上 下
3 / 17

【現実の話】

しおりを挟む

・【現実の話】


 目覚めるとベッドの上だった。
 良かった夢だった、とボヤボヤしながら考えていると、
「毒のあるデカ蜂だったなんて! そりゃ気配を感じないわけだよ! 強いほう! 強いほう!」
 僕はゾッとした。
 何故なら僕の目の前にはナッツさんがいたからだ。
 さらに気難しそうに俯いた大人の男性が一人いた。
 いや夢が覚めていない。
 どういうことだ。
 でも実際、長い夢ってあるから、それかなと思っていると、大人の男性が口を開いた。
「目を見たら間違いない、この子は異世界の子だよ」
 その言葉の意味に気付いてしまうくらい、僕はファンタジー・ゲームの世界を知っていた。
 異世界。
 それは、僕がいる世界じゃない、どこかの世界のこと。
 僕が異世界の子?
 ということはここが異世界ということ?
 えっ? えっ? どういうこと?
 大人の男性がナッツさんのほうを向きながら喋る。
「ナッツが本当に小さい頃にも一度そういう子がいてね、ほら、宿屋のシューカは異世界の子だよ」
「その話! 聞いたことあるけども! まさか! この子も異世界の子なんですか!」
「……すっごいリアクションが大きいね、でもまあそうなっても不思議じゃないか、この子は間違いなく異世界の子で、呪いも掛かってるね」
 会話を聞くことしかできない僕に、さらにショックな言葉がのしかかる。
 呪い。
 呪いって、どういうこと? えっ? 僕に?
 というかどんな呪い? 何キッカケに?
 と思っていることを全て言ってくれるのが、ナッツさんだ。
「呪いってどういう呪いっ? クラッチさん! 分かりますか!」
 あっ、この大人の男性がどうやらクラッチさんらしい。
 そのクラッチさんはこう言った。
「寝ている間に俺の魔法で調べさせてもらったんだけども、ちょっと言葉で言い表しづらいんだが、ツッコミ……でいいのかな? ツッコミを1万回しないと元の世界に戻る選択肢が生まれない、という呪いだ」
「ツッコミっ! じゃあ私がボケまくればいいんですね!」
「……それがなぁ、何かニュアンスが違うような気もするんだが、とりあえずはそういうことだな」
「あと! いつタケルはそういう呪いに掛かったんですか!」
 ナッツさんが怒涛の質問。
 しかしそれに対しては腕を組んで首を傾げてしまったクラッチさん。
 なんとか重い口を開き、
「異世界の子はイレギュラーなことが多いからなぁ、いろんな要素が組み合わさって形成されるから、いつとかは良く分からないんだ」
「そうなんですか……」
 と落ち込んだナッツさん。
 それに対して、クラッチさんは口を尖らせてから、
「例えばシューカの場合は”安心して皆眠れるようにならなければ元の世界に戻る選択肢が生まれない”呪いだった。そこでシューカはこの村に宿屋を作って、旅人が休まるお店を作った。それでシューカは呪いを解いたんだ」
 それを聞いたナッツさんは頭上にハテナマークを浮かべながら、
「……何でシューカさんは元の世界に戻らなかったんですか? それとも後で戻るんですか?」
 確かにそれは僕も思った。
 さて、クラッチさんはどう答えるのかと思っていると、
「シューカは元いた世界がそもそも嫌だったみたいなんだ、だから戻るかどうかの選択肢が生まれた時に戻らないを選択したんだ」
「そういうのもあるんですねぇ」
「そのシューカの呪いとどういう因果関係があるのか分からないが、シューカは元いた世界では奴隷で、安心して眠れる日なんて無かったらしいんだ。だから異世界から来た子には、自分の願望とリンクした呪いが生まれるのでは、と思っているのだが、タケルよ、君はツッコミたいという願望があるのか?」
 そう言って僕のほうを見たクラッチさん。
 ツッコミたいという願望、確かにある。
 だから僕はゆっくり頷いた。
 するとナッツさんが嬉しそうに手を叩いて、
「じゃあ私と一緒にいればすぐ1万回になるよ! ボケまくってあげるからねぇ!」
 そう言って笑った。
 でも僕は、見知らぬ人にはツッコめないし、と思っていると、クラッチさんが僕の左腕のほうを見ながら、
「タケル、君の左腕に何か付いているな、それはなんだ?」
 そう言われて僕は自分の左腕をおそるおそる見ると、そこにはカウンターのようなモノが付いていて”00000”と表示されていた。
 というかカウンターだ、間違いなく、ツッコミ回数をカウントするカウンターだ。
 しかしナッツさんもクラッチさんもカウンターという概念を知らないみたいで、何だ何だみたいな表情をしている。
 だから僕が言って説明しないと、と思うのに、言葉が出てこない。
 クラッチさんの顔を曇ってきたところで、ナッツさんが、
「まあいろいろショックで喋りづらいんだよね! 今日はゆっくり休んで! 走りまくる犬のように!」
 と言うと、クラッチさんが、
「走りまくる犬ほど休んでいない存在は無いだろ」
「いや! このボケはタケル用のヤツだよ!」
「あぁ、そういうことか、悪い悪い」
 と言いながらクラッチさんは立ち上がり、
「じゃあ他に何か悪いことがあったら、気兼ねなく俺に話し掛けると良い」
 そう微笑みながら言うと、ナッツさんが拳を握りながら、語気を強め、こう言った。
「そう言って今日いなかったじゃん!」
「いや狩りについてきてほしいと言われてな」
「何か連絡しておいてよ!」
「何でいちいちナッツに連絡しないといけないんだよ」
 そしてクラッチさんは家から出て行った。
 さて、ここから僕とナッツさんの2人っきりだ。
 何をすればいいのだろうか、いや、ツッコミをしなければ、でも言葉が出せないんだ。
 どうしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すぐケガしちゃう校長先生を止める話

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 この小学校の生徒会長には大切な仕事があった。  それは校長先生を守ること。  校長先生は少し特殊な個性や能力を持っていて、さらにそれを使ってすぐケガしちゃうし、大声で泣いてしまうのだ。  だから生徒会長は校長先生のお守りをしないといけないのだ。  それを補助してくれるはずの生徒副会長の桜さんも天然ボケがすごい人で、今日も今日とてハチャメチャだ。  これは僕と校長先生と桜さんの話。

落語のような世界

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 サッカーに取り組んでいたが、ケガをして選手になる夢が絶たれた由宇。  やりたいことが無くなって虚ろにリハビリを繰り返していると、幼馴染の京子が暇つぶしにと落語のCDと落語の本を持ってくる。  最初は反発したが、暇過ぎて聞いてみると、まあ暇つぶしにはなった、と思う。  そのことを1週間後、次のお見舞いに来た京子へ言うと、それは入門編だと言う。  そして明日は落語家の輪郭亭秋芳の席が病院内で行なわれるという話を聞いていた京子が、見に行こうと由宇を誘う。  次の日、見に行くとあまりの面白さに感動しつつも、じゃあ帰ろうかとなったところで、輪郭亭秋芳似の男から「落語の世界へ行こう」と誘われる。  きっと輪郭亭秋芳の変装で、別の寄席に連れてってくれるという話だと思い、由宇と京子は頷くと、視界が歪む。  気が付いたら落語のような世界にワープしていた。

カラダラッパー!

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 過去の経験から目立たないように生きていくことにした主人公・月野翔太のクラスに『カラダラッパー』を初手で名乗る・朝倉アタルという転校生がやって来た。  あんなヤツにはなりたくないと思いながらアタルのことを見ていた翔太だが、ひょんなことからアタルに「どこに何の教室があるか紹介してほしい」と頼まれて、まあ別にいいかと思い、学校の紹介をすることに。  そこで翔太のリアクションから察し、翔太が曲作りをしていることをアタルが言い当てる。  アタルはなんとか頼み込んで、曲を聞かせてもらい、アタルは「カラダラッパーのDJになって」と懇願する。  そこで翔太が過去に歌のコンテストで恥をかいて、目立つことをしたくなくなったと言う。  しかしアタルはめげず説得すると、クラスメイトたちには秘密で一緒に活動することに。

幼馴染があやかしからラップで守ってくれる話

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
あやかしが私へ愛の言霊ラップをぶつけてくるけども、幼馴染の海人がそれからラップで守ってくれるコメディ。

ボケまみれ

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
 僕、駿の友達である啓太はツッコミが面白いと言うことで有名。  この学校には漫才大会があるので、相方になってほしい人多数で。  僕の助言もあり、一日一人と一緒に行動することに。  ちなみに僕も一緒。知らない子と二人きりになりたくないから、という啓太の希望で。  その過程で啓太の幼馴染が登校拒否で、漫才大会で優勝したらまた会ってくれるという話を知った。  違うクラスになってから、その幼馴染は登校拒否になり、休日に自分が会うこともできなくなったらしい。

社会科漫才師

青西瓜(伊藤テル)
児童書・童話
ひょんなことから引っ込み思案な僕がクラスの人気者と漫才コンビを組むことになり。

蛇逃の滝

影燈
児童書・童話
半妖の半助は、身に覚えなく追われていた。

子猫マムと雲の都

杉 孝子
児童書・童話
 マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。  マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。

処理中です...