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40.再訪

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次の日、昼ご飯をミカちゃんと食べて見送ってから、ベルに習ったスープを作る。出来上がりを見計らったようにグラウ様が迎えに来た。
左手を握られ、飛ぶ。

「ユウナギ、よく来た」
「今晩は、エーミール」

エーミールが腕を広げて私を迎え入れ、抱きしめると、グラウ様はすぐに消えた。

「明日、王都の仕立て屋を呼ぶぞ。婚約者候補には私の妻として紹介するから、相応しい服が必要なんだ」
「・・・形も色も、何が相応しいのか全然わからないんだけど」
「私が選ぶから大丈夫だ。クリームや香油も買うから、普段から手入れしておいてくれ。筆頭の妻だからな、侮られるのは避けたい」
「そうだねぇ。外で洗濯してるし、荒れてる。ありがたく買って貰って手入れするわ。そういえば、この間は魚を出してくれたけど、海は近いの?」
「海ならベルディント領だ。ユウナギが住んでいる領は海に面しているだろう?」
「そうなんだ。海藻売ってるかな?売ってるといいなあ」
「海藻で何するんだ?肥満でもあるまい」
「煮込んで色々使えるよ」

あ、また質問モードに!まてまてまて、一先ず話し合おう。

「優しい夫のエーミールさんにお願いがあるんですが」
「内容によるな」
「優しい夫のエーミールさん、今日は性交なしでお願いします。体が痛いので」
「5日もあるんだ、今日は無くても良いぞ。毎日欲しがるほど若くもない」
「さすが、大人の余裕、エーミールさん素敵」
「棒読みで言うな。森の夫達にやられたのか?」
「いきなり『明日から5日間』、と言って煽ったのはエーミールさんです。余波にやられました」
「若いな。私の所為なら仕方がない。明日を楽しみにしよう」
「ありがとう。今日は何する?したいことなかったら、お話しして欲しい。この国の神話とか昔話とか知ってる?」
「私は神殿の子供なのだから、神話なんぞお手の物だ。昔話は吟遊詩人の話ならいくつか覚えている。話そうか?」
「お願い」

エーミールはワインを飲みながら、おもしろく話してくれた。話し声も、私に回された手も優しく、怖いことを少しだけ忘れた。

次の日、仕立て屋がやって来た。採寸して布を広げる。
面倒だな。こんなもの私には何の関係もない。実験台は実験台として扱えばいいのに。いや、ペットに可愛い服を着せるようなもんか。誰かに見られるかもしれないから、必要最低限の上っ面を調達するんだ。

「何か希望はあるか?」
「何もない。好きにして」
「わかった」

エーミールは手早く決めていく。即断即決の男、エーミール。判断力あるんだなぁ、ハイスぺ男エーミール、廃スぺ女、私。
ぼんやりしていたら仕立て屋は帰るとこだ。立ち上がってお礼を言っておく。

「どうもありがとう、エーミール。もう送ってもらっていい?」
「ああ。グラウを呼ぶ」

エーミールが机の横にぶら下がっている紐を引っ張るとドアがノックされた。エーミールがグラウ様を呼ぶように言うと、ドアの向こうから返事が聞こえ立ち去った。

「すごいね、呼び紐なんだ。待機してるの?」
「そうだ。・・・ユウナギは着る物に興味はないのか?着飾ったりすることに」
「あるよ。でも実用的じゃない。エーミールの為の服だし、格式が大事なんでしょ?わからない人間は口を噤んでいた方が良いと思って」
「実用的な服ならいいのか?」
「森で着る服は森で調達する。エーミールの着て欲しい服があれば、準備してくれたら、この部屋に来た時に着替えるよ」
「・・・そうだな、準備する。ユウナギ」

エーミールは手を取って引き寄せ私を抱きしめた。

「体が固い。私が怖いのか?」
「うん。まだ慣れてないのもある」
「そうか。そうだな」

ドアがノックされ、グラウ様の声が聞こえるとエーミールが入室を許可した。私はグラウ様の側に行き、エーミールを振り返る。 

「いってきます」
「ああ。夜にまた迎えに行く」

返事をする前にグラウ様に手を取られ森に着いた。お礼を言うと、頷いて何秒か後に消えた。
珍しい。いっつもすぐ消えるのに。
クッ、グラウ様、思わせぶりっ!思わせぶりに受け取っちゃう私、キモー。くそっ。

エーミール、少し寂しそうだった気がする。せっかく仕立て屋呼んでくれたのに悪いことしたかな?イヤイヤ、エーミールの為の服だしね。格式なんて知るわけないし。
こう、なんで罪悪感を感じちゃうかな。こんなん、すぐ流されて最悪でしょ。あの人、実験台にする気だし。でも、実験台にすることと、好意に対しての態度は別、別なのか?いや、好意、では、あるのか。よくわからん。でも、好意に応えなければならない、という刷り込みが私を流して追い詰める原因だろ。道徳か、道徳教育のせいなのか?傍若無人に振舞って、当然だし!みたいな開き直りできる性格になりたい!!切実に!そんな奴の近くにいるのは御免だけどな!あ、エーミールだった。気遣いの出来る、考え方が傍若無人のハイスぺ、エーミール。結構、最強。

「ユウ!おかえり!」
「ただいま」

外で、ぼんやりしていたらミカちゃんが来たので抱きつく。
億千万の笑顔よ。素晴らしき。

「ユウ、一緒にお昼食べよう」
「食べよう食べよう!でも、触っちゃダメだから」
「・・・我慢する。・・・・・口は?」
「口だけね」

嬉しそうにミカちゃんは笑って、頷いた。天使かな。地上に降りちゃったんかな。名前、天使だったわ。もう、天使にほぼ確定。
和やかに食事をする。

「あ、明日からお昼に間に合わないかもしれないから、ここに来ないようにね」
「えっなんで?」
「服作るってんで、今日仕立て屋呼んだんだよ。で、今帰って来たばっかりなの。他にも何か買う予定らしいから、明日から遅くなるかもしれないんだ」
「なんで、そんなに?贈り物?」
「ほら、五人目探すって言う話でさ、夫候補に筆頭魔法使いの妻として紹介するのに、それらしい服が必要だからだって」
「そっかぁ・・・五人目、仕方ないよね。・・ユウ、帰って来てね。俺、待ってるから」
「家はこっちだからね、帰ってくるよ」
「俺もユウに贈り物したい。何が良いかな?」
「んー、木で小物作れるなら、ミカちゃん用のスプーン作ってよ。あと、フォーク」
「それじゃ、贈り物じゃないよ。俺用だよ。ふぉーくって何?」

地面に絵を描いて説明する。ついでにお箸も。ビバお箸!太さとサイズも説明してお願いした。また五日後を約束して見送る。

色々していたら、いつの間にかグラウ様が迎えに来た。

「手を」

初めて言われた。俯いたまま、いつも握られている左手を出すと握られて、何秒か後に飛んだ。


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