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2.怖いモノ

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 母の再婚で4つ下の弟に会ったのは中学生のとき。まさかオオカミの家族ができると思わなくて不安でいっぱいだった私に笑いかけ、尻尾を振りながら胸に飛び込んできてくれた。私に懐いてくれる弟の明るさで、新しい家族のぎこちなさはだんだん薄れていく。思春期の不安定さも、抱き付いてくる弟の毛をわしゃわしゃ撫でればなんとなく落ち着いた。
 小学生の弟は可愛かった。中学生の弟は男の子らしくなり、高校生の弟はカッコよかった。
 いくつになっても耳掃除してとか、一緒に映画見ようとか、買い物付き合ってとか懐いてもらえることが嬉しかった。もしゃもしゃと頭の毛を撫でるのを楽しんでた。

 弟が高校生のとき、友達と居るところに出くわしたことがある。友達の輪の中に女の子もいて、それが心をチクリと刺した。弟と同じ歳で、同じ教室で、共通の話題で盛り上がる。4つも上の私には入れない同年代の輪。
 なにかモヤモヤしたものが、私の中に居座るようになった。

 モヤモヤがなんなのか、ハッキリしたのはだいぶあと。
 部室で友達が貸してくれたマンガを読んでたら、別の友達に覗き込まれた。

「何読んでんの? んー、兄と妹の……って、きんしんそーかんじゃん。キモっ」
「や、でも義理だよ?」
「えー、だって子供のころから兄妹なんでしょ? なんでそんなことになんの。気持ち悪いじゃん」
「うーん、まあ、でも、親は気にするかもね」
「アンタんちも義理のおとうとだよねー。どう?」
「いや、私も別にそんなこと思わないけど、マンガだし」
「だよねー私も絶対ムリ」

 内心ビクビクしながら当たり障りなく話を終えた。湧き上がった後ろめたい気持ちが答えを教えてくれる。弟をそう言う目で見てるって。どうしてこうなったのかわからない。
 気持ち悪い私のせいで、危ういバランスの家族はどうなるんだろう。弟と仲良くなってくれてホッとした、と言ったお母さんはどう思う? 姉からそんな目で見られてるなんて、弟はどう思う?
 子供のころのから変わらない無邪気な笑顔の弟を、私は。

 自分の汚い気持ちに罪の意識が膨らんだ。
 離れなきゃ。気持ちが知られないように。弟に彼女ができたら平静でいられる自信がない。もう大学生なんだから、いつできたっておかしくない。鏡の中から可愛くもない人間の私が、暗い顔で見返していた。
 私は弟をさけるようになり、一人暮らしも考え始めた。なのに弟は変わることなく、明るい笑顔を向けてくれる。それが離れがたくて、でも苦しかった。

 職場の忘年会でだいぶ酔って帰り、玄関に寝そべった。冷たいフローリングが火照った頬に気持ち良い。同期との2次会ではしゃぎ過ぎた。弟を忘れようとはしゃいでも虚しくて、お酒を飲み過ぎた。
 寝っ転がってたら弟がやってきた。だいぶ前に酔った私を抱き上げて、運んでくれたことを思い出す。理性の緩んだ私はそれを期待して、酔って動けないフリをした。
 抱き上げられた腕の逞しさに体が火照る。酔っ払ってて良かったと思った。顔が赤くても火照ってもお酒のせいだと言えるから。

 部屋のベッドに寝かしてくれ、コートのボタンを外してくれる弟の手に欲情する。このまま暴かれたかった。
 バカみたい。私は本当にバカ。
 こんなことされて喜んでる浅ましさを知られたくなくて、目をつむったまま寝たふりをし続けた。
 弟の手が服をめくり上げて心臓が跳ねる。でも寝たふりをしてるから大人しくしてた。
 パジャマに着替えさせてくれるの? 
 ズボンを脱がされて疼く。でも、なんとも思ってないからこそ着替えさせてくれるんだと、願望を押し殺すため自分に言い聞かせる。ブラジャーを外されたときの心配は、乳首が立ってませんよーに、だった。

 それなのに、触れられた。手で。そのあとの濡れた感触は舌?
 ペロペロと弾かれて混乱する。
 なんでなんでなんで。弟も私を? それとも、好き勝手できそうな体があったから? 目は開けられず、体も動かせなかった。怖かった。それなのに、その先を望んでた。

 待ち焦がれて濡れた窪みを指で確かめられ、体が勝手に反応する。抱かれたい気持ちがバレると怯えたけど、太ももにあたる毛の感触に期待が膨らんだ。足が割り開かれたとき、ヒクつくのがわかった。
 一気に押し込まれた大きな質量に衝撃を受ける。初めてだけど痛みはない。すごく濡れてたから。待ち焦がれたものだったから。
 弟は動いてすぐイったようだった。でも止めずにまた動き始める。グチョグチョ音を立てて擦られる気持ち良さに耐えられず、声を出してしまった。今度は起きたフリで目を開ける。
 弟が私の足を間で腰を振っていた。夢じゃない。私の中をこじ開けて犯してるのはまぎれもなく弟だった。大好きな、欲しくてたまらなかった弟。中がヒクつき涙が流れた。
 弟の黄色い目が熱に浮かされてるように見えた。私を見返し、射精する。

 泣く私を宥めるように『好きだ、愛してる』と言った。私もだと言いたい。でも本当かどうか聞きたい。聞いても信じられそうにない。
 カッコよくてモテて、頭のよい弟が4つも上のつまらない私を? そんな夢みたいなこと? こんなことお母さんが知ったらどう思うだろう。キモイと言った友達の、バカにした声を思い出す。
 嬉しいのに嬉しくなくて、ホントかどうかも分からなくて、混乱して泣いた。弟の撫でる手が優しくて、こんなときなのに安心してしまい、いつの間にか眠ってしまった。

 目が覚めたら私は裸で弟も裸だった。
 私はどうしようもなく怯えて、弟を否定する。自分の浅ましさを知られたくなくて、ただの性欲解消だったらどうしようと疑心暗鬼になって。
 私は逃げる。本気だったら追いかけてくれるはずという、自分勝手な願いを抱いて。弟は追いかけてくれた。私の否定を否定して。
 でもそれは本当だろうか。同じ家だから、便利だからじゃない? 
 そうして、また逃げた私を追いかけてきた弟は、合鍵をねだって私を組み敷いている。

 諦めないの? 本当に? 愛してるのも? だから追っかけてくれるの? 振り向いたら気が済んでしまわない? いつか飽きてしまわない?

 弟の手を取りたいのに、手を伸ばせない。


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