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番外編

10.新しい家族

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目が覚めると自分がどこにいるか分らず、側にある温かい体をぼんやり見るとミカだった。反対側にも誰かいるけど、森番の家のベッドだしアルとベルだな。
モソモソと起き上がり水を飲みに行く。上着を引っ掛けて外へ行きトイレも済ませた。
冬はきついぞ、これ。トイレの穴掘るの一苦労じゃない?掘っておくのかな?

ぼんやり月を見ていたらドアの開く音がして、振り向くとアルが立っていた。
アルが微笑んで私を見る、そのことに胸が痛むほど嬉しかった。いつかの真っ暗なアルじゃないことに酷く安心する。
抱き付くと、ぎゅっと抱きしめられた。

「体は?大丈夫か?」
「うん」
「良かった」
「平気?」
「ああ。ユウ、凄く良かった。ユウが凄く可愛くて、興奮した。またしたい」
「そうなの?」
「ユウは愛されてるな。俺達の愛し子だ。俺達が愛してるユウが、大事にされてるのを見ることができて嬉しかった。俺達の大事な人をみんなが大事にしてくれるんだ。それが嬉しい」
「アル」

胸がいっぱいで言葉がでてこない。嬉しくて幸せで涙がにじみ、アルを力一杯抱きしめた。抱き合って幸せを噛み締める。
なんだかよく分んない宴だったけど、して良かった。これだけでお釣りがくる。

「アルを愛してる」
「俺もユウを愛してる」

月明かりの下で抱き合う。今夜の月は優しく私達を包むようだった。青い光が微笑むアルを照らしてどこか夢のよう。夢に浮かされて口付けると、柔らかな感触で実在がわかる。柔らかな感触に何度もふれて確かめた。
温かな舌が私の唇を割り、歯列をゆっくりとなぞる。その柔らかな動きに息が零れた。アルの舌が口中を撫であげ、私はアルに縋りつかないと立っていられないくらい腰が痺れている。

「筆頭が言ってた。ユウが気持ち良過ぎて気を失ったって。麻痺したから驚いたんだ」
「うん、もう、凄かった。とにかく凄かった」
「だから、体も過敏になっているかもしれないと。ユウ、感じてる?」
「うん」
「俺も。ユウに口付けるともうダメだ。でも、ミカに怒られたから眠ろう」
「なんて怒られたの?」
「ユウに無理させるなら、しばらく触らせないって」

少しだけ眉を下げて情けない顔をする。ミカに怒られたときもこんな顔してたんだろうか。可愛くて笑える。

「ふふっ私の見張り番だ」
「そう、身張り番なんだ。くくっ、筆頭も怒られてた」
「えっそうなの?・・ふふふっ、怒られてるとこ想像すると可笑しい」
「っく、くくっふっ、可笑しかった」

アルが楽しそうに笑うと、すごく嬉しい。私も見たかった。ミカに怒られるエーミールを。
ふと、きらきらした目で私を覗き込み、抱きしめる腕に力を入れる。私に頬ずりをして、額にキスをした。

「・・・ユウ、俺達は家族なんだな。俺とベルだけだったけど、ユウと婚姻してミカと魔法使い達も家族になったんだ。やっとわかった。喜びを分かち合える家族で、俺とベルが欲しかったものだ」
「そうか、・・・みんな家族だね」

そうだ、睨まれたことないし、蔑まれたこともない、存在を無視されたこともない。面倒なこともあるけど、全部愛情だって分かる。みんなで笑う、その輪の中に私もいるんだ。そうか、私もちゃんと家族の中に入ってる。

なんだか涙が溢れて止まらない。胸がいっぱいになってしまった。知らない振りしてたんだけどな。だって、悲しいから。何でもない振りして、一人で全部やらなきゃいけなかった。だって、一人だったから。

でも、今は頼れる人がいて、私の知らないところで守ってくれてる。こうして抱きしめてくれる人がいて、話を聞いてくれる人もいる。いつだって助けに行くって言ってくれる人と、いつも笑って迎えてくれる人も。
みんな、それぞれ違うけど私には全部が必要だったんだ、きっと。お腹が空き過ぎて、たくさん必要だったから、この世界でちょうど良かったのかも。
私、幸せ者みたい。凄く。

「アル、私、幸せみたい。アルに見つけてもらって幸せになったんだよ、ありがとう」
「・・・ユウ、俺も、ユウを見つけて、ユウと会えて、幸せで・・ユウ、ありがとう」

夜が明けてきて空の色も薄い青になった。空気は冴え冴えとして、磨きたての新しい朝が訪れる。いつだってこうして私達は真っ新な時間に迎えられてる。
綺麗な朝焼けを抱き合って眺めた。

ああー、ラジオ体操の歌にぴったりな朝だわ。作詞家天才。はははっ私、元気みたい。こんな朝は、そう、新しい方々を迎えるのに相応しい気がする。私でも迎えられるような、頼れる人達がいるから大丈夫な気がするわ。

「ねえ、アル」
「なんだ?」
「私、子供欲しいなあ。双子の」
「・・・ユウ、双子が欲しいの?」
「うん。双子は可愛いから」
「・・出来るといいな」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて笑った。力加減覚えなさいよー、まったくもう。
二人で笑ってるとベルとミカが起きてきた。みんなで顔を洗い、朝の身支度をする。お茶を飲んで今日の予定を話し、昨日のことをみんなで笑った。
今日も冬支度を頑張らないと。収穫する毒キノコ率減らしたいわ。だってねえ、私、森の住人なんだから。



おしまい

____________



番外編最終回です。
近況ボードに短い挨拶を書きました。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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