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34)思い出のクリームソーダ
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「申し訳ございません。私が早く仕事を覚えたくて、佐倉さんに無理を言ったのです。いけませんでしたか……?」
あまり機嫌の良さそうではない詩月様に、私は恐る恐るそう尋ねる。私が申し出たせいで佐倉さんが怒られるのは困る。もしご機嫌を損ねたのだとしたら、きちんと謝罪をしなければ。
そう思ったけれど、詩月様はそんな私に一瞥をくれて、小さくため息をつかれた。
「はぁ……もういいよ。忙しい佐倉に頼んだ僕も悪かったし」
「すみません……。ところで。その黒い飲み物はなんと言う物ですか? 珈琲ではないと佐倉さんに伺ったのですが」
「は? 何って、普通にコーラだけど……」
「コーラ?」
珍しい飲み物の名前を聞いて、私の好奇心は顔に出てしまったようだ。
一瞬不機嫌そうな顔をした気がした詩月様は、私の興味津々な表情を見て、今度は目を丸くされた。
「マジで? 令和のこの日本に、コーラを知らない人がいるの?」
詩月様はそう仰って、その黒い液体をストローでかき混ぜる。
「ええと。そう言われてみれば、名前くらいは……。若者が好んで飲む飲み物なんですよね? 前の主人はそういった飲み物を好まれませんでしたので、実物に触れる機会がなくて」
「なるほど。日和って本当にあの山奥の屋敷に監禁飼いされていたんだね。まるで漫画の世界の話みたい」
詩月様はそう仰ると、興味津々でコーラを見つめる私にグラスを差し出された。
「それにしても、『若者が』ってウケる。日和って、僕とそんなに年変わらないんでしょ?」
「そうなのですか?」
「うん。僕、今十八歳なんだ。誕生日が来たら十九。ちょっと訳あって高校は一年ダブってるんで、まだ三年生なんだけど」
「私は先日十八歳になりました」
「じゃあ学年は僕の方が一つ上なのか。日和は背も高いし大人っぽいから、てっきり日和の方が歳上なのかと思ってた」
「大人っぽい……」
その言葉は褒め言葉なのか、はたまた愛玩奴隷としては大きすぎて可愛くないという意味なのか……。
詩月様の真意が分からない私は、曖昧に微笑む。微妙な空気が流れかけたけれど、その空気は詩月様の楽しげな声ですぐに打ち消された。
「そーだ、ちょっと飲んでみる? 飲んだことないんでしょ、コーラ。僕まだ口付けてないし」
「え? しかし……」
「いいから、いいから」
目の前に差し出された黒い飲み物は、艷めく氷を浮かべ、シュワシュワと泡がはじけている。色はアイスコーヒー同様コップの底が見えぬほど真っ黒で、けれども珈琲とは明らかに違う不思議な香りがした。
私は好奇心に負けて詩月様のご厚意に甘え、コップに少しだけ口をつける。途端にジュワッと炭酸の泡が舌先を泡立てて、ビリビリと痺れた。その直後、口の中に残ったのは不思議な香りの甘さだった。
「あ、甘い……。アクの強い炭酸水のような嗜好品かと思いましたが、なにやら複雑な甘味とスパイスが入り交じったような味がします。甘味が強くて舌がピリピリするのに、凄く美味しいです」
「あはは。日和って、面白い。コーラにも色々種類があって、それはクラフトコーラって言うんだ」
「これが、クラフトコーラ……」
「ふふ。律兄が一昨日ケーキビュッフェに連れてったって話は聞いてたけど、これは確かに、色んなものを食べさせてみたくなるかも」
詩月様は楽しそうにそう仰ると、おもむろにパソコンでなにやら調べ始めた。画面の中には私が見たことのない色とりどりの缶やペットボトル、グラスに注がれた飲み物の写真が表示されていたが、その中に一つ。
私はとても懐かしい飲み物を見つける。
「この中で、日和が飲んだことがあるものはどのくらいある?」
「ええと……あの……これは、クリームソーダですか?」
「え。コーラは知らないのに、クリームソーダは知ってるの?」
「ええ。懐かしいです。私は子供の頃これが好きで、幼い頃は良く前の主人にねだって飲んでおりました」
あまり機嫌の良さそうではない詩月様に、私は恐る恐るそう尋ねる。私が申し出たせいで佐倉さんが怒られるのは困る。もしご機嫌を損ねたのだとしたら、きちんと謝罪をしなければ。
そう思ったけれど、詩月様はそんな私に一瞥をくれて、小さくため息をつかれた。
「はぁ……もういいよ。忙しい佐倉に頼んだ僕も悪かったし」
「すみません……。ところで。その黒い飲み物はなんと言う物ですか? 珈琲ではないと佐倉さんに伺ったのですが」
「は? 何って、普通にコーラだけど……」
「コーラ?」
珍しい飲み物の名前を聞いて、私の好奇心は顔に出てしまったようだ。
一瞬不機嫌そうな顔をした気がした詩月様は、私の興味津々な表情を見て、今度は目を丸くされた。
「マジで? 令和のこの日本に、コーラを知らない人がいるの?」
詩月様はそう仰って、その黒い液体をストローでかき混ぜる。
「ええと。そう言われてみれば、名前くらいは……。若者が好んで飲む飲み物なんですよね? 前の主人はそういった飲み物を好まれませんでしたので、実物に触れる機会がなくて」
「なるほど。日和って本当にあの山奥の屋敷に監禁飼いされていたんだね。まるで漫画の世界の話みたい」
詩月様はそう仰ると、興味津々でコーラを見つめる私にグラスを差し出された。
「それにしても、『若者が』ってウケる。日和って、僕とそんなに年変わらないんでしょ?」
「そうなのですか?」
「うん。僕、今十八歳なんだ。誕生日が来たら十九。ちょっと訳あって高校は一年ダブってるんで、まだ三年生なんだけど」
「私は先日十八歳になりました」
「じゃあ学年は僕の方が一つ上なのか。日和は背も高いし大人っぽいから、てっきり日和の方が歳上なのかと思ってた」
「大人っぽい……」
その言葉は褒め言葉なのか、はたまた愛玩奴隷としては大きすぎて可愛くないという意味なのか……。
詩月様の真意が分からない私は、曖昧に微笑む。微妙な空気が流れかけたけれど、その空気は詩月様の楽しげな声ですぐに打ち消された。
「そーだ、ちょっと飲んでみる? 飲んだことないんでしょ、コーラ。僕まだ口付けてないし」
「え? しかし……」
「いいから、いいから」
目の前に差し出された黒い飲み物は、艷めく氷を浮かべ、シュワシュワと泡がはじけている。色はアイスコーヒー同様コップの底が見えぬほど真っ黒で、けれども珈琲とは明らかに違う不思議な香りがした。
私は好奇心に負けて詩月様のご厚意に甘え、コップに少しだけ口をつける。途端にジュワッと炭酸の泡が舌先を泡立てて、ビリビリと痺れた。その直後、口の中に残ったのは不思議な香りの甘さだった。
「あ、甘い……。アクの強い炭酸水のような嗜好品かと思いましたが、なにやら複雑な甘味とスパイスが入り交じったような味がします。甘味が強くて舌がピリピリするのに、凄く美味しいです」
「あはは。日和って、面白い。コーラにも色々種類があって、それはクラフトコーラって言うんだ」
「これが、クラフトコーラ……」
「ふふ。律兄が一昨日ケーキビュッフェに連れてったって話は聞いてたけど、これは確かに、色んなものを食べさせてみたくなるかも」
詩月様は楽しそうにそう仰ると、おもむろにパソコンでなにやら調べ始めた。画面の中には私が見たことのない色とりどりの缶やペットボトル、グラスに注がれた飲み物の写真が表示されていたが、その中に一つ。
私はとても懐かしい飲み物を見つける。
「この中で、日和が飲んだことがあるものはどのくらいある?」
「ええと……あの……これは、クリームソーダですか?」
「え。コーラは知らないのに、クリームソーダは知ってるの?」
「ええ。懐かしいです。私は子供の頃これが好きで、幼い頃は良く前の主人にねだって飲んでおりました」
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