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魔王と魔法少女 はじめての出会いのアレコレ
しおりを挟む大和は2年前に両親が他界し、兄妹2人で生活していた。
2人が住む街の近くに隕石が落ちた日、兄妹の前に一匹の妖精が現れた。その妖精は、未来を救って欲しいという願いと、未来でハンマー・ハンマーに勇敢に立ち向かった者の先祖である俺達兄妹にしか使えない『魔法少女に変身するブレスレット』を残し、消えていった。
「お願い、お兄ちゃん!!」
妹が、大和の前でぱんっと手を合わせる。
「私、こんな恥ずかしい物使えないから、お兄ちゃんに魔法少女は任せるわ!」
「そりゃ、お前に危ない事はさせられないから、本当に敵が来たら俺が戦う。だが、万が一のためにこれはお前が持ってろ。防御力向上と、ステッキから魔法が出るんだろ?俺はそんな道具なんてなくてもこの拳で戦えるからな」
(そもそも『魔法少女』だぞ。少女だ。俺には無理だろ)
「ん~…でも、お兄ちゃん持ってて。私、戦わないし」
「そうか?そうだな。俺もお前に戦わせる気はないし、こんな怪しい物を持たせておくのも怖いな」
そう言って魔法少女変身ブレスレットは大和のポケットへと収まった。
そんなある日、大和達と同年代の者達が行方不明になる事件が多発した。これはひょっとして、妖精が言ってたハンマー・ハンマーの刺客の仕業か?大和はそう考え始めた。
そんな日、妹が消えた。
机の上には一通の手紙が置かれていた。
『ごめんね、お兄ちゃん。私、東京で生活するわ。華やかな街で青春エンジョイするの諦めきれなかったの。お兄ちゃんに言ったら、また反対されるだろうから黙って行くわ。落ち着いたら手紙書くね。世界平和は任せた!魔法少女、頑張ってね。てへっ⭐︎』
「んな……!」
妹の家出か?!くそっ!すぐに追いかけて止めないと!
そう思って外に出た時に、ハンマー・ハンマーの刺客に襲われた。
刺客は想像以上に強く、大和は埠頭の倉庫へと追い詰められた。
できれば使いたくなかった。
できれば一人で部屋に閉じ籠ってこっそり変身して見た目を確認したかったが、そんな時間はない。
嫌な予感がするが大和はブレスレットをはめた左腕を頭上に掲げる。そして、妖精に言われたセリフを唱える。
「ま、魔法少女になーれ」
誰なんだ?!こんなクソ恥ずかしいセリフ考えたのは!俺の子孫か…くそッ!心の中で羞恥に悶えながら、大和はその恥ずかしいセリフを口にした。
ブレスレットからキラキラと光の鱗粉が舞い落ちる。キラキラ、キラキラと輝く小さな光の粒が大和の全身に降りかかった。すると、あら不思議。大和の着ていたTシャツジーパンが魔法少女のコスチュームへと変化した。
ピンク色のフリフリの可愛らしい衣装。胸元に大きなリボン。肘まで隠れる長手袋。パンチラ目的としか思えない短いスカート。ニーハイソックス。ブーツ。可愛い色で統一された可愛い衣装。
自分の服装をじっと見下ろして激しく後悔した。元に戻りたい。しかし解除の方法がわからないのだ。
ガラスに薄っすら映った自分の姿を見て思わず呟く。
「似合わねー」
大和と違い小柄な妹なら似合ったのだろう。
せめて…せめて美少年ならまだよかったのだが、決してその部類には入れない自分がこんなコスチュームを身に付けているのかと思うとゾッとする。
短い髪にはカチューシャのようにピンク色のリボンが巻かれている。スカートなんてはじめて穿くので、下半身もスースーして落ち着かない。
まずい。これはマズイ。
敵と戦うどころか、敵の前に出ることすらできない。
大和は身動きが取れなくなった。
「…………ん?」
下半身に意識を向けて、漸く違和感に気づいた。
大和はそっとスカートを捲って中を確認する。
「な、なんでパンツまで変わってるんだ!?」
大和が身に付けていたのは、ピンク色のレースの女性モノパンツだった。もちろん大和が穿いていたものではない。魔法少女に変身したときにパンツも変化したのだ。
大和は絶望した。
「どういうことだ!これも魔法少女の衣装なのか?!パンツ込みで!? しかもこんな破廉恥なやつが!?」
誰だよ!こんなの作った奴!あ、子孫か…俺の子孫か…。本当に俺と血の繋がりあるのか?こんな変態思想の奴が…。
現状、唯一の救いは人気のない場所という事だけだ。
このまま隠れて変身が解けるのを待とう。
そう思っていた時に見つかってしまった。見た目ゴブリンのハンマー・ハンマーの刺客達に。
仕方ない。
大和は覚悟を決めて戦う事にした。
「ラ…ラブリーアイスハート!」
ステッキからキラキラと氷魔法が発動する。刺客の雑魚はこれで一掃した。この衣装も防御力が高く、魔法も思ったより強力だ。
素晴らしい。素晴らしいが…。どうしてこのくそ恥ずかしい呪文が発動条件なのだ。
強力なステッキの魔法。刺客の雑魚は数が多くてもステッキさえあれば苦戦することはない。
けれど呪文を唱えるたびにかなりの精神的ダメージが大和に襲いかかった。
「ラブリーアイスハート!」
ステッキから魔法が出なくなった。一度の使用回数の上限に達したのだろう。
体力的には全然疲れていないはずなのに、精神的ダメージが大きすぎてくらくらした。早く帰って休みたい。その前に、さっさとこの衣装を脱ぎたい。
敵の姿も無くなったので、何とか変身が解けないか、大和はステッキを頭上に掲げたり振り回したり色々試していた。
そのとき、ステッキを持った手をなにかに弾かれた。手から離れたステッキが、床に落ちる。
「あっ……!」
慌ててステッキを拾おうとするが、その前に後ろから伸びてきた何かが体に巻きついてきた。動きを封じるように、巻きついたものは鞭だった。
「くっくっくっ……いい様だな、魔法少女よ」
背後から声が聞こえた。
声がした方を振り向くと、黒いマントを羽織った美青年が鞭を片手に立っていた。その姿を見て大和は目を見開いた。
「お前が……刺客の親玉か!」
そこにいたのはハンマー・ハンマーの刺客の親玉、ガルバロスだった。
ガルバロスは雑魚達と違い、黒髪の美青年だった。全身黒ずくめで、黒いマントを羽織り、いかにも悪役といった服装だ。綺麗な顔立ちにその服装は迫力を増し、魔王感が溢れている。
ステッキから魔法はもう出ない。
肉弾戦で挑むしかないが…雑魚達にも手こずったのに、親玉に勝てるのだろうか。
絶体絶命のピンチだった。
大和は目の前の魔王を睨み付けた。
「俺をどうするつもりだ……!」
「くっくっくっ……どうするだと? そんなの………………ん?」
魔王はまじまじと大和を凝視していたかと思うと、目を見開いて大和を見つめた。
「な、き、貴様……っ」
なにやら動揺しているようだ。
そりゃそうだと大和は思った。自分のようなガタイの良い男が、こんなフリフリのコスチュームで、魔法少女なんてやっているのだ。こんな敵だと驚きもするだろう。
「な、な、なな、な、な」
魔王は驚きすぎて「な」しか言えていない。
さすがに大袈裟ではないだろうか。似合ってないのは自分でもよくわかっている。しかしここまで驚かれると腹も立つ。あまりにも失礼ではないか。
あまりの恥ずかしさに大和は唇を尖らせ、プイッと顔を背ける。するといつの間にか側にきていた魔王に頬を両手で挟まれ、無理やり魔王の方へ向けられた。
爛々と輝く魔王の目が大和を見下ろしていた。
「なんて愛らしいんだ……!」
「…………はあ?」
大和は耳を疑った。とんでもないことを言われた気がする。
「気の強そうな吊り目、整った鼻、艶かしい唇、そしてこの筋肉……」
魔王の指に顔を撫でられ、大和は悲鳴を上げる。
「ちょ、やめっ……離せよ!」
「離せるわけがないだろう!」
逆ギレされて、大和は口を噤む。
「私はこんな愛らしい生き物を見たことがない! なんて罪深い生き物なんだ! この私を誘惑するなど……!」
冗談としか思えないのに、魔王の表情が本気だと語っている。
ギラギラと獲物を狙う肉食獣のような双眸。頬は紅潮していて、相手の興奮が伝わってくる。
大和は焦った。別の意味で危機感を覚えた。
「あの、ちょっと、落ち着いて……」
「貴様、名前はなんというのだ?」
「は?名前……?」
「言え、名前を教えろ」
「ひぃっ」
気持ち悪い。なんだこれは?!大和の精神疲労はピークだった。殴り合いならまだ頑張れると思っていたのに精神攻撃を受けている。この服装になった時点で心はもう限界だったのに。
「なんなんだよ!こんな格好の俺に愛らしいなんて何考えてんだ?どんな作戦だよ!気持ち悪い!や、やめろやめろっ!近づくな!」
「さあ、名前を言ってみろ。その愛らしい唇で、貴様の名を私に言うのだ」
男子校で空手に青春を注ぎ込んだ大和には、こんな迫り方をしてこられた経験がない。対処法がわからず、困り果てた。
「大和!俺の名前は大和だ!」
「ヤマト……ヤマトか。可愛い名だ」
魔王は満足そうに大和の名前を繰り返す。
魔王の浮かべる極上の笑顔は、こんな状況でなければ見惚れるほどに美しかった。
「も、もういいだろ……帰してくれよ」
「帰せるわけないだろう。貴様は連れて帰る」
「はあ?何なんだよ……俺をどうするつもりなんだよ……」
「くくっ……その泣きそうな表情、堪らないな」
魔王のうっとりとした顔が近づいてくる。
「や、顔、近づけんな……っ」
「服の隙間から見えるその腹筋………強気な瞳に浮かぶ怯えた色……なんて愛らしいんだ」
「なに言ってんだよ、よく見ろよ、俺のどこが愛らしいんだよ!」
「どこもかしこも全て愛らしいではないか!!」
真顔でカッと目を見開き『愛らしい』と断言する。
ヤバい!こいつは変態だ!本気でヤバい!
「は、離せっ!俺に何かしてみろ!絶対にお前のこと許さないからな!」
怒鳴りつけるように言った。けれど魔王には通じない。大和の声は聞こえているが聞いていない。
「はあ……震えながら虚勢を張る声も愛らしい……。もう我慢できない……そのうまそうな唇を目の前にして、我慢などできるはずがない……!」
「うわっ、何だよ!?来るな!近づくなー!」
◇◇◇
「って状況だったんだ。そんな時、3人が来てくれたんだ」
疲れ切った顔で遠くを見つめる大和。そんな大和に同情し、希星と月偉は優しく無言で肩を叩いた。そんな3人の側で大爆笑している櫻子。
その後、時間が経過したのか変身は解けた。
大和が新しく仲間に加わり、4人で欲念珠に向かって旅立ったのだった。
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