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2人泊まりロケ
ロケ3日目 水切りと先輩
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ロケ最終日。
近くの川へ遊びに来た。水着は持ってきていない。水切り勝負をすることになった。
アキが「平らな石探してみて」と教える。
遼は「俺ちゃんとするの初めて」と河原にかがむ。真剣に石を探す。
「これ最強?」とアキに駆け寄って石を見せにきた。「良いの見つけたね」と褒めて伸ばす。
「遼、今回のロケで1番テンション上がってる」とカメラに向かってこっそり言う。
勝負はアキの圧勝で終わった。年数が違う。
アキが飛ばした石が、軽快に跳ねていく。遼がその行方を眺める。石が沈んだ後も羨望の眼差しが続く。
「アキ、きっとモテただろ」
「水切りで惚れる人いないよ」
「俺、好きになる。かっこいい」
「そんなに?皆さん、水切りが上手いと遼にモテますよ」
「アキより水切りが上手い人としか付き合いたくない」
適当に話している。以前は遼からの、モテるは軽口でも嫌味だった。彼が来ると現場の空気が変わる。同業からのアタックも見かける。
今は嫌味とは思わない。だが遼の方がモテるだろ、とツッコむこともできなかった。
突然「アキってだれ?」と下の方から声がする。遼が飛び上がる。彼がアキの腕をつかむ。
遼に近づかれたことに今度はアキが驚く。
「悪い」と彼に腕を離された。
子どもが再度「アキってだれ?」と聞く。
「俺だよ」とかがみながら名乗り出る。
坊主頭の少年だ。
付近がさわがしくなる。坊主君を皮切りに、地元の集団が現れた。2人の周囲に子どもが集まる。「水切りしてるの?」「配信?」
アキが「アイドルやってまして」と応える。
後ろから来た保護者とスタッフが話している。アキチームと遼チームに分かれ、水切り勝負を行うことになった。
遼の試投を見て、アキ側に人が偏る。皆素直だ。
残ったのは坊主くん1人。彼は「君優しいね」と話しかける遼をじっと見上げた。他の子が、彼が一番水切りが上手いと話す。
勝負の結果、アキチームが勝った。坊主くんは無双した。しかし遼が足を引っ張ったことにより負けた。
遼が「君、負けちゃった。ごめん。俺、アキの軍門に下るから」と坊主くんから離れ、アキの前にひざまづく。「俺の最強の石、アキにあげる」と平らな石を献上してきた。おふざけだとわかっていても、アキは少し興奮した。
しかし背後で坊主くんが泣くのを我慢している。アキは「そこの少年!彼は私のものとなった。でも、もう一度勝負しますか?一対一で!」と声をかけた。
「アキ、あそこで子どもに手加減しないの意外だった」
「手加減せず、しっかり負けたけどね」
「名勝負だった」
地元の集団と別れた。駄菓子屋を訪れる。
小さなおばあさんが経営していた。値段を決めてメンバーへのお土産も買った。
店の前のベンチに並んで座る。ラムネ瓶を片手に、三日間のロケを振り返る。
「2人でのロケは始めてで、皆さんも新鮮だったんじゃないでしょうか?」
「ガッツリやったな」
「グラス作って、ドッキリされて」
「チューした」
「ぁ、そこ触れるんだ」
「え?」
「で!牧場、温泉、水切り。たくさん話したね」
「楽しかった。またやりたい」
「ならよかったよ」2人が見つめあう。
スタッフが「いつの間にか、遼呼びになっていますが」と聞く。
遼が「俺がお願いした。それ以外は内緒。NG」とバッテンを作る。2人だけの秘密なんですね、とスタッフが引き下がる。
「その言い方は語弊が」とアキがうろたえる。
「まぁアキが優しいってことだよ。皆知ってると思うけど」と遼が満足そうに目を細めた。
アキ遼お泊りロケVol.2の最後は、2人の顔を円で囲いながら暗転。アイリスアウトで終わった。端にTo Be continued?と書かれている。
帰りのロケバスで2人で話す。カメラはない。
「水切り上手くなりたい」と遼が手で角度を作る。
「記録も伸びてたね」
「俺、普通にしててもやる気ない?とか、怒ってる?て言われること多い。けど」
「あー、水切りがあれば」
「そう。そのままで楽しかった」
「いい顔してたけど。あるかなー水切り企画」
遼がうとうとし始める。
「あと、おれ、人がいるとなかなか寝れなくて。でもアキの側はよく寝れた」
「ん?」
「んぅ~」遼がアイマスクとネックピローをつけて完全に寝始める。
「(んんんんん?)」アキの頭の中が遼の言葉ではちゃめちゃになる。自身も寝たかったが、気になって寝れない。帰り道を悶々と過ごした。
遼が家につく。部屋の明かりをつけ、玄関で服を脱いだ。洗面所へ向かい、服を洗濯機へ入れる。手を洗う。コンタクトを外す。そして風呂に入る。
シャワーで髪全体を濡らす。トリートメントを髪に馴染ませる。一度流す。シャンプーを丁寧に泡立てる。のんびり指の腹で頭をマッサージ。洗い流し、ワックスが完全に落ちた。もう一度トリートメント。彼は髪への指通りを確認し満足そうだ。最後にクレンジング。風呂を出た。
全身を保湿する。ヘアオイルをつけて、ドライヤー。部屋着を着る。Tシャツとハーフパンツ。遼はメンテを終えた。ヘアバンドと眼鏡をつける。完全にオフモードだ。
キッチンへ向かう。余ったロケ弁をレンジで温めた。
思い出したように荷物から梱包材を取り出す。
アキが作ったグラスに水を入れた。
ロケ弁とグラスを持ち、デスクへ向かう。PCの電源をつける。
ども、お久しぶりです、と通話を繋いだ。
おーと落ち着いた声が聞こえる。
「ロケ、温泉行った。先輩も今度連れてってくださいよ」
「温泉?個室のなら。人が多い場所は嫌だよ。なんであんなに見られて平気なの?感覚いかれてるよ、遼」
「個室?あーやっぱいいや」
「おい。自分から誘っておいて振るな」
「いや~ヤリチンの下見に付き合わされるのはちょっと。安い男じゃないんで」
「私ん家でいろいろ鉢合わせたの数回だけだろう!」相手が叫んだ。
遼は「うるさ」とヘッドセットを一度耳から離す。その後の「それに最近は違う」という声は遼には届かなかった。
「三十路のヤリチンきつい」
「遼、おまえ今度会った時覚えとけよ」
2人は何気ない話を続けるのだった。
近くの川へ遊びに来た。水着は持ってきていない。水切り勝負をすることになった。
アキが「平らな石探してみて」と教える。
遼は「俺ちゃんとするの初めて」と河原にかがむ。真剣に石を探す。
「これ最強?」とアキに駆け寄って石を見せにきた。「良いの見つけたね」と褒めて伸ばす。
「遼、今回のロケで1番テンション上がってる」とカメラに向かってこっそり言う。
勝負はアキの圧勝で終わった。年数が違う。
アキが飛ばした石が、軽快に跳ねていく。遼がその行方を眺める。石が沈んだ後も羨望の眼差しが続く。
「アキ、きっとモテただろ」
「水切りで惚れる人いないよ」
「俺、好きになる。かっこいい」
「そんなに?皆さん、水切りが上手いと遼にモテますよ」
「アキより水切りが上手い人としか付き合いたくない」
適当に話している。以前は遼からの、モテるは軽口でも嫌味だった。彼が来ると現場の空気が変わる。同業からのアタックも見かける。
今は嫌味とは思わない。だが遼の方がモテるだろ、とツッコむこともできなかった。
突然「アキってだれ?」と下の方から声がする。遼が飛び上がる。彼がアキの腕をつかむ。
遼に近づかれたことに今度はアキが驚く。
「悪い」と彼に腕を離された。
子どもが再度「アキってだれ?」と聞く。
「俺だよ」とかがみながら名乗り出る。
坊主頭の少年だ。
付近がさわがしくなる。坊主君を皮切りに、地元の集団が現れた。2人の周囲に子どもが集まる。「水切りしてるの?」「配信?」
アキが「アイドルやってまして」と応える。
後ろから来た保護者とスタッフが話している。アキチームと遼チームに分かれ、水切り勝負を行うことになった。
遼の試投を見て、アキ側に人が偏る。皆素直だ。
残ったのは坊主くん1人。彼は「君優しいね」と話しかける遼をじっと見上げた。他の子が、彼が一番水切りが上手いと話す。
勝負の結果、アキチームが勝った。坊主くんは無双した。しかし遼が足を引っ張ったことにより負けた。
遼が「君、負けちゃった。ごめん。俺、アキの軍門に下るから」と坊主くんから離れ、アキの前にひざまづく。「俺の最強の石、アキにあげる」と平らな石を献上してきた。おふざけだとわかっていても、アキは少し興奮した。
しかし背後で坊主くんが泣くのを我慢している。アキは「そこの少年!彼は私のものとなった。でも、もう一度勝負しますか?一対一で!」と声をかけた。
「アキ、あそこで子どもに手加減しないの意外だった」
「手加減せず、しっかり負けたけどね」
「名勝負だった」
地元の集団と別れた。駄菓子屋を訪れる。
小さなおばあさんが経営していた。値段を決めてメンバーへのお土産も買った。
店の前のベンチに並んで座る。ラムネ瓶を片手に、三日間のロケを振り返る。
「2人でのロケは始めてで、皆さんも新鮮だったんじゃないでしょうか?」
「ガッツリやったな」
「グラス作って、ドッキリされて」
「チューした」
「ぁ、そこ触れるんだ」
「え?」
「で!牧場、温泉、水切り。たくさん話したね」
「楽しかった。またやりたい」
「ならよかったよ」2人が見つめあう。
スタッフが「いつの間にか、遼呼びになっていますが」と聞く。
遼が「俺がお願いした。それ以外は内緒。NG」とバッテンを作る。2人だけの秘密なんですね、とスタッフが引き下がる。
「その言い方は語弊が」とアキがうろたえる。
「まぁアキが優しいってことだよ。皆知ってると思うけど」と遼が満足そうに目を細めた。
アキ遼お泊りロケVol.2の最後は、2人の顔を円で囲いながら暗転。アイリスアウトで終わった。端にTo Be continued?と書かれている。
帰りのロケバスで2人で話す。カメラはない。
「水切り上手くなりたい」と遼が手で角度を作る。
「記録も伸びてたね」
「俺、普通にしててもやる気ない?とか、怒ってる?て言われること多い。けど」
「あー、水切りがあれば」
「そう。そのままで楽しかった」
「いい顔してたけど。あるかなー水切り企画」
遼がうとうとし始める。
「あと、おれ、人がいるとなかなか寝れなくて。でもアキの側はよく寝れた」
「ん?」
「んぅ~」遼がアイマスクとネックピローをつけて完全に寝始める。
「(んんんんん?)」アキの頭の中が遼の言葉ではちゃめちゃになる。自身も寝たかったが、気になって寝れない。帰り道を悶々と過ごした。
遼が家につく。部屋の明かりをつけ、玄関で服を脱いだ。洗面所へ向かい、服を洗濯機へ入れる。手を洗う。コンタクトを外す。そして風呂に入る。
シャワーで髪全体を濡らす。トリートメントを髪に馴染ませる。一度流す。シャンプーを丁寧に泡立てる。のんびり指の腹で頭をマッサージ。洗い流し、ワックスが完全に落ちた。もう一度トリートメント。彼は髪への指通りを確認し満足そうだ。最後にクレンジング。風呂を出た。
全身を保湿する。ヘアオイルをつけて、ドライヤー。部屋着を着る。Tシャツとハーフパンツ。遼はメンテを終えた。ヘアバンドと眼鏡をつける。完全にオフモードだ。
キッチンへ向かう。余ったロケ弁をレンジで温めた。
思い出したように荷物から梱包材を取り出す。
アキが作ったグラスに水を入れた。
ロケ弁とグラスを持ち、デスクへ向かう。PCの電源をつける。
ども、お久しぶりです、と通話を繋いだ。
おーと落ち着いた声が聞こえる。
「ロケ、温泉行った。先輩も今度連れてってくださいよ」
「温泉?個室のなら。人が多い場所は嫌だよ。なんであんなに見られて平気なの?感覚いかれてるよ、遼」
「個室?あーやっぱいいや」
「おい。自分から誘っておいて振るな」
「いや~ヤリチンの下見に付き合わされるのはちょっと。安い男じゃないんで」
「私ん家でいろいろ鉢合わせたの数回だけだろう!」相手が叫んだ。
遼は「うるさ」とヘッドセットを一度耳から離す。その後の「それに最近は違う」という声は遼には届かなかった。
「三十路のヤリチンきつい」
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