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6)南の都『ハッテンバー』と最弱の男。①
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「暑い……! なんでこんなに暑いんだ?」
俺は次々に吹き出して流れ落ちる汗を手の甲で拭いながら、同じく汗だくのルナを振り返った。
「元々南のほうが気温が高いのと、季節が夏になってしまった事が原因でしょウネ。この時期にはお日様が5つ出ますカラ……」
「はい!?」
俺が慌てて空を見上げると、ルナが言ったとおり、雲一つない青空にはお日様が5つ並んでさんさんと輝きを放っていた。
「季節が進むにつれてお日様が増えるんだから、そりゃー暑いわよ」
暑いと言いつつ汗一つかいていないカヴァは、そう言って笑いながら俺に水筒を渡してくれる。
「ちょっと待って。お日様が、増える……?」
俺は受け取った水筒の栓を開けながら、カヴァとルナにそう問い返した。
「普通春は3つ、夏は5つ、秋は2つ、冬は1つのお日様が出るでしょう? でもって、南の方がお日様が近いから、暑さを感じやすい。……鷹夜の世界では違うの?」
カヴァが目を丸くしてそう聞いてきたので、俺は再び空を見上げながら言った。
「俺のいた世界では、太陽……お日様は1つだけだったよ」
「え? じゃあ年間を通して同じ気温なの? 季節を知りたい時にはどうしてたの?」
「いや、季節による気温差はあるよ。カレンダーってのがあって、日にちを毎日数えてんだよ。一ヶ月が大体30日。で、俺の住んでた国だと、大体何月から何月までが春、何月からが夏って感じで決まっているんだ。地域差も多少あるけどな」
「ふぇぇ……毎日日にちを数えるの、面倒臭くないでスカ!?」
「ふむ。その発想は無かった」
そんな他愛もない話をしながら、俺達は街道沿いを歩いていく。
今回は厄介な森を抜けることもなく、数日で俺達は南のニ・チョーメ『射精の泉』にたどり着いた。
ここから約一日半ほどで、南の都『ハッテンバー』に着くそうなのだが、あいにく夕暮れが近付いたこともあって、俺達はこの泉の近くで野営を構えることとなった。
その夜のこと。
「なぁ。ずっと思ってたんだけど、なんで2人は見ず知らずの俺にこんなに親切にしてくれるんだ? 言っとくけど俺、この世界に残って、ゲイ族の魔王になるつもりは本当にないぞ?」
焚き火を囲みながら食事をすると、何故人は語らいたくなるのだろう?
俺はそんな焚き火マジックの熱に浮かされながら、ルナが作ったスープをスプーンでかき混ぜつつ、そんな質問をした。
「言ってなかったっけ? アタシの父、元は鷹夜と同じ世界から来たアチラの人間なのよ。魔王候補としてこの射精の泉に飛ばされたは良いけど、魔力の欠片もなくてね。あっちの世界に帰ることは早々に諦めたらしいの」
「なっ……!?」
初めて聞いたカヴァの話に、俺は驚きを隠せなかった。
「因みに、その親父さんは今……」
「亡くなったわ。あれから8年になるかしら……。父は魔力無しで魔王候補から脱落した転移者や行き場のないゲイ族を集めて、ギルドを作っていたの」
「ご、ごめん……」
亡くなったというカヴァの言葉に、俺は慌てて謝った。カヴァは首を横に振ると、笑って言った。
「父が亡くなって、まだ若かったあの頃のアタシは自分が食べていくので精一杯だった。そのせいでギルドはあっという間に散り散りになって、今残っているのはアタシとルナ、それと別の都にいる、もう一人の仲間だけ」
「カヴァ! カヴァは悪くないデス……! フミタカ様だって、きっとそう言ってくれます」
「……ありがとう、ルナ」
2人はフミタカなる人物に思いを馳せているのか、とても優しい顔をしていた。
何気ない質問のつもりだったのに、思いがけない話を聞いてしまった俺は、いたたまれない気持ちで俯いた。
「なんか、悪い」
「やだぁ。鷹夜ったらそんな顔しないでよ。アタシ達は転移者を助けるっていう父の遺志を継いだだけ。だから、アタシは貴方があちらの世界に無事帰れたら嬉しい。けれどもしいつか気が変わるようなことがあれば、鷹夜をギルドメンバーに誘いたいの」
「ギルドの再興はカヴァの夢なんでスヨ。因みにルナは鷹夜様がもし魔王様になられて、ルナをお抱え料理人か側室の1人にしてくれたなら、もーっと嬉しいデス!」
2人はそう言いながら明るく笑って、俺の肩を叩いてくれた。
「それでも俺は、この世界に残る気はないんだ。ごめん……」
「そうでスカ……。それは残念なことですけれど、ルナは父が亡くなったあと、露頭に迷いかけていた所をフミタカ様のギルドに拾って頂きまシタ。フミタカ様が叶えられなかったあちらの世界への帰還を鷹夜様が叶えられたならルナは嬉しいですし、フミタカ様のギルドを復活させたいっていうカヴァの夢が叶ったら、それはそれでルナは嬉しいなーって思ってるんでスヨ」
「ふふ、ありがとルナ。そういう事だから、鷹夜は遠慮せず安心して笹舟に乗った気持ちでいてね」
「そ、そこは大船では!?」
「うーん、やっぱり鷹夜の世界とこちらの世界での慣用句の言い回しが……」
「そのくだり、いつぞやにも聞いた気がするんだが!?」
俺はそうツッコミを入れて笑顔を作った。
うう。そんな話を聞いたら、俺、涙腺弛んじゃうよ。
ルナのスープに、セルフで塩味追加しちゃったじゃないか! 笑わねばっ。2人を心配させてしまう。
とんでもないタイミングで飛ばされてきた異世界だったけど、どうやら俺は良い仲間に恵まれたようだ。
2人のためにも、明日からの旅を精一杯頑張ろうと思った。
俺は次々に吹き出して流れ落ちる汗を手の甲で拭いながら、同じく汗だくのルナを振り返った。
「元々南のほうが気温が高いのと、季節が夏になってしまった事が原因でしょウネ。この時期にはお日様が5つ出ますカラ……」
「はい!?」
俺が慌てて空を見上げると、ルナが言ったとおり、雲一つない青空にはお日様が5つ並んでさんさんと輝きを放っていた。
「季節が進むにつれてお日様が増えるんだから、そりゃー暑いわよ」
暑いと言いつつ汗一つかいていないカヴァは、そう言って笑いながら俺に水筒を渡してくれる。
「ちょっと待って。お日様が、増える……?」
俺は受け取った水筒の栓を開けながら、カヴァとルナにそう問い返した。
「普通春は3つ、夏は5つ、秋は2つ、冬は1つのお日様が出るでしょう? でもって、南の方がお日様が近いから、暑さを感じやすい。……鷹夜の世界では違うの?」
カヴァが目を丸くしてそう聞いてきたので、俺は再び空を見上げながら言った。
「俺のいた世界では、太陽……お日様は1つだけだったよ」
「え? じゃあ年間を通して同じ気温なの? 季節を知りたい時にはどうしてたの?」
「いや、季節による気温差はあるよ。カレンダーってのがあって、日にちを毎日数えてんだよ。一ヶ月が大体30日。で、俺の住んでた国だと、大体何月から何月までが春、何月からが夏って感じで決まっているんだ。地域差も多少あるけどな」
「ふぇぇ……毎日日にちを数えるの、面倒臭くないでスカ!?」
「ふむ。その発想は無かった」
そんな他愛もない話をしながら、俺達は街道沿いを歩いていく。
今回は厄介な森を抜けることもなく、数日で俺達は南のニ・チョーメ『射精の泉』にたどり着いた。
ここから約一日半ほどで、南の都『ハッテンバー』に着くそうなのだが、あいにく夕暮れが近付いたこともあって、俺達はこの泉の近くで野営を構えることとなった。
その夜のこと。
「なぁ。ずっと思ってたんだけど、なんで2人は見ず知らずの俺にこんなに親切にしてくれるんだ? 言っとくけど俺、この世界に残って、ゲイ族の魔王になるつもりは本当にないぞ?」
焚き火を囲みながら食事をすると、何故人は語らいたくなるのだろう?
俺はそんな焚き火マジックの熱に浮かされながら、ルナが作ったスープをスプーンでかき混ぜつつ、そんな質問をした。
「言ってなかったっけ? アタシの父、元は鷹夜と同じ世界から来たアチラの人間なのよ。魔王候補としてこの射精の泉に飛ばされたは良いけど、魔力の欠片もなくてね。あっちの世界に帰ることは早々に諦めたらしいの」
「なっ……!?」
初めて聞いたカヴァの話に、俺は驚きを隠せなかった。
「因みに、その親父さんは今……」
「亡くなったわ。あれから8年になるかしら……。父は魔力無しで魔王候補から脱落した転移者や行き場のないゲイ族を集めて、ギルドを作っていたの」
「ご、ごめん……」
亡くなったというカヴァの言葉に、俺は慌てて謝った。カヴァは首を横に振ると、笑って言った。
「父が亡くなって、まだ若かったあの頃のアタシは自分が食べていくので精一杯だった。そのせいでギルドはあっという間に散り散りになって、今残っているのはアタシとルナ、それと別の都にいる、もう一人の仲間だけ」
「カヴァ! カヴァは悪くないデス……! フミタカ様だって、きっとそう言ってくれます」
「……ありがとう、ルナ」
2人はフミタカなる人物に思いを馳せているのか、とても優しい顔をしていた。
何気ない質問のつもりだったのに、思いがけない話を聞いてしまった俺は、いたたまれない気持ちで俯いた。
「なんか、悪い」
「やだぁ。鷹夜ったらそんな顔しないでよ。アタシ達は転移者を助けるっていう父の遺志を継いだだけ。だから、アタシは貴方があちらの世界に無事帰れたら嬉しい。けれどもしいつか気が変わるようなことがあれば、鷹夜をギルドメンバーに誘いたいの」
「ギルドの再興はカヴァの夢なんでスヨ。因みにルナは鷹夜様がもし魔王様になられて、ルナをお抱え料理人か側室の1人にしてくれたなら、もーっと嬉しいデス!」
2人はそう言いながら明るく笑って、俺の肩を叩いてくれた。
「それでも俺は、この世界に残る気はないんだ。ごめん……」
「そうでスカ……。それは残念なことですけれど、ルナは父が亡くなったあと、露頭に迷いかけていた所をフミタカ様のギルドに拾って頂きまシタ。フミタカ様が叶えられなかったあちらの世界への帰還を鷹夜様が叶えられたならルナは嬉しいですし、フミタカ様のギルドを復活させたいっていうカヴァの夢が叶ったら、それはそれでルナは嬉しいなーって思ってるんでスヨ」
「ふふ、ありがとルナ。そういう事だから、鷹夜は遠慮せず安心して笹舟に乗った気持ちでいてね」
「そ、そこは大船では!?」
「うーん、やっぱり鷹夜の世界とこちらの世界での慣用句の言い回しが……」
「そのくだり、いつぞやにも聞いた気がするんだが!?」
俺はそうツッコミを入れて笑顔を作った。
うう。そんな話を聞いたら、俺、涙腺弛んじゃうよ。
ルナのスープに、セルフで塩味追加しちゃったじゃないか! 笑わねばっ。2人を心配させてしまう。
とんでもないタイミングで飛ばされてきた異世界だったけど、どうやら俺は良い仲間に恵まれたようだ。
2人のためにも、明日からの旅を精一杯頑張ろうと思った。
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