ボケまみれ

青西瓜(伊藤テル)

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【僕の個性】

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・【僕の個性】


 いつも登校は、僕と啓太の道が交わるところで、僕か啓太が待っていて、そこで合流して一緒に登校するんだけども、今日は啓太が先に待っていた。
 大体僕が先に待っていることが多いんだけども、今日は珍しいなぁ、と思いつつ、近付くと、その僕が近付く速度よりも早く啓太が僕に近付いていて、開口一番こう言った。
「駿のキャラは思考深いところだ!」
 急な大きな声に驚いていると、啓太はどんどん言葉を放つ。
「いろんなことを考えて、想像することが駿の良さなんだよ! だからボケを羅列するよりも、思ったことを連ねていくほうが駿らしいと思うんだ! 人と対話して良いところを引き出したりするし、羅列よりも会話で作る漫才のほうが合っているような気がするんだ! というかそっちのほうが合っているに決まっている! 駿の良さは考えることだから!」
 怒涛の言葉を改めて脳内でかみ砕いていると、何だか段々恥ずかしくなってきた。
 僕に対してそう思ってくれていることが嬉しかったからだ。
 そんな自分が思考が深いとは思わなかったけども、確かに僕は脳内で考えていることが多いかもしれない。
 それをちゃんと分かってくれていたことも胸が高鳴るし、何だか本当に、友達が啓太で良かったという気持ちだ。
 僕は少し口がごもりながら、
「えっと、じゃあ、その、思考する感じでボケていこうかな……?」
「うん! それがいいと思う! 早速題材を決めて二人で会話していこうぜ!」
 そして僕と啓太は漫才のような会話をし始めた。
 とにかくいろんな題材で会話をして、一番良かったヤツを漫才としてブラッシュアップすることにして。
 段々漫才の骨格も出来上がっていき、漫才大会も近付いていった。
 そんなある日、僕の個性が良くない方向で出てきてしまった。
 それは急に漫才大会があと1週間のタイミングで怖くなってしまったのだ。
 考えれば考えるほど失敗するかもしれない、という発想に至ってしまい、この日の昼休み、啓太と実践的な漫才の練習をする予定だったのに、僕はつい黙って図書室の隅に隠れてしまった。
 どうして自分がそんなことをしたのかどうかも分からないくらい思考が混乱してしまって。
 脳が考えすぎてブラックアウトしてしまったような感覚。
 啓太が僕を見つけたのは、昼休みが終わる3分前だった。
 啓太は僕の腕をグイっと引っ張って、ひと気のいないところに連れていき、こう言った。
「何で練習してくれないんだ! そろそろ本番なんだよ!」
 鬼気迫る啓太に何だか怖くなってしまい、僕は俯きながら、
「やっぱり、漫才大会が、嫌になっちゃって、やっぱり、その、表舞台に立つことは、僕に、向いていないよ……」
「いやできる! 駿は絶対に舞台に立てる! ずっと一緒にいる俺の言うことを信じてくれ!」
「でも、僕は、自分をある意味信じるよ……ずっと無理だと思って、そして無理になると分かっている自分を信じているよ……」
「じゃあさ! 駿! 駿は自分の良さが”思考が深い”ということ分かっていたかっ?」
 僕は首を小さく横に振った。
 啓太は続ける。
「自分の良さというモノは自分では分からないんだよ! 俺だってツッコミが良いだなんて人に言われるまで知らなかった! 自分の良さの話だけは人の話を聞いたほうがいいもんなんだよ!」
 確かに僕は啓太に言われるまで、自分がよく思考するほうだということにも気付けなかったかもしれない。
 そもそも脳内のことは人と比べるチャンスもそんなに無いだろうから。
 啓太は語気を強めて喋る。
「駿は度胸だってあるし、ちゃんと初めての人にも物怖じしないで喋ることができる! 駿は弱くない! 駿は強い! 大丈夫だ! 俺は大丈夫だと思ったからコンビを組もうと思ったんだ! 俺は優勝するためにコンビを組んだんだよ! 駿となら優勝できるんだよ!」
 啓太の強い言葉に、何だか僕は本当に何かできるのでは、と思い始めていた。
 否、できるかも、ううん、できる、違う、するんだ、僕はちゃんとやってやるんだ。
 啓太の言葉を嘘にしたくない。
 だから僕が頑張るんだ。
 じゃあ言う言葉は一つだ。
「さっきは逃げ出してゴメンナサイ。僕、ちゃんと漫才大会に出場するよ」
 啓太は嬉しそうな顔で、僕のことを抱き締めて、
「ありがとう! 一緒に漫才大会頑張ろうな!」
 僕も抱き締め返して、漫才大会を頑張る決意を固めた。
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