執着

流風

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ホテルにて

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 目を覚ますと、知らない天井。横を見ると知らない女の顔。

 人間、驚きすぎると声も出ず、身体も動かないんだな。
 固まったまま、隣の女を見つめていると、

「・・・ん・・・」

 女が身動いだ。それがスイッチだったように、俺の体が跳ね起きた。

「うわぁ!!」

 なんだ?なんだ?この状況。
 よく見ると、昨日、翔の彼女が連れてた女だった。たしか、遥香だっけ?

 俺の声で目を覚ました女が起き上がる。下着は身につけているようだ。
 慌てて自分の体も見ると、パンツだけは辛うじて穿いていた。

「あの、あの、俺、やりましたか?ごめんなさい。記憶がないんです」

 アワアワする俺を見て、薄っすら笑みを浮かべる。返事がない。なんでだよ!何か言ってくれよ!
 そんな時、頭の中に鈴音の顔が浮かんできた。そうだよな。これ、浮気だよな。

「あの、すみません。俺、彼女がいるんです。こんな状況で言うのはどうかとは思いますが、俺は彼女と別れる気はありません。あなたは、付き合っている人はいないんですか?」

「・・・いるわよ」

 いるのかよ!なら、申し訳ないが、今回限りの関係にさせてもらおう。

「いるけど、取られちゃったの。私と同じ職場の子にね。私と同期の子なんだけど、この子、知ってる?」

 そう言いながら見せてきたスマホに写っていたのは、鈴音と男がキスしている写真だった。

「・・・あ・・・・・・」

 言葉が出ない。

「あ、これじゃ、わかりづらいかな?この写真とか、この写真の方がわかりやすい?」

 鈴音が男と腕を組んで楽しそうに歩いている写真や、ホテルに入る写真など、見たくないものをたくさん見せられた。

「この子、私に職場で色々嫌がらせしてきてたんだけど、ついに彼氏まで奪っていったの。だから、私も奪ってやればいいのかな?って思ったんだ。ねぇ、一ヶ月くらい前に、橋の下で日記拾って読んだでしょ?あれ、私のよ。あなたの彼女の事を書いてたのよ。面白かった?」

 くつくつと笑っていたかと思ったら、ふと真顔になり、俺の頬に手を添えながら、

「お互い捨てられたのよ。だから、一緒に復讐しましょう。私の物になりなさい」

 その顔を見て、言葉を聞いた瞬間に、俺は「無理です!ごめんなさい!」と叫びながら服を片手に、ホテルの部屋を飛び出した。
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