしまう。
本来の目的を前によそ見をしてしまう程には求めてしまう景色なのだ。
「…わかった」
『いいねぇ!判断が早いねぇ!即決は大事だぜぇ。今のお前のその言葉は、さっき満遍なく振り撒いた感謝の言葉よりも価値がある』
「そうなんだ」
『んで、お前さんの名前は?』
「なまえ?」
『ああ、そうさ!名前だ!生まれた時にパパやママに呼ばれていただろー?愛を囁くようにさ』
「パパに呼ばれた名前…」
『そうさ!来い!どんと来い!』
「試作型蘇生術式聖女併合型第二被検体」
『はぁ』
「生まれた時にそう言われた」
『はえ~。さいですかぁ~』(うっわ)
「…」
『ちょっと前まで、こいつ…まさかな…とか伏線みたいなもん心の中でほざいてたけど見事にRTAにて回収されちゃいました。不本意ながらぁ。
そんで、それだけ?その他には?愛称とかあるだろ?』
「…略式名ではニドと呼ばれてた」
『あー、はいはい。ニド…ニドねぇ。んじゃそれでいこっか』
彼には感じていた。
試作型蘇生術式聖女併合型第二被検体。
その出された名には“存在者”としての意味を持っていない事を。
名前とは、誰かにその名を呼ばれて存在を認識されて初めて唯一の存在者として確率する。
唯一者としての意義を持つ事となる。それは魔剣を振るってもらう為には非常に重要な事だった。
だからこそ、魔剣は少し狼狽していた。
だが、そんな場面に出くわすケースがないわけでは無いと既に策は持っていた。
『んじゃあ、今からお前さんの名前を呼ぶから。ちゃんと返事してな。ニド』
「…?」
少女は首を傾げる。
「どうして?」
『お前はニドだからだ。今から俺にとってのニドだ。試作型蘇生術式聖女併合型第二被検体なんてのは名前じゃねえんだよ。生まれた時にママが強く抱きしめて「私の可愛い赤ちゃん」って呼ぶ時ぐらいのちんけなちんけな呼び名なんだよ』
「赤ちゃん?ちんけ?」
『おうおうおう、そんな事はぁ気にする必要ねぇんだよ。お前さんは俺が呼んだら返事だけすればいい。それでいい』
「…わかった」
『ようし、いい子だな。んじゃ呼ぶぞ?ニド!』
「…」
『…ニド?』
「は、はい…」
と少女は唐突に。真顔でボロボロと涙を流しながら震えた声で返事をした。
能面のように動かないその顔が濡れる事も気にならずに、ジッと魔剣を見つめながら「あ、れ?」と呟いてボロボロと涙が止まらない。
『…何、泣いてんだよ』
「解らない…でも、あなたとこうして話をするだけで、あなたに名前を呼ばれるだけで、私は…胸が苦しくなっている」
―…この少女には解らない事が多すぎた。
生まれた時から理由も解らずに失敗作と呼ばれ
理由もわからずに村人に疎まれ、この煩わしい程に視界に入ってしまう自身の縫い跡を不気味がられる。
真っ白な心のままで、彼女はずっと自分がどうするべきか考える事も出来なかった。誰も教えてくれなかった。
唯一するべきだと思ったのは、間違えない事。それ以外は何も知らずに生きてきた。
だからこそ、魔剣とのくだらない会話は彼女にとって不可解で
不可解な分だけ自分を感じる事が出来た。
それが、彼女にとっての…
『剣を握れニド』
「はい…」
『この真っ暗でしみったれた場所で、お前はお月の光を目一杯浴びてる。それはきっとお月様にとっちゃあ誰の為でもないだろうよ。でも、お前にはそれが自分の為だと思える権利がある。お前が俺という魔剣を握り締める理由もそれと同じだ。この出会いを偶然にまかせるな。これが、お前のただ一つとしかない意思だ』
「はい…」
魔剣は知っている。何も知らないからといって、失敗作だからといって、誰かに不要だからといって
何も感じずに黙って死ぬ事が出来る心など、存在など、一つも無いのだと。
たとえ虫のようにうずくまって蠢く風前の灯火の魂であっても、不幸を不可解と握り締める権利がある。
『だから、掴め。ニド。今から俺が、お前の魔剣だ。そして俺の名前を知るんだ、名はジャバー。魔剣ジャバーだ』
「はいっ…」
魔剣ジャバーの柄を握り締める失敗作の少女ニド。
彼女は魔剣を掴み取り、そのまま刀身を地から引っこ抜く。
抜いた剣は空気に触れただけでリン、と甲高い音を響かせる。
その瞬間から彼女の運命は、流れるような道筋から遠く外れた。
ギチギチと何処かで回る歯車が大きく軋んで違う未来を生み出そうとする。
彼女と魔剣の終わりへと向かう物語。
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