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51.求婚の受け入れ

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朝、怠い体を起こした。

体を流してからミカちゃんは水汲みに行った。私は竈に薪を足し、シーツと寝藁の一部を取り換えて洗濯をする。いつだってやることは色々あるのだ。
あー眠いし怠い。アラサーに頻回交尾はきつ過ぎる。

水汲みが終わるとミカちゃんは、夕方また来ると言って自分の家に帰った。

家事を終え、ミカちゃんが来るまで外に座って待つことにした。外は風が吹いて気持ち良い。
魔法使いの指輪を眺める。つやつやしたグレーの石は瞳の色だろうか?求婚か。もう受けたことになってんだよね。私は嬉しいかな?・・・嬉しいな。いや、だって顔が好みだし、あの仏頂面がまたイイ感じで。

あーダメだ。日本なら完全に身の破滅路線。いや、日本にいたら誰とも結婚してないな。双子は普通だし、会ってもベルが絶対邪魔してくるだろうし、ミカちゃんはみんなに好かれて私は近づけない。魔法はないからエーミールは登場しない。グラウ様は、グラウ様はどうかな。好み過ぎて裸足で逃げ出すかも、私。
まあ、ここは異世界。異世界基準でいけば、五人の夫が必要で、その五人目だってことだ。

あの、ご尊顔を拝めるってことか。無理。直視できる気がしない。ううおおおぐ。滾ってきたぞ。落ち着け私。
そういや、昨日はなんでいたんだろう。丁度いいところに丁度いいタイミングで。

指輪の美しいグレーがグラウ様の目を思い出させて、なんとなく、魔法使い、と呟き石に唇を落とした。
空気が動いた気配がして目を開けると、目の前にグラウ様が立っていた。

「・・・・・なんで突然現れるんですか」
「・・・呼んだだろう」
「呼んでいません」
「『魔法使い』と言っただろう。聞こえたから来た」
「・・・・・そうですか。すみません、急に呼び出してしまったようで」
「いや、いい。婚約者の呼び出しには応えるつもりだ」
「!!!こ、婚約者!?」
「求婚の指輪を受けたのだから婚約者だ」

はやっ、認識早っ。いや、でもなんでか。なんでいきなり求婚しちゃうわけ?私みたくさ、超絶好みってわけでもないだろうし。唯一、ってやっぱそういうことですかね。

「・・・求婚の理由を聞きたいのですが」
「・・・・ヘルブラオに話すように話してほしい」

やられた。眉間に皺寄せたまま、少し俯いてお願いするとか、破壊力あり過ぎる。何これ、死。
平静を保てず、布で顔を覆った。

「どうした?」
「・・・いえ、なんでも、な、なんでもない」
「・・・・やっぱり、怖い、か?」
「怖くない、怖くない!むしろ逆!可愛すぎて困ってる!」
「・・可愛い?」
「可愛い!可愛い!可愛すぎて直視できない!」

もう、もう、もう、頭に血が逆流よ!顔見せムリ!だって!婚約者だって言うし!可愛くお願いされるし!
 
「・・求婚理由は、・・・・・触れたい」

小さな小さな声がこぼれた。

誰にも触れない、誰からも触ってもらえない。
昨日、ミカちゃんに抱かれたことを思い出す。ぬくもりと柔らかさと安心と、全部だ。全部が無い。
胸が痛む。同情でも何でもいい。触れたい、と思ってるならいくらでも触れば良い。私ならいくらでも差し出そうと思った。
布から顔を出して、グラウ様の手を掴む。手袋を外して両手を繋ぐ。見上げると泣きそうな顔をしている。頬に手をそっと添えると、手を掴まれ頬ずりされた。
グラウ様の震える手が私の頬へ伸ばされ、そっと指先で触れ、そっと撫でる。グラウ様の唇が薄く開いてゆっくり瞬きしたあと、声は出ず、吐息が漏れた。

「グラウ様、婚姻してください。私と。どうか、お願いします」
「・・・・・する」

掠れた声がグラウ様の震える唇から漏れた。
どうか、私を泣かせないでほしい。そんな風に触れると悲しくて泣いてしまう。あなたのことは何も知らないけど触りたいし、触っていい、好きなだけ。

「・・抱きしめても?」

頷くと、きつく、きつく抱きしめられた。腕を背中にまわして抱きしめ返す。グラウ様の体は薄くて骨ばってて、冬は寒そうだと思った。そんなとこも、なんだか悲しくて、目と鼻が、じんとした。

こうしていたいけど、やることはやってくる。

「グラウ様、これからミカちゃんがくるから、婚姻するって報告するね。他の夫にも言うでしょ?エーミールには話した?」
「・・・まだだ」
「じゃあ、夫会議に呼ぼうか。指輪に話しかければグラウ様に伝わるの?」
「今日のように話しかければ届く。・・・・オリヴァだ。オリヴァと呼んで欲しい」
「・・オリヴァ、オリヴァ。うん。今日は来てくれてありがとう」
「また、呼んでほしい。用がなくても」

抱きしめた腕を離すと、手を握って儚げに呟く。なんか切ない。

「時間ある?一緒にここで待とうか」
「・・・わかった」

並んでミカちゃんちのほうを見ると、ちょうどいいタイミングでミカちゃんが現れた。大きく手を振るとこっちに気付いて走り出す。気を付けてミカちゃん。

「・・・ゼェ・・ッハァ・・・どう、したの?」
「ミカちゃん、はいお水。婚姻するよ」
「っぐぅ・・やっぱり」
「・・求婚は受け入れてもらった。よろしく頼む」
「ああ、わかった」
「じゃあね、オリヴァ。わざわざありがとう。また紹介するときに呼ぶね」
「・・・わかった。待ってる」

そう言ってオリヴァは消え、ジト目のミカちゃんがこちらを見る。

「・・・なんで、魔法使いがいたの?」
「なんか、魔法使いの指輪に話しかけたらいきなりきた。指輪に話しかけると呼ばれたってわかるんだって」
「それで、きたの?一人のときに。夫と一緒じゃないと会っちゃダメなんだよ」
「えっ、ミカちゃん普通に遊びにきてたでしょ?」
「うっ・・だって、まだ正式な婚姻前だったし・・・ユウが分かってないのって俺のせい・・」
「まあ、それはいいとして。順番に言うと、いきなり現れたわけを聞くでしょ、そして婚姻することに決めたでしょ、だからミカちゃんに紹介しようと思って待ってた。そんなに待たなかったよ」
「うーん、何かが飛んでる気がする。・・そういえば、なんで求婚したの?」
「私しか触れる人がいないからだよ」
「・・・そっか。・・ユウは寂しい奴を放っておけないんだね」
「うーん、そうなのかもしれない。助けを求められてるみたいで」
「俺もアルもそうだもんね」
「そうだね、ベル以外」
「うん、ベル以外。ふふっ」


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