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86.怒涛のおしゃべり

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双子に向き直ると、途方にくれたような顔で佇んでいる。迷子みたいな二人に胸が痛む。いったいどうしたら、みんなが幸せになれるのかな。
気を取り直して二人に笑いかける。

「体洗う?」

ベルが走って私に抱き付いた。

「ユウっ、泊まるんだね、ユウ、ああ、ユウ、会いたかった」
「泊まるよ。さあ、お湯を用意して」
「用意してくる!」

ベルは元気よく家の中へ走って行った。ぼんやりしたアルの側に行き抱きしめて笑いかける。

「アルも洗う?」
「・・・洗う」
「じゃあ、体をこする布を用意しようね」

体を離して歩こうとしたら抱きしめられた。肩に埋めた顔から、か細い声が聞こえる。

「ユウ・・・・・・・夫でいさせてほしい」

胸がえぐられて息が苦しい。アルだってそれぐらい辛いはずなのに。

「アル、夫でいてほしい。・・・アルが好きだよ。信じられないかもしれないけど。ごめんね、傷つけて」
「ユウ、ユウ、ユウナギ、愛している。誰にも、誰にもさわられたくなかった。ユウ、俺達以外を愛してほしくなかった」
「アル、うん、アルフレート、ありがとう。嬉しい。知らなかった、嬉しい、アル」

痛いほど抱きしめるアルを愛しくて切なく思う。
夫でいたいって、二人とも。愛してるって、アルが。
悲しくて嬉しくて胸が痛んで鼻の奥がツンとした。

「もう、二人で何やってるのさ。アルも準備してよ」

ベルが家から桶にお湯を満たして運びながら怒ってる。
思わず笑ってしまい、アルも少し笑った。そのまま家に入ったから準備しに行ったんだろう。

「聞いてよ、ユウ。アルはずっと一人で閉じこもってさ、話しかけても答えないし。俺は心配してるのに、何も言わないんだ。もう、ずっとだよ?ずっと喋らないしさ、ミカの家に行ったときだって、俺に何の相談もしないで、勝手に決めてさ。アルってば勝手すぎるんだ」

お、おう。鬱憤が溜まってたのか。パートのおばちゃんがダンナの愚痴言う感じかい。怒涛だな。

「それは、困るねぇ」
「そうなんだよ。急に、ミカの家に行くって言ってさー、俺、びっくりしたもの。それで、ユウに会わせてもらえなかったから、余計に落ち込んで、もう、雰囲気が息苦しいんだよ。俺だってユウに会えなくて寂しいのにさ、でも料理とかやってるのに、アルはぼんやりして、何の役にも立たないんだ。道具の手入れぐらいでさー」
「ベルは頑張ったんだね」
「そうなんだよ、俺、頑張ってたんだよ。アルはぼんやりするだけだからさ。だから洗濯とかできないし、体もあんまり洗えなかったんだよ」
「体洗うのは別の話でしょ」
「同じだよ。ユウがいないのに体洗ったってつまらないもの。でも、俺、アルよりキレイにしてるよ。アルはさ、俺が言っても返事だけで動かないんだ。アルのせいでシーツも汚れるしさ」
「それは嫌だね。キレイなシーツないの?」
「あるよ。アルがキレイにならないと替えたってすぐ汚れるんだから、そのままなんだ」
「えー虫わくよ。草も替えてないんでしょ」
「もう、アルに言ってよ。俺一人でそんなにできないよ」
「じゃあ、ベルを洗ってる間にアルに替えてもらおうよ」
「ホントだよ。少しはアルに動いてもらわないとさ」

ベルの怒涛の愚痴を聞いていたらアルが布を持ってやってきた。布をありがたく受け取り、ニッコリして話す。

「これからベルを洗うからアルはシーツと草を替えてくださいな。ずっと替えてなくて汚れてるって聞いたよ?」
「ああ、わかった」

おとなしく家に戻って、草を運び始めた。

「ふふふっ、働いてくれてありがたいね。さあ、ベル洗おうか」
「うん。ユウも脱ぐでしょ」
「うん。二人のせいで、私も臭くなったんだからね。私を先に洗ってよ」
「いいよ。久しぶりだね、ユウを洗ってあげるの」

二人で服を脱ぎ、洗ってもらう。

「ユウ、なんでこんなに痩せてるの?」
「ご飯たべられなかったんだもん」
「ユウはアホなの?なんで、魔法使いかミカのトコ行かないの?食べ物と寝床の確保が一番でしょ」
「だって、行き辛いし」
「何で?」
「だって、ここが良かった」
「なら、なんで家にこないのさ。俺達待ってたのに」
「えー魔法使いの所に、って言ったのに」
「ユウだって何も言わなかったでしょ。何で熱出すまで外で寝てるのさ。だいたい戻りたかったら戻っていいのに。戻るなって言ってないよ。ユウは、何も言わな過ぎなんだから。俺分かんないし。パンだって家から持っていけば良いのに」
「でも、私のじゃないし」
「関係ないでしょ。食べてくのが一番大事なんだから。なんで、アホなのに余計なことを考えるの」
「そんなんで、いいんだ」
「そうだよ。追い出されるまで居座ったら良いんだよ」

さすが、ベル。生存に特化してますわ。逞しい。いいなあ、この割り切り。
洗うのを交代する。ほんの少し灰汁を混ぜたお湯で洗う。頭全体をわしわし洗って、耳もしっかり洗った。りん酢をしてから布で擦っていく。ベルは前側、私は後ろ側。

「ねえ、ユウ、俺待ってたんだよ、ユウのこと。魔法使いの所から帰って来たらユウが変わってるから、だからアルがビックリして、傷ついたんだよ。何で変わったのさ」
「自分じゃわかんないよ。どんなふうに変わったの?」
「何か、綺麗だったよ。雨上がりみたいで。でも、今は痩せ過ぎだし、綺麗じゃない」
「え、酷過ぎない、言い方」
「だって、柔らかくないし、ゴツゴツする。捨て子みたいで嫌だから、早く太ってよ」
「ベルに捨てられて、捨て子になったんだから、捨て子だよ」
「俺は捨ててないし。アルが落ち着くまで別の家にいたほうがいいって思っただけだもの」
「じゃあ、そう言ってよ。ベルだって何も言わなかったでしょ」

なんか悔しいので仕返しに頭からお湯をかけた。びっくりしたベルが私にかけ返して笑った。二人で掛け合いっこして笑ってたら、アルがやってきた。

「終わったの?アルありがとう。アルも洗うから脱いで」
「ああ」

アルの頭は私が洗い、そのあいだに背中をベルが洗う。

「アル、真っ黒だよ。これ、お湯替えなきゃダメだわ。いつから体あらってないの?そりゃ、ベルが怒るわけだよ」
「そうだよ。俺が言っても、アルってば全然聞いてないんだもん」

ベルがプリプリ怒りながら背中を一生懸命に拭いている。お湯を替える前に下洗いとして全体を洗うことにした。足の指の間もちゃんと洗う。
アルがお湯を替えて戻るまで、またもやベルの愚痴を聞く。

ベルは溜め込んでますな。愚痴聞くの初めてだし。たまにははっきり言えばいいのに。言っても聞いてないのか。ベルはアルに気を遣い過ぎなんだろな。ここ最近のアルが酷過ぎるせいかもしれない。話し相手がいなくて鬱憤溜まってたのか?

アルが戻ってきて三人でアルを洗った。顔も布で優しく擦る。目をつぶって静かにしているアルの顔が疲れて見えて悲しくなった。
全員で最後にかけ流して洗い終わった。布で拭いて水滴を落とす。私は下着だけを着て、二人は家に入ってからキレイな下ばきをはいた。明日は洗濯しようかな。

三人でご飯を食べる。久しぶりで、アルもベルもニコニコしてた。ベルのスープも久しぶり。食後に飲むお茶はアルが入れてくれた。

「ねえ、ユウはミカの家に住むの?」
「うん」
「俺達の家には?」
「泊まりにこれるよ」
「じゃあ、いっぱい泊まりにきてよ」
「それはミカと魔法使いと相談してよ」
「・・・わかった」
「ねえ、ユウ、ベッドに行こうよ。ベッドで話そう」


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