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79.知らなかった Side アル
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Side アル
ユウの見送りは今日で最後だった。
振り返ることは出来ず、足早に逃げた。
ユウを罵りたくて、捨てないでと縋りたくて、傷付けたくて、慰めてほしかった。もう、滅茶苦茶で、ユウと居たら自分がどうなるか分からなかった。
何をしてどこを歩いたか分からない。ベルに言われて、影が伸びていることに気付いた。家を目指して歩き始めると、家にユウがいてくれるのか、ユウがいなくなってしまったのか、どうしたいのか分からず、どうなったのか知りたくて勝手に足が動いた。
息を切らし、勢い込んでドアを開ける。
誰もいない室内に、静かに、開けた音だけが響いた。
ユウがいない。俺達は捨てられた。
俺が出て行ってほしいと望んだ。でも、捨てられた。俺の望みは叶ったのに、酷くみじめで堪らない。
胸が苦しく、こめかみが脈打って頭痛がした。
ユウのカバンが無かった。着替えも。たったそれだけで、空っぽになってしまった。
いつの間にかベルが食事を用意していた。二人で食べる。ただ口を動かして。チーズが一切れパンの上にのっている。俺の好きなチーズの時、ユウがいつも半分くれたことを思い出した。
食べ終わって、道具の手入れをする。ユウが隣に座り、手入れの様子を眺めていたことを思い出す。その時の自分の喜びも。
苦しさと怒りが体中で渦巻き、噴き出しそうだ。辛い悔しい悲しい。ユウを罰したい。怒りをユウにぶつけたい。この苦しみを味わわせたい。自分が分からない。もう、ユウはいない。もう会わない。
二度と?会えない?
息が、苦しい。息を、息をしないと。
体が熱い。頭痛がする。
ベッドで丸まった。胸が痛くて苦しい。チラチラと幻影が瞬き、眠ったのかどうか良く分からないまま朝を迎えた。
俺の中で荒れ狂う嵐は収まらず、俺の外でだけ時間が過ぎた。
ドアを開けるたび、安堵と喪失を味わった。
ある日の帰り、家の外に洗濯ものが干してあるのが見えた。息が出来なくて、頭が痺れて、何も考えられず、走った。
空の家にユウはいない。俺達への贈り物が置いてあった。
俺達は捨てられてない?じゃあ、なぜいない?なぜ贈り物を?別れの贈り物?
ミカがユウに会いに来て、失望して帰った。
口から出た言葉で、自分の考えを知った。ユウは魔法使いを一番愛している。それが辛くてユウを遠ざけた。俺達が一番じゃないから。ユウが俺達にくれたものを信じなかった。
ユウが幸せになったから追い出した?
俺は、俺の手でユウを幸せにしたかった。俺の腕の中にいてほしかった。俺だけを見てほしかった。
そうだ。ユウが俺以外の手で幸せになったから追い出した。許せなかった。今だって許せない。ユウが欲しいのに、欲しいのに許せない。
贈り物じゃ足りない。ユウの腕を、足を、体を、目を、心を、捧げてほしい。俺にすべてを捧げてほしい。
会いたくもない魔法使いが来て、ユウがどこにもいないことを知った。
ユウが森を選んだことを知った。傷付いたことを知った。魔法使いも捨てられたことを知った。俺達も自分も捨てた。ユウは全部捨てた。
俺は少し、満足した。ユウが傷ついたことに。花が萎れたことに。魔法使いも捨てられたことに。裏切りが無かったことに。
二度と会えないならどこにいたって一緒だ。神殿でも女神の御許でも。
でも今はミカの所だ。ユウは森を選んだ。また、会える?
ああ、欲しい。ユウが欲しい。会いたい、会いたい会いたい。捨てたなら俺が欲しい。捨てたなら、俺が全てを欲しい。
許せるような気がした。全部を捨てたユウなら。
ミカの所に行っても会えなかった。ミカは俺達に怒り、会わせてくれなかった。寝顔も見ることはできない。
俺達の隣で眠っていたユウを思い出す。温かくて柔らかく良い匂いがしたことを。あの幸せな時間を。
唐突に思い知る。戻らないのだと。あの幸せは帰らない。俺が壊した。失った。俺が追い出したから。
心臓が大きく脈打ち、頭に血が上って体が震えた。怒りは冷え、空虚に変わる。
夫を降りろと言われたことを思い出した。ユウもそう思ってたら?夫ではいられない?森にいるのに。こんなに近くにいるのに会えない。
夫を選ばず、女神の御許を選んだことを思い出した。今更、冷や汗が噴き出す。本当に二度と会えなかったかもしれない。二度と。冷たい体になって。
俺は何を考えてた?俺のものにならないなら、女神の御許でも構わないと思った。魔法使いのものになるなら壊してしまいたかった。俺の苦しみの分だけ、ユウをいたぶり傷つけたかった。
俺は会わない方が良いのかもしれない。
最後の日の諦めた笑顔を思い出して、胸が痛んだ。
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