3 / 4
復讐の始まり
しおりを挟む真琴が赤子を亡くしていたその頃、隼人と太一は、太一が経営しているバーで2人飲んでいた。
謎の熱病が蔓延し、外出が規制され、飲み屋には客が来なくなってしまっていたため、店は静かなものだった。
客が誰も来ない太一の店に、仕事終わりの隼人がからかい半分に遊びにきたのだ。
「すっごい静かな店だな。やっていけんのか?」
「厳しいな。熱病のせいで客は来ないし、経済もまわってないだろ?親父から譲ってもらったこの店を畳もうかと思ってるよ。始めたばかりなのに…まったく、なんでこんな事になったのかね」
2人からは愛良の話題が出ることはなかった。
「そういえば、お前知ってるか?」
隼人は、ハイボールを煽りながら語り出した。
「最近、SNSで話題の話。深夜遅くに、鉄錆の匂いと、風が隙間を吹き抜けるような音を聞いた者は死ぬって話。全身赤黒く腫れ上がって死ぬんだってさ」
「なんだよそれ、新しい都市伝説か?くだらねー」
「都市伝説かどうかは知らないが、全身が腫れ上がって死んでる遺体は出てるらしい。中部地方から始まって関東方面に広がっているらしいぞ。また新たな奇病かもな。ま、気をつけろって事だな」
そんな会話をしている時、店内の照明が消えた。
「おい、停電か?電気代払ってないんじゃないか?」
からかうように言いながら、暗闇の中隼人はハイボールを一口飲んだ。カランッと氷の音が響く。
「うるさい。ちゃんと払ってるよ。まってろ、今スマホで… 」
ライトをつけるから。そう言おうとした太一の耳に、(フヒュー …フヒュー …)という音が聞こえた。
「おい、隼人、変なイタズラはやめろ」
「何の話だ?」
隼人のイタズラかと思ったが違う。鉄錆の匂いまでしてきた。
この音、いや、この声、この匂い、覚えがある。
慌ててスマホで目の前を照らした太一の目に、隼人の背後に佇む、赤黒く痣だらけで全身晴れ上がり、顔の穴という穴から、白い蛆虫が『ポトリ、ポトリ』這い出し落ちていってる女の姿が映った。
「うわぁぁぁぁぁ!」
太一の叫び声で、反射的に振り返った隼人の目にも女の姿が映った。
「お前・・・まさか・・・あの時の・・・」
隼人が呟いた途端、女の手が隼人に向かって伸びた。
◆◆◆
隼人と太一の訃報が、悠の元に届いた。
同級生から、隼人と太一の遺体は、全身が腫れ上がり、体からは蛆が湧き、土をかけられた状態で死んでいたと連絡がきた。
真琴が産んだ子供と同じ腫れ上がった体。
最近は、隼人や太一、亡くなった子供と同じような症状で突然死している事案が増えた。
それをきっかけに、他国は各種制限を禁止にした。入出国禁止、輸出入禁止。
日本は、さらに追い詰められていった。
悠達の両親も、悠達の生活費の援助をする余裕がなくなってしまった。真琴の出産時の事が親にバレたこともあり、怒った両親はそろそろ自立しろと援助を打ち切った。
出産後、精神的におかしくなった真琴。
ずっと部屋の片隅で「赤ちゃん… 私の赤ちゃん… 」それしか言わなくなっていた。自分の身の回りの事も出来ないほどおかしくなってしまったのだ。
真琴を養いながら生きていく。今まで、努力をしてこなかった悠には難しい事だった。
「くそっ!なんでこんな目に!」
真琴の事は放置し、一人風呂に入る。真琴の事も、生活費の事も、何もかも最悪だ。俺が何をしたっていうんだ!
悠は愛良にした事を、まったく反省していなかった。
イライラしながら、湯船に浸かり、目を瞑った。
ふぅ
イライラを落ち着ける様に、湯の温もりを堪能していた。
そんな時、ポトリと何が湯に落ちてきた。
ん?なんだろうと目を開けてみてみると、白い蛆が湯の中でウネウネと動いていた。
うわぁ!
その叫びとともに、湯の底から白い蛆が湧き出してきた。
蛆の風呂の中、恐怖で動けない、いや、ガタガタ震えるしかない悠の足元から、赤黒く晴れ上がり蛆が内側から湧き上がっている黒い影が、ゆっくり浮き上がってきた。
ゆっくり
ゆっくり
「……おまえ… 愛良か…?」
思い出した。あの目。黒い影の奥からのぞくあの目。蛆が這い出している奥から見えるあの目!
土で埋めている時に見たあの目だ!
愛良はそのまま、震えて動けない悠に急速に迫り口づけをしてきた。その途端、愛良の口から大量の蛆が吹き出し、悠の口に押し寄せてきた。
苦しい
体は拒絶しているのに、強制的に入ってくる蛆。目からは涙が止まらない。痙攣が止まらない。
苦しい
膨れ上がる腹。限界に近づくと、器官を蛆が塞ぐ。息が出来ない。
苦しい!
なんの抵抗も出来ず、窒息死寸前の悠の目や耳といった全身の穴という穴から、蛆が這い出していった。
はっ!
気がつくと、悠は部屋で横になっていた。
側で真琴がブツブツ言っている。
「夢か…?」
全身汗でびっしょりだ。
「夢か… 」
そう思った途端、
「あいら… ごめんなさい… あいら… 」
真琴がそう呟きながら、部屋の隅でガタガタ震えていることに気がついた。
怖くなった悠は、慌てて家を飛び出した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
岬ノ村の因習
めにははを
ホラー
某県某所。
山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。
村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。
それは終わらない惨劇の始まりとなった。
きらさぎ町
KZ
ホラー
ふと気がつくと知らないところにいて、近くにあった駅の名前は「きさらぎ駅」。
この駅のある「きさらぎ町」という不思議な場所では、繰り返すたびに何か大事なものが失くなっていく。自分が自分であるために必要なものが失われていく。
これは、そんな場所に迷い込んだ彼の物語だ……。
二談怪
三塚 章
ホラー
「怖い話を教えてくれませんか」
動画配信者を名乗る青年は、出会う者にネタとなりそうな怖い話をねだる。
ねだられた者は、乞われるままに自身の奇妙な体験を語る。
同世界観の短編連作。
狂った夢、かなえます
クロモリ
ホラー
あなたの夢は本当に、あなたを幸せにしますか?
世にも不快な短編連作。
人形師(にんぎょうし)・蜜蘭(みつらん)は、依頼人の歪んだ夢を叶える――人間が持ちえない身体能力を授けることで。
例えば、恋する少女は浮気グセのある彼氏に悩み、容姿を変えることを望んだ。でも、ただただ美しさを夢見ていたわけではなかった。
例えば、プロボクサーの男はケガからの復帰を望んでいた。けれど、チャンピオンを夢見ていたわけではなかった。
例えにあげた依頼人たちは狂気を秘めた夢を抱いています。狂った夢の正体に、人形師・蜜蘭と大学生の助手・孝之(たかゆき)が確かめていく。
狂った夢の、その末路(まつろ)……興味がわきましたら、ぜひご覧ください。
※二日に一度の更新となります。
※カクヨム、ノベルアップ+でも同時に公開しております。
不穏ラジオ−この番組ではみんなの秘密を暴露します−
西羽咲 花月
ホラー
それはある夜突然頭の中に聞こえてきた
【さぁ! 今夜も始まりました不穏ラジオのお時間です!】
私が通う学校の不穏要素を暴露する番組だ
次々とクラスメートたちの暗い部分が暴露されていく
そのラジオで弱みを握り、自分をバカにしてきたクラスメートに復讐を!!
花の檻
蒼琉璃
ホラー
東京で連続して起きる、通称『連続種死殺人事件』は人々を恐怖のどん底に落としていた。
それが明るみになったのは、桜井鳴海の死が白昼堂々渋谷のスクランブル交差点で公開処刑されたからだ。
唯一の身内を、心身とも殺された高階葵(たかしなあおい)による、異能復讐物語。
刑事鬼頭と犯罪心理学者佐伯との攻防の末にある、葵の未来とは………。
Illustrator がんそん様 Suico様
※ホラーミステリー大賞作品。
※グロテスク・スプラッター要素あり。
※シリアス。
※ホラーミステリー。
※犯罪描写などがありますが、それらは悪として書いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる