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第二章 ゆれるこころ
6話 好き?
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机の上にはまったく進んでいない宿題がある。
手を付けようにも福山さんにあの現場を見られたという事実が大きくのしかかり、全然集中することが出来ない。
自分一人で考えたところで答えが出ることは無く、自然とスマホに手が伸びていた。
先輩の電話番号を見つめ、また相談して良いものかと悩んでしまう。
先輩の助力は欲しい、でも、それだと、いつまでも弱い自分のままな気がする。
通話ボタンに添えた指がフルフルと震え、一度スマホの画面を閉じたのだが……
もし、福山さんがアレを言い触らしたりして、由衣の行いが学校に広まったらどうなるだろうか?
どう考えてもネガティブなイメージが広まってしまうように思える。
そのことが原因で由衣が虐めたりなどしないだろうか?
そんな不安を振り切れず、結局、俺は、通話ボタンを押してしまった。
「遅くにすいません。先輩」
『うん、いいよ。どしたー?』
「えっと、実は、その……先輩に、相談したいことがあって……」
事あるごとに先輩に頼っているのが申し訳なくなり、言い淀んでしまう。
『大丈夫だよ。ゆっくりでいいから』
俺の緊張を感じ取ってくれたのか、先輩は優しい声色でそう言ってくれる。
本当に優しい人だ。
「えっと、今日、学校でですね――」
俺は例の現場を、福山さんに目撃されていたことを先輩に伝えた。
由衣の悪いうわさが広まってしまうのではないかという俺の不安についても一緒に添えて。
しかし、俺の心情とは裏腹に、先輩の返答は思いのほか軽いものだ。
『なるほどね。大丈夫じゃない? そんなに心配しなくても』
少しも気にした様子も無く、そう言ってのける。
「いや、でも……」
『あんまり難しく考えないで。ここ最近、色々あったから勘ぐっちゃう気持ちは分かるけど、もう少し言葉通りに受け取っても良いと思うよ』
「言葉通り?」
『そ、元気出してって言われたんでしょ? 本当に励ましたかっただけよ』
とは言われてもだ。
その理由が分からないと、やはり不気味なんだよな……
「でも、動機がありませんよね? どうして急にそんなこと言い出したのかが分からなくて……」
『そんなの、優人に気があるからでしょ』
「……えっと、なんて?」
『優人に気があるのよ』
気がある? 俺に?
んなアホな。
「……あの、俺、本気で相談してるんですけど」
『私も本気で相談に乗ってるんだけど』
先輩は不機嫌そうに言う。
どうやら本当にそう思っているらしい。
「えー……どこをどう考えたらそういう結論になるんですか?」
『だって優人の事を素敵な人って言ったんでしょ? 引っ込み思案な女の子が軽はずみにそんな事言わないってば』
「…………う~ん」
分からん。
なにがなんだかもう分らん。
『要するによ。素敵だと思っている澄谷君が振られてしまいました。例の現場を目撃してしまった福山さんは、振られた原因が優人じゃなくて由衣ちゃんにあると思ったわけ。澄谷くんは素敵なままだから振られたのを気にしないで元気を出して。そういう事よ』
なんだかこじつけ感が凄いと思うのは俺だけだろうか……
「その考え方は無理やりだと思うんだけど……」
『なんで?』
「いやだって、俺、気に入られるような事してないし」
『クラスで彼女に話しかけるのって優人くらいなんでしょ? それで充分なの、恋に落ちるのにはね』
「恋ってそんな……さすがに飛躍しすぎじゃ……」
『優人は好かれてるの』
「いやいや……」
むしろ話しかけて迷惑だと思われてる可能性すらあると思うのだが……
『いまいち分かってないようだから言っておくけど、優人って私から見ても素敵にみえるからね?』
「なんの冗談ですか?」
『冗談じゃないわよ。私は優人くんのこと好きよ?』
「………………」
『……なんか言いなさいよ。恥ずかしいじゃない』
そんなこと言われても、先輩には情けない姿しか見せてないのだが……好かれる理由が無い。
とはいえだ、電話越しでも先輩に好きと言われるのは非常に恥ずかしい。
なんて答えるのが良いのか精一杯考えた結果――
「俺も先輩のこと、好きですよ?」
そう言っていた。
もちろん恋愛対象に見ているとかそういう意味ではないのだが、実際声に出して言うともの凄く恥ずかしいもんだ。
『変なこと言わないでよ』
「先輩が先に言ったんですけど……」
お互いに照れ隠しのようにそう言った。
『とにかく! 福山さんは優人のことが好きなの! 分かった!?』
先輩は強引にそう結論付ける。
「……あの……仮にですよ? 仮に福山さんが本当に俺の事を好きなんだったとしたら……どうするべきですか?」
『付き合うべきよ』
俺の問いに先輩は即答で返す。
なんとなくだが先輩ならそう言うだろうとは思っていた。
『由衣ちゃんの事を吹っ切りたいのなら、新しい恋を探すべきでしょ? 優人を好きになってくれる人がいるなら渡りに船よ』
「そう……ですか……」
『とりあえず仲良くなってみるところから始めてみたら?』
「……それって福山さんを利用するってことですよね?」
由衣への気持ちを忘れるために、福山さんとの距離を縮めようとする。
なんと身勝手な話だろうか。
『いいじゃない。向こうからしたらチャンスをもらえるんだから』
「いや、でも――」
『あなた本気で妹離れする気あるの?』
「……!」
先輩の口調は厳しい。
『妹以外に恋をする気があるの?』
『自分を変える気があるの?』
『前に進みたいのなら、現状を変えなさい』
責め立てるように、先輩はそう言った。
「……そう、ですよね」
『福山さんが優人の事を好きじゃなくても、口説き落とすぐらいの気概をみせなさいよ』
「……はい」
『由衣ちゃん以外の人に、恋をするのを怖がっちゃダメ』
先輩の言っていることは図星だった。
ずっと怖かったんだ。由衣じゃない他の誰かに、恋をすることが……自分が変わってしまうような気がしたから。でも、変わらないといけないんだ。俺は。
「……分かりました。頑張ってみます」
『うん。応援してるから』
いつまでも由衣に恋愛感情を持ち続けることは出来ない。俺達は兄妹だから、いつかは諦めなければならない恋なんだ。
そのためにやってみようと、頑張ってみようと、そう思った。
新しい自分になろうと、そう思ったんだ。
手を付けようにも福山さんにあの現場を見られたという事実が大きくのしかかり、全然集中することが出来ない。
自分一人で考えたところで答えが出ることは無く、自然とスマホに手が伸びていた。
先輩の電話番号を見つめ、また相談して良いものかと悩んでしまう。
先輩の助力は欲しい、でも、それだと、いつまでも弱い自分のままな気がする。
通話ボタンに添えた指がフルフルと震え、一度スマホの画面を閉じたのだが……
もし、福山さんがアレを言い触らしたりして、由衣の行いが学校に広まったらどうなるだろうか?
どう考えてもネガティブなイメージが広まってしまうように思える。
そのことが原因で由衣が虐めたりなどしないだろうか?
そんな不安を振り切れず、結局、俺は、通話ボタンを押してしまった。
「遅くにすいません。先輩」
『うん、いいよ。どしたー?』
「えっと、実は、その……先輩に、相談したいことがあって……」
事あるごとに先輩に頼っているのが申し訳なくなり、言い淀んでしまう。
『大丈夫だよ。ゆっくりでいいから』
俺の緊張を感じ取ってくれたのか、先輩は優しい声色でそう言ってくれる。
本当に優しい人だ。
「えっと、今日、学校でですね――」
俺は例の現場を、福山さんに目撃されていたことを先輩に伝えた。
由衣の悪いうわさが広まってしまうのではないかという俺の不安についても一緒に添えて。
しかし、俺の心情とは裏腹に、先輩の返答は思いのほか軽いものだ。
『なるほどね。大丈夫じゃない? そんなに心配しなくても』
少しも気にした様子も無く、そう言ってのける。
「いや、でも……」
『あんまり難しく考えないで。ここ最近、色々あったから勘ぐっちゃう気持ちは分かるけど、もう少し言葉通りに受け取っても良いと思うよ』
「言葉通り?」
『そ、元気出してって言われたんでしょ? 本当に励ましたかっただけよ』
とは言われてもだ。
その理由が分からないと、やはり不気味なんだよな……
「でも、動機がありませんよね? どうして急にそんなこと言い出したのかが分からなくて……」
『そんなの、優人に気があるからでしょ』
「……えっと、なんて?」
『優人に気があるのよ』
気がある? 俺に?
んなアホな。
「……あの、俺、本気で相談してるんですけど」
『私も本気で相談に乗ってるんだけど』
先輩は不機嫌そうに言う。
どうやら本当にそう思っているらしい。
「えー……どこをどう考えたらそういう結論になるんですか?」
『だって優人の事を素敵な人って言ったんでしょ? 引っ込み思案な女の子が軽はずみにそんな事言わないってば』
「…………う~ん」
分からん。
なにがなんだかもう分らん。
『要するによ。素敵だと思っている澄谷君が振られてしまいました。例の現場を目撃してしまった福山さんは、振られた原因が優人じゃなくて由衣ちゃんにあると思ったわけ。澄谷くんは素敵なままだから振られたのを気にしないで元気を出して。そういう事よ』
なんだかこじつけ感が凄いと思うのは俺だけだろうか……
「その考え方は無理やりだと思うんだけど……」
『なんで?』
「いやだって、俺、気に入られるような事してないし」
『クラスで彼女に話しかけるのって優人くらいなんでしょ? それで充分なの、恋に落ちるのにはね』
「恋ってそんな……さすがに飛躍しすぎじゃ……」
『優人は好かれてるの』
「いやいや……」
むしろ話しかけて迷惑だと思われてる可能性すらあると思うのだが……
『いまいち分かってないようだから言っておくけど、優人って私から見ても素敵にみえるからね?』
「なんの冗談ですか?」
『冗談じゃないわよ。私は優人くんのこと好きよ?』
「………………」
『……なんか言いなさいよ。恥ずかしいじゃない』
そんなこと言われても、先輩には情けない姿しか見せてないのだが……好かれる理由が無い。
とはいえだ、電話越しでも先輩に好きと言われるのは非常に恥ずかしい。
なんて答えるのが良いのか精一杯考えた結果――
「俺も先輩のこと、好きですよ?」
そう言っていた。
もちろん恋愛対象に見ているとかそういう意味ではないのだが、実際声に出して言うともの凄く恥ずかしいもんだ。
『変なこと言わないでよ』
「先輩が先に言ったんですけど……」
お互いに照れ隠しのようにそう言った。
『とにかく! 福山さんは優人のことが好きなの! 分かった!?』
先輩は強引にそう結論付ける。
「……あの……仮にですよ? 仮に福山さんが本当に俺の事を好きなんだったとしたら……どうするべきですか?」
『付き合うべきよ』
俺の問いに先輩は即答で返す。
なんとなくだが先輩ならそう言うだろうとは思っていた。
『由衣ちゃんの事を吹っ切りたいのなら、新しい恋を探すべきでしょ? 優人を好きになってくれる人がいるなら渡りに船よ』
「そう……ですか……」
『とりあえず仲良くなってみるところから始めてみたら?』
「……それって福山さんを利用するってことですよね?」
由衣への気持ちを忘れるために、福山さんとの距離を縮めようとする。
なんと身勝手な話だろうか。
『いいじゃない。向こうからしたらチャンスをもらえるんだから』
「いや、でも――」
『あなた本気で妹離れする気あるの?』
「……!」
先輩の口調は厳しい。
『妹以外に恋をする気があるの?』
『自分を変える気があるの?』
『前に進みたいのなら、現状を変えなさい』
責め立てるように、先輩はそう言った。
「……そう、ですよね」
『福山さんが優人の事を好きじゃなくても、口説き落とすぐらいの気概をみせなさいよ』
「……はい」
『由衣ちゃん以外の人に、恋をするのを怖がっちゃダメ』
先輩の言っていることは図星だった。
ずっと怖かったんだ。由衣じゃない他の誰かに、恋をすることが……自分が変わってしまうような気がしたから。でも、変わらないといけないんだ。俺は。
「……分かりました。頑張ってみます」
『うん。応援してるから』
いつまでも由衣に恋愛感情を持ち続けることは出来ない。俺達は兄妹だから、いつかは諦めなければならない恋なんだ。
そのためにやってみようと、頑張ってみようと、そう思った。
新しい自分になろうと、そう思ったんだ。
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