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第3章 ヴェルリナの森
穏やかなる夜
しおりを挟むロワクレスに続き、サマンサさん達も集合して早めの夕飯だ。昼休憩の時には別々だったが、夕飯は一緒に食べれるようだ。ネイさんはどこかに行ったのかしばらく姿が見えない。
「美味しいですわ、マリー様」
「干し肉を入れる事はあるが…何か別の味がする」
「あ、それは精霊が取ってきてくれたハーブを入れたからだと思います」
草花が少ない岩山で精霊達が取ってきてくれたのは、ローリエ・タイム・パセリ。
量は多くなかったから今回使い切ったが、こんな何もない場所で採取してくれるハーブはありがたい。
皆んなで仲良く食事タイム…だが、影と呼ばれる3人の食事の速度が異常に早い。「マリー様はゆっくり食べてくださいね」と言い残し、再び付近の警戒へと散っていく。凄い、さすがプロだ。
「ずいぶんと手慣れているな」
私の作ったスープを見ながら、ロワクレスがポツリと呟いた。
「キャンプって言って、野外で活動するイベントがあって…。外で料理したり釣りしたり寝泊まりしたり。普段と違う事して気分転換する遊びですね」
「気分転換って…危険じゃないのか?」
「この世界みたいに魔物や霊鬼はいないから、命の危険はずっと少ないよ。小さい子を連れて行く人も多いし。私も家族でキャンプに行ってたし、家でも料理はずっとしてましたから。でも、野外調理はやっぱり難しいです」
調理器具も調味料も揃わない岩山の中での活動。それでも久しぶりにする料理はなんだか楽しい。
「そうか…。平和な世界だったんだな」
「そのかわり、人間関係のトラブルが多かったかなぁ」
「人間関係……」
どこの世界でも生きるのは大変だよね~と私が口を尖らすと、ロワクレスは「ふっ」と笑った後、はぁ、と息を吐いた。
「私は……」
樹が生い茂った森の遠くに視線を向けて、ぽつりとロワクレスが言葉を零す。
視線が、何かに怯えているような気がするのは、気のせいかな。
「以前に話したよりも、もっと小さい頃にも一度、攫われたことがあるんだ」
「ん?」
「以前は我が国でも奴隷制度があったんだが」
衝撃の事実。でもそうか。私は人身売買目的で誘拐されそうになった事がある。奴隷制度があってもおかしくない。
「父である国王が15年程前に奴隷制度を廃止したんだ」
そうだった。この人王子様だった。
敬語とか使ったほうがいいのかな。ま、今更だけど。
続きを促すように視線を向けるとロワクレスもちらりと私を見た。
「父の行った事は間違っていない。素晴らしい事だと思う。だが奴隷制度廃止に反対の貴族から腹いせに攫われたとき、私はまだ5歳くらいで」
「5歳でって」
「あんまり憶えてないんだが、山の中にこっそり建てられたような館に連れてかれたんだ。なんかキラキラした格好の男が「お前の父親は調子に乗ってる」とか色々私に向かって言ってきて」
えぇ……5歳児に八つ当たりとか誘拐とか、情けないにもほどがある。
って、何で誘拐なんか。
「小さい頃はわからなかったけど、たぶんあれはうちの貴族だったと思う。奴隷制度がなくなって、それを収入源にしていた貴族が腹いせに私を隣国に売り飛ばそうと思ってたんだと思うんだけど」
「うわあ、典型的な悪徳貴族。よく無事だったねロワ」
「うん。私は無事だったんだけど」
ロワクレスは、一度目を瞑り、一呼吸おいて、まつげを上げた。
綺麗な瞳が、揺れている気がする。
「私の乳母が、私を助けるために、そこで毒矢を受けて、殺されて。殺したのはメイドに扮した女で」
優しい笑顔の女だった。それなのに、あんな事になって、女性の笑顔が皆んな仮面に見えるようになったのは、それも原因だったんだろうな。
ぽつり、そう零す。
思わず腕を伸ばして、ロワクレスの頭をそっと抱きしめた。
だって、ロワクレスが泣いている気がしたから。
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