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6.後悔と告白 Side ディラン

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Side ディラン

「マリーマリーマリーっ!」

 返事はなく、動きもしなかった。
 新しい死人のもとへ走る。どうかどうか、と願いながら走ったのに、『マリー』と呼びかけた私に応える声はない。ただの死体が動いているだけだった。
 心臓が掴まれて息が止まる。そんな、そんな、だって、私はまだ言っていない。まだ、何も。頭が痛み、目がチカチカして視界が回る。

 ……すぐ動けないのかもしれない。すぐ意識が戻らないのかもしれない。時間がかかるだけかもしれない。
 でも、マリー、早く戻ってきてくれ。私の元に。

 一日は長く、時間はのろのろ過ぎる。別れるまではあんなに早かったのに。
 夜はあまり眠れず、眠ってもマリーの崩れ落ちるさまを夢に見て冷や汗をかいて起きた。食欲もないが、私が死んでは意味がないので無理に食事を詰め込んだ。いつ戻ってもわかるように、つねに新しい死人と過ごす。
 5日経つ頃には私の心は沈み、ベッドから起き上がるのも億劫になった。
 こんなことなら、正直に伝えれば良かった。好きだと。あなたが好きだと。職場の仲間かもだとか、ただの家族で男として見られていないかもしれないからとか、臆病で何もできなかった自分を呪う。

 マリーの声が聞こえないだけで家の中は寒々しい。死人の手を握ってもマリーじゃないと思い知らされるだけだった。
 眠りは浅く、不安な夢ばかり見た。ある夜、触れられている感覚がした。でも夢だ。近づくことすら嫌がられるのに、ふれてくる人間などいるわけない。ただの夢だ。私の願望が見せる夢。マリーに触れられたい私の夢。

 ぼんやりした意識が覚醒し、だんだん感覚がはっきりしてきた。それなのに感触があるのをおかしく思った。触れられてる? 本当に? 誰? もしかしてっ。
 目を開けたら私を覗き込む死人が笑った。死人の淀みは消えさり、輝く目の奥にマリーの魂を見る。

 マリーっ!

 喜びのまま抱き付く私をマリーが笑った。

「ごめんね、起こしちゃった」
「ぁ、……マリー」
「ただいま」

 溢れ出る涙で返事が出来ない。

「…………っ、も、戻ってこない、かと、……マリーマリーマリー」
「気付いたらこの中にいたの。お守り効果かな?」
「よかった、マリー」
「うん、私も。でも動けないよ、ディラン」
「あ、ああ、動いていい。好きに動いていい」

 私の言葉で動けるようになったマリーは、しっかり抱きしめ返してくれた。ただこれだけで嬉しくて、幸福に体が震えた。

「どれくらい経ったの?」
「一週間だ。……マリー、会いたかった」
「お待たせ」
「……次に会えたら言おうと」

 腕の中にいるマリーの手を取って、私の額に当てた。深呼吸し、思い切って口を開く。

「マリー、私と一緒にいて欲しい。どうか、私と」
「ディランが死人を用意したらそこに入っちゃうんじゃない?」
「そういう意味じゃない。私は、……マリー、好きなんだ」

 マリーが息を飲んだ。

「どうか」

 私は懇願する。どうか共にいて欲しいと。どうか私の腕の中に。どうか。


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