上 下
52 / 139

51.求婚の受け入れ

しおりを挟む


朝、怠い体を起こした。

体を流してからミカちゃんは水汲みに行った。私は竈に薪を足し、シーツと寝藁の一部を取り換えて洗濯をする。いつだってやることは色々あるのだ。
あー眠いし怠い。アラサーに頻回交尾はきつ過ぎる。

水汲みが終わるとミカちゃんは、夕方また来ると言って自分の家に帰った。

家事を終え、ミカちゃんが来るまで外に座って待つことにした。外は風が吹いて気持ち良い。
魔法使いの指輪を眺める。つやつやしたグレーの石は瞳の色だろうか?求婚か。もう受けたことになってんだよね。私は嬉しいかな?・・・嬉しいな。いや、だって顔が好みだし、あの仏頂面がまたイイ感じで。

あーダメだ。日本なら完全に身の破滅路線。いや、日本にいたら誰とも結婚してないな。双子は普通だし、会ってもベルが絶対邪魔してくるだろうし、ミカちゃんはみんなに好かれて私は近づけない。魔法はないからエーミールは登場しない。グラウ様は、グラウ様はどうかな。好み過ぎて裸足で逃げ出すかも、私。
まあ、ここは異世界。異世界基準でいけば、五人の夫が必要で、その五人目だってことだ。

あの、ご尊顔を拝めるってことか。無理。直視できる気がしない。ううおおおぐ。滾ってきたぞ。落ち着け私。
そういや、昨日はなんでいたんだろう。丁度いいところに丁度いいタイミングで。

指輪の美しいグレーがグラウ様の目を思い出させて、なんとなく、魔法使い、と呟き石に唇を落とした。
空気が動いた気配がして目を開けると、目の前にグラウ様が立っていた。

「・・・・・なんで突然現れるんですか」
「・・・呼んだだろう」
「呼んでいません」
「『魔法使い』と言っただろう。聞こえたから来た」
「・・・・・そうですか。すみません、急に呼び出してしまったようで」
「いや、いい。婚約者の呼び出しには応えるつもりだ」
「!!!こ、婚約者!?」
「求婚の指輪を受けたのだから婚約者だ」

はやっ、認識早っ。いや、でもなんでか。なんでいきなり求婚しちゃうわけ?私みたくさ、超絶好みってわけでもないだろうし。唯一、ってやっぱそういうことですかね。

「・・・求婚の理由を聞きたいのですが」
「・・・・ヘルブラオに話すように話してほしい」

やられた。眉間に皺寄せたまま、少し俯いてお願いするとか、破壊力あり過ぎる。何これ、死。
平静を保てず、布で顔を覆った。

「どうした?」
「・・・いえ、なんでも、な、なんでもない」
「・・・・やっぱり、怖い、か?」
「怖くない、怖くない!むしろ逆!可愛すぎて困ってる!」
「・・可愛い?」
「可愛い!可愛い!可愛すぎて直視できない!」

もう、もう、もう、頭に血が逆流よ!顔見せムリ!だって!婚約者だって言うし!可愛くお願いされるし!
 
「・・求婚理由は、・・・・・触れたい」

小さな小さな声がこぼれた。

誰にも触れない、誰からも触ってもらえない。
昨日、ミカちゃんに抱かれたことを思い出す。ぬくもりと柔らかさと安心と、全部だ。全部が無い。
胸が痛む。同情でも何でもいい。触れたい、と思ってるならいくらでも触れば良い。私ならいくらでも差し出そうと思った。
布から顔を出して、グラウ様の手を掴む。手袋を外して両手を繋ぐ。見上げると泣きそうな顔をしている。頬に手をそっと添えると、手を掴まれ頬ずりされた。
グラウ様の震える手が私の頬へ伸ばされ、そっと指先で触れ、そっと撫でる。グラウ様の唇が薄く開いてゆっくり瞬きしたあと、声は出ず、吐息が漏れた。

「グラウ様、婚姻してください。私と。どうか、お願いします」
「・・・・・する」

掠れた声がグラウ様の震える唇から漏れた。
どうか、私を泣かせないでほしい。そんな風に触れると悲しくて泣いてしまう。あなたのことは何も知らないけど触りたいし、触っていい、好きなだけ。

「・・抱きしめても?」

頷くと、きつく、きつく抱きしめられた。腕を背中にまわして抱きしめ返す。グラウ様の体は薄くて骨ばってて、冬は寒そうだと思った。そんなとこも、なんだか悲しくて、目と鼻が、じんとした。

こうしていたいけど、やることはやってくる。

「グラウ様、これからミカちゃんがくるから、婚姻するって報告するね。他の夫にも言うでしょ?エーミールには話した?」
「・・・まだだ」
「じゃあ、夫会議に呼ぼうか。指輪に話しかければグラウ様に伝わるの?」
「今日のように話しかければ届く。・・・・オリヴァだ。オリヴァと呼んで欲しい」
「・・オリヴァ、オリヴァ。うん。今日は来てくれてありがとう」
「また、呼んでほしい。用がなくても」

抱きしめた腕を離すと、手を握って儚げに呟く。なんか切ない。

「時間ある?一緒にここで待とうか」
「・・・わかった」

並んでミカちゃんちのほうを見ると、ちょうどいいタイミングでミカちゃんが現れた。大きく手を振るとこっちに気付いて走り出す。気を付けてミカちゃん。

「・・・ゼェ・・ッハァ・・・どう、したの?」
「ミカちゃん、はいお水。婚姻するよ」
「っぐぅ・・やっぱり」
「・・求婚は受け入れてもらった。よろしく頼む」
「ああ、わかった」
「じゃあね、オリヴァ。わざわざありがとう。また紹介するときに呼ぶね」
「・・・わかった。待ってる」

そう言ってオリヴァは消え、ジト目のミカちゃんがこちらを見る。

「・・・なんで、魔法使いがいたの?」
「なんか、魔法使いの指輪に話しかけたらいきなりきた。指輪に話しかけると呼ばれたってわかるんだって」
「それで、きたの?一人のときに。夫と一緒じゃないと会っちゃダメなんだよ」
「えっ、ミカちゃん普通に遊びにきてたでしょ?」
「うっ・・だって、まだ正式な婚姻前だったし・・・ユウが分かってないのって俺のせい・・」
「まあ、それはいいとして。順番に言うと、いきなり現れたわけを聞くでしょ、そして婚姻することに決めたでしょ、だからミカちゃんに紹介しようと思って待ってた。そんなに待たなかったよ」
「うーん、何かが飛んでる気がする。・・そういえば、なんで求婚したの?」
「私しか触れる人がいないからだよ」
「・・・そっか。・・ユウは寂しい奴を放っておけないんだね」
「うーん、そうなのかもしれない。助けを求められてるみたいで」
「俺もアルもそうだもんね」
「そうだね、ベル以外」
「うん、ベル以外。ふふっ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...