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53.事件の経緯と婚約報告

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ベルの態度にアホくさくなったものの、オリヴァを呼び出して二人で会うのもなんとなくうしろめたく、かと言って、反省したすぐあとで二人で会っていいか聞けるほど図太くもなく。
呼び出すとして、そのときに手が離せず、遅れて来たときにアル達と鉢合わせしちゃうとか、最悪過ぎて無理。もう婚約者なんだから浮気というわけではないんだけど、経緯が経緯だけになんかこう、気まずいというか。

自己保身でぐちゃぐちゃ考えてる私とは違い、小指の指輪はキラキラしてオリヴァの泣きそうな瞳を思い出させ、ますます罪悪感が募った。

エーミールにも報告が必要だという理由はもっともなのに、罪悪感のせいか、こじつけにしか思えず今日こそ言おうと思って三日経っていた。
今日の夜こそアルに言おう、と考えながら洗濯していたらオリヴァが現れた。滅茶苦茶ビビった。

「おっ、お、オリヴァ、元気?」
「・・・・・なぜ?呼ばない?」
「え、あ、今日の夜に呼ぼうかな~と思ってて。まだ、三日だし」
「・・・もう、三日だ」
「あ、はい。すみません」

迫力に押されて謝ってしまった。なんだよ、そんな可愛い顔して。可愛い。もう、可愛い。反則じゃないですか。ホントすみません。

「ヘルブラオが、事件のことで話があると」
「あーじゃあ、夜に皆の前で話してもらおうかな。みんなも心配してるから。夜にまた来てください」
「・・・わかった」
「オリヴァ、こっち」

腕を伸ばすと、そろそろと近付いてくる。オリヴァをそっと抱きしめると、きつく抱きしめ返された。

「・・・本当に、本当に、いた」
「本当。オリヴァ、夢みたい」

本当に、この人と抱き合ってるんだ。本当に、本当に。

「オリヴァ、また夜にね」
「ああ。また夜に」

オリヴァの手が私の頬をサワリと撫でそのまま消えた。
現実感が薄い。本当にあの人が私に求婚して、抱きしめたりしたの?マジで?夢じゃない?私の頭がおかしくなった可能性のほうが高い気がする。幻覚じゃない?心臓痛くて吐きそう。

お昼に来たミカちゃんに、エーミールから事件の報告があるから夜も来てもらうように、そのときにオリヴァのことも話すと伝えた。

「ユウに傷を付けた人、ちゃんと罰を受けたかな?」
「ねー受けてると良いね」
「・・・他人事みたいだね」
「あー、なんか時間が経ったし、やり返したから、そんなに引き摺ってないみたい。やり返すって大事だね」
「・・そうなんだ。ユウ、怖かったら、俺が一緒にいるから」
「うん。ありがとう」

アルとベルが帰って来たので、ミカちゃんと同じ内容を伝える。二人共、複雑な顔だ。

「ユウ、大丈夫か?」
「うん、平気みたい」

事件のことで心配されてるけど、オリヴァで頭がいっぱいでどうでも良かった。オリヴァのことしか考えてないし、オリヴァを思い出して身悶えしてる。オリヴァの顔と声を反芻し続けて、他のことはよく覚えてない。そんなことは口に出せるはずがないので、事件のことで態度がおかしいと思われてそう。すまん。マジすまん。もはや、記憶の彼方レベルですわ。私の頭容量は少ないので、オリヴァのことだけで零れ落ちそうなのよ。

食後にミカちゃんが来たので四人でお茶を飲んで待つ。なんか緊張感が漂うな~と思っていたら、エーミールとオリヴァがやってきた。

「今晩は」
「ユウナギ、傷の具合はどうだ?」
「アルが薬を作ってくれるから、もう大分良いよ」
「そうか、すまなかったな」

ミカちゃんが席をエーミールに譲った。そしてエーミールの説明が始まる。
あの女は魔法封じされて監禁中。あの女の行動に夫達が協力してるが、筆頭評議会やら十人委員会やらの神殿トップに夫がいるので、なかなか追い詰めるのが難しいらしい。これまでの罪状を上げるのも夫達が庇うので難航してるそうだ。

「夫のひとりに前の筆頭がいるんだ。大きい派閥でな、調査も妨害されている」
「ふーん、そりゃ大変だ。被害者は名乗り出ないの?」
「証拠を残してないから難しい」
「魔法封じされて、もう使えないなら良いんじゃない。あとは被害者の洗い出しと、再発防止策を作ってさ」
「ああ。魔法封じは死ぬまでだ」
「それなら良いね。私からも話がある」
「なんだ?」

片眉を上げるエーミール。余裕の表情は崩れない。驚くかな?

「五人目の婚約者が内定しました。グラウ様です。じゃじゃん」

グラウ様へ掌を向ける。エーミールは目を見開いたあと、手を額に当てて盛大なため息をついた。

「私は求婚について聞いてないんだが?」
「三日程前に求婚を受けまして、ただ今、報告しております。はい」
「俺達は全員、認めると決めた」
「・・・グラウ、お前。・・はぁ、ユウナギを任せたのは失敗だった」
「エーミールにも是非、賛成してもらいたいのです。はい」
「私が反対したとして、ユウナギはどうするんだ?もう決めているんだろう?」
「決めてるけど、エーミールを説得できるように頑張るよ」
「・・・後ろ盾になりそうなのを探していたんだがなぁ。グラウお前、もっと人付き合いをしろ。そうしないと、ユウナギにどんどん夫が増えることになるぞ」
「うげっ勘弁して下さい」
「・・・・・努力する」
「求婚を受けたんだ、婚姻はいつを考えているんだ?」
「そこまで考えてなかった。こういうのってどれくらい期間置くの?」
「すぐにでも・・・・・・すぐにでもしたい」

オリヴァの訴えに私達はみんなで顔を見合わせた。
エーミールは会ったその日だったし、アル達は街に行く予定があったから、その日に合わせた。なんだろう、婚約期間て何?デートとかして親密さを増し増しすんの?デート・・・イイネ!めっちゃ良い。あ、オリヴァはすぐしたいのか。何それ、キュン死。殺傷力高ぁ。

「えーと、すぐすると何か問題とかあるの?」
「そんなにすぐ婚姻して良いのか?あとから嫌になることだってあるぞ」
「エーミールさんの口からそんなこと聞くとは」
「私は良いんだ」
「うわお。流石ですわ。アルはどう思う?」
「ユウの好きにして良い。ユウに賛成する。溺れたところを助けてもらったしな」
「なんだ?ユウナギは溺れたのか?何でそこにグラウがいるんだ?」
「そういえば、何で?」」
「・・・・・・一目見たくて、会いに」

オリヴァは目を逸らし、俯いて答えた。
えっ、ちょっと、可愛い。可愛い無罪。ストーカーかよ、とか言わない。会いに、って言ってるけどただの覗きだよね、とか言わない。どうしよう、顔が好み過ぎると全部可愛く見えてしまう。

「・・・グラウ、いつもそんなことを?」
「していない・・・・・二度目だ」

お、二回目かーじゃあ無罪。可愛いから許す。もう困ったちゃんだなぁ、ウフフ。

「もうしないよね?」
「・・しない」

なんだよ、その間はよ。真面目に考えたら、やべえわ。いつでも覗き放題じゃん。お外でのあれやこれやが見られてたら落ち着かないですわよ。

「今度したら二人で会う機会を減らします」
「!!っしない」
「よし」

約束を取り付けて一人頷く。
守ってくれよな。オラと約束だぞ!まあ、婚姻はさ、急がなくても良いんじゃない?ぶっちゃけデートしたいだけなんだけど。

「婚姻は、傷が治ったあとでいいかな?」
「・・・なぜ?」
「いや、ほら、やっぱり、傷は無いほうが」
「・・なぜ?」
「えー・・と・・」
「グラウ、焦り過ぎだ。婚姻するんだろう?妻の希望を聞くのも夫の役目だ」
「・・・わかった」

あ、ありがとう、エーミールさん!なんなの、この押しの強さは。エーミールさんがまともに見える。いや、一番常識人か。いや、常識人ではなくて、常識的に振舞える人。何このラインナップ。
オリヴァさん、マジ押し強い。必死さが可愛い。俺を殺す気か。

「じゃあ、まあ、今日の報告会はこの辺で良いかな?」
「まあ、この辺だろう。私はまだ五日間過ごしていない。今日はユウナギを連れて行って良いか?」

アルの手を握って、行って良いか聞く。エーミールには報告が遅かったから。ちゃんとエーミールとも話した方が良いと思うから。
アルが私を抱きしめキスをして、頷く。

「じゃあ、エーミールのところに泊って来るね。行ってきます」

エーミールを送ったあと、戻ったオリヴァはアルに手を振る私を抱きすくめて、大きく息を吐くとエーミールの部屋へ飛び、悲しそうな顔で私の頬を撫でてから自分の部屋へ帰って行った。

消えたオリヴァの顔を見た途端、取り返しのつかない失敗をしたような気がした。足元がぐらついて、ぼんやりする。私は、私はオリヴァの気持ちを踏みにじった?ただの軽い気持ちで。


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