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73.悪くない Side ハンス
しおりを挟むSide ハンス
マルクが寂しいとねだって、ミリはマルクを受け入れた。
元々、俺達が紹介したんだから仕方がないけど、マルクに抱かれて声を零すミリを見るのは胸が焼けるようだった。
マルクの言葉に恥ずかしそうに笑うミリは、可愛らしかった。俺はミリにあんなに優しく囁いたことない。あんなに甘い言葉も言ったことはない。
彼女にもそうだった。
あんなに甘く優しい言葉を囁いていたら、呪い付きになっても側にいてくれただろうか?
俺だって、気持ち良くなってくれたら嬉しいと思ってる。一緒にいるだけで楽しいことも、顔を見るだけで嬉しいことも。
言わないと分からないよな。
俺は彼女に何を伝えてたんだろう。好きだとか可愛いとか、一緒にいたいも言ったと思う。でも足りなかったのかもしれない。
結婚することが愛情の証明だと思ってたけど、彼女に伝わっていたのかどうか……。今になって、全然自信がなくなった。
マルクが布団をかぶって隠れ、楽しそうに2人で笑ってる。
俺はミリをこんなふうに楽しませたことがない。いつも余裕がなくて、自分のことだけで精一杯だ。
グルグルと考え事をしてたら、マルクが布団から出てきた。ミリは布団の中で丸まったまま。
「ミリは恥ずかしいから後から一人で浴室に来るって」
そう言われ、服を持って一緒に部屋を出た。下に降りるとマルクがイーヴォにいきなり突っかかった。
ミリに優しくしていないと、ミリに甘えてばっかりだと。
言われてるのはイーヴォだけど、それは俺でもある。イーヴォは言い返せないし、俺も言い返せない。
マルクは言うだけ言うと、スッキリしたのか浴室に入った。俺も一緒に入って体を洗った。
マルクだけが正しいわけじゃないのに敗北感を味わう。
俺達が上がる頃、ミリが降りてきて帰りの口付けをしてくれた。
玄関でもマルクは甘く囁いて、ミリは照れ笑いをする。俺にも優しい口付けと微笑みをくれた。
俺も甘い囁きを、と思ったけど恥ずかしくて言える気がしない。マルクは照れもしないで、よくあんな甘い言葉を口にできるな。
俺にできることって何だろう。
歩きながらマルクが能天気に、結婚したらどうするこうすると話してるのをぼんやりと聞き流した。
ダニエルも求婚したんだっけ。なんで結婚とか言い出したんだろ。
寮に帰っても、気分が落ち着かずダニエルに聞いてみた。
「どうして求婚したんだ?」
「一人でいるの寂しいし、ミリとずっと一緒にいたいからだよ。なに、お前も求婚すんの?」
「……いや、俺はまだ結婚とかはいいかな」
「前の子のこと、忘れられないのか?」
「……そうだな。結婚準備もしてたのにあっさり振られたから、あんまり踏み込めないんだよな」
「まあなあ、そうかもな。そこまでの関係じゃない俺でも、結構堪えたからな。あっさり過ぎて」
ダニエルもそうだったのかと、なんかホッとした。飄々として見えてたけど、分かんないもんだな。考えないように押し込めてきたし、こんなふうに話すこともできなかったから。
俺も彼女のときは、ずっと一緒にいたい、ってそれだけの気持ちだった気がする。そういう簡単な感じで良いんだと思う。けど、なんだろう、俺はなんでモヤモヤしてるんだろう。
「マルクがさ、イーヴォに怒ったんだよ。ミリに優しくしてない、自分だけ甘えてるってさ」
「……そりゃ、俺達全員に当てはまるな」
「そうなんだよな。あらためて言われると、ちょっとさ」
「でもまあ、これから変われば良いだろ。俺達って余裕なかったんだしさ。俺なんかもっと酷いし、マルクだって八つ当たりしたんだぜ?」
「……そういえばそうだな」
「解呪師がくるかもわかんないし、しばらく付き合い続けるんだからそんな気負うなよ。これから考えてきゃいいさ」
関係性は変わるか。そうだな。また出掛けたいし、色んなことを少しずつしていけばいい。今度はマルク抜きで。
解呪師の話、隊長から聞いたな。
「解呪師がくるかもしれないって隊長が言ってた」
「政略結婚前の息子が呪い付きになったんだから、伯も動くよな。俺達なんざと違うってことか」
「俺達のためには動かないって分かるの、結構キツイよな」
「伯と団長って仲悪いらしいし、団長の兵隊に動かす指はないんだろ。期待するだけ無駄無駄」
「なんで仲悪いんだろうな」
「伯がやばいことしてるって噂あるだろ? 団長はそういうの許さないから、首すげ替えようとして揉めてるって話聞いた」
「やばいことしてるの噂じゃなくて本当らしいな」
「だから解呪師ご一行を王都から呼ぶの拒んでるんだと。王都から人入れて、痛い腹を探られたくないから」
「……あー、なんだろう。俺達ってなんなんだろうな」
「使い捨ての平民だよ。しがない平民は、平民のささやかな幸せを味わおうぜ」
「どんな?」
「俺とトビアスでミリを抱いたんだけどさ、良かったぞ。好きな女が他の男に抱かれてんのを、見せられるって興奮するのな」
「…………いや、俺はあんまり、そういうのは」
「なんだよ、じゃあ、お前が興奮するのってどんなの?」
「……あー、外でとか」
「それか。たまに見るよな、外でやってるの。お前が外でやってるとこ覗いて良い?」
「やめろよ、絶対」
「冗談だろ、半分」
ダニエルと飲みながら、ダラダラとくだらない話をして笑う。落ち込んでた気分も持ち直した。
浮いたり沈んだり浮いたり、こうして繰り返してくんだろうな。それも悪くないと、久しぶりに思えた夜だった。
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