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【10 文化祭の異様な展示会】

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・【10 文化祭の異様な展示会】


 運動会の熱が冷めやらぬまま、文化祭となった。
 生徒会長、または副会長になると、クラスの出し物には参加できなくなる。
 いわば全てのクラスを受け持つことになり、出し物のチェックやアドバイスを行う立場になる。
 それらは全て上手くいき、完璧な状態で文化祭を始められたと思っていた。
 当日、僕は生徒会室で一人、ボーっとしていると、交互に見回りしていた桜さんが生徒会室に戻ってきて叫んだ。
「校長先生が変な展示会開いている!」
 僕は桜さんが言った場所へ急行すると、そこの教室の前に”校長先生のアスレチック劇場の展示会”という看板が立てられていた。
 今、桜さんはいない。
 どっちかは生徒会室で待機していないといけないので、今回は僕一人だ。
 桜さんが来ても良かったんだけども「やっぱり校長先生は妻夫木くんを頼りにしている」と桜さんが言ったので、僕が来た。
 いやでも何だこの怪しい展示会は……僕はおそるおそる中に入ると、なんと、校長先生が綱渡りをしていたのだ!
《あっ、妻夫木くん》
 綱に揺れながら僕に話し掛ける校長先生。
 綱は妙に高い位置に張られていて、落ちたら間違いなく、普通の人でも捻挫するような感じだ。マットは敷かれていない。
「危ないですよ! 校長先生!」
《合点承知の上だよ》
「合点承知の助みたいな言い方で!」
《それはいいじゃないか》
 そう言って綱渡りを再開した校長先生。
 観ている観客はざっと30人くらいはいて、教室が結構パンパンだ。
 その観客が大歓声を上げる。
 それに校長先生が手を振ったその時だった。
《あっ、落ちたよ》
 そう小さく呟いたのち、校長先生は綱から落ちて床に叩きつけられ……ていない!
 校長先生は床に敷かれるように出した描き文字”ふわふわ”の上に乗っていたのだ。
 その”ふわふわ”という描き文字はヒツジのように、ふかふかしている字で、どうやらそれがクッションになったらしい。
《いっ、いたぁぁぁあああああああああああい!》
 いや全然クッションになってなかった!
 僕は急いで倒れている校長先生に駆けつけ、自分のポケットの中からおにぎりを取り出した。
 最近はもう、僕が校長先生用のおにぎりを携帯しているから。
《もぐもぐ、もぐもぐ……助かったぁ……》
 倒れた校長先生に駆けつけた時、ふわふわの描き文字に触ったけども、見た目だけで全然硬かった。
 そしてその描き文字はあの時のように宙へ溶け込むように消えていった。
「というか校長先生! 一体何がしたいんですか!」
《人間展示会だよ》
「そんなすぐに中止になりそうなタイトル! そして今すぐに中止にして下さい!」
 僕が激しくそうツッコむと、校長先生は立ち上がり、手を広げながらこう言った。
《オーディエンス、来ちゃったから》
 そして両腕を上下に激しく上げ下げして、オーディエンスを煽るサッカー選手みたいな行動をとると、それに合わせて観客も盛り上がる。
 それに気を良くした校長先生は自慢げにこう言った。
《黒板に、張り付くよ》
 いや!
「だとしてもどういった趣向のパフォーマンスですか! 意味分かんないですよ! お手玉みたいに分かりやすくて安全なことして下さい!」
《いや黒板に張り付くから》
 そう言って黒板の近くに歩いていき、高めにジャンプして黒板に張り付いた校長先生。
 いやすごいけども! すごいけども、本当にどういう種類のパフォーマンスっ?
 心の中で驚愕していると、校長先生のほうから何かペリペリ聞こえ出した。
「マジックテープですかっ? マジックテープでくっ付いていたんですかっ!」
 ”べりっ!”
 そんな音と共に校長先生は黒板から剥がれ落ちて、後頭部から床に落ちた。
 そして案の定。
《いたぁぁぁぁぁぁああああああああああい! うわぁぁぁああああああああああん!》
「だから言ったじゃないですか! 安全なことしましょうって!」
 そう言いながら僕はまた校長先生に駆けつけて、おにぎりを食べさせた。
《はぁ……はぁ……生きた心地がする……》
「校長先生! もう止めて下さい! そんな意味の分からない文化を見せつけるのは!」
《ダメばっかじゃ嫌、対価がほしい》
 そう言って頬を膨らませてプンスカ怒っている校長先生。
「いやむしろそれはもうこっちの台詞ですよっ」
《厳しい……うわぁぁあああああああああああああああああん!》
 そんなことで泣いちゃった!
 またまたおにぎりを食べさせると、
《もぐもぐ……そろそろ飽きてきた、おにぎりに》
「飽きたとしても食べて下さい、食べたくないのならもう危険なことはしないで下さい」
《食べたくないわけではないよ》
「でも危険なことはしないで下さい!」
 と言ったところで、観客の一人がこんなことを言い出した。
「危険じゃないパフォーマンスなら、一時間後に体育館で行われる合唱部、吹奏楽部、軽音部のライブに飛び入り参加すればいいですよ」
 な、なんてそんな”危険”なことを言うんだ……絶対参加するって言い出すじゃん……それで付き合わせられるのって結局僕たちなんじゃ……。
《参加しよう、妻夫木くん、桜ちゃんも添えて》
 というわけで。
 まあ。
 そんなこんなで。
 かくかくしかじかで。
 つまり。
 一時間後。
 さらに。
 一時間後。
『軽音部の皆さんありがとうございました。なんとここで飛び入りバンドの登場です! スーパー校長先生ズ!』
 放送部がしっかりアナウンスを入れたことにより、マジで壇上に出ていかないといけなくなった。
 また軽音部のみんなが良い人で「いつものお礼ですから、好きに楽器使っていいですよ」と言ってくれて、僕はドラムセット、桜さんは電子ピアノを使って演奏することになってしまった。
《やぁ、ハイパースペシャル校長先生ズ バージョン2.02だよ》
「何かめちゃくちゃバージョン上がってる! いや! 校長先生! 歌うたえるんですか!」
 僕が焦りながらもツッコむ。
 それに対して余裕そうな校長先生はこう言った。
《むしろ妻夫木くん、君はドラムができるのかね?》
「いやまあ親戚のお兄さんから教えてもらったことがあります」
《桜さんは、ワシが言ったコードをちゃんと弾けるかね?》
「はい! ピアノは習っているので大丈夫です!」
 それを聞いてかなり満足げな校長先生が早速合図をした。
《もう歌っちゃうね、ワンワン・ツーツー・はいはい・ゴー》
 この初っ端からノリづらい合図で僕はドラムを叩き出した。
 練習の時、校長先生は僕と桜さんのドラムとピアノの具合を見てるだけで、自分は一切歌わなかったけども大丈夫なんだろうか。
 僕がドラムを4小節叩いたら、そこに桜さんのコード進行+コード進行にあったアドリブが入っていく。
 そこでも4小節合わせたら、校長先生の歌が入ってくる。
 そして。
《Hey Yo 成長していきたいワシ、校長 存在はまさに王道》
 えっ? まさかのラップっ?
 大丈夫なのかっ!
《聞いて下さい。全ての人に捧げる、くいしんぼうなおじぞうさま……》
 何そのタイトル! 本当に大丈夫なのか!


くいしんぼうな おじぞうさまは
みんなに かくれて つまみぐい
パクパク モグモグ おいしいな
くちに ごはんをつけて
おじぞうさま ごちそうさま

くいしんぼうな おじぞうさまは
みんなに ごはんを わけましょう
パクパク モグモグ おいしいね
くちに ごはんをつけて
おじぞうさま ごちそうさま

くいしんぼうな おじぞうさまは
こまった ひとにも わけましょう
パクパク モグモグ おいしいね
くちに ごはんをつけて
おじぞうさま ごちそうさま


 ……いや!
「歌い始めたら、めっちゃ童謡!」
 結局ライブで校長先生が泣くことは無かったけども、めちゃくちゃ教頭先生に睨まれて、僕が泣きそうだった。
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