上 下
26 / 37
第二章 ゆれるこころ

5話 クラスメイト

しおりを挟む
 その後二日ほどが経過し、俺と先輩が破局したと学校中に広まっていた。
 俺の予想通りに、クラスの連中は嘲笑を向けてくる。

「おまえ新庄先輩に振られたって本当かよ!?」
「え、振られたの? 早すぎね?」
「どうせすぐにエロい事しようとしたんだろ」
「お前には釣り合ってないと思ってたよ」
「短すぎる春だったな。はははは!」

 好き勝手に言いたことを言って去っていく。薄情な奴らだ。完全に楽しんでやがる。
 それだけ先輩の影響力が大きという事なんだろうが、俺としては鬱陶しいだけだ。
 ウンザリするが皆が飽きるまでは我慢するしかない。

 そんなのが放課後まで続き、精神的にだいぶ疲れてしまっていた。
 とっとと帰って休みたいところだが、当然家には由衣が居るわけだ。
 もちろん俺達の関係は改善される事なく、気まずい状態が続いているので、出来る事なら家にいる時間は短い方が良い。
 どこかで時間を潰してから家に帰るのがベストなわけだが……
 しばらく生徒会の活動は休止すると先輩に言われているので、準備室に行くわけにもいかない。
 友達の誘いに乗って遊びに行くのも考えたが、失恋したばかりの身で遊び呆けるのは不味いだろうし、そもそもあまり友達と遊んだりってのをしてこなかったので誘われる事がまず無い。

 そうこう考えあぐねて教室の机に突っ伏した状態になると、強烈な睡魔が襲ってきた。
 ここ最近は深夜の訪問を警戒し、寝るのが遅くなっていたのでその影響だろう。
 考えることを放棄し、目を閉じるとあっという間に眠りに落ちた。


 体感では三十分くらいの間、眠っていただろうか。
 隣の席からの物音で目が覚めた。

「あ、ご、ごめん。起こしちゃった?」
「……あー、いや、気にしないで」

 隣の席の女生徒が申し訳なさそうにしている。
 
 彼女の名前は福山ふくやま日菜子ひなこ
 とてもおとなしい印象のクラスメイトだ。
 彼女は一人でいることが多く、休み時間でも誰かと話しているところはあまり見ない。
 
 時計を見ると二時間以上が経過していた。思いのほか深い眠りについてしまっていたようだ。
 
「珍しいね。こんな時間まで残ってるの」

 俺の記憶が正しければ、福山さんは部活に入っていなかったはずだ。
 いつも放課後になったらすぐに帰っていたと思う。
 
「あ、えっと……宿題、やってから帰ろうと思って……」
「そうなんだ」
「……うん」
 
 まあ家でやるより学校に残ってやった方が捗るってのはあるからな。

「もう終わったの?」
「……うん……だいたい……」

 あまり人と話すのが得意ではないのだろう。
 彼女は会話する時、いつも伏し目がちに受け答えをしている。

「……」
「……」

 そしてあまり会話は長く続かない。
 隣の席という事もあって、世間話程度に俺から話しかけたりするのだが、大抵は長い沈黙で会話が終わる。
 最初は嫌われているのかなとか思ったりもしたんだが、俺以外と話すときも彼女はこんな感じだ。

「……あの、澄谷すみたにくん……」
「ん?」

 ただ、今日は珍しく福山さんが何かを話したそうにしている。
 普段は彼女から質問してくる事などほとんどない。
 だから何を言うのか少し興味が湧いたのだが……

「えっと…………新庄先輩と別れたって――」

 彼女は例に漏れず、その話題を口にした。

「またその話か」
「あっ、ご、ごめんなさい!」

 何度も振られた話題に、つい反射的に渋い顔をしてしまった。
 そんな俺の表情を見て福山さんは慌てて頭を下げる。
 
「こっ、こんなこと聞かれるの、嫌、だよね……」
 
 確かに嫌ではあるのだが、福山さんみたいな人に聞かれるのは意外だった。
 こういった他人の色恋沙汰には関心を示さないタイプだと思っていたからだ。
 
「ああ、いやっ、こっちこそごめん。嫌な顔しちゃって……今日はいろいろ言われて少し神経質になってた」

 福山さんの縮こまって謝っている姿を見ていると、小動物を虐めているような後ろめたさがあり、逆にこちらが申し訳なくなる。
 悪気があったわけじゃなさそうだしな。

「……ううん……ごめんなさい……」

 彼女は声を震わせながらもう一度謝って来る。

「気にしてないよ」
「……ごめんなさい」
「いいよいいよ大丈夫!」

 威圧的にならないように、柄にもなく明るめの声でそう言ってみるが、福山さんはすっかりと委縮してしまっている。

「……」
「……」

 気まずい沈黙が流れる。
 こんな時、気の利いた一言を言える男なら良かったのだが、残念ながら俺にはそんなスキルは無い。
 ここは早めに退散しようと腰を上げる。

「っと……今日はもう帰るよ。気を使わせてごめんね」

 そう言い残し、歩き出そうとしたのだが――
 
「あ、あのッ!」

 いつもの控えめな声量からは考えられないほどの大きな声を出し、彼女は俺の前に立ちはだかる。

「おぅ……ど、どうかした?」

 思わぬ彼女の行動に困惑してしまう。普段の様子からは想像できない大胆さだ。

「わ、私、その……週末に…………」
「えっ?」

 遊園地、と聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
 を……見られた……?

「弟が小さくて……その……家族で遊びに行ってて……」
「……」

 何を答えて良いのか分からず、身体が固まってしまう。
 あそこの遊園地の客層を考えれば、クラスメイトに目撃される可能性など無いと思っていた。
 どうしたら良い? どういうつもりで福山さんはこの話を俺にするんだ!?
 言いふらすつもりか? ……いや、そんな事する人には見えない。
 彼女の思惑が分からないのが怖く感じる。
 
「だからね……その……あの……」
「…………」

 思考がまとまらず、俺は声を発することが出来ない。

「元気! ……出して欲しいの!」
「……はい?」
「澄谷くんは素敵な人だと思うから!」
「へ?」

 俺は今、もの凄く間抜けな顔をしているだろう。
 わけがわからなかった。 

「そ、それだけだから! さようならッ」

 福山さんは慌てて勉強道具をカバンにしまい込み、逃げるように教室から出て行った。

「……どういうこと?」

 ……

 …………どういうこと?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る

卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。 〔お知らせ〕 ※この作品は、毎日更新です。 ※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新 ※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。 ただいま作成中

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

処理中です...