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23)泣きたい夜は*

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「今日は気持ちいいのは駄目なんですか?」


 由岐が耳の穴のすぐ近くから俺にそう問う。


 あの時。
 ユウキを信じて、何故ただ一言、本人に真相を聞くことができなかったのか。
 傷付く事が怖くて、全ての連絡ツールをブロックして、思考を止めて。
 誘われるままに、由岐に抱かれた。
 アブノーマルで刺激的な由岐との行為は、いつだって俺の思考をユウキから遠ざけてくれて……。


「酷く……もっと酷くて辛いのが欲しい……ッ」
「ん……、仕方ありませんね。承知しました」


 子供のわがままを聞き入れるような、そんな返事の仕方だな……。そんなことを思っていたら、口の中に由岐の指が入ってきた。華奢で細い三本の指が、口腔の粘膜のぬめりを楽しむように口の中でバラバラに蠢く。


「翔李さんの粘膜はどこも本当に気持ちいいですね」
「ん、ぐ……っ、んんん」


 そう言いながら由岐は舌をそっと掴んで、くにくにと柔らかさを楽しむように動かした。
 舌の根元のあたりまで指を入れられて、俺は反射的にえずく。胃袋がヒクヒクして、再び生理的な涙がポロリと流れ落ちた。


「そろそろ、下の方も慣れてきたかな。動かしますよ」


 俺の下顎に指をかけたまま由岐はそう言って、性器に突き刺したままのブジーに触れる。ゆっくりと金属の棒が抜き取られていくその感覚は、少しの痛みと安堵感、そして不思議な気持ちよさがあった。


「あ、がぁ……っ、はっ、は……ぁ」
「ふふふ。お口のきけない翔李さんも、なかなか可愛いですよ」


 由岐に下顎を押さえられているせいで、俺の口からは情けない声が出る。舌の先を指で掴まれて、ぐいっと舌を引っ張り出された。その間にもブジーはゆっくりと抜き取られ、半分ほどまで来ると、再び奥へと挿入される。慣れない圧迫感は程よく苦しくて、けれどもそれはほんの序の口で。

 ブジーの先がとある一点を通り抜けたとき、俺の中で悪寒にも似た強烈な電流が走った。それがとてつもなく強い快楽であると認識した瞬間、俺は口の中の由岐の指に歯を立てて、喉の奥で声にならぬ声で絶叫した。


「痛っ……。っ、ふふ。噛みましたね? 悪い子にはお仕置きです」


 俺に噛まれた指を、仕返しとばかりに喉奥に入れた由岐は、えずく俺を見ながら楽しそうに言った。


「ん、ぐ……ッ、は……」


 何度もえずかされて唾液にすっかり濡れた指を、由岐がようやく口から抜き取る。その間にもブジーの先は恐ろしい快楽を引き出すその一点を何度も往復して、狂ってしまいそうなほどの快楽を俺に与え続けた。

 そっとペニスに片手を添えた由岐は、耳かきでもするかのようにその細い穴の奥を犯した。
 それは誰も知らない……俺本人すらも知らぬ恥ずかしい秘密を暴かれるようなとてもみっともなく恥ずかしい感覚だ。確かに尿道を擦られる痛みはあるのに、圧倒的に気持ちのいいその一点が痛覚と理性を鈍らせる。
 由岐の繊細な指が容赦なく犯すその奥まった器官からは、絶頂したまま時を止められたかのような、狂おしいほどの快楽が与えられた。


「気持ちよさそうですね? 前立腺って、前から刺激するとおかしくなっちゃうほど気持ちいいらしいですから」
「あ……あ……っ、だぁ……ッ、ゆぎぃ……っ、あ゛あ゛…………ッッ」
「これも駄目なんですか? 例え気持ち良くても、これだけ辛かったら十分罰になると思うんですけど」
「で、でも……っ、……ぐ、ぅっ!」
「じゃあ、こうしましょうか」


 由岐はブジーから手を離すと、ベッドから降りてようやく自らの服を脱ぎ始めた。服を脱ぎ終えると俺の側に来て、ベッドでぐったりしていた俺の唇に弛く勃った状態のペニスを付きつける。


「今度は歯を立てないで下さいね」


 悪戯に微笑む由岐に俺はこくんと頷くと、砕けそうになる腰を叱咤して起き上がり由岐の高ぶりを口に含む。

 舌を添わせてしばらく抜き差しを繰り返すと、僅かに火照る程度だったそれはみるみる硬さを増していく。
 不意に由岐に頭を掴まれて、最大限に重量を増した物で深く喉奥を犯される。俺は呼吸の出来ない苦しさに呻きながらも、決して歯を立てないように大きく口を開けて耐えた。生理的な涙はもはや俺の頬を何度も流れて、唾液に混じって胸元まで垂れている。


「そろそろ、いいでしょう」
「……っ。ゲホッ、ケホッ……」


 そう言って突然ペニスから引き剥がされたかと思うと、由岐は咳き込んでいる俺の顔を優しく撫でる。
 数秒ののち俺の咳き込みが治まると、今度は両足を開いて持ち上げているように促す。
 ローションを絡めた指が双丘の間にある狭い穴に滑り込んだかと思うと、軽く慣らされただけの綻びきらない蕾に由岐の熱いものが突然侵入してきた。


「あ、あ、あぁ……ッ、ゆ……っき、っ」
「ベッドでは名前で呼んでください。僕の可愛い翔李さん」
「あ……」


 由岐の声が優しく鼓膜を揺らす。肩にしがみつく俺の手に、由岐は頬を擦り付けて優しく撫でるような仕草をした。由岐の澄んだ瞳は、俺の瞳の奥を覗き込むようにまっすぐ俺を見つめている。


「ゃ……ぁ、かなでっ、かっ……かなで……っ、優しくすんな……ぁっ、もっと酷く……頼むから……ッ」


 挿入の圧迫に耐えながら、俺は懇願するように声を絞り出す。全てを見通されているのではないか。そう思ってしまうほど蠱惑的な由岐の眼差しが、吐息がかかりそうなほどの近距離から俺を見つめている。


「ふふ、優しくなんてしてないですよ。ホラ」
「やっ……! そ……そういうっ、意味じゃな……てっ……、ぁぁ、痛っ……ぅ」


 深い所に由岐の楔が達すると、無理矢理拓かれたそこはメリメリと痛みに軋む。後ろに由岐、前にはブジーを咥え込まされた下半身は、悲鳴を上げていた。


「今は泣くほど気持ち良くて辛いコトをしてるんですから、好きなだけ泣いてもいいんですよ」
「…………っ! あ、ぁっ、はぁ、んん」


 そう言って、ペニスで直に中を慣らすように動く由岐の動きはとても優しくて、俺は堪えきれずに泣いた。


「ごめん……由……岐、ごめ、…………ンっ、ユウキ……ひぐっ、うう……ゆう、き……ぃ」


 俺がしがみついていた由岐の琥珀色の瞳が、わずかに優しく揺れる。
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